説明

クロロゲン酸類の安定化剤

【課題】クロロゲン酸類の劣化を抑制し得る安定化剤を提供すること。
【解決手段】コーヒー抽出液由来のポリフェノール画分を有効成分とするクロロゲン酸類の安定化剤であって、上記ポリフェノール画分は、コーヒー抽出液にエタノールを添加し、該コーヒー抽出液中のエタノール濃度が80質量%となったときに生成する沈澱を除去して得られるものである、クロロゲン酸類の安定化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロゲン酸類の安定化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロゲン酸類は、ポリフェノールの一種であり、優れた生理活性を有することが知られている(特許文献1〜3)。したがって、この生理活性を十分に発現するには、クロロゲン酸類をより多く摂取することが有効である。
【0003】
しかしながら、クロロゲン酸類は、抗酸化物質であるため、時間の経過とともに酸素などの作用を受けて劣化しやすいという性質を有する。そのため、クロロゲン酸類を含有する飲食品は、保存時においてクロロゲン酸類含量が徐々に低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−363075号公報
【特許文献2】特開2002−22062号公報
【特許文献3】特開2002−53464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような実情から、クロロゲン酸類の経時変化に伴う劣化を抑制し得る安定化剤の開発が望まれている。
したがって、本発明の課題は、クロロゲン酸類の劣化を抑制し得る安定化剤及びその製造方法、並びにクロロゲン酸類の安定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、クロロゲン酸類の劣化抑制に有効な物質について種々検討したところ、コーヒー抽出液中に含まれる特定のポリフェノール画分がクロロゲン酸類の劣化の抑制に有効であることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、コーヒー抽出液由来のポリフェノール画分を有効成分とするクロロゲン酸類の安定化剤であって、
上記ポリフェノール画分は、コーヒー抽出液にエタノールを添加し、該コーヒー抽出液中のエタノール濃度が80質量%となったときに生成する沈澱を除去して得られるものである、クロロゲン酸類の安定化剤を提供するものである。
【0008】
本発明はまた、コーヒー抽出液に、該コーヒー抽出液中のエタノール濃度が80質量%となるまでエタノールを添加して沈澱を生成させる第1の工程と、
生成した沈殿と、エタノール溶解画分とを分離する第2の工程
を含む、クロロゲン酸類の安定化剤の製造方法を提供するものである。
【0009】
本発明は更に、クロロゲン酸類に対して、上記クロロゲン酸類の安定化剤を添加する、クロロゲン酸類の安定化方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クロロゲン酸類の劣化を抑制し得る安定化剤を提供することが可能であり、またこの安定化剤を簡便な操作で製造することができる。
また、本発明のクロロゲン酸類の安定化剤は、僅かな添加量でクロロゲン酸類の劣化を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】クロロゲン酸類の安定化剤を、ピロガロール及びハイドロキノンを内部標準として高速液体クロマトグラフィー分析した一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のクロロゲン酸類の安定化剤(以下、単に「安定化剤」とも称する)は、コーヒー抽出液にエタノールを添加し該コーヒー抽出液中のエタノール濃度が80質量%となったときに生成する沈澱を除去してエタノール溶解画分として得られるものである。
【0013】
より具体的には、コーヒー抽出液に、該コーヒー抽出液中のエタノール濃度が80質量%となるまでエタノールを添加して沈澱を生成させる第1の工程と、生成した沈殿とエタノール溶解画分とを分離する第2の工程を含むプロセスにより得ることができる。
【0014】
第1の工程で使用するコーヒー抽出液は、焙煎コーヒー豆からの抽出液、インスタントコーヒーの水溶液等から調製することができる。
第1の工程で使用するコーヒー抽出液は、当該コーヒー抽出液100g当たり焙煎コーヒー豆を、生豆換算で1g以上、更に2.5g以上、特に5g以上使用したものが好ましい。
【0015】
抽出に使用するコーヒー豆種としては、アラビカ種、ロブスタ種等が例示される。コーヒー豆の種類は特に限定されないが、例えば、ブラジル、コロンビア、タンザニア、モカ、キリマンジェロ、マンデリン、ブルーマウンテンが例示される。コーヒー豆は、1種でもよいし、複数種をブレンドして用いてもよい。
【0016】
コーヒー豆の焙煎方法としては、例えば、直火式、熱風式、半熱風式等の公知の方法を適宜選択することが可能であり、得られた焙煎コーヒー豆を乾燥してから抽出に使用してもよい。また、焙煎コーヒー豆として、粉砕したものを使用することができる。
【0017】
コーヒー豆の焙煎度としては、例えば、ライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティ、フルシティ、フレンチ、イタリアンが例示される。中でも、ライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティが好ましい。
焙煎コーヒー豆のL値は、好ましくは10〜30、更に好ましくは12〜25、特に好ましくは14〜20である。ここで、本明細書において「L値」とは、黒をL値0とし、また白をL値100として、焙煎コーヒー豆の明度を色差計で測定したものである。すなわち、L値はコーヒー豆の焙煎の程度を表す指標であり、コーヒー豆の焙煎が深いものほどコーヒー豆の色は黒っぽくなるためL値は低い値となり、逆に焙煎度が浅いほどL値は高い値となる。
【0018】
抽出方法としては、例えば、ボイリング式、エスプレッソ式、サイフォン式、ドリップ式(ペーパー、ネル等)等の公知の方法を採用することでき、抽出方法により抽出時間を適宜設定することも可能である。
抽出器としては、ペーパードリップ、不織布ドリップ、サイフォン、ネルドリップ、エスプレッソマシン、コーヒーマシン、パーコレーター、コーヒープレス、イブリック、ウォータードリップ、ボイリング、ニーダー、ドリップ抽出器、カラム抽出器等の公知のものを使用することができる。
【0019】
抽出溶媒としては、水、アルコール水溶液等が例示され、中でも、風味の観点から、水が好ましい。抽出溶媒のpH(25℃)は通常4〜10であるが、風味の観点から、5〜7が好ましい。
抽出溶媒の温度は抽出溶媒の種類により適宜選択することが可能であるが、好ましくは0〜100℃、より好ましくは10〜100℃、特に好ましくは80〜100℃である。
また、抽出溶媒の使用量は、焙煎コーヒー豆1質量部に対して0.5〜50質量部、特に0.5〜10質量部であることが好ましい。
【0020】
コーヒー抽出液中の固形分量は、風味の観点から、0.5〜35%、更に1〜30%、特に2〜25%であることが好ましい。ここでいう「固形分」とは、後掲の実施例の「Brixの測定」に記載の方法により測定された値をいう。
【0021】
コーヒー抽出液中のクロロゲン酸類の含有量は、生理活性の観点から、コーヒー抽出液中に0.05〜1質量%、更に0.1〜0.8質量%、特に0.2〜0.6質量%であることが好ましい。ここで、本明細書において「クロロゲン酸類」とは、3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸及び5−カフェオイルキナ酸のモノカフェオイルキナ酸と、3−フェルラキナ酸、4−フェルラキナ酸及び5−フェルラキナ酸のモノフェルラキナ酸と、3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及び4,5−ジカフェオイルキナ酸のジカフェオイルキナ酸を併せての総称である。クロロゲン酸類含量は上記9種の合計量に基づいて定義される。なお、「クロロゲン酸類の含有量」は、後掲の実施例の「クロロゲン酸類の分析」に記載の方法により定量された値をいう。
得られたコーヒー抽出液は、必要により濃縮又は水希釈することができる。
【0022】
第1の工程においては、コーヒー抽出液に、コーヒー抽出液中のエタノール濃度が80質量%となるまでエタノールを添加するが、エタノールの添加方法は特に限定されず、一括添加してもよいし、分割添加又は連続添加してもよい。
【0023】
エタノール添加後のコーヒー抽出液中に沈殿を生成させるには該コーヒー抽出液を放置すればよいが、必要により冷却して沈澱の生成を促進してもよい。冷却温度は、好ましくは20℃以下、更に好ましくは10℃以下、特に好ましくは5℃以下である。なお、冷却温度の下限は、凝固点よりも高いことが好ましい。放置時間は、1〜30時間、更に5〜25時間、特に10〜20時間であることが好ましい。
【0024】
次に、第2の工程を行うが、エタノール添加後のコーヒー抽出液中に生成した沈殿と、エタノール溶解画分を分離する方法としては、濾過、遠心分離、デカンテーション等の公知の固液分離手段を採用することができる。
回収されたエタノール溶解画分は、必要により濃縮又は乾燥してもよい。
【0025】
このようにして本発明の安定化剤を得ることができるが、得られた安定化剤は、有効成分であるポリフェノール画分が下記の(1)及び(2)から選ばれる少なくとも1種の理化学的性質を有することができる。
(1)ピロガロールを内部標準として高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」と、も称する)分析したときに、ピロガロールのピークBと、ピロガロールの相対時間に対する相対保持比1.56±0.2(好ましくは1.56±0.1)の時間領域に検出されるピークAとの面積比(A/B)が0.01未満である。かかる面積比(A/B)は、クロロゲン酸類のより一層の劣化抑制の観点から、0.008未満、更に0.005未満、特に0.003未満であることが好ましい。
(2)ハイドロキノンを内部標準としてHPLC分析したときに、ハイドロキノンのピークCと、ハイドロキノンの相対時間に対する相対保持比1.45±0.2(好ましくは1.45±0.1)の時間領域に検出されるピークAとの面積比(A/C)が0.1未満である。かかる面積比(A/C)は、クロロゲン酸類のより一層の劣化抑制の観点から、0.08未満、更に0.06未満、特に0.04未満であることが好ましい。
ここで、本明細書において「保持時間」とは、試料を注入してから検出器で検出されるまでの時間をいい、また「相対保持比」とは、内部標準の保持時間を基準に、対象とするピークの保持時間を比で表わしたものをいう。
【0026】
すなわち、本発明の安定化剤は、HPLC分析したときに、
i)ピロガロールの相対時間に対する相対保持比1.56±0.2、及び
ii)ハイドロキノンの相対時間に対する相対保持比1.45±0.2
から選択される少なくとも1つの時間領域に、ピークAとして検出されるコーヒー抽出液由来の化学物質が顕著に低減されていることを特徴とするものである。なお、このピークAは実質的に有しなくてもよく、すなわちHPLC分析においてピークAが検出限界以下であってもよい。
【0027】
HPLC分析においては、検出手段として電気化学検出器を使用して高感度に検出するが、HPLCによる具体的な分析条件は後掲の実施例の「クロロゲン酸類の安定化剤の分析」に記載のとおりである。
【0028】
本発明の安定化剤の添加量は、クロロゲン酸類に対する質量比として0.05〜2、更に0.5〜1.8、特に0.8〜1.5であることが好ましい。このような少量の添加量でクロロゲン酸類の劣化を十分に抑制することが可能である。
【0029】
次に、本発明の飲食品について説明する。
本発明の飲食品は、(I)クロロゲン酸類と、(II)上記した本発明の安定化剤を含有することを特徴とするものである。これにより、飲食品中に含まれるクロロゲン酸類の劣化を抑制することが可能になり、またクロロゲン酸類による生理作用を十分に期待できる。
【0030】
本発明の飲食品としてはクロロゲン酸類を含有すれば特に限定されるものではないが、飲料;スナック、ビスケット、チューインガム、チョコレート、キャンディー等の菓子類;アイスクリーム、シャーベット、氷菓等の冷菓類;プリン、ゼリー、ババロア、ヨーグルト等のデザート類;クリーム、ドレッシング、マヨネーズ、マーガリン等の乳化食品等が例示される。なお、飲食品の形態は、その種類に応じて適宜選択することが可能である。
【0031】
本発明の飲食品には、当該飲食品の種類に応じて、乳成分、甘味料、苦味抑制剤、酸化防止剤、香料、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、酸味料、ビタミン、アミノ酸、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を単独で又は併用して配合してもよい。なお、これら添加剤の配合量は、本発明の目的を阻害しない範囲内で適宜決定することができる。
【0032】
また、本発明の飲食品中の(II)上記安定化剤の含有量は、クロロゲン酸類の劣化抑制の観点から、(I)クロロゲン酸類に対する質量比[(II)/(I)]として0.05〜2、更に0.5〜1.8、特に0.8〜1.5であることが好ましい。
【0033】
本発明の飲料は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の包装容器に充填した容器詰飲料として提供することができる。更に、容器詰飲料は、例えば、金属缶のような容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた殺菌条件で製造できる。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用できる。
【実施例】
【0034】
(1)クロロゲン酸類の安定化剤の分析
クロロゲン酸類の安定化剤を固形分として0.2質量%溶液となるようにサンプル希釈液にて定容して得られたものを、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A,孔径0.45μm,ジーエルサイエンス(株))にて濾過し、内部標準が試料中にピロガロールとして0.94mg/kg、ハイドロキノンとして0.54mg/kgとなるように調製して分析に供した。なお、サンプル希釈液として、リン酸5gと、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDPO)0.165gと、蒸留水950mLと、メタノール50mLを混合溶解した、リン酸/HEDPO/蒸留水/メタノール混合溶液(w/w/v/v)を用いた。
【0035】
分析機器はHPLCを使用した。装置の構成ユニットの型番は次の通りである。
カラム:Capcell PAK C18,Type:AQ 5μm,Size:内径4.6mm×長さ250mm(資生堂株式会社)
ポンプ:LC−20AD(島津製作所株式会社)
オートサンプラ(クーラー付):SIL−20AC(島津製作所株式会社)
カラムオーブン(クーラー付):CTO−20AC(島津製作所株式会社)
電気化学測定装置:クーロケムIII(ESA)
高感度アナリティカルセル:Model−5011(ESA)
【0036】
分析条件は次の通りである。
サンプル注入量:10μL
流速:1.0mL/min
カラムオーブン設定温度:40℃
検出器:電気化学検出器
検出条件(クーロケムIII設定条件)
1)セルポテンシャル:第1電極 −500mV,第2電極 200mV
但し、試料検出には第2電極を使用
ガードセルポテンシャル:250mV
以下、第1電極、第2電極共通
2)フルスケールレンジ:20μA
3)フィルター:5.0sec
4)出力信号電圧:1.0V
5)ベースラインオフセット:0%
6)溶離液A:リン酸/HEDPO/蒸留水/メタノール混合溶液
調製法:リン酸1gと、HEDPO 0.033gと、蒸留水950mLと、メタノール50mLを混合溶解し、リン酸/HEDPO/蒸留水/メタノール混合溶液(w/w/v/v)を調製した。
7)溶離液B:リン酸/HEDPO/蒸留水/メタノール混合溶液
調製法:リン酸1gと、HEDPO 0.033gと、蒸留水500mLと、メタノール500mLを混合溶解し、リン酸/HEDPO/蒸留水/メタノール混合溶液(w/w/v/v)を調製した。
【0037】
濃度勾配条件
時間 溶離液A 溶離液B
0.0分 100% 0%
10.0分 100% 0%
10.1分 90% 10%
20.0分 90% 10%
20.1分 0% 100%
30.0分 0% 100%
30.1分 100% 0%
60.0分 100% 0%
【0038】
(2)クロロゲン酸類の分析
分析機器はHPLCを使用した。装置の構成ユニットの型番は次の通りである。
UV−VIS検出器:L−2420((株)日立ハイテクノロジーズ)、
カラムオーブン:L−2300((株)日立ハイテクノロジーズ)、
ポンプ:L−2130((株)日立ハイテクノロジーズ)、
オートサンプラー:L−2200((株)日立ハイテクノロジーズ)、
カラム:Cadenza CD−C18 内径4.6mm×長さ150mm、粒子径3μm(インタクト(株))。
【0039】
分析条件は次の通りである。
サンプル注入量:10μL、
流量:1.0mL/min、
UV−VIS検出器設定波長:325nm、
カラムオーブン設定温度:35℃、
溶離液C:0.05M 酢酸、0.1mM HEDPO、10mM 酢酸ナトリウム、5(V/V)%アセトニトリル溶液、
溶離液D:アセトニトリル。
【0040】
濃度勾配条件
時間 溶離液C 溶離液D
0.0分 100% 0%
10.0分 100% 0%
15.0分 95% 5%
20.0分 95% 5%
22.0分 92% 8%
50.0分 92% 8%
52.0分 10% 90%
60.0分 10% 90%
60.1分 100% 0%
70.0分 100% 0%
【0041】
HPLCでは、試料1gを精秤後、溶離液Cにて10mLにメスアップし、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A,孔径0.45μm,ジーエルサイエンス(株))にて濾過後、分析に供した。
クロロゲン酸類の保持時間(単位:分)
(A1)モノカフェオイルキナ酸:5.3、8.8、11.6の計3点
(A2)モノフェルラキナ酸:13.0、19.9、21.0の計3点
(A3)ジカフェオイルキナ酸:36.6、37.4、44.2の計3点。
ここで求めた9種のクロロゲン酸類の面積値から5−カフェオイルキナ酸を標準物質とし、クロロゲン酸類含量(mg/100g)を求めた。
【0042】
(3)L値の測定
試料を、色差計((株)日本電色社製 スペクトロフォトメーター SE2000)を用いて測定した。
【0043】
(4)固形分の測定
試料を、糖度計((株)アタゴRX−5000α−Bev)を用いてBrix測定した。
【0044】
実施例1
L値が16.5である焙煎コーヒー豆から得られたコーヒー抽出液(固形分20.5%、クロロゲン酸類含量0.4質量%)にエタノールを、エタノール添加後のコーヒー抽出液中のエタノール濃度が80質量%となるまで添加した。次いで、5℃にて12時間放置した後、沈殿を濾過により除去し、濾液から溶媒を溜去してクロロゲン酸類の安定化剤を得た。
得られたクロロゲン酸類の安定化剤を、ピロガロール及びハイドロキノンを内部標準としてHPLCにより上記条件で分析したところ、図1に示すチャートが得られた。図1において、ピロガロールのピークを「B」、またハイドロキノンのピークを「C」と表示し、ピロガロール及びハイドロキノンの保持時間に対して所定の相対保持比に検出されるピークを「A」と表示した。
このHPLC分析により、ピロガロールのピークBと、ピロガロールの相対時間に対する相対保持比1.56±0.2に検出されるピークAとの面積比(A/B)は0.002であり、またハイドロキノンのピークCと、ハイドロキノンの相対時間に対する相対保持比1.45±0.2に検出されるピークAとの面積比(A/C)は0.027であることが確認された。
次いで、5−カフェオイルキナ酸(以下、「5−CQA」という。東京化成工業(株)製)を、カフェオイルキナ酸類として170mg/100g、クロロゲン酸類の安定化剤(固形分)を200mg/100gとなるようにpH6.0の緩衝液に希釈し、クロロゲン酸類含有組成物を調製した。
次いで、得られたクロロゲン酸類含有組成物を12mLのバイアル瓶に10mL充填し、60℃にて7日間保存した。
次いで、保存後のクロロゲン酸類含有組成物中の5−CQAの残存率を測定した。その結果を表1に示す。
【0045】
実施例2
pH6.5の緩衝液に希釈したこと以外は、実施例1と同様の方法によりクロロゲン酸類含有組成物を調製した。次いで、これを12mLのバイアル瓶に10mL充填し、60℃にて7日間保存し、保存後のクロロゲン酸類含有組成物中の5−CQAの残存率を測定した。その結果を表1に示す。
【0046】
比較例1
クロロゲン酸類の安定化剤を添加せずに、5−CQAをカフェオイルキナ酸類として170mg/100gとなるようにpH6.0の緩衝液に希釈し、クロロゲン酸類含有組成物を調製した。
次いで、得られたクロロゲン酸類含有組成物を12mLのバイアル瓶に10mL充填し、60℃にて7日間保存し、保存後のクロロゲン酸類含有組成物中の5−CQAの残存率を測定した。その結果を表1に示す。
【0047】
比較例2
pH6.5の緩衝液に希釈したこと以外は、比較例1と同様の方法によりクロロゲン酸類含有組成物を調製した。次いで、これを12mLのバイアル瓶に10mL充填し、60℃にて7日間保存し、保存後のクロロゲン酸類含有組成物中の5−CQAの残存率を測定した。その結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から、本発明のクロロゲン酸類の安定化剤を含有せしめることにより、クロロゲン酸類の劣化が抑制され、クロロゲン酸類の安定性が高められることが確認された。
【符号の説明】
【0050】
A:ピロガロールの相対時間に対する相対保持比1.56±0.2、及びハイドロキノンの相対時間に対する相対保持比1.45±0.2に検出されるピーク
B:ピロガロールのピーク
C:ハイドロキノンのピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー抽出液由来のポリフェノール画分を有効成分とするクロロゲン酸類の安定化剤であって、
前記ポリフェノール画分は、コーヒー抽出液にエタノールを添加し、該コーヒー抽出液中のエタノール濃度が80質量%となったときに生成する沈澱を除去して得られるものである、クロロゲン酸類の安定化剤。
【請求項2】
前記コーヒー抽出液中の固形分量が0.5〜35質量%である、請求項1記載の安定化剤。
【請求項3】
前記コーヒー抽出液は、L値が10〜30である焙煎コーヒー豆から得られるものである、請求項1又は2記載の安定化剤。
【請求項4】
当該安定化剤の添加量がクロロゲン酸類に対する質量比として0.05〜2である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の安定化剤。
【請求項5】
コーヒー抽出液に、該コーヒー抽出液中のエタノール濃度が80質量%となるまでエタノールを添加して沈澱を生成させる第1の工程と、
生成した沈殿と、エタノール溶解画分とを分離する第2の工程
を含む、クロロゲン酸類の安定化剤の製造方法。
【請求項6】
クロロゲン酸類に対して、請求項1〜4のいずれか1項に記載のクロロゲン酸類の安定化剤を添加する、クロロゲン酸類の安定化方法。

【図1】
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