説明

クラッド材の製造装置及びクラッド材の製造方法

【課題】オペレーターにかかる負担を軽減し、高価でスペースを必要とする電気的制御を使わずに安価で簡単な機械的機構で母材と被覆材の相対位置を制御可能なクラッド材の製造装置を提供する。
【解決手段】帯板状の母材11とその母材11より幅が狭い被覆材12とを重ねて圧延用ロールに送り、これを圧延し接着してクラッド材を製造するクラッド材の製造装置において、圧延用ロールの上流側に設けられ、圧延用ロールに送られる母材11の幅方向のずれに追従して移動する追従手段1と、追従手段1に一体に設けられ、母材11に重ねられる被覆材12の幅方向の位置を規制する被覆材ガイド13と、を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッド材の接着圧延工程における材料のずれによる位置調整が不要となるクラッド材の製造装置及びクラッド材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
異種金属が張り合わさったクラッド材の製造における接着圧延工程において、母材と被覆材の位置を合わせることは生産を行う上で重要なポイントの一つである。
【0003】
ここで、図2に示すようにクラッド材21とは、母材22と、この母材22上に長手方向に沿って設けられた被覆材23とを圧延用ロール24で荷重をかけ圧延し接着したものである。この接着圧延において母材22の幅方向に対して被覆材23の位置が長手方向にわたってずれていないことがクラッド材を生産する上で望ましい。
【0004】
このような母材22と被覆材23の位置ずれを防止するために、一般的に下記の方法で位置調整が行われている。
【0005】
1)CPC(Center Position Control)装置等の電気的制御を用いた素材の位置調整
CPC装置等の電気的制御を用いた素材の位置調整は、生産量が多く、被覆材の板幅が広く、板厚が厚く、製造装置が大きくライン上スペースに制限があまりない場合には一般的によく用いられている。
【0006】
2)オペレーターによる手動でのガイドの位置調整
オペレーターによる手動でのガイドの位置調整は、生産量が少なく、被覆材の板幅が狭く、板厚が薄く、製造装置がコンパクトでありライン上スペースに制限がある場合には一般的によく用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−293674号公報
【特許文献2】特開平11−216516号公報
【特許文献3】特開2004−122165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した位置合わせの問題点として、1)では制御機構が複雑なためラインスペースによって適用が限定されると共に高額な投資が必要となる点が挙げられる。現在、品種の一つにステンレス(母材)とアルミ条(被覆材)とを圧延し接着したクラッド材があり、この種のクラッド材の接着圧延工程に用いられる製造装置はコンパクトでありライン上スペースに制限があるため、1)の電気的制御機構を組み込むのは難しい。
【0009】
2)では、オペレーターの手動調整のため母材、被覆材の位置調整の精度が悪く、品質不良の製品が出ることもある。現在の位置調整方法は2)に当てはまり、位置調整の精度が問題となっている。2)を適用したクラッド材の製造装置の概略構成を図3(a),(b)に、母材、被覆材の位置を図4に示す。
【0010】
図3(a)に示すように、クラッド材の製造装置3は、母材31と被覆材32とを圧延し接着する圧延用ロール33と、圧延前の被覆材32の方向を導くための被覆材ガイド装置30と、圧延用ロール33で接着圧延されたクラッド材を巻き取る巻取り機34とを備えている。
【0011】
圧延用ロール33は、母材31と被覆材32を圧延し接着する2個のワークロール33aと、ワークロール33aの外側に設けられワークロール33aを支持する2個の補助ロール33bとで構成される。
【0012】
図3(b)に示すように、被覆材ガイド装置30は、母材31を跨ぐように設けられた門形状の固定スタンド35と、固定スタンド35内に母材31の表面に対して平行に設けられたシャフト36と、シャフト36に移動可能に螺合された被覆材ガイド着脱部37と、被覆材ガイド着脱部37に装着された被覆材ガイド38とで構成される。
【0013】
固定スタンド35は、クラッド材の製造装置3内の図示しない台座に固定用ボルト39で固定される。
【0014】
シャフト36は、その表面にネジ溝が切られており、シャフト36の一端に取り付けられたハンドル40を回転させることで、被覆材ガイド着脱部37がシャフト36上を移動するようになっている。
【0015】
被覆材ガイド38は、被覆材32の幅方向の位置を規制し被覆材32の進む方向を導くためのガイド溝38aを有しており、被覆材ガイド着脱部37と共にシャフト36上を移動し、被覆材32を母材31の所定位置に導くものである。
【0016】
現在は母材31の幅方向の位置がずれた際、図4に示す母材31の端から被覆材32までの寸法が規格の範囲(規格寸法41)になるようオペレーターがノギスで母材31の端から被覆材32までの寸法a1,a2を測定し、ハンドル40を回しシャフト36上を被覆材ガイド38の位置を図3(b)に示した矢印の向きに移動させ調整している。しかし、手動での被覆材ガイド38の位置調整では位置調整の精度が悪い。また、母材31の位置ずれ状況を常に確認する必要があり、ライン運転中にずれ量を量るという面で安全に関わる問題もありオペレーターに負担がかかる問題がある。
【0017】
そこで本発明の目的は、上記課題を解決し、オペレーターにかかる負担を軽減し、高価でスペースを必要とする電気的制御を使わずに安価で簡単な機械的機構で母材と被覆材の相対位置を制御可能なクラッド材の製造装置及びクラッド材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために本発明は、帯板状の母材とその母材より幅が狭い被覆材とを重ねて圧延用ロールに送り、これを圧延し接着してクラッド材を製造するクラッド材の製造装置において、前記圧延用ロールの上流側に設けられ、前記圧延用ロールに送られる前記母材の幅方向のずれに追従して移動する追従手段と、前記追従手段に一体に設けられ、前記母材に重ねられる前記被覆材の幅方向の位置を規制する被覆材ガイドと、を備えたクラッド材の製造装置である。
【0019】
前記追従手段は、前記圧延用ロールの上流側に設けられた固定スタンドに往復自在に設けられてもよい。
【0020】
前記追従手段は、前記固定スタンドに設けたシャフトにスライダーを介して往復自在に設けられると共に下端が前記母材を跨ぐように形成された可動スタンドと、その可動スタンドの両端の脚部に回転自在に設けられると共に母材の端部に接触する母材ガイドロールとからなってもよい。
【0021】
前記追従手段と前記圧延用ロールとの間には、前記母材を下方から支え、圧延部分に導くための受けロールが設けられてもよい。
【0022】
また、本発明は、帯板状の母材とその母材より幅が狭い被覆材とを重ねて圧延用ロールに送り、これを圧延し接着してクラッド材を製造するクラッド材の製造方法において、前記圧延用ロールの上流側に設けられ、前記圧延用ロールに送られる前記母材の幅方向のずれに追従して移動する追従手段と、前記追従手段に一体に設けられ、前記母材に重ねられる前記被覆材の幅方向の位置を規制する被覆材ガイドとを用い、前記圧延用ロールに送られる前記母材の幅方向のずれに応じて前記追従手段が移動し、その移動で前記被覆材ガイドが移動すると共に前記母材上での前記被覆材の位置を規制するクラッド材の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、オペレーターにかかる負担を軽減し、高価でスペースを必要とする電気的制御を使わずに安価で簡単な機械的機構で母材と被覆材の相対位置を制御可能なクラッド材の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係るクラッド材の製造装置におけるガイド装置を示す概略構成図である。
【図2】クラッド材の製造工程を示す概略図である。
【図3】(a)は従来のクラッド材の製造装置の概略構成図であり、(b)は従来のガイド装置の概略構成図である。
【図4】クラッド材の母材と被覆材の位置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0026】
本実施の形態に係るクラッド材の製造装置は、帯状の母材とその母材より幅が狭い被覆材とを重ねて圧延用ロール(圧延部)に送り、これを圧延し接着してクラッド材を製造するものであり(図3(a)参照)、図1に示すように、母材の位置がずれたとき、母材のずれに追従して動くようなガイド装置10を備えたクラッド材の製造装置である。
【0027】
ガイド装置10は、圧延用ロールの上流側に設けられ、圧延用ロールに送られる母材11の幅方向のずれに追従して移動する追従手段1と、追従手段1に一体に設けられ、母材11に重ねられる被覆材12の幅方向の位置を規制する被覆材ガイド13とを備える。また、追従手段1と圧延用ロールとの間であって、送られてくる母材11の下方には、受けロール14が設けられる。
【0028】
追従手段1は、圧延用ロールの上流側に設けられた固定スタンド4に往復自在に設けられる。
【0029】
具体的には、追従手段1は、固定スタンド4に設けたシャフト15にスライダー16を介して往復自在に設けられると共に下端が母材11を跨ぐように形成された可動スタンド17と、その可動スタンド17の両端の脚部17aに回転自在に設けられると共に母材11の端部に接触する母材ガイドロール18とからなる。
【0030】
固定スタンド4は、母材11を跨ぐように門形状に形成される。固定スタンド4は、図示しない台座上に離間して設けられる固定部材4aと、固定部材に接続された一対の柱部材4bと、一対の柱部材4bの上端を連結する連結部材4cとで構成される。固定部材4aは台座に固定用ボルト5で固定される。
【0031】
シャフト15は、固定スタンド4の柱部材4b間に水平に架け渡して設けられる。
【0032】
スライダー16にはリニアブッシュが使用される。このリニアブッシュには数条の列のボール列が強靱な外筒に支えられて内蔵されており、母材11のずれによる少しの力でもボール列が回転し最小の抵抗でシャフト15を滑らかに動く。スライダー16は母材11の位置が幅方向にずれた際、ずれの分だけ可動スタンド17がシャフト15を介して滑らかに動くことを可能にするものである。このスライダー16には可動スタンド17が吊られており、可動スタンド17がシャフト15に沿って往復自在に動くようにされている。
【0033】
可動スタンド17は、被覆材ガイド13を着脱可能な被覆材ガイド着脱部19を有する。この被覆材ガイド着脱部19によって、被覆材ガイド13は他の被覆材ガイドと交換できるようになっている。
【0034】
母材ガイドロール18は、母材11の進む方向を導くものであり、母材11の上面に接し回転する円板状の小径部18aと、小径部18aと同軸に設けられ母材11の側面に当接する円板状の大径部18bとからなる。また、母材ガイドロール18は内部にベアリング18cを介し軸支されている。母材ガイドロール18は、小径部18a同士が向かい合うように、また、大径部18b間の距離が母材11の板幅となるように、可動スタンド17の両端の脚部17a内側にシャフト18dを介して回転自在に取り付けられる。
【0035】
被覆材ガイド13は、母材11の上方に位置するガイド本体13aと、ガイド本体13aの上端に形成された、被覆材ガイド着脱部19に着脱可能な係合部13bとからなる。母材11と相対するガイド本体13aの底面には、被覆材12の幅方向の位置を規制し被覆材12の進む方向を導くためのガイド溝13cが所定の間隔を隔てて形成されている。また、被覆材12は母材11の上方から送り込まれるようになっており、被覆材ガイド13には、送り込まれる被覆材12をガイドするように底面から被覆材12が送られてくる側の面にかけてなだらかな曲面が形成されている。
【0036】
次に、追従手段1と被覆材ガイド13とを備えたクラッド材の製造装置によるクラッド材の製造方法を説明する。
【0037】
帯板状の母材11と、その母材11より幅が狭い被覆材12とを共に圧延用ロール(圧延部分)に送ると、母材11は、可動スタンド17の両脚部17aに設けられた母材ガイドロール18間を通過する。このとき、送られてくる母材11の上面に小径部(内側ロール)18aの周面が接し、母材11の側面に大径部(外側ロール)18bの面が接する。一方、被覆材12は、被覆材ガイド13のガイド溝13cを通過しながら母材11上に重ねられる。
【0038】
このとき、母材11が幅方向にずれると、母材ガイドロール18は母材11に押され、これに伴い可動スタンド17とスライダー16がシャフト15に沿って母材のずれの分だけ移動する。可動スタンド17には、被覆材ガイド13が取り付けられているので、被覆材12は母材11の動きに追従することになる。つまり、母材11の幅方向のずれに伴う可動スタンド17の移動で、被覆材ガイド13が移動すると共に母材11上での被覆材12の位置が規制される。
【0039】
母材11は、受けロール14により支えられながら真っ直ぐ圧延部分に導かれ、母材11と位置を規制された被覆材12は、圧延用ロールで接着圧延されて母材11の端から被覆材12までの寸法が規格の範囲であるクラッド材が製造される。
【0040】
以上要するに、本発明のクラッド材の製造装置は、圧延用ロールの上流側に設けられ、圧延用ロールに送られる母材11の幅方向のずれに追従して移動する追従手段1と、追従手段1に一体に設けられ、母材11に重ねられる被覆材12の幅方向の位置を規制する被覆材ガイド13と、を備えているので、高価でスペースを必要とする電気的制御を使わずに安価で簡単な機械的機構で母材11と被覆材12の相対位置を制御可能である。また、オペレーターによるずれ量測定、手動調整がなくなる分、安全性、作業効率が向上し、オペレーターにかかる負担を軽減でき、不良が低減し歩留りの向上を図ることができる。また、簡単な機構のため電気的制御に比べ、メンテナンスに関しても部品の交換といった簡単なメンテナンスだけで済むことになる。
【0041】
また、本発明のクラッド材の製造装置を用いてクラッド材を製造すると、圧延用ロールに送られる母材11の幅方向のずれに応じて追従手段1が移動し、その移動で被覆材ガイド13が移動すると共に母材11上での被覆材12の位置を規制することができるので、接着圧延において母材11の幅方向に対して被覆材12の位置が長手方向にわたってずれていないクラッド材を生産することができる。
【0042】
また、広幅、厚板な接着圧延においても電気的制御から低コスト、またメンテナンスが可能ということから本発明を利用することになる可能性がある。
【0043】
なお、被覆材ガイド13は、図1では被覆材12を2本導くものとして記載したが、被覆材12を1本あるいは3本以上の複数導くものであってもよい。被覆材ガイド13を交換できるので、被覆材12の数に関係なく被覆材12の位置制御が可能である。
【0044】
また、本実施の形態では、スライダー16として内部にボール列を備えたリニアブッシュを用いる場合について説明したが、スライダー16にリニアブッシュ以外のボールブッシュを使用してもよい。また、スライダー16が、母材11のずれ以外で作動しないよう電気的な制御を加えてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 追従手段
4 固定スタンド
5 固定用ボルト
10 ガイド装置
11 母材
12 被覆材
13 被覆材ガイド
14 受けロール
15 シャフト
16 スライダー
17 可動スタンド
18 母材ガイドロール
19 被覆材ガイド着脱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯板状の母材とその母材より幅が狭い被覆材とを重ねて圧延用ロールに送り、これを圧延し接着してクラッド材を製造するクラッド材の製造装置において、
前記圧延用ロールの上流側に設けられ、前記圧延用ロールに送られる前記母材の幅方向のずれに追従して移動する追従手段と、
前記追従手段に一体に設けられ、前記母材に重ねられる前記被覆材の幅方向の位置を規制する被覆材ガイドと、
を備えたことを特徴とするクラッド材の製造装置。
【請求項2】
前記追従手段は、前記圧延用ロールの上流側に設けられた固定スタンドに往復自在に設けられる請求項1に記載のクラッド材の製造装置。
【請求項3】
前記追従手段は、前記固定スタンドに設けたシャフトにスライダーを介して往復自在に設けられると共に下端が前記母材を跨ぐように形成された可動スタンドと、その可動スタンドの両端の脚部に回転自在に設けられると共に母材の端部に接触する母材ガイドロールとからなる請求項2に記載のクラッド材の製造装置。
【請求項4】
前記追従手段と前記圧延用ロールとの間には、前記母材を下方から支え、圧延部分に導くための受けロールが設けられる請求項1〜3いずれかに記載のクラッド材の製造装置。
【請求項5】
帯板状の母材とその母材より幅が狭い被覆材とを重ねて圧延用ロールに送り、これを圧延し接着してクラッド材を製造するクラッド材の製造方法において、
前記圧延用ロールの上流側に設けられ、前記圧延用ロールに送られる前記母材の幅方向のずれに追従して移動する追従手段と、前記追従手段に一体に設けられ、前記母材に重ねられる前記被覆材の幅方向の位置を規制する被覆材ガイドとを用い、前記圧延用ロールに送られる前記母材の幅方向のずれに応じて前記追従手段が移動し、その移動で前記被覆材ガイドが移動すると共に前記母材上での前記被覆材の位置を規制することを特徴とするクラッド材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−125796(P2012−125796A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279383(P2010−279383)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】