説明

グラニセトロン塩酸塩の多形体とその製造方法

約14.3、20.4及び23.0±0.2度に2シータのピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする、結晶性のグラニセトロン塩酸塩とその製造方法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連出願〕
本願は、2008年8月19日に出願された米国仮特許出願第61/189,421号の優先権を主張するものである。この米国仮特許出願の全内容を本願明細書に援用する。
【0002】
(発明の分野)
本願は、グラニセトロン塩酸塩の多形体とその製造方法に関する。
【0003】
(関連技術の説明)
グラニセトロン塩酸塩は制吐剤で、嘔吐や術後の吐き気及び嘔吐の治療又は予防に使用される。グラニセトロン塩酸塩は注射剤ならびに錠剤として市場に出ている。グラニセトロンの化学名は、N-(エンド-9-メチル-9-アザビシクロ[3.3.2]ノン-3-イル)-1-メチルインダゾール-3-カルボキサミドであって、下記構造式(I)で表わされる。
【0004】
【化1】

【0005】
当該分野では、正確に規定された安定した結晶性のグラニセトロン塩酸塩多形体であって、グラニセトロン塩酸塩を含む医薬組成物の調製において有効医薬成分として便利に使用できる結晶性のグラニセトロン塩酸塩多形体と、その多形体の容易な調製方法へのニーズがある。
(本発明の概要)
本願の態様の1つによると、約14.3、20.4及び23.0±0.2度に2シータのピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする結晶性のグラニセトロン塩酸塩が提供される。
好ましくは、該結晶性のグラニセトロン塩酸塩は、約18.2、26.8及び27.5±0.2度に2シータのピークを有する粉末X線回折パターンを更に特徴とする。より好ましくは、該結晶性のグラニセトロン塩酸塩は、約17.5、22.3及び25.6±0.2度に2シータのピークを有する粉末X線回折パターンを更に特徴とする。とりわけ、該結晶性のグラニセトロン塩酸塩は図1a又は図1bに実際に示すような粉末X線回折パターンを更に特徴とする。
好ましくは、前記結晶性のグラニセトロン塩酸塩は、約3235、2950、2450、1647及び757(cm-1)に赤外スペクトル吸収バンドを有することに更に特徴づけられる。より好ましくは、結晶性のグラニセトロン塩酸塩は図2に実際に示すような赤外スペクトルを更に特徴とする。
上記結晶性のグラニセトロン塩酸塩はその治療上有効量と、少なくとも1種の医薬的に許容できる賦形剤とともに処方して医薬組成物とすることができる。この医薬組成物を、嘔吐、術後の吐き気又は術後の嘔吐の治療のために患者に投与することができる。
【0006】
本願の別の態様によると、結晶性のグラニセトロン塩酸塩の調製方法は、
a)グラニセトロン塩酸塩粗生成物を、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン及びこれらの混合物からなる群から選択される溶媒に混合し、グラニセトロン塩酸塩粗生成物と溶媒との混合物を形成する工程と、
b)前記グラニセトロン塩酸塩粗生成物が溶媒に溶解するように工程a)の混合物を昇温加熱する工程と、
c)前記結晶性のグラニセトロン塩酸塩が析出するように工程b)の混合物を降温冷却する工程とを有する。
好ましくは降温冷却温度は30℃未満で、10℃未満が更に好ましい。
前記方法は、好ましくは、前記混合物に貧溶媒を添加して結晶性のグラニセトロンの形成を容易にする工程を更に有していてもよい。貧溶媒としてはイソプロピルエーテルが好ましい。
本願の別の態様によると、結晶性のグラニセトロン塩酸塩の調製方法は、
a’)グラニセトロン塩酸塩粗生成物を溶媒と混合して溶媒とグラニセトロン塩酸塩粗生成物との混合物を形成する工程と、
b’)グラニセトロン粗生成物が溶媒に溶解するように前記混合物を昇温加熱する工程と、
c’)前記工程b’)の混合物に塩酸水溶液を添加する工程と、
d’)結晶性のグラニセトロン塩酸塩が析出するように前記工程c’)の混合物を冷却する工程とを有する。
【0007】
好ましくは、前記溶媒は、低級アルコール(C1-C4)、水、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン及びこれらの混合物からなる群から選択される。溶媒は水とアセトンとの混合物がより好ましい。
好ましくは、前記方法は、前記工程d’)に先立ち、前記工程c’)の混合物にアセトンを添加する追加工程をさらに有する。
他に報告されている方法と比べると、本発明の実施形態の1つにより溶媒としてアセトンを使用して結晶性のグラニセトロンを調製すると、グラニセトロン塩酸塩粗生成物に頻繁に混入されるトルエン不純物を完全に又は実質的に取り除くことができる。更に、アセトンを使用することにより、塩化アルキルのような望ましくない不純物で、アルキルアルコールと塩酸との反応の際に形成される不純物の生成を避けることができる(例えば、エタノールからの塩化エチル、イソプロパノールからの塩化イソプロピル)。
本発明の他の目的及び特徴は、以下の詳細な記載を添付の図面と併せ読むことで明らかになるであろう。しかしながら、図面は単に本発明を例示することが目的であり、本発明を限定して定義するものではないことを理解すべきである。これについては添付の特許請求の範囲が参照される。また、図面は必ずしも一定の比率に応じて描かれたものではなく、特に記載のないかぎり、図面は、本願明細書に記載の構造物及び手順を概念的に説明することを単に意図するものと理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1(a)】図1(a)は、本発明の実施形態による結晶性のグラニセトロン塩酸塩の粉末X線回折パターンを示す。
【図1(b)】図1(b)は、本発明の実施形態による結晶性のグラニセトロン塩酸塩の粉末X線回折パターンを示す。
【図2】図2は、本発明の実施形態による結晶性のグラニセトロン塩酸塩の赤外スペクトルを示す。
【0009】
(本発明の好適な実施形態の詳細な説明)
実施例
下記実施例は本発明を更に説明するものであるが、当然のことながら、いずれにしても本発明の範囲を限定すると解釈すべきではない。
実施例1
グラニセトロン(60.0g)とトルエン(12部)とを好適な反応器に導入し、加熱して溶解する。温度を50〜60℃に保ちながら濃塩酸(1.1eq)を滴下する。得られた懸濁液を容積が2/3になるまで80℃未満の温度で蒸留し、10℃未満に冷却する。固形物を回収して乾燥を行い、グラニセトロン塩酸塩(53.6〜67g)を得る。
【0010】
実施例2
グラニセトロン塩酸塩(2g)と水(約2.5部)とを好適な反応器に導入する。得られた混合物を加熱溶解する。アセトン(30部)を約45℃で添加する。この溶液を冷却すると不透明になるので、0.5時間以上保持する。スラリーを10℃未満に冷却し、1時間以上保持する。固形物を濾取した後、70℃未満で乾燥させてグラニセトロン塩酸塩(1.62g、収率81%)を得る。
【0011】
実施例3
グラニセトロン塩酸塩(2g)と98%n-BuOH水溶液(約30部)とを好適な反応器に導入する。得られた混合物を加熱して溶解する。この溶液を冷却すると不透明になるので、2時間以上保持する。固形物を濾取した後、70℃未満で乾燥させてグラニセトロン塩酸塩(1.52g、収率76%)を得る。
【0012】
実施例4
グラニセトロン塩酸塩(2g)と98%n-PrOH水溶液(約32.5部)とを好適な反応器に導入する。得られた混合物を加熱して溶解する。この溶液を冷却すると不透明になるので、1時間以上保持する。スラリーを10℃未満に冷却し、1時間以上保持する。固形物を濾取した後、70℃未満で乾燥させてグラニセトロン塩酸塩(1.62g、収率81%)を得る。
【0013】
実施例5
グラニセトロン塩酸塩(3g)とEtOH(約15部)とを好適な反応器に導入する。得られた混合物を加熱還流する。水(約0.03部)を還流させながら添加し、溶解させる。この溶液を冷却すると不透明になるので、1時間以上保持する。スラリーを20〜30℃に冷却し、1時間以上保持する。固形物を濾取した後、70℃未満で乾燥させてグラニセトロン塩酸塩を得る。
【0014】
実施例6
グラニセトロン塩酸塩(3g)とACN(約20部)とを好適な反応器に導入する。得られた混合物を加熱還流する。水(約1.6部)を還流させながら添加し、溶解させる。この溶液を冷却すると不透明になるので、1時間以上保持する。固形物を濾取した後、70℃未満で乾燥させてグラニセトロン塩酸塩を得る。
【0015】
実施例7
グラニセトロン塩酸塩(3g)とTHF(約18部)とを好適な反応器に導入する。得られた混合物を加熱還流する。水(約2.3部)を還流させながら添加し、溶解させる。この溶液を冷却すると不透明になるので、1時間以上保持する。固形物を濾取した後、70℃未満で乾燥させてグラニセトロン塩酸塩を得る。
【0016】
実施例8
グラニセトロン塩酸塩(3g)とMeOH(約10部)とを好適な反応器に導入する。得られた混合物を加熱還流する。この溶液を冷却すると不透明になるので、1時間以上保持する。スラリーを約0℃に冷却し、1時間以上保持する。固形物を濾取した後、70℃未満で乾燥させてグラニセトロン塩酸塩を得る。
【0017】
実施例9
グラニセトロン塩酸塩(3g)とMeOH(約12部)とを好適な反応器に導入する。得られた混合物を加熱溶解する。IPE(約3部)を還流しながら加えると不透明になるので、0.5時間以上保持する。スラリーを20〜30℃に冷却し、1時間以上保持する。固形物を濾取した後、70℃未満で乾燥させてグラニセトロン塩酸塩を得る。
【0018】
実施例10
グラニセトロン塩酸塩(2g)とMeOH(約9部)とを好適な反応器に導入する。得られた混合物を加熱溶解する。アセトン(約11部)を還流しながら添加する。この溶液を0〜10℃に冷却し、1時間以上保持する。固形物を濾取した後、70℃未満で乾燥させてグラニセトロン塩酸塩(0.86g、収率43%)を得る。
【0019】
実施例11
グラニセトロン塩酸塩(2g)と5%n-PrOH水溶液(約20部)とを好適な反応器に導入する。得られた混合物を加熱溶解する。この溶液を還流させながら大気雰囲気下で共沸乾燥し、n-PrOH(約15部)を蒸留中に添加する。スラリーを10℃未満に冷却し、1時間以上保持する。固形物を濾取した後、70℃未満で乾燥させてグラニセトロン塩酸塩(1.8g、収率90%)を得る。
【0020】
実施例12
グラニセトロン塩酸塩(7g)と水(約1.5部)とIPA(約13.5部)とを好適な反応器に導入する。得られた混合物を加熱溶解する。この溶液を還流させながら大気雰囲気下で共沸乾燥し、IPA(約15部)を蒸留中に添加すると不透明になる。スラリーを10℃未満に冷却し、1時間以上保持する。固形物を濾取した後、70℃未満で乾燥させてグラニセトロン塩酸塩(6.65g、収率95%)を得る。
【0021】
実施例13
グラニセトロン塩酸塩(2g)と水(約0.75部)と無水EtOH(約14.25部)とを好適な反応器に導入する。得られた混合物を加熱溶解する。この溶液を還流させながら大気雰囲気下で共沸乾燥し、EtOH(約20部)を蒸留中に添加する。スラリーを10℃未満に冷却し、1時間以上保持する。固形物を濾取した後、70℃未満で乾燥させてグラニセトロン塩酸塩(1.17g、収率58.5%)を得る。
【0022】
実施例14
グラニセトロン塩酸塩(1.0kg、乾燥質量基準)と水(約2.0部)とアセトン(約5部)とを好適な反応器に導入する。得られた混合物を加熱溶解する。この溶液を冷却し、2NHCl溶液を40〜50℃で加え(pH値1〜3)、アセトン(約25部)を40〜50℃で添加する。スラリーを10℃未満に冷却し、1時間以上保持する。固形物を濾取した後、70℃未満で乾燥させ、グラニセトロン塩酸塩(約0.8 kg)を得る。
本発明は上記実施形態により限定されるものではなく、これらの実施形態は例として示すに過ぎないが、これらの実施形態は、添付の特許請求の範囲に定義される保護範囲のなかで様々な変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約14.3、20.4及び23.0±0.2度に2シータのピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする、結晶性のグラニセトロン塩酸塩。
【請求項2】
約18.2、26.8及び27.5±0.2度に2シータのピークを有する粉末X線回折パターンを更に特徴とする、請求項1記載の結晶性のグラニセトロン塩酸塩。
【請求項3】
約17.5、22.3及び25.6±0.2度に2シータのピークを有する粉末X線回折パターンを更に特徴とする、請求項1記載の結晶性のグラニセトロン塩酸塩。
【請求項4】
図1(a)又は図1(b)に示すような粉末X線回折パターンを特徴とする、請求項1記載の結晶性のグラニセトロン塩酸塩。
【請求項5】
約3235、2950、2450、1647及び757(cm-1)に赤外スペクトル吸収バンドを有することを更に特徴とする、請求項1記載の結晶性のグラニセトロン塩酸塩。
【請求項6】
図2に示すような赤外スペクトルを更に特徴とする、請求項1記載の結晶性のグラニセトロン塩酸塩。
【請求項7】
結晶性のグラニセトロン塩酸塩の調製方法であって、
a)グラニセトロン塩酸塩粗生成物を、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン及びこれらの混合物からなる群から選択される溶媒に混合し、グラニセトロン塩酸塩粗生成物と溶媒との混合物を形成する工程と、
b)前記グラニセトロン塩酸塩粗生成物が前記溶媒に溶解するように工程a)の前記混合物を昇温加熱する工程と、
c)結晶性のグラニセトロン塩酸塩が析出するように工程b)の前記混合物を降温冷却する工程とを有する方法。
【請求項8】
前記降温冷却温度が30℃未満である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記降温冷却温度が10℃未満である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、前記混合物に貧溶媒を添加して前記結晶性のグラニセトロンの形成を容易にする工程を更に有する、請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記貧溶媒がイソプロピルエーテルである、請求項7記載の方法。
【請求項12】
結晶性のグラニセトロン塩酸塩の調製方法であって、
a’)グラニセトロン塩酸塩粗生成物を溶媒と混合して溶媒とグラニセトロン塩酸塩粗生成物との混合物を形成する工程と、
b’)前記グラニセトロン粗生成物が溶媒に溶解するように前記混合物を昇温加熱する工程と、
c’)工程b’)の前記混合物に塩酸水溶液を添加する工程と、
d’)前記結晶性のグラニセトロン塩酸塩が析出するように工程c’)の前記混合物を冷却する工程とを有する、方法。
【請求項13】
前記溶媒が、低級アルコール(C1〜C4)、水、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記溶媒が水とアセトンとの混合物である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記工程d’)に先だって、前記工程c’)の前記混合物にアセトンを添加する追加工程を更に含む、請求項12記載の方法。
【請求項16】
治療上有効量の請求項1記載の結晶性のグラニセトロン塩酸塩と、少なくとも1種の医薬的に許容できる賦形剤とを含む組成物。
【請求項17】
嘔吐、術後の吐き気又は術後の嘔吐に苦しむ患者に、請求項16記載の前記組成物を投与することを含む、前記患者の治療方法。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−500276(P2012−500276A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523932(P2011−523932)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/054164
【国際公開番号】WO2010/022052
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(503345569)サイノファーム タイワン リミテッド (18)
【Fターム(参考)】