説明

グラファイト電極材料及びその製造方法

【目的】 2次電池に使用した際に優れた電池特性を発揮する電極材料として使用されるグラファイト電極材料を提供する。
【構成】 本発明に係るグラファイト電極材料は、配向方向が面方向にそろえられた第1結晶21を有するグラファイトフィルム20と、グラファイトフィルム20の一面に配向方向が面と交差するようにそろえられた第2結晶22を有するグラファイト体23とを備え、グラファイトフィルム20及びグラファイト体23にインターカラントを層間挿入可能な電極材料である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、グラファイト電極材料、特に、2次電池等の電極に用いられるグラファイト電極材料に関する。
【0002】
【従来の技術】グラファイトは抜群の耐熱性、耐薬品性、高電気伝導性等の有用な特性を備えるため工業材料として重要な位置を占め、リチウム2次電池やニッケルカドニウム2次電池の電極材料として広く使用されている。
【0003】グラファイトを用いた従来の電極材料は、粉末状ないしリン片状の細かな天然グラファイトと、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の接着用高分子化合物とをペースト状に混ぜ合わせ、銅箔等の導電性金属シート上に塗布し、それを乾燥、ロールによる圧延及び焼成することにより製造されている。このグラファイトはグラファイトだけからなるものではなく、グラファイトとカーボンとの混合体になっている。
【0004】一方、新しいグラファイト電極材料として、特開平4−79155号公報に開示されたものが知られている。このグラファイト電極材料は、高分子化合物をグラファイト化して形成されたグラファイトにドナー型インターカラントが層間挿入されてなるグラファイト層間化合物を脱ドープ処理したものである。このグラファイトは、結晶の配向方向が面方向にそろっており、短時間で製造することができるとともに、所望の大きさで均質の単結晶に近い優れた物性を有しており、電極材料として好ましい特性が得られる。このグラファイトでは、高配向性グラファイトの層間にインターカラントを挿入すると、大部分のインターカラントはグラファイトの端面にある層間の隙間から結晶の配向方向と平行な方向に挿入される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】前者の従来のグラファイト電極材料では、グラファイトやカーボンを使用した混合材を圧延する際に、グラファイトとSBRとのペーストが銅箔側に付着せず、圧延ロール側に付着するという問題が生じることがある。ペーストのロール側への付着を防止するには、グラファイトとSBRとの混練を充分に行えばよい。しかし、混練を充分に行いすぎると、SBRがグラファイト粉末を包んでしまい、電極としての電気的な性能を充分に発揮できなくなる。また、前者のグラファイト電極材料は、電池特性がグラファイトあるいはカーボンの性状によって大きく影響され、電池特性について優れたものではない。
【0006】後者の高配向性グラファイトを用いた従来のグラファイト電極材料は、結晶の配向方向と交差する方向からのインターカラントの層間への挿入が強固な炭素骨格によって妨害されるという問題がある。インターカラントの層間挿入は、ほぼ結晶の配向方向と平行な方向からに限定されるため、高配向性グラファイトの層間にインターカラントを挿入するのに長い時間を要するという問題がある。また、高配向性グラファイトの端面に近いほどインターカラントは速やかに挿入され、端面から遠くなるのに従って時間を要するため、不均一にしか挿入されない。しかも、インターカラントの挿入量を所望の量に制御することが困難である。このようなことから、たんに、高配向性グラファイトを電極材料に用いたのでは、2次電池用の電極材料としては優れた電池特性を得ることができない。
【0007】本発明の目的は、少なくともグラファイト粉末と接着用高分子化合物とを含む混合体を導電性金属シートに積層したグラファイト電極材料において、導電性金属シートとの接着性を改善しかつ電極としての電気性能を充分に発揮できるようにすることにある。
【0008】本発明の別の目的は、高配向性グラファイト面状体を用いたグラファイト電極材料において、優れた電池特性を得ることができるようにすることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明に係るグラファイト電極材料は、少なくともグラファイト粉末と接着用高分子化合物とを含む混合体を導電性金属シートに積層したグラファイト電極材料において、混合体における導電性金属シート側のグラファイト粉末の含有量がそれと逆側の含有量より少ないことを特徴とする。
【0010】なお、混合体は、導電性金属シートに接着された第1混合体と、第1混合体に積層され、第1混合体よりグラファイト粉末の含有量が多い第2混合体とを有しているのが好ましい。
【0011】また、第1混合体のグラファイト粉末含有量は5重量部〜50重量部であり、前記第2混合体のグラファイト粉末含有量は20重量部〜98重量部であるのが好ましい。
【0012】本発明に係るグラファイト電極材料の製造方法は、グラファイト粉末に接着用高分子化合物を混練した混合体を導電性金属シートに積層してグラファイト電極材料を製造する方法において、グラファイト粉末と接着用高分子化合物とを混練し、第1混合体と、第1混合体よりグラファイト粉末の含有量が多い第2混合体とを得る混練工程と、第1混合体を導電性金属シート上に塗布する第1塗布工程と、第2混合体を第1混合体上に塗布する第2塗布工程と、2つの混合体が塗布された導電性金属シートを乾燥させる乾燥工程と、乾燥された導電性金属シートを圧延する圧延工程と、圧延された導電性金属シートを焼成してグラファイト電極材料を得る工程とを含んでいる。
【0013】本発明の別の発明に係るグラファイト電極材料は、配向方向が面方向にそろえられた第1グラファイト結晶を有する高配向性グラファイト面状体と、高配向性グラファイト面状体の一面に配向方向が面と交差するようにそろえられた第2グラファイト結晶を有するグラファイト体とを備え、高配向性グラファイト面状体及びグラファイト体にインターカラントを層間挿入可能な電極材料である。
【0014】なお、インターカラントがドナー性であるのが好ましい。また、高配向性グラファイト面状体が可とう性を有しているのが好ましい。
【0015】本発明の別の発明に係るグラファイト電極材料の製造方法は、結晶の配向方向を面方向にそろえた高配向性グラファイト面状体を用いた方法であって、高分子化合物のフィルムの表面に微細な穴又は溝を多数形成する形成工程と、穴又は溝が形成されたフィルムを2000℃以上の温度域で焼成する焼成工程とを含んでいる。
【0016】なお、形成工程では、エキシマレーザ照射装置で穴又は溝を形成してもよい。本発明のさらに別の発明に係るグラファイト電極材料の製造方法は、結晶の配向方向を面方向にそろえた高配向性グラファイト面状体を用いた方法であって、高分子フィルムの一面に、面方向と交差する方向にグラファイト結晶が成長するように結晶成長の起点となる触媒物質を配置する配置工程と、触媒物質が配置されたフィルムを積層して2000℃以上の温度域で焼成する焼成工程とを含んでいる。
【0017】なお、フィルムを焼成した後に、焼成されたフィルムを圧延する圧延工程をさらに含んでいてもよい。
【0018】以下、さらに具体的に説明する。本発明のグラファイト電極材料に使用されグラファイトは、天然グラファイトでも合成グラファイトでもよい。合成グラファイトとしては、炭化水素ガスを用いCVD法によって炭素原子を基板上に積層させてからアニーリングして得られるもの、高分子化合物のフィルムをグラファイト化したものを挙げることができる。これらの合成グラファイトを粉砕してリン片化又は粉末化してSBRと混練すればよい。
【0019】本発明の別の発明のグラファイト電極材料に使用される高配向性グラファイト面状体は、結晶の配向方向を面方向にそろえたグラファイトであればよく、炭化水素ガスを用いCVD法によって炭素原子を基板上に積層させてからアニーリングして得られるもの、高分子化合物のフィルムをグラファイト化したものを挙げることができる。中でも、高分子化合物のフィルムをグラファイト化したものを使用すると、得られたグラファイトの層間にインターカラントを速やか、かつ均一に挿入することができるため好ましい。
【0020】前記高分子化合物として、各種ポリオキサジアゾール(POD)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾビスチアゾール(PBBT)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾビスオキサゾール(PBBO)、各種ポリイミド(PI)、各種ポリアミド(PA)、ポリフェニレンベンゾイミダゾール(PBI)、ポリフェニレンベンゾビスイミダゾール(PPBI)、ポリチアゾール(PT)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)からなる群の中から選ばれる少なくとも1つを使用すると、グラファイトの層間にインターカラントを速やかに、均一に挿入することができるためさらに好ましい。
【0021】上記各種ポリオキサジアゾールとしては、ポリパラフェニレン−1,3,4−オキサジアゾールおよびそれらの異性体がある。
【0022】上記各種ポリイミドには下記の一般式(1)で表される芳香族ポリイミドがある。
【0023】
【化1】


【0024】
【化2】


【0025】
【化3】


【0026】上記各種ポリアミドには下記一般式(2)で表される芳香族ポリアミドがある。
【0027】
【化4】


【0028】使用されるポリイミド、ポリアミドはこれらの構造を有するものに限定されない。
【0029】前記高分子化合物のフィルムをグラファイト化する焼成条件は、特に限定されないが、2000℃以上、好ましくは3000℃近辺の温度域に達するように熱処理すると、高配向性グラファイト面状体の層間にインターカラントを速やかに、均一に挿入することができるため好ましい。熱処理は、普通、不活性ガス中で行われる。熱処理の際、処理雰囲気を加圧雰囲気にしてグラファイト化の過程で発生するガスの影響を抑えるためには、高分子化合物のフィルム厚みが5μm以上であるのが好ましい。焼成時の圧力は、フィルムの厚みにより異なるが、通常、0.1〜50kg/cm2 の圧力が好ましい。最高温度が2000℃未満で熱処理する場合は、得られたグラファイトは硬くて脆く、層間化合物を形成することが難しくなる傾向がある。熱処理後、さらに必要に応じて圧延処理を行ってもよい。
【0030】高分子化合物のフィルムのグラファイト化は、たとえば、高分子化合物のフィルムを適当な大きさに切断し、切断されたフィルムを1枚を焼成炉に入れ、3000℃に昇温してグラファイト化するプロセスで製造される。熱処理後、上述のように必要に応じて圧延処理される。
【0031】このようにして得られる高配向性グラファイト面状体は、可とう性を有していても、可とう性のない硬いものでもいずれであってもよいが、本発明のグラファイト層状体を電極材料として、集積した形状で使用するためには、可とう性を有する高配向性グラファイト面状体が好ましい。
【0032】電極材料としてフィルム状のものを使用する場合は、原料の高分子化合物のフィルムの厚さは200μm以下の範囲であるのが好ましく、より好ましくは5〜200μmである。原料フィルムの厚さが200μmを超えると、熱処理過程時にフィルム内部より発生するガスによって、フィルムがボロボロの崩壊状態になり、良質の電極材料として単独で使用することは難しくなる。
【0033】しかし、崩壊状態のグラファイトも、例えば、いわゆるテフロンとして知られるポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂とのコンポジット体とすれば使用可能な電極材料になる。また、グラファイトを粉末化してフッ素樹脂とのコンポジット体にして使用することも可能である。コンポジット体の場合、グラファイトとフッ素樹脂の割合(重量比率)は、グラファイト:フッ素樹脂=50:1〜2:1の範囲が適当である。
【0034】インターカラントとしては、ドナー性のものが適切であり、2次電池用電極として好ましい。インターカラントが塩化物およびフッ化物からなる群の中から選ばれる少なくとも1つであるのがさらに好ましい。塩化物およびフッ化物としては、あらゆる金属の塩化物および金属のフッ化物を使用することができる。
【0035】インターカラントがドナー性であるLi、K、Rb、Cs、SrおよびBaからなる群の中から選ばれる少なくとも1つであると、グラファイト電極材料は2次電池に使用した際に優れた電池特性を発揮する電極材料となるため好ましい。
【0036】インターカラントは同一の物質であっても、反応条件によって、層構造の異なる層間化合物となる。層間化合物は層間に挿入したゲスト物質(インターカラント)とホストであるグラファイトとの相互作用によって生じる。
【0037】高配向性グラファイト面状体は、配向方向が面方向にそろえられた第1グラファイト結晶を有し、面状体の一面には、第1グラファイト結晶と交差する方向に配向方向がそろえられた第2グラファイト結晶を有するグラファイト体が配置されている。この2つのグラファイト結晶の配向方向を交差させるためには、エキシマレーザ照射装置等の加工装置で高分子化合物のフィルムの一面に穴又は溝を形成すればよい。フィルムの一面に穴又は溝を形成することで、面状体の一面に配向方向が面方向と交差する結晶を成長させることができ、面方向にそろった配向方向の第1グラファイト結晶の層間にインターカラントを速やかに、均一に挿入し、インターカラントの挿入量を制御することができ、グラファイト電極材料を2次電池に使用した際に優れた電池特性を得ることができる。高分子化合物のフィルムに形成される穴又は溝の間隔は特に限定されないが、たとえば、0.2〜100μmであり、穴又は溝の大きさは、好ましくは0.2〜100μmであり、より好ましくは0.2〜50μmである。この範囲にあると高配向性グラファイトの層間にインターカラントをより速やかに、均一に挿入でき、インターカラントの挿入量を正確に制御することが可能になり好ましい。また、穴又は溝の配置状態は、各穴又は溝が規則正しく配置されたものでもよく、不規則に配置されたものでもよい。しかしながら、グラファイトの層間にインターカラントを均一に挿入し、インターカラントの挿入量を正確に制御するためには、穴又は溝が規則正しく配置されたものが好ましい。
【0038】高配向性グラファイト面状体にインターカラントを層間挿入する方法は、特に限定されないが、気相定圧反応法、液相接触法、固相加圧法、溶媒法等がある。高配向性グラファイト面状体の一面に配置された多数の第2グラファイト結晶の隙間を通じて、毛細現象等の作用によって、インターカラントが第1グラファイト結晶の層間に拡散する。このようにして、第1グラファイト結晶の層間にインターカラントは速やかに、均一に挿入され、インターカラントの挿入量を制御することができる。
【0039】このようにして、第1グラファイト結晶の配向方向と交差する第2グラファイト結晶からのインターカラントの第1グラファイト結晶の層間への挿入は強固な炭素骨格によって妨害されることなく、多数の第2グラファイト結晶の隙間を通じて、インターカラントを面状体の一面から第1グラファイト結晶の層間に挿入することができる。インターカラントはこれらの多数の第2グラファイト結晶の隙間のみから層間挿入されるだけでなく、第1グラファイト結晶の端面にある層間の隙間から第1グラファイト結晶の配向方向と平行な方向に挿入されることもある。
【0040】上記のようにして得られる高配向性グラファイト面状体にインターカラントが層間挿入されたグラファイト電極材料を、さらに脱ドープ処理してもよい。脱ドープ処理方法としては、特に限定されないが、たとえば、水または水蒸気による洗浄、高温で熱処理する方法がある。脱ドープ処理を行うことによってグラファイト層間化合物は層間の相互作用が弱められた状態になり、グラファイト電極材料としてさらに優れた電池特性を得ることができる。
【0041】
【作用】本発明に係るグラファイト電極材料では、混合体における導電性金属シート側のグラファイトの含有量がそれと逆側の含有量より少ないので、接着性が導電性金属シート側で良好になり、かつ電気特性が逆側で良好になる。このため、導電性金属シートとの接着性を改善できかつ電極としての電気性能を充分に発揮できる。
【0042】なお、混合体が、導電性金属シートに接着された第1混合体と、第1混合体に積層され、第1混合体よりグラファイトの含有量が多い第2混合体とを有している場合には、第1混合体と第2混合体とを積層するだけで簡単に上記効果を得ることができる。
【0043】また、第1混合体のグラファイトの含有量は5重量部〜50重量部であり、前記第2混合体のグラファイトの含有量は20重量部〜98重量部である場合には、最適の接着性及び電気性能が得られる。
【0044】本発明に係るグラファイト電極材料の製造方法では、混練工程で、グラファイト粉末と接着用高分子化合物とが混練され、第1混合体と、第1混合体よりグラファイトの含有量が多い第2混合体とが得られる。そして、第1塗布工程で、第1混合体が導電性シート上に塗布される。つづいて、第2塗布工程で、第2混合体が第1混合体上に塗布される。塗布後に、2つの混合体が塗布された導電性金属シートが乾燥工程で乾燥させられ乾燥されられた導電性金属シートが圧延工程で圧延され、圧延された導電性金属シートが焼成工程で焼成されてグラファイト電極材料が得られる。ここでは、導電性金属シート側で表面よりグラファイトの含有量を少なくしているので、接着性が導電性金属シート側で良好になり、かつ電気特性が逆側で良好になる。このため、導電性金属シートとの接着性を改善できかつ電気性能を充分に発揮できる。
【0045】本発明の別の発明に係るグラファイト電極材料では、インターカラントが、高配向性グラファイト面状体の一面側のグラファイト体の第2グラファイト結晶の隙間から面方向と交差する方向に挿入され、そこから、第1グラファイト結晶の隙間に面方向に挿入される。ここでは、面と交差する方向からインターカラントが挿入できるので、第1グラファイト結晶の層間に短時間でインターカラントを挿入でき、かつ端面から距離に係わらず均一にインターカラントを挿入できる。しかも、第2グラファイト結晶の数を制御することで、インターカラントの挿入量を所望の量に制御することができる。このため、優れた電池特性を得ることができる。
【0046】また、高配向性グラファイト面状体が可とう性を有している場合には、種々の形状の電極材料に適用できる。
【0047】本発明の別の発明に係るグラファイト電極材料の製造方法では、形成工程で、高分子化合物のフィルムの表面に微細な穴又は溝が多数形成され、焼成工程で、穴又は溝が形成されたフィルムが2000℃以上の温度域で焼成される。この焼成中に穴又は溝が形成された一面にその角部から面と交差する方向に結晶が成長して一面に結晶の隙間が多数形成される。これを電極材料に用いれば、この隙間からインターカラントが挿入され、さらに、面に沿う方向に成長した結晶の隙間に挿入される。ここでは、面と交差する方向からインターカラントが挿入できるので、面に沿う結晶の層間に短時間でインターカラントを挿入でき、かつ端面から距離に係わらず均一にインターカラントを挿入できる。しかも、面に交差する結晶の数を穴又は溝の数または間隔によって制御することで、インターカラントの挿入量を所望の量に制御することができる。このため、優れた電池特性を得ることができる。
【0048】なお、形成工程で、エキシマレーザ照射装置で穴又は溝を形成すると、微細な穴又は溝を精度良く形成できる。
【0049】本発明のさらに別の発明に係るグラファイト電極材料の製造方法では、配置工程で、結晶の成長起点となる触媒物質が配置される。配置後に、触媒物質が配置されたフィルムが焼成工程で2000℃以上の温度域で焼成される。この焼成中に触媒物質が配置された一面に触媒物質を起点として面と交差する方向に結晶が成長して一面に結晶の隙間が多数形成される。これを電極材料に用いれば、この隙間からインターカラントが挿入され、さらに、面に沿う方向に成長した結晶の隙間に挿入される。ここでは、面と交差する方向からインターカラントが挿入できるので、面に沿う結晶群の層間に短時間でインターカラントを挿入でき、かつ端面から距離に係わらず均一にインターカラントを挿入できる。しかも、面に交差する結晶群の数を、触媒物質の配置密度等によって制御することで、インターカラントの挿入量を所望の量に制御することができる。このため、優れた電池特性を得ることができる。
【0050】なお、フィルムを焼成した後に、フィルムを圧延する圧延工程をさらに含んでいる場合には、より薄く均質な電極材料を得ることができる。
【0051】
【実施例】下記の実施例は、本発明の例示であり、本発明の特許請求の範囲を制限するものではない。
実施例1図1に示すように、厚さ300μmの銅箔1に、天然グラファイト粉末とSBRとを混練した第1混合物2と第2混合物3とをこの順に塗布した。なお、天然グラファイトの代わりに高配向性グラファイトをリン片化したグラファイトを用いてもよい。第1混合体2の厚みは20μmであり、グラファイトの含有量は40重量部である。第2混合体3の厚みは50μmであり、グラファイトの含有量は60重量部である。なお、第1混合体2のグラファイトの含有量は5重量部〜50重量部の範囲、より好ましくは20重量部〜50重量部の範囲であればよい。また、第2混合体3のグラファイトの含有量は20重量部〜98の範囲、より好ましくは50重量部〜98重量部の範囲であればよい。
【0052】そして、これを乾燥させて、圧延ロールにて2つの混合体2,3をその厚みが50μmになるように圧延した。圧延後にスリット装置で、50mm幅に切断して、電気炉によって450℃で焼成して電極材料を得た。この製造時において、圧延ロールへの付着は皆無であった。
【0053】また、比較例1として、天然グラファイト粉末40重量部とSBR60重量部とを圧延ロールに付着しないように充分に混練して、100μm厚みとした混合体を銅箔に塗布して圧延,焼成してグラファイト電極材料を得た。
【0054】得られたグラファイト電極材料それぞれを負極10として、不活性ガス中でミクロポーラスな構造を有するポリプロピレン製のセパレーター12と正極11となる電極材料(インターカラントを層間挿入していない可とう性グラファイトシート)と共に加圧成型して図2に示すような構造のリチウム2次電池を作製した。なお、電解質溶液には、リチウムパークロレートを含むプロピレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタンとからなる溶液が使用される。
【0055】この実施例1の2次電池の充・放電特性は優れた特性を有しているのに対して、比較例1のグラファイトの場合にはSBRにグラファイトが包まれ、満足な性能は得られなかった。
実施例2図3に示すように、厚さ25μmのポリパラフェニレン−1,3,4−オキサジアゾールの高分子フィルム15にエキシマレーザ装置で1μmの幅の溝16を2μm間隔で多数形成した。なお、溝16の代わりにたとえば矩形の穴をあけてもよい。そして、電気炉(産協電炉(株)製 LTF−8型)を用いて窒素ガス中10℃/minの速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保ち予備熱処理をした。次に、得られた炭素質フィルムを、グラファイト製円筒容器内に伸縮可能にセットし、超高温炉(進成電炉(株)製 46−5型)を用いて20℃/minの速度で昇温した。最高温度が、それぞれ、2000℃、2500℃、3000℃となるように焼成し、3種類のグラファイトフィルムを得た。比較のために、最高温度が2000℃で穴又は溝を形成していないグラファイトフィルム(比較例2)も得た。なお、焼成は、アルゴンガス中、0.2kg/cm2の加圧雰囲気で行うようにした。
【0056】こうして得られたグラファイト化したフィルムは可とう性を有するものであった。また、図4に模式的に示すように、グラファイトフィルム20に面に沿う配向方向の第1結晶21が形成されるとともに、グラファイトフィルム20の図4上面から面方向と交差する方向に表面に向けて成長した第2結晶22を有するグラファイト体23が形成されている。即ち、リチウムイオンを受け入れる結晶層間が上方に成長した第2結晶22と、面方向に成長した第1結晶21とを有するグラファイトフィルム20の構成となる。
【0057】このフィルムを金属リチウムと金属ナトリウムとにじかに接触するようにしてパイレックスガラス製容器中にセットした後、真空下封管して150℃で加熱処理してインターカラントを挿入した。
【0058】溝を形成した高分子フィルムを焼成した各実施例のグラファイトフィルムの場合には面と交差する方向にも第2ステージの層間化合物が得られたが、溝を形成していない比較例2のグラファイトの場合には面と交差する方向に層間化合物が得られなかった。
【0059】得られたグラファイト電極材料それぞれを実施例1と同様に負極10として、不活性ガス中でミクロポーラスな構造を有するポリプロピレン製のセパレーター12と正極11の電極材料と共に加圧成型して図2に示すような構造のリチウム2次電池を作製した。
【0060】この2次電池の充・放電特性は実施例1よりさらに優れた充・放電特性を有しているのに対して、比較例2のグラファイトの場合には面と交差する方向に層間化合物を形成していないため、満足な充・放電特性は得られなかった。また、図4に示すグラファイトフィルム20があるため、銅箔が不要になり、グラファイト単体で電極を構成できるので、電極の構造を簡素化できた。
実施例3厚さ25μmのポリパラフェニレン−1,3,4−オキサジアゾールの高分子フィルム15の表面にNi粉末を触媒物質として略均一に散布した。そして、電気炉(産協電炉(株)製 LTF−8型)を用いて窒素ガス中10℃/minの速度で1000℃まで昇温し、1000℃で1時間保ち予備熱処理をした。次に、得られた炭素質フィルムを、グラファイト製円筒容器内に伸縮可能にセットし、超高温炉(進成電炉(株)製 46−5型)を用いて20℃/minの速度で昇温した。最高温度が、それぞれ、2000℃、2500℃、3000℃となるように焼成し、3種類のグラファイトフィルムを得た。比較のために、最高温度が2000℃で触媒物質を散布していないグラファイトフィルム(比較例3)も得た。なお、焼成は、アルゴンガス中、0.2kg/cm2 の加圧雰囲気で行うようにした。
【0061】こうして得られたグラファイト化したフィルムは可とう性を有するものであった。また、実施例2と同様に、図4に模式的に示すように、グラファイトフィルム20に面に沿う配向方向の第1結晶21が形成されるとともに、グラファイトフィルム20の図4上面に触媒物質を起点として面方向と交差する方向に表面に向けて成長した第2結晶22を有するグラファイト体23が形成されている。
【0062】このフィルムを金属リチウムと金属ナトリウムとにじかに接触するようにしてパイレックスガラス製容器中にセットした後、真空下封管して150℃で加熱処理してインターカラントを挿入した。
【0063】触媒物質を散布した高分子フィルムを焼成した各実施例のグラファイトフィルムの場合には面と交差する方向にも第2ステージの層間化合物が得られたが、散布していない比較例3のグラファイトの場合には面と交差する方向に層間化合物が得られなかった。
【0064】得られたグラファイト電極材料それぞれを実施例2と同様にして図2に示すような構造のリチウム2次電池を作製した。
【0065】この2次電池の充・放電特性は実施例2と同等の優れた充・放電特性を有しているのに対して、比較例3のグラファイトの場合には面と交差する方向に層間化合物を形成していないため、満足な充・放電特性は得られなかった。また、銅箔が不要になり、グラファイト単体で電極を構成できるので、電極の構造を簡素化できた。
実施例4実施例2のグラファイトを負極10として、不活性ガス中でミクロポーラスな構造を有するポリプロピレンのセパレーター12と正極11とともに加圧成型する前に、大気中で24時間放置して、さらに沸騰蒸留水で処理して脱ドープ処理を行った後、乾燥した。以下実施例2と同様にして2次電池を作製し、2次電池の充・放電特性を調べた。
【0066】実施例4でも実施例2と同様に充・放電特性はより優れた特性を有していた。実施例5厚さ125μm、25μm、50μm、75μmのポリイミド(Dupont、カプトンHフィルム)をそれぞれ用いるとともに焼成での最高温度を2800℃とした以外は、実施例2と同様にしてグラファイト化した層間化合物を形成した。さらに、脱ドーブ処理を行い、同様に電池特性を調べた。その結果、いずれの厚みのフィルムの場合も、実施例2と同様に優れた電池特性を示した。
実施例6厚さ50μmのPI、POD、PBT、PBBT、PBO、PBBO、PPA、PBI、PPBI、PT、PPVの各フィルムをそれぞれ用い、2.0kg/cm2 の圧力下、最高温度3000℃の温度で焼成するとともにカリウムを気相定圧反応質(Two−buib法)を用いて層間挿入するようにした他は、実施例2と同様にしてグラファイト化した層間化合物を形成した。さらに、脱ドーブ処理を行い、同様に電池特性を調べた。その結果、いずれの種類のフィルムの場合も、実施例2と同様に優れた電池特性を示した。なお、層間化合物の形成の際はカリウム側温度を250℃、グラファイト側の温度を300℃として第1ステージの層間化合物を得た。
実施例7400μmの厚さのPODおよびPIフィルムを実施例2の方法で熱処理した。フィルムはボロボロの状態であったが、実施例2と同様にしてグラファイト層間化合物を得た。さらに、脱ドーブ処理してから、これとテフロンのコンポジット体を作製した。グラファイト材分とテフロンの重量比は10:1とした。ついで、実施例1と同様に電池特性を調べた。優れた電池特性を示した。
【0067】
【発明の効果】本発明に係るグラファイト電極材料では、混合体における導電性金属シート側のグラファイトの含有量がそれと逆側の含有量より少ないので、接着性が導電性金属シート側で良好になり、かつ電気特性が逆側で良好になる。このため、導電性金属シートとの接着性を改善できかつ電極としての電気性能を充分に発揮できる。
【0068】なお、混合体が、導電性金属シートに接着された第1混合体と、第1混合体に積層され、第1混合体よりグラファイトの含有量が多い第2混合体とを有している場合には、第1混合体と第2混合体とを積層するだけで簡単に上記効果を得ることができる。
【0069】また、第1混合体のグラファイトの含有量は5重量部〜50重量部であり、前記第2混合体のグラファイトの含有量は20重量部〜98重量部である場合には、最適な接着性及び電気性能を得られる。
【0070】本発明に係るグラファイト電極材料の製造方法では、導電性金属シート側で表面よりグラファイトの含有量を少なくしているので、接着性が導電性金属シート側で良好になり、かつ電気特性が逆側で良好になる。このため、導電性金属シートとの接着性を改善できかつ電極としての電気性能を充分に発揮できる。
【0071】本発明の別の発明に係るグラファイト電極材料では、面と交差する方向からインターカラントが挿入できるので、第1グラファイト結晶の層間に短時間でインターカラントを挿入でき、かつ端面から距離に係わらず均一にインターカラントを挿入できる。しかも、第2グラファイト結晶の数を制御することで、インターカラントの挿入量を所望の量に制御することができる。このため、優れた電池特性を得ることができる。
【0072】また、高配向性グラファイト面状体が可とう性を有している場合には、種々の形状の電極材料に適用できる。
【0073】本発明の別の発明に係るグラファイト電極材料の製造方法では、面と交差する方向からインターカラントが挿入できるので、面に沿う結晶の層間に短時間でインターカラントを挿入でき、かつ端面から距離に係わらず均一にインターカラントを挿入できる。しかも、面に交差する結晶の数を穴又は溝の数または間隔によって制御することで、インターカラントの挿入量を所望の量に制御することができる。このため、優れた電池特性を得ることができる。
【0074】なお、形成工程で、エキシマレーザ照射装置で穴又は溝を形成すると、微細な穴又は溝を精度良く形成できる。
【0075】本発明のさらに別の発明に係るグラファイト電極材料の製造方法では、面と交差する方向からインターカラントが挿入できるので、面に沿う結晶群の層間に短時間でインターカラントを挿入でき、かつ端面から距離に係わらず均一にインターカラントを挿入できる。しかも、面に交差する結晶群の数を、触媒物質の配置密度等によって制御することで、インターカラントの挿入量を所望の量に制御することができる。このため、優れた電池特性を得ることができる。
【0076】なお、フィルムを焼成した後に、フィルムを圧延する圧延工程をさらに含んでいる場合には、より薄く均質な電極材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1によるグラファイト電極材料の断面模式図。
【図2】本発明の実施例のグラファイト電極材料を2次電池用グラファイト電極材料として使用したリチウム2次電池の断面図。
【図3】本発明の別の実施例のグラファイト電極材料の焼成前のフィルムの断面模式図。
【図4】本発明の別の実施例のグラファイト電極材料の焼成後の断面模式図。
【符号の説明】
1 銅箔
2 第1混合体
3 第2混合体
10 負極
11 正極
15 高分子フィルム
16 溝
20 グラファイトフィルム
21 第1結晶
22 第2結晶
23 グラファイト体

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくともグラファイトと接着用高分子化合物とを含む混合体を導電性金属シートに積層したグラファイト電極材料において、前記混合体における前記導電性金属シート側のグラファイトの含有量がそれと逆側の含有量より少ないことを特徴とするグラファイト電極材料。
【請求項2】 前記混合体は、前記導電性金属シートに接着された第1混合体と、前記第1混合体に積層され、前記第1混合体より前記グラファイトの含有量が多い第2混合体とを有している、請求項1に記載のグラファイト電極材料。
【請求項3】 前記第1混合体のグラファイトの含有量は5重量部〜50重量部であり、前記第2混合体のグラファイトの含有量は20重量部〜98重量部である、請求項2に記載のグラファイト電極材料。
【請求項4】 グラファイトに接着用高分子化合物を混練した混合体を導電性金属シートに積層してグラファイト電極材料を製造する方法において、前記グラファイトと接着用高分子化合物とを混練し、第1混合体と、前記第1混合体よりグラファイトの含有量が多い第2混合体とを得る混練工程と、前記第1混合体を前記導電性金属シート上に塗布する第1塗布工程と、前記第2混合体を第1混合体上に塗布する第2塗布工程と、2つの混合体が塗布された導電性金属シートを乾燥させる乾燥工程と、乾燥された導電性金属シートを圧延する圧延工程と、圧延された導電性金属シートを焼成してグラファイト電極材料を得る工程と、を含むグラファイト電極材料の製造方法。
【請求項5】 配向方向が面方向にそろえられた第1グラファイト結晶を有する高配向性グラファイト面状体と、前記高配向性グラファイト面状体の一面に配向方向が面と交差するようにそろえられた第2グラファイト結晶を有するグラファイト体とを備え、前記高配向性グラファイト面状体及びグラファイト体にインターカラントを層間挿入可能なグラファイト電極材料。
【請求項6】 前記インターカラントがドナー性である、請求項1に記載のグラファイト電極材料。
【請求項7】 前記高配向性グラファイト面状体が可とう性を有する、請求項5又は6に記載のグラファイト電極材料。
【請求項8】 結晶の配向方向を面方向にそろえた高配向性グラファイト面状体を用いたグラファイト電極材料の製造方法であって、高分子化合物のフィルムの表面に微細な穴又は溝を多数形成する形成工程と、穴又は溝が形成された前記フィルムを2000℃以上の温度域で焼成する焼成工程と、を含むグラファイト電極材料の製造方法。
【請求項9】 前記形成工程では、エキシマレーザ照射装置で前記穴又は溝を形成する、請求項8に記載のグラファイト電極材料の製造方法。
【請求項10】 結晶の配向方向を面方向にそろえた高配向性グラファイト面状体を用いたグラファイト電極材料の製造方法であって、高分子化合物のフィルムの表面に、面方向と交差する方向にグラファイト結晶が成長するように結晶成長の起点となる触媒物質を配置する配置工程と、前記触媒物質が配置されたフィルムを積層して2000℃以上の温度域で焼成する焼成工程と、を含むグラファイト電極材料の製造方法。
【請求項11】 前記フィルムを焼成した後に、焼成されたフィルムを圧延する圧延工程をさらに含む、請求項8から10のいずれかに記載のグラファイト電極材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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