説明

クロマトグラフ用の分離カラム

【課題】クロマトグラフ用の分離カラムに関し、大量のサンプルの成分分離を良好に達成するとともに安価に製造される技術を提供する。
【解決手段】移動相M及び固定相30に対する親和力の差を利用してサンプルSを成分Eに分離するクロマトグラフに用いる分離カラム10において、固定相30は、サンプルSが通過すると成分分離の機能を発揮する流路32が表面に設けられている担体シートを、巻回したものであり、さらには分割された一対の巻軸35を中心にして担体シート31が巻回していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフ用の分離カラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフ装置において一般に使用されるカラムとして、パックドカラム(充てんカラム)と、キャピラリーカラム(毛細管カラム)が挙げられる(例えば、特許文献1,2)。
このパックドカラムは、内径が大きいことにより比較的大量のサンプルを処理できるという利点を有する。しかしその反面、カラムに充填された充填剤の隙間をサンプルが流れる原理上、カラム内径が大きくなるにつれ内部の流れ分布が不均一化し検出信号がブロードピークになる欠点がある。このために、サンプルの成分分離が不十分となり検出信号におけるピーク分解能が低下する問題がある。
【0003】
一方で、キャピラリーカラムは、カラム内径が小さいことにより内部におけるサンプルの流れ分布が均一化し検出信号がシャープピークになる利点を有する。しかしその反面、パックドカラムに比較して流せるサンプルが少量であるために、ごく微量のサンプルしか取り扱えない欠点がある。
つまり、取り扱いサンプルが微量であることは、サンプル秤量に高い正確性が求められたり、カラム内に極微量のサンプルしか導入されないようにするスプリッターをクロマトグラフ装置に設けたり、検出信号の感度が低下したりする問題がある。
【特許文献1】特開平4−247557号公報(図2)
【特許文献2】特開平5−288716号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、パックドカラム及びキャピラリーカラムがそれぞれ有する欠点を補い利点を両立させる方法として、複数本のキャピラリーカラムを束ねてカラムを形成する方法が提案され、既に一部で製品化されている。しかし、そのように形成したカラムは、導入したサンプルをキャピラリーカラムの中空部分に通過させるため、その外周側を通過しないようにするシール機能を充実させる必要がある。
このために、製造コストが上昇する課題の解消が困難である。よって実用面に照らし、複数本のキャピラリーカラムを束ねて形成したカラムが、ユーザ要求を十分に満足させるレベルで、前記した欠点を克服し二つの利点を両立させた機能を実現させたとはいえない問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決することを課題とし、大量のサンプルの成分分離を良好に達成するとともに安価に製造されるクロマトグラフ用の分離カラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記した課題を解決するために、移動相及び固定相に対する親和力の差を利用してサンプルを成分分離するクロマトグラフに用いる分離カラムにおいて、前記固定相は、前記サンプルが通過すると前記成分分離の機能を発揮する流路が表面に設けられている担体シートを、巻回したものであることを特徴とする。
【0007】
このように発明が構成されることにより、前記分離カラムにおいてサンプルが通過する複数の流路は、それらを束ねるための特別な工程を経ることなく、担体シートを巻回するだけの簡略化した構造で実現される。そして流路は、キャピラリーカラムに相当し、サンプルが均一化した流れ分布で通過することを可能にする。さらに、この流路は、サンプルの流れ方向に対する垂直面の断面積の設定自由度が大きく、流動抵抗を小さくして大量の試料が流れるようにすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、大量のサンプルの成分分離を良好に達成するとともに安価に製造されるクロマトグラフ用の分離カラムが提供される。これにより、クロマトグラフ装置の構造の簡略化とサンプルの成分分析の高感度化と高分解能化とが同時に達成されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
分離カラム10は、図1(a)の全体斜視図に示されるように、移動相M及びサンプルSを導入し分離された成分Eを導出する配管11(11A,11B)に連結する連結部20(20A,20B)と、固定相30を内部に収容する管状体40とから構成されている。このように構成される分離カラム10は、クロマトグラフにおいて移動相M及び固定相30に対する親和力の差を利用してサンプルSを成分Eに分離するものである。
【0010】
ここでクロマトグラフとは、直列に繋がる配管11の上流に移動相Mを連続的に送出する送出手段を設け、その下流にサンプルSの注入手段を設け、その次に恒温装置により温度一定に保持された分離カラム10でサンプルSを成分Eに分離した後に、最下流に設けられる検出手段により成分検出し、検出されたピークの分離パターンから成分Eの定性及び定量を行う分析手法である。
ここで、クロマトグラフは、サンプルSが液体のものであれば移動相Mとして極性溶媒である溶離液が用いられる液クロ装置(LC)と通称され、サンプルSが気体のものであれば移動相MとしてHe等のキャリアガスが用いられるガスクロ装置(GC)と通称される。
【0011】
連結部20は、図1(b)に分離カラム10の端部が拡大され部分的に切断された断面が示されるように、キャップ21と、シール部材22と、ワッシャ23(23A,23B)、支承ナット24とから構成されている。
このように構成される連結部20は、配管11の先端を分離カラム10の一端に固定させるとともに、配管11Aにより移送された移動相M及びサンプルSを漏洩することなく固定相30の端面に導いて、分離された成分Eを固定相30の反対側端面から配管11Bの先端に漏洩することなく導くものである。
【0012】
キャップ21は、配管11の先端が接続されてサンプルが導入又は導出する導出入孔21aが設けられ、その内周面には、支承ナット24の外周面と螺合する螺旋溝が設けられている。このように構成されるキャップ21は、管状体40の一端の開口を塞ぐとともに、配管11の先端及び固定相30の端面の位置を固定するものである。
【0013】
支承ナット24は、管状体40を貫通し、その外周面には、キャップ21の内周面と螺合する螺旋溝が設けられている。このように構成される支承ナット24は、キャップ21に螺合する回転量に応じて、狭持するシール部材22を圧縮するものである。
これにより、シール部材22は、管状体40の半径方向に大きく歪んで、管状体40の外周面とキャップ21の内周面とを、弾性的に押圧し隙間無く密着させるものである。
このように、シール部材22が、管状体40の外周面とキャップ21の内周面とを密着させることにより、両者が機械的に一体化するとともに、両者の隙間から移動相M及びサンプルSが漏洩することを抑制する。
【0014】
ワッシャ23(23A,23B)は、環状の第1ワッシャ23Aと、第2ワッシャ23Bとであり、同じく環状のシール部材22の両端面に均等に当接してこれを狭持する。そして、第1ワッシャ23Aは、管状体40の縁部分に架かるような断面L字形状を有し、反対側の端面がキャップ21の内底面に当接するように構成されている。また第2ワッシャ23Bは、支承ナット24の縁部分に当接するとともに、回動する支承ナット24に対し第2ワッシャ23Bの端面が支承ナット24の縁部分に摺接するように構成されている。
【0015】
なお、連結部20は、前記した構成に限定されることなく、配管11と管状体40とを接続することができる公知の異径継手を適宜採用することができる。
【0016】
固定相30は、図2(a)にその展開図が示されるように、流路32が表面に設けられている担体シート31を、図2(b)に示すように巻軸35を中心にして巻回したものである。このように構成される固定相30は、片側の端面から導入したサンプルS(図1参照)を流路32に通過させることによりこのサンプルSを成分分離させて反対側の端面から導出するものである。
これにより、サンプルSが通過する複数の流路32は、それらを束ねるための特別な工程を経ることなく、担体シート31を巻回するだけで形成されることになる。そして、分離カラム10(図1参照)は、簡略化した構造で、通過するサンプルSを、流れ分布の均一性を維持しつつ成分分離する。
【0017】
担体シート31の寸法は、厚さが数十μmから数mm程度であり、サンプルSの流れ方向の幅が分離カラム10の長さに対応する数cmから数十cmであり、これに垂直な方向の幅は、巻き上がった状態の太さが数mmから数cmになる程度の長さに調節する。
そして担体シート31は、材質として、巻き付け作業が容易であって、サンプルS(図1参照)や移動相Mに対して耐腐食性があり、不活性であり、測定時やコンディショニング時の温度変化により変質せず、サンプルSや移動相Mを容易に透過させない特性を備えることが望ましく、樹脂、金属及びカーボン繊維などを適宜採用することができる。
また担体シート31にサンプルSの成分分離機能を持たせる方法としては、その材質自体に成分分離機能を具備しているものを選択する場合の他、担体シート31の表面を成分分離機能を具備する薄膜でコーティングしても良い。そのようなコーティングするタイミングとしては、担体シート31を巻回する前でも良いし、巻回した後でも良い。
【0018】
巻軸35は、分割された一対のものが担体シート31の始端部を狭持し、これを中心軸として担体シート31を巻回させることにより固定相30の中心に配置される。
この巻軸35の断面形状は、特に限定されないが、担体シート31を挟んだ状態で円形断面であることが望ましい。これにより、巻軸35と担体シート31とを接着させる必要性もなく、巻回した後の固定相30の断面を円形形状にして管状体40への組み込みが容易になる。ただし巻軸35の形状は特に限定はなく、特に分割されている必要もなく、担体シート31を巻回するための軸として細い棒状のものであれば適宜用いることができる。
【0019】
また巻軸35の材質は、製造工程において作業上支障の無い程度の強度があり、サンプルSや移動相Mに対して耐腐食性があり、不活性であり、測定時やコンディショニング時の温度変化により変質しない物であれば特に限定なく用いることができ、樹脂や金属などが望ましい。
そして巻軸35の寸法は、担体シート31を巻回する際の作業性と、成形後の分離カラム10の省スペース性とを考慮して、太さが1mm程度から数mm程度であることが望ましく、長さが、担体シート31のサンプルSの流れ方向の幅と同等程度であることが望ましい。
【0020】
流路32は、図3(a)(b)(c)として三種類の実施例が示されるように、担体シート31の表面に設けられ、サンプルSが通過すると成分分離させる機能を発揮するものである。
図3(a)に示される流路32A(32)は、担体シート31Aの表面に断面がV字状に刻設されており、その両端が固定相30(図1参照)の両端面に開口する溝形状となっている。この流路32の断面の寸法(溝深さ、最大幅)は数μmから数百μm程度が望ましく、その間隔(ピッチ)は巻回された後の固定相30が所望の流動抵抗を示すように自由に設定される。
なお、流路32の断面形状は特に限定されず矩形であってもよく、またその方向も、図面では分離カラム10の長手方向に対し平行なものが例示されているが、このように限定される必要はなく、その長手方向に対し螺旋状に設けられる場合もある。
【0021】
図3(b)に示される流路32B(32)は、担体シート31Bの表面に設けられた畝36が対向する担体シート31の裏面に当接した結果その斜面により閉じられた空間により形成されている。この流路32の断面形状及び溝方向については、図示されたものに限定されないが、前記した図3(a)の流路32Aついてした記載から自明に導かれる範囲での変形が可能である。
【0022】
図3(c)に示される流路32C(32)は、担体シート31Cの表面に設けられた複数の突起37が対向する担体シート31の裏面に当接した結果生じた一定間隔の空間により形成されている。この複数の突起37の大きさ、形状、密度については、所望の流動抵抗を示すように自由に設定され、一般に大きさ及び密度は小さい方が流路32Cの断面積が大きくなり流動抵抗を小さくするのに寄与するが、度を越すと当接の結果生じる一定間隔の空間が潰れてしまい逆効果になる。
【0023】
以上説明した流路32は、複数本のキャピラリーカラムを束ねた構造に相当し、サンプルSを、均一化した流れ分布で通過させることになる。そしてこの流路32は、サンプルSの流れ方向に対する垂直断面を広く設定することが容易であるために、流動抵抗が小さく大量のサンプルSを流すことができる。
【0024】
管状体40は、図4(a)(b)として二種類の実施例が示されるように、固定相30の側周面を取り囲むようにして配置されるものであって、当該部分における分離カラム10の機械的強度を確保するものである。
【0025】
図4(a)に示される管状体40は、円筒部材40Aであって、その内部の円筒空間に巻回された固定相30が挿入される。
図4(b)に示される管状体40は、巻装シート40Bであって、巻回された固定相30が、さらにこの巻装シート40Bにより巻回される。この巻装シート40Bは、作業性の観点から数十μm程度の厚さのものを数回から数十回にわたり巻回して管状体40を形成することが望ましい。
これにより、固定相30の側周面に管状体40の内側面を密着させて設けることができるので、管状体40はサンプルSや移動相Mに接触することがほとんどない。
また、巻回された巻装シート40Bの終端は、その巻回が解けないように、側周面に接着させたり管状体40の外周をバンドで縛ったりするなどして固定する必要がある。
さらに、分離カラム10に導入される移動相Mの液圧により、固定相30が変形しないように固定相30を内側又は外側から支持する支持部材が設けられる場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は本発明に係る分離カラムの実施形態を示す全体斜視図であり、(b)はこの分離カラムの端部を拡大して示す部分断面図である。
【図2】(a)(b)は分離カラムの固定相の部分を展開させた展開図である。
【図3】(a)(b)(c)はそれぞれ、担体シートの表面に設けられている流路の実施例を示す図である。
【図4】(a)は固定相の側周面に配置される管状体の実施例を示す分離図であり、(b)は他の実施例を示す展開図である。
【符号の説明】
【0027】
10 分離カラム
11,11A,11B 配管
20 連結部
21 キャップ
21a 導出入孔
22 シール部材
23,23A,23B ワッシャ
24 支承ナット
30 固定相
31,31A,31B,31C 担体シート
32,32A,32B,32C 流路
35 巻軸
36 畝
37 突起
40,40A 円筒部材(管状体)
40,40B 巻装シート(管状体)
E 分離成分
M 移動相
S サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相及び固定相に対する親和力の差を利用してサンプルを成分分離するクロマトグラフに用いる分離カラムであって、
前記固定相は、前記サンプルが通過すると前記成分分離の機能を発揮する流路が表面に設けられている担体シートを、巻回したものであることを特徴とするクロマトグラフ用の分離カラム。
【請求項2】
前記固定相の中心には、巻回する前記担体シートの始端部を狭持する分割された一対の巻軸が配置されることを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフ用の分離カラム。
【請求項3】
前記担体シートの表面に設けられている前記流路は、その表面に刻設されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクロマトグラフ用の分離カラム。
【請求項4】
前記担体シートの表面に設けられている前記流路は、その表面に設けられた畝の斜面により形成されるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクロマトグラフ用の分離カラム。
【請求項5】
前記担体シートの表面に設けられている前記流路は、その表面に設けられた複数の突起により形成されるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクロマトグラフ用の分離カラム。
【請求項6】
前記固定相の側周面には、巻装シートを巻回してなる管状体が配置されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のクロマトグラフ用の分離カラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−281797(P2009−281797A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132644(P2008−132644)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)