説明

クリーナ材

【課題】ホワイトボードのように頻繁に記入と消去を繰り返すボードにおいて、かかれた文字や絵を容易に綺麗に、かつ拭取り時に加わる力を受けても大きく変形することなく消去可能であり、表層が汚れたらこれを剥離しその下の層を用いる事で再度綺麗に消去可能なクリーナ材を提供する。
【解決手段】 湿熱接着性繊維を含む2層以上の不織繊維層が湿熱接着繊維の接着により積層してなる不織繊維構造体であって、この不織繊維層の厚さが0.2〜2mmであるとともに、各層が剥離可能であるとともに層間剥離強度が0.2〜20N/5cmの範囲にある積層体からなるクリーナ材を提供する。また高温水蒸気によって湿熱接着性繊維を接着する工程を含むクリーナ材の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホワイトボードや黒板のように頻繁に記入と消去を繰り返すためのボード上の記入事項の消去およびボードの清掃で使用するクリーナ材に関する。
【背景技術】
【0002】
ホワイトボード用のクリーナ材は、発泡体を芯材とし、これをパイル織物等の表面材で覆ったものが一般的である。しかしながら、このような構造のクリーナはホワイトボードに書かれた文字を消したとき、表面材にインクが付着し、何度も使用しているうちに表面材に蓄積した汚れのために、ホワイトボードを綺麗に拭取れなくなるため、交換が必要となる。
【0003】
また、一般的な織物、不織繊維、紙等のシートで拭取り、使い捨てする事も可能であるが、シートを直接手で持って拭取るには、面で拭取る事が難しいし、これらを芯材に固定して使用したのでは一般のクリーナ材を使用する場合と同様、汚れが蓄積するたびに交換が必要になる。
【0004】
そこで、特許文献1には片面に接着剤を塗布して粘着加工した不織繊維シートを数枚重ねて積層したものをスポンジに貼付し、使用により汚れた時は一枚づつ剥がしてその都度綺麗なシートがあらわれるようにしたホワイトボードイレーサが提案されている。しかしながら、シートを接着剤で固定した場合、接着剤がシート内にしみ込んでしまうと、繊維が固定されてシートが硬くなってしまい、ボードを拭いたときに綺麗に拭取れなくなる。また、接着剤がしみ込まなくとも、使用後汚れて不要になった表面シートをはがしたときに、その接着剤が、次の新しいシートに転写し、同じく拭き取り難くなる可能性が高い。
更には、良好な拭取り性を有する柔軟なシートを多数積層した場合、その部分が非常に柔らかく、力を加えてしっかり拭取ろうとした場合に変形してしまうため拭取り難い。
【0005】
また特許文献2においては、筒状の拭取り布が芯体の周囲に回転自在に取付けられていることで、この拭取り布を回転する事で継続して綺麗に黒板を消す事が可能な拭取り体が提案されている。しかしながら、拭取り部分を動くようにすると、ボードを拭取る時に、拭取り部も動いてしまい拭取り難くなる。また、このようなときには拭取り部が動かないような構造にする事も可能であるが、構造が複雑なため取り扱い難くなる可能性がある。また、回転体にしただけでは、多くの拭取り面積を確保することは難しく、従来の2〜3倍程度である。
【特許文献1】特開平7−242098号公報
【特許文献2】特開2001−47794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の背景技術を鑑みて、本発明の目的は、ホワイトボードにかかれた文字や絵などを安定に拭取れ、この拭取り後の粉末を散乱させる事なく表層に確保すると共に、拭取り面が汚れて綺麗に拭取る事が困難になってきたときには、表層を剥離し、この表層のみを廃棄し、剥離により新たに現れた拭取り面を用いて同様に拭取りが可能となるクリーナ材を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、形状を保持するための芯材等と組み合わせることなく良好に拭取り可能なクリーナ材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、繊維が湿熱接着性繊維により接着された不織繊維層同士が、この表面の湿熱接着繊維の接着により積層固定することで構成された不織繊維構造体をクリーナ材として用いることで、拭取り時の応力により形態が崩れることない形態安定性を有すると共に、圧縮に対する適度な硬さ(柔軟性)を有する事で優れた拭取り性を有し、拭取りにより汚れた層を剥離除去する事で順次綺麗な拭き取り層を表面に現し、この層が同様な優れた拭取り性を再現することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の請求項1に記載の発明は湿熱接着性繊維を含む2層以上の不織繊維層が湿熱接着繊維の接着により積層してなる不織繊維構造体であって、この不織繊維層の厚さが0.2〜2mmであるとともに、各層が剥離可能であるとともに層間剥離強度が0.2〜20N/5cmの範囲にある積層体からなるクリーナ材である。
【0010】
また本発明の請求項2に記載の発明は5mm以上の厚さを有し、厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率がいずれも40%以下であり、かつ各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合が50%以上である請求項1記載のクリーナ材である。
【0011】
また本発明の請求項3に記載の発明は0.03〜0.15g/cm3の見掛け密度を有するとともに、FOタイプのデュロメータ硬さが50〜90の範囲にある請求項1又は2記載のクリーナ材である。
【0012】
また本発明の請求項4に記載の発明は少なくとも一方向における最大曲げ応力が0.05MPa以上であり、最大曲げ応力を示す曲げ量に対して1.5倍の曲げ量における曲げ応力が、最大曲げ応力に対して1/5以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のクリーナ材である。
【0013】
また本発明の請求項5に記載の発明は湿熱接着性繊維を含む繊維をウェブ化する工程と、このウェブを構成する繊維を高温水蒸気で加熱処理することで接着および/または交絡させて不織繊維層を形成する工程と、これら不織繊維層を2層以上積層し、高温水蒸気で加熱処理して不織繊維層内の繊維を更に融着するとともに不織繊維層間の繊維を融着することで積層された不織繊維積層体、すなわち不織繊維構造体を得る工程と必要に応じて、該不織繊維構造体の表面および/又は不織繊維構造体全体を成形する工程を含むクリーナ材の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のクリーナ材は、主にホワイトボードに書かれた文字や図を簡便に極めて多くの回数に渡って綺麗に消去するのに利用できる。本発明は、湿熱接着性繊維により繊維同士がお互いに接着固定された不織繊維層をその表層同士が剥離可能なように、適度に接着することで積層した不織繊維構造体からなり、ホワイトボードに書かれた文字や絵を綺麗に拭取るとともに、この時発生するホワイトボードマーカーのインクダストを不織繊維構造体表面に取り込み繊維間に保持する事で、周囲に撒き散らし難いクリーナ材である。更に、繰り返し拭取ることで表面が汚れてきたら表面層を剥離・廃棄し、剥離により現れた新しい面で再び綺麗に拭取りが可能になるクリーナ材である。更にこの不織繊維構造体はボードを拭取る際の力をかけても、概ね形を維持する形態安定性を有すると共に、拭取り面がボードに密着出来る程度に圧縮変形可能であるため、そして、本発明のクリーナ材は厚さ方向に均一に各層を維持するよう、均一な接着点で各層を固定するため、多数層に渡る厚い層を確保しながらも、充分な形態安定性を有しているため、強く消してもクリーナ材の積層構造が崩れることなく安定に拭取りが可能であるため、クリーナ材の形態を保持するための芯材やカバー材も省略可能である。さらに、このクリーナ材は、実質的に繊維のみで構成でき、ケミカルバインダーや特殊薬剤を添加する必要がないため、有害成分(ホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物など)を発生させる成分を用いることなく、簡便に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[クリーナ材]
本発明のクリーナ材は、実質的に繊維のみで構成されており、湿熱接着性繊維を含み、かつ不織繊維構造を有している。湿熱接着性繊維が面方向に沿って略平行に配向した板状成形体で構成されていてもよい。特に、本発明のクリーナ材は、前記湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された不織繊維層およびこの層を積層してできた不織繊維構造体からなり、拭取り面に繊維が密着できる柔軟性とこの繊維の掻き取り効果により得られる高い拭取り性を有するとともに、クリーナ表面が汚れて拭取り性低下した場合には、表面層を剥離除去し、綺麗な拭取り面に変えることで優れた拭取り性を維持できるため、従来のクリーナに比べて極めて長い期間連続して使用可能にしたクリーナ材である。そして、不織繊維層および不織繊維構造体を構成する繊維の配列と、この繊維同士の接着状態を所定の範囲とすることにより、圧縮に対する適度な柔軟性すなわち「表面硬さ」により、拭取り面に荷重をかける事でホワイトボード表面に不織繊維構造体が密着するため、一度で綺麗に拭取ることが容易になる。更には、通常の不織繊維では得られない形態安定性、すなわち「曲げ挙動(高い曲げ応力を有し、また最大曲げ応力を示す地点を過ぎてさらに曲げても応力を保持するとともに、応力を解除すると復元しようとする挙動)」をも兼ね備えているため、拭取り時の応力に芯材等に保持させる必要もない。
【0016】
このようなクリーナ材は、後述するように、前記湿熱接着性繊維を含むウェブに高温(過熱又は加熱)水蒸気を作用させて、湿熱接着性繊維の融点以下の温度で繊維同士を部分的に接着させた不織繊維層と、次にこれら不織繊維層を必要な枚数重ねた状態で、最初と同等或いはこれよりも低圧の高温水蒸気を作用させ、重ねた不織繊維層全体に蒸気を行き渡らせる事で、厚さ方向に概ね均一に不織繊維層表面の繊維同士が融着し、厚さ方向全域に亘り概ね均一な層間の剥離強度を有すると共に、少ない接着点でクリーナ材の形態保持性と圧縮に対する適度な柔軟性が得られるのである。
【0017】
湿熱接着性繊維を含む不織繊維層は少なくとも2層以上であり、クリーナ材の持ちやすさや繰り返し使用性の観点から望ましくは5層以上であり、更に望ましくは10層以上であり、20層以上であってもよい。また耐久性の観点から500層以下であることが望ましい。それぞれの不織繊維層の厚さは0.2〜2mmであり、好ましくは0.4〜1.8mmであり、更に好ましくは0.6〜1.6mmである。各層の厚さは同じであっても異なっていても良いが、同じであるか周期的に変化していることが外観上好ましい。不織繊維層を積層したクリーナ材全体の厚さは0.4mm以上であり、持ちやすさの観点から1〜15cmの範囲であることが望ましく、3〜12cmの範囲であることが更に望ましく、5〜10cmの範囲であることが最も望ましい。層間剥離強度は0.2〜20N/5cmの範囲にあり、好ましくは0.4〜15N/5cmであり、更に好ましくは0.6〜10N/5cmである。本発明のクリーナ材の形状は通常角柱状、円柱状などであり、平行に形成された繊維不織布層と平行な2面を主面とし、主面と垂直な側面を有する形状であることが、耐久性などの面で望ましい。主面の形状は特に制限はないが、耐久性の面から、45度未満の頂角を有さないことが望ましく、60度未満の頂角を有さないことが更に望ましく、90度未満の頂角を有さないことが更に望ましい。また、円状、楕円状、菊花紋状など曲面のみからなることも望ましい。また半円状、扇形状など、曲線と直線の両方からなってもよい。また主面形状が少なくとも一つの対称軸を有することは外観状好ましく、また持ち手や持つ方向と持ちやすさの依存性が低下するので好ましい。また、非対称形からなることで右手または左手のどちらかでのみ持ちやすい形状とすることもできる。主面のサイズは特に制限はないが、直径2〜18cmの内接円を描けるサイズであることが望ましく、該内接円の直径が3〜15cmであることが更に望ましく、5〜12cmであることが更に望ましい。主面の面積は10〜300cmであることが望ましく、20〜250cmであることが更に望ましく、30〜200cmであることが更に望ましい。ただし片方の主面に持ち手部分を付加することで主面サイズは更に大きなものであっても良い。主面の面積(cm)と厚さ(cm)の比は0.5〜300(cm)の範囲であることが望ましく、3〜250(cm)の範囲であることが更に望ましく、10〜200(cm)の範囲であることが更に望ましい。
【0018】
(湿熱接着性繊維)
湿熱接着性繊維は、少なくとも湿熱接着性樹脂で構成されている。湿熱接着性樹脂は、高温水蒸気によって容易に実現可能な温度において、流動又は容易に変形して接着機能を発現可能であればよい。具体的には、熱水(例えば、80〜120℃、特に95〜100℃程度)で軟化して自己接着又は他の繊維に接着可能な熱可塑性樹脂、例えば、セルロース系樹脂(メチルセルロースなどのC1-3アルキルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのヒドロキシC1-3アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシC1-3アルキルセルロース又はその塩など)、ポリアルキレングリコール樹脂(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリC2-4アルキレンオキサイドなど)、ポリビニル系樹脂(ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ビニルアルコール系重合体、ポリビニルアセタールなど)、アクリル系共重合体およびそのアルカリ金属塩[(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミドなどのアクリル系単量体で構成された単位を含む共重合体又はその塩など]、変性ビニル系共重合体(イソブチレン、スチレン、エチレン、ビニルエーテルなどのビニル系単量体と、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸又はその無水物との共重合体又はその塩など)、親水性の置換基を導入したポリマー(スルホン酸基やカルボキシル基、ヒドロキシル基などを導入したポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン又はその塩など)、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸系樹脂など)などが挙げられる。さらに、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマー又はゴム(スチレン系エラストマーなど)などのうち、熱水(高温水蒸気)の温度で軟化して接着機能を発現可能な樹脂も含まれる。
【0019】
これらの湿熱接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。湿熱接着性樹脂は、通常、親水性又は水溶性高分子で構成される。これらの湿熱接着性樹脂のうち、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系重合体、ポリ乳酸などのポリ乳酸系樹脂、(メタ)アクリルアミド単位を含む(メタ)アクリル系共重合体、特に、エチレンやプロピレンなどのα−C2-10オレフィン単位を含むビニルアルコール系重合体、特に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が好ましい。
【0020】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体において、エチレン単位の含有量(共重合割合)は、例えば、10〜60モル%、好ましくは20〜55モル%、さらに好ましくは30〜50モル%程度である。エチレン単位がこの範囲にあることにより、湿熱接着性を有するが、熱水溶解性はないという特異な性質が得られる。エチレン単位の割合が少なすぎると、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が、低温の蒸気(水)で容易に膨潤又はゲル化し、水に一度濡れただけで形態が変化し易い。一方、エチレン単位の割合が多すぎると、吸湿性が低下し、湿熱による繊維融着が発現し難くなるため、実用性のある強度の確保が困難となる。エチレン単位の割合が、特に30〜50モル%の範囲にあると、シート又は板状への加工性が特に優れる。
【0021】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体におけるビニルアルコール単位のケン化度は、例えば、90〜99.99モル%程度であり、好ましくは95〜99.98モル%、さらに好ましくは96〜99.97モル%程度である。ケン化度が小さすぎると、熱安定性が低下し、熱分解やゲル化によって安定性が低下する。一方、ケン化度が大きすぎると、繊維自体の製造が困難となる。
【0022】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体の粘度平均重合度は、必要に応じて選択できるが、例えば、200〜2500、好ましくは300〜2000、さらに好ましくは400〜1500程度である。重合度がこの範囲にあると、紡糸性と湿熱接着性とのバランスに優れる。
【0023】
湿熱接着性繊維の横断面形状(繊維の長さ方向に垂直な断面形状)は、一般的な中実断面形状である丸型断面や異型断面[偏平状、楕円状、多角形状、3〜14葉状、T字状、H字状、V字状、ドッグボーン(I字状)など]に限定されず、中空断面状などであってもよい。湿熱接着性繊維は、少なくとも湿熱接着性樹脂を含む複数の樹脂で構成された複合繊維であってもよい。複合繊維は、湿熱接着性樹脂を少なくとも繊維表面の一部に有していればよいが、接着性の点から、湿熱接着性樹脂が表面の少なくとも一部を長さ方向に連続して占めるのが好ましい。
【0024】
湿熱接着性繊維が表面を占める複合繊維の横断面構造としては、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型又は多層貼合型、放射状貼合型、ランダム複合型などが挙げられる。これらの横断面構造のうち、接着性が高い構造である点から、湿熱接着性樹脂が全表面を長さ方向に連続して占める構造である芯鞘型構造(すなわち、鞘部が湿熱接着性樹脂で構成された芯鞘型構造)が好ましい。
【0025】
複合繊維の場合、湿熱接着性樹脂同士を組み合わせてもよいが、非湿熱接着性樹脂と組み合わせてもよい。非湿熱接着性樹脂としては、非水溶性又は疎水性樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの非湿熱接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0026】
これらの非湿熱接着性樹脂のうち、耐熱性及び寸法安定性の点から、融点が湿熱接着性樹脂(特にエチレン−ビニルアルコール系共重合体)よりも高い樹脂、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、特に、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点から、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。
【0027】
ポリエステル系樹脂としては、ポリC2−4アルキレンアリレート系樹脂などの芳香族ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、特に、PETなどのポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましい。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、エチレンテレフタレート単位の他に、他のジカルボン酸(例えば、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、フタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、ビス(カルボキシフェニル)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸など)やジオール(例えば、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど)で構成された単位を20モル%以下程度の割合で含んでいてもよい。
【0028】
ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド12、ポリアミド6−12などの脂肪族ポリアミドおよびその共重合体、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから合成された半芳香族ポリアミドなどが好ましい。これらのポリアミド系樹脂にも、共重合可能な他の単位が含まれていてもよい。
【0029】
湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂(繊維形成性重合体)とで構成された複合繊維の場合、両者の割合(質量比)は、構造(例えば、芯鞘型構造)に応じて選択でき、湿熱接着性樹脂が表面に存在すれば特に限定されないが、例えば、湿熱接着性樹脂/非湿熱接着性樹脂=90/10〜10/90(例えば、60/40〜10/90)、好ましくは80/20〜15/85、さらに好ましくは60/40〜20/80程度である。湿熱接着性樹脂の割合が多すぎると、繊維の強度を確保し難く、湿熱接着性樹脂の割合が少なすぎると、繊維表面の長さ方向に連続して湿熱接着性樹脂を存在させるのが困難となり、湿熱接着性が低下する。この傾向は、湿熱接着性樹脂を非湿熱接着性繊維の表面にコートする場合においても同様である。
【0030】
湿熱接着性繊維の平均繊度は、用途に応じて、例えば、0.01〜100dtex程度の範囲から選択でき、好ましくは0.1〜50dtex、さらに好ましくは0.5〜30dtex(特に1〜10dtex)程度である。平均繊度がこの範囲にあると、繊維の強度と湿熱接着性の発現とのバランスに優れる。
【0031】
湿熱接着性繊維の平均繊維長は、例えば、10〜100mm程度の範囲から選択でき、好ましくは20〜80mm、さらに好ましくは25〜75mm(特に35〜55mm)程度である。平均繊維長がこの範囲にあると、繊維が充分に絡み合うため、成形体の機械的強度が向上する。
【0032】
湿熱接着性繊維の捲縮率は、例えば、1〜50%、好ましくは3〜40%、さらに好ましくは5〜30%(特に10〜20%)程度である。また、捲縮数は、例えば、1〜100個/25mm、好ましくは5〜50個/25mm、さらに好ましくは10〜30個/25mm程度である。
【0033】
(他の繊維)
本発明のクリーナ材は、さらに非湿熱接着性繊維を含んでいてもよい。非湿熱接着性繊維としては、ポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などの芳香族ポリエステル繊維など)、ポリアミド系繊維(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612などの脂肪族ポリアミド系繊維、半芳香族ポリアミド系繊維、ポリフェニレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリp−フェニレンテレフタルアミドなどの芳香族ポリアミド系繊維など)、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリC2-4オレフィン繊維など)、アクリル系繊維(アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体などのアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系繊維など)、ポリビニル系繊維(ポリビニルアセタール系繊維など)、ポリ塩化ビニル系繊維(ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体の繊維など)、ポリ塩化ビニリデン系繊維(塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体などの繊維)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、セルロース系繊維(例えば、レーヨン繊維、アセテート繊維など)などが挙げられる。これらの非湿熱接着性繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0034】
非湿熱接着性繊維の平均繊度及び平均繊維長は、湿熱接着性繊維と同様である。
【0035】
湿熱接着性繊維と非湿熱接着性繊維との割合(質量比)は、クリーナ材の拭取り性を確保する意味から、湿熱接着性繊維/非湿熱接着性繊維=100/0〜30/70、好ましくは100/0〜50/50、さらに好ましくは90/10〜60/40程度である。湿熱接着性繊維の割合がこの範囲にあると、良好な拭取り性を確保するために必要な、拭取り時の形態安定性と圧縮に対する柔軟性を両立しやすい。
【0036】
成形体(又は繊維)は、さらに、慣用の添加剤、例えば、安定剤(銅化合物などの熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、分散剤、微粒子、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤は、成形体表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
【0037】
(クリーナ材の特性)
本発明のクリーナ材は、前記繊維で構成されたウェブから得られる不織繊維層を積層し、この不織繊維層が必要な時に容易に剥離可能であると共に、必要な拭取り性を確保可能な柔軟性と形態安定性を両立する不織繊維構造体であり、その形状は用途に応じて選択でき、断面円形又は楕円形状、多角形状であってもよいが、通常、シート状又は板状である。
【0038】
本発明のクリーナ材において、最表層の拭取り面が汚れて拭取りに支障が出てきたときに、この層を剥離除去して、その下の綺麗な層を新たな拭き取り層として使用可能であることが必要である。しかも、本クリーナ材単体で拭取ろうとする場合に、拭取りのためにボードに押し付けた力により適度に変形しながら接触し、ボード上を滑りながら面で拭取りが行えるような圧縮に対する柔軟性と、一方で、その拭取るためにかけた力により拭取りに支障をきたすような変形がなくボード上を平行に滑らせることが可能な程度に、適度な曲げ剛性(形態安定性)をバランスよく備えていることが必要である。
このためには、前記不織繊維層を構成する繊維の配列状態及び接着状態が適度に調整されていることも必要である。すなわち、繊維ウェブを構成する繊維が、概ね繊維ウェブ(不織繊維)面に対して平行に配列しながら、お互いに交差するように配列させるのが望ましい。そして、これら不織繊維層が積層され不織繊維構造体を形成する事から、不織繊維構造体全体としても同様に構成する繊維が、概ね繊維ウェブ(不織繊維)面に対して平行に配列しながら、お互いに交差するように配列させるのが望ましい。
そして、クリーナ材を構成する不織繊維構造体全体において各繊維が交差した交点で融着しているのが好ましい。少ない融着点数で形態安定性を確保する意味で、交点以外の繊維が略平行に並んでいる部分において、数本〜数十本程度で束状に融着した束状融着繊維を形成していてもよい。これらの繊維が、単繊維同士の交点、束状繊維同士の交点、又は単繊維と束状繊維との交点において融着した構造を部分的に形成することにより、「スクラム」を組んだような構造繊維が交点部で接着し、網目のように絡み合った構造、又は交点で繊維が接着し隣接する繊維を互いに拘束する構造)とし、目的とする曲げ挙動や圧縮に対する柔軟性などを発現させることができる。本発明では、このような構造が、不織繊維層および不織繊維構造体の面方向及び厚み方向に沿って概ね均一に分布するような形態とするのが望ましい。
【0039】
ここでいう「概ね繊維ウェブ面に対し平行に配列している」とは、局部的に多数の繊維が厚み方向に沿って配列している部分が繰り返し存在するようなことがない状態を示す。より具体的には、成形体の繊維ウェブにおける任意の断面を顕微鏡観察した際に、繊維ウェブでの厚みの30%以上に亘り、厚み方向に連続して延びる繊維の存在割合(本数割合)が、その断面における全繊維に対して10%以下(特に5%以下)である状態をいう。
【0040】
本発明のクリーナ材は、繊維の方向をウェブの面方向に沿って平行に並べ、分散させる(又は繊維方向をランダム方向に向ける)ことにより、拭取り時に面方向に並んだ繊維の掻き取り効果によりボード上の文字や絵を綺麗に拭取ると共に繊維同士がお互いに交差し、その交点で接着することにより、小さな空隙を生じ、この空隙により、拭取り時にクリーナが適度に圧縮され変形してボード表面に沿い、密着するため、更に綺麗に拭取る事が可能になるのである。
【0041】
そして、繊維を繊維ウェブ面に対して平行に配向させることにより、拭取りにより表面層が汚れた場合に、この層を剥離し、新しい綺麗な面を表面にする事が容易に可能になる。
【0042】
本発明のクリーナ材単体で拭取ろうとする場合に、優れた拭取り性を確保するために必要な柔軟性と曲げ剛性(形態安定性)をバランスよく備えていることが必要であり、このために不織繊維構造を構成する繊維が前記湿熱接着性繊維の融着により繊維接着率が、例えば、40%以下(例えば、1〜40%)、好ましくは3〜35%、さらに好ましくは5〜30%(特に10〜25%)程度で接着されている。本発明における繊維接着率は、後述する実施例に記載の方法で測定できるが、不織繊維断面における全繊維の断面数に対して、2本以上接着した繊維の断面数の割合を示す。従って、繊維接着率が低いことは、複数の繊維同士が融着する割合(集束して融着した繊維の割合)が少ないことを意味する。
【0043】
そして、不織繊維構造を構成する繊維は、各々の繊維の接点で接着しているが、できるだけ少ない接点数で大きな曲げ応力を発現するためには、この接着点が、厚み方向に沿って、成形体表面から内部(中央)、そして裏面に至るまで、均一に分布しているのが好ましい。これは、最表層の拭取り面が汚れて拭取りに支障が出てきたときに、この層を剥離除去して、その下の綺麗な層を新たな拭き取り層として使用するという動作を順次行う事により極めて大きな拭取り面積を確保するものであり、このため、表層から最下層まで同レベルの拭取り性と剥離性を保持するためである。この他に、接着点が表面又は内部などに集中すると、優れた機械的特性及び成形性を確保するのが困難となるだけでなく、接着点の少ない部分における形態安定性が低下する。
【0044】
従って、成形体の厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率がいずれも前記範囲にあるのが好ましい。さらに、各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)(繊維接着率が最大の領域に対する最小の領域の比率)が、例えば、50%以上(例えば、50〜100%)、好ましくは55〜99%、さらに好ましくは60〜98%(特に70〜97%)程度である。本発明では、繊維接着率が、厚み方向において、このような均一性を有しているため、硬さや曲げ強度、耐折性や靱性において優れている。また各層の層間付近の繊維接着率は層内部の繊維接着率よりも低いことが望ましい。
【0045】
なお、本発明において、「厚み方向に三等分した領域」とは、板状成形体の厚み方向に対して直交する方向にスライスして三等分した各領域のことを意味する。
【0046】
このように、本発明のクリーナ材では、湿熱接着性繊維による融着が均一に分散して点接着しているだけでなく、これらの点接着が短い融着点距離(例えば、数十〜数百μm)で緻密にネットワーク構造を張り巡らしている。このような構造により、本発明のクリーナ材は、拭取り時に力が加わると、繊維空隙が変形する事で不織繊維構造体表面がボード表面に密着するとともに、微細に分散した繊維の各融着点に外力が分散して小さくなるため、過剰な力が加わっても折れ曲がったり潰れてしまうなど、拭取りに支障のある変形を生じることなく、形態保持性が確保されている。
【0047】
本発明のクリーナ材において、厚み方向の断面における単繊維(単繊維端面)の存在頻度は特に限定されず、例えば、その断面の任意の1mm2に存在する単繊維の存在頻度が平均100個/mm2以上(例えば、100〜300個/mm2程度)であってもよいが、特に、軽量性よりも機械的特性が要求される場合には、単繊維の存在頻度は、例えば、平均100個/mm2以下、好ましくは60個/mm2以下(例えば、1〜60個/mm2)、さらに好ましくは25個/mm2以下(例えば、3〜25個/mm2)であってもよい。単繊維の存在頻度が多すぎると、繊維の融着が少なく、不織繊維構造体の形態保持性が低下する。なお、単繊維の存在頻度が100個/mm2を超えると繊維の束状融着が少なくなるため、高い曲げ強度の確保が困難となる。
【0048】
なお、本発明では、前記単繊維の存在頻度は、次のようにして測定する。すなわち、成形体断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の中から選んだ1mm2に相当する範囲を観察し、単繊維断面の数を数える。写真の中から任意の数箇所(例えば、無作為に選択した10箇所)について同様に観察し、単繊維端面の単位面積当たりの平均値を単繊維の存在頻度とする。このとき、断面において、単繊維の状態である繊維の数を全て数える。すなわち、完全に単繊維の状態である繊維以外に、数本の繊維が融着した繊維であっても、断面において融着部分から離れて単繊維の状態にある繊維は単繊維として数える。
【0049】
本発明のクリーナ材は、特定の面で拭取り作業をくり返し、その面に汚れが蓄積し拭取り困難になってきた場合に、この拭取り面を除去し、新たな表面を拭取り面とする事が可能である。このためには、特に不織繊維層間において繊維が各層を貫通しないことが必要であり、特に本発明の不織繊維構造体において繊維を固定する役割を果している湿熱接着性繊維においてはこの事は重要である。湿熱接着性繊維をこのように配置するための製造方法は特に限定されないが、湿熱接着性繊維からなる不織繊維層を湿熱接着により一度作成し、これを複数積層して、今度はこれよりも弱い湿熱接着により層を接着して不織繊維構造体とする手段が簡便かつ確実である。
【0050】
このようにしてできたクリーナ材を構成する不織繊維層間の剥離強度は、0.2〜20N/5cmである事が好ましく、より好ましくは0.4〜10N/5cm、更に好ましくは0.5〜8N/5cm、最も好ましくは1.0〜5N/5cmである。
この値が高すぎると拭取り表面を剥離除去する必要があるとき、綺麗に剥離できず、剥離する不織繊維層が破れる等して剥離困難になる。あるいは、剥離面に剥離した不織繊維から構成繊維が脱落し、ボードを拭いた時に繊維屑で汚してしまう。逆に低すぎるとボードを拭いているときに、拭取り面の不織繊維が剥離したり、拭取る時の応力によりクリーナ材が分離してしまうため好ましくない。
【0051】
本発明のクリーナ材は、高い形態安定性を有すると共に圧縮に対する柔軟性をも有している必要があり、デュロメータ(FO)の値が50〜90の範囲であり、好ましくは55〜85、更に好ましくは60〜80、最も好ましくは65〜80である。
この値が大きすぎると、クリーナ材が硬すぎるため、ホワイトボード等を拭取るためにボードに押し付けても、ボード面に密着し難く、拭取り時に筋状の拭き残しが生じ、同じ場所を何度か拭取る事が必要になる。逆に低すぎると、ボードへの密着性は良好なのであるが、クリーナ材が柔らかくなりすぎて、拭取り時にボードに押し付けても充分密着できなくなると共に、応力により変形しすぎて拭き取り作業がし難くなる。
【0052】
本発明のクリーナ材は、拭取り時の応力が加わっても拭取りに支障をきたす事のないよう、所定の曲げ応力を確保し、優れた曲げ挙動を示すことも特徴の一つである。本発明では、この曲げ挙動を表すため、JIS K7017「繊維強化プラスチック−曲げ特性の求め方」に準じて、サンプルを徐々に曲げたときに生ずるサンプルの反発力を測定し、最大応力(ピーク応力)を曲げ応力として表し、曲げ挙動の指標として用いた。すなわち、この曲げ応力が大きいほど硬い成形体であり、さらに測定対象物が破壊するまでの曲げ量(変位)が大きい程よく曲がる成形体である。
【0053】
本発明のクリーナ材は、少なくとも一方向(好ましくは全ての方向)における最大曲げ応力が0.05MPa以上(例えば、0.05〜10MPa)であり、好ましくは0.10〜3MPa、さらに好ましくは0.15〜2MPa程度であってもよい。この最大曲げ応力が小さすぎると、拭取り時に拭取りのためにかける力によりクリーナ材が容易に変形してしまうため、拭取り難い。また、最大曲げ応力が高すぎるような状態では、硬くなりすぎて、圧縮に対する柔軟性を確保しにくくなる。
【0054】
この曲げ量(変位)とそれによる曲げ応力との相関を見ると、最初、曲げ量の増加とともに応力も増加し、例えば、略直線的に増加する。本発明のクリーナ材において、測定サンプルが固有の曲げ量に到達すると、その後は徐々に応力が低くなる。すなわち、曲げ量と応力とをグラフにすると、上に凸の放物線状にカーブを描く相関関係を示す。本発明のクリーナ材は、最大曲げ応力(曲げ応力のピーク)を超えて、さらに曲げようとした場合においても、急激な応力降下を生じることなく、いわゆる「粘り(又は靱性)」を有することも特徴の一つである。本発明では、このような「粘り」を表す指標として、曲げ応力のピーク時の曲げ量(変位)を超えた状態において残っている曲げ応力を用いることができる。すなわち、本発明のクリーナ材は、最大曲げ応力を示す曲げ量の1.5倍の変位まで曲げた時の応力(以下、「1.5倍変位応力」と称することがある)が、最大曲げ応力の1/5以上(例えば、1/5〜1)を維持していればよく、例えば、1/3以上(例えば、1/3〜9/10)、好ましくは2/5以上(例えば、2/5〜9/10)、さらに好ましくは3/5以上(例えば、3/5〜9/10)維持していてもよい。また、2倍変位応力が、最大曲げ応力の1/10以上(例えば、1/10〜1)、好ましくは3/10以上(例えば、3/10〜9/10)、さらに好ましくは5/10以上(例えば、5/10〜9/10)維持していてもよい。
【0055】
本発明のクリーナ材は、繊維間に生ずる空隙により拭取り時に発生した汚れ物をこの繊維間に保持あるいは確保できる。また、これらの空隙は、独立した空隙ではなく連続しているため、拭取り時の汚れ物は続けて拭取りを行った際にある程度不織繊維層内に押し込まれ保持できる。このような構造は、樹脂を含浸する方法や、表面部分を密に接着させてフィルム状構造を形成する方法など、不織繊維の一般的な形態安定化手法では製造することが極めて困難な構造である。
【0056】
すなわち、本発明のクリーナ材の見掛け密度は、用途に応じて、0.03〜0.15g/cm3程度の範囲から選択することが好ましく、形態安定性を保持しつつ、拭取り性、圧縮時の密着性及び不織繊維層間の剥離性のバランスも保持する点から、例えばより好ましくは0.04〜0.12g/cm3、さらに好ましくは0.05〜0.1g/cm3(特に0.06〜0.09g/cm3)程度である。見かけ密度が低すぎると、拭取り性、圧縮時の密着性は向上するものの、形態安定性が低下し、逆に高すぎると、形態安定性は確保できるものの、拭取り性が低下する。なお、密度が低下すると、繊維が交絡し、交点で融着しただけの一般的な不織繊維構造に近くなり、一方、密度が高くなると、繊維が束状に融着し、多孔質成形体に近い構造となる。
【0057】
クリーナ材の各拭き取り面を構成する不織繊維層の目付は、例えば20〜200g/m2程度の範囲から選択でき、好ましくは30〜150g/m2、更に好ましくは50〜100m2程度である。目付が小さすぎると、拭取り面となった層を使用後に剥離する時に破断してしまい、綺麗に剥離できなくなる、あるいは、拭取り時に下層に汚れを移行させてしまい、汚染する事になり好ましくない。逆に、目付が大きすぎると、積層して不織繊維構造体、すなわちボードイレーサとしたときに、剥離できる枚数が少なく、ボードイレーサとしての寿命が短くなってしまう。
【0058】
そして、これら不織繊維層を積層し不織構造体としたクリーナ材の目付は、例えば、50〜10000g/m2程度の範囲から選択でき、好ましくは200〜5000g/m2、さらに好ましくは300〜3000g/m2(特に400〜1000g/m2)程度である。目付が小さい、すなわち積層数が少なすぎると、剥離できる枚数が少なく、ボードイレーサとしての寿命が短くなってしまう。また、目付が大きすぎると、湿熱加工による積層時に高温水蒸気が充分に内部に入り込めず、厚み方向に均一な構造体とするのが困難になる。
【0059】
本発明のクリーナ材が、板状又はシート状である場合、その厚みは特に限定されないが、1〜500mm程度の範囲から選択でき、例えば、2〜300mm、好ましくは3〜100mm、さらに好ましくは5〜50mm程度である。厚みが薄すぎると、硬さの確保が難しくなり、厚すぎると、これも質量が重くなるため、取扱性が低下する。
【0060】
本発明のクリーナ材は、不織繊維構造を有しているため、通気性が高い。基本的に、クリーナ材に通気性は直接必要ないが、本発明においては、繊維空隙を確保しており、この程度を的確に現すのに通気度が適している。この値が小さいという事は繊維空隙が小さく汚れ物を繊維間に確保し難いことを意味し、この値が大きいということは繊維間に汚れ物を確保しやすいが、逆にこの汚れ物が、表層だけでなく不織繊維構造体内部にまで入り込んでしまい下の層までも汚してしまう可能性があること、また繊維空隙が大きすぎで緻密な拭取りがしにくくなることを現している。そしてこの値は具体的にはフラジール形法による通気度が0.1cm3/(cm2・秒)以上[例えば、0.1〜300cm3/(cm2・秒)]、好ましくは0.5〜250cm3/(cm2・秒)[例えば、1〜250cm3/(cm2・秒)]、さらに好ましくは5〜200cm3/(cm2・秒)程度であり、通常、1〜100cm3/(cm2・秒)程度である。
【0061】
[クリーナ材の製造方法]
本発明のクリーナ材の製造方法では、まず、前記湿熱接着性繊維を含む繊維をウェブ化する。ウェブの形成方法としては、慣用の方法、例えば、スパンボンド法、メルトブロ一法などの直接法、メルトブロー繊維やステープル繊維などを用いたカード法、エアレイ法などの乾式法などを利用できる。
【0062】
これらの方法のうち、メルトブロー繊維やステープル繊維を用いたカード法、特にステープル繊維を用いたカード法が汎用される。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、例えば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。これらのウェブのうち、束状融着繊維の割合を多くする場合には、セミランダムウェブ、パラレルウェブが好ましい。
【0063】
次に、得られた繊維ウェブは、ベルトコンベアにより次工程へ送られ、次いで過熱又は高温蒸気(高圧スチーム)流に晒されることにより、各拭き取り層を形成する不織繊維が得られる。すなわち、ベルトコンベアで運搬された繊維ウェブは、前記蒸気噴射装置のノズルから噴出される高速高温水蒸気流の中を通過する際、吹き付けられた高温水蒸気により、湿熱接着性繊維が融着し、繊維同士(湿熱接着性繊維同士、又は湿熱接着性繊維と他の繊維)が三次元的に接着される。特に、本発明における繊維ウェブは通気性を有しているため、高温水蒸気が内部にまで浸透し、略均一な融着状態を有する成形体を得ることができる。
【0064】
使用するベルトコンベアは、基本的には加工に用いる繊維ウェブを目的の密度に圧縮しつつ高温水蒸気処理することができれば、特に限定されるものではなく、エンドレスコンベアが好適に用いられる。尚、一般的な単独のベルトコンベアであってもよく、必要に応じて2台のベルトコンベアを組み合わせて、両ベルト間にウェブを挟むようにして運搬してもよい。このように運搬することにより、繊維ウェブを処理する際に、処理に用いる水、高温水蒸気、コンベアの振動などの外力により運搬してきた繊維ウェブの形態が変形するのを抑制できる。また、処理後の不織繊維の密度や厚みをこのベルトの間隔を調整することにより制御することも可能となる。
【0065】
繊維ウェブに水蒸気を供給するためには、慣用の水蒸気噴射装置が用いられる。この水蒸気噴射装置としては、所望の圧力と量で、ウェブ全幅に亘り概ね均一に水蒸気を吹き付け可能な装置が好ましい。2台のベルトコンベアを組み合わせた場合、一方のコンベア内に装着され、通水性のコンベアベルト、又はコンベアの上に載置されたコンベアネットを通してウェブに水蒸気を供給する。他方のコンベアには、サクションボックスを装着してもよい。サクションボックスによって、繊維ウェブを通過した過剰の水蒸気を吸引排出できる。また、繊維ウェブの表及び裏の両側を一度に水蒸気処理するために、さらに前記水蒸気噴射装置が装着されているコンベアとは反対側のコンベアにおいて、前記水蒸気噴射装置が装着されている部位よりも下流部のコンベア内に別の水蒸気噴射装置を設置してもよい。下流部の水蒸気噴射装置及びサクションボックスがない場合、繊維ウェブの表と裏を水蒸気処理したい場合は、一度処理した繊維ウェブの表裏を反転させて再度処理装置内を通過させることで代用してもよい。
【0066】
コンベアに用いるエンドレスベルトは、繊維ウェブの運搬や高温水蒸気処理の妨げにならなければ、特に限定されない。ただし、高温水蒸気処理をした場合、その条件により繊維ウェブの表面にベルトの表面形状が転写される場合があるので、用途に応じて適宜選択するのが好ましい。特に、表面の平坦な成形体を得たい場合には、メッシュの細かいネットを使用すればよい。なお、90メッシュ程度が上限であり、概ね90メッシュより粗いネット(例えば、10〜50メッシュ程度のネット)が好ましい。これ以上のメッシュの細かなネットは、通気性が低く、水蒸気が通過し難くなる。メッシュベルトの材質は、水蒸気処理に対する耐熱性などの観点より、金属、耐熱処理したポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリアリレート系樹脂(全芳香族系ポリエステル系樹脂)、芳香族ポリアミド系樹脂などの耐熱性樹脂などが好ましい。
【0067】
水蒸気噴射装置から噴射される高温水蒸気は、気流であるため、水流絡合処理やニードルパンチ処理とは異なり、被処理体である繊維ウェブ中の繊維を大きく移動させることなく繊維ウェブ内部へ進入する。この繊維ウェブ中への水蒸気流の進入作用及び湿熱作用によって、水蒸気流が繊維ウェブ内に存在する各繊維の表面を湿熱状態で効率的に覆い、均一な熱接着が可能になると考えられる。また、この処理は高速気流下で極めて短時間に行われるため、水蒸気の繊維表面への熱伝導は充分であるが、繊維内部への熱伝導が充分になされる前に処理が終了してしまい、そのため高温水蒸気の圧力や熱により、処理される繊維ウェブ全体がつぶれたり、その厚みが損なわれるような変形も起こりにくい。その結果、繊維ウェブに大きな変形が生じることなく、表面及び厚み方向における接着の程度が概ね均一になるように湿熱接着が完了する。また、乾熱処理に比べて、不織構造内部に対して充分に熱を伝導できるため、表面及び厚み方向における融着の程度が概ね均一になる。
【0068】
さらに、表面硬さや曲げ強度の高い成形体を得る場合には、ウェブに高温水蒸気を供給して処理する際に、処理されるウェブを、コンベアベルト又はローラーの間で、目的の見かけ密度(例えば、0.3〜1g/cm3程度)に圧縮した状態で高温水蒸気に晒すのが重要である。特に、相対的に高密度の成形体を得ようとする場合には、高温水蒸気で処理する際に、十分な圧力で繊維ウェブを圧縮する必要がある。さらに、ローラー間又はコンベア間に適度なクリアランスを確保することで、目的の厚みや密度に調整することも可能である。コンベアの場合には、一気にウェブを圧縮することが困難なので、ベルトの張力をできるだけ高く設定し、蒸気処理地点の上流から徐々にクリアランスを狭めていくのが好ましい。さらに、蒸気圧力、処理速度を調整することにより所望の曲げ硬さ、表面硬度、軽量性、通気度を有する成形体に加工する。
【0069】
このとき、硬度を上げたい場合には、ウェブを挟んでノズルと反対側のエンドレスベルトの裏側をステンレス板などにし、蒸気が通過できない構造とすれば、被処理体であるウェブを通過した蒸気がここで反射するので、蒸気の保温効果によってより強固に接着される。逆に、軽度の接着が必要な場合には、サクションボックスを配置し、余分な水蒸気を室外へ排出してもよい。
【0070】
高温水蒸気を噴射するためのノズルは、所定のオリフィスが幅方向に連続的に並んだプレートやダイスを用い、これを供給される繊維ウェブの幅方向にオリフィスが並ぶように配置すればよい。オリフィス列は一列以上あればよく、複数列が並行した配列であってもよい。また、一列のオリフィス列を有するノズルダイを複数台並列に設置してもよい。
【0071】
プレートにオリフィスを開けたタイプのノズルを使用する場合、プレートの厚みは、0.5〜1mm程度であってもよい。オリフィスの径やピッチに関しては、目的とする繊維固定が可能な条件であれば特に制限はないが、オリフィスの直径は、通常、0.05〜2mm、好ましくは0.1〜1mm、さらに好ましくは0.2〜0.5mm程度である。オリフィスのピッチは、通常、0.5〜3mm、好ましくは1〜2.5mm、さらに好ましくは1〜1.5mm程度である。オリフィスの径が小さすぎると、ノズルの加工精度が低くなり、加工が困難になるという設備的な問題点と、目詰まりを起こしやすくなるという運転上の問題点が生じ易い。逆に、大きすぎると、水蒸気噴射力が低下する。一方、ピッチが小さすぎると、ノズル孔が密になりすぎるため、ノズル自体の強度が低下する。一方、ピッチが大きすぎると、高温水蒸気がウェブに充分に当たらないケースが生じるため、ウェブ強度が低下する。
【0072】
高温水蒸気についても、目的とする繊維の固定が実現できれば特に限定はなく、使用する繊維の材質や形態により設定すればよいが、圧力は、例えば、0.1〜2MPa、好ましくは0.2〜1.5MPa、さらに好ましくは0.3〜1MPa程度である。水蒸気の圧力が高すぎたり、強すぎる場合には、ウェブを形成する繊維が必要以上に動いて地合の乱れを生じたり、繊維が溶融しすぎて部分的に繊維形状を保持できなくなる可能性がある。また、圧力が弱すぎると、繊維の融着に必要な熱量をウェブに与えることができなくなったり、水蒸気がウェブを貫通できず、厚み方向に繊維融着斑を生ずる場合がある。また、ノズルからの水蒸気の均一な噴出の制御が困難になる場合がある。
【0073】
高温水蒸気の温度は、例えば、70〜150℃、好ましくは80〜120℃、さらに好ましくは90〜110℃程度である。高温水蒸気の処理速度は、例えば、200m/分以下、好ましくは0.1〜100m/分、さらに好ましくは1〜50m/分程度である。
【0074】
このようにして製造した不織繊維を必要な枚数(例えば、10枚以上、あるいは20〜500枚、或いは20〜200枚、或いは25〜100枚)重ねた状態で、各不織繊維を形成したときと同じか或いはそれ以下の圧力のスチームで処理する事により、剥離可能な積層体を形成する。
【0075】
必要であれば、コンベアベルトに所定の凹凸柄や文字、絵などを付与しておき、これらを転写させることで得られる成形体に意匠性を付与することも可能である。また、他の資材と積層して積層体を形成してもよく、成形加工により所望の形態(円柱状、四角柱状、球状、楕円体状などの各種形状)に加工してもよい。
【0076】
このようにして繊維ウェブの繊維を部分的に湿熱接着した後、得られる不織繊維構造を有する成形体に水分が残留する場合があるので、必要に応じてウェブを乾燥してもよい。乾燥に関しては、乾燥用加熱体に接触した成形体の表面が、乾燥の熱により繊維が溶融して繊維形態が消失しないことが必要であり、繊維形態が維持できる限り、慣用の方法を利用できる。例えば、不織繊維の乾燥に使用されるシリンダー乾燥機やテンターのような大型の乾燥設備を使用してもよいが、残留している水分は微量であり、比較的軽度な乾燥手段により乾燥可能なレベルである場合が多いため、遠赤外線照射、マイクロ波照射、電子線照射などの非接触法や熱風を吹き付けたり、通過させる方法などが好ましい。
【0077】
さらに、成形体は、前述のように、湿熱接着性繊維を高温水蒸気により接着させて得られるが、部分的に(湿熱接着により得られた成形体同士の接着など)、他の慣用の方法、例えば、部分的な熱圧融着(熱エンボス加工など)、機械的圧縮(ニードルパンチなど)
などの処理方法により接着されていてもよい。
【0078】
なお、湿熱接着性繊維は、繊維ウェブを熱湯に漬すことでも融着するが、このような方法では繊維接着率の制御が困難であり、また繊維接着率の均一性が高い成形体を得るのが困難である。その原因は、繊維ウェブ中に必然的に含まれる空気の影響で位置によって湿熱接着性が異なること、この空気が繊維ウェブの外に押し出されることによる構造への影響、湿熱接着させた繊維ウェブを熱湯中から取り出すときの引き取りローラーによる繊維内部の微細構造の変形や取り出した繊維ウェブ中に含まれる熱湯の重さによる上下方向の微細構造の変形の違いなどであると推定できる。
【0079】
本発明のクリーナ材は、繊維のみから構成されていると共に、この構成繊維が主に面方向にランダムに配列しているため、この面でホワイトボード等のボードを拭いた時に、ボード面に沿って繊維が表面の文字や絵を形成するペンのインクを掻き取るようになると共に、繊維空隙に掻き取ったインクを保持する事で優れた拭取り性を示す。そして、こうして掻き取ったインクが表面に堆積し、拭取りに支障をきたす場合など、この表面層を剥離除去することでその下の層の表面を拭取り面として使用可能であり、かつこの面も充分な拭取り性能を有するものである。
さらに本発明のクリーナ材は、拭取り時にクリーナ材をボードに押し当てる力により、容易に表面がフラットに押しつぶされる事で、ボードにクリーナ材表面の繊維を充分にボードに密着させながら、ボード状の文字や絵を構成するペンインクを掻き取るとともに、この時にクリーナ材にかかる応力でクリーナ材が拭取りに支障を来たすような変形をしないような曲げ硬さを有する事で、ボードを綺麗に拭取る性能を有するものである。
【0080】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。なお、実施例中の「%」はことわりのない限り、質量基準である。
【0081】
(1)目付(g/m2
JIS L1913「一般短繊維不織繊維試験方法」に準じて測定した。
【0082】
(2)厚み(mm)、見掛け密度(g/cm3
JISL1913「一般短繊維不織繊維試験方法」に準じて厚みを測定し、この値と目付
けの値とから見かけ密度を算出した。
【0083】
(3)捲縮数
JIS L1015「化学繊維ステープル試験方法」(8.12.1)に準じて評価した。
【0084】
(4)通気度
JIS L1096に準じ、フラジール形法にて測定した。
【0085】
(5)繊維接着率
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、成形体断面を100倍に拡大した写真を撮影した。撮影した成形体の厚み方向における断面写真を厚み方向に三等分し、三等分した各領域(表面、内部(中央)、裏面)において、そこに見出せる繊維切断面(繊維端面)の数に対して繊維同士が接着している切断面の数の割合を求めた。各領域に見出せる全繊維断面数のうち、2本以上の繊維が接着した状態の断面の数の占める割合を以下の式に基づいて百分率で表わした。なお、繊維同士が接触する部分には、融着することなく単に接触している部分と、融着により接着している部分とがある。但し、顕微鏡撮影のために成形体を切断することにより、成形体の切断面においては、各繊維が有する応力によって、単に接触している繊維同士は分離する。従って、断面写真において、接触している繊維同士は、接着していると判断できる。
【0086】
繊維接着率(%)=(2本以上接着した繊維の断面数)/(全繊維断面数)×100
但し、各写真について、断面の見える繊維は全て計数し、繊維断面数100以下の場合は、観察する写真を追加して全繊維断面数が100を超えるようにした。なお、三等分した各領域についてそれぞれ繊維接着率を求め、その最大値と最小値との割合から厚み方向における均一性を算出した。
【0087】
(6)曲げ応力
JIS K7017に記載の方法のうちA法(3点曲げ法)に準じて測定した。このとき、測定サンプルは25mm幅×80mm長のサンプルを用い、支点間距離を50mmとし、試験速度を2mm/分として測定を行った。本発明では、この測定結果チャートにおける最大応力(ピーク応力)を最大曲げ応力とした。なお、曲げ応力の測定は、MD方向およびCD方向について測定した。ここで、MD方向とは、測定サンプルの長辺に対しウェブ流れ方向(MD)が平行となるように測定サンプルを採取した状態をいい、一方、CD方向とは、測定サンプルの長辺に対しウェブ幅方向(CD)が平行となるように測定サンプルを採取した状態をいう。
【0088】
(7)1.5倍変位応力
曲げ応力の測定において、最大曲げ応力(ピーク応力)を示す曲げ量(変位)を超え、さらにその変位の1.5倍の変位まで曲げつづけた時の応力を、それぞれ1.5倍変位応力とした。
【0089】
(8)剥離強度
不織繊維層の面に平行な面において5cm幅×20cm長の試験片を切り出し、この試験片の長さ方向の一端表層を10cm長まで引き剥がし、この引き剥がした層と残りの層を引張試験機のチャックに固定し、引張試験と同じ要領で測定した。出力された曲線の安定部分の平均値を剥離強度とした。
【0090】
(9)デュロメータ硬さ
タイプFOのデュロメータ(テクロック社製、「GS−744G(置針式)」)を用いて測定した。
【0091】
(10)不織繊維層の幅
サンプルを厚さ方向にスライスし、この断面を2倍の拡大鏡で観察して各層の幅を測定した。この操作を任意の5箇所について行い、その平均値を測定値とした。
(11)拭取り評価
無地のホワイトボード(コクヨ(株)社製、FB−23WC)と黒色のホワイトボードマーカー(コクヨ(株)社製、PMB151D)を準備し、このホワイトボードにホワイトボードマーカーを用いて5cm角の大きさで、縦、横に5mm間隔でマス目を入れた図を描き、5分間放置した。この図を実施例および比較例のクリーナを用いて9回拭取りを行い、10回目の拭取り後の状態を観察した。
更に、表面の拭取り面から順に不織繊維を1枚ずつ剥離し、5枚目の不織繊維が表層に来た状態で再度拭取り試験を行った。
観察項目と評価の基準は以下のようにした。
(拭取り)綺麗に拭取れた・・・○
綺麗に拭取れたがインクの粉体が残った・・・△
拭き残りあり・・・×
(拭取り時形態保持性)
良好・・・○
通常の拭取り良好も、力を入れると変形・・・△
軽く拭く場合でも変形・・・×
【0092】
実施例1
湿熱接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量44モル%、ケン化度98.4モル%)である芯鞘型複合ステープル繊維((株)クラレ製、「ソフィスタ」、繊度2.2dtex、繊維長51mm、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm、捲縮率13.5%)を準備した。
【0093】
この芯鞘型複合ステープル繊維を用いて、カード法により目付約100g/m2のカードウェブを作製し、50メッシュ、幅500mmのポリエステル製エンドレスベルトを装備したベルトコンベアに移送した。尚、このベルトコンベアのベルトの上部には同じベルトを有するベルトコンベアが装備されており、それぞれが同じ速度で同方向に回転し、これら両ベルトの間隔を任意に調整可能なベルトコンベアを使用した。
【0094】
次いで、下側コンベアに備えられた水蒸気噴射装置ヘカードウェブを導入し、この装置から0.4MPaの高温水蒸気をカードウェブの厚み方向に向けて通過するように(垂直に)噴出して水蒸気処理を施し、繊維同士を融着する事で不織繊維を得た。この水蒸気噴射装置は、下側のコンベア内に、コンベアネットを介して高温水蒸気をウェブに向かって吹き付けるようにノズルが設置され、上側のコンベアにサクション装置が設置されていた。また、この噴射装置のウェブ進行方向における下流側には、ノズルとサクション装置との配置が逆転した組合せである噴射装置がもう一台設置されており、ウェブの表裏両面に対して蒸気処理を施した。
【0095】
なお、水蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、ノズルがコンベアの幅方向に沿って1mmピッチで1列に並べられた蒸気噴射装置を使用した。加工速度は3m/分であり、ノズル側とサクション側の上下コンベアベルト間の間隔(距離)は10mmとした。ノズルはコンベアベルトの裏側にベルトとほぼ接するように配置した。
【0096】
得られた不織繊維を20層重ねとした後、先程の水蒸気噴射装置のコンベア間隔を20mmとした以外は同じ条件で処理する事で本発明のクリーナ材を得た。評価結果を表1に示す。またこのクリーナ材を7cm×10cmのサイズにカットしてホワイトクリーナとしての評価に供した。
【0097】
実施例2
湿熱接着繊維として、実施例1で使用した芯鞘型複合ステープル繊維((株)クラレ製、「ソフィスタ」)とポリエチレンテレフタレート繊維(繊度2.2dtex、51mm長)とを60/40(質量比)の割合で混綿してカードウェブとし、充分な形態安定性を確保するために0.6MPaの高温水蒸気を用いた事以外は実施例1と同じ方法でクリーナ材をカットしてクリーナ材としての評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0098】
実施例3
湿熱接着性繊維として、実施例1で使用した芯鞘型複合ステープル繊維((株)クラレ製、「ソフィスタ」)とポリエチレンテレフタレート繊維(繊度2.2dtex、51mm長)とを30/70(質量比)の割合で混綿してカードウェブとし、充分な形態安定性を確保するために、ウェブの高温水蒸気処理の水蒸気圧を0.8MPaとし、このウェブを10枚重ねとした後に同じく0.4MPaの高温水蒸気にて処理したこと以外は実施例1と同様にしてクリーナ材を製造した。評価結果を表1に示す。
【0099】
実施例4
カードウェブの目付を50g/m2とし、湿熱接着処理した不織繊維を80層重ねとし、更に水蒸気噴射装置のコンベア間隔を30mmとした以外は実施例1と同じ条件で処理する事で実施例4のクリーナ材を得た。得られたクリーナの評価結果を表1に示す。
【0100】
比較例1
実施例2で用いたポリエチレンテレフタレート繊維と芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分が低密度ポリエチレン(MI=11)である芯鞘型複合ステープル繊維(繊度2.2dtex、繊維長51mm、を50/50の比率で混綿し、約50g/m2のウェブとし、このウェブを孔径0.1mm、1mmピッチのノズルにより、水圧1MPa−4MPa−4MPaの順で水流を当てることにより水流絡合不織繊維を得た。尚、2回目の4MPaの水流は、1回目と反対方向から当てることで不織繊維両表面を水流絡合処理した。この不織繊維を20枚重ねとし、20mmの厚さになるよう金網で固定した状態で135℃の熱風乾燥機内に5分間放置する事で積層体を得た。得られた積層体の評価結果を表1に示す。
【0101】
比較例2
湿熱接着繊維として、実施例1で使用した芯鞘型複合ステープル繊維((株)クラレ製、「ソフィスタ」)とポリエチレンテレフタレート繊維(繊度2.2dtex、51mm長)とを20/80(質量比)の割合で混綿して約200g/m2のカードウェブとし、最初の不織繊維を得るための蒸気処理は0.4MPaの高温水蒸気を用い、得られた不織繊維を10枚重ねとした後に、水蒸気噴射装置のコンベア間隔を20mmとして高温水蒸気処理の水蒸気圧を0.2MPaとした以外は実施例1と同じ方法でクリーナ材をカットしてクリーナ材としての評価に供した。評価結果を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
表1の結果からわかるように、実施例のクリーナ材は、繊維の接着率が厚み方向で均一であり、曲げ応力が高く、形態安定性に優れるとともに、拭取り性も優れている。また、各拭き取り層の不織繊維の剥離も良好に行えた。特に、実施例1のクリーナ材は、比較的、各種特性のバランスに優れている。
【0104】
なお、実施例2のクリーナ材では、ポリエステル繊維の混合により、繊維融着点が減少している。また、目付を低くすることにより密度を低く製造している。従って、密度が低くかつ繊維接着率が低いため、曲げ強度及び形態保持性がやや低下しているが、各拭き取り層の不織繊維の剥離は良好に行えた。一方、低密度構造であるため、拭取り時のボードへの密着度合いは良好であった。
【0105】
実施例3のクリーナ材は、ポリエステル繊維の混合比率を高くすると共に目付を低くし、より低密度のクリーナ材とした。このため、曲げ強度およびデュロメータ硬さが下限に近いが概ね良好に拭取れた。層の剥離は極めて良好に行えた。ただし、力をいれて強く拭取る時には拭取り性に影響ないもののクリーナ材が少し変形した。
【0106】
実施例4のクリーナ材は高密度にしたため、拭取り時の形態安定性は極めて良好であったが、拭取ったあとに若干、ホワイトボードマーカーの剥離したインク塊がボード上に残った。
【0107】
比較例1は、非常に柔らかく拭取り時に形態を安定に保つ事が出来ず、このため、一回の拭取りで綺麗に全てを消す事が困難であった。
【0108】
比較例2は、比較例1ほど柔らかくなかったが、最初の表層の拭取り性良好であったものの各層の剥離強度が低い事からも分かるように柔軟すぎて拭取り時の形態安定性がわるく、また、表層を剥離した時に複数の層が部分的に剥離してしまい、綺麗に剥離できなかった。またこの影響で、2層目以降は剥離時に形態が崩れてしまい、綺麗に拭き取り難くなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿熱接着性繊維を含む2層以上の不織繊維層が湿熱接着繊維の接着により積層してなる不織繊維構造体であって、この不織繊維層の厚さが0.2〜2mmであるとともに、各層が剥離可能であるとともに層間剥離強度が0.2〜20N/5cmの範囲にある積層体からなるクリーナ材。
【請求項2】
5mm以上の厚さを有し、厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率がいずれも40%以下であり、かつ各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合が50%以上である請求項1記載のクリーナ材。
【請求項3】
0.03〜0.15g/cm3の見掛け密度を有するとともに、FOタイプのデュロメータ硬さが50〜90の範囲にある請求項1又は2記載のクリーナ材。
【請求項4】
少なくとも一方向における最大曲げ応力が0.05MPa以上であり、最大曲げ応力を示す曲げ量に対して1.5倍の曲げ量における曲げ応力が、最大曲げ応力に対して1/5以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のクリーナ材。
【請求項5】
湿熱接着性繊維を含む繊維をウェブ化する工程と、このウェブを構成する繊維を高温水蒸気で加熱処理することで接着および/または交絡させて不織繊維層を形成する工程と、これら不織繊維層を2層以上積層し、高温水蒸気で加熱処理して不織繊維層内の繊維を更に融着するとともに不織繊維層間の繊維を融着することで積層された不織繊維積層体、すなわち不織繊維構造体を得る工程と必要に応じて、該不織繊維構造体の表面および/又は不織繊維構造体全体を成形する工程を含むクリーナ材の製造方法。

【公開番号】特開2009−241324(P2009−241324A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89013(P2008−89013)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(307046545)クラレクラフレックス株式会社 (50)