説明

キャブバッククロスメンバ

【課題】 キャブオーバトラックの前突時の荷台の前方移動を確実に抑えて、キャブ生存空間を確保することが可能なキャブバッククロスメンバの提供。
【解決手段】 キャブバッククロスメンバ17は、キャブバッククロスメンバ本体10と、2個のカウンタースリーブ11とを備え、運転席を有するキャブとキャブの後方に位置する荷台4との間に配置され、キャブ及び荷台4の下方に延設されたシャシフレーム2に取り付けられる。キャブバッククロスメンバ本体10は、シャシフレーム2に結合される2箇所の下端部10aを有する。2個のカウンタースリーブ11は、キャブバッククロスメンバ本体10の2箇所の下端部10aの近傍にそれぞれ固定され、キャブバッククロスメンバ17の全体の重心をキャブバッククロスメンバ本体10の単体の重心よりも下方へ位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャブと荷台との間に配置され、シャシフレームが取り付けられるキャブバッククロスメンバに関する。
【背景技術】
【0002】
シャシフレームの前部に支持される運転台(以下、キャブと称する)と、シャシフレームの後部に支持される荷台と、を備え、キャブ内の運転者の着座位置が概ねエンジンより前方に位置する貨物車(以下、キャブオーバトラックと称する)では、剛壁(以下、バリアと称する)への正面衝突の際の運動エネルギは、主に強固なシャシフレームの前端がバリアに突き当たり有効に変形することよって吸収され、これにより、上方のキャブに生存空間(以下、キャブ生存空間と称する)が確保され安全性が保たれる。
【0003】
キャブの後方に配置される荷台の底面には、車両前後方向に延びる縦根太が固定されている。縦根太は、シャシフレームの上面に搭載され、Uボルトによって固定される。また、Uボルトのみでは車体前後方向における固定が不十分となるおそれがあるため、シャシフレームと縦根太とに跨る荷台ストッパが設けられる。荷台ストッパは、シャシフレームと縦根太とにボルトによって締結固定され、Uボルトによる固定を車体前後方向において補完する。
【0004】
【特許文献1】特開2002−264838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の構造において、バリアへの前面衝突時にキャブ生存空間を確保するためには、前方へ移動するキャブとバリア面との間隔を極力維持することが要求される。
【0006】
ところが、一般にシャシフレームに対する荷台の固定強度は、荷台に所定重量の積載物が積載された状態を想定して設定されているため、荷台に許容重量の上限まで積載物が積載された満積状態で正面衝突が発生した場合、荷台の前方移動を完全に抑制することは難しい。
【0007】
係る不都合を解消するため、キャブと荷台との間でシャシフレームから上方へ突出するキャブバッククロスメンバを設け、衝突時に前方へ移動する荷台をキャブバッククロスメンバに当接させ、キャブバッククロスメンバの曲げ剛性により、荷台の移動を規制することも可能である。
【0008】
しかし、単にキャブバッククロスメンバの下端部をシャシフレームにボルトの締結等により結合した構造では、キャブバッククロスメンバとシャシフレームとの結合部分(ボルト等)に衝突時の荷重が集中しやすいため、ボルトのせん断破壊が生じて係る結合部分が破損しやすく、キャブバッククロスメンバの曲げ剛性を利用して荷台の移動を有効に阻止することが難しい。
【0009】
また、キャブバッククロスメンバが車幅方向に離間した2箇所の下端部を有し、この2箇所の下端部がシャシフレームに結合されている場合、キャブバッククロスメンバは片持ち梁状態となり、またシャシフレームから離れた上部の重量が自ずと重くなる。このため、車両前後に振動する固有振動数が比較的低い値となり、車両振動特性に悪影響を及ぼす可能性が生じてしまう。
【0010】
本発明は上記の実情に鑑みてなされたものであって、キャブオーバトラックの前面衝突時に、フレーム変形によるエネルギ吸収を荷台の減速に有効に活用することができ、且つキャブ生存空間をより確実に確保することが可能なキャブバッククロスメンバの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく、本発明は、運転席を有するキャブとキャブの後方に位置する荷台との間に配置され、キャブ及び荷台の下方に延設されたシャシフレームに取り付けられるキャブバッククロスメンバであって、キャブバッククロスメンバ本体と、少なくとも2個のカウンタスリーブとを備える。
【0012】
キャブバッククロスメンバ本体は、シャシフレームに結合される少なくとも2箇所の下端部を有する。2個のカウンタースリーブは、キャブバッククロスメンバ本体の2箇所の下端部の近傍にそれぞれ固定され、キャブバッククロスメンバの全体の重心をキャブバッククロスメンバ本体の単体の重心よりも下方へ位置させる。
【0013】
シャシフレームの前方に支持されたキャブがバリア面へ衝突すると、シャシフレームが減速すると共に、荷台は、前方移動を開始しキャブバッククロスメンバに突き当たり押圧する。キャブバッククロスメンバは、荷台の前下方に位置するため、荷台からの衝撃力は、キャブバッククロスメンバ本体の上部に作用する。衝突の瞬間(荷台からの荷重がキャブバッククロスメンバに入力する瞬間)において、その衝撃力は、キャブバッククロスメンバを前方へ並進運動させると同時に重心回りの回転を生じさせるように作用する。しかし、キャブバッククロスメンバ本体の下端部はシャシフレームに対して結合されているため、キャブバッククロスメンバ本体とシャシフレームとの結合部分がキャブバッククロスメンバの並進と回転運動に対する衝撃中心(回転中心)から大きく外れていると、この結合部分に過大な衝撃力が作用し、破断等を招く。ここで、衝撃力が作用する位置と重心とが近接している場合、結合部分と衝撃中心とを近接させることは難しい。
【0014】
これに対し、上記構成では、キャブバッククロスメンバ本体の下端部の近傍にカウンタースリーブが固定され、このカウンタースリーブによりキャブバッククロスメンバの全体の重心がキャブバッククロスメンバ本体の単体の重心よりも下方に位置する。また、カウンタースリーブの重量や固定位置により、キャブバッククロスメンバの全体の重心を所望の位置に設定することができる。従って、衝撃力が作用する位置と重心とを所望の距離に設定し、結合部分と衝撃中心とを近接又は一致させることができ、結合部分に作用する衝撃力を著しく低減することができる。従って、キャブバッククロスメンバとシャシフレームとの結合部分の破損を確実に防止し、キャブバッククロスメンバの曲げ剛性を利用して荷台の移動を有効に阻止することができる。
【0015】
このように、上記構成によれば、キャブバッククロスメンバ本体の曲げ変形及びシャシフレームのフレーム変形のエネルギを荷台減速のために有効に活用することができ、キャブに対する荷台の前方移動が抑えられ、且つキャブ生存空間が確実に確保され得る。
【0016】
また、キャブバッククロスメンバは片持ち梁状態となるが、キャブバッククロスメンバの全体の重心を下方に位置させることができるので、車両前後に振動する固有振動数が比較的高い値となり、車両振動特性に及ぼす影響を極めて小さく抑えることができる。
【0017】
また、シャシフレームは、車幅方向に間隔をおいて配置され車両前後方向に沿って延びる2本のフレーム部材を含んでもよい。キャブバッククロスメンバ本体は、パイプ状部材からなり、2箇所の下端部が2本のフレーム部材にそれぞれ結合されることにより、2本のフレーム部材を連結してもよい。
【0018】
上記構成では、フレーム部材同士がキャブバッククロスメンバ本体によって連結されるので、フレーム部材の剛性が向上する。また、キャブバッククロスメンバ本体をパイプ状部材で形成しているので、キャブバッククロスメンバ本体の潰れ変形によっても衝突エネルギを吸収することができる。
【0019】
さらに、カウンタースリーブを、キャブバッククロスメンバ本体が荷台によって車両前方へ押圧された際に、シャシフレームと干渉してキャブバッククロスメンバ本体の車両前下方への傾動を規制する位置に配置してもよい。これにより、衝突時の荷重の一部は、カウンタースリーブを介してシャシフレームに作用するので、キャブバッククロスメンバとシャシフレームとの結合部分への荷重の集中がさらに緩和される。従って、キャブバッククロスメンバとシャシフレームとの結合部分の破損をさらに確実に防止し、キャブバッククロスメンバの曲げ剛性を利用して荷台の移動を一段と有効に阻止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、車両の前面衝突時において、キャブバッククロスメンバとシャシフレームとの結合部分の破損を確実に防止して、キャブクロスメンバの変形エネルギを荷台減速のために有効に活用することができる。従って、キャブに対する荷台の前方移動が抑えられ、キャブが後方から押し潰されることが防止され、キャブ生存空間が確実に確保され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。図1は本実施形態のキャブオーバトラックの模式側面図、図2は図1のII部拡大図、図3は図2のIII−III線断面図、図4はキャブバッククロスメンバを備えたキャブオーバトラックの要部斜視図、図5は図4の要部拡大図、図6は図4の側面図である。
【0022】
図1に示すように、キャブオーバトラック1は、車幅方向両側で前後方向に延設されたシャシフレーム(フレーム部材)2と、シャシフレーム2の前部に下方から支持されるキャブ3と、シャシフレーム2の後部に下方から支持される荷台4と、を備えている。
【0023】
荷台4は、キャブ3の背後に適宜の間隙を介して車幅方向に配置された前立鉄板6と、前立鉄板6の車幅方向両端から後方へ相対向して延びるあおり板7と、車体後部であおり板7の後端同士を開閉自在に連結するリヤゲート8と、前立鉄板6とあおり板7とリヤゲート8とによって区画される矩形収容空間の底面を形成する底板9と、底板9の下面に固定され車幅方向両側で前後方向に延設された縦根太5と、を備えている。
【0024】
図3に示すように、縦根太5は、底壁30と、底壁30の両端から上方へ相対向して延びる側壁31,32と、両側壁31,32の上端から相反する方向へ曲折されて延びるフランジ33,34と、を備えた逆ハット状断面を有する。両フランジ33,34は、荷台4の底板9の下面に固着され、これにより縦根太5と底板9との間に閉断面が形成される。
【0025】
シャシフレーム2は、底壁20と、底壁20の両端から上方へ相対向して延びる側壁21,22と、両側壁21,22の上端同士を連結する上壁23と、を備えた略矩形閉断面を有する。縦根太5は、その底壁30がシャシフレーム2の上壁23と接した状態でシャシフレーム2上に載置され、Uボルト40によってシャシフレーム2上に連結固定される。
【0026】
図2及び図3に示すように、縦根太5の両側壁31,32の上端にはそれぞれボルト挿通用の孔35が形成されている。Uボルト40は、ボルト挿通用の孔35に挿通される底棒部41と、縦根太5の両側壁31,32の外側に突出する底棒部41の両端から下方へ曲折して延びる側棒部42,43と、を備えている。側棒部42,43の先端は、固定プレート44を挿通しナット45と螺合する。ナット45を締め込むことにより、固定プレート44とUボルト40の底棒部41との間で縦根太5がシャシフレーム2に対し締め付けられ固定される。また、図2に示すように、縦根太5とシャシフレーム2とは、ストッパ部材46により連結されている。ストッパ部材46は、縦根太5及びシャシフレーム2に、それぞれボルト47及びナット(図示省略)により締結固定されている。
【0027】
図4〜図6に示すように、キャブバッククロスメンバ17は、キャブバッククロスメンバ本体10と2個のカウンタースリーブ11とを有し、キャブ3(図1に示す)と荷台4の間に配置され、取付ブラケット12によってシャシフレーム2に結合されている。
【0028】
キャブバッククロスメンバ本体10は、略U状に曲折されたパイプ状部材からなり、キャブバッククロスメンバ本体10の相対向する2箇所の下端部(両端部)10a間の内幅は、2本のシャシフレーム2の外側面の車幅方向に沿った間隔とほぼ等しく設定されている。
【0029】
取付ブラケット12は、略板形状を有し、その中間部分にキャブバッククロスメンバ本体10の外面形状に沿った凹部が曲折形成されている。取付ブラケット12及びシャシフレーム2の側壁の所定位置には、それぞれボルト挿通孔(図示省略)が形成されている。キャブバッククロスメンバ本体10は、その下端部10aを取付ブラケット12の凹部とシャシフレーム2の外側面との間で挟み込んだ状態で取付ブラケット12及びシャシフレーム2のボルト挿通孔にそれぞれボルト13を挿通し、各ボルト13にナット14を螺合して締め込むことにより、シャシフレーム2に締結固定される。
【0030】
2個のカウンタースリーブ11は、キャブバッククロスメンバ本体10の下端部10aの上方近傍にそれぞれ固定され、シャシフレーム2の上壁23(図5に示す)に近接する。カウンタースリーブ11は、略円筒形状を有し、キャブバッククロスメンバ本体10の外径よりも僅かに大きい内径部を有する。カウンタースリーブ11の周壁には、スリーブ固定ボルト15のためのボルト挿通孔(図示省略)が形成されている。キャブバッククロスメンバ本体10の下端部10aの上方には、カウンタースリーブ11を固定するためのスリーブ固定ボルト15が挿通されるボルト孔(図示省略)が、キャブバッククロスメンバ本体10の延設方向(図中上下方向)に沿って複数形成されている。これら複数のボルト孔から一つのボルト孔を選択することにより、カウンタースリーブ11をキャブバッククロスメンバ本体10の所望の位置に固定することができる。カウンタースリーブ11は、予めキャブバッククロスメンバ本体10に挿通しておき、カウンタースリーブ11及びキャブバッククロスメンバ本体10のボルト孔にスリーブ固定ボルト15を貫通させ、ナット16を締め込むことにより固定される。
【0031】
次に、キャブバッククロスメンバ本体10に対するカウンタースリーブ11の適切な固定位置について、図7に基づいて説明する。図7(a)は本実施形態に係るキャブバッククロスメンバ17の模式図であり、図7(b)はキャブバッククロスメンバ17との比較説明のために使用するカウンタースリーブ11を有さない(キャブバッククロスメンバ本体10のみからなる)キャブバッククロスメンバ18の模式図である。また、図中Fは荷台4からキャブバッククロスメンバ17,18に作用する衝撃力、Pは衝撃力Fが作用する荷台荷重入力点、Gはキャブバッククロスメンバ17,18の全体の重心、Oはキャブバッククロスメンバ17,18の取付点(図5に示すボルト13のうち上部のボルトの位置)、ωは回転角速度、xはGとPとの距離、hはGとOとの距離をそれぞれ示す。
【0032】
キャブオーバトラック1がバリア面へ正面衝突すると、その運動エネルギは、主に強固なシャシフレーム2の前端が有効に変形することよって吸収される。その際、荷台4の前方への移動は、Uボルト40(図1に示す)、ストッパ部材46(図1に示す)、及びキャブバッククロスメンバ17により抑制される。この荷台4の荷重が加わる瞬間に、キャブバッククロスメンバ17には荷台4からの衝撃力Fが作用する。
【0033】
キャブバッククロスメンバ17は、荷台4(図4に示す)の前下方に位置するため、衝撃力Fが作用する荷台荷重入力点Pは、図7(a)に示すように、キャブバッククロスメンバ17の上部に位置する。この衝撃力Fは、キャブバッククロスメンバ17を前方へ並進運動させると同時に重心G回りの回転を生じさせるように作用する。しかし、キャブバッククロスメンバ17は、ボルト13(図5に示す)によってシャシフレーム2(図5に示す)に結合されているため、キャブバッククロスメンバ17とシャシフレーム2との結合部分(取付点O)がキャブバッククロスメンバ17の並進と回転運動に対する衝撃中心(回転中心)から大きく外れていると、取付点Oに過大な衝撃力が作用し、破断等を招く可能性がある。従って、取付点Oに作用する衝撃力を低減するためには、取付点Oと衝撃中心とが近接することが好ましく、両者が一致することがより好ましい。すなわち、キャブバッククロスメンバ本体10に対するカウンタースリーブ11の適切な固定位置は、衝撃中心を取付点Oに近接させる位置であり、最適な固定位置は、両者が一致する位置である。
【0034】
次に、衝撃中心と取付点Oとを一致させるための条件について説明する。
【0035】
カウンタースリーブ11を含むキャブバッククロスメンバ17の全体の質量Mと、重心Gの並進速度Vと、荷台慣性力による衝撃力Fとの間には、次式(1)の関係が成立する。
【0036】
M×V=F・・・(1)
また、カウンタースリーブ11を含むキャブバッククロスメンバ17の全体の慣性モーメントIと、回転角速度ωと、荷台荷重入力点Pと重心Gとの距離xと、衝撃力Fとの間には、次式(2)の関係が成立する。
【0037】
×ω=x×F・・・(2)
さらに、取付点Oの並進速度Vと、重心Gの並進速度Vと、重心Gと取付点Oとの距離hと、回転角速度ωとの間には、次式(3)の関係が成立する。
【0038】
=V−h×ω・・・(3)
上記式(1)〜(3)により、次式(4)が導出される。
【0039】
=F×(1/M−h×x/I)・・・(4)
ここで、衝撃中心と取付点Oとが一致する場合、V=0であるため、上記式(4)から次式(5)の関係が導出される。
【0040】
x=I/(M×h)・・・(5)
従って、上記式(5)を成立させるように重心Gの位置を設定することにより、衝撃中心と取付点Oとを一致させることができ、これに基づいてカウンタースリーブ11の適切な固定位置が決定される。
【0041】
次に、カウンタースリーブ11を有する本実施形態に係るキャブバッククロスメンバ17(図7(a)に示す)と、カウンタースリーブ11を有さないキャブバッククロスメンバ18(図7(b)に示す)とを比較して説明する。
【0042】
図7(b)に示すように、カウンタースリーブ11を有さないキャブバッククロスメンバ18の場合は、キャブバッククロスメンバ本体10に依存して重心Gの位置が決定され、その位置を自由に設定することができない。また、重心Gは荷台荷重入力点Pに近接した上部に位置するため、xの値は小さく、hの値は大きくなる。このように、重心Gが荷台荷重入力点Pに近接していると、上記式(5)に基づいて、取付点Oと衝撃中心とを近接又は一致させることは難しく、取付点Oに過大な衝撃力が作用してしまう。
【0043】
これに対し、カウンタースリーブ11を有する本実施形態のキャブバッククロスメンバ17の場合は、カウンタースリーブ11の重量及び固定位置に応じて重心Gの位置が決定されるため、これら重量及び固定位置を変更することにより重心Gの位置を自由に設定することができる。また、重心Gは、図7(b)の場合と比較して、荷台荷重入力点Pから離れて位置するため、xの値は大きく、hの値は小さくなる。このため、上記式(5)に基づいて、取付点Oと衝撃中心とを近接又は一致させることができる。従って、取付点Oに作用する衝撃力を著しく低減することができ、キャブバッククロスメンバ17とシャシフレーム2との結合部分(ボルト13)の破損を確実に防止し、キャブバッククロスメンバ本体10の曲げ剛性を利用して荷台4の移動を有効に阻止することができる。
【0044】
また、図8に示すように、各カウンタースリーブ11は、それぞれシャシフレーム2の上壁23に近接しているため、キャブバッククロスメンバ本体10が荷台4によって車両前方へ押圧された際に、シャシフレーム2の上壁23と干渉してキャブバッククロスメンバ本体10の車両前下方への傾動を阻止する。
【0045】
これに対し、図9に示すように、カウンタースリーブ11を有さないキャブバッククロスメンバ18では、キャブバッククロスメンバ18とシャシフレーム2との結合部分(ボルト13等)に衝突時の荷重が集中しやすいため、ボルト13がせん断破壊によって破損しやすく、キャブバッククロスメンバ18の曲げ剛性を利用して荷台4の移動を有効に阻止することが難しい。
【0046】
このように、本実施形態によれば、衝突時の荷重の一部は、カウンタースリーブ11を介してシャシフレーム2に作用するので、キャブバッククロスメンバ17とシャシフレーム2との結合部分への荷重の集中がさらに緩和される。また、カウンタスリーブ11からの荷重によるシャシフレーム2の変形も衝撃エネルギの吸収に寄与する。従って、キャブバッククロスメンバ17とシャシフレーム2との結合部分の破損をさらに確実に防止し、キャブバッククロスメンバ17の曲げ剛性を利用して荷台4の移動を一段と有効に阻止することができる。
【0047】
また、シャシフレーム2に支持されたキャブバッククロスメンバ17は片持ち梁状態となるが、カウンタースリーブ11を設けることによってキャブバッククロスメンバ17の全体の重心が下方に位置するので、車両前後に振動する固有振動数が比較的高い値となり、車両振動特性に及ぼす影響を極めて小さく抑えることができる。
【0048】
また、車幅方向に間隔をおいて配置され車両前後方向に沿って延びる2本のシャシフレーム2同士は、キャブバッククロスメンバ17によって連結されるので、シャシフレーム2の剛性が向上する。また、キャブバッククロスメンバ本体10をパイプ状部材で形成しているので、キャブバッククロスメンバ本体10の潰れ変形によっても衝突エネルギを吸収することができる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、車両の前面衝突時において、キャブバッククロスメンバ17とシャシフレーム2との結合部分の破損を確実に防止して、キャブバッククロスメンバ17の変形エネルギを荷台4の減速のために有効に活用することができる。従って、キャブ3に対する荷台4の前方移動が抑えられ、キャブ3が後方から押し潰されることが防止され、キャブ生存空間が確実に確保される。
【0050】
なお、カウンタースリーブ11は、所望の硬度と重量を有していればよく、例えば金属や硬質樹脂等により形成することができるが、その素材はこれらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態のキャブオーバトラックの模式側面図である。
【図2】図1のII部拡大図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】キャブバッククロスメンバを備えたキャブオーバトラックの要部斜視図である。
【図5】図4の要部拡大図である。
【図6】図4の側面図である。
【図7】キャブバッククロスメンバの模式図であり、(a)はカウンタスリーブを有する場合を示し、(b)はカウンタスリーブを有さない場合を示す。
【図8】図4のキャブバッククロスメンバを備えたキャブオーバトラックの衝突時の状態を示す要部側面図である。
【図9】カウンタスリーブを有さないキャブバッククロスメンバを備えたキャブオーバトラックの衝突時の状態を示す要部側面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 キャブオーバトラック
2 シャシフレーム(フレーム部材)
3 キャブ
4 荷台
5 縦根太
6 前立鉄板
7 あおり板
8 リヤゲート
9 底板
10 キャブバッククロスメンバ本体
11 カウンタースリーブ
12 取付ブラケット
13 ボルト
14 ナット
15 スリーブ固定ボルト
16 ナット
17 キャブバッククロスメンバ
18 カウンタースリーブを有さないキャブバッククロスメンバ
20 底壁
21,22 側壁
23 上壁
30 底壁
31,32 側壁
33,34 フランジ
35 ボルト挿通用の孔
40 Uボルト
41 底棒部
42,43 側棒部
44 固定プレート
45 ナット
46 ストッパ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席を有するキャブと該キャブの後方に位置する荷台との間に配置され、前記キャブ及び荷台の下方に延設されたシャシフレームに取り付けられるキャブバッククロスメンバであって、
前記シャシフレームに結合される少なくとも2箇所の下端部を有するキャブバッククロスメンバ本体と、
前記キャブバッククロスメンバ本体の前記2箇所の下端部の近傍にそれぞれ固定され、当該キャブバッククロスメンバの全体の重心を前記キャブバッククロスメンバ本体の単体の重心よりも下方へ位置させる少なくとも2個のカウンタースリーブとを備えた
ことを特徴とするキャブバッククロスメンバ。
【請求項2】
請求項1記載のキャブバッククロスメンバであって、
前記シャシフレームは、車幅方向に間隔をおいて配置され車両前後方向に沿って延びる2本のフレーム部材を含み、
前記キャブバッククロスメンバ本体は、パイプ状部材からなり、前記2箇所の下端部が前記2本のフレーム部材にそれぞれ結合されることにより、該2本のフレーム部材を連結する
ことを特徴とするキャブバッククロスメンバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−27358(P2006−27358A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206230(P2004−206230)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)