説明

クロマトグラフィー媒体

本発明はクロマトグラフィーの分野内にある。さらに正確には、本発明は新規なクロマトグラフィー媒体、即ち疎水性媒体の多孔度及び/又はリッドの多孔度によって一定サイズを超える分子を排除する様々なリッドを備えた疎水性媒体に関する。本発明はまた、分離媒体に入らない大きい分子の精製、並びに分離媒体に入ってそこから溶離される小さい分子の精製のために分離媒体を使用することにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロマトグラフィーの分野内にある。さらに正確には、本発明は新規なクロマトグラフィー媒体、即ち疎水性媒体の多孔度及び/又はリッド(蓋)の多孔度によって一定サイズを超える分子を排除する様々なリッドを備えた疎水性媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーの分野では、これまでに提唱されたクロマトグラフィー方法は、標的との様々な相互作用モードに基づいている。即ち、例えばイオン交換クロマトグラフィーでは、官能基は反対電荷の対イオンを有する永久的に結合したイオン基である一方、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)では、固定相と分離すべき成分との相互作用は疎水性に基づいている。
【0003】
疎水性相互作用に基づくクロマトグラフィーは、一般にHIC及びRPCと呼ばれる2つのタイプに分けられる。
【0004】
HICとは、分離されたタンパク質の変性を回避するため、疎水性リガンドを非常に低い程度に固定化した高親水性マトリックスを用いるタンパク質の疎水性相互作用クロマトグラフィーをいう。分離すべきタンパク質を吸着させるためには、水中に高濃度の無機塩を使用することが必要である。脱着は、通常、溶離段階においてイオン強度を徐々に低下させることで達成される。
【0005】
RPCとは、疎水性の無極性分子/リガンド(通常は4〜18の炭素原子を含む脂肪族炭素鎖)で非常に高い程度に官能化されたマトリックス(通常はシリカ系マトリックス)を用いるクロマトグラフィーをいう。脱着は、通常、添加塩の必要なしに達成される。脱着又は溶離は、大抵の場合、溶離液中における有機溶媒の含有量を徐々に増加させることで行われる。
【0006】
18の炭素鎖を有するRPC媒体は、タンパク質を強く結合する。タンパク質はまた、結合プロセス中に様々な程度に変性する。タンパク質を溶離するためには、異常な条件を使用することが必要である。しかし、短い炭素鎖(4炭素)を有するRPC媒体を、タンパク質分離のためにトリフルオロ酢酸のような添加剤を含む水/アセトニトリル系溶離剤と共に使用することもできる。
【0007】
分離マトリックスとしても知られる固定相は、普通は複数の本質的に球状の粒子である支持体と、支持体に結合したリガンドとを含んでいる。大抵の分離マトリックスでは、支持体は、各粒子中により多くの量のリガンド、したがってより多くの結合標的化合物を導入するために多孔質である。支持体は大抵の場合に天然又は合成ポリマーであり、球状粒子はいくつかの異なる方法で製造できる。シリカ及びガラスビーズも使用される。この目的のためにしばしば使用される天然ポリマーは、多糖類のデキストラン及びアガロースである。
【0008】
クロマトグラフィー操作及びバッチ操作によって生体分子を分離するためには、マトリックス(ビーズ、モノリス、充填膜など)の多孔度が非常に重要である。ポリマー媒体の利点は、細孔径を広範囲にわたって変えるのが容易であること、及びその高い化学的安定性(例えば、高いpH値に対する許容性)である。文献全体にわたって認められている原則は、大きい分子に対しては細孔径の大きい媒体を使用することである。これらの細孔中における物質移動は拡散プロセスの結果であり、対流の結果ではない。
【0009】
同時係属中のスウェーデン特許出願第SE0800263−6号には、大きい分子を排除するために選択された多孔度を有するアガロースビーズを製造するためのスピニングディスク技術(Walter and Prewett(Walton,W.H.;Prewett,W.C.(1949)Proc.Phys.Soc.B.62,341−350))に基づく方法が記載されている。
【0010】
ヒト化モノクローナル抗体(mAbs)は、生物医薬品として大いに有望である。mAbsの精製に際して直面する最大の問題の1つは、細胞培養液中の宿主細胞タンパク質(HCPs)からそれを分離することである。今日、プロテインA上でのアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー及び疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を含む多種多様のmAbs単離技法が利用可能である。これらの技法のすべてが移動相(吸着緩衝液)の使用を伴っていて、移動相はmAb分子とリガンドとの相互作用を達成するように調整しなければならない。例えば、HICでは多量の塩を移動相に添加しなければならず、イオン交換クロマトグラフィーの場合にはmAbsがイオン交換リガンドに比べて反対の電荷を有するように移動相のpHを調整しなければならない。さらに、mAbsがリガンドに吸着されている場合には、mAbsの脱着を達成するように移動相を調整しなければならない。
【0011】
mAbsのような大きい分子がビーズに入るのを防止する細孔径分布及び表面特性を有すると共に、内部には緩衝液条件に関係なくタンパク質及び他のペプチド又は生体分子を吸着できるクロマトグラフィー媒体が得られれば望ましいであろう。生体分子の分離を目的とするイオン交換体は低いイオン強度で大抵の帯電生体分子を吸着できるが、イオン強度が一定レベルを超えて増加した場合、これらの媒体は試料分子を吸着する能力を失う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
米国特許第6531523号明細書
【発明の概要】
【0013】
本発明は、タンパク質が広いpH範囲において非常に低いイオン強度及び高いイオン強度の両方で相互作用し又は吸着され得るような高い疎水性をコア実体中に有する媒体を提供する。
【0014】
第1の態様では、本発明は、多孔質の疎水性コア実体及びコア実体の外部全体を覆う多孔質の親水性リッドを含んでなる分離媒体であって、リッドが一定サイズ未満の分子のみを透過させて分離媒体のコア実体の内部と相互作用させる分離媒体に関する。
【0015】
好ましい実施形態では、疎水性コア実体も一定サイズ未満の分子のみを透過させて分離媒体のコア実体の内部と相互作用させることが好ましい。
【0016】
多孔質の親水性リッド(蓋)は、コア実体を包囲する多孔質外層又は外被/シェルである。
【0017】
分離媒体は、試料の性質に関係なく、かつクロマトグラフィーの場合にはイオン強度及びpHのような運転条件或いはバッチ操作の場合には上澄み液に関係なく、タンパク質及び他の疎水性分子を結合するため、好ましくは高疎水性のコアを備えている。分離媒体は好ましくはビーズ形状を有するが、膜であってもよい。
【0018】
媒体のサイズ排除性は、その多孔質成分の一方又は両方の多孔度によって決定される。上記に述べた一定サイズとは、細胞、細胞粒子、ウイルス、ウイルス様粒子、プラスミド、任意タイプの抗体、脂質、タンパク質、ペプチド及び核酸のような標的分子/有機体/粒子を除外するサイズ未満のものである。この媒体は、上述したタイプの大きい分子から小サイズの分子を効率的に分離する。
【0019】
疎水性コア実体はそれ自体で疎水性であってよく、疎水性ポリマーに基づくことができる。例えば、疎水性ポリマーは、疎水性置換基を含むスチレン/エチルスチレン/DVB、ビニルエーテル及びアクリレートのポリマー並びにフルオロアルカン含有ポリマーである。
【0020】
別法として、疎水性コア実体がそれ自体では親水性であり、疎水性相互作用リガンドで官能化された親水性ポリマーに基づいている。疎水性相互作用リガンドは、C1〜C30アルキル、好ましくはC4〜C16アルキルのような脂肪族炭化水素、及び/又はフェニル、アントラセン、ナフタレンのような芳香族炭化水素からなり得る。リガンドにかかわらず、リガンド密度は低いイオン強度での吸着及び媒体の所望の高い疎水性を得る目的のため常に最適化すべきである。好ましくは、リガンド密度は通常のHICレベル(即ち、90μmol/mlコア実体)より高くすべきである。
【0021】
疎水性コア実体は、pH区間2〜11において低いイオン強度(例えば、0〜1M、好ましくは0〜0.4M、最も好ましくは0〜0.1M)でリッドを透過し得る試料中の(最低の分子量及び/又は最小のサイズを有する)分子の吸着を可能にする。
【0022】
一実施形態では、コア実体は前記疎水性リガンドのほかに追加のリガンドを含み、かかる追加のリガンドはコア実体上に位置し及び/又はコア実体と結合していてもよいし、及び/又は疎水性リガンド上に結合していてもよい。かかる追加のリガンドは疎水性であり得ると共に、非支配的な帯電基を含み得る。好ましくは、前記追加のリガンドは静電的相互作用リガンド(即ち、負電荷リガンド及び/又は正電荷リガンド)である。例えば、これらの追加のリガンドは正の電荷を有するオクチルアミンリガンドであってよく、かかる正の電荷はコア実体に対する負に帯電した小分子の結合を増加させる。追加される帯電リガンドの量は、主たる疎水性リガンドに対する疎水性相互作用を過度に妨害しないように調整すべきである。
【0023】
好ましい実施形態では、コア実体及びリッドはアガロースから作製され、疎水性リガンドは4〜16の炭素原子を含む炭化水素リガンド、好ましくはオクチルリガンドである。
【0024】
好ましくは、コア実体は一定サイズを超える分子が細孔に入るのを防止する細孔径を有する。別法として、又はそれに加えて、リッド中にポリマーヒドロゲル(例えば、デキストラン)を供給して細孔を充填することで、細孔径をさらに減少させ、高分子量分子が細孔に入るのを防止するように調整する。
【0025】
さらに他の実施形態では、親水性リッドは、最高の分子量及び/又は最大のサイズを有する試料中の分子と可逆的に結合する任意タイプのクロマトグラフィーリガンドを含む。小さい分子の一部も恐らくはリッドに結合するであろうが、溶離段階中にこれらはほぼ確実にリッドを透過してコアに結合するであろう。
【0026】
プロテオーム分析のような特定の用途のためには、分離媒体のコア実体中に磁性粒子が組み込むことができる。
【0027】
本発明はまた、上述したリッドビーズ媒体を、HIC、IE又はアフィニティー媒体のような通常のクロマトグラフィー媒体と混合してなる分離媒体にも関する。好ましくは、リッドビーズ媒体は総媒体体積の最大10%までを占める。このような混合媒体の好ましい実施形態では、リッドビーズ媒体はオクチルリガンドを含み、クロマトグラフィー媒体は陽イオン交換媒体からなる。このような混合媒体の利益は、大きい分子と小さい分子との分離が向上することである。
【0028】
第2の態様では、本発明は、pH2〜11において低いイオン強度で試料から一定サイズ未満の分子を好ましくは単一段階で吸着させるための、上述した分離媒体の使用に関する。かかる操作は、前記サイズを超える分子又は前記サイズ未満の分子を精製するために使用できる。かくしてこの態様は、分子を吸着させる段階及び任意の追加段階を含んでなる分離媒体の使用方法を含む。
【0029】
上記に述べた細孔径は、特定の用途における標的分子のサイズと共に変化しかつそれによって決定される。この一定サイズ範囲は、好ましくは細胞、細胞粒子、細菌、ウイルス、ウイルス様粒子、プラスミド、抗体、脂質、タンパク質、ペプチド及び核酸から選択される分子/有機体/粒子のサイズ範囲に対応している。試料は例えば培養上清であり、高分子量分子はモノクローナル抗体であり得る。分離媒体は、プロテアーゼ、ペプチダーゼ及びヌクレアーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシン、DNアーゼ及びRNアーゼ)のような不要の酵素を迅速に除去するため、細胞収穫時に添加するのに非常に有用である。分離媒体はクロマトグラフィーモード又はバッチモードで使用できる。任意のカラム又はバッチフォーマットが使用できる。臨床フェーズI及びII試験用の生物医薬品の精製のような若干の用途のためには、RTP(レディー・トゥー・プロセス)フォーマットの使い捨てカラムが好ましい。
【0030】
代わりの実施形態では、吸着される低分子量分子(例えば、60000D未満の分子)が所望の分子(例えば、バイオマーカー又は薬物マーカー)であってもよい。かかる分子は、例えば溶離剤中の極性を減少させることでコア実体から溶離され、次いでさらに分析される。別の例は、脂質除去の場合のように、標的分子がコア実体中に吸着されるが、さらなる分析のためには使用されない場合である。
【0031】
標的分子が細胞、細胞粒子、細菌、ウイルス、ウイルス様粒子、プラスミド、抗体又はタンパク質のような大きい分子/有機体/粒子である場合、それは通過画分中に得られ、したがって分離媒体によって吸着されない。
【0032】
別法として、標的分子は、リッド上に吸着される、細胞、細胞粒子、細菌、ウイルス、ウイルス様粒子、プラスミド、抗体又はタンパク質のような大きい分子/有機体/粒子である。次いで、標的分子は選択された吸着モードに適する技法(例えば、イオン交換:塩及び/又はpH勾配、IMAC:イミダゾール勾配、ボロネート:糖又はpH勾配、HIC:塩濃度の低下)によって溶離される。
【0033】
本発明に係る分離媒体の好ましい使用は、モノクローナル抗体の精製のためのものである。別の好ましい使用は、標的分子が1000kD未満の分子又は粒子である場合である。この実施形態はインフルエンザウイルスのようなウイルスの精製のために適するばかりでなく、IgM抗体のような他の大きい分子に対しても適している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、試験した3種のビーズデザインを図示したものである。1A:Sepharose 20 Fast Flow(20%アガロース粒子)及びスピニングディスク媒体、並びに1B:デキストランリッドSepharose 6 Fast Flow。IgG=モノクローナル抗体、P=約70000未満の分子量を有するタンパク質。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、マトリックス中に親水性領域及び疎水性領域の両方を有するクロマトグラフィー媒体であって、それ自体では疎水性であるマトリックス又は疎水性リガンドを有する親水性マトリックスに基づくことができ、親水性の外層を具備しているクロマトグラフィー媒体に関する。かかる媒体はまた、疎水性リガンド(例えば、ビーズ中の疎水性内部コア)で内部が官能化された親水性マトリックスに基づくこともできる。
【0036】
合成経路の例は下記の通りである。
●それ自体で疎水性の出発原料(例えば、DVBビーズ)を親水性の多孔質層で覆う。
●それ自体では親水性の出発原料を疎水性官能基で完全に官能化し、次いで親水性の多孔質層で覆う。親水性マトリックスの層活性化を行い、内部に疎水性リガンドを結合する(図1)。
●疎水性マトリックスの層活性化を行い、外部を親水性官能化する。
【0037】
本発明はまた、抗体のような高分子量分子を液体の他の成分から分離する方法であって、要求される時間及びプロセス段階が先行技術の方法より少ない方法を提供する。これは、抗体のような所望の高分子量分子を含む液体をクロマトグラフィー媒体に接触させ、実質的に純粋な高分子量分子を非結合モード又は可逆的結合モードで回収する方法によって達成される。別の利点は、宿主細胞タンパク質のような低分子量分子が非常に低いイオン強度でも媒体の内部に吸着することである。
【0038】
クロマトグラフィー媒体の支持体マトリックス及びコア実体は、有機又は無機材料に基づくことができる。それは好ましくは、水に不溶であるが水中で多少とも膨潤し得る有機ポリマーからなる。好適なポリマーは、例えば多糖類に基づく、アガロース、デキストラン、セルロース、デンプン、プルランなどのポリヒドロキシポリマー、並びにポリアクリル酸アミド、ポリメタクリル酸アミド、ポリ(ヒドロキシアルキルビニルエーテル)、ポリ(ヒドロキシアルキルアクリレート)、ポリメタクリレート(例えば、ポリグリシジルメタクリレート)、ポリビニルアルコール、スチレンやジビニルベンゼンに基づくポリマー、及び上述のポリマーに対応するモノマーの2種以上を含むコポリマーのような完全合成ポリマーである。水に可溶なポリマーを、例えば架橋により、及び吸着又は共有結合を介して不溶性物体に結合することにより、不溶性になるように誘導体化することができる。OHに転化し得る基を示すモノマーのグラフト重合により、或いは例えば親水性ポリマー及び他の親水性化合物のような適当な化合物の結合又は吸着による最終ポリマーの親水化により、疎水性ポリマー(例えば、モノビニル及びジビニルベンゼンのコポリマー)上に親水基を導入することができる。エポキシド又は反応性ハロゲン化物を含む反応も使用できる。
【0039】
支持体マトリックス中に使用すべき好適な無機材料は、シリカ、ガラス、酸化ジルコニウム、黒鉛、酸化タンタルなどである。
【0040】
好ましい支持体マトリックスは、シラノール基、エステル基、アミド基及びシリカ自体の中に存在する基のような、加水分解に対して不安定な基を含まない。
【0041】
本発明の特に興味深い実施形態では、支持体マトリックスは、高性能用途のためには1〜1000μm、好ましくは5〜50μmの範囲内のサイズ、そして調製目的のためには50〜300μmの範囲内のサイズをもった不規則粒子又は球状粒子の形態を有する。
【0042】
興味深い形態の支持体マトリックスは、発酵供給液のような使用すべき液体試料又は緩衝液より高い密度又は低い密度を有する。この種のマトリックスは、流動床又は膨張床クロマトグラフィー並びに(例えば、撹拌槽内での)様々なバッチ操作のための大規模作業において特に適用可能である。流動床及び膨張床操作は、国際公開第92/18237号及び同第92/00799号に記載されている。これらのマトリックスの最も実際的な使用は、流動化液体の密度より高い密度をもった粒子/ビーズを上昇流と組み合わせることであった。膨張床モードにおけるこの種の支持体マトリックスは、試料溶液が粒状で粘着性の物質を含む場合に特に有益である。
【0043】
「親水性支持体マトリックス」という用語は、実際問題としては、マトリックスのアクセス可能な表面が親水性であってタンパク質にやさしいこと(即ち、表面がタンパク質を不可逆的に吸着して変性させないこと)を意味している。通例、親水性ベースマトリックス上のアクセス可能な表面は、例えば酸素及び/又は窒素原子を含む複数の極性基を暴露している。かかる極性基の例は、ヒドロキシル、アミノ、カルボキシ、スルホネート(S及びSPリガンド)、エステル、低級アルキルのエーテル(例えば、(−CH2CH2O−)nH(式中、nは2、3、4又はそれ以上の整数である。))である。
【0044】
場合によっては親水性増量剤からなる親水性表面コートは、概念的には支持体マトリックスに属する。
【0045】
通常/既定のHIC媒体では、タンパク質の結合を達成するため、移動相への塩の添加による極性の増加が必要とされる。次いで、結合したタンパク質は塩の濃度を低下させることでマトリックスから分離される。このように、この方法の欠点は原料への塩の添加が必要なことである。これは、大規模ユーザーにとって問題を引き起こし、結果としてコストの増加をもたらすことがある。通常のHIC媒体へのタンパク質の吸着は、0.75〜4Mの塩濃度で実施されるのが普通である(Jansson,J.−C.and Ryden,L.,Protein Purification−Principles,High Resolution Methods and Applications,VCH,Weinheim,pp.220−221)。
【0046】
本発明は、分離マトリックスの疎水性コア中に浸透するのに十分なだけ小さい分子(例えば、HCP)との相互作用を最大にすると共に、試料中の最も大きいタンパク質(例えば、MAb精製プロセスにおけるMAb分子及びMAb二量体)との相互作用を最小にする媒体に関する。さらに、本発明の一実施形態は、余分の塩添加を行わない移動相を使用できること、及び中性又はほぼ中性のリッド(非結合性のリッド)を有する実施形態に関して所望の高分子量分子又は有機体を回収するために溶離緩衝液(脱着緩衝液)を必要としないことを可能にする。
【0047】
宿主細胞タンパク質を捕獲するが大きいモノクローナル抗体は捕獲しないことを目標とするビーズの設計に関して3つの異なるアプローチを試験した。1つのアプローチでは、大きいタンパク質(モノクローナル抗体)を排除する多孔度をもったビーズを得るため、高いアガロース含有量(20%)に基づくアガロースビーズが設計された(図1A)。別のアプローチでは、Sepharose 6 Fast Flow及びゲル濾過リッドに基づく原型が製造された。リッドは、ビーズの外部セグメントにデキストランをカップリングすることで得られた。デキストランを充填したセグメント中に得られる細孔径は、mAbsのような大きい分子がビーズのコアに入るのを防止するように設計される(図1B)。第3のアプローチは、同時係属中のスウェーデン特許出願第SE0800263−6号に記載されたスピニングディスク媒体に基づいている。この場合にも、ビーズは、同一所有権者の層活性化特許第EP0966488号(Process for introducing a functionality)に記載されたようにして達成される中性外部セグメントの導入により、大きいタンパク質を排除するように設計された(図1A)。
【0048】
様々な原型に疎水性リガンドを結合する際には、合成方法を用いてリガンドがビーズの表面に結合するのを防止し、かくしてビーズの外部に対するモノクローナル抗体の疎水性相互作用による吸着も排除する。原型はリッド−OH/コア−オクチル媒体と呼ばれるが、これはオクチルリガンドがビーズのコア中にのみ結合していることを意味する。さらに、ビーズのコア中におけるリガンドの量は、生体分子のクロマトグラフィーにとって適切な任意のpHの調整された非常に低いイオン強度を有する吸着緩衝液を用いて宿主細胞タンパク質が吸着されるように調整される。
【実施例】
【0049】
実験の部
本実施例は例示目的のためにのみ示されるものであり、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明を限定するものと解すべきでない。
【0050】
実施例1:Sepharose 20 Fast Flow(A)、Sepharose 6 Fast Flow(B)及びスピニングディスク媒体(C)に基づくオクチル媒体の製造
マトリックスの体積とは沈降層の体積をいい、グラム単位で示したマトリックスの重量とは真空乾燥重量をいう。大規模反応の場合、磁石棒撹拌機の使用はビーズを痛めやすいので、撹拌とは懸垂型電動撹拌機のことをいう。小規模反応(最大20mLまでのゲル)は密閉バイアル内で実施され、撹拌とは振動テーブルの使用をいう。
【0051】
官能性の分析及びアリル化度、エポキシ化度又はビーズ上のイオン交換基の置換度の測定のためには通常の方法を使用した。
【0052】
A:リッド−OH/コア−オクチルSepharose 20 Fast Flowの製造
A1:Sepharose 20 Fast Flowの製造
アガロース(50g)を、95℃で約10時間加熱することで水(250g)に溶解した。溶液を乳化容器内のトルエン(375mL)及びエチルセルロース(35g)に添加し、温度を70℃に保った。乳化容器は羽根撹拌機を備えていた。温度を70℃に保ちながら、撹拌機の速度を150rpmから340rpmまで段階的に増加させた。顕微鏡によってアガロース粒子が所望のサイズを有すると判定された時点で、速度を150rpmに減少させた。その後、乳濁液を冷却し、ビーズをゲル化させた。ビーズをエタノール及び水で洗浄した。
【0053】
250mLのビーズに水を添加して総重量を310gにした。この懸濁液に、38gのNa2SO4、3.0mLの50%NaOH及び0.25gのNaBH4を添加し、温度を47℃に上昇させた。次いで、エピクロロヒドリン(31.4mL)及び水酸化ナトリウム溶液(21.6mL)をポンプで6時間かけて添加した。添加の完了後、反応を47℃で一晩続けた。次いで、スラリーを冷却し、60%酢酸でpH5〜6に中和した。最後に、ゲルをガラスフィルター上において蒸留水で注意深く洗浄した。その後、ビーズを43μm及び166μmの濾布上にふるい分けした。
【0054】
A2:OH−リッドアリルSepharose 20 Fast Flowの製造
アリル活性化Sepharose 20 Fast Flow。50gの水切りしたSepharose 20 Fast Flow(Sepharose(商標)6 Fast Flow、GE Healthcare社、ウプサラ、スウェーデン)を15mLの50%NaOH溶液、6gのNa2SO4及び0.1gのNaBH4と混合した。混合物を50℃で1時間撹拌し、次いで30mLのアリルグリシジルエーテル(AGE)を添加した。反応スラリーを50℃で17時間撹拌した。次いで、ゲルをガラスフィルター上において蒸留水、エタノール及び最後に再び蒸留水で洗浄した。
【0055】
部分臭素化及びNaOH処理(OH−リッドの形成)。10mLの水切りしたアリル化Sepharose 20 Fast Flowを5mLの蒸留水及び0.4gの酢酸ナトリウム中で撹拌した。キャップ付きバイアル内で10mLの蒸留水に溶解した125μLの臭素を添加し、撹拌を5分間続けた。水で洗浄した後、水切りしたゲルを7.5mLの2M NaOHと共に50℃で15時間撹拌し、次いで水で洗浄した。ビーズのコア中における残留アリル含有量を滴定によって測定したところ、0.37mmol/mLであった。
【0056】
A3:コアカップリング
ビーズのコア中におけるオクチルのカップリング。4.5mLのOH−リッドアリルSepharose 20 Fast Flow(上記参照)を完全に臭素化して洗浄した。水切りしたゲルを4.5mLの2M NaOH及び1mLのエタノール中における1.25mLのオクタンチオールの溶液と混合し、次いで50℃で16時間撹拌した。水、エタノール及び水で洗浄した後、ゲルを20%エタノール中で貯蔵した。
【0057】
B:リッド−デキストラン/コア−オクチルSepharose 6 Fast Flowの製造
B1:デキストランリッドアリルSepharose 6 Fast Flowの製造
Sepharose 6 Fast Flowのアリル化。Sepharose 6 Fast Flowを上記に従ってアリル化し、アリル含有量を滴定によって測定したところ259μmol/mLであった。
【0058】
部分臭素化。アリル化Sepharose 6 Fast Flow(100mL)をフラスコ内に秤取し、900mLの蒸留水及び1.3gの硫酸ナトリウムを添加した。次いで、激しく撹拌しながら0.3当量の臭素(400μL)をピペットで添加した。(臭素が消費された)約5分後、ゲルをガラスフィルター上において蒸留水で洗浄した。
【0059】
デキストランカップリング。51mLの部分臭素化ゲルをフラスコに移し、125mLの蒸留水中における30gのDextran ABの溶液を添加した。30分間撹拌した後、10gのNaOH及び0.5gのNaBH4を添加し、スラリーを50℃に加熱し、一晩撹拌し続けた。約18時間後、pHを酢酸(60%溶液)で約7に調整した。次いで、ゲルをガラスフィルター上において蒸留水で洗浄した。
【0060】
B2:コアカップリング
ビーズのコア中におけるオクチルのカップリング。10mLの水切りしたゲル(デキストラン結合Sepharose 6 Fast Flow、上記参照)を蒸留水と共にビーカーに入れ、激しいオーバーヘッド撹拌を開始した。スラリーが残留する濃いオレンジ色/黄色を示すまで臭素を添加した。10分間の撹拌後、スラリーが完全に退色するまでギ酸ナトリウム(約1.5g)を添加した。次いで、ゲルをガラスフィルター上において蒸留水で洗浄した。水切りした臭素化ゲルをフラスコ内に秤取し、10mLの蒸留水及び2.3mLのオクタンチオールを添加した。次いで、pHをNaOH(50%溶液)で約12.5に調整した。次いで、混合物を50℃で一晩撹拌し続けた。20時間後、ゲルを蒸留水及びエタノールで洗浄した。
【0061】
C:リッド−OH/コア−オクチルスピニングディスク媒体の製造
C1:スピニングディスク媒体の製造
6%アガロース溶液を出発原料として使用した。多孔性応答に関連して温度、冷却速度、粘度、回転速度及び(ディスクへの)アガロース流量を検討した。
【0062】
スピニングディスク装置は、所定の仕様(下記参照)に従ってABB Industriservice社により製造された。
鋼品質:SS 2343−02(すべての規定品目について)
ポリマー材料:PTFE、ポリカーボネート(ドーム保護)、EPDM(エチレンプロピレンジエンモノマー)、シリコーンゴム
ドーム高さ:900mm
捕獲ベースン直径:排水路を含めて2400mm
捕獲ベースン勾配:3°
ディスク数:6
ディスク直径:200mm
全体のディスク厚さ:最大5.2mm
エッジでのディスク厚さ:135°の勾配を含めて12.4mm
上部圧力補償室の直径(アガロース溶液用):73mm
上部圧力補償室の高さ:6mm
分配ニードルの数:6
ニードルの内径:0.7mm
アガロース溶液をニードルによって6枚のディスクに供給した。1枚でなく6枚のディスクを使用することで、能力の増大が得られる。6枚のディスクの各々に対するアガロース流量は同一であった。これは、各ディスクに由来するビーズサイズが同一であることを意味する。ディスクの回転速度範囲は3001〜3010rpm以内に調整され、ドーム内の相対湿度は100%であった。相対湿度が100%未満であれば、アガロース液滴から水が蒸発するリスクが存在する。
【0063】
69.7℃及び397〜421mPasの範囲内の粘度に調整された6%アリル化アガロース溶液を用いてスピニングディスクに供給した。ディスクへのアガロース溶液の流量は、170mL/分に調整した。捕獲水温は20.1℃であった。
【0064】
エピクロロヒドリンで架橋させた後のスピニングディスクビーズの多孔度を表1に示す。多孔度は様々なデキストランを用いて推定し、ボイド容積はブルーデキストラン2000を用いて求めた。スピニングディスク原型は、免疫グロブリンをビーズに浸透させない多孔度が得られるように製造した。これは、約150000g/molより大きい分子量をもった分子はビーズ中に拡散するはずがないことを意味している。
【0065】
【表1】

粒度は190μm±5μmであった。スピニングディスク原型を用いて、約70000g/mol未満の分子量をもったタンパク質を捕獲するための媒体を製造したが、免疫グロブリン(ヒトIgG)のようなそれより大きい分子はビーズ中に拡散してビーズのコア中のリガンドと相互作用することはできないはずであった。
【0066】
C2:OH−リッドアリルスピニングディスク媒体の製造
アリル活性化スピニングディスク媒体。スピニングディスク媒体をガラスフィルター上において蒸留水で洗浄した。ゲル(25mL)をフィルター上で水切りし、三つ口丸底フラスコ内に秤取した。NaOH(20mL、50%溶液)を添加し、機械的撹拌を開始した。水素化ホウ素ナトリウム(0.1g)及び硫酸ナトリウム(2.9g)をフラスコに添加し、スラリーを水浴上で50℃に加熱した。約1時間後、27.5mLのアリルグリシジルエーテルを添加した。次いで、スラリーを一晩激しく撹拌し続けた。約20時間後、スラリーをガラスフィルターに移し、pHを酢酸(60%)で約7に調整した。次いで、ゲルを蒸留水(×4)、エタノール(×4)及び蒸留水(×4)で洗浄した。次いで、アリル含有量を滴定によって測定したところ、321μmol/mLであった。
【0067】
部分臭素化及びNaOH処理(OH−リッドの形成)。アリル化ゲル(11.6mL)をフラスコ内に秤取し、90mLの蒸留水及び1gの硫酸ナトリウムを添加した。次いで、激しく撹拌しながら0.3当量の臭素(57μL)をピペットで添加した。(臭素が消費された)約5分後、ゲルをガラスフィルター上において蒸留水で洗浄した。5mLの部分臭素化ゲルを水溶液としてフラスコに移した。次いで、NaOH(50%溶液)を添加してpH>13とし、スラリーを50℃に加熱し、一晩撹拌し続けた。約18時間後、pHを酢酸(60%溶液)で約7に調整した。次いで、ゲルをガラスフィルター上において蒸留水で洗浄した。
【0068】
C3:コアカップリング
ビーズのコア中におけるオクチルのカップリング。5mLの水切りしたOH−リッドスピニングディスク媒体を蒸留水と共にビーカーに入れ、激しいオーバーヘッド撹拌を開始した。スラリーが残留する濃いオレンジ色/黄色を示すまで臭素を添加した。10分間の撹拌後、スラリーが完全に退色するまでギ酸ナトリウム(約1.5g)を添加した。次いで、ゲルをガラスフィルター上において蒸留水で洗浄した。
【0069】
水切りした臭素化ゲルをフラスコ内に秤取し、10mLの蒸留水及び2mLのオクタンチオールを添加した。次いで、pHをNaOH(50%溶液)で約12.5に調整した。次いで、混合物を50℃で一晩撹拌し続けた。20時間後、ゲルを蒸留水及びエタノールで洗浄した。
【0070】
実施例2:ビーズのコア中のオクチルリガンドに基づく3種の原型のクロマトグラフィー評価
ブレイクスルー容量に関して検討すべき3種のオクチル媒体(原型:リッド−OH/コア−オクチルSepharose 20 Fast Flow、リッド−OH/コア−オクチルスピニングディスク及びリッド−デキストラン/コア−オクチルSepharose Fast Flow)をHR5/5カラムに充填し、緩衝液で平衡化した後、カラム中に試料溶液を0.3又は1.0mL/分の流量でポンプ輸送した。ブレイクスルー容量は、最大UV検出器信号(280nm)の10%で評価した。最大UV信号は、試験溶液を検出器内部に直接ポンプ輸送することで推定した。最大吸光度の10%でのブレイクスルー容量(Qb10%)は下記の式に従って計算した。
b10%=(TR10%−TRD)×C/Vc
式中、TR10%は最大吸光度の10%での保持時間(分)、TRDは系中の空隙時間(分)、Cは試料の濃度(4mgタンパク質/mL)、Vcはカラム容積(mL)である。ブレイクスルー容量測定で使用した吸着緩衝液は、25mM TRIS(pH8.0)又は50mM酢酸塩(pH4.75)であった。
【0071】
リッド−OH/コア−オクチルSepharose 20 Fast Flow原型はまた、通過モードで清澄供給液を用いて試験した。原型を充填したHR5/5カラムに供給液(32mL)をポンプ輸送し、通過画分(36mL)を宿主細胞タンパク質(HIC)の量及びモノクローナル抗体の回収量に関して分析した。これらの実験で使用した吸着緩衝液は、pH7.2に調整された25mMリン酸緩衝液であった。
【0072】
A:試料
ブレイクスルー測定のために使用した試料は、ヒト免疫グロブリン(IgG、Gammanorm)、オボアルブミン及びリゾチームであった。タンパク質は4mg/mLの濃度で吸着緩衝液に溶解し、一度に1種のタンパク質のみをカラムに適用した。
【0073】
モノクローナル抗体(mAb)は、NS0細胞で発現させたIgG1であった(IEFに基づき、そのplは7.5〜8.4の範囲内にある)。濾過した非精製細胞培養上清を試料として使用した。試料中のmAb濃度は1.3mg/mLであり、32mLの試料をカラム(リッド−OH/コア−オクチルSepharose 20 Fast Flow原型を充填したHR5/5カラム)に適用した。モノクローナル抗体の製造で使用した増殖培地は、DMEM(Gibco社)及び10%ウシ胎児血清(FCS、Gibco社)であった。
【0074】
B:機器
装置
LCシステム:AKTA explorer 10XT又は同等品
ソフトウェア:UNICORN
カラム:HR5/5
機器パラメーター
流量:0.3、0.5又は1.0mL/分
検出器セル:10mm
波長:280nm
B1:UNICORN法
ブレイクスルー実験で使用した主な方法を以下に記載する。
0.00 ベースCV1.00{mL}#カラム容積{mL}任意
0.00 ブロック 開始条件
0.00 ベース メインと同じ
0.00 波長280{nm}254{nm}215{nm}
0.00 平均化時間2.56{秒}
0.00 アラーム圧力エネーブル3.00{MPa}0.00{MPa}
0.00 エンドブロック
0.00 ブロック カラム位置
0.00 ブロック 平衡化
0.00 ベース メインと同じ
0.00 ポンプA入口 A1
0.00 緩衝液弁A1 A11
0.00 流量0.3{mL/分}
1.00 セットマーク()#カラム名
3.9 オートゼロUV
5.0 #平衡化体積 エンドブロック
0.00 ブロック 試料ローディング
0.00 ベース容積
0.00 流量(1)#流量{mL/分}
0.00 セットマーク()#試料
0.00 注入弁 注入
0.00 監視(100)#20%最大吸光度超UV{mAu}エンドブロック
49.00 注入弁 ロード
49.00 エンドブロック
0.00 ブロック カラム洗浄
0.00 ベース メインと同じ
0.00 注入弁ロード
0.00 監視オフUV
0.00 ポンプA入口 A1
0.00 緩衝液弁A1 A11
0.00 監視(20)#5%未満UV{mAu}エンドブロック
20.00 エンドブロック
0.00 ブロック 勾配溶出
0.00 ベース メインと同じ
0.00 ポンプB入口 B1
0.00 勾配100{%B}2.00{ベース}
0.00 流量0.30{mL/分}
10.00 勾配0.00{%B}0.00{ベース}
10.00 エンドブロック
0 ブロック 再平衡化
0.00 エンドメソッド
C:宿主細胞タンパク質(HCP)分析
ELISA用の試料を、10% 2.0M Tris,1% BSA,0.5% Tween20,pH8.0(450μLの試料に50μLのBSA溶液)の添加によって予備処理した。試料を「試料希釈緩衝液(Sample Diluent Buffer)」(カタログ番号F223A、Cygnus Technologies社)で希釈し、キット中性に規定された「高感度プロトコル」を使用しながらNS/0 HCP ELISAキット(カタログ番号F220、Cygnus Technologies社)で分析した。プレートの読取り及び評価のためには、分光光度計VERSA max及びソフトウェアSoftMax(商標)を使用した。
【0075】
D:結果
D1:リッド−OH/コア−オクチルSepharose 20 Fast Flow
リッド−OH/コア−オクチルSepharose 20 Fast Flowは、コアリガンドとしてオクチルを有するSepharose 20 Fast Flowに基づいている。基礎マトリックスSepharose 20 Fast Flowは、モノクローナル抗体がビーズに浸透するのを防止する多孔度を得るため、高いアガロース含有量を有するように設計されている。この場合、Sepharose 20 Fast Flowは高度のアリル基(0.37mmol/mL)で活性化されたが、これはビーズのコア中に高いリガンド含有量が得られたことを意味している。
【0076】
Sepharose 20 Fast Flowに基づく原型(リッド−OH/コア−オクチルSepharose 20 Fast Flow)に関するリゾチーム及びIgGのブレイクスルー容量を試験した。吸着緩衝液としては25mM TRIS(pH=8.0)を使用し、1.0M NaOH+30%イソプロパノールを脱着緩衝液として使用し、流量は1.0mL/分に調整した。原型をHR5/5カラムに充填した。
【0077】
試験の結果、IgGは吸着されなかった(Qb10=0)のに対し、リゾチームは約10mg/mLのブレイクスルー容量(Qb10)を有していた。これらの結果は25mM TRIS(pH=8.0)を移動相として使用して得られ、したがって小さいタンパク質の吸着を達成するために余分の塩添加が不要であることを明確に示している点に注目できる。
【0078】
このタイプの媒体は、主としてただ1回のサイクルのために使用することを目指している。しかし、吸着された宿主細胞タンパク質を溶離することも可能である。これを立証するため、1.0M NaOH+30%イソプロパノールを脱着緩衝液として使用することで吸着されたリゾチームを溶離した。
【0079】
D2:リッド−デキストラン/コア−オクチルSepharose 6 Fast Flow
この原型は、IgGがマトリックス中に拡散することを可能にする多孔度を有するSepharose 6 Fast Flowに基づいている。したがって、図1に従い、デキストランを付着させることでビーズの外部の細孔径を縮小させ、かくしてIgGがビーズ中に拡散するのを防止した。表2によれば、IgGのブレイクスルー容量は0mg/mLであったが、これはIgGがビーズ中に拡散しないことを明確に証明している。しかし、オボアルブミンに関しては比較的高いブレイクスルー容量(16mg/mL)が認められた。オボアルブミン及びIgGの分子量は、それぞれ約43000g/mol及び150000g/molである。これは、デキストランリッドが高い「サイズ選択性」を有していて、オボアルブミンをビーズ中に拡散させ得るのに対し、IgGがコアリガンドと相互作用するのは防止することを意味している。
【0080】
【表2】

D3:リッド−OH/コア−オクチルスピニングディスク
ブレイクスルー測定。リッド−OH/コア−オクチルスピニングディスクは、コアリガンドとしてオクチルを有するスピニングディスクビーズに基づいている。スピニングディスク媒体は、モノクローナル抗体がビーズに浸透するのを防止する多孔度を得るように設計された。スピニングディスク原型は高度のアリル基(0.32mmol/mL)で活性化されたが、これはビーズのコア中に高いリガンド含有量が得られたことを意味している。さらに、ビーズの外部にはいかなるリガンドも結合されなかった(ビーズの製法を参照されたい)。表1によれば、IgGのブレイクスルー容量は非常に低かった(0.6mg/mL)のに対し、オボアルブミンの容量は23倍高かった。これらの結果が示す通り、スピニングディスク原型の多孔度は非常に少ない量のIgGがビーズのコア中に拡散し得ることを意味している。
【0081】
mAb供給液の適用。いかなる他のクロマトグラフィーカラムにも通したことのない清澄供給液を、リッド−OH/コア−オクチルスピニングディスク原型を充填したHR5/5カラムに適用した。カラムを通過モードで操作し、通過画分を試料採取し、mAbの回収率及び宿主細胞タンパク質(HCP)の量について分析した。
【0082】
32mLのmAb(1.3mg mAb/mL)を、リッド−OH/コア−オクチルスピニングディスク原型を充填したHR5/5カラムに適用した。吸着緩衝液としては25mMリン酸ナトリウム(pH=7.2)を使用し、1.0M NaOH+30%イソプロパノールを脱着緩衝液として使用した。流量は0.5mL/分に調整し、36mLの通過画分を試料採取した。
【0083】
表3中に、回収率及びHCP測定から得られた結果を示す。HCP含有量は50%以上も減少し、mAbの回収率は89%であった。
【0084】
【表3】

実施例3:インフルエンザウイルスの精製
インフルエンザワクチンを目標にしてインフルエンザウイルスを大規模に製造する場合、最終製剤中のタンパク質及びDNAのレベルを低下させることが重要である。
【0085】
本発明の粒子はウイルスの精製のために良く適している。ウイルス粒子は、大部分の夾雑物よりサイズが顕著に大きいからである。
【0086】
これを以下の実施例で例示する。
【0087】
分析方法
ウイルス濃度
DotBlot HAアッセイを標準プロトコルに従って使用した。
【0088】
DNA濃度
PicoGreen(登録商標)DNAアッセイを(Invitrogen社から入手できる)製造者の取扱説明書に従って使用した。
【0089】
タンパク質濃度
Bradfordタンパク質アッセイを(Bio−Rad社から入手できる)製造者の取扱説明書に従って使用した。
【0090】
DNA試料中の分子量分布の分析のためのアガロースゲル電気泳動
E−Gel(登録商標)Agarose Gel 0.8%(Invitrogen社)プレキャストゲルを製造者の取扱説明書に従って使用した。
【0091】
使用したDNAラダーは1kb Plus DNAマーカー(Invitrogen社)であった。
【0092】
試料
自家製造したインフルエンザウイルス試料を本実験で使用した。ウイルスは、細胞溶解が起こるまでMDCK細胞中で増殖させた。インフルエンザウイルス株A/H1N1/Solomon Islandsを使用した。細胞溶解後、材料を限外濾過(UF)段階で約10×に濃縮し、ダイアフィルトレーション(DF)段階(Hollow Fiber Cartridge 500kDa)でさらに約2×に濃縮した。ダイアフィルトレーション緩衝液は50mM Tris−HCl,150mM NaCl,pH7.3であり、試料は使用時まで凍結した。
【0093】
クロマトグラフィー方法及び結果
カラム:厚さ7μmの中性外層及び内部にリガンドとしてオクチルアミンを有する本発明の粒子を充填した2mL Tricorn 5/100カラム。この実施例での粒子はアガロース粒子である。
【0094】
10mLのインフルエンザウイルス試料を75cm/時の流量で適用した。通過画分を集めた。
【0095】
出発原料及び通過画分をウイルス濃度、DNA濃度及びタンパク質濃度について分析した。ウイルス回収率、DNA除去率及びタンパク質除去率を計算した。結果を表4及び表5に示す。
【0096】
【表4】

【0097】
【表5】

上記の結果は、この精製段階の主な機能である良好なタンパク質除去率が得られることを示している。DNA除去率は低く、これはこの特定の試料中に高分子量DNAが存在することによって説明できる。
【0098】
約500塩基対までの分子量を有するDNAは効率的に除去される一方、それより大きいDNAは細孔構造に入り、粒子の内部に位置する正に帯電したオクチルアミンリガンドに結合することができない。
【0099】
このような場合には、通常の陰イオン交換段階のような第2の精製段階で大きいDNAを除去することができよう。
【0100】
別法として、Benzonase(登録商標)のようなヌクレアーゼで試料を処理することで、分子量を500塩基対より十分に低く低下させることができる。かくして、本発明の粒子を充填したカラムにインフルエンザウイルス試料を通した場合にほとんど完全なDNA及びタンパク質除去を達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の疎水性コア実体及びコア実体の外部全体を覆う多孔質の親水性リッドを含んでなる分離媒体であって、リッドが一定サイズ未満の分子のみを透過させて分離媒体のコア実体の内部と相互作用させる、分離媒体。
【請求項2】
疎水性コア実体が一定サイズ未満の分子のみを浸透させて分離媒体のコア実体の内部と相互作用させる、請求項1記載の分離媒体。
【請求項3】
疎水性コア実体がそれ自体で疎水性であり、疎水性ポリマーに基づいている、請求項1又は請求項2記載の分離媒体。
【請求項4】
疎水性コア実体がそれ自体では親水性であり、疎水性相互作用リガンドで官能化された親水性ポリマーに基づいている、請求項1又は請求項2記載の分離媒体。
【請求項5】
疎水性相互作用リガンドが脂肪族又は芳香族炭化水素からなる、請求項4記載の分離媒体。
【請求項6】
疎水性コア実体がpH区間2〜11において0〜1Mの低いイオン強度で低分子量分子及び/又は小サイズ分子の吸着を可能にする、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の分離媒体。
【請求項7】
コア実体が前記疎水性リガンドのほかに追加のリガンドを含み、前記追加のリガンドはコア実体上に位置し及び/又はコア実体と結合していてもよいし、及び/又は疎水性リガンド上に結合していてもよい、請求項4又は請求項5記載の分離媒体。
【請求項8】
前記追加のリガンドが静電的相互作用リガンドである、請求項7記載の分離媒体。
【請求項9】
コア実体が、一定サイズを超える分子が細孔に入るのを防止する細孔径を有する、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の分離媒体。
【請求項10】
親水性リッドが試料中の分子と可逆的に結合するリガンドを含む、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の分離媒体。
【請求項11】
コア実体及びリッドがアガロースから作製され、疎水性リガンドがC4〜C10リガンドである、請求項4乃至請求項10のいずれか1項記載の分離媒体。
【請求項12】
リッド中にヒドロゲルを供給して細孔を充填することで、細孔径をさらに減少させ、高分子量分子が細孔に入るのを防止するように調整する、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の分離媒体。
【請求項13】
コア実体中に磁性粒子が組み込まれる、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の分離媒体。
【請求項14】
リッド及び/又はコア実体が層活性化によって官能化される、請求項1乃至請求項13のいずれか1項記載の分離媒体。
【請求項15】
当該分離媒体がクロマトグラフィー媒体と混合され、当該分離媒体が総媒体体積の最大10%までを占める、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の分離媒体。
【請求項16】
当該分離媒体がオクチルリガンドを含み、クロマトグラフィー媒体が陽イオン交換媒体である、請求項15記載の分離媒体。
【請求項17】
pH2〜11において0M以上の低いイオン強度で試料から一定サイズ未満の分子を吸着させるための、請求項1乃至請求項16のいずれか1項記載の分離媒体の使用。
【請求項18】
一定サイズが、細胞、細胞粒子、細菌、ウイルス、ウイルス様粒子、プラスミド、抗体、脂質、タンパク質、ペプチド及び核酸から選択される分子/有機体/粒子によって表されるサイズ範囲に対応している、請求項17記載の使用。
【請求項19】
標的分子が60000D未満の小さい分子又は粒子である、請求項17又は請求項18記載の使用。
【請求項20】
標的分子が1000kD未満の分子又は粒子である、請求項17又は請求項18記載の使用。
【請求項21】
標的分子が、分離媒体上に吸着されないで通過画分中に得られる、細胞、細胞粒子、細菌、ウイルス、ウイルス様粒子、プラスミド、抗体又はタンパク質のような大きい分子/有機体/粒子である、請求項17乃至請求項20のいずれか1項記載の使用。
【請求項22】
標的分子が、リッド上に吸着される、細胞、細胞粒子、細菌、ウイルス、ウイルス様粒子、プラスミド、抗体又はタンパク質のような大きい分子/有機体/粒子である、請求項17乃至請求項21のいずれか1項記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2011−518337(P2011−518337A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506231(P2011−506231)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【国際出願番号】PCT/SE2009/050406
【国際公開番号】WO2009/131526
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)