説明

クローニングベクター

【課題】PCR増幅産物のようなDNA断片を簡便に、挿入方向を制御しながら、さらに目的のDNA断片のみが挿入されたクローンを容易に選択できるTAクローニング用のベクター、当該ベクターを用いるクローニング方法、当該ベクターの製造方法及び当該ベクターを含むキットを提供すること。
【解決手段】薬剤耐性遺伝子産物の薬剤耐性の発揮に不可欠なC末端部分又はN末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列が欠失した活性喪失薬剤耐性遺伝子が末端に配置されているベクター、当該ベクターを用いるクローニング方法、当該ベクターの製造方法及び当該ベクターを含むキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCR産物のクローニングに適したベクター、当該ベクターを用いるクローニング方法、当該ベクターの製造方法及び当該ベクターを含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、目的遺伝子の単離方法としてPCRを利用する方法が知られている。この方法ではまず、目的遺伝子を含むDNAもしくはその断片をPCRで増幅し、得られたPCR産物をクローニング用プラスミドベクターに組み込み、さらにこれを用いて宿主を形質転換させて形質転換体の単コロニーを形成させる。次に、形成された単コロニーからプラスミドを精製し、プラスミドに挿入されたDNA断片の確認を行う。こうすることにより、目的遺伝子又はその断片が挿入されているプラスミドを取得することができる。
【0003】
PCR法に用いられる酵素のうち、代表的なTaq DNAポリメラーゼには、複製されたDNA産物の3´末端に鋳型非依存的にデオキシアデニン(dA)を一残基付加するという副反応の活性があることが知られている。このため、このような副反応の活性があるDNAポリメラーゼを用いて増幅させた二本鎖DNA断片の大部分は、デオキシアデニンが1残基付加した3´端突出構造を有する。
【0004】
これを利用して、突出する1残基のデオキシチミジン(dT)を両3´末端に有する開環ベクター(T−ベクター)を利用するTAクローニング法が開発された(非特許文献1)。TAクローニング法を用いることにより、PCR産物の制限酵素処理や末端の平滑化処理を行うことなく、PCR産物が挿入された組み換えプラスミドを得ることができる。
【0005】
しかしながら、従来のTAクローニング法には欠点がある。TAクローニングにおいて、PCR断片が挿入されたプラスミドを含む形質転換体の同定には、β−ガラクトシダーゼ遺伝子のα−相補性を利用する、いわゆる青/ 白スクリーニングが汎用されている。しかし、PCR断片がβ−ガラクトシダーゼ由来αペプチド遺伝子の塩基配列に対してイン・フレームで挿入された場合には融合タンパク質としてαペプチドの発現が起こることがある。この場合、弱い青色を呈する偽陰性コロニーの生成につながってしまう。
【0006】
また、通常のTAクローニング法では、ベクターに挿入される目的遺伝子の方向性が制御できない。この欠点を解消するために改良型T−ベクターが作成された。例えば特許文献1には、第一の制限酵素切断部位を生じさせるプライマー対と当該プライマー対を用いてPCRした増幅産物が逆方向に挿入された場合にのみ第2の制限酵素切断部位が出現するようにデザインされたT−ベクターとを組み合わせた方法が開示されている。この方法では、第2の制限酵素切断部位を切断する制限酵素を使用して逆方向に挿入されたプラスミドのみを切断することにより、所望の方向にDNA断片が挿入されたプラスミドを保持した形質転換体のみを得ることができる。しかしながらこの方法では、ライゲーション反応後にさらに制限酵素処理を行う必要があり操作が煩雑になってしまう。
【0007】
最近、TAクローニングにおける偽陰性コロニーの生成を抑制するために、選択マーカーとして致死遺伝子を利用する方法が報告された(非特許文献2)。しかしながら、この方法では、ベクターに挿入される目的遺伝子の方向性が制御できない。
【0008】
このように、PCR増幅産物のようなDNA断片を簡便に、挿入方向を制御しながら、さらに目的のDNA断片のみが挿入されたクローンを容易に選択できるクローニングベクターはないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2005/021747号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】バイオテクニークス(BioTechniques)、1995年、第19巻、第1号、第34頁〜35頁
【非特許文献2】モレキュラー バイオロジー レポーツ(Molecular Biology Reports)、2009年、第36巻、第7号、第1793頁〜1798頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記の欠点が克服されたTAクローニング用のベクター、当該ベクターを用いるクローニング方法、当該ベクターの製造方法及び当該ベクターを含むキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、薬剤耐性遺伝子産物の薬剤耐性の発揮に不可欠なC末端部分又はN末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列が欠失した活性喪失薬剤耐性遺伝子が末端に配置されているベクターにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち本発明は、
[1]突出する1残基のデオキシチミジン又はウリジンを両3´末端に有する直鎖状の二本鎖DNAからなるクローニング用ベクターであって、薬剤耐性遺伝子産物の部分配列をコードする核酸を保持し、前記核酸は前記薬剤耐性遺伝子産物の薬剤耐性の発揮に不可欠なC末端部分又はN末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列が欠失した活性喪失薬剤耐性遺伝子であり、さらに前記核酸は前記活性喪失薬剤耐性遺伝子において欠失した核酸配列を末端部分に含む挿入DNA断片がベクターに連結した際に欠失のない薬剤耐性遺伝子産物をコードする核酸が構成されるように前記二本鎖DNAのいずれか一方の末端に配置されていることを特徴とするベクター、
[2]活性喪失薬剤耐性遺伝子が、薬剤耐性遺伝子産物のC末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列が欠失した活性喪失薬剤耐性遺伝子である、[1]に記載のベクター、
[3]活性喪失薬剤耐性遺伝子が、C末端アミノ酸が欠失したβ−ラクタマーゼのアミノ酸配列をコードする核酸配列からなる、[2]に記載のベクター、
[4]活性喪失薬剤耐性遺伝子が、配列表の配列番号:17に記載のアミノ酸配列をコードする核酸配列からなる、[3]に記載のベクター、
[5]さらに、前記の薬剤耐性遺伝子とは異なる薬剤に対して耐性を示す第2の薬剤耐性遺伝子を有する[1]に記載のベクター、
[6]配列表の配列番号:5に記載の核酸配列からなるDNA、及び配列表の配列番号:18に記載の核酸配列からなるDNAからなる、[1]に記載のベクター、
[7]DNAをクローニングする方法であって、下記工程(a)〜(d)を含む方法:
(a)DNAを鋳型として、第1のプライマー、第1のプライマーに対向する第2のプライマー、及びDNAポリメラーゼを用いてPCRを行う工程、(b)工程(a)により得られたPCR産物と[1]〜[6]のいずれか一項に記載のベクターとを連結し、環状DNAを得る工程、(c)工程(b)により得られた環状DNAで宿主細胞を形質転換する工程、及び(d)欠失のない薬剤耐性遺伝子産物が耐性を示す薬剤による薬剤選択によって、PCR産物が所望の方向でベクターに挿入された環状DNAを有する形質転換体を選択する工程、ここで第1のプライマーは、3´末端側に前記DNAに相補的な核酸配列を有し、且つ[1]〜[6]に記載のベクターにおける活性喪失薬剤耐性遺伝子が薬剤耐性遺伝子産物のC末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列が欠損した遺伝子である場合には欠損している核酸配列を5´末端側に、[1]〜[6]に記載のベクターにおける活性喪失薬剤耐性遺伝子が薬剤耐性遺伝子産物のN末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列が欠損した遺伝子である場合には、欠損している核酸配列の相補鎖配列から5´末端のデオキシチミジンを除いた核酸配列を5´末端側に有する、
[8]工程(a)におけるDNAポリメラーゼが、反応産物の3´末端に鋳型非依存的に1塩基のデオキシアデノシンを付加する活性を有する、[7]のクローニング方法、
[9]工程(a)において、さらに反応産物の3´末端に1塩基のデオキシアデノシンを付加することを含む、[7]のクローニング方法、
[10]ベクターの製造方法であって、配列表の配列番号:19に記載の核酸配列を有する環状二本鎖DNAを制限酵素PmaCIにより切断する工程、及びターミナルデオキシジルトランスフェラーゼ活性を有する酵素により、切断された二本鎖DNAの両3´末端に突出する1残基のチミン又はウラシルを付加し、[1]に記載のベクターを得る工程を含む製造方法、並びに
[11]クローニングのためのキットであって、[1]〜[6]のいずれか一に記載のベクター及びDNAリガーゼを含むキット、
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、簡便な操作で目的の遺伝子が所望の方向で挿入されたクローンのみを選択可能なベクターが提供される。また、本発明により、目的遺伝子が挿入されたプラスミドを含む形質転換体の同定にX−GalやIPTG等が不要となり、準備操作が簡略化される。さらに、本発明のベクターは、ATリッチなDNA断片のクローニングにも威力を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例2(1)における、本発明のベクターを用いたTAクローニングを経て得られた形質転換体についてのコロニーPCRの結果を示す図である。
【図2】実施例2(1)における、従来のT−ベクターを用いたTAクローニングを経て得られた形質転換体についてのコロニーPCRの結果を示す図である。
【図3】実施例2(3)における、本発明のベクターを用いたTAクローニングを経て得られた形質転換体についてのコロニーPCRの結果を示す図である。
【図4】実施例2(3)における、従来のT−ベクターを用いたTAクローニングを経て得られた形質転換体についてのコロニーPCRの結果を示す図である。
【図5】pUC19−bla ΔW290−T DNAの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)本発明のクローニングベクター
本発明のクローニングベクターは、突出する1残基のデオキシチミジン又はウリジンを両3´末端に有する直鎖状の二本鎖DNAからなり、薬剤耐性遺伝子産物の部分配列をコードする核酸を保持し、前記核酸は前記薬剤耐性遺伝子産物の薬剤耐性の発揮に不可欠なC末端部分又はN末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列が欠失した活性喪失薬剤耐性遺伝子であり、さらに前記核酸は前記活性喪失薬剤耐性遺伝子において欠失した核酸配列を末端部分に含む挿入DNA断片がベクターに連結した際に欠失のない薬剤耐性遺伝子産物をコードする核酸が構成されるように前記二本鎖DNAのいずれか一方の末端に配置されている。ここで前記の「欠失」とは、前記の直鎖状の二本鎖DNAの末端に配置された薬剤耐性遺伝子において、薬剤耐性の発揮に不可欠な部分を除く領域をコードする核酸配列のみが保持されていることを意味する。
【0017】
「前記核酸が前記活性喪失薬剤耐性遺伝子において欠失した核酸配列を末端部分に含む挿入DNA断片がベクターに連結した際に欠失のない薬剤耐性遺伝子産物をコードする核酸が構成されるように前記二本鎖DNAのいずれか一方の末端に配置されている」とは、前記活性喪失薬剤耐性遺伝子の核酸配列が欠失した側の末端が、前記二本鎖DNAのいずれか一方の末端となるように、前記核酸が配置されているということである。ただし、前記活性喪失薬剤耐性遺伝子側の二本鎖DNAの末端における3´末端の突出する1残基のデオキシチミジン又はウリジンが、前記活性喪失薬剤耐性遺伝子又はその相補鎖の一部を構成するように配置される。本発明のクローニング用ベクターに、前記活性喪失薬剤耐性遺伝子において欠失した核酸配列の部分配列を末端部分に含むDNA断片が連結することにより、欠失のない薬剤耐性遺伝子産物をコードする核酸が構成されるようになる。
【0018】
前記の薬剤耐性遺伝子は特定の薬剤への耐性に寄与するものに限定されるものではなく、宿主の生育を抑制する薬剤に対する耐性を宿主に付与できるタンパク質をコードするものであればよい。例えば、アンピシリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ハイグロマイシン、スペクチノマイシン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン等への耐性に寄与する遺伝子を本発明に使用することができる。好適には、本発明にはアンピシリン耐性遺伝子(β−ラクタマーゼ遺伝子)が使用される。
【0019】
前記の活性喪失薬剤耐性遺伝子において欠失した薬剤耐性遺伝子産物の薬剤耐性の発揮に不可欠なC末端部分又はN末端部分のアミノ酸としては、好適には薬剤耐性遺伝子産物の薬剤耐性の発揮に不可欠なC末端又はN末端から1〜5アミノ酸残基が、より好適にはC末端又はN末端から1〜3アミノ酸残基が、さらにより好適にはC末端又はN末端のアミノ酸残基が例示される。なお、本明細書では、活性喪失薬剤耐性遺伝子において欠失した薬剤耐性遺伝子産物の薬剤耐性の発揮に不可欠なC末端部分又はN末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列とは、このようなアミノ酸をコードするコドンを全て含むものに限定されず、その欠損によって薬剤耐性遺伝子産物の薬剤耐性が喪失する限りにおいて、上記アミノ酸のうち1つのアミノ酸についてはこれをコードするコドンの一部の核酸配列を欠くものであってもよい。例えば、活性喪失薬剤耐性遺伝子において欠失した薬剤耐性遺伝子産物の薬剤耐性の発揮に不可欠なC末端部分又はN末端部分のアミノ酸がC末端のフェニルアラニンであり、これをコードするコドンが5´−TTC−3´であるとき、このうち5´−TC−3´も活性喪失薬剤耐性遺伝子において欠失した薬剤耐性遺伝子産物の薬剤耐性の発揮に不可欠なC末端部分又はN末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列である場合もある。
【0020】
前記の活性喪失薬剤耐性遺伝子において欠失した薬剤耐性遺伝子産物の薬剤耐性の発揮に不可欠なC末端部分又はN末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列としては、本発明を特に限定するものではないが、薬剤耐性遺伝子産物のC末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列であることが好ましい。このような核酸配列が欠失した活性喪失薬剤耐性遺伝子としては、例えば配列表の配列番号:17に示される核酸配列のような、C末端アミノ酸が欠損したβ−ラクタマーゼのアミノ酸配列をコードする核酸配列が例示される。
【0021】
配列表の配列番号:17に示される核酸配列を含むベクターは、例えば以下の方法で作製できる。β−ラクタマーゼのC末端である290番目のアミノ酸残基(トリプトファン残基、以下、W290と記すことがある)とその前の289番目のアミノ酸残基(ヒスチジン残基、以下、H289と記すことがある)をコードする核酸配列である5´−CATTGG−3´をPmaCIの制限酵素切断部位である5´−CACGTG−3´に改変する。こうして作製される改変β−ラクタマーゼ遺伝子にコードされるポリペプチドはβ−ラクタム系抗生物質、例えばアンピシリンを分解できない。この改変β−ラクタマーゼ遺伝子を挿入された、前記遺伝子以外の領域にPmaCI切断部位を有しないベクターをPmaCIで切断すると、W290をコードする配列を欠くβ−ラクタマーゼ遺伝子が末端に位置する直鎖状の二本鎖DNAが生成する。さらに、こうして得られた二本鎖DNAの両3´末端に公知の方法で1残基のデオキシチミジン(もしくはウリジン)を付加することにより、3´末端に1残基のデオキシアデノシンを有するPCR産物の連結に適した直鎖状ベクターを調製することができる。ここでは配列表の配列番号:17に示される核酸配列を用いて説明したが、本発明の直鎖状ベクターは上記の具体例に限定されず、薬剤耐性遺伝子のC末端部分やN末端部分のアミノ酸配列を考慮し、公知の制限酵素を適宜選択し使用することにより、同様の方法で調整することができる。
【0022】
本発明のベクターとして、本発明を特に限定するものではないが、プラスミドベクター、ファージベクター、ファージミドベクターを使用することができる。プラスミドベクターとしては使用する宿主において機能する複製起点(大腸菌の場合にはpUC ori、pACYC ori等)を保持するものを使用すればよい。本発明のベクターには、搭載される薬剤耐性遺伝子の発現のためのプロモーター配列の他、例えばクローニングされるDNA断片上の遺伝子の発現を制御するためのプロモーター及びオペレーター配列等が含まれていてもよい。また、前記の薬剤耐性遺伝子とは異なる薬剤に対して耐性を示す第2の薬剤耐性遺伝子をさらに有していてもよい。前記の薬剤耐性遺伝子として例えばアンピシリン耐性遺伝子を使用する場合、第2の薬剤耐性遺伝子としては、本発明を特に限定するものではないが、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ハイグロマイシン、スペクチノマイシン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン等への耐性に寄与する遺伝子が例示され、このうちカナマイシン耐性遺伝子が好適に例示される。本発明のベクターの好適な例としては、図5に示す構造を有するものが挙げられる。本発明のベクターのさらに具体的な例としては、配列表の配列番号:5に記載の核酸配列からなるDNA、及び配列表の配列番号:18に記載の核酸配列からなるDNAからなるベクターが挙げられる。
【0023】
本発明のベクターを後述の本発明のクローニング方法に用いることにより、形質転換体取得の際の偽陽性クローンの出現が抑えられ、陽性クローン取得効率を向上させることができる。本明細書において「陽性クローン取得効率」とは、TAクローニングにより得られた環状DNAにより形質転換された形質転換体の中からTAクローニングに使用したベクターに応じたスクリーニング方法(青/ 白スクリーニングや薬剤選択等)によって選択された所望の挿入断片が挿入された環状DNAを保持することが期待されるクローンのうち、実際に所望の挿入断片が挿入された環状DNAを保持するクローンが含まれる割合のことをいう。陽性クローン取得効率の測定方法は、本願実施例2〜4に記載の方法に準じて測定することができる。
【0024】
さらには、本発明のベクターを後述の本発明のクローニング方法に用いることにより、挿入断片が任意の方向でのみ挿入された環状DNAを取得することができる。
【0025】
(2)本発明のクローニング方法
本発明のクローニング方法は、(a)DNAを鋳型として、第1のプライマー、第1のプライマーに対向する第2のプライマー、及びDNAポリメラーゼを用いてPCRを行う工程、(b)工程(a)により得られたPCR産物と本発明のベクターとを連結し、環状DNAを得る工程、(c)工程(b)により得られた環状DNAで宿主細胞を形質転換する工程、及び(d)欠失のない薬剤耐性遺伝子産物が耐性を示す薬剤による薬剤選択によって、PCR産物が所望の方向でベクターに挿入された環状DNAを有する形質転換体を選択する工程を含む。ここで第1のプライマーは、3´末端側に前記DNAに相補的な核酸配列を有し、且つ本発明のベクターにおける活性喪失薬剤耐性遺伝子が薬剤耐性遺伝子産物のC末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列が欠損した遺伝子である場合には欠損している核酸配列を5´末端側に、本発明のベクターにおける活性喪失薬剤耐性遺伝子が薬剤耐性遺伝子産物のN末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列が欠損した遺伝子である場合には、欠損している核酸配列の相補鎖配列から5´末端のデオキシチミジンを除いた核酸配列を5´末端側に有する。
【0026】
前記の第1のプライマーの、活性喪失薬剤耐性遺伝子において欠失している薬剤耐性の発揮に不可欠なC末端部分又はN末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列又はその相補鎖配列は、当該プライマーを用いたPCRによって得られる増幅産物を本発明のクローニングベクターと連結した際に、欠失のない薬剤耐性遺伝子産物をコードする配列が生じるよう設計されていればよい。例えば配列表の配列番号:5に記載の核酸配列のDNA及び配列表の配列番号:18に記載の核酸配列のDNAからなるベクターを用いる場合、5´−GGTAA−3´を5´末端に含む核酸配列のプライマーを用いることができる。前記の欠失のない薬剤耐性遺伝子産物のアミノ酸配列やそれをコードする核酸配列は、遺伝子産物が薬剤耐性を発揮するものであれば、天然型の配列と異なるものであってもよい。本願発明者らは、β−ラクタマーゼの290番目のアミノ酸がフェニルアラニンに置換した変異体(W290F)が野生型のβ−ラクタマーゼと同様にアンピシリンに対する薬剤耐性を発揮することを見出した。この知見に基づいて、例えばベクターとして配列表の配列番号:5に記載の核酸配列のDNA及び配列表の配列番号:18に記載の核酸配列のDNAからなるベクターを用いる場合、5´−TTTAA−3´あるいは5´−TCTAA−3´を5´末端に含む核酸配列のプライマーを用いることができる。また、第1のプライマーの3´末端側の配列は、鋳型DNAに相補的な、PCRのプライマーとして十分な長さの核酸配列を有していればよい。
【0027】
前記の第2のプライマーは、第1のプライマーの伸長鎖にアニーリング可能なプライマーであれば特に限定はなく、周知技術により適宜設計することができる。PCR断片が特定の一方向で挿入された環状DNAのみを取得する場合には、特に限定されるものではないが、例えば第1のプライマーの伸長鎖の一部に相補的な核酸配列からなるプライマーを第2のプライマーとして設計すればよい。PCR産物がそれぞれ異なる方向で挿入された2種類の環状DNAを取得する場合には、第1のプライマーと同様に、活性喪失薬剤耐性遺伝子において欠失している薬剤耐性の発揮に不可欠なC末端部分又はN末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列又はその相補鎖配列が含まれるように、第2のプライマーを設計すればよい。
【0028】
前記のDNAポリメラーゼとしては、代表的な耐熱性DNAポリメラーゼであるPolI型DNAポリメラーゼ、又はこれを含む混合型DNAポリメラーゼが例示される。なお、PolI型DNAポリメラーゼとともに汎用されているα型DNAポリメラーゼによってPCR増幅されたDNA断片は、当該DNAポリメラーゼが有する3´エキソヌクレアーゼ活性のために、3´末端にdA突出を持たないものが多数を占めることが知られているが、PCR反応後にPolI型DNAポリメラーゼ等により3´末端にdAの突出を付加する処理を行うことで、TAクローニング法によるクローニングは可能となる。α型DNAポリメラーゼによりPCR増幅されたDNA断片の3´末端にdA突出を作製する方法としては、Taq DNAポリメラーゼ、あるいはターミナルデオキシトランスフェラーゼのような核酸配列の3´末端へ塩基を付加する活性を有する酵素で処理する方法が挙げられる。このような処理を経て得られたDNA断片と本発明のベクターを用いるクローニング方法も、本発明の態様の一つである。
【0029】
本発明のクローニング方法におけるPCR反応は、上記のプライマー対及びDNAポリメラーゼを使用して実施する。鋳型DNA、プライマー、Mgイオン、4種類のデオキシリボヌクレオチド三リン酸、及びDNAポリメラーゼの使用量、並びに熱変性/アニーリング/伸長反応の各プロセスの温度及び時間、これらのプロセスのサイクル数等は、例えばBartlett JMS及びStirling D編「PCR Protocols」、第2版、Humana Press、2003年等を参考に、任意に設定することができる。
【0030】
前記工程(b)におけるPCR産物と本発明のクローニングベクターとの連結には、DNAリガーゼや市販のライゲーションキットが利用できる。本発明を特に限定するものではないが、DNAリガーゼとしてはT4ファージ由来のDNAリガーゼが例示され、ライゲーションキットとしてはDNA Ligation kit ver.1(タカラバイオ社製)、DNA Ligation kit ver.2(タカラバイオ社製)、及びDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ社製)が例示される。また、本発明のクローニングベクターとの連結に際して、PCR産物は精製しても良いし、PCR後の反応液を精製を経ずにそのまま本発明のクローニングベクターとの連結に使用することもできる。
【0031】
前記工程(c)における宿主細胞としては、本発明を特に限定するものではないが、大腸菌、枯草菌、酵母、及び昆虫細胞が例示され、このうち大腸菌がより好適に例示される。前記工程(c)の形質転換には一般的な方法を使用すればよく、例えばケミカルコンピテントセルを用いる方法や電気穿孔法を利用することができる。
【0032】
前記工程(d)の薬剤選択に使用する選択薬剤は、欠失のない薬剤耐性遺伝子産物が耐性を示す薬剤を用いればよい。例えば、欠失のない薬剤耐性遺伝子産物がβ−ラクタマーゼである場合には、選択薬剤としてアンピシリンを用いることができる。また、本発明のクローニングベクターが第2の薬剤耐性遺伝子を有する場合には、第2の薬剤耐性遺伝子の遺伝子産物が耐性を示す薬剤を併用してもよい。
【0033】
ここで、以下に本発明のクローニング方法の一態様を示す。ここではβ−ラクタマーゼ遺伝子を用いて説明するが、本発明のクローニング方法は以下の具体例に限定されず、用いる薬剤耐性遺伝子の核酸配列に基づき適宜プライマー対を設計して用いることにより、以下の方法と同様の方法や、当業者にとって自明な方法で行うことができる。
【0034】
まず、クローニングの目的となる遺伝子を増幅するためのプライマー対を用意する。当該プライマーのうち、一方のプライマーの5´末端側にはβ−ラクタマーゼ遺伝子のC末アミノ酸Trp(W290)をコードする核酸配列とその下流のストップコドンとを生じさせるような塩基配列GGTAAを付加しておく。あるいはアミノ酸Phe(F290)とその下流のストップコドンとを生じさせるような塩基配列TTTAAあるいはTCTAAを付加してもよい。当該プライマーとこれに対向するもう一方のプライマーとを用いてPolI型DNAポリメラーゼによりPCRを行う。こうすることによって、当該増幅断片の任意の一方の末端にGGTAA、TTTAAあるいはTCTAAという配列が付加し、さらに両3´末端に突出するデオキシアデニンが付加したDNA断片が取得できる。このようにして取得されたDNA断片を本発明のベクターとのライゲーションに供することにより、所望の方向でのみDNA断片が挿入された環状DNAを取得することができる。
【0035】
本発明においては、上記付加配列を5´末端側に含む2つの対向するプライマーを用いてPCRを実施してもよい。この場合、両5´末端にGGTAA、TTTAAあるいはTCTAAという配列が付加し、さらに両3´末端に突出するデオキシアデニンが付加したDNA断片が取得できる。このようにして取得されたDNA断片を本発明のベクターとのライゲーションに供することにより、DNA断片がそれぞれ異なる方向で挿入された2種類の環状DNAを取得することができる。
【0036】
前記DNA断片を、W290を欠失したβ−ラクタマーゼ遺伝子を保持する本発明のベクターとのライゲーションに供し、連結して環状化されたベクターを作製する。本発明のベクターとのライゲーション反応には、上記DNA断片を精製することなく用いてもよいしスピンカラム等を用いて精製したものを用いてもよい。このようにして得られた環状化ベクターで宿主を形質転換し、アンピシリン耐性を獲得した形質転換体を選抜するだけで、所望の方向に核酸断片が挿入されたクローンを得ることができる。
【0037】
本発明のクローニング方法は、所望の方向でのみDNA断片が挿入された環状DNAを取得できることから、特定の部分のみのシークエンス解析に有用である。例えば、細菌の同定や分類を目的として16SリボゾーマルRNA遺伝子の5´側数百塩基をシークエンス解析する場合、DNA断片の方向性が制御できない場合には解析の必要がない3´側領域がシークエンスされるクローンもシークエンス解析に供してしまうこととなる。しかしながら本発明のベクターを使うことによって、この問題が解消される。このため、前記のような判別においては迅速かつ安価な解析が可能になる。また、エピジェネティクス分野で多用されるバイサルフファイト処理されたDNAはATリッチな核酸配列を有するが、本発明のクローニング方法は、このようなATリッチなDNA断片のクローニングにおいても有用である。
【0038】
本発明のクローニング方法は、高い陽性クローン取得効率でTAクローニングを行うことができ、かつ挿入されるDNA断片の方向性を制御することが可能であるため、挿入断片のシークエンス解析を目的としたクローニングの場合においても正体不明のクローンを塩基配列解析することを防止でき、塩基配列解析にかかるコストを下げることができる。
【0039】
本発明のベクターによりクローニングできるDNA(核酸断片)は特に限定はない。ポリペプチドコードする遺伝子、機能的RNA(rRNA、miRNA等)をコードする遺伝子やその断片の他、例えば、シス作用性塩基配列要素(プロモーター、エンハンサー、サイレンサーなどの遺伝子発現制御配列或いはその候補)であってもよい。また、機能が不明な核酸配列を標的核酸配列としてクローニングし、塩基配列解析することもできる。
【0040】
(3)本発明のベクターの製造方法
本発明のベクターを製造する方法は、本発明のベクターの構造を構築できる製造方法であれば特に限定はない。突出する1残基のdTを両3´末端に有するベクターの作製方法にも特に限定はなく、XcmI、MboII、HphI、MnlI、AhdI、Eam1105Iなどの3´末端に1塩基突出末端作製可能な制限酵素を用いて3´dT突出末端を作製する方法や、AluI、DpnI、RsaI、AfeI、DraI、EcoRV、HaeIII、PmaCIなどの平滑末端を作製可能な制限酵素で処理した後、Taq DNAポリメラーゼ、あるいはターミナルデオキシトランスフェラーゼのようなDNA断片の3´末端へ塩基を付加する活性を有する酵素を用いて、3´dT突出末端を作製する方法を利用できる。前記の制限酵素は、ベクターに搭載される薬剤耐性遺伝子をコードする核酸の配列に応じて選択すればよいが、適切な制限酵素が見出されない場合には、本発明のベクターの機能が失われない範囲で(例えばアミノ酸配列を変化させることなく)前記核酸の塩基配列を改変し、制限酵素切断部位を創成してもよい。
【0041】
本発明を特に限定するものではないが、本発明のベクターの製造方法としては、配列表の配列番号:19に記載の核酸配列を有する環状二本鎖DNAを制限酵素PmaCIにより切断する工程、及びターミナルデオキシジルトランスフェラーゼ活性を有する酵素により、切断された二本鎖DNAの両3´末端に突出する1残基のデオキシチミジン又はウリジンを付加し、本発明のベクターを得る工程を含む製造方法が例示される。
【0042】
ここで、以下にアンピシリン存在下で核酸断片が挿入されたクローンを選択的に取得できる本発明のベクターの製造方法の一態様を示す。
まず、予めβ−ラクタマーゼ遺伝子を含有するベクターにβ−ラクタマーゼ遺伝子以外の薬剤耐性遺伝子(第二の薬剤耐性遺伝子)を導入する。導入には、制限酵素サイトを利用しても良いし、PCRのような核酸増幅方法を利用しても良い。次に導入後のベクターに存在するβ−ラクタマーゼ遺伝子のC末端Trp及びストップコドンに対応する部分を欠損させる。欠損方法としては、inverse−PCR法が好適に利用できる。特に限定はされないが、前記PCRにおいてその5´末端側に制限酵素PmaCI認識部位が付加されたプライマー対を用いる方法が好適である。この増幅断片を制限酵素PmaCIにより切断し、次いでライゲーションによる自己環化を行った後、宿主を形質転換し、前記の第二の薬剤耐性遺伝子をマーカーとして形質転換体を選択する。得られた形質転換体よりC末端のTrpを欠損したβ−ラクタマーゼ遺伝子を含有するベクターを保持するものを選択する。この形質転換体より調製したベクターを制限酵素PmaCIにより再消化し、さらにDNAポリメラーゼやターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼによって両3´末端にdTを1残基突出付加させる。このようにして本発明のベクターを調製することができる。
【0043】
(4)本発明のキット
本発明のキットは、本発明のベクター及びDNAリガーゼを含む。前記のDNAリガーゼとしては、T4 DNAリガーゼが例示される。本発明のキットには、DNAリガーゼによる連結反応(ライゲーション反応)に適した組成の緩衝液がさらに含まれていてもよい。さらに、本発明のキットには、α型DNAポリメラーゼによってPCR増幅されたDNA断片の3´末端にdAを付加するための試薬類(Taq DNAポリメラーゼ、あるいはターミナルデオキシトランスフェラーゼなど)が含まれていてもよい。
【0044】
特に限定はされないが、好ましくは本発明のベクターと市販されているDNAライゲーションキットを組合わせたキット、例えばDNA Ligation kit ver.1(タカラバイオ社製)、DNA Ligation kit ver.2(タカラバイオ社製)、又はDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ社製)などと組合わせたキットが例示される。
【0045】
本発明のキットを用いることにより、最小限の労力と時間で、多数の未知遺伝子がクローニング可能である。特にバイサルファイト処理された核酸断片のようなATリッチな核酸断片のクローニングキットとして有用である。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0047】
また、本明細書に記載の操作のうち、プラスミドの調製、制限酵素消化などの基本的な操作については2001年、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行、J.サムブルック(J.Sambrook)ら編集、モレキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル第3版(Molecular Cloning : A Laboratory Manual 3rd ed.)に記載の方法によった。
【0048】
実施例1
(1)ベクターの構築
本発明のベクターは、以下の方法で構築した。まず、pUC19ベクター(タカラバイオ社製)を制限酵素NdeI及びPvuII(いずれもタカラバイオ社製)で消化した。続いて平滑末端化、及びBAP処理を行った。こうして得られたDNA断片は、常法により精製した。次に配列表の配列番号:5に記載の核酸配列のうち999番目の塩基から213番目の塩基までの核酸配列を有する二本鎖DNAを合成した。続いて、この二本鎖DNAを制限酵素NdeI及び制限酵素PvuIIで切断したpUC19DNAに挿入した。こうして構築したプラスミドDNAをpUC19−Kana DNAと命名した。
【0049】
上記pUC19−Kana DNAを鋳型としてinverse PCRを行った。まず、配列表の配列番号:3、4に記載の塩基配列をそれぞれ有するAMP−Fプライマー、AMP−Rプライマーを合成した。これらのプライマーは、その5´末端側に制限酵素PmaCIサイトが生じるようにデザインされている。当該プライマー対を用いたPCRは、以下の反応液組成で行った。即ち、2×PrimeStar Max プレミックスを50μL、上記プライマーを20pmolずつ、及び鋳型DNAを2ng含む計100μLである。また、PCR条件は、98℃ 10秒、(98℃ 10秒、55℃ 5秒、72℃ 40秒)を1サイクルとする30サイクル反応とした。PCR終了後、増幅産物を制限酵素DpnI(宝生物工程(大連)有限公司社製)で消化した。その後、制限酵素PmaCI(タカラバイオ社製)消化し、DNA ligation kit(タカラバイオ社製)を用いてセルフライゲーションを行った。反応終了後、得られた環状DNAを用いて大腸菌JM109(タカラバイオ社製)を形質転換した。得られた形質転換体を培養後、常法によりプラスミドを調製し、当該プラスミドをpUC19−bla ΔW290と命名した。当該プラスミドは、C末端のトリプトファン(N末端から290番目のアミノ酸、対応する塩基配列はTCG)が欠損したβ−ラクタマーゼをコードする核酸配列を有する。当該C末端欠損β−ラクタマーゼは、β−ラクタマーゼ活性を実質的に有さない。
【0050】
(2)アンピシリン感受性の確認
上記(1)で調製したプラスミドpUC19−bla ΔW290について、アンピシリン感受性を確認した。即ち、50μg/mL濃度のカナマイシンとそれぞれ0、20、40、60、80、100μg/mL濃度のアンピシリンとを含む計6種類のアガロースLBプレートを作成した。これらのプレートにプラスミドpUC19−bla ΔW290で形質転換した大腸菌JM109を播種し、37℃で終夜培養後、コロニー数をカウントした。その結果、アンピシリン濃度が40μg/mL以上になるとコロニー生育が認められなかった。このことから、プラスミドpUC19−bla ΔW290で形質転換した大腸菌はアンピシリン感受性であることを確認した。
【0051】
(3)プラスミドpUC19−bla ΔW290のT−ベクター化
上記(2)でアンピシリン感受性を確認したプラスミドpUC19−bla ΔW290についてT−ベクター化を行った。まず、プラスミドpUC19−bla ΔW290を制限酵素PmaCIで消化した後、アガロースゲル抜きによる精製を行った。次に、精製したDNA断片にTaq DNAポリメラーゼ及びdTTPを加え、両3´末端に1塩基のデオキシチミジンを付加させた。こうして得られた直鎖状の二本鎖DNA断片を、pUC19−bla ΔW290−T DNAと命名した。当該二本鎖DNAは、配列表の配列番号:5に記載の核酸配列からなるDNA及び配列表の配列番号:18に記載の核酸配列からなるDNAにより構成される。
【0052】
実施例2 実施例1で調製したpUC19−bla ΔW290−T DNAについて、いろいろな鎖長のPCR断片をTAクローニング法により挿入し、陽性クローン取得効率を検討した。
(1)500bpPCR断片の陽性クローン取得効率検討
配列表の配列番号:6、7に記載の塩基配列をそれぞれ有する500bp−Fプライマー、500bp−Rプライマーを合成した。次に、大腸菌JM109ゲノムDNAを鋳型として、これらのプライマーを用いてPCRを行った。PCRは、以下の反応液組成で行った。即ち、2×Ex Taq プレミックス(タカラバイオ社製)を25μL、上記プライマーを20pmolずつ、及び鋳型DNAを50ng含む計50μLである。また、PCR条件は、94℃ 1分、(98℃ 15秒、59℃ 30秒、72℃ 30秒)を1サイクルとする30サイクルの反応の後、72℃で5分保持する条件とした。反応後の増幅断片は、アガロースゲル抜きにより精製した。
【0053】
精製後の増幅断片を50ng、pUC19−bla ΔW290−T DNAを50ng、及びDNA Ligation kit ver.1(タカラバイオ社製)のSolution Iを5μL含む計10μLの反応液を16℃で1時間保持した。対照として、pUC19−bla ΔW290−T DNAの代わりにpMD19−Tベクター(宝生物工程(大連)有限公司社製)を用いる以外は上記と同様の反応を実施した。次に、反応終了後の各反応液を用いて大腸菌を形質転換した。得られた形質転換体を100μg/mL濃度のアンピシリンを含むAIXプレートに播種した後、37℃で一晩培養した。その結果形成したコロニーの一部について、配列表の配列番号:8に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:9に記載の塩基配列からなるプライマーを用いてコロニーPCRを行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供した結果を図1及び図2に示す。
【0054】
図1に示すように、本発明のベクターを用いた場合は32クローン中32クローン(陽性クローン取得効率100%)に目的の挿入断片が確認された。一方図2に示すように、従来技術のT−ベクターを用いた場合は、32クローン中26クローン(陽性クローン取得効率81%)に目的の挿入断片が確認された。このことから、本発明のベクターの陽性クローン取得効率が非常に高いことが実証された。
【0055】
(2)1kbpPCR断片の陽性クローン取得効率検討
配列表の配列番号10、11に記載の塩基配列をそれぞれ有する1K−Fプライマー、1K−Rプライマーを合成した。大腸菌JM109ゲノムDNAを鋳型として、これらのプライマーを用いてPCRを行った。PCRの反応液組成およびPCR条件は、上記(1)と同様にして行った。反応後の増幅断片は、アガロースゲル抜きにより精製した。
【0056】
精製後の増幅断片を50ng、pUC19−bla ΔW290−T DNAを50ng及びDNA Ligation kit ver.1(タカラバイオ社製)のSolution Iを5μL含む計10μLの反応液を16℃で1時間保持した。対照として、pUC19−bla ΔW290−T DNAの代わりにpMD19−Tベクターを用いる以外は上記と同様の反応を実施した。反応終了後、当該反応液を用いて大腸菌を形質転換した。得られた形質転換体は、AIXプレートに播種後、37℃で一晩培養した。生育した白色クローンについて配列表の配列番号:8に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:9に記載の塩基配列からなるプライマーを用いてコロニーPCRを行った。その結果、本発明のベクターの陽性クローン取得効率100%に対し、従来技術のT−ベクターでは、陽性クローン取得効率90%であった。このことから、挿入断片が1kbpの場合でも本発明のベクターの陽性クローン取得効率が非常に高いことが実証された。
【0057】
(3)2kbpPCR断片の陽性クローン取得効率検討
配列表の配列番号:12、13に記載の塩基配列をそれぞれ有する2K−Fプライマー、2K−Rプライマーを合成した。大腸菌JM109ゲノムDNAを鋳型として、これらのプライマーを用いてPCRを行った。PCRの反応液組成およびPCR条件は、上記(1)と同様にして行った。反応後増幅断片は、アガロースゲル抜きにより精製した。
【0058】
精製後の増幅断片を200ng、pUC19−bla ΔW290−T DNAを50ng及びDNA Ligation kit ver.1(タカラバイオ社製)のSolution Iを5μL含む計10μLの反応液を16℃で1時間保持した。対照として、pUC19−bla ΔW290−T DNAの代わりにpMD19−Tベクターを用いる以外は上記と同様の反応を実施した。反応終了後、当該反応液を用いて大腸菌を形質転換した。得られた形質転換体は、AIXプレートに播種後、37℃で一晩培養した。生育した白色クローンについて配列表の配列番号:8に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:9に記載の塩基配列からなるプライマーを用いてコロニーPCRを行った。その結果を図3及び図4に示す。
【0059】
図3に示すように、本発明のベクターは15クローン中13クローン(陽性クローン取得効率87%)に目的の挿入断片が確認された。一方図4に示すように、従来技術のT−ベクターでは、15クローン中10クローン(陽性クローン取得効率67%)に目的の挿入断片が確認された。このことから、挿入断片が2kbpの場合でもやはり本発明のベクターの陽性クローン取得効率が非常に高いことが実証された。
【0060】
実施例3
本発明のベクターと挿入断片の関係について検討した。本実施例においては、上記実施例2の(1)及び実施例2の(3)で調製した500bpのPCR増幅断片及び2kbpのPCR増幅断片を用いた。500bp又は2kbpの増幅断片100ngに対し本発明のベクターを25ng、50ng、又は100ng、及びDNA Ligation kit ver.1(タカラバイオ社製)のSolution Iを5μL含む計10μLの反応液を計6種類調製し、これらを16℃で1時間保持した。形質転換及び培養条件は、実施例2の(1)と同様にして行った。その結果、500bpのPCR断片を挿入した場合、ベクター濃度に従って、取得クローン数が向上することが確認できた。一方、2kbpのPCR断片を挿入した場合、ベクター量が50ngの場合に最も取得クローン数が多いことが確認できた。
【0061】
実施例4
Bisulfite処理されたDNA断片は、GC含量がATリッチに変化する。本実施例では、エピジェネティクスで多用されるBisulfite PCR法で得られたATリッチな増幅断片のクローニングについて検討した。
【0062】
配列表の配列番号:14に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:15記載の塩基配列からなるプライマーを合成した。Bisulfite処理したヒトゲノムDNAを鋳型として、これらのプライマーを用いてPCRを行った。PCRは、以下の反応液組成で行った。即ち、2×Taq Hot Start プレミックス(タカラバイオ社製)を50μL、上記プライマーをそれぞれ20pmolずつ、鋳型DNAを50ng含む100μL容量である。また、PCR条件は、95℃ 30秒、(95℃ 30秒、53℃ 30秒、72℃ 30秒)を1サイクルとする30サイクル反応とした。反応後、増幅断片はアガロースゲル抜きにより精製した。なお、当該増幅断片は、377bpであり、Bisulfite処理したことによりGC含量は32%から29%に低下していた。精製後の増幅断片を100ng、pUC19−bla ΔW290−T DNAを50ng、及びDNA Ligation kit ver.1(タカラバイオ社製)のSolution Iを5μL含む計10μLの反応液を16℃で1時間保持した。対照として、pUC19−bla ΔW290−T DNAの代わりにpMD19−Tベクターを用いる以外は上記と同様の反応を実施した。反応終了後、当該反応液を用いて大腸菌を形質転換した。得られた形質転換体は、AIXプレートに播種後、37℃で一晩培養した。生育した白色クローンについて配列表の配列番号:8に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:9に記載の塩基配列からなるプライマーを用いてコロニーPCRを行った。その結果、本発明のベクターの陽性クローン取得効率87.5%に対し、従来技術のT−ベクターでは、陽性クローン取得効率12.5〜18.75%であった。このことから、ATリッチな挿入断片の場合にも、本発明のベクターの陽性クローン取得効率が非常に高いことが実証された。
【0063】
実施例5
配列表の配列番号:16に記載の塩基配列を有する2k-R1プライマーを合成した。大腸菌JM109ゲノムDNAを鋳型とし、実施例2の2k-Fプライマーと上記の2k-R1プライマーとをプライマー対として用いてPCRを行った。PCRの反応液組成、反応条件は、実施例2記載の条件と同様にした。反応後、増幅断片はアガロースゲル抜きにより精製した。当該増幅断片は、2kbpである。精製後の増幅断片とpUC19−bla ΔW290−T DNAとを用いて、下記表1に記載の反応液Iの組成で16℃、1時間のライゲーション反応を行った。対照として、pUC19−bla ΔW290−T DNAの代わりにpMD19−Tベクターを用いる以外は上記と同様の反応を実施した。
【0064】
【表1】

【0065】
反応終了後、当該反応液を用いて大腸菌を形質転換した。得られた形質転換体は、AIXプレートに播種後、37℃で一晩培養した。生育した白色クローンについて常法でプラスミドを調製後、配列表の配列番号:8に記載の核酸配列からなるプライマーをシークエンスプライマーとしてシークエンシングを行った。本発明のベクターを用いた場合と対照の従来のT−ベクターを用いた場合についてそれぞれ10個のコロニーよりプラスミドを取得し、その挿入断片の方向性を確認した。その結果、本発明のベクターを用いた場合には、すべてのプラスミドに所望の方向性でインサートが挿入されていた。これに対して従来技術のT−ベクターでは、所望の方向でインサートが挿入されていたプラスミドは、取得した全プラスミドのうち60%であった。このことから、本発明のベクターは、挿入断片の方向制御性という面においても従来技術に比較して非常に効果が高いことが実証された。
【0066】
実施例6
本発明のベクターに挿入するDNA断片の末端配列についてさらに検討した。
pUC19−bla ΔW290−T DNAに種々のDNA断片を挿入してアンピシリン耐性クローンを取得し、得られたクローンが保持するプラスミドをシークエンス解析したところ、290番目のアミノ酸がフェニルアラニンとなったβ−ラクタマーゼも290番目のアミノ酸がトリプトファンのものと同様にアンピシリンに対する薬剤耐性を発揮することが明らかになった。
【0067】
そこで、フェニルアラニンをコードする塩基配列を5´末端側に含む挿入断片を用いる方法について検討した。先ず、配列表の配列番号:20に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:21記載の塩基配列からなるプライマーを合成した。同様にトリプトファンをコードする塩基配列を5´末端側に含む配列表の配列番号:22に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:23記載の塩基配列からなるプライマーを合成した。大腸菌JM109株ゲノムDNAを鋳型として、これらのプライマーを用いてPCRを行った。PCRは、以下の反応液組成で行った。即ち、2×Ex Taq プレミックス(タカラバイオ社製)を25μL、上記プライマーを20pmolずつ、及び鋳型DNAを50ng含む計50μLである。また、PCR条件は、94℃ 1分、(98℃ 15秒、59℃ 30秒、72℃ 30秒)を1サイクルとする30サイクルの反応の後、72℃で5分保持する条件とした。反応後の増幅断片は、アガロースゲル抜きにより精製した。
【0068】
精製後の増幅断片を50ng、pUC19−bla ΔW290−T DNAを50ng、及びDNA Ligation kit ver.1(タカラバイオ社製)のSolution Iを5μL含む計10μLの反応液を16℃で0.5時間保持した。また、ライゲーションに用いる試薬としてDNA Ligation kit ver.1の代わりにDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ社製)を用いた反応も当該製品の標準のプロトコルに従って実施した。さらに対照として、pUC19−bla ΔW290−T DNAの代わりにpMD19−Tベクター(宝生物工程(大連)有限公司社製)を用いる以外は上記と同様の反応を実施した。次に、反応終了後の各反応液を用いて大腸菌を形質転換した。得られた形質転換体を100μg/mL濃度のアンピシリンを含むAIXプレートに播種した後、37℃で一晩培養した。培養後取得したコロニーの一部について、配列表の配列番号:8に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:9に記載の塩基配列からなるプライマーを用いてコロニーPCRを行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供した。
【0069】
その結果、フェニルアラニンをコードする塩基配列を5´末端側に含む挿入断片を用いた方法は、トリプトファンをコードする塩基配列を5´末端側に含む挿入断片を用いた場合に比べて、1.5倍多いコロニーを取得することができた。また、本発明のベクター、フェニルアラニンをコードする塩基配列を5´末端側に含む挿入断片及びLigation Kit <Mighty Mix>を組み合わせた場合は、トリプトファンをコードする塩基配列を5´末端側に含む挿入断片を用いた場合に比べて、3倍多いコロニーを得ることができた。なお、pUC19−bla ΔW290−T DNAを用いた反応により得られたクローンについて陽性クローン取得効率を調べたところ、いずれの条件においても100%の陽性クローン取得率であった。一方、対照となるpMD19−Tベクターを用いた場合は、得られた陽性のコロニー(白色のコロニー)の数は多かったものの、陽性クローン取得効率は33〜50%であった。このことから、本発明のベクターにフェニルアラニンをコードする塩基配列を5´末端側に有するDNA断片を挿入する方法は、本発明の方法の好適な態様の一つであることが分かった。
【0070】
実施例7
実施例6では、フェニルアラニンをコードする塩基配列を両方の5´末端側に付加させた挿入断片の使用が好適であることが確認できた。本実施例では、片方の5´末端側にフェニルアラニンをコードする塩基配列を付加させた挿入断片について検討した。即ち、フェニルアラニンをコードする塩基配列を5´末端側に含む配列表の配列番号:20に記載の塩基配列からなるプライマー及び5´末端側に付加配列を有さない配列表の配列番号:24記載の塩基配列からなるプライマーを合成した。また、トリプトファンをコードする塩基配列を5´末端側に含む配列表の配列番号:22に記載の塩基配列からなるプライマーを合成した。大腸菌JM109株ゲノムDNAを鋳型として、配列表の配列番号:20に記載の塩基配列からなるプライマーと配列表の配列番号:24記載の塩基配列からなるプライマーとを用いたPCR、及び配列表の配列番号:23に記載の塩基配列からなるプライマーと配列表の配列番号:24記載の塩基配列からなるプライマーとを用いたPCRを行った。PCRは、以下の反応液組成で行った。即ち、2×Ex Taq プレミックス(タカラバイオ社製)を25μL、上記プライマーを20pmolずつ、及び鋳型DNAを50ng含む計50μLである。また、PCR条件は、94℃ 1分、(98℃ 15秒、59℃ 30秒、72℃ 30秒)を1サイクルとする30サイクルの反応の後、72℃で5分保持する条件とした。反応後の増幅断片は、アガロースゲル抜きにより精製した。
【0071】
精製後の増幅断片を50ng、pUC19−bla ΔW290−T DNAを50ng、及びDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ社製)を5μL含む計10μLの反応液を16℃で0.5時間保持した。対照として、pUC19−bla ΔW290−T DNAの代わりにpMD19−Tベクター(宝生物工程(大連)有限公司社製)を用いる以外は上記と同様の反応及び培養を実施した。培養後得られたコロニーの一部について、配列表の配列番号:8に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号:9に記載の塩基配列からなるプライマーを用いてコロニーPCRを行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供した。
【0072】
その結果、片方の5´末端側にトリプトファンをコードする塩基配列を有する挿入断片を用いた場合と、片方の5´末端側にフェニルアラニンをコードする塩基配列を有する挿入断片を用いた場合では、得られたコロニー数はほぼ同等で、いずれの場合も100%の陽性クローン取得率であった。対照となるpMD19−Tベクターの場合は、得られた陽性のコロニー(白色のコロニー)の数は多かったものの、陽性クローン取得効率は40%であった。このことから、本発明のベクターにフェニルアラニンをコードする配列を片方の5´末端に有するDNA断片を挿入する方法は、本発明の方法の好適な態様の一つであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のベクターを用いることにより、簡便な操作で目的の遺伝子が所望の方向で挿入されたクローンを選択することが可能となる。従って本発明は、遺伝子工学的分野、応用生命科学的分野、及び医学的分野等において特に有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0074】
SEQ ID NO:1 ; Designed oligonucleotide primer as Kana-F.
SEQ ID NO:2 ; Designed oligonucleotide primer as Kana-R.
SEQ ID NO:3 ; Designed oligonucleotide primer as AMP-F.
SEQ ID NO:4 ; Designed oligonucleotide primer as AMP-R.
SEQ ID NO:5 ; Plus-strand sequence of pUC19-bla deltaW290-T.
SEQ ID NO:6 ; Designed oligonucleotide primer as 500bp-F.
SEQ ID NO:7 ; Designed oligonucleotide primer as 500bp-R.
SEQ ID NO:8 ; Designed oligonucleotide primer for colony PCR.
SEQ ID NO:9 ; Designed oligonucleotide primer for colony PCR.
SEQ ID NO:10 ; Designed oligonucleotide primer as 1k-F.
SEQ ID NO:11 ; Designed oligonucleotide primer as 1k-R.
SEQ ID NO:12 ; Designed oligonucleotide primer as 2k-F.
SEQ ID NO:13 ; Designed oligonucleotide primer as 2k-R.
SEQ ID NO:14 ; Designed oligonucleotide primer to amplify a bisulfite-treated human genomic DNA.
SEQ ID NO:15 ; Designed oligonucleotide primer to amplify a bisulfite-treated human genomic DNA.
SEQ ID NO:16 ; Designed oligonucleotide primer as 2k-R1.
SEQ ID NO:17 ; Gene encoding a inactive mutant of beta-lactamase.
SEQ ID NO:18 ; Minus-strand sequence of pUC19-bla deltaW290-T.
SEQ ID NO:19 ; Nucleic acid sequence of plasmid pUC19-bla deltaW290.
SEQ ID NO:20 ; Designed oligonucleotide primer which contains a DNA sequence encoding phenylalanine in the 5'end region.
SEQ ID NO:21 ; Designed oligonucleotide primer which contains a DNA sequence encoding phenylalanine in the 5'end region.
SEQ ID NO:22 ; Designed oligonucleotide primer which contains a DNA sequence encoding tryptophane in the 5'end region.
SEQ ID NO:23 ; Designed oligonucleotide primer which contains a DNA sequence encoding tryptophane in the 5'end region.
SEQ ID NO:24 ; Designed oligonucleotide primer to amplify a DNA sequence derived from E.coli genomic DNA.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
突出する1残基のデオキシチミジン又はウリジンを両3´末端に有する直鎖状の二本鎖DNAからなるクローニング用ベクターであって、薬剤耐性遺伝子産物の部分配列をコードする核酸を保持し、前記核酸は前記薬剤耐性遺伝子産物の薬剤耐性の発揮に不可欠なC末端部分又はN末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列が欠失した活性喪失薬剤耐性遺伝子であり、さらに前記核酸は前記活性喪失薬剤耐性遺伝子において欠失した核酸配列を末端部分に含む挿入DNA断片がベクターに連結した際に欠失のない薬剤耐性遺伝子産物をコードする核酸が構成されるように前記二本鎖DNAのいずれか一方の末端に配置されていることを特徴とするベクター。
【請求項2】
活性喪失薬剤耐性遺伝子が、薬剤耐性遺伝子産物のC末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列が欠失した活性喪失薬剤耐性遺伝子である、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
活性喪失薬剤耐性遺伝子が、C末端アミノ酸が欠失したβ−ラクタマーゼのアミノ酸配列をコードする核酸配列からなる、請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
活性喪失薬剤耐性遺伝子が、配列表の配列番号:17に記載のアミノ酸配列をコードする核酸配列からなる、請求項3に記載のベクター。
【請求項5】
さらに、前記の薬剤耐性遺伝子とは異なる薬剤に対して耐性を示す第2の薬剤耐性遺伝子を有する請求項1に記載のベクター。
【請求項6】
配列表の配列番号:5に記載の核酸配列からなるDNA、及び配列表の配列番号:18に記載の核酸配列からなるDNAからなる、請求項1に記載のベクター。
【請求項7】
DNAをクローニングする方法であって、下記工程(a)〜(d)を含む方法:
(a)DNAを鋳型として、第1のプライマー、第1のプライマーに対向する第2のプライマー、及びDNAポリメラーゼを用いてPCRを行う工程;
(b)工程(a)により得られたPCR産物と請求項1〜6のいずれか一項に記載のベクターとを連結し、環状DNAを得る工程;
(c)工程(b)により得られた環状DNAで宿主細胞を形質転換する工程;及び
(d)欠失のない薬剤耐性遺伝子産物が耐性を示す薬剤による薬剤選択によって、PCR産物が所望の方向でベクターに挿入された環状DNAを有する形質転換体を選択する工程;
ここで第1のプライマーは、3´末端側に前記DNAに相補的な核酸配列を有し、且つ請求項1〜6に記載のベクターにおける活性喪失薬剤耐性遺伝子が薬剤耐性遺伝子産物のC末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列が欠損した遺伝子である場合には欠損している核酸配列を5´末端側に、請求項1〜6に記載のベクターにおける活性喪失薬剤耐性遺伝子が薬剤耐性遺伝子産物のN末端部分のアミノ酸をコードする核酸配列が欠損した遺伝子である場合には、欠損している核酸配列の相補鎖配列から5´末端のデオキシチミジンを除いた核酸配列を5´末端側に有する。
【請求項8】
工程(a)におけるDNAポリメラーゼが、反応産物の3´末端に鋳型非依存的に1塩基のデオキシアデノシンを付加する活性を有する、請求項7のクローニング方法。
【請求項9】
工程(a)において、さらに反応産物の3´末端に1塩基のデオキシアデノシンを付加することを含む、請求項7のクローニング方法。
【請求項10】
ベクターの製造方法であって、配列表の配列番号:19に記載の核酸配列を有する環状二本鎖DNAを制限酵素PmaCIにより切断する工程、及びターミナルデオキシジルトランスフェラーゼ活性を有する酵素により、切断された二本鎖DNAの両3´末端に突出する1残基のチミン又はウラシルを付加し、請求項1に記載のベクターを得る工程を含む製造方法。
【請求項11】
クローニングのためのキットであって、請求項1〜6のいずれか一項に記載のベクター及びDNAリガーゼを含むキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate