説明

クロマトカラム及びその可動栓

【課題】液体クロマトグラフィーの操作性、信頼性、経済性、分離精製効率を向上させることができる可動栓と、この可動栓を備えたクロマトカラムを提供する。
【解決手段】可動栓コア20と、環状のスクレーパ30と、該可動栓コア20の基端側が内嵌した凹所41を有するベース40と、該スクレーパと30該ベース40との間に設けられたOリング(スクレーパ押圧手段)50と、Oリング50に外嵌した環状シール部材52と、可動栓コア20を引き付けるボルト60とを備えてなり、可動栓コアのフランジ部22にスクレーパ30が係合している可動栓10。スクレーパ30及び可動栓コア20のフランジ部22にテーパ面31,22aが設けられている。スクレーパ30は、該Oリング50と該フランジ部22とによって狭圧されたときに拡径方向に変形可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィー用のカラム(以下、クロマトカラムということがある。)に用いられる可動栓と、この可動栓を用いたクロマトカラムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィーは、天然物や発酵生産物、遺伝子組み替え等による培養生産物、合成反応物中の目的物質を目的の純度、精製速度で分離精製する手段として広く用いられている。
【0003】
従来、液体クロマトグラフィー用カラムへの充填剤の充填は、第8図のような方法により行われている。
【0004】
即ち、まず、第8図(a)に示す如く、可動栓1を備えたカラム2を用い、第8図(b)に示す如く、このカラム2に充填剤を溶媒に混合して調製したスラリー3を投入する。そして、第8図(c)に示す如く、カラム上部に溶媒流出口を備え、充填剤の流出を防止する多孔板を有した上蓋4を取り付け、可動栓1を押し上げることにより、溶媒を上蓋4の溶媒流出口から押し出し、第8図(d)に示す如く、充填剤の充填層5を加圧形成する。即ち、この可動栓1の移動により、可動栓と反対の側から均一な充填層を積層させてゆき、充填終了後は、この可動栓1による充填層5の加圧を維持する。この充填装置はアクシャルコンプレッション型カラムとして広く知られている。
【0005】
この可動栓とカラムの内周面との間には、密にシールして液体や充填剤が漏れないようにするためのシール構造が設けられている。
【0006】
可動栓とカラム内周面との間のシール構造体には、従来、例えばOリングシールや、可動栓が所定位置まで移動した後圧縮空気を抜いてシールするもの(特許文献1:特許第4098342号)などがある。
【0007】
ところが、上記のOリングシールは、Oリングシール部とカラム本体内壁面の間に空隙ができ、この空隙部分からの空気抜きが容易でないばかりでなく、充填剤や液だまりとなり、汚染や精製効率の低下の原因となる。
【0008】
また、上記特許第4098342号のシール構造は、圧縮媒体で加圧してシール部を後退させて緩めておいて、可動栓をカラム内の所定位置に移動させ、その後、圧縮媒体による加圧を除き、バネの押す作用力によってシール材を押しあてて密閉するものである。この方式では、シールを緩めておいて可動栓を移動させる為、カラム内にあらかじめ充填剤を充填している場合、可動栓を充填層表面に接触させた時、スラリー状の充填剤がシール部とカラム内壁面に毛管現象によって入り込み、シール状態が悪化するだけでなく、できた隙間が液だまりとなり、汚染原因となり、クロマト分離精製効率を低下させる。また、バネの押圧力は、バネ反発力の劣化によって経過時間によって変化し、一定のシール精度を保ちにくい。さらに、充填剤スラリーがシール部とカラム内壁面との間に入り込むことを防止するために、シールを緩めない又はほとんど緩めないで可動栓を移動させる場合、シールの移動が容易でない他、シール材の摩耗が激しく、シール材寿命が短くなり、頻繁に取り換えることが必要になるが、取り換え時期の予測が容易でなく、また、取り換えにかかる時間、労力、シール材費用などのコストが必要になり経済的でない。
【0009】
そこで先に本発明者らは、第9図に示す可動栓を出願した(特許文献2:特願2010−059392号)。第9図の可動栓110は、可動栓コア120と、環状のスクレーパ130と、該可動栓コアの基端側が内嵌した凹所141を有するベース140と、可動栓コアの外周を取り巻いているパッキン150及びその上下両側のパッキンアダプタ151,152と、可動栓コア120を引き付けるボルト160とを備えてなり、可動栓コアのフランジ部122にスクレーパ130が係合している。スクレーパ130及び可動栓コア120のフランジ部122にテーパ面が設けられている。
【0010】
この第9図の可動栓110にあっては、ボルト160を回転させることにより、可動栓コア120がベース140側に引き付けられ、Vパッキン150がスクレーパ130とベース140との間で挟圧されて拡径方向に膨出する。このVパッキン150がクロマトグラフィー用カラムの内周面に当接することにより、Vパッキン150とカラムの内周面とのシールが行われる。
【0011】
ところが、第9図の可動栓110では、主にVパッキン150とカラムの内周面との間でシールを行うため、該Vパッキン150よりも上方におけるスクレーパ130とカラム内周面との間に充填剤や液が浸入するおそれがある。また、かかる浸入を防止し得る程度に、カラム挿入前のスクレーパ130の外径をカラムの内径よりも十分に大きいものとすると、可動栓10の移動が容易でない他、スクレーパ130の摩耗が激しく、スクレーパ130の寿命が短くなり、頻繁に取り換えることが必要になる。
【0012】
かかる特許文献2の問題点を解決するものとして、本出願人は、特許文献3(特願2010−246356号)により、液体クロマトグラフィーのカラム内に配置される可動栓において、先端部が充填剤に対面し、可動栓の軸心部をカラムの軸心線方向に延在する可動栓コアと、該可動栓コアの先端側の外周に外嵌した環状のスクレーパと、該可動栓コアの基端側が内嵌した凹所を有するベースと、該スクレーパと該ベースとの間に設けられたスクレーパ押圧手段と、該可動栓コアを該ベースの該凹所に押し込む方向に引き付けるための引付手段とを備えてなり、該可動栓コアの先端側の外周部にフランジ部が設けられ、該スクレーパは該フランジ部に係合しており、該スクレーパは、該スクレーパ押圧手段と該フランジ部とによって狭圧されたときに拡径方向に変形可能であることを特徴とする可動栓を出願した。
【0013】
この特許文献3では、スクレーパ押圧手段がシールリングよりなり、カラム内周面に押し付けられるように構成されているが、シール性が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第4098342号
【特許文献2】特願2010−059392号
【特許文献3】特願2010−246356号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、液体クロマトグラフィーの操作性、信頼性、経済性、分離精製効率を向上させることができる可動栓と、この可動栓を備えたクロマトカラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明(請求項1)の可動栓は、液体クロマトグラフィーのカラム内に配置される可動栓において、先端部が充填剤に対面し、可動栓の軸心部をカラムの軸心線方向に延在する可動栓コアと、該可動栓コアの先端側の外周に外嵌した環状のスクレーパと、該可動栓コアの基端側が内嵌した凹所を有するベースと、該スクレーパと該ベースとの間に設けられた、該可動栓コアに外嵌した環状のスクレーパ押圧手段と、該可動栓コアを該ベースの該凹所に押し込む方向に引き付けるための引付手段とを備えてなり、該可動栓コアの先端側の外周部にフランジ部が設けられ、該スクレーパは該フランジ部に係合しており、該スクレーパは、該スクレーパ押圧手段と該フランジ部とによって狭圧されたときに拡径方向に変形可能であり、前記スクレーパ押圧手段は、前記狭圧時に拡径変形可能な柔軟性を有しており、該スクレーパ押圧手段の外周に、拡径するスクレーパ押圧手段によって押圧されて拡径し、前記カラムの内周面に密着する環状シール部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
請求項2の可動栓は、請求項1において、前記フランジ部は、前記可動栓コアの先端側ほど拡径した形状となるテーパ面を有しており、前記スクレーパの内周面は、該可動栓コアのテーパ面に重なるテーパ面を有していることを特徴とするものである。
【0018】
請求項3の可動栓は、請求項2において、前記環状シール部材は、前記可動栓コアと同軸の円筒状であることを特徴とするものである。
【0019】
請求項4の可動栓は、請求項1ないし3のいずれか1項において、該環状シール部材の外周面は、円筒長さ方向の中間部が円筒長さ方向両端側よりも凹となるように凹曲していることを特徴とするものである。
【0020】
請求項5の可動栓は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記引付手段は、前記ベースを貫通して前記可動栓コアに螺着されたボルトであることを特徴とするものである。
【0021】
本発明(請求項6)の液体クロマトグラフィーのカラムは、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の可動栓が内部に配置されたものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の可動栓及びこの可動栓を備えたクロマトカラムにおいては、可動栓コアをベースに引き付けることにより、スクレーパがスクレーパ押圧手段とフランジ部とによって狭圧され、スクレーパ自体が拡径してカラム内周面に接触する。これにより、カラム内の微粒子や微粒子スラリーが、該スクレーパとカラム内周面との間に入り込むことが阻止される。
【0023】
また、本発明にあっては、可動栓コアをベースに引き付けたときに、スクレーパ押圧手段が拡径し、このスクレーパ押圧手段を取り巻く環状シール部材が拡径し、カラム内周面に密着する。そのため、この環状シール部材により可動栓外周面とカラム内周面とのシール性が向上する。
【0024】
請求項2の可動栓にあっては、可動栓コアがベースに引き付けられた際に、スクレーパがフランジ部のテーパ面に沿って移動することにより、良好に拡径してカラム内周面に接触する。
【0025】
請求項3,4の可動栓にあっては、環状シール部材の外周面がカラム内周面に液密的に密着し、可動栓外周面とカラム内周面とのシール性が向上する。
【0026】
請求項5の通り、可動栓コアをベース側に引き付ける手段をボルトとすることにより、構成が簡易となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1の実施の形態に係る可動栓の断面図である。
【図2】第2の実施の形態に係る可動栓の断面図である。
【図3】第3の実施の形態に係る可動栓の断面図である。
【図4】第4の実施の形態に係る可動栓の断面図である。
【図5】第5の実施の形態に係る可動栓の断面図である。
【図6】第6の実施の形態に係る可動栓の断面図である。
【図7】第7の実施の形態に係る可動栓の断面図である。
【図8】従来例を示す断面図である。
【図9】先願の可動栓を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0029】
第1図(a)は第1の実施の形態に係る可動栓の軸心線方向の断面図、同(b)はこの可動栓の先端部に多孔質板を装着した状態の断面図である。
【0030】
この可動栓10は、可動栓コア20、スクレーパ30、ベース40、スクレーパ押圧手段(この実施の形態ではOリング)50及び環状シール部材52等を備えている。この可動栓10は、先端側(図の上端側)がカラム内の充填剤に接するように配置される。可動栓コア20は、可動栓10の先端から軸心線方向に延在する略々円柱状体よりなる。この可動栓コア20の中間から基端側(図の下端側)にかけては、等径の円柱部21である。この円柱部21の長さは、カラム内径の1/400以上特に1/250以上であることが好ましい。この円柱部21よりも上側はフランジ部22である。
【0031】
このフランジ部22の下面は、上方ほど拡径するテーパ面22aとなっている。可動栓コア20の上端面には浅い円形の凹所23が設けられ、この凹所23の側周面の上部側には拡径段部24が形成されている。この段部24に係合することにより、多孔質板25が該可動栓コア20の先端面に装着され、多孔質板25と凹所23底面との間に、液の分配供給又は収集排出用の空室が形成される。
【0032】
凹所23の底面の中心部から可動栓コア20の底面の中心部にまで貫通するように液の供給又は排出用の連通孔26が設けられている。
【0033】
可動栓コア20の底面には、後述のボルト60が螺合する雌螺子穴27が可動栓10の軸心線と平行方向に設けられている。
【0034】
スクレーパ30は、このフランジ部22の外周に嵌合した環状部材である。スクレーパ30の外周面は等径の円筒面よりなる。スクレーパ30の内周面は、前記テーパ面22aと重なるテーパ面31からなる。スクレーパ30の底面は、可動栓10の軸心線に対し垂直となっている。この環状のスクレーパ30の周回方向と直交方向の断面形状は直角三角形となっている。このスクレーパ30の基端面はテーパ面22aの下端と同一高さとなっている。
【0035】
ベース40は、略円柱形状のものであるが、上面中央には可動栓コア20の下部が内嵌する凹所41が設けられている。この凹所41の底面からベース40の底面にまで環通する液流通孔42が設けられている。この実施の形態では、ベース40にボルト60の挿通孔43が設けられている。
【0036】
Oリング50は、スクレーパ30とベース40との間において可動栓コア20を周回するように設けられている。図示のOリング50は円形断面形状となっているが、この断面形状には特に限定はなく、断面形状が楕円形や、三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等の多角形であってもよく、甲丸形、甲山形、X字形、星型、四葉型等であってもよい。スクレーパ押圧手段は、Oリングに限定されるものではない。例えば、1本又は複数のひも形状物を周回するように設けたものであっても良く、このようなひも状物は、カラム直径が数m程度の大型カラムで実用的に使用できる。
【0037】
環状シール部材52は、可動栓コア20の円柱部21と同軸の短い円筒状であり、その内周面はOリング50の外周面に当接している。ベース40の上端外周縁及びスクレーバ30の下端外周縁には凹段部が周設されており、環状シール部材52の下端及び上端がそれぞれ各凹段部に係合している。
【0038】
この実施の形態では、環状シール部材52の外周面は、円筒長さ方向(第1図の上下方向)の中間部が両端側(第1図の上下両端)よりも僅かに凹んだ凹曲面となっている。これは、環状シール部材52の外周面の全面をカラム内周面に均等に押し付けるためである。
【0039】
ボルト60は、挿通孔43を通って雌螺子穴27にねじ込まれている。ボルト60の頭部がベース40の底面に当接した後、さらにボルト60を回転させることにより、可動栓コア20がベース40側に引き付けられる。
【0040】
この可動栓10にあっては、上記ボルト60による引き付け前の状態において、カラム挿入前のスクレーパ30及び環状シール部材52の外径をカラムの内径と等しいか、それよりもごく僅か大きいものとするのが好ましい。具体的にはカラムの内径をdとし、スクレーパ30及び環状シール部材52の外径(直径)をdとした場合、d−dが0よりも大きく且つdの3%以下特に2%以下とりわけ1%以下であることが好ましい。
【0041】
上記のスクレーパ30及びフランジ部22のテーパ面31,22aのテーパ角θ(第1図(a)参照)は5°以上90°未満特に15〜60°程度であることが好ましい。
【0042】
スクレーパ30の材料としては、上記スクレーパ押圧手段としてのOリング50とフランジ部22のテーパ面22aとによって狭圧されたときに拡径方向に変形可能なものが用いられる。このスクレーパ30の材料としては、天然ゴム、EPDMゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等のゴムが好ましい。また、フッ素化樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレンや、部分フッ素化樹脂、例えば、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニルやフッ素化樹脂共重合体、例えば、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、エチレン−四フッ素化エチレン共重合体などが好ましい。これらの他、フッ素化樹脂、部分フッ素化樹脂、フッ素化樹脂共重合体で被覆したゴムなども適用できる。
【0043】
可動栓コア20の材料は、ステンレス、チタン、ハステロイなどの耐食性金属が好ましいが、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、アクリル、メチルペンテンなどの合成樹脂であってもよい。
【0044】
ベース40の好ましい材料としては、可動栓コア20と同様のものが例示されるが、これに限定されない。ベース40の外径はカラムの内径dよりも小さいことが好ましい。
【0045】
Oリング50の材料としては、スクレーパ30と同様のものが例示されるが、これに限定されない。環状シール部材52の材料としては、四フッ化エチレン、三フッ化エチレン、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、四フッ化エチレン共重合、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合、ポリアミド(ナイロン)、ポリプロピレンなどが適用できうるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
このように構成された可動栓10をカラム内に装着する場合、該可動栓10をカラム内に挿入し、所望の位置に配置した後、ボルト60を回転させ、可動栓コア20を引き付ける。これにより、スクレーパ30がOリング(スクレーパ押圧手段)50及び可動栓コア20のテーパ面22aによって挟圧され、該スクレーパ30が該テーパ面22aに沿って該テーパ面22aに対して相対的に上方に移動し、該スクレーパ30が拡径する。この拡径したスクレーパ30がカラムの内周面に押し付けられることにより、スクレーパ30とカラムの内周面とが強固にシールされる。これにより、スクレーパ30とカラム内周面との間に充填剤や液が侵入せず、液溜りも生じない。
【0047】
また、Oリング50もスクレーパ30とベース40とによって挟圧され、拡径する。Oリング50の拡径に伴って環状シール部材52が拡径し、該環状シール部材52の外周面がカラムの内周面に押し付けられることにより、環状シール部材52の外周面とカラムの内周面とがシールされる。
【0048】
この可動栓10が内挿されたクロマトカラムにあっては、液が孔42,26及び多孔板25を通ってカラム内に導入又はカラムから流出する。このクロマトグラフィー装置にあっては、スクレーパ30及び環状シール部材52によるシール性が高いので、カラム内の充填剤や液が可動栓10とカラム内周面との間に入り込まないので、クロマト分離精製効率が高い。
【0049】
本実施の形態の可動栓10にあっては、ボルト60を外してベース40と可動栓コア20とを分離することにより、スクレーパ30やOリング50を容易に交換することができる。
【0050】
なお、シール中の可動栓10を充填剤側(第1図の上方)に移動させる場合、カラム内周面からの摩擦力により、スクレーパ30にテーパ面22aに沿って下方に移動する方向に力が加わる。しかしながら、スクレーパ30にはOリング50から押圧力が加えられている。これら摩擦力と押圧力とが釣り合うことにより、充填剤がスクレーパ30とカラム内周面との間に侵入することが阻止されながら、可動栓10が充填剤側(第1図の上方)にスムーズに移動する。反対に、シール中の可動栓10を充填剤と反対側(第1図の下方)に移動させる場合、カラム内周面からの摩擦力により、スクレーパ30にテーパ面22aに沿って上方に移動する方向に力が加わる。しかしながら、スクレーパ30のテーパ面31はフランジ部22のテーパ面22aに支持され、該テーパ面22aから押圧力が加えられている。これら摩擦力と押圧力とが釣り合うことにより、充填剤がスクレーパ30とカラム内周面との間に浸入することが阻止されながら、可動栓10が充填剤と反対側(第1図の下方)にスムーズに移動する。
【0051】
第2図〜第5図を参照して第2〜第5の実施の形態に係る可動栓について説明する。
【0052】
第2図の可動栓11は、可動栓コア20の代わりに、軸方向に長い円柱部21Aを有した可動栓コア20Aを用い、また、スクレーパ30とベース40との間に、上側Oリング50、環状シール部材52Aの脚板52a及び下側Oリング50を、可動栓コア20Aを周回するように上側からこの順に設けたものである。
【0053】
環状シール部材52Aは、2個のOリング50,50に跨がる長さを有している。その長手方向の途中の内周面から脚板52aが求心方向に突設され、T字形断面形状となっている。脚板52aは環状シール部材52Aの内周面と垂直な円環板状である。
【0054】
この実施の形態では、2個のOリング50,50が脚板52aで仕切られているため、各Oリング50,50が互いに接触することなく変形しうるので、スクレーパ30を良好に押圧することができる。また、Oリング50,50の各々が拡径方向に変形して環状シール部材52Aの内周面に押し付けられるため、環状シール部材52Aが均等に拡径し、環状シール部材52Aとカラムの内周面とがシールされる。これにより、第1図の可動栓10のように1個のOリング50を用いた場合と比べて、シール性がより向上する。さらに、可動栓11をカラム内で移動させるときに、Oリング50,50同士が重なり合ったり絡み合ったりすることが該脚板52aによって防止されるため、可動栓11がスムーズに移動する。
【0055】
この脚板52aの厚さには特に限定はないが、Oリング50の厚み(第2図における上下方向高さ)の1/4〜3倍程度が好ましい。
【0056】
第3図の可動栓12は、第1図の可動栓10において、環状シール部材52の代わりに、上下両端部が先端ほど肉薄となるテーパ形となっている皿型断面形状の環状シール部材52Bを用いたものである。
【0057】
第4図の可動栓13は、第2の可動栓11において環状シール部材52Aの代わりに、上下両端部が先端ほど肉薄となるテーパ形となっていると共に、脚板52cが内周端に向って肉薄となるテーパ形となっている環状シール部材52Cを用いたものである。
【0058】
第5図及び第6図の可動栓14,15は、第3,4図の可動栓12,13において、ボルト60の代わりに可動栓コア20,20Aをベース40にネジ嵌合させたものである。即ち、円柱部21,21Aの外周面に雄ネジを設け、ベース40の凹所41の内周面に雌ネジを設け、該雄ネジを雌ネジに螺合させ、スクレーパ30とベース40との間でOリング50,50を挟圧している。その他の構成は第3,4図と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0059】
図示は省略するが、第1,2図の可動栓においても、可動栓コアとベースとをネジ嵌合させてもよい。
【0060】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態とされてもよい。
【0061】
本発明の可動栓は、ステンレス等の金属製カラム及び透明アクリル等のプラスチック製カラム等に適用することができる。特に、プラスチック製カラムは金属製カラムと比べて加工精度が低く、内周面に凹凸が存在する場合があるが、本発明の可動栓によれば、かかる凹凸を有するプラスチック製カラムにおいても良好にシールを行うことができる。
【符号の説明】
【0062】
10〜15 可動栓
20,20A 可動栓コア
30 スクレーパ
40 ベース
50 Oリング
52,52A,52B,52C 環状シール部材
52a,52c 脚板
60 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィーのカラム内に配置される可動栓において、
先端部が充填剤に対面し、可動栓の軸心部をカラムの軸心線方向に延在する可動栓コアと、
該可動栓コアの先端側の外周に外嵌した環状のスクレーパと、
該可動栓コアの基端側が内嵌した凹所を有するベースと、
該スクレーパと該ベースとの間に設けられた、該可動栓コアに外嵌した環状のスクレーパ押圧手段と、
該可動栓コアを該ベースの該凹所に押し込む方向に引き付けるための引付手段と
を備えてなり、
該可動栓コアの先端側の外周部にフランジ部が設けられ、該スクレーパは該フランジ部に係合しており、
該スクレーパは、該スクレーパ押圧手段と該フランジ部とによって狭圧されたときに拡径方向に変形可能であり、
前記スクレーパ押圧手段は、前記狭圧時に拡径変形可能な柔軟性を有しており、
該スクレーパ押圧手段の外周に、拡径するスクレーパ押圧手段によって押圧されて拡径し、前記カラムの内周面に密着する環状シール部材が設けられていることを特徴とする可動栓。
【請求項2】
請求項1において、前記フランジ部は、前記可動栓コアの先端側ほど拡径した形状となるテーパ面を有しており、
前記スクレーパの内周面は、該可動栓コアのテーパ面に重なるテーパ面を有していることを特徴とする可動栓。
【請求項3】
請求項2において、前記環状シール部材は、前記可動栓コアと同軸の円筒状であることを特徴とする可動栓。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該環状シール部材の外周面は、円筒長さ方向の中間部が円筒長さ方向両端側よりも凹となるように凹曲していることを特徴とする可動栓。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記引付手段は、前記ベースを貫通して前記可動栓コアに螺着されたボルトであることを特徴とする可動栓。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の可動栓が内部に配置された液体クロマトグラフィーのカラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−194048(P2012−194048A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58036(P2011−58036)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)