説明

クロマトグラフ装置

【課題】
試料保持容器の追加・交換時の操作性を悪化させることなく、安全性の高いクロマトグラフ装置を実現すること。
【解決手段】
開閉扉10,11と、開閉扉の施錠機構部15と、開閉扉の開閉状態を検知するセンサ13とを備え、試料保持容器6(並びにサンプルラック1)を装置内部に設置するために前記扉10,11を開閉するクロマトグラフ装置において、前記センサ13が扉10,11の閉状態を示し、かつ試料保持容器6内の試料の分析を開始したときに施錠機構部15を作動して扉を施錠し、ニードル2、シリンジ9等の機構部が動作した後、復帰及び洗浄動作が終了した時に前記施錠を解除するように構成することで、一時停止機能等の操作を必要とせずに、安全な試料保持容器の追加・交換作業を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロマトグラフ装置に係り、特に試料保持容器を内部に設置するための開閉扉を有するクロマトグラフ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ装置やガスクロマトグラフ装置では、装置を機能毎に分離して機能毎に筐体に収納し、各筐体を高さ方向に積層して構成したものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された液体クロマトグラフ装置においては、送液ポンプユニット、オートサンプラユニット、カラムオーブンユニット、検出器ユニットに機能が分割配置された構成が記載されている。また、特許文献2に記載された液体クロマトグラフ装置においては、ポンプ装置、試料供給装置、カラムオーブン装置、検出装置に機能が分割配置された構成が記載されている。また、特許文献3に記載されたガスクロマトグラフ装置においては、キャリアガス容器部、カラム部、カラム昇温部、サンプルガス注入部、データ表示部のそれぞれを収容する筐体の外面を同一形状に形成して積層した構成が記載されている。
【0004】
このようなクロマトグラフ装置には、ラックホルダに装着されたサンプルラックに並べられた試料保持容器(サンプル瓶)中の試料液を、ニードルによって吸引してクロマトグラフの移動相(キャリア)中に自動的に注入する自動試料導入装置(オートサンプラユニット、試料供給装置、サンプルガス注入部)を備えたものがある。自動試料導入装置内部に設置されたサンプルラックは、自動試料導入装置に対して着脱可能な構造とされることがある。このような構造とすると、サンプルラックを自動試料導入装置から取り外して別の場所で試料保持容器の取り付け・取り外し作業を行うことができるので、使用者の使い勝手を向上させることができる。サンプルラックを複数個用意し、前もって試料保持容器の設置作業を行っておけば、試料液の迅速な交換も可能となる。
【0005】
ここで、特許文献1や特許文献2に記載されたクロマトグラフの自動試料導入装置の前面は、使用者が開閉可能な扉を有している。使用者は、分析対象となる試料保持容器(が並べられたサンプルラック)を追加・交換する際や、装置のメンテナンスの際に、前記扉を手動で開閉させる。この扉の設置理由としては、環境温度変化に対する装置内温度変化(試料液の温度変化)を低減させ再現性の高い分析結果を得ること、外部からの粉塵の装置内混入を防止すること、使用者が誤って分析中に自動試料導入装置の稼動部へ接触するリスクを低減すること(安全性向上)等が挙げられる。
【0006】
このような従来の試料導入装置においては、注入動作中に使用者が扉を開けて上述した作業を実施し、誤って移動中のニードルや試料計量部に接触して怪我をするようなリスクに対する回避策は、装置使用上の取扱手順や警告表示等の注意喚起によるものが主であり、危険ポテンシャルを低減できるかどうかは、使用者自身の個々の注意意識に依存するところが大きい。
【0007】
ところが、クロマトグラフ装置に対する技術背景を顧みると、装置のスループットは将来も変わらず改善が求められる性能指標であり、昨今の分析時間短縮のニーズの高まりと充填材技術の進歩に伴う高速分析カラムの出現によって、自動試料導入装置には更なる高い検体処理能力が要求されている。このため、試料導入装置の稼動部(ニードルや試料計量部など)は高速化、並列動作化が進んでおり、使用者に対する分析中の自動試料導入装置高速稼動部へ接触リスクは、益々、増加する結果をもたらす。
【0008】
このため、昨今の自動試料導入装置は、使用者が安全に試料保持容器(が並べられたサンプルラック)を追加・交換するための一時停止機能を搭載している場合が多い。例えば、このような試料導入装置においては、一連の検体処理シーケンスの実行中に使用者が一時停止操作を実行すると、装置はニードル移動や試料計量部動作等の注入動作のタスクをチェックし、必要最小限なタスクを完了させた後、待機状態へと移行する。待機状態では装置の稼動部は停止しているため、使用者は安全に試料保持容器(またはサンプルラック)の追加や交換が行える。
【0009】
試料保持容器(またはサンプルラック)の追加・交換後、使用者が一時停止の解除操作を再度実行すると、装置は待機状態から稼動状態へと移行し、休止していたシーケンスの途中から検体処理を開始する。残りの検体処理シーケンスを全て完了後、装置は再び、待機状態へと戻る。このように、装置に設けられた一時停止機能を利用することで、使用者が誤って装置内の稼動部に接触するリスクを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許4348025号公報
【特許文献2】特許3029365号公報
【特許文献3】実開昭61−189264号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、このような一時停止機能における特筆すべき課題は、試料保持容器(またはサンプルラック)の追加や交換を行う際の安全性を高める反面、使用者の使い勝手が犠牲にされる点にある。
【0012】
この一時停止機能は、通常、次のような手順に基づいて実現される。使用者はまず、一時停止を実行するための入力操作を装置に対して実行する。装置は使用者からの一時停止要求を受け付けると、一時停止可能な状態(以下、待機状態と呼称する)へ移行するための必要な処理を実行し、装置の画面上(図示省略)には待機状態へ移行中であることを示すウェイトメッセージの表示を行う。これは例えば、試料注入動作中の任意のタイミングで装置が急停止することを許可したとすると、試料が導入流路内に部分的に残留したまま、試料の分析データが取得できない場合があり、貴重な試料を無駄にしてしまうからである。従って、使用者は装置が待機状態へ移行するまでの間は待つ必要があり、試料保持容器(またはサンプルラック)の追加や交換作業は実施できない。
【0013】
待機状態への移行が完了すると、装置は待機状態へと移行したことを使用者に知らせるために、装置のLED(図示省略)を点灯したり、装置の表示画面上(図示省略)にメッセージの表示を行う。使用者は、これらの状態を確認して、試料保持容器(またはサンプルラック)の追加や交換が可能な状態か否かを判断し、試料保持容器(またはサンプルラック)の追加や交換作業を実施する。
【0014】
使用者は、試料保持容器(またはサンプルラック)の追加や交換作業を行った後、一時停止解除を実行するための入力操作を装置に対して実行する。これは、使用者の追加・交換作業完了を示す何らかの信号を受け取った後に初めて、装置はシーケンスの途中から検体処理を再開するか否かの判定が可能となるためである。
【0015】
この使用者に対する一時停止解除操作の煩わしさを解消するために、追加・交換作業用の一定のタイムアウト時間を設ける方法も採られるが、作業が即完了してしまったような場合は、タイムアウト時間分だけ装置の稼動時間をロスすることになる。逆に、タイムアウト時間が短か過ぎれば、使用者の作業完了前に装置が稼動し始めることになり、使用者に対する危険性が増すこととなる。
【0016】
以上の点から考えると、仮に一時停止機能を搭載した装置であっても、一時停止操作および一時停止解除操作の実行が完了するまでの間、使用者は装置の前を離れることが出来ず、煩わしさを感じることとなる。特に、使用者が一時停止操作を実行後、装置が待機状態に移行するまでの時間は数秒〜数分と幅が広く、この間、使用者は装置のことを気にかけておく必要がある。これでは必ずしも使い勝手の優れたクロマトグラフ装置とは言えない。
【0017】
本発明は、以上述べた最近の課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは使用者にとっての安全性を維持しつつ、操作性にも優れたクロマトグラフ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するための、本発明の主な特徴は、開閉扉と、前記開閉扉の施錠手段と、前記開閉扉の開閉状態を検知する扉開閉検知手段を有し、試料保持容器を装置内部に設置するために前記扉が開閉操作されるクロマトグラフ装置において、少なくとも待機状態と分析状態との間を遷移し、前記分析状態における装置内部の機構部動作区間を示す情報と前記扉開閉検知手段からの扉開閉信号とに応じて、前記開閉扉の施錠を制御する制御部を備えることで、分析状態時に開閉扉の施錠を制御するようにしたところにある。
【0019】
更に具体的には、前記分析状態を、少なくとも試料の注入動作区間、復帰動作区間、洗浄動作区間、及びデータ収集区間に区分し、前記機構部動作区間を前記注入動作区間、復帰動作区間、及び洗浄動作区間とすることで施錠する期間の短縮化を図り、更には、分析開始時に前記開閉扉が閉扉状態にあるときに施錠し、前記復帰動作区間及び洗浄動作区間が完了したときに前記施錠を解除することで使用者の操作を煩わすことなく安全を確実に確保する等、様々な特徴があるが、これらについては以下述べる実施の形態で明らかにする。
【0020】
また、機構部動作区間とは、試料の注入動作等のためにニードル、シリンダ等の可動機構が動作している区間をいい、その可動機構の具体的構造は装置によって異なる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、機構部動作区間を示す情報と扉開閉信号とに応じて開閉扉の施錠を制御するので、一時停止機能等の操作を必要とせずに、試料保持容器の追加・交換作業等を安全に行うことが可能となることから、安全性及び操作性に優れたクロマトグラフ装置を
実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフ装置のブロック図。
【図2】本発明の他の実施例に係る液体クロマトグラフ装置のブロック図。
【図3】本発明の一実施例に係る試料導入装置の概観図。
【図4】図3に係る試料導入装置の扉開扉状態を示す概観図。
【図5】本発明の一実施例に係る試料保持容器の構成図。
【図6】本発明の一実施例に係る扉施錠機構部の開錠時の概観図。
【図7】本発明の一実施例に係る扉施錠機構部の施錠時の概観図。
【図8】本発明の一実施例に係る自動試料導入装置の状態遷移図。
【図9】本発明の一実施例に係る分析状態のタイミングチャート。
【図10】本発明の一実施例に係る分析状態のフローチャート。
【図11】本発明の他の実施例に係る自動試料導入装置の状態遷移図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。尚、以下の実施に形態では、クロマトグラフ装置として液体クロマトグラフ装置を例に挙げ、装置を機能毎に分離して機能毎に筐体に収納する構成を例に挙げて説明するが、ガスクロマトグラフ装置、或いは装置全体を1つ又は複数の筐体に収納する構成であっても、試料保持容器を内部に設置するための開閉扉に対して本発明を同様に適用できることは言うまでもない。
【0024】
図1は本発明の一実施例に係る液体クロマトグラフ装置のブロック図を示す。
移動相81は、送液装置82によって送液される。試料は試料導入装置100により分析流路に導入され、カラム恒温槽83内のカラム86によって分離され、検出器84に送られた後、ドレイン92へと排出される。データ処理装置85は検出器84の信号を受け取ってデータ処理を行い、成分の定性・定量分析結果を出力する。送液装置82、試料導入装置100、カラム恒温槽83、検出器84、データ処理装置85は各々、制御部87〜91を装置内に有する。
【0025】
図2は本発明の別の実施例に係る液体クロマトグラフ装置のブロック図を示す。
図1との相違点は、システムコントローラ93内のシステム制御部94が、送液装置82、試料導入装置100、カラム恒温槽83、検出器84を集中管理する点である。データ処理装置85は、システムコントローラ93を介して、検出器84の信号を受け取ってデータ処理を行い、成分の定性・定量分析結果を出力する。
【0026】
図3及び図4に液体クロマトグラフ装置の一部を構成する自動試料導入装置の概観を示す。自動試料導入装置100の前面には、観音開きとなる2枚の左扉10、右扉11が設けられており、図3は装置前面の左扉10、右扉11を閉じた状態を、図4は装置前面の左扉10、右扉11を開けた状態を示している。
【0027】
試料液を内包した試料保持容器6(図5参照)を装填したサンプルラック1は、自動試料導入装置100から着脱可能な構造となっており、分析時は装置の内部に設置されている。ニードル2はアーム3によって左右(X)、前後(Y)、上下(Z)の3軸方向に移動し、試料保持容器6、洗浄槽4、試料注入口5(流路切替バルブ7上に設置)の間を自由に移動する。ニードル2は配管(図示省略)を介して流路切替バルブ8に接続され、更に配管(図示省略)を介して試料計量部であるシリンジ9に接続されている。
【0028】
分析開始時は、ニードル2を洗浄槽4にて洗浄後、試料保持容器6に挿入し、シリンジ9を駆動させてニードル先端から測定対象となる試料を吸引する。試料吸引後、ニードル2を試料注入口5に挿入し、シリンジ9を駆動させて、流路切替バルブ7に接続されたサンプルループ(図示省略)配管内に試料を送り込む。その後、流路切替バルブ7を切り替えて、分析流路内に試料を導入する。また、自動試料導入装置100の内部には、上述したニードル2、シリンジ9、流路切替バルブ7、8を駆動するための制御基板および電源(図示省略)が搭載される。
【0029】
自動試料導入装置100の左扉10、右扉11は、以下の手順に従って開閉操作を行うように、構造設計されている。
(a)両扉を開ける際は、先に左扉10を開けてから、次に右扉11を開ける手順とする。
(b)両扉を閉じる際は、先に右扉11を閉じてから、次に左扉10を閉じる手順とする。
【0030】
例えば、先に左扉10を閉じてから、次に右扉11を閉じようとすると、右扉11に設けられている突起部31が左扉10にぶつかって、右扉11が正しく閉じられない構造となっている。左扉10、右扉11の両方が正しく閉じられた状態においては、左扉10に設置された検知板12と、右扉11に設置された扉開閉検知センサ13によって、両扉が閉じられた状態を検出可能である。また、装置前面には扉施錠機構部15が設置されており、左扉10、右扉11の両方が正しく閉じられた状態において、ツメ16が扉施錠機構部15に保持され、両扉10、11が開かないよう施錠することが可能である。
【0031】
使用者が試料保持容器6(または試料保持容器6を装填したサンプルラック1)を装置内に設置する場合は、左扉10の開閉操作のみ行えば良く、特に右扉11の開閉操作を行う必要はない。一方、使用者が洗浄槽4、試料注入口5、流路切替バルブ7、8、シリンジ9等のメンテンスを実施する際は、右扉11を開けて操作を行う必要がある。
【0032】
また、左扉10には装置内部が目視確認できる窓14を設けられており、使用者は分析中に左扉10が閉じられた状態でも、
(a)ニードル2が動作中であるか
(b)設置した試料保持容器6に、ニードル2が正しく挿入されるか
といった点検項目について、目視確認することが可能である。
【0033】
図5はサンプルラック1に装填される試料保持容器6の構成図である。この図に示す試料保持容器6は、略円筒状に形成されており、キャップ61と、セプタム62と、試料びん63を備えている。試料びん63は、略円筒状に形成された胴部63aと、胴部63aよりも径が小さく開口部を有する首部63bとによって形成されている。試料びん63には測定対象となる試料液が取り分けられており、試料びん63の開口部はセプタム62を介してキャップ63にて封止されている。
【0034】
図6は本発明の一実施例に係る扉施錠機構部15の開錠時の構成図である。
図6(a)に示すように、扉施錠機構部15はカバー17を有している。また、カバー17は開口18を有しており、左扉10に設置されたツメ16は開口18を出入りすることが可能である。
【0035】
図6(b)はカバー17を外した状態図であり、移動版19にはソレノイド21が連結されていて、移動版19は左右にスライド可能な構造となっている。ソレノイド21への電圧が遮断された状態(無通電状態)では、移動版19は圧縮バネ24によって右側にスライドした状態で押し付けられ、停止している。
【0036】
図6(c)は、ソレノイド21へ電圧遮断状態(無通電状態)において、左扉10のツメ16と、移動版19の切り欠き20との位置関係を拡大した図である。ツメ16は切り欠き20に何ら干渉することなく、装置奥行き方向の空間を自由に移動可能となるため、右扉11を閉じた状態においては、左扉10を自由に開閉することが可能である。
【0037】
図7は本発明の一実施例に係る扉施錠機構部15の施錠時の構成図である。両扉を閉じた状態において、ソレノイド21への電圧を印加(通電)すると、移動版19は電磁力によって、左側にスライドした状態で停止する。この時の、左扉10のツメ16と、移動版19の切り欠き20との位置関係の拡大図を図7(b)に示す。ソレノイド21へ電圧印加状態(通電状態)においては、ツメ16が移動版19の切り欠き20に引っ掛かって装置奥行き方向の動きを拘束するため、使用者が左扉10を開けようとしても、扉を開けることができない。かかる構成によって、両扉を施錠することが可能となる。
【0038】
また、本実施例においては、移動版19の表面は青色に、カバー面23は赤色に塗装されているため、使用者が左扉10に設けられた覗き窓35を通して装置内部を見た場合、カバー17に設けられた覗き窓22を介して、ソレノイド21への電圧遮断状態(無通電状態)では移動版19の青色面が、ソレノイド21への電圧印加状態(通電状態)ではカバー面23の赤色の面が、使用者に見える構造となっている。
【0039】
即ち、使用者は分析中に両扉が閉じられた状態においても、覗き窓22を通した表面色を確認することによって、
(a) 青色なら両扉が自由に開閉可能な状態(施錠解除の状態)
(b) 赤色なら両扉が施錠され開閉不可能な状態
であることを目視判別することできる。かかる構成は、扉の施錠状態を目視確認可能な機械式インジケーターの役割を実現できる。この使用者に対する装置施錠状態の確認機能については、例えば、試料導入装置100の前面に搭載したLED34や表示画面31にて識別可能な構成であっても良い。
【0040】
図8は本発明の一実施例に係る自動試料導入装置の状態遷移図を示している。
電源スイッチ33を投入すると、装置の初期化処理72が開始される。初期化処理72が完了すると、装置は待機状態73に移行する。待機状態73においては、現在の装置状態を表すステータスを表示画面36に表示する。また、本発明の自動試料導入装置100をパーソナルコンピュータ等の情報端末で制御する場合は、情報端末の画面にステータスを表示してもよい(図示省略)。使用者はステータスを確認することで、現在の装置状態を把握することができる。
【0041】
待機状態73からは、使用者が操作ボタン32(または情報端末)を操作することで、条件設定状態74、分析状態75、装置保守状態76に移行することが可能である。条件設定状態74では、試料注入量、分析する試料保持容器の指定、分析の繰り返し回数、分析時間、流路の洗浄時間等のパラメータの設定を行う。装置保守状態76では、部品交換のための装置操作、装置の動作記録の閲覧、分析前の準備操作、機構部の位置調整等を行う。
【0042】
分析状態75では、条件設定状態74にて設定されたパラメータに基づいて、実際に試料の分析を行う。試料の分析が完了すると、待機状態73へと移行する。試料導入装置100の制御部88は、上述した待機状態73、条件設定状態74、分析状態75、装置保守状態76を示す情報、並びにこれら状態において使用されるパラメータを記憶する記憶部を備えている(図示省略)。
【0043】
本実施例では、分析状態75においては扉施錠機能を有効とし、それ以外の状態においては扉施錠機能は無効としている。以下、扉施錠機能の詳細について、図9および図10を用いて説明する。
【0044】
図9は、図8の自動試料導入装置を用いたクロマトグラム装置の一実施例における分析状態、ここでは特に多検体の連続分析を行った場合のタイミングチャートを示している。
【0045】
分析開始40の命令が実行されると、最初に扉開閉検知センサ7の信号チェック41を実行して、両扉が閉じているか否かを判別する。両扉が開いていた場合は、装置前面の表示画面36や制御情報端末の画面上に(図示省略)、使用者に扉を閉じる操作を促すメッセージを表示して、待ち状態に入る。自動試料導入装置100は扉開閉検知センサ7の信号を定期的に監視し、両扉が閉じられたことが確認できたら、ソレノイド21への電圧を印加(通電)して両扉を施錠し、注入動作45を開始する。
【0046】
ここで、注入動作45とは、試料吸引後にニードル2を試料注入口5に挿入し、流路切替バルブ7をINJECT側→LOAD側へ切り替えた後、シリンジ9を駆動させて流路切替バルブ7に接続されたサンプルループ(図示省略)配管内に、試料を送り込む一連の動作を指す。
【0047】
その後、流路切替バルブ7の切替42(LOAD側→INJECT側へ切り替える)を実行して分析流路内に試料を導入し、クロマトグラムデータの収集44を開始する。データ収集44開始後、自動試料導入装置100は復帰動作46を実行する。注入動作45や復帰動作46に並行して、洗浄ポンプ26によって洗浄液(図示省略)を送液することによって、試料に汚染されたニードル2の内外壁や、洗浄槽4、流路切替バルブ8、配管(図示省略)等を洗浄する。
【0048】
注入動作45や復帰動作46中は、ニードル2やシリンジ9が高速で移動するが、扉施錠機構15によって両扉が施錠されているため、使用者が試料保持容器6(が並べられたサンプルラック1)を追加・交換する目的で扉を開けて、誤って高速移動部に接触するといった危険を完全に排除することが可能である。
【0049】
復帰動作46が終了すると、装置は扉の施錠を解除する。この施錠解除区間48の間は、使用者は扉を開閉させて、試料保持容器6(が並べられたサンプルラック1)の追加や交換が可能である。
【0050】
また、使用者は、扉の施錠状態を表示する図3に示した覗き窓35やLED34や表示画面36の目視確認を介して、今、扉を開けて試料保持容器6(が並べられたサンプルラック1)が交換可能な状態にあるかどうか、簡単に判別できる。
【0051】
通常、分析状態においては、注入動作45と復帰動作46の合計時間が数十秒程度であるのに対し、クロマトグラムデータの収集44の時間は数分〜数十分程度である。即ち、一検体当り、扉施錠区間47が数十秒程度であるのに対し、施錠解除区間48は数分〜数十分程度と十分に長いため、実際に試料保持容器(が並べられたサンプルラック)の追加・交換が実施可能な時間帯は、実施不可能な時間帯に比べて、十分に長いと言える。
【0052】
従って、使用者は大きなストレスを感じることなく、装置を使用することができる。また、従来の自動試料導入装置において必要であった、追加・交換時の一時停止、一時停止解除といった操作が不要となるため、使用者は一時停止機能の煩わしさから開放される。
【0053】
1検体目の分析43が終了し、2検体目の分析53を開始する際、再度、扉開閉検知センサ7のチェック41を実行して、両扉が閉じているか否かを判別する。両扉が開いていた場合は、装置前面の表示画面36や、装置を制御する情報端末の画面上に(図示省略)、使用者に扉を閉じる操作を促すメッセージを表示して、待ち状態に入る。
【0054】
自動試料導入装置100は扉開閉検知センサ7の状態を定期的に監視し、両扉が閉じられたことが確認できたら、ソレノイド21への電圧を印加(通電)して両扉を施錠し、注入動作55を開始する。以下、同様に要求されたN検体分の分析が完了するまで、連続分析を継続する。
【0055】
本実施例によれば、「分析状態において、注入動作・復帰動作中の区間」(分析中に使用者が誤って移動中のニードルやシリンジに接触する可能性があると判断される区間)に限り、使用者が装置の扉を開けられないように施錠し、それ以外の区間では施錠を解除させることによって、使用者にとって試料保持容器(またはサンプルラック)の追加・交換時の操作性を悪化させることなく、安全性の高い試料導入装置を供給することができる。
【0056】
装置保守状態76では、使用者の操作時に装置機構部の移動が伴う場合があるが(部品交換のための装置操作、分析前の準備操作、機構部の位置調整等)、使用者自身が意識して装置の移動機構を動かす操作を行うため、誤って高速移動部に接触するといった危険度は、分析状態75と比べて、大きく低減できていると考えられるからである。
【0057】
図10は、図8の自動試料導入装置を用いたクロマトグラム装置の一実施形態における分析状態(多検体の連続分析を行った場合)のフローチャートを示している。
分析が開始されると(ステップ40)、最初に扉開閉検知センサ7の信号をチェックして、両扉が閉じているか否かを判別する(ステップ112)。
【0058】
両扉が開いていた場合は、装置前面の表示画面36や制御情報端末の画面上に(図示省略)、使用者に扉を閉じる操作を促すメッセージを表示して(ステップ111)、待ち状態に入る。自動試料導入装置100は扉開閉検知センサ7からの信号を定期的に監視する(ステップ112)。両扉が閉じられたことが確認できたら、ソレノイド21への電圧を印加(通電)して両扉を施錠し(ステップ113)、注入動作を開始する(ステップ114)。
【0059】
ここで、試料注入動作とは、試料吸引後にニードル2を試料注入口5に挿入し、流路切替バルブ7をINJECT側→LOAD側へ切り替えた後、シリンジ9を駆動させて流路切替バルブ7に接続されたサンプルループ(図示省略)配管内に、試料を送り込む一連の動作を指す。
【0060】
試料注入動作を開始後に、洗浄動作を開始する(ステップ115)。ここで、洗浄動作とは、洗浄ポンプ26によって洗浄液(図示省略)を送液することによって、試料で汚染されたニードル2の内外壁や、洗浄槽4、流路切替バルブ8、配管(図示省略)等を洗浄する一連の動作を指す。
【0061】
試料注入動作が完了したら(ステップ116)、流路切替バルブ7をLOAD側→INJECT側へ切り替えて(ステップ117)、分析流路内に試料を導入し、クロマトグラムデータの収集を開始する(ステップ118)。データ収集開始後、自動試料導入装置100は復帰動作を開始する(ステップ119)。
【0062】
ここで、試料注入動作中や復帰動作中は、ニードル2やシリンジ9が高速で移動するが、扉施錠機構15によって両扉が施錠されているため、使用者が試料保持容器6(が並べられたサンプルラック1)を追加・交換する目的で扉を開けて、誤って高速移動部に接触するといった危険を完全に排除することが可能である。
【0063】
洗浄動作が終了し(ステップ120)、復帰動作が終了すると(ステップ121)、装置は扉の施錠を解除する(ステップ122)。扉の施錠が解除されると、データ収集中においても、使用者は扉を開閉させて、試料保持容器6(が並べられたサンプルラック1)の追加や交換が可能である。
【0064】
また、使用者は、扉の施錠状態を表示する図3に示した覗き窓35やLED34、表示画面36を目視で確認することで、今、扉を開けて試料保持容器6(が並べられたサンプルラック1)が交換可能な状態にあるかどうか、簡単に判別できる。
【0065】
通常、分析状態においては、注入動作時間と復帰動作時間の合計が数十秒程度であるのに対し、クロマトグラムデータの収集時間は数分〜数十分程度である。即ち、一検体当り、扉施錠時間が数十秒程度であるのに対し、施錠解除時間は数分〜数十分程度と十分に長いため、実際に試料保持容器6(が並べられたサンプルラック1)の追加・交換が実施可能な時間帯は、実施不可能な時間帯に比べて、十分に長いと言える。
【0066】
従って、使用者は大きなストレスを感じることなく、装置を使用することができる。また、従来の自動試料導入装置において必要であった、追加・交換時の一時停止、一時停止解除といった操作が不要となるため、使用者は一時停止機能の煩わしさから開放される。
【0067】
データ収集が終了したら(ステップ123)、要求されたN検体分の測定が完了したかどうかの判別を行う(ステップ124)。N検体分の測定が完了した場合は、分析を終了する(ステップ65)。N検体分の分析が完了していない場合は、ステップ112に移行して、残りの検体の分析を継続する。
【0068】
以上述べたように、本実施例によれば、使用者にとって試料保持容器(またはサンプルラック)の追加・交換時の操作性を悪化させることなく、安全性の高い試料導入装置を実現することができる。
【0069】
図11は本発明の他の実施形態に係る自動試料導入装置の状態遷移図を示している。図8との相違点は、分析状態75だけでなく装置保守状態76においても扉施錠機能を有効とした点であり、使用者の使い勝手を多少犠牲にしても、使用者の安全性をより高めることを優先とした例である。
【符号の説明】
【0070】
1・・・サンプルラック
2・・・ニードル
3・・・アーム
4・・・洗浄槽
4・・・試料注入口
6・・・試料保持容器
7・・・流路切替バルブ
8・・・流路切替バルブ
9・・・シリンジ
10・・・左扉
11・・・右扉
12・・・検知版
13・・・扉開閉検知センサ
14・・・窓
15・・・扉施錠機構部
16・・・ツメ
17・・・カバー
18・・・開口
19・・・移動版(青)
20・・・切り欠き
21・・・ソレノイド
22・・・覗き窓
23・・・カバー面(赤)
24・・・圧縮バネ
31・・・突起部
32・・・操作ボタン
33・・・電源スイッチ
34・・・LED
35・・・覗き窓
36・・・表示画面
40・・・分析開始
43・・・1検体目の分析
53・・・2検体目の分析
65・・・分析終了
61・・・キャップ
62・・・セプタム
63a・・・首部
63b・・・胴部
81・・・移動相
82・・・送液装置
83・・・カラム恒温槽
84・・・検出器
85・・・データ処理装置
86・・・カラム
87〜91・・・制御部
92・・・ドレイン
93・・・システムコントローラ
94・・・システム制御部
100・・・試料導入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉扉と、前記開閉扉の施錠手段と、前記開閉扉の開閉状態を検知する扉開閉検知手段を有し、試料保持容器を装置内部に設置するために前記扉が開閉操作されるクロマトグラフ装置において、
少なくとも待機状態と分析状態との間を遷移し、前記分析状態における装置内部の機構部動作区間を示す情報と前記扉開閉検知手段からの扉開閉信号とに応じて、前記開閉扉の施錠を制御する制御部を備えたことを特徴とするクロマトグラフ装置。
【請求項2】
請求項1記載のクロマトグラフ装置において、前記分析状態は少なくとも試料の注入動作区間、復帰動作区間、洗浄動作区間、及びデータ収集区間から成り、前記機構部動作区間は少なくとも前記注入動作区間、復帰動作区間、及び洗浄動作区間から成ることを特徴とするクロマトグラフ装置。
【請求項3】
請求項2記載のクロマトグラフ装置において、前記制御部は、分析開始時に前記扉開閉検知手段からの扉開閉信号が閉扉状態にあるときに施錠し、前記復帰動作区間及び洗浄動作区間が完了したときに前記施錠を解除することを特徴とするクロマトグラフ装置。
【請求項4】
請求項3記載のクロマトグラフ装置において、前記分析開始時に前記扉開閉検知手段からの扉開閉信号が開扉状態にあるとき、当該扉の閉操作を促す表示手段を備えたことを特徴とするクロマトグラフ装置。
【請求項5】
請求項1〜4記載のいずれかのクロマトグラフ装置において、前記開閉扉は試料保持容器を設置する試料導入装置部の扉であって、当該試料導入装置部内に少なくともニードル及びシリンダから成る動作機構を備えたことを特徴とするクロマトグラフ装置。
【請求項6】
請求項1記載のクロマトグラフ装置において、前記待機状態と分析状態に加えて装置保守状態に遷移し、前記保守状態における装置内部の機構部動作区間を示す情報と前記扉開閉検知手段からの扉開閉信号とに応じて、前記開閉扉の施錠を制御する制御部を備えたことを特徴とするクロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−63283(P2012−63283A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208699(P2010−208699)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)