説明

クロムフリー表面処理亜鉛系めっき鋼板

【課題】耐食性、耐アルカリ性や耐溶剤性などの耐洗浄剤性、皮膜密着性、塗料密着性および印刷密着性などの密着性、耐湿変色性や耐結露性などの耐水性に優れ、且つ加工性および摺動性にも優れるクロムフリー表面処理亜鉛系めっき鋼板を提供する。
【解決手段】分子内に特定の官能基を2個以上と、特定の親水性官能基を1個以上含有し、特定の分子量である有機ケイ素化合物(C)と、特定の構造単位を有する水系ウレタン樹脂(E)と、特定の構造を有するカチオン性フェノール樹脂(F)の3成分を特定の比率で含有する造膜成分(c)と、チタンフッ化水素酸(H)、ジルコンフッ化水素酸(I)、リン酸化合物(J)と、バナジウム(IV)化合物(K)の4成分を特定の比率で含有するインヒビター成分(d)と、ポリエチレンワックス(L)と、水性媒体からなるpHが4〜6である水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより各成分を含有する複合皮膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン系クロムフリー表面処理剤にて表面処理を施した、耐食性、耐アルカリ性や耐溶剤性などの耐洗浄剤性、皮膜密着性、塗料密着性および印刷密着性などの密着性、耐湿変色性や耐結露性などの耐水性に優れ、且つ加工性および摺動性に優れるクロムフリー表面処理を施した亜鉛系めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に金属材料表面への密着性に優れ、金属材料表面に耐食性や耐指紋性などを付与する技術として、金属材料表面に、クロム酸、重クロム酸又はそれらの塩を主成分として含有する処理液によりクロメート処理を施す方法、リン酸塩処理を施す方法、有機樹脂皮膜処理を施す方法、などが知られており、実用に供されている。
【0003】
従来、実用に供されているクロメート処理には、クロム酸クロメート等のクロムを含有する処理液に該金属材料表面を接触させてクロメート皮膜を析出させる、或いは塗布して乾燥させる等して金属表面にクロメート皮膜を形成させる方法が挙げられる。しかしながら、これらの無機系のクロメート皮膜単独では、皮膜が硬質で脆く潤滑性に乏しいため、皮膜が脱落し外観を損ねるだけでなく、充分な加工ができず、素材に亀裂が生じ、割れてしまうという不具合が生じる。また、さらに、作業時に作業者の指紋が付着し、脱脂洗浄してもその痕跡が残るため、外観を損ねる不具合もある。そこで一般には、高耐食性、耐指紋性、耐傷付き性、潤滑性、塗装密着性等のすべての性能を満足するためには、金属材料表面にクロメート皮膜を形成し、形成されたクロメート皮膜上に、さらに樹脂皮膜を設ける2層処理が行われている。
【0004】
1層処理ですべての性能を満足させようとする試みとしては、クロメートと樹脂皮膜とを一度に形成させる樹脂クロメートが検討され、特許文献1には、アルミニウム−亜鉛めっき鋼板の表面に、特定の水分散系又は水溶性樹脂と特定量の6価クロムを配合した樹脂組成物を塗布する処理方法、特許文献2には、無機化合物の6価クロムイオン又は6価クロムイオンと3価クロムイオン、及び特定の乳化重合条件で重合したアクリルエマルジョンを含有する金属表面処理組成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記クロメート処理は、皮膜中に含有される6価クロムが、徐々に解け出す性質を持っており、環境面、安全面に問題を有している。
【0006】
クロムを有さないノンクロメート処理液を用いる方法としては、特許文献3に、特定構造のフェノール樹脂系重合体と酸性化合物とを含有する金属材料表面処理用重合体組成物及び表面処理方法、特許文献4に、互いに異種でかつ互いに反応し得る特定構造の反応性官能基を有する2種以上のシランカップリング剤を含有する耐指紋性等に優れた金属表面処理剤及び処理方法、特許文献5に、特定構造のシランカップリング剤と特定構造のフェノール樹脂系重合体とを含有する金属表面処理剤及び処理方法、特許文献6に、少なくとも1個の窒素原子を有するエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の有機高分子と特定の多価アニオンとを含有する金属表面処理剤、処理方法及び処理金属材料、特許文献7に、(1)特定構造のビスフェノールAエポキシ系樹脂を含有する防錆剤、(2)フェノール系樹脂とそれ以外のポリエステル等の特定の樹脂とを特定比で含有する防錆剤、(1)と(2)とを用いる処理方法及び処理金属材料が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらのクロムを含有しない技術は、耐食性、耐アルカリ性や耐溶剤性などの耐洗浄剤性、皮膜密着性、塗料密着性および印刷密着性などの密着性、耐湿変色性や耐結露性などの耐水性に優れ、極めて加工性および摺動性の全てを満足するものではなく、実用化に至って依然として問題を抱えている。
【0008】
このようにいずれの方法でもクロメート皮膜の代替として使用できるような表面処理剤を得られていないのが現状であり、これらを総合的に満足できる表面処理剤および処理方法の開発が強く要求されているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平4−2672号公報
【特許文献2】特公平7−6070号公報
【特許文献3】特開平7−278410号公報
【特許文献4】特開平8−73775号公報
【特許文献5】特開平9−241576号公報
【特許文献6】特開平10−1789号公報
【特許文献7】特開平10−60233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術の上記問題点を解決して、耐食性、耐アルカリ性や耐溶剤性などの耐洗浄剤性、皮膜密着性、塗料密着性および印刷密着性などの密着性、耐湿変色性や耐結露性などの耐水性に優れ、且つ加工性および摺動性にも優れるクロムフリー表面処理亜鉛系めっき鋼板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはこれらの問題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた結果、特定のシランカップリング剤2種類を特定の割合で配合して得られる、分子内に特定の官能基を2個以上と、特定の親水性官能基を1個以上含有し、特定の分子量である有機ケイ素化合物(C)と、特定の構造単位を有する水系ウレタン樹脂(E)と、特定の構造を有するカチオン性フェノール樹脂(F)の3成分を特定の比率で含有する造膜成分(c)と、チタンフッ化水素酸(H)および/又はジルコンフッ化水素酸(I)、りん酸化合物(J)と、バナジウム(IV)化合物(K)の4成分を特定の比率で含有するインヒビター成分(d)と、ポリエチレンワックス(L)と、水性媒体からなるpHが4〜6である水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより各成分を含有する複合皮膜を形成することで、耐食性、耐アルカリ性や耐溶剤性などの耐洗浄剤性、皮膜密着性、塗料密着性および印刷密着性などの密着性、耐湿変色性や耐結露性などの耐水性に優れ、且つ加工性および摺動性にも優れるクロムフリー表面処理亜鉛系めっき鋼板が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、(1)分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.6〜0.75の割合で配合して得られる、分子内に下記一般式[1]で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)を1個以上含有し、平均の分子量が1000〜10000である有機ケイ素化合物(C)と、
【化1】

(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、少なくとも1つはアルコキシ基を表す)
(2)下記一般式[2]で表される構造単位(D1)、炭素数4〜6の脂環構造(D2)および炭素数6の芳香環構造(D3)からなる群から選ばれる少なくとも一つの構造単位(D)を有する水系ウレタン樹脂であって、且つそのウレタン樹脂において、分子中にポリエーテルポリオールに由来する構造単位を有するポリエーテルポリウレタン樹脂(E)と、
【化2】

(式中、R9は水素原子、アルキル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれる一価の有機残基、R10、R11は互いに独立に、アルコキシル基、アシロキシ基、水酸基およびハロゲン原子からなる群から選ばれる官能基を、mは1〜5の整数を表す。)
(3) ビスフェノールA骨格を有するカチオン性フェノール樹脂(F)の3成分からなる造膜成分(c)と、
(4)チタンフッ化水素酸(H)およびジルコンフッ化水素酸(I)の少なくとも何れか一方と、
(5)りん酸化合物(J)と、
(6)バナジウム(IV)化合物(K)の少なくとも3成分からなるインヒビター成分(d)と、(7)ポリエチレンワックス(L)と、
(8)水性媒体からなるpHが4〜6である水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより各成分を含有する複合皮膜を形成した亜鉛系めっき鋼板であり、且つ、該水系処理剤の造膜成分(c)において、
(9)有機ケイ素化合物(C)とポリエーテルポリウレタン樹脂(E)の固形分質量比〔(E)/(C)〕が0.33〜0.90であり、
(10)ポリエーテルポリウレタン樹脂(E)とカチオン性フェノール樹脂(F)の固形分質量比[(F)/(E)]が0.01〜0.03であり、且つ、該水系処理剤のインヒビター成分(d)が、
(11)有機ケイ素化合物(C)由来のSiとチタン弗化水素酸(H)およびジルコニウム弗化水素酸(I)の合計の金属成分質量比〔(M+M)/(Si)〕が0.08〜0.2であり、
(12)有機ケイ素化合物(C)とりん酸化合物(J)の固形分質量比〔(J)/(C)〕が0.02〜0.11であり、
(13)有機ケイ素化合物(C)とバナジウム化合物(K)の固形分質量比〔(K)/(C)〕が0.02〜0.06であり、且つ、
(14)有機ケイ素化合物(C)とポリエチレンワックス(L)の固形分との質量比〔(L)/(C)〕が0.05〜0.3であることを特徴とする表面処理亜鉛系めっき鋼板に関する。
【0013】
また、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板の表面処理皮膜を形成する水系表面処理剤は、チタン弗化水素酸(H)とジルコニウム弗化水素酸(I)の双方を含有し、チタン弗化水素酸(H)とジルコニウム弗化水素酸(I)の金属成分質量比〔(M)/(M)〕が0.5〜0.8であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板の表面処理皮膜を形成する水系表面処理剤のポリエーテルポリウレタン樹脂(E)が一般式[2]に含まれる構造単位(D1)を含み、前記構造単位(D1)由来のSiと、有機ケイ素化合物(C)由来のSiとポリエーテルポリウレタン樹脂(E)に含まれる構造単位(D)由来のSi合計との質量比[(Si)/(Si+Si)]が、0.015〜0.045であることが好ましい。
【0015】
また、上記クロムフリー表面処理亜鉛めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、上記水系金属表面処理剤を塗布し、50℃〜250℃の到達温度で乾燥を行い、乾燥後の皮膜重量が0.5〜2.0g/m2であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の表面処理金属材は、耐食性、耐アルカリ性や耐溶剤性などの耐洗浄剤性、皮膜密着性、塗料密着性および印刷密着性などの密着性、耐湿変色性や耐結露性などの耐水性に優れ、且つ加工性および摺動性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のクロムフリー表面処理亜鉛系めっき材の水系金属表面処理剤は、造膜成分(c)として有機ケイ素化合物(C)と、ポリエーテルポリウレタン樹脂(E)と、カチオン性フェノール樹脂(F)の3つを必須成分とする。
【0018】
前記有機ケイ素化合物(C)は、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.50〜0.75の割合で配合して得られるものである。シランカップリング剤(A)とシランカップリング剤(B)の配合比率としては、固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.50〜0.75の割合である必要があり、0.50〜0.65であることが好ましく、0.55〜0.65であることが最も好ましい。固形分質量比〔(A)/(B)〕が0.50未満であると、有機ケイ素化合物(C)の疎水性および自己架橋性が強くなるため、処理剤安定性が著しく低下するため好ましくない。逆に固形分質量比〔(A)/(B)〕が0.75を超えると、有機ケイ素化合物(C)の親水性が強くなりすぎ、得られる皮膜の耐水性が著しく低下するため好ましくない。
【0019】
また、本発明中における前記分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)としては、特に限定するものではないが、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどを例示することができ、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどを例示することができる。
【0020】
また、本発明の有機ケイ素化合物(C)の製造方法は、特に限定するものではないが、pH4に調整した水に、前記シランカップリング剤(A)と、前記シランカップリング剤(B)を順次添加し、所定時間攪拌する方法が挙げられる。
【0021】
また、前記有機ケイ素化合物(C)における官能基(a)の数は2個以上であることが必要である。官能基(a)の数が1個である場合には、亜鉛系めっき材表面との密着性、有機ケイ素化合物(C)の自己架橋性、後述のポリエーテルポリウレタン樹脂(E)との結合性が低下し、皮膜が充分に形成されないため、本発明の効果全てが得られないため好ましくない。官能基(a)のR1、R2及びR3の定義におけるアルキル基及びアルコキシ基の炭素数は、特に制限されないが、1から6であるのが好ましく、1から4であるのがより好ましく、1又は2であるのがもっとも好ましい。
【0022】
さらに、前記有機ケイ素化合物(C)における官能基(b)の存在割合としては、一分子内一個以上であれば良く、また平均の分子量が1000〜10000であることが必要であり、1300〜6000であることが好ましい。ここでいう分子量は、特に限定するものではないが、TOF−MS法による直接測定およびクロマトグラフィー法による換算測定のいずれかを用いて良く、GFC(ゲルフィルタレーション・クロマトグラフィー)を用い、分子量標準物質としてエチレングリコールを用いることが好ましい。同法で求めた平均の分子量が1000未満であると、有機ケイ素化合物の水溶解性が強くなるため、形成された皮膜の耐水性が著しく低くなる。一方、平均の分子量が10000を超えると、前記有機ケイ素化合物(C)を安定に溶解または分散させることが困難になる。
【0023】
本発明の必須成分である前記ポリエーテルポリウレタン樹脂(E)は、下記一般式[2]で表される構造単位(D1)、炭素数4〜6の脂環構造(D2)および炭素数6の芳香環構造(D3)からなる群から選ばれる少なくとも一つの構造単位(D)を有する必要がある。構造単位(D1)は、前記有機ケイ素化合物(C)との反応点として作用し、架橋度が上がり耐食性や耐洗浄剤性が著しく向上する。また、炭素数4〜6の脂環構造(D2)を有すると、造膜時に有機ケイ素化合物(C)と絡合し、架橋した場合と同様の効果が得られる。また、芳香環構造(D3)を有すると、芳香環の有するバリア性がポリエーテルポリウレタン樹脂(E)に付与されるため、架橋反応や絡合反応は生じないものの、これらと同様の効果が得られる。
【0024】
また、ポリエステルポリウレタン樹脂は、酸やアルカリにより加水分解を生じるため好ましくなく、ポリカーボネートポリウレタンは、硬くて脆い皮膜を形成しやすく、加工時の密着性や加工部の耐食性に劣るため好ましくない。
【0025】
また、前記構造単位(D1)中のR9、R10、R11は、特に限定するものではないが、R9は水素原子、アルキル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれる一価の有機残基、R10、R11は互いに独立に、アルコキシル基、アシロキシ基、水酸基およびハロゲン原子からなる群から選ばれる官能基であることが好ましく、R9はアルキル基であることが最も好ましく、R10、R11は水酸基であることが最も好ましい。また、構造単位(D1)のエチレン鎖数mは、特に限定するものではないが、1〜5であることが好ましく、2又は3であることが最も好ましい。
【0026】
また、本発明のポリエーテルポリウレタン樹脂(E)は、特に限定するものではないが、ポリエーテルポリオールと脂肪族、脂環式もしくは芳香族ポリイソシアネートとの縮重合物であるウレタン樹脂であって、用いるポリオールの一部として、(置換)アミノ基を有するポリオールを用いることによって得られるポリウレタンである。ポリエーテルポリオールとしては、開始剤としてエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリンなどを用い、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトロヒドロフラン、シクロヘキシレンなどの化合物の1種以上を付加重合することによって得られるものを使用することができ、ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0027】
また、本発明のウレタン樹脂(E)が構造単位(D1)を含有する場合、当該構造単位(D1)は、本発明のウレタン樹脂(E)の骨格末端がイソシアネートとなっている段階にて、1級アミンと、トリアルコキシシランの双方を有する有機化合物を用い、ウレタン樹脂(E)の末端イソシアネートと当該1級アミンを反応させることで得ることができる。前記1級アミンとトリアルコキシシランの双方を有する有機化合物としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが例示される。
【0028】
本発明の必須成分であるカチオン性フェノール樹脂(F)は、ビスフェノールA骨格を有する必要がある。前記カチオン性フェノール樹脂(F)は、特に限定するものではないが、ビスフェノールAを縮合したビスフェノールAを主骨格構造とするノボラック型フェノール樹脂であり、直鎖状の化合物だけでなく3次元的に縮合した形の化合物を含んでも良い。前記フェノール樹脂(F)のカチオン性は、特に限定するものではないが、前記ビスフェノールA骨格中の芳香環において、当該芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子が失われ付加した−CHNHCHOH および/又は−CHNHCHOCが、硫酸イオン、りん酸イオン等の無機酸イオン、もしくは酢酸イオン、ギ酸イオンなどの有機酸イオンにて中和され、4級アンモニウム塩を形成することによって発現し、中和する酸としては、りん酸が最も好ましい。
【0029】
本発明のクロムフリー表面処理亜鉛系めっき材の水系金属表面処理剤は、インヒビター成分(d)として、チタンフッ化水素酸(H)および/又はジルコンフッ化水素酸(I)、りん酸化合物(J)と、バナジウム(IV)化合物(K)を必須成分とする。
【0030】
りん酸化合物(J)としては、特に限定するものではないが、りん酸、りん酸のアンモニウム塩、りん酸のアルカリ金属塩、りん酸のアルカリ土類金属塩などが挙げられる。これらは主に耐食性を付与する効果があり、りん酸化合物(J)の塩の種類により、りん酸の溶出性を制御することができ、耐食性保持時間を長くすることができる。このなかでもりん酸、または重りん酸マグネシウムがより大きな耐食性改善効果が得られるため好ましく、りん酸と重りん酸マグネシウムを併用することがより好ましい。
【0031】
バナジウム(IV)化合物(K)としては、特に限定するものではないが、五酸化バナジウム[V]、メタバナジン酸[HVO]、メタバナジン酸アンモニウム[NHVO]メタバナジン酸ナトリウム[NaVO]、オキシ三塩化バナジウム[VOCl]などの化合物のバナジウム(V)をアルコール類、有機酸類等の還元剤を用いてバナジウム(IV)に還元したもの、二酸化バナジウム[VO]、バナジウムオキシアセチルアセトネート[VO(C]、オキシ硫酸バナジウム[VOSO]などのバナジウム(IV)含有化合物、バナジウムアセチルアセトネート[V(C]三酸化バナジウム[V]、、三塩化バナジウム[VCl]などの化合物のバナジウム(III )を任意の酸化剤にてバナジウム(IV)に酸化したものなどが挙げられる。
【0032】
また、本発明のクロムフリー表面処理亜鉛系めっき材の水系金属表面処理剤は、前記造膜成分(c)とインヒビター成分(d)に加え、ポリエチレンワックス(L)と、水性媒体からなりpHが4〜6である必要がある。
【0033】
ポリエチレンワックス(L)は、特に限定するものではないが、数平均粒子径は0.1〜4.0μmが好ましく、0.2〜3.0μmがより好ましく、0.3〜2.5μmが最も好ましい。数平均粒子径が0.1μm未満であると、皮膜表面に露出するポリエチレンワックス量が少なくなり、摩擦係数が高くなるため好ましくなく、逆に4.0μmを超えると、皮膜厚さに対してポリエチレンワックスが著しく大きくなり、当該ワックスが皮膜に保持されず、軽微な摺動により脱落するため摩擦係数低減効果が発現しないため好ましくない。また、密度は0.90〜0.96g/mが好ましく、0.90〜0.94g/mがより好ましく、0.91〜0.93g/mが最も好ましい。密度が0.90g/m未満であると、軟化点や硬度が低くなり、皮膜そのものが柔らかくなり、加工性が低下するため好ましくなく、0.96g/mを超えると、静摩擦係数が低くなりすぎるため、ロールスリップやコイル潰れが発生し、操業性が低下するため好ましくない。
【0034】
本発明の水系金属表面処理剤のpHは、4〜6である必要がある。当該pHが4未満であると、素材のエッチングが過多となり、薬剤中への素材の溶け込みが多くなり、薬剤の安定性が低下するため好ましくなく、6を超えると、前述のインヒビター成分(d)の溶解度が著しく低くなり、安定性が低下するため好ましくない。
【0035】
また、本発明の造膜成分(c)における有機ケイ素化合物(C)と、ポリエーテルポリウレタン樹脂(E)の固形分に対する配合比に関しては、有機ケイ素化合物(C)とポリエーテルポリウレタン樹脂(E)の固形分質量比〔(E)/(C)〕が0.33〜0.90である必要があり、0.33〜0.80であることがより好ましく、0.35〜0.70であることが最も好ましい。当該固形分質量比〔(E)/(C)〕が0.33未満であると、造膜成分(c)のバリア性が低下するため好ましくなく、逆に0.90を超えると、有機ケイ素化合物(C)に起因した素材との密着性が著しく低下するため、諸性能全般が低下するため好ましくない。
【0036】
また、本発明の造膜成分(c)におけるポリエーテルポリウレタン樹脂(E)と、カチオン性フェノール樹脂(F)の固形分に対する配合比に関しては、ポリエーテルポリウレタン樹脂(E)とカチオン性フェノール樹脂(F)の固形分質量比[(F)/(E)]が0.010〜0.030である必要があり、0.010〜0.025であることがより好ましく、0.010〜0.022であることが最も好ましい。当該質量比[(F)/(E)]が0.010未満であると、フェノール樹脂(F)の添加効果が発現せず、耐食性や耐溶剤性が低下するため好ましくなく、0.030を超えると、皮膜がフェノール樹脂により微黄色に着色されるとともに、高湿環境下や紫外線暴露環境下において、著しい黄変を生じるため好ましくない。
【0037】
本発明のインヒビター成分(d)における有機ケイ素化合物(C)由来のSi(Si)とチタン弗化水素酸(H)のTi量(M)およびジルコニウム弗化水素酸(I)のZr量(M)の配合比に関して、有機ケイ素化合物(C)由来のSi(Si)とチタン弗化水素酸(H)のTi量(M)およびジルコニウム弗化水素酸(I)のZr量(M)の合計の金属成分質量比〔(M+M)/(Si)〕が0.08〜0.20である必要があり、0.08〜0.17であることがより好ましく、0.08〜0.15であることが最も好ましい。当該金属成分質量比〔(M+M)/(Si)〕が0.08未満であると、皮膜形成時において前記チタン弗化水素酸とジルコニウム弗化水素酸から生成されるチタンおよびジルコニウム若しくはそれらの化合物皮膜の生成量が少なくなり、耐食性が低くなるため好ましくなく、0.20を超えると、前記チタンおよびジルコニウムもしくはその酸化物による皮膜による素材表面被覆率が高くなり、有機ケイ素化合物(C)の素材との反応点が少なくなるため、有機ケイ素化合物(C)による密着性付与効果が小さくなり、本発明の効果全般が低下するため好ましくない。
【0038】
また、本発明のインヒビター成分(d)における有機ケイ素化合物(C)とりん酸化合物(J)の配合比に関して、有機ケイ素化合物(C)とりん酸化合物(J)の固形分質量比〔(J)/(C)〕が0.020〜0.110である必要があり、0.030〜0.110であることがより好ましく、0.040〜0.100であることが最も好ましい。当該固形分質量比〔(J)/(C)〕が0.020未満であると、りん酸化合物(J)の添加効果である耐アルカリ性や耐食性などの効果が発現しないため好ましくなく、0.110を超えると薬剤安定性が低下するため好ましくない。
【0039】
また、本発明のインヒビター成分(d)における有機ケイ素化合物(C)とバナジウム化合物(K)の配合比に関して、有機ケイ素化合物(C)とバナジウム化合物(K)の固形分質量比〔(K)/(C)〕が0.020〜0.060である必要があり、0.025〜0.060であることがより好ましく、0.030〜0.055であることが最も好ましい。当該固形分質量比〔(K)/(C)〕が0.020未満であると、バナジウム(IV)化合物(K)に起因したインヒビター効果が得られないため好ましくなく、0.060を超えると、バナジウム(IV)化合物と当該皮膜に含まれる有機物との錯化合物により、高湿化において皮膜が黄色着色し易くなるため好ましくない。
【0040】
また、本発明の造膜成分(c)において、ポリエーテルポリウレタン樹脂(E)に構造単位(D1)が含有される場合、有機ケイ素化合物(C)と、ポリエーテルポリウレタン樹脂(E)の配合比に関して、ポリエーテルポリウレタン樹脂(E)に含まれる構造単位(D1)由来のSi(Si)と、有機ケイ素化合物(C)由来のSi(Si)およびポリエーテルポリウレタン樹脂(E)に含まれる構造単位(D)由来のSi(Si)の合計との質量比[(Si)/(Si+Si)]が、0.015〜0.045である必要があり、0.015〜0.040がより好ましく、0.20〜0.040が最も好ましい。当該質量比[(Si)/(Si+Si)]がこの範囲にあると、ポリオールポリウレタン樹脂(E)と有機ケイ素化合物(C)の架橋度が適正となり、皮膜のバリア性や硬度に優れる皮膜が形成されるため、耐食性や耐洗浄剤性が改善するだけでなく、ポリオールポリウレタン樹脂そのものの自己架橋性が充分となり、加工性や摺動性が改善するほか、印刷密着性が向上するため好ましい。また、ポリエーテルポリウレタン樹脂(E)の分散安定性の改善や、有機ケイ素化合物(C)の前記官能基(a)との反応と、有機ケイ素化合物(C)と素材との反応がバランスよく生じるため、充分な密着性が得られる。
【0041】
また、本発明のインヒビター成分(d)において、チタン弗化水素酸(H)とジルコニウム弗化水素酸(I)の両方を含有する場合、その配合比に関して、チタン弗化水素酸(H)に含まれるTi量(M)とジルコニウム弗化水素酸(I)に含まれるZr量(M)の金属成分質量比〔(M)/(M)〕が0.5〜0.8である必要があり、0.6〜0.8であることがより好ましく、0.6〜0.7であることがもっとも好ましい。当該金属成分質量比〔(M)/(M)〕がこの範囲にあると、チタン弗化水素酸より生成する相対的に加工性は高いが耐アルカリ性の低いチタン若しくはその酸化物皮膜と、相対的に硬く脆いが耐アルカリ性の高いジルコニウム若しくはその酸化物の存在割合が適正となり、素材の塑性変形に付随した皮膜の変形に対して追従性が高まり、皮膜欠陥が生じにくく耐食性が低下しにくくなるため好ましい。くなく、逆に0.8を超えると、相対的に耐アルカリ性の低いチタン若しくはその酸化物皮膜の存在割合が多くなるため、皮膜の耐アルカリ性が低下し、耐食性が低下するため好ましくない。
【0042】
本発明の必須成分であるポリエチレンワックス(L)の配合比に関して、有機ケイ素化合物(C)とポリエチレンワックス(L)の固形分との質量比〔(L)/(C)〕が0.05〜0.30である必要があり、0.07〜0.30であることが好ましく、0.10〜0.25であることが最も好ましい。当該質量比〔(L)/(C)〕が0.05未満であると、充分な潤滑性が発現しないため好ましくなく、0.30以上であると当該ポリエチレンワックスによって皮膜の連続性が阻害され、皮膜が割れやすくなり、耐食性が低下するため好ましくない。
【0043】
本発明の表面処理金属材は、前記水系金属表面処理剤を塗布し、50〜250℃の到達温度で乾燥を行い、乾燥後の皮膜重量が0.5〜2.0g/m2であることが好ましい。乾燥温度については、到達温度で50℃〜250℃であることが好ましく、70℃〜150℃であることがより好ましく、100℃〜140℃であることが最も好ましい。到達温度が50℃未満であると、該水系金属表面処理剤の溶媒が完全に揮発しないため好ましくない。逆に250℃を超えると、該水系金属表面処理剤にて形成された皮膜の有機鎖の一部が分解するため好ましくない。皮膜重量に関しては、0.5〜2.0g/m2であることが好ましく、0.5〜1.5g/m2であることがより好ましく、0.8〜1.2g/m2であることが最も好ましい。皮膜重量が0.5g/m2未満であると、該金属材の表面を被覆できないため耐食性が著しく低下するため好ましくない。逆に2.0g/m2を超えると、皮膜密着性が低下するため好ましくない。
【0044】
本発明に用いる水系金属表面処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、塗工性を向上させるためのレベリング剤や水溶性溶剤、金属安定化剤、エッチング抑制剤などを使用することが可能である。レベリング剤としては、ノニオンまたはカチオンの界面活性剤として、ポリエチレンオキサイドもしくはポリプロピレンオキサイド付加物やアセチレングリコール化合物などが挙げられ、水溶性溶剤としてはエタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールおよびプロピレングリコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのセロソルブ類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンなどのケトン類が挙げられる。金属安定化剤としては、EDTA、DTPAなどのキレート化合物が挙げられ、エッチング抑制剤としては、エチレンジアミン、トリエチレンペンタミン、グアニジンおよびピリミジンなどのアミン化合物類が挙げられる。特に一分子内に2個以上のアミノ基を有するものが金属安定化剤としても効果があり、より好ましい。
【0045】
本発明の表面処理金属材は、耐食性、耐アルカリ性や耐溶剤性などの耐洗浄剤性、皮膜密着性、塗料密着性および印刷密着性などの密着性、耐湿変色性や耐結露性などの耐水性に優れ、加工性および摺動性の全てを満足する。この理由は以下のように推測されるが、本発明はかかる推測に縛られるものではない。
【0046】
本発明に用いる水系金属表面処理剤を用いて形成される皮膜は有機ケイ素化合物(C)とポリエーテルポリウレタン樹脂(E)によるものである。まず、耐食性は、前記有機ケイ素化合物の1部が乾燥などにより濃縮されたときに前記有機ケイ素化合物が互いに反応して連続皮膜を成膜すること、前記有機ケイ素化合物の1部が加水分解して生成した−OR基が金属表面とSi−O−M結合(M:被塗物表面の金属元素)を形成することにより、著しいバリアー効果を発揮することによると推定される。これに有機ケイ素化合物と反応性を有する構造単位(D)を有するポリエーテルポリウレタン樹脂を配合する事により、前記有機ケイ素化合物とポリエーテルポリウレタン樹脂が結合し、極めて高いバリア性を発揮する。これに加え、カチオン性フェノール樹脂(F)は共鳴安定化構造を有する化合物であり、カチオン性フェノール樹脂(F)を含有する皮膜は、金属表面と反応し固着することによって、素材金属の外殻軌道と重なる程度に充分近い距離であるため、φ軌道を利用して腐食によって生ずる電子を非局在化する作用を持ち、このことによって、表面電位が均一に保たれ、優れた耐食性が付与される。
【0047】
一方、インヒビター成分(d)の効果は、素材表面のエッチングによる酸化膜の除去効果、エッチングに伴うpH上昇による析出および皮膜化、溶出した素材起因の金属イオンとの難溶性塩の形成、素材の腐食に伴うpH上昇の緩和、表面電位の均一化などが挙げられる。チタン弗化水素酸とジルコン弗化水素酸は、素材表面のエッチングにより酸化膜の除去する効果を持ち、同時に、これに伴うpH上昇によりフッ素の解離および酸化物もしくは水酸化物として析出し、皮膜化することにより耐食性を付与するものと推測される。また、腐食により溶出した素材起因の金属イオンと難溶性塩を形成し、腐食の進行を遅らせる効果を有する。一方、りん酸化合物は素材腐食に伴うpH上昇緩和効果を持ち、特に溶出性インヒビターとしての効果を有する。バナジウム化合物は、バナジウムの酸化還元反応により腐食により生じた電子を消費し、腐食の進行を抑制する効果を有するものと推測される。このような効果を持つインヒビター成分と前述の造膜成分に起因した密着性とバリア性をバランスよく発現させることにより耐食性、耐アルカリ性や耐溶剤性などの耐洗浄剤性、皮膜密着性、塗料密着性および印刷密着性などの密着性、耐湿変色性や耐結露性などの耐水性に優れ、極めて加工性および摺動性に優れる皮膜を形成することが可能であると推察される。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。試験板の調製、実施例および比較例、および金属材料用表面処理剤の塗布の方法について下記に説明する。
【0049】
試験板の調製
(1)試験素材
下記に示した市販の素材を用いた。
・電気亜鉛めっき鋼板(EG):板厚=0.8mm、目付量=90/90(g/m
・溶融亜鉛めっき鋼板(GI):板厚=0.8mm、目付量=90/90(g/m
・合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA):板厚=0.8mm、目付量=90/90(g/m
・溶融亜鉛−11%アルミニウム−3%マグネシウム−0.2%シリコンめっき鋼板(SD):板厚=0.8mm、目付量=60/60(g/m2
(2)脱脂処理
素材を、シリケート系アルカリ脱脂剤のファインクリーナー4336(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を用いて、濃度20g/L、温度60℃の条件で2分間スプレー処理し、純水で30秒間水洗したのちに乾燥したものを試験板とした。
【0050】
実施例および比較例に使用したシランカップリング剤を表1に、ウレタン樹脂を表2に、りん酸化合物を表3に、バナジウム化合物を表4に、ポリエチレンワックスを表5に示し、配合例、皮膜量および乾燥温度を表6に示す。
【0051】
〔有機ケイ素化合物Cの調整方法〕
表6に示す組み合わせおよび配合比率にて、表1に示すシランカップリング剤をエタノール中で反応させ、その後、酢酸にてpH4〜4.5に調整した水と混合し、固形分が20%となるように調整した。得られた有機ケイ素化合物の官能基(a)数と親水基(b)1個当たりの分子量を表6に示す。
【0052】
〔ウレタン樹脂(E1)の合成方法〕
ポリエーテルポリオール(合成成分:テトラメチレングリコールおよびエチレングリコール、分子量1500):150質量部、トリメチロールプロパン:6質量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン:24質量部、イソホロンジイソシアネート:94質量部およびメチルエチルケトン135質量部を反応容器に入れ、70℃〜75℃に保ちながら1時間反応させてウレタンプレポリマーを生成させた。ついで3アミノプロピルトリメトキシシランを10質量部添加し、80℃〜85℃に保ちながら1時間反応させて構造単位(D1)を形成させた。ついで該反応容器にジメチル硫酸15質量部を入れ、50〜60℃で30分〜60分間反応させて、カチオン性ウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器に水576質量部入れ、混合物を均一に乳化させた後、メチルエチルケトンと残留した3アミノプロピルトリメトキシシランを回収して水溶性のカチオン性ウレタン樹脂を得た。樹脂固形分に対するSi含有量は0.5質量%であった。
【0053】
〔ウレタン樹脂(E2)の合成方法〕
ポリエステルポリオール(合成成分:マレイン酸と1,4−ブタンジオ−ルの縮合物、分子量1500):150質量部、トリメチロールプロパン:6質量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン:24質量部、イソホロンジイソシアネート:94質量部およびメチルエチルケトン135質量部を反応容器に入れ、70℃〜75℃に保ちながら1時間反応させてウレタンプレポリマーを生成させた。次いで3アミノプロピルトリメトキシシランを10質量部添加し、80℃〜85℃に保ちながら1時間反応させて構造単位(D1)を形成させた。ついで該反応容器にジメチル硫酸15質量部を入れ、50〜60℃で30分〜60分間反応させて、カチオン性ウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器に水576質量部入れ、混合物を均一に乳化させた後、メチルエチルケトンと残留した3アミノプロピルトリメトキシシランを回収して水溶性のカチオン性ウレタン樹脂を得た。樹脂固形分に対するSi含有量は0.5質量%であった。
【0054】
〔ウレタン樹脂(E3)の合成方法〕
ポリエーテルポリオール(合成成分:テトラメチレングリコールおよびエチレングリコール、分子量1500):150質量部、トリメチロールプロパン:6質量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン:24質量部、イソホロンジイソシアネート:94質量部およびメチルエチルケトン135質量部を反応容器に入れ、70℃〜75℃に保ちながら1時間反応させてウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器にジメチル硫酸15質量部を入れ、50〜60℃で30分〜60分間反応させて、カチオン性ウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器に水576質量部入れ、混合物を均一に乳化させた後、メチルエチルケトンを回収して水溶性のカチオン性ウレタン樹脂を得た。
【0055】
〔ウレタン樹脂(E4)の合成方法〕
ポリエーテルポリオール(合成成分:テトラメチレングリコールおよび1、4-シクロヘキサン-ジメタノール、分子量1500):150質量部、トリメチロールプロパン:6質量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン:24質量部、イソホロンジイソシアネート:94質量部およびメチルエチルケトン135質量部を反応容器に入れ、70℃〜75℃に保ちながら1時間反応させてウレタンプレポリマーを生成させた。次いで3アミノプロピルトリメトキシシランを10質量部添加し、80℃〜85℃に保ちながら1時間反応させて構造単位(D1)を形成させた。ついで該反応容器にジメチル硫酸15質量部を入れ、50〜60℃で30分〜60分間反応させて、カチオン性ウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器に水576質量部入れ、混合物を均一に乳化させた後、メチルエチルケトンと残留した3アミノプロピルトリメトキシシランを回収して水溶性のカチオン性ウレタン樹脂を得た。樹脂固形分に対するSi含有量は0.5質量%であった。
【0056】
〔ウレタン樹脂(E5)の合成方法〕
ポリエーテルポリオール(合成成分:テトラメチレングリコールおよびビスフェノールAのPO2モル付加物、分子量1500):150質量部、トリメチロールプロパン:6質量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン:24質量部、イソホロンジイソシアネート:94質量部およびメチルエチルケトン135質量部を反応容器に入れ、70℃〜75℃に保ちながら1時間反応させてウレタンプレポリマーを生成させた。次いで3アミノプロピルトリメトキシシランを10質量部添加し、80℃〜85℃に保ちながら1時間反応させて構造単位(D1)を形成させた。ついで該反応容器にジメチル硫酸15質量部を入れ、50〜60℃で30分〜60分間反応させて、カチオン性ウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器に水576質量部入れ、混合物を均一に乳化させた後、メチルエチルケトンと残留した3アミノプロピルトリメトキシシランを回収して水溶性のカチオン性ウレタン樹脂を得た。樹脂固形分に対するSi含有量は0.5質量%であった。
【0057】
〔ウレタン樹脂(E6)の合成方法〕
ポリエーテルポリオール(合成成分:テトラメチレングリコールおよび1、4-シクロヘキサン-ジメタノール、分子量1500):150質量部、トリメチロールプロパン:6質量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン:24質量部、イソホロンジイソシアネート:94質量部およびメチルエチルケトン135質量部を反応容器に入れ、70℃〜75℃に保ちながら1時間反応させてウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器にジメチル硫酸15質量部を入れ、50〜60℃で30分〜60分間反応させて、カチオン性ウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器に水576質量部入れ、混合物を均一に乳化させた後、メチルエチルケトンを回収して水溶性のカチオン性ウレタン樹脂を得た。
【0058】
〔ウレタン樹脂(E7)の合成方法〕
ポリエーテルポリオール(合成成分:テトラメチレングリコールおよびビスフェノールAのPO2モル付加物、分子量1500):150質量部、トリメチロールプロパン:6質量部、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン:24質量部、イソホロンジイソシアネート:94質量部およびメチルエチルケトン135質量部を反応容器に入れ、70℃〜75℃に保ちながら1時間反応させてウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器にジメチル硫酸15質量部を入れ、50〜60℃で30分〜60分間反応させて、カチオン性ウレタンプレポリマーを生成させた。ついで該反応容器に水576質量部入れ、混合物を均一に乳化させた後、メチルエチルケトンを回収して水溶性のカチオン性ウレタン樹脂を得た。
【0059】
〔評価試験〕
耐食性
JIS−Z−2371による塩水噴霧試験を168時間行い、白錆発生状況を観察した。
<評価基準>
◎◎=錆発生が全面積の0%
◎=錆発生が全面積の0%を超え、3%未満
○=錆発生が全面積の3%以上10%未満
△=錆発生が全面積の10%以上30%未満
×=錆発生が全面積の30%以上
【0060】
耐アルカリ性
皮膜形成後、シリケート系アルカリ脱脂剤のパルクリーンN364S(登録商標:日本パーカライジング(株)製)を用いて、濃度20g/L、温度60℃の条件で2分間スプレー処理し、JIS−Z−2371による塩水噴霧試験を120時間行い、白錆発生状況を観察した。
<評価基準>
◎◎=錆発生が全面積の0%
◎=錆発生が全面積の0%を超え、3%未満
○=錆発生が全面積の3%以上10%未満
△=錆発生が全面積の10%以上30%未満
×=錆発生が全面積の30%以上
【0061】
耐溶剤性
MEKをガーゼに染み込ませ、荷重500gで、5往復ラビングした痕を、試験前後のL値増減にて評価した。
<評価基準>
◎◎=ΔLが0.2未満
◎=△Lが0.02以上0.5未満
○=△Lが0.5以上1.0未満
△=△Lが1.0以上2.0未満
×=△Lが2.0以上
【0062】
皮膜密着性
1mm碁盤目にカットした部分をエリクセン試験機にて7mm押し出した後にテープ剥離し、密着性の評価を残個数割合(残個数/カット数:100個)にて行った。
<評価基準>
◎=100%
○=95%以上
△=90%以上、95%未満
×=90%未満
【0063】
塗装密着性
メラミンアルキッド系塗料をバーコートで塗布し、120℃で20分焼付けた後、1mm碁盤目にカットし、密着性の評価を残個数割合(残個数/カット数:100個)にて行った。
<評価基準>
◎=100%
○=95%以上
△=90%以上、95%未満
×=90%未満
【0064】
印刷密着性
スクリーン印刷用インクをベタ印刷し、120℃で20分焼付けた後、1mm碁盤目にカットし、密着性の評価を残個数割合(残個数/カット数:100個)にて行った。
<評価基準>
◎=100%
○=95%以上
△=90%以上、95%未満
×=90%未満
【0065】
耐湿変色性
温度65℃、湿度95%の高温高湿環境下に72時間静置し、試験前後の色調変化ΔEにて評価した。
◎=△Eが1.0未満
○=△Eが1.0以上2.0未満
△=△Eが2.0以上3.0未満
×=△Eが3.0以上
【0066】
耐結露性
温度25℃、湿度60%の環境下に静置した試験片に純水を1cc滴下し、自然乾燥させた時の試験前後の色調変化ΔEにて評価した。
◎=△Eが0.5未満
○=△Eが0.5以上1.0未満
△=△Eが1.0以上2.0未満
×=△Eが2.0以上
【0067】
115mmφの直径のブランク板を使用し、ポンチ径=50mmφ、しわ押え圧1Ton 、深絞り速度30m/分、無塗油の条件で高速円筒深絞り試験を実施した。
<評価基準>
◎ =限界絞り比が2.50以上
○ =限界絞り比が2.40以上2.50未満
△ =限界絞り比が2.30以上2.40未満
× =限界絞り比が2.30未満
【0068】
〔評価試験の結果〕
実施例1〜6と比較例1および2の評価結果より、有機ケイ素化合物(C)に使用されるシランカップリング剤(A)および(B)が請求の範囲から外れる場合、すなわちシランカップリング剤(B)が多すぎると分子構造上皮膜が硬くなるため皮膜および塗装密着性が劣り、逆にシランカップリング剤(A)が多すぎると、アミノ基による過剰な親水性の付与、もしくはアミノ基による発色構造のため、耐結露性や耐湿変色性が劣る。逆に請求の範囲内のさらに好適な範囲であれば、全ての性能を満たすことがわかる。
実施例1と比較例3および4の評価結果より、官能基(a)が一つしかない場合は本発明の有機ケイ素化合物(C)ではなく、一般的なシランカップリング剤と同等の作用効果しか得られないため、全ての性能が著しく低下する。また、実施例5、7および8と比較例5および6の評価結果より、官能基(b)一つ当たりの分子量が500であると皮膜成分が可溶化しやすくなるため耐湿変色性が劣り、15000であると造膜性が不足するため耐溶剤性が劣る。
有機ケイ素化合物(C)に使用されるシランカップリング剤(A)および(B)は、実施例3および9〜11の評価結果から明確なように、アルコキシ基の炭素数には影響されない。これは本発明の処理剤は水系であるため、処理剤中では一部もしくは全部のアルコキシシランが加水分解してシラノール体になっているためと推察される。
【0069】
一方、ウレタン樹脂(E)に関して、実施例10および12〜15と比較例8および9の評価結果より、骨格中に構造単位(D)を有する場合は、全ての性能に優れることがわかる。さらに構造単位(D1)を有することで、耐食性、耐アルカリ性、耐溶剤性が著しく改善されることがわかる。逆にポリエルテルポリオール骨格である比較例9は構造単位(D1)を有するものの耐アルカリ性や耐溶剤性、塗装密着性が劣る。これはエステル構造が水に対して弱いことを反映している。一方、ポリエーテルポリオールだが構造単位(D)を有さない比較例8は耐アルカリ性、耐溶剤性などの諸性能が著しく劣る。このことから構造単位(D1)(D2)および(D3)の何れかが必須であることがわかる。
実施例10および16〜19と比較例8と10〜12の評価結果より、有機ケイ素化合物(C)とウレタン樹脂(E)の固形分質量比が請求の範囲から逸脱すると、耐溶剤性や皮膜および塗装密着性が劣る。ウレタン樹脂(E)が少なすぎると、有機ケイ素化合物(C)の硬さが皮膜物性に影響を及ぼし、逆にウレタン樹脂が多すぎると、本願の有機ケイ素化合物(C)緻密で規則的な構造による皮膜物性への影響が小さくなり、樹脂そのものの性能に近くなるため、耐皮膜密着性が劣る。この傾向は樹脂の骨格を変更した実施例12および20〜22でも同様であった。
【0070】
フェノール樹脂(F)の効果としては、実施例4および23〜26と比較例13〜15の評価結果より、請求の範囲に満たない領域では、耐アルカリ性、耐溶剤性および皮膜・塗装密着性が劣る。一方、請求の範囲を超える領域では耐湿変色や結露性が劣ることがわかる。
【0071】
インヒビター成分(d)に関して、チタン弗化水素酸(H)およびジルコニウム弗化水素酸(I)の効果は、実施例3および27〜28と比較例16の評価結果から明確なように、いずれも含有しない場合は耐食性、耐アルカリ性に加え、密着性が劣り、逆に両方を含有する場合は、いずれか一方を含有する場合と比較して、耐食性と耐アルカリ性に優れることがわかる。また、その添加量に関しても、作用効果が明確であり、実施例4および29〜32と比較例17〜18の評価結果より、請求範囲に満たない場合は、これらを含有していないと同様に耐食性、耐アルカリ性、皮膜密着性が劣り、請求範囲を超える場合は耐湿変色性に劣ることがわかる。耐食性が改善する理由はチタンおよびジルコニウム弗化水素酸がインヒビターとして作用するためであるが、本発明の水系処理剤では、これらの成分により生じるエッチングによって素材表面が活性化され、有機ケイ素化合物と素材表面の反応性が向上するため、強固な密着性を有する皮膜形成が可能となり、耐アルカリ性や皮膜密着性が向上する。
【0072】
実施例10および33〜36と比較例19の評価結果より、りん酸化合物(J)を添加することによって、耐食性と耐アルカリ性、耐結露性が改善されることがわかる。ただし、りん酸化合物としてナトリウム塩を使用した場合は、マグネシウム塩を使用した場合と比較すると、耐結露性が若干低下するものの、実使用上は問題ない程度である。また、実施例13および37〜41と比較例20〜21の評価結果より、りん酸化合物(J)の添加量に関して、請求の範囲に満たない場合は、添加効果が得られないため、耐食性と耐アルカリ性が劣り、請求の範囲を超える添加量であると、りん酸化合物の水溶性が強く作用しすぎるため、耐結露性が低下することがわかる。請求の範囲内であれば、耐食性、耐アルカリ性、耐溶剤性に極めて優れる皮膜を形成することができることも明らかである。
【0073】
バナジウム化合物(K)に関しては、バナジウム(IV)を皮膜に供給できる化合物であれば、その性能に差がないことが実施例10および42〜44からわかる。また、その添加量としては、実施例13および実施例45〜48と比較例22〜23の評価結果より、耐食性および耐アルカリ性が劣る添加量不足領域と耐湿変色性が劣る過剰領域に挟まれる適正範囲であれば、総合性能に優れる皮膜形成が可能であることがわかる。特に添加量を増加させていくことで、耐食性、耐アルカリ性、耐溶剤性が著しく改善する。これはバナジウム(IV)がインヒビターとして作用して耐食性が改善されることに加え、架橋反応によって皮膜が強靭になり、耐アルカリ性や耐溶剤性が付与されるためである。
【0074】
ポリエチレンワックス(L)に関して、実施例10および49〜53と比較例24の評価結果から明らかなように、ポリエチレンワックス(L)を含有しない場合は加工性に劣る。一方、実施例10および54〜58と比較例25〜26の評価結果からわかるように、添加量が請求の範囲に満たない場合は加工性に劣り、過剰に添加した場合は、皮膜の連続性が阻害されるため、耐溶剤性や皮膜および塗料密着性が低下することがわかる。
【0075】
本発明の水系処理剤を鋼板表面へ形成させる場合の皮膜量および到達温度に関しては、実施例28および実施例59〜66の評価結果から明らかなように、皮膜量が下限に近い場合は耐食性と耐アルカリ性がやや劣るものの充分な皮膜は得られ、到達温度が下限に近い場合は耐溶剤性が若干劣るものの実用に際して充分な皮膜性能が得られることがわかる。
以上の評価結果より、本発明の水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより各成分を含有する複合皮膜を形成することで、耐食性、耐アルカリ性や耐溶剤性などの耐洗浄剤性、皮膜密着性、塗料密着性および印刷密着性などの密着性、耐湿変色性や耐結露性などの耐水性に優れ、且つ加工性および摺動性にも優れるクロムフリー表面処理亜鉛系めっき鋼板が得られることがわかる。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
【表6】

【0082】
【表7】

【0083】
【表8】

【0084】
【表9】

【0085】
【表10】

【0086】
【表11】

【0087】
【表12】

【0088】
【表13】

【0089】
【表14】

【0090】
【表15】

【0091】
【表16】

【0092】
【表17】

【0093】
【表18】

【0094】
【表19】

【0095】
【表20】

【0096】
【表21】

【0097】
【表22】

【0098】
【表23】

【0099】
【表24】

【0100】
【表25】

【0101】
本実施例において使用した物性の測定条件は、以下の通りである。
【0102】
〔分子量測定方法〕
分子量の測定は、ゲルフィルタレーションクロマトグラフィーを用い、カラム温度40℃にて、成分濃度を5重量%に希釈し、有機ケイ素化合物(C)の分子量を求めた。なお、ポリエチレングリコール(分子量:600〜12000)換算とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.6〜0.75の割合で配合して得られる、分子内に下記一般式[1]で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)を1個以上含有し、平均の分子量が1000〜10000である有機ケイ素化合物(C)と、
【化1】

(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、少なくとも1つはアルコキシ基を表す)
(2)下記一般式[2]で表される構造単位(D1)、炭素数4〜6の脂環構造(D2)および炭素数6の芳香環構造(D3)からなる群から選ばれる少なくとも一つの構造単位(D)を有する水系ウレタン樹脂であって、且つそのウレタン樹脂において、分子中にポリエーテルポリオールに由来する構造単位を有するポリエーテルポリウレタン樹脂(E)と、
【化2】

(式中、R9は水素原子、アルキル基、アリール基およびアラルキル基からなる群より選ばれる一価の有機残基、R10、R11は互いに独立に、アルコキシル基、アシロキシ基、水酸基およびハロゲン原子からなる群から選ばれる官能基を、mは1〜5の整数を表す。)
(3)ビスフェノールA骨格を有するカチオン性フェノール樹脂(F)
の3成分からなる造膜成分(c)と、
(4)チタンフッ化水素酸(H)およびジルコンフッ化水素酸(I)の少なくとも何れか一方と、
(5)りん酸化合物(J)と、
(6)バナジウム(IV)化合物(K)
の少なくとも3成分からなるインヒビター成分(d)と
(7)ポリエチレンワックス(L)と
(8)水性媒体
からなるpHが4〜6である水系金属表面処理剤を塗布し乾燥することにより各成分を含有する複合皮膜を形成した亜鉛系めっき鋼板であり、且つ、該水系処理剤の造膜成分(c)において、
(9)有機ケイ素化合物(C)とポリエーテルポリウレタン樹脂(E)の固形分質量比〔(E)/(C)〕が0.33〜0.90であり、
(10) ポリエーテルポリウレタン樹脂(E)とカチオン性フェノール樹脂(F)の固形分質量比[(F)/(E)]が0.01〜0.03であり、
且つ、該水系処理剤のインヒビター成分(d)が、
(11) 有機ケイ素化合物(C)由来のSiとチタン弗化水素酸(H)およびジルコニウム弗化水素酸(I)の合計の金属成分質量比〔(M+M)/(Si)〕が0.08〜0.2であり、
(12) 有機ケイ素化合物(C)とりん酸化合物(J)の固形分質量比〔(J)/(C)〕が0.02〜0.11であり、
(13) 有機ケイ素化合物(C)とバナジウム化合物(K)の固形分質量比〔(K)/(C)〕が0.02〜0.06であり、
且つ、
(14) 有機ケイ素化合物(C)とポリエチレンワックス(L)の固形分との質量比〔(L)/(C)〕が0.05〜0.3
であることを特徴とする表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
前記水系表面処理剤が、チタン弗化水素酸(H)とジルコニウム弗化水素酸(I)の双方を含有し、チタン弗化水素酸(H)とジルコニウム弗化水素酸(I)の金属成分質量比〔(M)/(M)〕が0.5〜0.8であることを特徴とする請求項1に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】
前記水系表面処理剤のポリエーテルポリウレタン樹脂(E)が一般式[2]に含まれる構造単位(D1)を含み、前記構造単位(D1)由来のSiと、有機ケイ素化合物(C)由来のSiとポリエーテルポリウレタン樹脂(E)に含まれる構造単位(D)由来のSi合計との質量比[(Si)/(Si+Si)]が、0.015〜0.045であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】
亜鉛系めっき鋼板の表面に、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水系金属表面処理剤を塗布し、50〜250℃の到達温度で乾燥を行い、乾燥後の皮膜重量が0.5〜2.0g/m2であることを特徴とする表面処理亜鉛系めっき鋼板。

【公開番号】特開2011−106029(P2011−106029A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235597(P2010−235597)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】