説明

クリソスポリウムセルラーゼ及び使用方法

【課題】中性及び/又はアルカリ性pHで酵素活性を有する中性/アルカリ性セルラーゼを生成する方法の手順とそれを有する組成物を提供する。
【解決手段】60℃の温度とpH7で最適な中性セルラーゼ活性を有する組成物は、適正な培地で培養でクリソスポリウム属の野生型又は変異体の菌類を成長させることを含む方法によって分離され、分子量25kDを有し、前記野生型又は変異体の菌類に由来する核酸配列によってアミノ酸配列がコードされたセルラーゼを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性及び/又はアルカリ性セルラーゼ及びその新規な製造方法に関する。より特定的には、本発明は、クリソスポリウム(Chrysosporium)属の菌類及びクリソスポリウム・ラクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)の特定の株によって生成されるセルラーゼに関する。本発明は、これらの中性又はアルカリ性セルラーゼ及びそれらを有する組成物の産業上の利用にも関する。
【背景技術】
【0002】
綿、リネン、麻、ラミー、キュプロ、リオセル、ニューセル、レーヨン、ポリノシクスなどのセルロース生地からなる衣料は大変人気がある。特に興味深いのは、綿や混綿製のインディゴ染色されたデニム地から作られるジーンズなどの衣料品である。かかる衣料品は、典型的に所定の大きさを有して切断された布から縫い合わされ、織物用糊剤があるために布地は堅くなり易い。他の場合では、繊維やロール状生地は最終衣服裁縫前に酵素処理される。しばらく身に着けると、衣料品は、ある程度柔らかくなり、全体的に色合いが減少し、局所的に変色する。加えて、繰り返し洗濯した後は、衣服は、より快適にフィットし、柔らかい感触を与え、外見は使い古されたようになる。近年、このような快適さ、感触及び外見はますます人気のあるものとなっている。
【0003】
この快適さ、感触及び外見を作る最も広く知られた方法は、軽石その他の研磨剤が入った大型洗濯機でセルラーゼにより衣料品を洗濯するものである。軽石は生地が柔らかくなるのを促進し、その生地の長期間の着用によって作られるものと同様の色褪せた表面を与えるのに役立つ。しかし、軽石の使用には幾つかの欠点がある。例えば、軽石は、ポケット、内面、しわや折り目にたまり易いので、処理された衣料品から手で除去されなければならない。また、軽石はストーンウォッシュ装置(stone washing machine)の電気モータに過負荷の損害を与え、洗濯機の排管や排水ラインを詰まらせる。これらの処理及び設備の問題は事業を行う費用と商品の購入価格を著しく増加させる。
【0004】
軽石を使用する問題に関し、ストーンウォッシュ処理で軽石その他の研磨剤を使用することに対する代替的な方法が求められてきた。一の代替案は生地のセルロースを分解する酵素処理の使用である(特許文献1〜8)。生地の柔軟性又は感触を向上するためにセルラーゼなどの加水分解酵素によりかかる生地を含むセルロースを処理する方法は当業界で公知である(非特許文献1及び2、特許文献9〜13)。
【0005】
セルラーゼはセルロース(β-1,4-グルカン結合)を加水分解し、これによってグルコース、セロビオース、セロオリゴサッカリデースなどの構造体をもたらす酵素系として当業界で公知である。セルラーゼ組成物は、エキソセロビオヒドラーゼ、エンドグルカナーゼ、β-グルコシダーゼとして同定されているものを含む幾つかの異なる酵素成分から構成されている。その上、これらの種類の酵素は個々のイソ酵素に分類することができる。
【0006】
結晶セルロースをグルコースに効率的に変換するには完全なセルラーゼ系が必要である。一般に、セルロース基質の全加水分解が必要な場合、セルラーゼ混合物はエンドグルカナーゼと共に、β-グルコシダーゼ及びセロビオヒドロラーゼを含む必要がある。エンドグルカナーゼは、セルロースポリマーのグルコース単位間のβ-1,4-グルコシド結合のランダムな加水分解に対する触媒となる。かかる構成成分はカルボキシメチルセルロースなどの可溶セルロース誘導体を加水分解し、これによりかかる溶液の粘性を減少させる。かかる酵素成分はポリマー内部の領域で作用し、還元基数を緩やかに増加させながら平均ポリマー鎖長は急激な減少をもたらす。セルロースポリマーの平均鎖長の急激な減少はセルロース溶液の粘性の減少によって明らかになる。
【0007】
異なるセルラーゼの基質特異性と作用形態はセルラーゼを生成する有機体の株によって変化する。例えば、トリコデルマ・レッセイ(Trichoderma Ressei)菌類からのセルラーゼにおける現在受け入れられているセルラーゼ作用の機構は、エンドグルカナーゼ活性がまずセルロースの低結晶部位にある内部のβ-1,4-グルコシド結合を切断する(非特許文献3)。セロビオヒドロラーゼ活性はセルロースの非還元基の結晶部位に優先的に結合し、セロビオースを主生成物として遊離する。β-グルコシダーゼやセロビアーゼ活性は、セロビオースなどのセロオリゴサッカリデースに作用し、グルコースを唯一の生成物として与える。
【0008】
セルラーゼは菌類、バクテリアその他の微生物によって作られる。菌類は典型的に、セルロースの結晶形を分解する能力がある完全なセルラーゼ系を作る。例えば、トリコデルマ・レッセイは、結晶セルロースの効率的分解に必要な全酵素活性、即ち、エンド-1,4-β-D-グルコシダーゼ、セロビオヒドロラーゼ(エキソ-1, 4-β-D-グルカナーゼ)及び1,4-β-D-グルカナーゼ又はβ-グルコシダーゼを生成又はセクリエート(secreate)する。菌類状セルラーゼは、菌類においてセルラーゼが発酵過程で容易に大量に生産されることができるという付加的長所を有する。
【0009】
セルラーゼ又はその化合物は、ストーンウォッシュ処理に加えて、様々な産業上の織物用途に有用であることが当業界で知られている。例えば、セルラーゼは、組成物の洗浄能力を高める目的で洗剤組成物に、柔軟剤として、色彩の鮮明化のために、毛玉除去(depilling)及びその他の利用のために使用されている。そのように使用されると、セルラーゼはセルロース材料の一部、例えば、綿地を洗浄において分解し、生地の洗浄及び/又は柔軟性を促進する。菌類状セルラーゼのエンドグルカナーゼ化合物も、柔軟剤として使用、及び、綿地などの感触を改善するのに使用され、洗剤組成物の洗浄能力を高める目的で使用されてきた。しかし、トリコデルマ種(Trichoderma spp.)由来のセルラーゼ、特に、トリコデルマ・ロンギブラチアタム(Trichoderma longibrachiatum)を洗剤組成物に使用する場合には問題がある。一般に、かかる化合物は酸性pHで最高活性を有するのに対して、殆どの洗濯洗剤組成物は中性又はアルカリ性状態で使用されるように構成されているからである。
【0010】
セルラーゼが使用されてきた他の織物の用途は、柔軟剤(特許文献10〜13)、デフィブリレーション(defibrillation)(特許文献14、非特許文献4及び5)を含んでいる。また、セルラーゼは、繊維の色密度に局所的変化を与える処理の重合剤と結合して使用されてきた(特許文献15及び16)。
【0011】
セルラーゼは、衣類や織物産業ではそのpH作用範囲に従って分類されている。酸性セルラーゼは典型的に約4.0乃至5.0以下のpH値において極大活性を有し、中性セルラーゼは約pH5.5乃至7.5において、アルカリ性セルラーゼは約pH7.5乃至11.0において有する。幾つかの酵素組成物はより広い作用範囲を有する場合がある。例えば、中性/アルカリ性セルラーゼは、約40℃乃至60℃で、酸性、中性及びアルカリ性pHで作用することができる。
【0012】
酸性、中性及びアルカリ性のセルラーゼは、界面活性剤、緩衝液、洗剤、再堆積防止剤(anti-redeposition agent)、柔軟剤、軽石その他の研磨剤、光漂白剤などの漂白剤、酵素その他の手段と共に又はなしに、デニムジーンズのストーンウォッシュ処理に典型的に使用される。セルラーゼ組成物が定型化及び/又は予め緩衝されない場合、pHは、酸性セルラーゼに対しては、例えば、クエン酸ナトリウムとクエン酸緩衝液によって、典型的にpH4.5乃至5.5に、中性又はアルカリ性セルラーゼに対しては、例えば、リン酸ナトリウム(I)、リン酸ナトリウム(II)緩衝液によって、5.5乃至7.5に調整される。中性及びアルカリ性セルラーゼは、作用のpHが約pH7.0乃至11.5の範囲に亘ることができる洗濯洗剤への添加物として典型的に使用される。ストーンウォッシュ用途において、典型的な酸性セルラーゼは、インディゴ染色のバックステイニング(backstaining)と再堆積が大きく、生地強度損失が大きいが、典型的な中性及びアルカリ性セルラーゼは、一般に、侵食はより少なく、バックステイニング又は再堆積はより低く、生地強度損失はより少ない。
【0013】
中性/アルカリ性セルラーゼは、酸性セルラーゼ(即ち、トリコデルマ種(Trichoderma sp.)由来の)よりバックステイニングや再堆積が低レベルで強度損失が少ないため、ストーンウォッシュ業界にとって最も好まれる種類のセルラーゼである。更に、中性/アルカリ性セルラーゼは、酸性のものとは異なり、はるかに広いpH範囲で作用し、ストーンウォッシュ業界においてより広いpH範囲(pH5.0乃至8.0)内で良好な相対洗浄性能を維持することができる。従って、中性/アルカリ性セルラーゼは幾つかの長所を有している。第一に、湿式処理施設への給水は典型的にこのpH範囲内にあり、酸性セルラーゼに比較して正確なpH制御の必要性を減少させる。このことは、酸性セルラーゼを使用する処理よりも、ストーンウォッシュ処理をオペレータがpHを誤ったり無視することに対してより寛容にし、処理全体により高い許容性を残すことができる。第二に、デニム地は染色処理用品が苛性ソーダを使用するという事実のために本来アルカリ性であることが知られている。デニムの単純な洗浄はこの苛性剤を洗浄水に開放するため洗浄水のpHは一般に上がる。アルカリ度は液槽緩衝液よりも強いかもしれないが、中性/アルカリ性セルラーゼは高いpHだけでなくより広いpH範囲に亘って作用するので、増加したpHの効果は酸性セルラーゼに比較して中性/アルカリ性セルラーゼにはより緩和されている。
【0014】
その他の従来技術としては特許文献17〜21、非特許文献6〜21がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第4,951,366号明細書
【特許文献2】米国特許第4,832,864号明細書
【特許文献3】米国特許第4,912,056号明細書
【特許文献4】米国特許第5,006,126号明細書
【特許文献5】米国特許第5,122,159号明細書
【特許文献6】米国特許第5,213,581号明細書
【特許文献7】米国特許第4,943,530号明細書
【特許文献8】米国特許第4,788,682号明細書
【特許文献9】米国特許第4,443,355号明細書
【特許文献10】米国特許第4,661,289号明細書
【特許文献11】米国特許第4,479,881号明細書
【特許文献12】米国特許第4,435,307号明細書
【特許文献13】英国特許第1,368,599号明細書
【特許文献14】欧州特許出願公開第0220016号明細書
【特許文献15】国際公開第WO/94/19528号パンフレット
【特許文献16】国際公開第WO/94/1529号パンフレット
【特許文献17】米国特許第5,120,463号明細書
【特許文献18】特開昭50-132269号公報
【特許文献19】英国特許第2 094 826号明細書
【特許文献20】米国特許第2,974,001号明細書
【特許文献21】米国特許第5,290,474号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】ノボ・ブローシュア(Novo Brochure)セルラーゼ SP 227
【非特許文献2】ノボ・ブローシュア・セルザイム(Celluzyme)
【非特許文献3】ルーネン・エル等(Ruohnen L., et al.)、「プロシーディングス・オブ・ザ・セカンド・トライセル・シンポジウム・オン・トリコデルマ・レッセイ・セルラーゼ・アンド・アザー・ハイドロレーシーズ(Proceedings of the Second Tricel Symposium on Trichoderma Reesei Cellulases and Other Hydrolases)」(ピー・サドミネン(P. Sudminen)及びティー・レインカイネン(T. Reinkainen)編集)、ファウンデーション・フォー・バイオテクノロジー・アンド・インダストリアル・ファーメンテーション・リサーチ(Foundation for Biotechnology and Industrial Fermentation Research)8(1993年)87-96頁
【非特許文献4】ギンティス・ディー・ミード(Gintis D. Mead)E.J.,テクスタイル・リサーチ・ジャーナル(Textile Research Journal), 29、1959
【非特許文献5】クーク(Cooke)W.D.,ジャーナル・オブ・ザ・テクスタイル・リサーチ・インスティテュート(Journal Of The Textile Research Institute), 74, 3, 1983
【非特許文献6】レイソラ&リンコ-(1976)アナリティカル・バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)、70巻、592頁、デタミネーション・オブ・ザ・ソルビリジング・アクティビティ・オブ・ア・セルラーゼ・コンプレックス・ウィズ・ダイド・サブストレイツ(Determination Of The Solubilizing Activity Of A Cellulase Complex With Dyed Substrates)
【非特許文献7】ブラム&ストール(Blum & Stahl)−エンザイミック・ディグラデーション・オブ・セルロース・ファイバース(Enzymic Degradation Of Cellulase Fibers)、静岡県浜松織物工業研究所報告、24巻、(1985)
【非特許文献8】ジャーナル・オブ・テクスタイル・アソシエーション(Journal of the Textile Association)、83-86頁、バタワデカール(Bhatawadekar)(5月、1983)
【非特許文献9】オースベル(Ausubel)等(1987年)「カレント・プロトコルズ・イン・モルキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)」、ジョン・ワイレイ・アンド・サンズ(John Wiley and Sons)、ニューヨーク州ニューヨーク市
【非特許文献10】サムブルック(Sambrook)等(1989年)、「モルキュラー・クローニング、ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning. A Laboratory Manual)」、コールド・スプリング・ハーバー・プレス、ニューヨーク州プレインビュー市
【非特許文献11】レニンジャー(Leninger)(1972年)、バイオケミストリー、ワース・パブリッシャーズ・インコーポーレーション(Worth Publishers Inc.)、ニューヨーク、ジェフリー・エイチ・ミラー(Jeffrey H. Miller)(1972年)「エクスペリメンツ・イン・モルキュラー・ジェネティックス(Experiments in Molecular Genetics)」コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー、ニューヨーク州コールド・スプリングス・ハーバー市
【非特許文献12】メソッズ・オブ・エンザイモロジー(Methods of Enzymology)、160A巻、102-104頁
【非特許文献13】バイオオーガニッケスカヤ・キミア(Bioorganicheskaya Khimia)6巻、1225乃至1242頁
【非特許文献14】メソッズ・オブ・エンザイモロジー、160A巻、94-97頁
【非特許文献15】バイオリソース・テクノロジー(Bioresource Technology)、52巻、119乃至124頁
【非特許文献16】メソッズ・オブ・エンザイモロジー、160A巻、111-112頁
【非特許文献17】メソッズ・オブ・エンザイモロジー、160A巻、109-110頁
【非特許文献18】ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(Journal of Biological Chemistry)、193巻、165-175頁
【非特許文献19】メガザイム(Megazyme)(オーストラリア)社、1995年4月、製品情報冊子
【非特許文献20】メガザイム社、製品冊子CEL、1996年1月
【非特許文献21】ヴァン・ドーショット(Van Dorschot)、C.A.N.[1980]、「ア・リビジョン・オブ・クリソスポリウム・アンド・アライド・ジェネラ(A revision of Chrysosporium and allied genera)」、スタディーズ・イン・マイコロジー(Studies in Mycology)、20巻、セントラードビューロー・ボー・シメルカルチャーズ(Centraaddbureau voor Schimmelcultures)、バーン(Baarn)、オランダ、1-36頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
セルラーゼ又はセルラーゼの成分、特に、アルカリ性及び/又は中性セルラーゼに対する幅広い産業上の利用性により、中性及び/又はアルカリ性pHで作用するセルラーゼの明確な需要がある。本発明は、中性及び/又はアルカリ性pHで酵素活性を有する中性/アルカリ性セルラーゼを生成する方法の手順とそれを有する組成物を提供している。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、一般に、中性及び/又はアルカリ性セルラーゼ及びその新規な製造方法に関する。より特定的には、本発明は、クリソスポリウム属の菌類及び特定のクリソスポリウムラクノウェンスからセルラーゼ組成物を生成する方法を提供しており、セルラーゼ組成物は中性及び/又はアルカリ性pH酵素活性を有している。また、セルラーゼ組成物に対する産業上の利用性も同様に提供される。
【0019】
本発明の一実施例は、中性及び/又はアルカリ性セルラーゼ組成物を生成することができるクリソスポリウム属の野生型及び変異体菌類の分離及び精製培養物に関し、特にクリソスポリウムラクノエンスの株−ガーグ27K及びその変異体に関する。
【0020】
本発明の別の実施例は、クリソスポリウム属の菌類から中性又はアルカリ性セルラーゼを生成するための培養条件を提供している。
【0021】
更なる実施例において、本発明はクリソスポリウム属の菌類から組換え技術を通して中性及び/又はアルカリ性セルラーゼ組成物を作る方法を提供している。
【0022】
また、本発明の更なる実施例においては、中性及び/又はアルカリ性セルラーゼを作ることができるクリソスポリウム菌類の変異体株の生成及び培養方法が提供されている。
【0023】
本発明の別の実施例は、クリソスポリウム又は遺伝子変更されたクリソスポリウム株によって生成されたセルラーゼ組成物の酵素をコード化する核酸配列に関する。
【0024】
別の実施例は、クリソスポリウム又は遺伝子変更されたクリソスポリウム株によって生成されたセルラーゼ組成物の精製及び分離酵素に関する。
【0025】
本発明の更なる実施例においては、柔軟化、漂白及びストーンウォッシュ処理のような織物用途、衣服染色用途、ディフィブリレーション(defibrillation)、又はバイオポリッシュ(biopolishing)、色彩の鮮明化及び毛玉除去においてクリソスポリウムにより生成されるアルカリ性及び/又は中性セルラーゼの使用方法が提供されている。
【0026】
本発明の別の実施例は、洗剤調製においてクリソスポリウムセルラーゼを有する洗剤組成物に関する。
【0027】
本発明の別の実施例は、農業、森林製品、都市の固形廃棄物その他のソースからのリグノセルロースバイオマスの糖化におけるセルラーゼ組成物の使用方法を提供している。
【0028】
本発明の更に他の実施例は、燃料その他の化学物質の製造、木材パルプのバイオ漂白、及び再生印刷紙のインク除去に、セルラーゼ組成物を使用することに関する。
【発明の効果】
【0029】
本発明のセルラーゼ組成物は、中性及び/又はアルカリ性セルラーゼ活性が必要な場合に酵素組成物がストーンウォッシュ,洗剤及びインク除去その他の用途に使用可能なように、5.5より大きいpHで有用な酵素活性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ここで、「中性−アルカリ性セルラーゼ」とは約5.5以上のpH値で相当の酵素活性を有するセルラーゼ組成物をいう。好ましい実施例においては、本発明の中性及び/又はアルカリ性セルラーゼ組成物は、40℃乃至約60℃、約pH5.5乃至7.5で、最大酵素活性を有する。最大酵素活性が約5.5より低いpHの場合には、中性−アルカリ性セルラーゼ組成物は、約40℃乃至約60℃、約pH6.0乃至約7.0で、少なくとも約50%の最適酵素活性を有するであろう。一例としてかかる活性は、RBBCMCase(RBBカルボキシメチルセルラーゼ)法、CMCase法、セルザイム法及び細胞内粘度測定法又はろ紙活性(FPA)法によって測定することができる。従って、本発明のセルラーゼ組成物は、中性及び/又はアルカリ性セルラーゼ活性が必要な場合に酵素組成物がストーンウォッシュ,洗剤及びインク除去その他の用途に使用可能なように、5.5より大きいpHで有用な酵素活性を有する。
【0031】
本発明は、中性又はアルカリ性pHで高い活性を有するセルラーゼの組成物及び中性及びアルカリ性セルラーゼ組成物を作る独特な方法に関する。本発明の中性/アルカリ性セルラーゼ組成物は、クリソスポリウムのどのような種からでも得ることができる。特に好ましい実施例においては、本発明のセルラーゼ組成物は、1996年8月29日に、郵便番号13184、ロシア連邦モスクワバクルシナ(Bakhrushina)8番通りのロシア科学アカデミーの全ロシア微生物収蔵物の国際寄託当局においてブダペスト条約の下で寄託され、寄託番号VKM F-3500Dが付されたクリソスポリウム・ラクノウェンス・ガーグ27K(指定分離C1と称される)から分離される。本発明のセルラーゼ組成物は、中性及び/又はアルカリ性pHで酵素活性を有し、それにより産業上の利用において有益な性能特徴を提供しているので、非常に都合がよい。
【0032】
本発明の菌株から調製されるセルラーゼ組成物は、CMCase法、RBBCMCCase法、セラザイム(Cellazyme)法、及び細胞内粘度測定法又は濾紙活性(FPA)分析法によって決定されるように、約40℃乃至60℃、約pH5.0乃至約12.0で活性を示す。ストーンウォッシュ処理の好ましい実施例においては、セルラーゼ組成物は、約40℃乃至60℃、pH約5.5乃至約7.0で最適活性を有することができる。中性及びアルカリ性pH(即ち、6.0、7.0及び8.0)での良好な性能活性が、本発明の中性及び/又はアルカリ性セルラーゼに対してストーンウォッシュ用途試験で示され、pH10.0以上で洗浄用途試験において示された。
【0033】
セルラーゼを生成するためのセルロース分解微生物培養発酵手順は当業界では公知である。例えば、セルラーゼ系は、固体、バッチ、流れバッチ及び連続フロー処理を含む固体又は液中培養によって作られる。発酵ブロースからのセルラーゼ系の収集と精製も当業界で公知の処理によって実施することができる。セルラーゼ組成物は,例えば、膜又はホローファイバー限外ろ過装置を介して、遠心分離又はろ過工程及びろ液の濃縮によって容易に菌類培養から分離される。
【0034】
本発明のセルラーゼ組成物を生成するのに使用されるクリソスポリウム菌株は、当業界で公知の標準方法と条件に従って培養することができる。好ましい実施例においては、本発明のセルラーゼ組成物はC1株から入手される。C1クリソスポリウム株は、無機塩、ペプトンなどの有機窒素源、脱脂綿種粉、コーンスティープリカー(corn steep liquor)又は酵母エキス及び炭素源を含む培地で成長されることができる。炭素源の例にはグルコース、ラクトース、サッカロース、セルロースその他の炭水化物が含まれるが、これらには限定されない。より好ましくは、菌株は、ラクトース及びペプトン又はラクトースと酵母エキスの両方を含む培地において成長される。一例として発酵培地は、約0.3%乃至約1.0%、好ましくは、約0.5%乃至0.6%のラクトースと、約0.3%乃至約1.0%、好ましくは、約0.5%乃至0.6%のペプトンとを有することができる。当業界で公知の他の窒素源と炭水化物源は、テンサイパルプ(sweet beet pulp)、大麦麦芽(barley malt)、小麦糠(wheat bran)、当業界で公知のその他を含む菌成長培地に使用されることができるが、これらには限定されない。一例として、テンサイパルプの濃縮は、約15乃至約30グラム/リットル(g/L)、好ましくは、約20乃至約25g/Lの範囲で使用されることができる。大麦麦芽は、約10g/L乃至約20g/L、好ましくは、約14g/L乃至約16g/Lの範囲で使用されることができる。小麦豆は、約3g/L乃至約8g/L、好ましくは、約5g/L乃至約6g/Lの範囲で使用されることができる。ある実施例においては、C1株は、テンサイパルプ、大麦麦芽及び小麦糠を含む塩性培地において回転振盪フラスコで培養される。セルラーゼ組成物は、細胞培地の遠心分離と限外ろ過濃縮によって、増殖培地で約3日乃至7日培養された菌類から分離されることができる。
【0035】
代替的に、クリソスポリウム培養物は商業的利用のために従来の発酵技術により大規模培養が可能である。この点に関して、発酵はいかなる制御された菌培養条件をも広義に述べるのに使用される。大規模成長前に成長培養接種源が一般に培養される。接種源培地は炭素源、有機窒素源及び無機塩の従来の成分を含むことができるが、これに限定されるものではない。炭素源は、約0.5及至200g/Lの範囲、より好ましくは、約5及至50g/Lの範囲で濃縮したグルコース、ラクトース、グリセロール及び/又はセルロースを含むことができるが、これに限定されるものではない。有機窒素源は約0.5及至30g/Lの範囲、より好ましくは、約5及至15g/Lの範囲で濃縮した酵母エキス、ペプトン又は脱脂綿種粉を含むことができるが、これに限定されるものではない。無機塩は、例えば、約0.01及至10g/Lのリン酸カリウム、例えば約0.01及至3.0g/Lの硫酸マグネシウム、例えば、約0.001及至10mg/Lの硫酸鉄を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0036】
移植又はスタータ培養物を、当業界で公知の方法でファーメンターに対してクリソスポリウム培養を開始するのに使用することができる。発酵用培地は、セルロース、有機窒素源、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムを含む従来の菌培養成分を含むことができるが、これに限定されるものではない。有機窒素源の例はペプトン又はファーマメディア(Pharmamedia)などの脱脂綿種粉であるが、これに限定されるものではない。
【0037】
一例として、培地は、約0.5g/l乃至約20g/Lのペプトン又は脱脂綿種粉、約10g/l乃至約30g/Lのセルロース、約0.03g/l乃至約0.06g/Lの硫酸マグネシウム7水和物又は約0.4g/L乃至約0.8g/Lの塩化カルシウム2水和物を含むことができる。
【0038】
当業者は、発酵中の発酵混合物の温度、酸素含量、pH及び栄養レベルを維持しなければならないことを理解するであろう。例えば、溶存酸素レベルは飽和空気の約10%乃至60%、好ましくは飽和空気の約20%乃至40%に維持されなければならない。pHは約5乃至8、好ましくは、約6.5乃至7.5、より好ましくは、6.9乃至7.1に維持されなければならず、温度は約25℃乃至40℃、好ましくは、約28℃乃至35℃に維持されることができる。供給溶液は発酵培地に類似の成分を含んでいるが、発酵培地に添加されたときの希釈が最小になるように高濃度を有する。
【0039】
本発明の方法により生成されたセルラーゼ組成物は、セルラーゼ活性、特に、中性及び/又はアルカリ性セルラーゼ活性が必要である多様なその他の用途に有用である。本発明の実施例においては、中性及び/又はアルカリ性セルラーゼ組成物は、デニム地ジーンズ用のストーンウォッシュ処理に使用される。例示的に、ストーンウォッシュ用途に最も好まれるpHの範囲は約5.5乃至7.5で、最も好ましくは、約pH6乃至約7である。クリソスポリウム分離物から得られる中性及び/又はアルカリ性セルラーゼ組成物は、中性又はアルカリ性pH以上で、好都合に相当の酵素活性を有している。中性及び/又はアルカリ性pHで動作する中性及び/又はアルカリ性セルラーゼにより行われるストーンウォッシュ処理は、より低レベルの衣服へのバックステイニングと、より少ない生地への強度損失と、本処理中に中性に存在する水のアルカリ度のために、酸性セルラーゼ(例えば、トリコデルマ・レッセイ由来のもの)を使用する伝統的処理に比較して、特に好都合である。これらのストーンウォッシュ処理は大変望ましい感触と外見を有するジーンズをもたらす。例えば、ここに記述されている0.02乃至10gのセルラーゼ調整47.0528はデニム135gごとに使用することができる。当業者は、セルラーゼ活性などの因子や温度及びpHを含むがこれに限定されない洗浄条件に基づいて、本発明によって作られたセルラーゼ組成物の量又は濃縮の調整方法を知るであろう。
【0040】
本発明の更なる実施例において、本発明のセルラーゼ組成物は洗剤組成物に添加することによってセルロース製生地の粗さを減少又は除去するのに使用することができる。例えば、洗剤組成物の好ましい範囲は、pH約8及至約12、最も好ましくは、pH10及至約11である。本発明のセルラーゼ組成物は洗剤組成物に中性及び又はアルカリ性pHで使用されることができる。本発明のセルラーゼ組成物に使用されるよう企図された洗剤成分は当業界では公知のいかなる洗剤成分をも含んでいる。かかる成分の例は、洗剤、緩衝液、界面活性剤、漂白剤、柔軟材、溶剤、固体形成剤、研磨剤、アルカリ塩類、無機電解質、酸化防止剤、ビルダー(builder)、珪酸塩、防腐剤及び安定剤を含んでいるが、これらに限定されず、また、これらは当業界で公知である。本発明の洗剤組成物は、洗剤組成物においてその使用が周知である陰イオン、非イオン及び両性界面活性剤を含む界面活性剤、即ち、表面活性剤を好ましくは使用している。セルラーゼ組成物及び界面活性剤に加えて、本発明の洗剤組成物は以下の一以上の成分を付加的に含むことができる。即ち、酵素アミラーゼ、セルラーゼ、プロテナーゼ、リパーゼ、オキシド-レダククターゼ、ペロキシダーゼ及び他の酵素、陽イオン界面活性剤及び長鎖脂肪酸、ビルダー、非還元剤、漂白剤、青み剤及び蛍光染料、ケーキング防止剤、セルラーゼ活性因子防止用マスキング剤、セルラーゼ活性化剤、酸化防止剤及び可溶化剤である。また、必要があれば、本発明の洗剤組成物と共に、香料、防腐剤、染料などを使用することができる。セルラーゼを使用する洗剤組成物の例は、ここに参照して結合される特許文献9〜12、17に例示されている。
【0041】
本発明で使用される洗剤ベースが粉状であれば、それは、スプレー乾燥方法及び/又は顆粒化方法を含むいかなる公知の調製方法によっても調製されることができる。顆粒化方法は、顆粒の非塵的性質のためスプレー乾燥製品に比べて非常に好まれる。スプレー乾燥方法により得られる洗剤ベースは、界面活性剤やビルダーなどの熱抵抗成分の水性スラリーを熱空間にスプレーすることによって得られるホロー顆粒である。顆粒は約50及至約2000マイクロメートルの大きさを有している。スプレー乾燥後、香料、酵素、漂白剤及び/又は無機アルカリ性ビルダーを添加することができる。スプレー乾燥顆粒化方法などによって得られる顆粒洗剤ベースは高濃度であれば様々な成分もベース調製後に添加することができる。洗剤ベースが液体であれば均一溶液又は不均一溶液のどちらかになる。
【0042】
本発明のセルラーゼ組成物は好ましくはアルカリ性又は中性pHで高活性レベルを示すが、酸性pHで酵素活性を示す場合もある。従って、本発明のセルラーゼを有する洗剤組成物は酸性乃至アルカリ性の広いpH範囲で使用することができる。
【0043】
これらのセルラーゼ組成物が使用可能なその他の織物の用途は以下のものを含むが、これらに限定されるものではない。即ち、ビスコースの酵素マースライゼル法を含むがこれに限定されない衣料染色用途、バイオポリッシュ用途、酵素表面磨き、バイオ洗浄(織物材料の洗浄又はすすぎ処理)、酵素マイクロフィブリレーション、リネン、ラミー及び麻の酵素「綿化」、及び、リョーセル(Lyocel)又はニューセル(Newcell)の処理(即ち、コータール(Courtauld)のテンセル(TENCEL))、キュプロ及びその他のセルロース生地又は衣服、染色された綿などの染色されたセルロース基質からの脱色(非特許文献6及び7)、使い古したように見える新規のインディゴ染色デニムを作る漂白剤として(特許文献18)、漂白剤の漂白力を高めるため(特許文献19)、及び、衣類の酵素のり抜き及び漂白用組成物処理において(特許文献20)である。セルラーゼを使用する酵素のり抜きの別の例は、非特許文献8に与えられている。
【0044】
その他の産業上の実施例においては、セルラーゼ組成物は、発酵を通して燃料及び他の化学薬品を製造するため、木材パルプをバイオ漂白するため、及び、当業者に公知の全方法によりリサイクル印刷用紙をインク除去するため、農業、森林製品、都市の固形廃棄物その他のソースからのリグノセルロースバイオマスの糖化に使用することができる。
【0045】
他の産業上の実施例として、セルラーゼ組成物は農業、森林製品、地方自治体の固形廃棄物、及び他の源からのリグノセルロースの糖化バイオマスにおいて、当業界では公知である発酵からの燃料及び他の化学薬品の生産、木材パルプをバイオ漂白、リサイクルされた印刷紙のインク除去に使用できる。
【0046】
更なる本発明の実施例として、中性及びアルカリ性セルラーゼ組成物の様々な構成要素は互いに分離及び互いに独立して使用することができる。あるセルラーゼ要素により濃縮されたセルラーゼ組成物又は特定の要素は、化学的及び物理的手段によって変異体から分離又は生成されるか、遺伝子工学的方法により特に生成可能である。セルラーゼ系は、適当なペーハーでのイオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、サイズ除外、クロマトグラフィーなど当業周知の分離技術によって別個の組成物に精製される。例えば、イオン交換クロマトグラフィーはペーハー勾配、又は塩の勾配、又はそれらの両方によって溶離することによってセルラーゼ構成要素を分離することが可能である。かかる分離は、本教示の恩恵を享受する当業者によって実施することができる。
【0047】
セルラーゼ組成物の個々の酵素要素が一旦分別及び分離されると、問題の酵素タンパク質をコード化する遺伝子を分離する合成DNAやプローブを設計するために、タンパク質は部分的な配列又は微細な配列とされてもよい。一般に、タンパク質のアミノ末端の配列は、従来のタンパク質配列方法又は自動化された配列により決定される(非特許文献9)。あるいは、たんぱく質の他の領域は、化学分裂又は酵素分裂及びたんぱく質分離技術の組み合わせによって配列される。(非特許文献9)。当業者は、クルソスポリウムにより生成される中性/アルカリ性セルラーゼ組成物内に存在する酵素に対応する遺伝子を分離する常套のクローン技術に合成DNAクローン又はプローブが使用可能であることを理解するであろう。
【0048】
当業界で本発明によって得られた核及び配列はDNA配列の遺伝子暗号変形の縮重によって変化しうるが、依然として、セルラーゼ組成物の酵素要素をコード化することが可能なDNA配列をもたらすであろうことが当業者には理解されるであろう。従って、かかるDNA配列は本発明の核酸配列と機能的に同等であり、本発明に含まれる。同様に、本発明に含まれるものは、様々な条件下で、開示された核酸配列に交雑可能な核酸配列に相補的な核酸配列である。
【0049】
本発明は、本発明のセルラーゼ組成物の酵素をコード化するタンパク質又はペプチド若しくはそれらの類似体、及び、本発明の酵素タンパク質又はペプチドと実質的に同一機能を有するタンパク質又はペプチドを更に有する。かかるたんぱく質又はポリペプチドはたんぱく質の断片、又は変異体の代替、添加又は削除を含むが、それに限らない。また、本発明は、本発明のセルラーゼ組成物を構成する酵素をコード化するタンパク質の実質的に相同であるタンパク質又はペプチドも包含している。「同類体」という用語は、一以上の残基が機能的に類似する残基と保存的に置換され、ここに説明されるようにタンパク質の機能的側面を示す特定配列と実質的同一のアミノ酸残基配列を有するいかなるポリペプチドをも含む。保存的置換の例は、イソロイシン、バリン、ロイシン又はアラニンなどの非極性(疎水性)残基への置換、アルギニン及びリジンの間、グルタミンとアスパラギンの間、トレオニンとセリンの間などの一の極性(親水性)残基への置換、リジン、アルギニン又はヒスチジンなどの一の基本残基への置換、アスパラギン酸及びグルタミン酸などの一の酸性残基への置換を含む。
【0050】
本発明のタンパク質又はポリペプチドは、必要な活性が維持される限り、その配列が本発明のタンパク質に含まれるポリペプチドの配列に対する一以上の付加及び/又は欠失若しくは残基を有するいかなるポリペプチドをも含む。
【0051】
また、本発明は、本発明及びベクターから分離された核酸配列の全部又は一部を含む組換えDNA分子を提供する。本発明において使用に適した発現ベクターは、核酸配列に作用的に結合された少なくとも一の発現制御要素から構成されている。発現制御要素は、核酸配列の発現を制御及び調節するために、ベクターに挿入される。発現制御要素の例は、ファージラムダの領域の乳汁系、オペレータ及びプロモータ、酵母、又はその他の菌類プロモータを含むが、これらに限定されるものではない。使用可能なプロモータの例は、グルコアミラーゼを含むが、それに限定されるものではない。更に好ましい又は必要な操作要素は、リーダー配列、終止コドン、ポリアデニル化信号及び宿主系の核酸配列の適切な転写及び事後的翻訳に必要又は好ましいその他のいかなる配列をも含むが、これに限定されるものではない。必要又は好ましい発現制御要素の正しい組み合わせは選択される宿主系に依存することを当業者は理解するであろう。また、発現ベクターが、宿主系において核酸配列を含む発現ベクターの伝達及び事後的複製に必要な付加的要素を含むことも理解されるであろう。かかる要素の例は複製の由来及び選択マーカーを含むが、それに限らない。かかるベクターが従来の方法を利用して生成されるか(非特許文献9)、商業的に入手可能であることも当業者は理解するであろう。
【0052】
本発明の別の側面は、全部又は一部の核酸配列を含む組換え発現ベクターが挿入された宿主有機体に関する。本発明の核酸配列で形質転換された宿主細胞は、動物、植物又は種子、昆虫及び酵母細胞、菌細胞などの真核生物と、E群コリシン(E.coli)又はその他のバクテリアなどの原核生物とを含む。菌宿主細胞の例は、アスペルギルス、トリコデルマ、フミコーラ、ペニシリウム又はネウロスポラを含むが、これに限定されるものではない。遺伝子輸送ベクターを細胞に導入可能な手段は、形質転換、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、トランスダクション、又は、DEAE-デキストラン、リポフェクション、リン酸カルシウム、又はその他の当業者に周知の処理を利用するトランスフェクションを含むが、これらに限定されるものではない(非特許文献10)。代替的に、クリソスポリウム細胞は、クリソスポリウムによりセルラーゼ生成を増加するために、本発明の核酸配列により形質転換されることができる。
【0053】
好ましい実施例においては、菌細胞において機能する発現ベクターが使用される。かかるベクターの例は、特許(オガワ日本特許JP5095787 A 930420、オゼキ日本特許JP7115976 A 950509、ムラカミ日本特許JP3094690 A 910419、イシダ日本特許JP3251175 A 911108、ウオズミ日本特許JP5268953 A 931019 DW9346 Cl2N-OO9/34 011pp、ゴッツチョーク(Gottschalk)独特許DE3908813 A 900920 DW9039 000 pp、ギスラー(Gysler)欧州特許EP-683228 A2 951122 DW9551 C12n-015/60 Eng 041 pp)に記載されているプラスミドを含むが、これらに限定されるものではない。適当な処理、修飾及び導入されたタンパク質の修飾を確保するために組換えタンパク質発現ベクターが菌細胞に導入されることが好ましい。
【0054】
更なる実施例においては、宿主細胞によって発現された組換えタンパク質は、天然溶解物として取得するか、若しくは、差分沈降、分子ふるいクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、等電沈殿、ゲル電気泳動、アフィニティ及びイミュノアフィニティクロマトグラフィーなど(非特許文献9)を含む当業界で既知の標準タンパク質精製処理によって精製可能である。イミュノアフィニティクロマトグラフィーの場合、組換えタンパク質は問題のタンパク質に特別の抗体に結合した樹脂を含むカラムを通過することによって精製される(非特許文献9)。
【0055】
本発明の核酸配列の全部又は一部は、他の属又は株において他の相同体を分離するプローブとして使用することができる。好ましい実施例においては、核酸配列はクリソスポリウムライブラリーをスクリーンするのに使用され、正のクローンが選択されて配列される。遺伝子ライブラリーを合成することができるソースの例は、クリソスポリウム、アスペルギルス、ペニシリウム、フミコーラ、セファロスポリウム(Cephalosporium)、トリコデルマ又はバシラスなどのバクテリアを含むが、これらに限定されるものではない。当業者は相同体検出用の適当な交雑条件を理解するであろう。核酸交雑、ライブラリー構築及びクローニング技術の従来の方法は、非特許文献9及び10に記載されている。
【0056】
本発明はクリソスポリウムの変異株にも係り、特に、中性及び/又はアルカリ性セルラーゼを精製することができるクリソスポリウム・ラクノウェンスの変異株に関する。DNA変異誘発及び変異体スクリーニング法は当業者には周知であり、様々な化学及び酵素的方法を含む。かかる方法の例は、菌を紫外光(UV)で露光したり、亜硝酸、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NG)及び4-ニトロキノリン-N-オキシド(4NQO)に晒したりすることを含むが、これらに限定されるものではない(非特許文献11)。好ましい方法はUV及びNGを含む。一例として、中性及び/又はアルカリ性pHで酵素活性を示す増加したレベルのセルラーゼ組成物を生成することができるクリソスポリウムの変異株はUV突然変異生成によって生成することができる。一例として、変異体はUV光へ菌胞子を、約10乃至約180秒間、好ましくは45乃至約90秒間、最も好ましくは65乃至75秒間、露光することによって生成することができる。NGを含む突然変異生成はNG濃度と露光時間の変化を伴う。一例として、NGは、約13ミリグラム/リットル(mg/L)乃至約400mg/LのNGで約15分乃至約120分の露光期間で使用することができる。代替的な変異体生成方法は分子生物学の分野の技術を伴う。かかる技術の例は、オリゴヌクレオチド由来の突然変異生成、リンカースキャニング変異又は、ポリメラーゼ連鎖反応(非特許文献9)を使用するオリゴヌクレオチド由来の突然変異生成を含むが、これらに限定されるものではない。
【0057】
改善したセルラーゼ生成を示す変異クリソスポリウムクローンのスクリーニングと選択は従来の方法によって実行可能である。変異体をスクリーニングする選択基準の例は、セルロースを含む培地の増加成長速度とセルロースを含む培養プレート上で成長した菌によるセルロース清澄とによって明らかであるように、菌コロニーによるセルラーゼ分解能力を含むが、これらに限定されるものではない。一例として、変異生成後、菌試料はセルロースを含む寒天プレートに従来の方法によって載置することができる。(分離体周囲の培地の清澄によって明らかであるように)セルロース清澄と増加成長を示すコロニーは選択することができる。しかし、セルロース成長に対する他のいかなる分析法も使用することができる。変異体が一旦分離されると変異体由来の群体又は胞子を従来の方法によって保持することができる。この方法によって分離された変異体はこれまで説明した条件の下、クリソスポリウムの野生型株に対して、培養又は発酵されることができる。変異体によって生成されるセルラーゼ組成物の個別的酵素要素は、問題の酵素タンパク質をコード化する遺伝子を分離する合成物を設計するために、部分的配列又は微量配列することができる。従って、本発明は、クリソスポリウム変異体によって生成されるセルラーゼ酵素をコード化する核酸配列と酵素自身に関する。本発明の更に別の実施例においては、分離された変異体は更なる変異生成を受けてこれまで説明した方法によってスクリーンされることができる。
【0058】
本発明は、いかなる所望の種及び株であれクリソスポリウム有機体からのエンドグルカナーゼ及び/又はセロビオヒドラーゼ活性の両方を有するセルラーゼ酵素の精製、分離及び精製にも関し、精製方法は有機体の種に限定されない。かかる精製又は部分的に精製されたタンパク質断片とそこから調整される酵素は、本発明により、当業界で周知のその他の用途と同様に、ストーンウォッシュ、色鮮明化、毛玉除去及び生地柔軟化などの用途において大変有益である。かかる精製された酵素調整物は洗剤及びかかる用途の他の媒体における添加物として直ちに使用可能である。これらのそしてその他の使用方法は直ちに当業者に自身を示唆しており、ここでは詳しい説明は不要である。しかし、これらの調整物の典型的な使用方法の説明を一例として以下に行う。
【0059】
全ての本、特許又は論文参考物はここに参考のために結合する。以下の例は本発明の様々な側面を例示しているが、本発明を限定するものではない。全ての百分率は重量についてであり、全ての溶媒混合比は特に断らない限り体積についてである。
【0060】
原料及び方法
酵素分析 CMCase分析法は、酵素基質としてカルボキシルメチルセルロースを使用し、加水分解の初期速度を測定し、ソモギー(Somogyi)とネルソン(Nelson)の方法に従って発現した還元糖の量を定量化した。この方法は、非特許文献12に記述されている。エンド-1,4-β-グルカナーゼ活性は、非特許文献13(エンド粘度分析法)に従って可溶基質カルボキシメチルセルロースの粘度減少速度として粘度測定的に(viscometrically)分析された。濾紙活性(FPA)又は全セルラーゼ活性は基質として濾紙を使用し、50mgの濾紙試料から2 mgのグルコースを発現するのに必要な活性を評価した。本分析法は、全セルラーゼ活性または真正セルラーゼの測定法として生物工学委員会(IUPAC)に基づいており、非特許文献14に記述されている。アビセラーゼ(Avicelase)活性は、非特許文献15に記載されているように)アビセル-セルロース(Avicell-cellulose)ならば、加水分解中の還元糖構造の初期速度として評価した。セロビアーゼの分析法は基質としてセルビオースを使用し、発現したグルコース量を測定した非特許文献16に記述されている。β-グルコシダーゼ活性の分析法は、基質としてp-ニトロフェニル-β-D-クルコシドを使用した非特許文献17に記述されている。タンパク質は、非特許文献18によるローリー(Lowry)法によって決定された。RBB-CMCase分析法は、可溶基質RBB-カルボキシメチルセルロース(レマゾルブリリアントブルー(Remazolbrilliant Blue)によって染色されるカルボキシメチルセルロース)からの染料発現の決定に基づいている−分析法の参考として非特許文献19を参照。エンド-セルラーゼは、アズリン架橋(Azurine-crosslinked)されたHE-セルロースを基質として、セルザイム分析法を使用して測定することもできる(非特許文献20を参照)。
【実施例1】
【0061】
C1株の分離
株は、ロシア連邦の極東のソラ湖(Sola Lake)(ロシアの太平洋の沿岸、モスクワから約5000マイル東)からの森林アルカリ性土壌試料から分離された。混合土壌試料は、10の異なる場所から収集された。各試料の1グラムは、100ml無菌水と一緒にフラスコに入れられて1分間超音波ディスペンサーで音波処理された(0.44 Amp、22KHz)。懸濁液(1:500に希釈)は、100mg/Lのストレプトマイシンを含んだツァペック(Czapek)培地(pH5.5-6.0)の入ったペトリ皿に接種された。この研究は3つの複製品について実施された。様々な色、形及び大きさのコロニーは2番目の分離工程で同定された。更なる試料の分離は、プレートにおいてツァペック培地、麦芽寒天、ポテトデキストロース寒天培地、又はpH7.5のゲッチンソン(Getchinson)塩類培地で実行された(表2)。プレートは、数日間約28℃で接種された。セルラーゼの製造体の選択は、表1に示されている構成要素を含むセルロース寒天プレートにおいて行われた。非晶質セルロースの調整についてはメソッヅオブエンザイモロジー(methods of emzymology)、160A巻において記述されている。
【0062】
【表1】

【0063】
プレートは28℃で3-7日の間接種された。コロニーのまわりの明るく鮮明なハロの形成はセルラーゼ活性を示していた。相当レベルのセルラーゼ活性を示し、ここにC1と指定された一つの株が更なる研究のために選択された。株は、13184、ロシア連邦モスクワバクルシナ8番通りのロシア科学アカデミー(VKM)、英語略記-RCM)、全ロシア微生物収蔵物に、ブダペスト条約の下、1996年8月29日に、クリソスポリウム・ラクノウェンス・ガーグ27Kとして、VKM F-3500D)寄託された。
【実施例2】
【0064】
C1株の特徴付け
ポテトデキストロース寒天培地上でのC1株の成長は7日後に55-60mmの直径のコロニーを与える。C1コロニーは、白いクリーム色を示し、表面がビロード状で、中央がわずかにあがった表面を有する。コロニーの端は平らで薄く繊維状である。コロニーの裏側は淡いクリーム色をしている。
【0065】
菌糸体は硝子質でわずかに分岐して滑らかである。菌糸は薄い壁で囲まれている。気中菌糸は隔壁を有し、2.0-3.0マイクロメートル幅の胞子を形成し、基質菌糸は繁殖できない。
【0066】
分生子は頂生で側生である。介在性の分生子は認められなかった。分生子の大多数は短い柄または短い側枝を通して菌糸に接続されている。分生子は分離しているが隣接している。分生子は硝子質で薄い壁で囲まれ、卵形又は棍棒形を有して単一な細胞である。それらの大きさは直径4-10マイクロメートルで変化する。
【0067】
C1株は麦芽エキス寒天で(4℃に)維持されて6カ月毎に移される。液体窒素と凍結乾燥による維持も可能である。C1株は単相糸状で、牛の胆汁(1.5%)のような成長制限剤を有する寒天プレートで成長することができ、胞子を生成する。
【実施例3】
【0068】
C1株の分類
サットン(Sutton)分類(非特許文献21)によれば、本発明のC1株は、ヒホミケス(Hyphomycetales)目モニリアシー(Moniliaceae)科クリソスポリウム属クリソスポリウム・ラクノウェンス・ガーグ1966種に属する。本分類はC1株の以下の特徴の観察に基づいた。
【0069】
1.ヒホミケス目の兆候 分生子は、菌糸体、別個の胞子形成細胞又は区別できる分生子柄上に直接生成される。
【0070】
2.モニリアシー科の兆候 分生子及び分生子柄(もし存在すれば)の両方とも硝子質又は明るい色である。分生子柄は単体か緩い房状である。
【0071】
3.クリソスポリウム・コルダ(Corda)1833属の兆候 コロニーは通常、広がって、白色、ときどきクリーム色となる淡い茶色または黄色で、フエルト状及び/又は粉状である。菌糸は殆ど硝子質で滑らかな隔壁を有し、不規則で多少正常屈性分岐を有する。増殖力のある菌糸は殆どまたは全く相違をみせない。
【0072】
分生子は頂生で、側生で、葉状で、菌糸、無柄または短い突起または側分岐のいたるところで生成し、すこし曇った硝子状または薄い黄色で、薄いまたは厚い壁を有する完全ではない球状、バット形、洋梨形、倒卵形、単細胞まれに二細胞の切形である。節間の分生子はときどき存在して群生せず、しばしば連鎖し、すこし曇った硝子状または薄い黄色で、支持菌糸より広がり、通常単細胞で、両端で切形を呈する。厚膜胞子はしばしば存在する。
【0073】
4.クリソスポリウム・ラクノウェンス・ガーグ1966種の兆候 コロニーは、サブロー・ブドウ糖寒天培地で14日間に直径55mmに成長し、クリーム色で、フェルト状で、けば立ち、密集して3-5mmの高さを有し、縁部はくっきりとした輪郭を有し、整正で、采状で、裏面は薄黄色からクリーム色である。菌糸は硝子状で滑らかで薄い壁を有し、少し分岐している。気中菌糸は殆ど繁殖可能で、密に中隔を有し、約1-3.5mmの幅を有する。深部菌糸は繁殖不能で、約1-4.5mmの幅を有し、より薄い菌糸がしばしば回旋状である。分生子は頂生で、側生で、殆ど無柄又は短いしばしば円錐の突起または短い側分岐上にある。分生子は単生であるが互いに近接し、1つの菌糸細胞上に1-4の分生子が成長し、準硝子質で、ごく薄い滑らかな隔壁を有し、殆ど準球状で、また、棍棒状、倒卵形でもあり、1室で、2.5-11mmx1.5-6mmで、広い基底分生子離脱痕(1-2mm)を有する。介在性の分生子は存在しない。厚膜胞子は存在しない。
【0074】
5.C1株の説明 コロニーは約7日間でポテトデキストロース寒天培地上に約55-66mmの大きさに成長し、白クリーム色で、フエルト状で、中央に2-3mmの高さを有し、縁部は明確で、整正で、采状で、裏面は淡いクリーム色である。菌糸は硝子質で滑らかで薄い壁を有し、少し分岐している。気中菌糸は繁殖可能で中隔を有し、2-3mmの幅を有する。深部菌糸は繁殖不能である。分生子は頂生及び側生で、無柄又は短い側分岐上にあるか存在せず、単性だが互いに近接し、硝子質で、薄い滑らかな壁を有し、準球状、棍棒状又は倒卵形で、1室で、4-10mmである。厚膜胞子は存在しない。介在性の分生子は存在しない。
【0075】
結論 C1はクリソスポリウム・ラクノウェンス・ガーグ1966の株である。便宜上この株によって作られたセルラーゼを以下「C1」又は「C1セルラーゼ」と呼ぶ。
【実施例4】
【0076】
セルラーゼ活性の分析
C1株は、220rpmで回転されて28℃で恒温処理されたた800ml振盪フラスコで成長された。C1株は、5g/Lの様々な栄養素、ある場合には、2g/Lの微結晶セルロースを含む塩類ゲッチンソン培地(表2参照)(pH7.5)で成長された。100ml培地が各フラスコに添加された。
【0077】
【表2】

【0078】
グルコースと微結晶性セルロース、デキストロースと微結晶性セルロース、グリセロールと微結晶性セルロース、ラクトースと微結晶性セルロースの組み合わせは、大変低い成長、大きな菌糸体凝集体の形成及びセルラーゼ活性の欠如をもたらした(CMCase分析)。その結果を表3に示す。窒素有機源、即ち、ペプトン、コーンスティープリカー又は酵母エキスは成長とセルラーゼ生成を高めて、菌糸体凝集体をもたらさなかった。
【0079】
ラクトースと酵母エキスはC1によって最高のセルラーゼ生成を与えた。ラクトース及び酵母エキスが25g/Lのテンサイパルプ、15g/Lの大麦麦芽及び5g/Lの小麦糠に置きかえられると同様の結果が得られた。
【0080】
【表3】

【実施例5】
【0081】
ストーンウォッシュ試験用セルラーゼの生成
1. 振盪フラスコにおける生成 C1株は、220rpmで回転されて28℃で恒温処理された800ml振盪フラスコで成長された。フラスコ毎の成長培地100mlは、25g/Lのテンサイパルプ、15g/Lの大麦麦芽及び5g/Lの小麦糠を含む塩類ゲッチンソン培養液(表2参照)(pH7.5)であった。細胞固形分は遠心分離され、無細胞の上澄は更なる試験のために乾燥されて保存された。C1セルラーゼ調製#s 47.1.1乃至47.15.1がこの方法で作られた。C1調製#47.16.1が同一の方法で作られたが、無細胞の上澄は遠心分離後乾燥前に10kDaカットオフ膜を使用して限外ろ過された。C1調製#47.18.1乃至47.22.1はゲッチンソン培養液により振盪フラスコで同一の方法で作られたが、ラクトース(0.5%w/v)及びペプトン(0.5%w/v)がテンサイパルプ、大麦麦芽及び小麦糠の代わりに含まれている。細胞固形分は遠心分離され、無細胞の上澄は更なる試験のために乾燥されて保存された。調製#s 47.1000、47.1001、47.2000及び47.2001が、それらは他のクリソスポリウム株を使用して生成された点を除いて、調製#47.1.1乃至47.15.1と同一の方法によって振盪フラスコで作られた。特に、47.2001はクリソスポリウム・パノラム(Chrysosporium pannorum)、調製47.2000はクリソスポリウム・プルノサム(Chrysosporium pruinosum)、調製47.1001はクリソスポリウム・ケラチノフィラム(Chrysosporium keratinophilim)、そして、調製47.1000はクリソスポリウム・クイーンズランディカム(Chrysosporium quenslandicum)(例8参照)により生成された。これらC1調製のタンパク質含有量及び活性指紋を表4に示す。
【0082】
【表4】

【0083】
2. ファーメンターの生成 C1セルラーゼが、ゲッチンソン培養液培地、ラクトース(0.5% w/v)、ペプトン(0.5% w/v)及びクロラムフェニコール(50mg/mL)で10-L「ANKUM-1M」ファーメンターにおいて生成された。栄養培地の初期容積は7.0Lで、発酵後の最終容積は7.3Lであった。分解酸素濃度(DO)、攪拌速度、通気レベル、温度及びpHが制御された。発酵はバッチモードで実行された。発酵温度は28℃に制御された。初期pHは7.5で、その後、NH4OH(12% w/v)の添加によりそのレベルで維持された。通気は4乃至5L/分で、攪拌は400乃至500rpmであった。DOは50%以上に維持された。8時間毎に分析用標本(30ml)が取られた。発酵終了時に、菌バイオマスが遠心分離され(10,000g、室温、20分)、培養ろ液が更なる試験のために乾燥されて保存された。結果を表5に示す。セルラーゼ調製#47.17.1がこの方法で生成された。このC1調製のタンパク質含有量及び活性指紋は表4に示す。
【0084】
【表5】

【0085】
3. C1調製#47.0325及び47.0528の生成 C1セルラーゼ調製#47.0325は野生型C1株を使用して生成され、調製#47.0528は野生型C1株から得られた改良された変異体を使用して生成された。これらの調製は、実施例13及び15に記載の条件の下で成長されたファーメンターであった。調製47.0325はバッチ発酵法、47.0528は給飼バッチ発酵法により生成された。
【0086】
4. フミコーラ野生型調製#14.22.1及び14.23.1の調製
野生型フミコーラ・グリシー・ヴァー・サーモイディア(Humicola grisea var. thermoidea)の調製#14.22.1はATCC 16453株より調製し、野生型フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)調製#14.23.1は、ATCC 16454株から生成した。これらフミコーラ野生型調製は、C1調製#47.1.1〜#47.15.1の調製(振盪フラスコにおける生成)に関して上述されたのと同一の方法を使用して振盪フラスコにおいて生成された。
【実施例6】
【0087】
C1と他の中性セルラーゼとの比較
C1酵素調製#47.0528のFPA、CMCase活性及びエンドグルカナーゼ活性が、商業用のフミコーラ・インソレンス(デニマックス(Denimax)XT)及び野生ATCC型フミコーラ(調製#14.22.1フミコーラ・グリシー・ヴァー・サーモイディア (ATCC 16453)及び14.23.1フミコーラ・インソレン(ATCC 16454)中性セルラーゼに比較された。その結果を表6に示す。C-1 #47.0528の総活性は、野生型フミコーラ由来又は商業用のフミコーラ・インソレン調製由来のそれよりも明らかに高かった。C-1 47.0528の特定CMCase及びエンドグルカナーゼ活性(乾燥調製1g当たり又はタンパク質1g当たりユニット)は、表6に挙げた全ての試験フミコーラ調製よりも高かった。C-1 #47.0528の特定FPA活性はフミコーラ野生型調製#14.22.1及び14.23の特定FPA活性よりも高く、フミコーラ・インソレン商業製品デニマックス XTの特定FPA活性より僅かに低かった。C1セルラーゼのpHと熱安定性はデニマックス XTと同様であった。
【0088】
【表6】

【実施例7】
【0089】
C1のFPA及びCMCase活性の活性と安定性に対するpHと温度の効果
C1のFPAとCMCase活性は、約pH6乃至7及び約50乃至60℃で最適の安定性と活性を示した。CMCase活性の最適pHは約6.5及び最適温度は約55℃であった(表8、9参照)。pH8.0 (50℃)でCMCaseは活性80%、FPAは活性78%を有し、pH9.0 (50℃)でCMCaseは活性65%、FPAは活性52%有している(表7参照)。
【0090】
【表7】

【0091】
FPA分析法に対する恒温時間は60分、CMCase分析法の恒温時間は5分であった。
【0092】
【表8】

【0093】
FPA分析法の恒温時間は60分、CMCase分析法の恒温時間は5分とした。
【0094】
【表9】

【0095】
C1のCMCaseは最適pHと温度で高い安定性を示す。例えば、pH7.2及び50℃でCMCaseは1時間後に95%、5時間後に75%の活性を有しており、pH7.7及び50℃でCMCaseは1時間後に93%、5時間後に45%の活性を維持している(表9参照)。
【実施例8】
【0096】
クリソスポリウム同属の他の株の中性及び/又はアルカリ性セルラーゼ活性/性能
クリソスポリウム属の様々な株のセルラーゼ生成試験が行われた。これらの株の正式名称と起源を以下に示す。
【0097】
メリーランド州ロックビルのアメリカ型培養収集所(ATCC)由来の株は以下のものを含んでいる。
【0098】
1. ATCC 44006 クリソスポリウム・ラクノウェンス
2. ATCC 34151 クリソスポリウム・パノラム
3. ATCC 24782 クリソスポリウム・プルイノサム
ロシア微生物収集所(VKM)由来の株は以下のものを含んでいる。
【0099】
1. VKMF-2119 クリソスポリウム・ケラチノフィラム
2. VKMF-2875 クリソスポリウム・ケラチノフィラム
3. VKMF-2120 クリソスポリウム・ロバタム
4. VKMF-2121 クリソスポリウム・マーダリウム
5. VKMF-2116 クリソスポリウム・クイーンズランディカム
6. VKMF-2117 クリソスポリウム・クイーンズランディカム
7. VKMF-2877 クリソスポリウム・トロピカム
本研究では、2種類の成長培地が使用された。即ち、培地Aは、圧搾テンサイ、大麦麦芽、小麦糠を含有するゲッチンソン、培地Bは、ペプトンとラクトースを含有するゲッチンソンである。培地の組成を表10に示す。
【0100】
【表10】

【0101】
各株は、振盪フラスコにおいて220 rpm、28℃にて成長された。培地Aで成長させた各株の試料は、培養6日目および7日目に分析用に取り出した。また、培地Bで生育させた株の試料は、培養5日目に分析用に取り出した。全試料がpH5及び7でCMCase活性に対して分析した。CMCase分析法の結果を表11に示す。
【0102】
【表11】

【0103】
ATCC 34151クリソスポリウム・パノラム、ATCC 24782クリソスポリウム・プルイノサム、VKMF-2875 クリソスポリウム・ケラチノフィラム、VKMF 2116クリソスポリウム・クイーンズランディカムの各菌株の場合、細胞固形分を遠心分離され、10 kDaカットオフ膜を使用した限外濾過により無細胞の上澄を5リットルから0.5リットルまで濃縮した。その後、限外濾過後の濃縮液を試験用に乾燥して保存した。
【0104】
以下のセルラーゼの#s乾燥調整が使用された。
【0105】
47.2001 - ATCC 34151 クリソスポリウム・パノラム
47.2000 - ATCC 24782 クリソスポリウム・プルイノサム
47.1001 - VKMF-2875 クリソスポリウム・ケラチノフィラム
47.1000 - VKMF-2116 クリソスポリウム・クイーンズランディカム
これらの調製のタンパク質含有率と活性指紋を表4に示す。
【実施例9】
【0106】
ストーンウォッシュ試験
A. 2-L特別洗濯機による試験 本システムは、ごく少量の酵素を用いた擦り切れとバックステイニンングに関連したストーンウォッシュ性能特性を評価する。
【0107】
糊抜き デニム生地(ロール)(1.2 kg)の布片40片(各30g、25×20 cm)について、布地:洗濯液比率を1:6 (7.2L)とし、0.5g/L(3.6g)のサンドクリーンPC(Sandoclean PC)液(非イオン性洗浄及び湿潤(wetting)剤、エチルオキシ化脂肪族アルコール系、平均エチレンオキシド含量6モル)、1g/L(7.2g)のサーリックス2UD(Sirrix 2UD)(酸性緩衝化金属イオン封鎖剤(sequestration))1/L (7.2g)、及び1g/L(7.2g)のバクトソルTK(Bactosol TK)液(高温安定型α-アミラーゼ)を使用し、pH約5〜6、60℃、20分間、家庭用洗濯機で糊抜きを行った。20分後、洗濯液を脱水し、液量比1:10にて冷水(14L)で5分間すすいだ。続いて、布片を40℃で乾燥させ、セルラーゼ活性決定用の比較試料ストックとして使用した。
【0108】
布片のセルラーゼ処理は、29cm径槽の内側槽、総容積10.6l(ドラム回転数20 rpm、左回り5回、右回り5回)の洗濯機を用いて行った。各布片は、セルラーゼ処理前に4本のゴム製ストッパーで衣類パッケージに縫い合わされて、機械的作用が主として衣類の色の濃い外側面に及ぼされるようにした。各ドラムにはパッケージ1個とゴム製ストッパー10個で満たされた。
【0109】
一般洗濯条件は、糊抜きジーンズ生地30gと0.02 Mクエン酸緩衝液に溶解したセルラーゼを使用し、50℃、60分間、衣類:洗濯液比1:4とした。セルラーゼ処理後、パッケージを湯(50℃)で5分間すすぎ(衣類:洗濯水比1:20)、評価用に乾燥した。
【0110】
様々なC1セルラーゼ調製と共にクリソスポリウムの異なる種から調製された他のセルラーゼ調製、並びに、ノボ・ノルディスク(Novo Nordisk)市販の中性セルラーゼ製品デニマックスXT(特許文献12)及びウルトラMG(Ultra MG)(WPO 91/17243)を用いて用途試験を行った。これらの用途試験は、ノボの市販中性セルラーゼに対するクリソスポリウム・セルラーゼのC-1及び幾つかの他の種のストーンウォッシュ性能特性を評価するために設定された。試験は、中性及びアルカリpH域(6.5, 6.7, 7.0及び8.0)で行った。結果を表12に示す。様々なC1及び他のクリソスポリウム・セルラーゼ調製で処理された衣類の洗濯性能特性は、市販中性セルラーゼデニマックスXT及びデニマックス・ウルトラMGによる衣類のそれと同等であった。C-1、および他のクリソスポリウム・セルラーゼ調製は、中性及びアルカリpH条件下で使用した場合、良好な柔軟化効果、漂白/黒ずみ低減効果、擦り切れ具合を示し、しかもバックステインニングが少なかった。データカラー測定は試料の明度(光反射率)に基づいている。試料に白色光(2パルス型キセノンフラッシュランプ)を照射し、16個のダイオードを用いて400乃至700 nmの波長域で反射光を検出した。表側からの反射光強度は擦り切れ具合が大きいほど高い値となった。裏側からの反射光強度はバックステインニングが増すほど高い値となった。
【0111】
【表12】

【0112】
0.02MP=リン酸塩緩衝系
0.01CA=クエン酸緩衝系
T.レッセイCP=トリコデマ・レッセイ由来の商業的酸性セルラーゼ製品
データカラー擦り切れ=表側からの反射率、値が高ければ高いほどより多く擦り切れる
ブランク=9.1
データカラーバックステインニング=裏側からの反射率、値が低ければ低いほどより多くバックステインニング
%OWG=例えば、1%OWGに対して、1lbの酵素が衣服100lbに使用される。
【0113】
B. 35ポンド容量洗濯機による実験 35ポンド容量洗濯機(ミルナー社製、洗濯槽回転数30RPM)を用いて用途試験を行った。使用衣類はリーバイス社製505ジーンズとし、投入量は2400g(3着)とした。セルラーゼ洗濯槽の水位は、液量比を6.25:1(低濃度)とした場合は15リットルとし、それ以外の液量比10:1(中濃度)とした場合は、洗濯槽の水位をいずれも24リットルとした。MAP(リン酸一アンモニウム)−DAP(リン酸二アンモニウム)系緩衝液を使用し、セルラーゼ洗濯槽のpHを6.7に維持した。実験4,5,6及び7ではセルラーゼ洗濯槽に非イオン性界面活性剤を添加した。セルラーゼ槽に洗剤を添加すると衣類のバックステインニングを低減できることが知られている。Zekeは糊抜き剤である。SSCEは、非イオン性界面活性剤の一種、Super Scourである(ZekeとSuper Scourは共に、CPN International 社(フロリダ州ジュピター)から市販されている特殊生地処理剤)。これらの実験における洗濯手順の一例を、下記の実験2に示す。
【0114】
【表13】

【0115】
上の例及び商業的利用において、ストーンウォッシュ加工に軽石は衣類のストーンウォッシュ効果全体を高めることを当業者は理解するであろう。
【0116】
表14の結果より、C1セルラーゼ調製#47.0325及び#47.0528は、衣類の全体的擦り切れレベルが良好であり、またバックステイニングレベルの範囲は他の市販中性セルラーゼ製品を用いた場合と同様であることがわかった。
【0117】
【表14】

【0118】
表14の図の説明 表14に示した実験ではいずれも、Super Scourを濃度1.0% OWGで用い、160Fで5分間、洗濯を行った。SB=自己緩衝化−市販品”ROCKSOFT” BTU 202-318には、本品のストーンウォッシュ性能を高める洗剤デニマックス XT、緩衝液系その他の添加剤が含まれている。
【0119】
C. 60リットル容量大型洗濯機による試験 2リットル容量の洗濯機による試験と同様に、デニム製衣類全体の糊抜きを行った。各試験では、ブルージーンズ1着(700 g)と洗濯液2.8リットル(衣類:洗濯液=1:4)を使用した。ジーンズはいずれも、同一染色ロット品である。各ジーンズについては、酸化法による予備洗浄を15分間行い、乾燥させた。C1セルラーゼ標品47.0325は実験1回につき2.4gを使用し、C1セルラーゼ標品47.0528は第1の実験では1.5g、第2の実験では1.0gをそれぞれ使用した。これらの実験結果を、実験1回につき12gのデニマックス XT 、あるいは、他の市販中性セルラーゼ2種類を使用して同様の手順で中性pH域で洗濯したジーンズと直接比較した。ここで使用した市販中性セルラーゼは、Bactosol JE(使用量2.0% OWG)およびBTU 202-318(使用量2.0% OWG)である(Bactosol JEとBTU 202-318は、デニマックス XT、緩衝剤、洗剤その他の添加剤を含有し、洗浄性能が強化されている)。表15の結果は、3種類のいずれのC-1実験で得られたブルージーンズも、最終的な擦り切れ具合と全体的な色褪せ具合において、従来の市販中性セルラーゼ3種類による処理品よりも優れていることを示している。6種類の実験すべてにおいて、ブルージーンズのバックステインニングレベルは非常に良好、かつ互いに似通っており、また、ノボ社製の中性セルラーゼデニマックス XTの使用時にもよく似ていた。これら3種類のC-1実験におけるバックステインニング値は、表13に示したバックステインニング値の範囲内であった。これらの実験、および条件を調節した表14に示す実験で仕上げられた衣類について、各グループ3人以上の人数から成る独立した4グループが目隠し試験による評価を行った。各グループのメンバーは、いずれもストーンウォッシュの当業者である。各メンバーには、(1)全体的な擦切れ具合と色褪せが最も大きいものから小さくなる順に、また、(2)再付着の最も少ないものから多くなる順に、これらの衣類を並べるよう指示を出した(表15参照)。
【0120】
【表15】

【0121】
表15の説明
擦切れ/色褪せ − ++++++(+6)最大(++++(4)以上を良好と見なし、市販の中性セルラーゼ(デニマックス XT等)と同等であった)
バックステインニング − 数値が低いほど良好(どのジーンズのバックステインニングレベルも、ノボ社製のデニマックス TX使用時と同等と判定された)。中性セルラーゼを使用することにより、Trhchodermaのような従来の酸性セルラーゼに比べ、バックステインニングをかなり低減することができた(実施例13参照)。
%0WG − 衣類重量に対する割合(%)。例えば、乾燥重量100ポンドのジーンズに対して1% OWGとは、酵素使用量が1ポンドであることを意味する。
【0122】
D. 光反射率 バックステインニングの別の試験法として、処理済み衣類の光反射率測定を行った。洗濯終了時に、反射計を用いて2種類の波長でジーンズの標本を分析した。(1)680 nmにおける検出信号強度(ジーンズの外側で測定)が高いほど、バックステインニングは少なく、(2)420 nmにおける検出信号強度(ジーンズの内側で測定)が高いほど、バックステインニングは少なかった。表16に、ノボ・ノルディスク社製及びジェネコー・インターナショナル社製の各市販セルラーゼと、C1標品#47.6.1とをそれぞれ用いて処理されたデニム地ジーンズの光反射率の値を比較して示す。
【0123】
【表16】

【0124】
C1セルラーゼ使用時の光反射率の値は、680 nm,420 nmのいずれの波長においても、ノボ・ノルディスク社製の中性セルラーゼ・デニマックス L使用時の値と同等であった。また、C1セルラーゼ使用時の光反射率の値は、680 nm,420 nmのいずれの波長においても、ジェネンカー社製の酸性セルラーゼプリマファスト100使用時の値に比べてかなり優れていた。
【0125】
E. 準工業洗濯機の試験
試験#1
2ジーンズ、重量1343gr
水比6:1
pH5.5
温度54℃
酵素:C1(調製#47.6.1)12gr
(0.9%)
研磨時間90分
ドロップバス
66℃で非イオン洗剤でリンス5分
ドロップバス
冷リンス
ドロップバス
49℃でカチオン柔軟剤で5分柔軟
取出し及び乾燥
試験 #2 酵素としてデニマックス 700 T(2% OWFG, 28.9g)を用い、洗濯条件をpH7.0, 54℃とした以外は、試験 #1に同じ。
【0126】
C1セルラーゼを、ノボ社製の市販中性セルラーゼデニマックス 700 Tと比較した。ジーンズはいずれも同一染色ロット品であり、酸化法により15分間の予備洗浄を行った後、乾燥させた。
【0127】
C1セルラーゼ標品#47.6.1による処理ジーンズは、デニマックス 700 T による処理ジーンズに比べ、擦切れ具合はやや少ないものの、バックステインニングは低減されていた。
【実施例10】
【0128】
洗濯用洗剤添加剤としてのC1セルラーゼ
A. 綿生地の汚れ落とし
C1セルラーゼ標品#47.6.1の洗濯性能を、洗濯性能試験法PW 09406(Solvay)にしたがって試験した。綿生地の汚れ(インク)落ちを、デルタ反射率(%)で調べた。アルカリプロテアーゼOpticlean L500の存在下および非存在下における洗濯試験により、C1セルラーゼ標品(#47.6.1)とノボ ・ノルディスク社製のセルジメ(Celluzyme) 0.7 Tを比較した。試験結果を表17に示す。
【0129】
有色洗剤の形でC1セルラーゼを綿生地のインク汚れ落としに用いると、中性pH域において、フミコーラ・インソレンスから得られたセルラーゼ酵素に似た汚れ落とし効果を発揮した。
【0130】
【表17】

【0131】
B. セリンプロテアーゼとの併用によるC1セルラーゼの安定性
セリンプロテアーゼとして、トリプシン(3.2 μM, ウシ膵臓由来、活性10,000-30,000 N-ベンジル-L-アルギニンエチルエステル(BAEE), Sigma社製T-8253)、およびα-キモトリプシン(8μM, ウシ膵臓由来、40-60 U/mg, Sigma社製 C-4129)を使用した。
【0132】
プロテアーゼをC1セルラーゼと共に20℃、pH7.0でインキュベートした。キモトリプシンは、C1セルラーゼの活性を12時間にわたって低下させなかったが、トリプシンはC1活性をわずかに減少(約20%)させた。表18を参照。
【0133】
トリプシンとキモトリプシンは、pH4.5から7.0の範囲内、および50℃から57℃の範囲内でC1カルボキシメチルセルラーゼ活性を大幅に変化させることはなかった。表18を参照。
【0134】
【表18】

【0135】
C. クエン酸、EDTA、Tween-80および過硫酸のCMCase活性に及ぼす影響
酢酸からクエン酸緩衝剤(キレート剤)に変更しても、C1のCMCase活性(緩衝液のモル濃度0.1 M, pH4.5,50℃および57℃)に影響は現れなかった。表19を参照。
【0136】
キレート剤であるEDTA(エチレンジアミン四酢酸)(5mM)は、pH4.5, 50℃において、CMCase活性に影響を与えなかったが、pH4.5(57℃)およびpH7.0(50℃)では、CMCase活性が僅かに低下した。pH7.0及び57℃では、EDTAはCMCase活性を僅かに増加させた。表19を参照。
【0137】
非イオン性界面活性剤Tween-80(3 g/L, ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)は、C1のCMCase活性(pH4.5および7.0、50℃および57℃)に影響を与えなかった。表19を参照。
【0138】
酸化剤である過硫酸(3 g/L)は、C1のCMCase活性(pH4.5および7.0、50℃および57℃)に影響を与えなかった。表19を参照。
【0139】
従って、C1のCMCase活性は、セリンプロテアーゼ(トリプシン及びキモトリプシン)、キレート剤(EDTA、クエン酸)、非イオン性界面活性剤(Tween-80)および酸化剤(過硫酸)に耐性を有する。
【0140】
【表19】

【実施例11】
【0141】
クリソスポリウムの異なる株に由来するセルラーゼ標品を用いたストーンウォッシュ試験
クリソスポリウムの異なる株に由来するセルラーゼ標品#47.1000, 47.1001, 47.2001と2リットル容の専用洗濯機を用い、pH6.5、50℃、60分間の条件で、135gの糊抜きデニム地ジーンズ生地の洗濯試験を行った。各実験ごとのCMCase活性の合計値は、336 U/回で一定とした。
【0142】
乾燥後、衣類の擦切れ具合とバックステインニングをデータカラー測定により評価した。結果を表20に示す。この結果から、擦切れ具合とバックステインニングでみた洗濯性能は、中性pH域においては、クリソスポリウムの異なる菌株から産生されたセルラーゼも、クリソスポリウム・ラクノウェンス・ガーグ1966のC-1株から産生されたセルラーゼも、同等であることがわかった。
【0143】
【表20】

【実施例12】
【0144】
セルラーゼ組成物の精製
1. 精製用C1標品の選択 C1セルラーゼ標品#47.11.1を精製用に選択した。その根拠は、47.11.1が(i)タンパク含有量が多く、(ii)FPAおよびカルボキシメチルセルラーゼ活性が高いからである(表4参照)。
【0145】
2. C1複合成分の単離と精製 最初の精製段階では、DEAE-Toyopearlカラム(TosoHaas社製、日本)を用いたイオン交換クロマトグラフィーを行った。即ち、C1セルラーゼの乾燥標品(1.5g)を15 mlの0.01 Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7)に溶解した。この溶液を遠心分離し、上清をAcrylex P-2カラムで脱塩した。脱塩後の標本を0.03 M リン酸緩衝液中(pH4.7)でDEAE-Toyopearlカラム(1.5×30 cm)に載せ、続いて0〜0.2 M NaCl水溶液を流速1ml/分にて流し、吸着されたタンパクの濃度勾配溶出を行った。3種類の画分を採取した。非結合(NB)画分は最初の緩衝液で溶出され、画分IとIIは0〜0.2 M NaCl濃度勾配にしたがって溶出された。セルロース分解活性は、どの画分にもみられた。
【0146】
3. タンパク画分のSDS-PAGE 硫酸ドデシルナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を行った結果、NB画分には分子量30〜70 kDのタンパク、画分Iには分子量25〜100 kDのタンパク、画分IIには分子量35〜100 kDのタンパクが含まれていることがわかった。SDS-PAGEは、変性条件下で10%濃度の分離用ゲル(100×80×0.75 mm)を用いて行った。試薬とキットは、Bio-Rad社(米国)から入手した。タンパク染色には、25%トリクロロ酢酸に溶解したクーマシー・ブリリアント・ブルー R-250を使用した。
【0147】
4. タンパク画分のIEF 等電収束(IEF)を行った結果、NB画分には等電点(pI)が4.6〜8.0のタンパク、画分IにはpIが3.2〜5.5のタンパク、画分IIにはpIが3.0〜5.5のタンパクが含まれていることがわかった。等電収束は、7% PAAGの存在下、mini-IEF Model 111(Bio-Rad社製)を用いて行った。試薬とキットは、Bio-Rad社(米国)から入手した。タンパク染色には、25%トリクロロ酢酸に溶解したクーマシー・ブリリアント・ブルー R-250を使用した。
【0148】
5. タンパク画分のCMCase活性のpH依存性 C1セルラーゼの画分NB、IおよびIIのCMCase活性とRBB-CMCase活性のpH依存性を、表21に示す。使用した緩衝液系は、酢酸緩衝液(pH4-5)、リン酸緩衝液(pH6-8)、および炭酸緩衝液(pH8.5-10)である。この他、酢酸、ホウ酸、リン酸から成るユニバーサル緩衝液系(pH4-10)も使用した。
【0149】
【表21】

【0150】
DEAE-Toyopearlイオン交換クロマトグラフィー後の画分NB、I、IIのCMCase活性およびRBB-CMCaseは、非対称な釣鐘型のpHプロファイルを示した。画分NBのCMCase活性はpH4.5-5.5で最大となり、pH8.0でも最大活性の50%が維持されていた。画分NBのRBB-CMCase活性はpH5.0-6.0で最大となり、pH8.0でも最大活性の50%が維持されていた。画分IのCMCase活性はpH5.0-6.0で最大となり、pH8.5でも最大活性の50%が維持されていた。画分IのRBB-CMCase活性はpH4.5-7.0で最大となり、pH8.5でも最大活性の50%が維持されていた。画分IIのCMCase活性はpH4.0-5.5で最大となり、pH8.5でも最大活性の50%が維持されていた。更に、画分IIのRBB-CMCase活性はpH4.5-7.5で最大となり、pH8.5でも最大活性の50%が維持されていた。
【0151】
6. タンパク画分IのCMCase活性の安定性(DEAE-Toyopearlイオン交換クロマトグラフィー後)
DEAE-Toyopearlイオン交換クロマトグラフィー後、画分Iの一時的なCMCase活性曲線を異なるpH(5.2-8.7)下、50℃で測定した結果を表22に示す。画分IのCMCase活性は、pH5.2-7.2で最も安定であった(但し、3時間経過以降は活性が約30〜45%失われる)。pH7.7では約1時間後に60%の活性が失われ、pH8.3およびpH8.7では0.5時間後に50%の活性が失われた。pH8.3では、CMCase活性が3時間後に100%消失し、pH8.7では2時間後に100%消失した。
【0152】
【表22】

【0153】
7. DEAE-Toyopearlカラムによるイオン交換クロマトグラフィー後の各画分の特性
Avicel(微結晶セルロース)を基質に用いた吸着試験を行った結果、画分IとIIは結晶性基質に結合しなかったが、画分NBはAvicelに結合し、その時の分布係数は0.2 L/gであった。色々な基質に対する画分NB、I、IIの特異的活性を表23に示す。これら3つの画分はいずれも、CMCase、エンドグルカナーゼ、アヴィセラーゼ、β−グルカナーゼ、キシラナーゼの各活性を有していたが、画分NBだけは画分IおよびIIとは異なり、β−グルカナーゼ活性を有していなかった。画分NB、I、IIのマイクロデニム洗濯試験を行ったところ、画分IとIIはpH7で同程度の活性を有していたが、画分NBの活性はより低かった(マイクロデニム洗濯試験による)。
【0154】
【表23】

【0155】
8. マイクロデニム洗濯試験 この試験は、所定レベルのCMCase活性を有する緩衝化酵素溶液20 mlを用いて行った。純正藍染めデニム地の布片に対し、50℃で60分間、過剰な機械的ストレス(摩擦)を与えながら処理を行った。セルラーゼの洗濯性能は、標本乾燥後の退色にもとづく得点方式で評価した。色彩測定器やソフトウェアを利用してもよい。“+”以上の値が、良好な擦切れ具合を示す。
【0156】
9. DEAE-Toyopearlイオン交換クロマトグラフィーの溶出タンパク画分Iの更なる精製 脱塩した画分I(25 ml, タンパク含量0.8 g/l)のMaro Prep Q クロマトグラフィーを行った。MacroPrep Q カラム(1.5×10 cm)は0.03 M 酢酸緩衝液(pH4.7)を用いて平衡化し、吸着されたタンパクは0〜0.1 M NaClを用いた濃度勾配溶出により溶出させ、画分I.1、I.2、I.3を得た。pH7におけるマイクロデニム洗濯活性は、画分I.2が最も高く、画分I.3が最も低かった。SDS-PAGEを行ったところ、画分I.2にみられた低分子量タンパク(25 kD)が、画分I.1にはみられなかった。これが、ストーンウォッシュ活性に関連していると考えられる。IEFによると、画分I.1のpIは4.2であったが、画分I.1とI.3はタンパク含量が低過ぎ、これ以上の検討は困難であった。そこで、以降の精製には画分I.2を使用した。
【0157】
次の精製段階では、Mono Pカラムを使用した。画分I.2を0.03 Mイミダゾール緩衝液(pH6.8)で平衡化し、カラムに流した。吸着されたタンパクをpH4.0のPolybuffer 74 (1:8)を用いて溶出したところ、タンパク含量プロファイルと活性プロファイルに2個の主ピークが認められた。ピークAと名付けた最初のピークのCMCase活性(2.5 ユニット/mg)は、ピークBの同活性(3.6 ユニット/mg)に比べて低かった。非変性条件下でポリアクリルアミドゲル電気泳動を行ったところ、ピークAにはタンパクのバンドが2本認められ、コンゴー・レッドを用いた染色により、分子量の高い方のバンドにCMCに対する活性が存在することがわかった。ピークBには、非変性条件下でタンパクのバンドが1本認められた。SDS-PAGEを行ったところ、ピークAには主バンドに該当するタンパクが2種類(60 kDと70 kD)があり、ピークBには主バンドに該当するタンパクが1種類(25 kD)と、小バンドに該当するタンパクが1種類(27 kD)あることがわかった。ピークBから回収された画分を25 kD-endoC1と命名し、以降の検討に用いた。表24に、色々な基質に対する25 kD-endoC1の特異的活性を示す。25 kD-endoC1は、CMCase活性、RBB-CMCase活性、エンドグルカナーゼ活性、FPA活性、アヴィセラーゼ活性、β−グルカナーゼ活性、キシラナーゼ活性を示したが、β−グルコシダーゼ活性は示さなかった。このように様々な活性を併せ持つことから、25 kD-endoC1はエンドグルカナーゼの一種である。CMCase活性とRBB-CMCase活性の最適pHは、約6.0である(表24)。25 kD-endoC1は、高いストーンウォッシュ活性を有していた(木綿の布片を用いたマイクロデニム洗濯試験による)(表24参照)。
【0158】
Mono PカラムからピークAを溶出する間、多数の画分が回収された。これらの画分は、60 kDと70 kD のタンパクの含量比が異なっており、特に、60 kDタンパクが優勢な画分70(60)kD-C1と、70 kDタンパクが優勢な画分70 kD-endoC1の含量比が異なる。色々な基質に対するこれらの画分の特異的活性を、表24に示す。この表から明らかなように、画分70 kD-endoC1(エンドグルカナーゼ活性2.8 U/mg、アヴィセラーゼ活性0.18 U/mg)に比べ、画分70(60)kD-C1は特異的エンドグルカナーゼ活性が低く(0.5 U/mg)、特異的アヴィセラーゼ活性が高かった(0.31 U/mg)が、β−グルコシダーゼ活性は極めて低かった。FP、β−グルカンおよびキシランに対する画分70(60)kD-C1の特異的活性は低く(表24参照)、アヴィセルの加水分解生成物として唯一セロビオースが生成した。画分70(60)kD-C1のストーンウォッシュ活性(木綿布片を用いたマイクロデニム洗濯試験による)は低かった(表24参照)。これらのデータより、DEAE-Toyopearlを用いたイオン交換クロマトグラフィーで得られた画分Iに由来する60 kDタンパクは、セロビオヒドロラーゼであると考えられる。画分70(60)kD-C1の最適pH(CMCおよびRBB-CMCに対して)は、約5.0であった(表24参照)。
【0159】
70kD-endoC1は高いCMCase活性、RBB-CMCase活性、エンドグルカナーゼ活性、FPA活性、β−グルカナーゼ活性およびキシラナーゼ活性を示し、この他に若干のアヴィセラーゼ活性とβ−グルカナーゼ活性を示した(表24参照)。70kD-endoC1は、ストーンウォッシュ活性(木綿布片を用いたマイクロデニム洗濯試験による)も示した(表24参照)。DEAE-Toyopearlを用いたイオン交換クロマトグラフィーで得られた画分Iに由来する70 KD-endoC1タンパクは、エンドグルカナーゼであると考えられる。表24から明らかなように、画分70kD-endoC1のCMCase活性およびRBB-CMCase活性の最適pHは、約6.0であった。
【0160】
10. DEAE-Toyopearlイオン交換クロマトグラフィーの溶出タンパク画分IIの更なる精製 DEAEクロマトグラフィーで得られた画分IIを、DEAE-Toyopearlカラム上で0〜0.2 M NaClを用いたより長時間(8時間以上)にわたる濃度勾配溶出により、更に3つの画分に分けた(画分II.1、II.2、II.3)。SDS-PAGEを行った結果、画分II.1には分子量60 kDと100 kDのタンパクの主バンドが2本あり、画分II.2には分子量35 kD、 60 kDおよび100 kDのタンパクの主バンドが3本あり、さらに、画分II.3には分子量43 kDと60 kDのタンパクの主バンドが2本あった。画分II.3は、CMCase活性が最も高かった(10ユニット/mgタンパク)が、洗濯活性(サブマイクロ洗濯試験による)は低く、またCMCase活性は1ユニット/mgであった。画分II.2は、洗濯活性を示さなかった(但し、CMCase活性は0.7ユニット/mgであった)。そこで、画分II.1とII.3を更に精製することにした。
【0161】
【表24】

【0162】
11. サブマイクロデニム洗濯試験 この試験では、純正藍染めデニムの布片に対し、2 mlの緩衝化酵素溶中、50℃で60分間、過剰な機械的ストレス(摩擦)を与えた。セルラーゼの洗濯性能は、標本乾燥後の退色にもとづく得点方式で評価した。
【0163】
12. 画分II.1の精製 0.03 M 酢酸緩衝液(pH4.75)を用いて平衡化したMacro Prep Q カラムに、画分II.2を流し、吸着されたタンパクをNaCl濃度勾配溶出(0〜0.3 M)により溶出した。タンパクのピークは2つ現れたが、最初のピークにのみCMCase活性が認められた。最初のピークに由来する材料のSDS-PAGEを行ったところ、分子量60 kDと100 kDのタンパクが均一な状態で単離された。IEFにより、60 kDタンパクと100 kDタンパクは、いずれも酸性域に約3のpIを示すことがわかった。色々な基質に対する60 kDタンパクと100 kDタンパクの活性を表24に示す。60 kDタンパクを、60 kD(II.1)-endoC1と表記する。このタンパクは、pH5において、エンドグルカナーゼ活性、CMCase活性、RBB-CMCase活性、FPA活性、β−グルカナーゼ活性を示した(それぞれ0.2, 0.7, 0.9, 0.3および1.3個/mg、表24参照)。アヴィセラーゼ活性、β−グルコシダーゼ活性およびキシラナーゼ活性は、かなり低かった。このように様々な活性を併せ持つことから、60 kD(II.1)-endoC1はエンドグルカナーゼの一種であることがわかる。60 kD(II.1)-endoC1はまた、pH5とpH7のいずれにおいても高い洗浄活性(サブマイクロデニム洗濯試験による)を示した(表24参照)。このタンパクのCMCase活性とRBB-CMCase活性のpH依存性を調べたところ、pH4.0-4.5で最大となり、pH6においてもCMCに対する最大活性の50%、およびRBB-CMCに対する最大活性の85%が維持され、更に、pH9および10においても、これら両最大活性の20%が維持されていた(表25参照)。
【0164】
画分II.2から得られた100 kDタンパクを、100kD(II.1)と表記する。このタンパクは、セルラーゼ活性を殆ど示さなかった(表24)。わずかにCMCase活性(0.3 U/mg)とキシリナーゼ活性(0.008 U/mg)を示したが、セルロース分解性酵素と同定するには至らなかった。サブマイクロ洗濯試験を行ったところ、100 kD(II.1)タンパクはストーンウォッシュ活性を示さず(表24)、また、pH5と7のいずれにおいても何らプロテアーゼ活性を示さなかった。
【0165】
13. 画分II.3の精製 画分II.3も、Macro Prep Q カラムを用いて精製した。吸着されたタンパクは、0.2〜0.6 M NaClを用いた濃度勾配溶出により溶出した(開始緩衝液は、0.03 M酢酸緩衝液、pH4.75)。Macro Prep Qクロマトグラフィーで得られた画分のSDS-PAGEを行ったところ、分子量43 kDと60 kDのタンパクが均一な状態で単離された。IEFにより、43 kDタンパクと60 kDタンパクのpIは、いずれも約3であることがわかった。これら43 kDタンパクと60 kDタンパクを、それぞれ43kD(II.3)-endoC1、60kD(II.3)-endoC1と表記する。色々な基質に対するこれら両タンパクの活性(表24参照)を調べたところ、いずれも同程度の特異的CMCase活性、FPA活性、アヴィセラーゼ活性およびキシラナーゼ活性を有することがわかった。RBB-CMCase活性、エンドグルカナーゼ活性およびFPA活性については、60kD(II.3)-endoC1の方が高かった(表24)。また、43kD(II.3)-endoC1と60kD(II.3)-endoC1のいずれも、pH5におけるストーンウォッシュ活性(サブマイクロデニム洗濯試験による)が非常に低いことも特筆される。しかし、pH7におけるストーンウォッシュ活性については、43kD(II.3)-endoC1も60kD(II.3)-endoC1も顕著であり、43kD(II.3)-endoC1の方が60kD(II.3)-endoC1に比べて高い活性を有していた。表25に示したpH依存性より、43kD(II.3)-endoC1はCMCase活性およびRBB-CMCase活性に関して最適pH範囲が広い(pH4.5〜8)ことがわかる。43kD(II.3)-endoC1は、pH9においても最大CMCase活性の50%、最大RBB-CMCase活性の70%を維持しており、更に、pH10においても、これら両最大活性の20%を維持していた。これとは対照的に、60kD(II.3)-endoC1はCMCに対する最適pH範囲がpH4〜4.5と狭かったが、RBB-CMCに対する最適pH範囲は広く(pH4〜8)、pH9においても最大RBB-CMCase活性の30%を維持していた。
【0166】
ここで開示したタンパクはいずれも、分子量をゲル電気泳動法(特にSDS-PAGE)により決定しており、この方法では分子量既知の標準タンパクをリファレンスに用いている。この種の方法すべてについて言えることであるが、得られた数値は近似的なものであり、別の人物が別の標準タンパクの一揃いをリファレンスに用い、別の異なるゲルで電気泳動を行えば、結果が若干ばらつく可能性はある。
【0167】
このように完全精製、または一部精製された酵素標品は、洗剤、生地柔軟剤、毛羽除去剤、増白剤、ストーンウォッシュ用の各組成物の成分として非常に有用である。よって、本発明によれば、上述の単離精製された酵素標品をこれらの用途に有効に用いることができる。また、これまで述べてきたストーンウォッシュ、生地柔軟化、毛羽除去、増白、洗浄の各方法に加え、これらを達成するための公知の方法においても、上記の完全精製酵素標品、一部精製酵素標品、あるいはこれらを含む組成物を、上記の方法の目的を達成するための主成分または添加剤として容易に適用することができる。これらの用途における他の異なる完全精製酵素標品や一部精製酵素標品の応用については公知であり、多くの酵素が実用化されている。
【0168】
【表25】

【0169】
上述の中性および/またはアルカリ性セルラーゼの活性は、活性測定に用いる基質の化学構造や活性測定の独自の分析手法に応じて変化し得ると理解すべきである。つまり、完全精製または一部精製された中性および/またはアルカリ性セルラーゼは、分析手法や使用基質によってpH/活性プロファイルが変化する。本実施例の方法により調製された実質純粋なセルラーゼの活性や性質に関する混乱を避けるために、以下、完全精製画分のセルラーゼに関して測定された活性や性質についてのみ述べることとする。
【0170】
ここで調製された完全精製または一部精製酵素標品は、適当な基質を使用した際に、エンドグルカナーゼ活性および/またはセロビオヒドロラーゼ活性を示した。また、エンドグルカナーゼ活性を示した酵素標品はすべて、pIが約3〜約4.5の範囲にあった。より具体的には、これらの画分には下記のような分子量とpI値を有するセルラーゼ(エンドグルカナーゼ)が含まれていた。即ち、分子量約25 kD(pI約4.0)、分子量約70 kD(pI約4.2)、分子量約60 kD(pI約3.0)、および分子量約43 kD(pI約3.1)である。これらのセルラーゼ画分には、セロビオヒドロラーゼ活性を有するタンパクも含まれていた。より具体的には、後者のタンパクの分子量は約60 kD、pIは約4.2であった。
【0171】
本発明の組成物と精製酵素を用いる方法については、多数の特許公報も含め、過去の文献に開示されており、ここではその開示内容を引用する。特許文献21の特許には、セルラーゼ酵素、あるいは界面活性剤その他の添加剤を加えたセルラーゼ酵素含有組成物を、水性洗濯料、洗剤組成物、色持ちおよび/または色回復改善剤に使用したり、あるいは特に綿混紡生地の柔軟性や風合いの改善剤として使用することが開示されている。本発明のセルラーゼ酵素およびセルラーゼ含有組成物も、同様の用途を想定しており、個々の説明は、全てではないにしても、幾多の引用文献に記載されている。さらに、ざらつき低減や生地柔軟化といった用途におけるセルラーゼ酵素および組成物の有用性については、特許文献12が既に提案している。この特許には、アルカリpH域における菌産生セルラーゼ(但し、クリソスポリウム属に由来するものではない)の使用が開示されている。また、本発明に係る新規なセルラーゼおよびセルラーゼ組成物と併用した様々な添加剤についても言及され、ざらつき低減または生地柔軟化と洗濯とが1回の操作で可能となることが開示されている。本発明のセルラーゼ酵素およびセルラーゼ含有組成物も同様に有用であり、これらの用途に関する特許文献12の言及は本発明にも当てはまる。さらに、本発明の新規なセルラーゼおよびセルラーゼ含有組成物とは異なるセルラーゼおよびセルラーゼ含有組成物を増白に応用した例が、特許文献14に開示されており、その記述も本発明に本質的に当てはまる。
【0172】
勿論、本発明の新規なセルラーゼ酵素およびセルラーゼ含有組成物が、以前の参照文献に開示された用途と同じ用途において有用であることは当業者にとって自明であり、これらの応用例についてさらに詳述するまでもない。しかし、これら完全精製または一部精製酵素標品、および酵素含有組成物は、紙・パルプ材料のインク抜きやバイオ漂白にも有用であり、これらを実施する方法についても、本明細書の記載から当業者にとって自明である。
【実施例13】
【0173】
60リットル容バッチ発酵槽を用いたC-1セルラーゼの生産
1. 接種材料の調製
バッチ発酵用の接種材料または発端培養物は、下記のように調製した。先ず、C-1胞子培養液1 mlを2個のフラスコの各々に接種し、計2.0リットルの接種材料を調製する。発端培養物は、150 rpmにて30℃で56時間、インキュベートした。
【0174】
【表26】

【0175】
2. 60リットル容バッチ発酵槽を用いたセルラーゼの生産(47.0325の調製)
震盪フラスコで調製された2リットルの上記培養物を、60リットル容発酵槽内で40リットルの培地に接種した。発酵用培地の組成は、下記の通りである。
【0176】
【表27】

【0177】
3. セルラーゼ活性の回収
ブフナー漏斗にWhatman54濾紙、および濾材として10 g/LのCelite 503を装填し、発酵培養物中の懸濁固形物を濾過により取り除いた。濾液を集め、10,000 MWカットオフ型中空繊維フィルターを用いた限外濾過を行ってセルラーゼを濃縮した。濃縮液を凍結乾燥した。乾燥濃縮物を、セルラーゼ標品47.0325と命名した。この標品の活性を、表4に示す。
【実施例14】
【0178】
C-1の変異株を発生させるための変異手順
C1株の胞子形成培養物を含むPridham 寒天プレート(酵母エキス4 g/L、麦芽エキス10 g/L、ブドウ糖10 g/L、寒天15 g/L)を用いて、胞子懸濁液を調製した。プレートに10 mlの0.05% Tween 80を満たした。懸濁液をねじ蓋付きの滅菌試験管に移し、ボルテックス・ミキサーを「強」にセットして1分間攪拌した。次に、懸濁液をカラムで濾過し、菌糸体を除去した。胞子数を数え、水1 ml当たりの胞子数が7×106個となるように希釈した。この胞子懸濁液の10 mlに対し、Pen-Ray 紫外線ランプの光を720 μWatt/cm2にて75秒間照射した。照射期間中を通じ、滅菌したペーパークリップを磁気攪拌子代わりに用い、胞子懸濁液を穏やかに攪拌した。照射後、胞子懸濁液をアルミホイルで包んだ試験管に移し、水で希釈し、減光下、下記のNH4最小培地で培養した。30℃で20日間インキュベーションを行ったところ、大きなコロニーが認められ、コロニーの周囲には広範囲にわたってセルロースが透明化した領域が存在していた。
【0179】
【表28】

【実施例15】
【0180】
60リットル容バッチ発酵槽を用いたC-1変異セルラーゼの生産(47.0528の調製)
1. 接種材料の調製
バッチ発酵用の発端培養物は、実施例13(第1節)と同様に調製した。
【0181】
2. 60リットル容バッチ発酵槽を用いたセルラーゼの生産
2リットルの上記培養物を、下記のようにして40リットルの培地に接種した。
【0182】
【表29】

【0183】
3. 発酵条件
pH は約7.0に保ち、pHをNH3を用いて6.9より高く保ち、H2SO4を用いて7.1より低く保った。恒温時間は87時間とし、必要に応じて震盪と曝気を行い、溶存酸素量を飽和量の30%より高く保った。40時間後、下記の培養液を5分毎に5.0 mlずつ、計3.0リットル添加した。
【0184】
【表30】

【0185】
4. セルラーゼ活性の回収
ブフナー漏斗にWhatman54濾紙、および濾材として10 g/LのCelite 503を装填し、懸濁固形物を濾過により取り除いた。濾液を集め、10,000 MWカットオフ型中空繊維フィルターを用いた限外濾過を行ってセルラーゼを濃縮した。濃縮液は、凍結乾燥法により乾燥した。濃縮物を、セルラーゼ調製47.0528と命名した(活性は表4に示す)。
【実施例16】
【0186】
セラジメ分析によるセルラーゼ活性分析
この分析は、Megazyme Pty.Ltd.社(シドニー, NSW2101,オーストラリア)製の セラジメCタブレットと分析キットを用いて行った。使用した基質はアズリン架橋型HE-セルロース(AZCL-セルロース)であり、Cellazyme Cタブレットとして市販されており、購入後すぐに使用できる。概略を述べると、0.025 M酢酸緩衝液(pH4.5)に溶解した酵素標品(必要に応じ希釈)0.5 mlをガラス製試験管(16×122 mm)に入れ、40℃で5分間、平衡化した。Cellazyme Cタブレットを添加して、試験反応を開始させる(攪拌は行わない)。40℃で正確に10秒後、Trizma Base溶液(10.0 mL, 2% w/v, Sigma Chemical Co.,ミズーリ州セントルイス)を添加して反応を停止させ、ボルテックス・ミキサーで攪拌した。試験管を室温に約5分間放置した後、スラリーを再び攪拌し、Whatman No.1濾紙(直径9 cm)を用いて濾過し、濾液の590nmにおける吸光度を測定した。吸光度の測定は、ブランクを用いて行った。ブランクには、基質と酵素が共に含まれているが、Cellazyme Cタブレットを添加する前にTrizma Baseを添加している。このスラリーは、40℃ではなく、室温に保った。各測定ごとにブランクは1種類を使用し、分光器のゼロ点調整に利用した。
【0187】
この分析では、酵素活性1ユニットとは、指定の分析条件下において、1分間に1マイクロモルのグルコース還元糖を放出させるのに必要な酵素量と定義される。続いて、エンドセルラーゼ活性を標準曲線にもとづいて求めた(標本曲線はキットに添付されているが、ある一連の実験において酵素の種類、酵素の希釈率、条件を変更した場合には、容易に自作することもできる)。
【0188】
この分析法により、本発明者らの中性/アルカリ酵素活性を測定したところ、pH7における活性を100%とした場合のエンドセルラーゼ活性は、92.4%(pH6)、75.6%(pH5.0)および69.7%(pH4.0)であった。
実施例17 … 毛羽除去および増白(退色防止)のための洗剤洗濯試験
この試験は、AATCC技術マニュアル1997(1995年改訂)に収載の“家庭洗濯試験条件の標準化”と題するAATCCモノグラフに準拠して行った。ここでは、Kenmore社製の標準トップローディング型の洗濯機とKenmore社製の家庭用衣類乾燥機を使用した。試験衣類として、大人サイズの赤色の靴下(綿88%、ポリエステル10%、ライクラ2%)でスタイルの異なる3種類(平リブ編み、厚手リブ編み、ワッフル織り)を用いた。ソックスは3グループに分け、各グループには各スタイルを同数割り当て、各スタイルの未洗濯品を対照用とした。各グループの概略重量は1 kgであった。
【0189】
洗剤の標本は、洗濯開始前に次のようにして調製した。a) 手を加えない状態のCheer Triple Guard (米国内で購入、通常アルカリpH域)(Cheerに元来含まれるセルラーゼの毛羽防止効果と色持ち効果を調べるため)、b) Cheerの標本を加熱して元来含まれている酵素を全て失活させる(Cheerの性能を、酵素以外の成分に限定するため)。失活は、Cheerの標本40gを水200 mlに懸濁し、家庭用電子レンジの高出力側(1000 W)で5分間加熱することにより行い、このときの最終到達温度は95℃であった。次に、上記(a)、(b)に5gのC1を添加した標品を同様に調製した。
【0190】
各グループについて、洗濯/乾燥サイクルを25回ずつ繰り返した。各グループについては、25回の洗濯サイクル全体を通じて常に、20リットルの洗濯液(洗濯機内の水位は「低」)に対して1 kgの衣類を使用し、上記の洗剤標品のいずれか1種類を40gを投入した。温度は「高−高」にセットし、洗濯時間は30分とし、その後の脱水は通常の高速遠心脱水により行った。乾燥機温度は「高」にセットし、乾燥サイクルは45分間とした。25回洗濯後に実験を終了した。衣類の検査に当たっては、当業者の数グループ/審査員が毛羽除去と増白の度合いを評価した。
【0191】
手順の概略は、下記の通りである。
【0192】
【表31】

【0193】
各洗濯グループの結果の等級付けは、次の通り(3種類のスタイルのソックスは全て同じ評価であった)。
【0194】
【表32】

【0195】
なお、以上述べた実施例は単に例示を目的としたものであり、これらに照らして当業者が容易に想到し得る様々な変形や変更も、本出願の趣旨および範囲、並びに特許請求の範囲に含まれるものと理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
60℃の温度とpH7で最適な中性セルラーゼ活性を有する組成物であって、適正な培地で培養でクリソスポリウム属の野生型又は変異体の菌類を成長させることを含む方法によって分離され、分子量25kDを有し、前記野生型又は変異体の菌類に由来する核酸配列によってアミノ酸配列がコードされたセルラーゼを有する組成物。

【公開番号】特開2012−147801(P2012−147801A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−111665(P2012−111665)
【出願日】平成24年5月15日(2012.5.15)
【分割の表示】特願2008−284868(P2008−284868)の分割
【原出願日】平成9年9月30日(1997.9.30)
【出願人】(509033686)ダイアディック インターナショナル (ユー・エス・エー) インコーポレイティッド (1)
【Fターム(参考)】