説明

グラフト重合体の製造方法

【課題】生体特性および環境親和性に優れる親水性部位の特徴と、成形性および機械的強度に優れる共役ジエン(共)重合体の特徴とを併有する新規な重合体、特に共役ジエン(共)重合体の特徴を損なわずに高い割合で親水性部位を含有する重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】上記課題は、共役ジエン(共)重合体に、該共役ジエン(共)重合体に対する膨潤度が100〜1,500重量%である溶媒の存在下で重合性不飽和結合を有する水溶性化合物をグラフト重合することを特徴とするグラフト重合体の製造方法によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト重合体の製造方法に関する。さらに詳しくは、水溶性の構造を有するグラフト鎖の含有率が高い、共役ジエン(共)重合体を主鎖とするグラフト重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疎水性と親水性といった相異なる性質を持つ複数の部位を有する共重合体の開発の歴史は古く、多くの種類の共重合体、主としてブロック共重合体が提案されている。例えば非特許文献1および2には、ポリイソプレンブロックとポリエチレンオキサイドブロックとを有する共重合体の合成例が記載されている。非特許文献3では、ポリイソプレンブロックとポリ−L−リジンブロックとを有する共重合体が報告されている。また、カナダ国、Polymer Source Inc.社からは、ポリブタジエンブロックとポリアクリル酸ブロック、ポリブタジエンブロックとポリメタクリル酸ブロック、ポリブタジエンブロックとポリエチレンオキサイドブロック、ポリブタジエンブロックとポリ−4−ビニルピリジンブロック、ポリイソプレンブロックとポリ−2−ビニルピリジンブロック、ポリイソプレンブロックとポリエチレンオキサイドブロックといった異種の部位を有する各種の共重合体が市販されている。
これらの共重合体は例えば異種材料の相溶化剤として用いられ、異種の材料とこれら共重合体とを含有する組成物の性能向上の検討などがなされている。
一方、複合的性質を有する材料としては、上記の如きブロック共重合体以外にグラフト共重合体が知られている。しかし、グラフト共重合体の主鎖となる重合体としては、ポリオレフィンやポリ(メタ)アクリレートが多く検討されており、成形性や機械的強度に優れる共役ジエン(共)重合体を主鎖とするグラフト重合体の検討例は少ない。共役ジエン(共)重合体を主鎖とするグラフト重合体として従来知られているものは、共役ジエン(共)重合体主鎖に対する水溶性グラフト鎖の導入割合が低い領域にとどまっており、共役ジエン(共)重合体主鎖の特性および水溶性グラフト鎖の特性の双方を十分に活かしうるようなグラフト重合体は未だ知られていない。
【0003】
ところで近年、水溶性を示す糖鎖が、生体に対して重要な働きを示すことが再認識され、生体内で糖鎖が働く作用機構の研究および糖鎖の応用に関する研究が盛んになってきた(非特許文献4および5)。特に、糖鎖を応用した細胞培養や組織形成用材料の研究が急速に展開されつつある。また、糖鎖を有する材料は、廃棄物として自然環境に影響しない材料としても注目されている。
しかし、多糖類に代表される糖鎖を有する化合物は、成形性や機械的強度に限界がある。そのため、生体特性や環境親和性に優れる糖鎖を有する化合物と、成形性や機械的強度に優れる他の重合体とを複合したいとの要望が出されつつある。
本願発明者らは、近年、機械的強度を発現する部位としての共役ジエン(共)重合体ブロックと親水性部位としての糖ブロックとを有するブロック共重合体およびその製造方法について報告した(特許文献1)。この技術は、生体特性および環境親和性に優れる糖の特徴と、成形性および機械的強度に優れる共役ジエン(共)重合体の特徴とを併有するブロック共重合体を簡易な方法で提供するものであり、上記の要望に対する一つの回答として有益なものである。そして、かかるブロック共重合体を、生体親和性材料、例えば一時的に生体組織を代替する人工皮膚など、へ適用すべく、鋭意検討がなされている。
しかしながら、上記技術によると、共役ジエン(共)重合体の特性を維持しつつ親水性部位の導入割合を高めることには限界があり、より効率的な複合方法が求められている。
【特許文献1】特開2007−246558号公報
【非特許文献1】M. Templin et al, Science, Vol. 278, Issue 5344, pp1795−1798(1997)
【非特許文献2】J. Allgaier et al, Macromolecules 30, p1582(1997)
【非特許文献3】J. Babin et al, Faraday Discuss., 128, pp179−192(2005)
【非特許文献4】永井克孝、糖鎖生物学と糖鎖工学:その目標とスコープ、現代科学、11、pp12−15(1991)
【非特許文献5】永井克孝、糖鎖からみた生命:デジタル的生命像とアナログ的生命像、バイオサイエンスとインダストリー、53、pp943−944(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は、生体特性および環境親和性に優れる親水性部位の特徴と、成形性および機械的強度に優れる共役ジエン(共)重合体の特徴とを併有する新規な重合体、特に共役ジエン(共)重合体の特徴を損なわずに高い割合で親水性部位を含有する重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、
共役ジエン(共)重合体に、該共役ジエン(共)重合体に対する膨潤度が100〜1,500重量%である溶媒の存在下で重合性不飽和結合を有する水溶性化合物をグラフト重合することを特徴とする、グラフト重合体の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、共役ジエン(共)重合体を主鎖とし、グラフト鎖として水溶性の部位を有するグラフト重合体の製造方法が提供される。本発明の方法は、水溶性のグラフト鎖の含有率の高いグラフト重合体を容易に製造することができるものである。
本発明の方法により製造されたグラフト重合体は、生体特性および環境親和性に優れる水溶性部位の特徴と、成形性および機械的強度に優れる共役ジエン(共)重合体の特徴とを併有するグラフト重合体であり、生体用または非生体用の接着剤、医療用途(例えば人工臓器用材料、組織形成用材料、治療用材料など)などに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の方法は、共役ジエン(共)重合体に、該共役ジエン(共)重合体に対する膨潤度が100〜1,500重量%である溶媒の存在下で重合性不飽和結合を有する水溶性化合物をグラフト重合することを特徴とする。
<共役ジエン(共)重合体>
本発明の方法に使用される共役ジエン(共)重合体としては、例えば一種類の共役ジエンの重合体、二種類以上の共役ジエンの共重合体または一種類もしくは二種類以上の共役ジエンと一種類もしくは二種類以上の他のモノマーとの共重合体、またはこれらの水素添加物であることができる。
かかる共役ジエン(共)重合体の合成に使用される共役ジエンとしては、例えば1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、クロロプレンなどを挙げることができる。共役ジエン(共)重合体の合成に使用することのできる他のモノマーとしては、例えばスチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレンなどを挙げることができ、特にスチレンまたはα−メチルスチレンが好ましい。
【0008】
上記共役ジエン(共)重合体が、共役ジエンと他のモノマーとの共重合体である場合、他のモノマーの使用割合は、共役ジエンとの合計量に対する割合として、好ましくは50重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下である。この範囲の使用量とすることにより、共重合体のガラス転移温度を高くすることができ、その結果、本発明の方法により得られる重合体の力学的性質や改質効果をより向上することができる。
上記共役ジエン(共)重合体は、水素添加されたものであってもよい。
本発明の方法に使用される好ましい共役ジエン(共)重合体として、1,2−ポリブタジエン、ポリイソプレン、1,4−ポリブタジエンおよびこれらの部分水素添加物などを挙げることができる。
共役ジエン(共)重合体の分子量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量として好ましくは500〜500,000であり、より好ましくは1,000〜300,000である。
上記の如き共役ジエン(共)重合体を本発明の方法に供する際の形態としては、任意の形態とすることができるが、例えばペレット状、粉体状、塊状、シート状などの形態を例示することができる。
本発明の方法において、上記の如き共役ジエン(共)重合体を使用することにより、グラフト共重合体をゲル化させることなく容易に得ることができることとなり、好ましい。
【0009】
<重合性不飽和結合を有する水溶性化合物>
本発明の方法に使用される重合性不飽和結合を有する水溶性化合物としては、好ましくは末端に二重結合を有し、且つ水溶性の重合性化合物であれば、特に制限なく使用することができる。
本発明における重合性不飽和結合を有する水溶性化合物の例としては、例えば重合性不飽和結合を有する水溶性単量体、末端に二重結合を有する水溶性オリゴマー、下記式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
(式(I)中、Xは糖の有する水酸基のうちのひとつから水素原子一個を除いて得られる一価の基であり、Yは単結合または二価の有機基である。)
で表される化合物などを挙げることができる。
上記重合性不飽和結合を有する水溶性単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸、ビニルピロリドン、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよびエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートならびにこれらの塩などを挙げることができる。ここで、上記化合物のカウンターカチオンとしては、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンなどを挙げることができる。重合性不飽和結合を有する水溶性単量体としては、上記のうち、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0012】
上記末端に二重結合を有する水溶性オリゴマーの水溶性オリゴマー部位としては、例えば(メタ)アクリル酸のオリゴマー、ビニルアルコールのオリゴマー、ビニルピロリドンのオリゴマー、(メタ)アクリルアミドのオリゴマー、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのオリゴマーおよびエチレングリコールのオリゴマーならびにこれらの塩などを挙げることができる。ここで、上記オリゴマーのカウンターカチオンとしては、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンなどを挙げることができる。末端に二重結合を有する水溶性オリゴマーの水溶性オリゴマー部位としては、上記のうち、(メタ)アクリル酸のオリゴマーまたはその塩(特にナトリウム塩)、エチレングリコールのオリゴマーであることが好ましい。
上記末端に二重結合を有する水溶性オリゴマーについてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されたポリエチレングリコール換算の重量平均分子量Mwは、50〜10,000であることが好ましく、60〜5,000であることがより好ましく、特に70〜1,000であることが好ましい。Mwが上記の範囲にあることにより、得られるグラフト重合体の成形が容易となり、適当な機械的強度を有する成形体を得ることができる。
【0013】
上記式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」ということがある。)のXにおける糖としては、単糖、オリゴ糖または多糖を挙げることができる。この場合、Xは単糖、オリゴ糖または多糖の有する水酸基のうちのひとつから水素原子一個を除いて得られる一価の基である。
上記単糖としては、例えば五炭糖(ペントース)、六炭糖(ヘキソース)などを挙げることができる。五炭糖としては、例えばリボース、デオキシリボースなどを;
六炭糖としては、例えばグルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどを、それぞれ挙げることができる。
上記オリゴ糖としては、例えばマルトース、セロビオース、ラクトース、イソマルトース、キトビオース、ニゲロース、トレハロース、メリビオース、セロトリオース、キトトリオース、マルトトリオース、セロテトラオース、キトテトラオース、マルトテトラオース、セロペンタオース、マルトペンタオース、キトペンタオース、セロヘキサオース、マルトヘキサオース、キトヘキサオースなどを挙げることができる。
上記多糖類としては、例えばセルロース、デンプン、グリコーゲン、ガラクタン、マンナン、キチン、キトサン、アルギン酸、ポリグルコサミン、プルラン、ヒアルロン酸などを挙げることができる。
化合物(I)のYにおける二価の有機基としては、水酸基を有する炭素数4〜6の二価の基であることが好ましく、例えば下記式(Y’)
【0014】
【化2】

【0015】
(式(Y’)中、「*」はこれを付した結合手が基Xと結合することを示す。)
で表される二価の基を好ましく例示することができる。
化合物(I)の具体例としては、例えば
N−p−ビニルベンジル−O−β−D−ガラクトピラノシル−(1−4)−D−グルコアミド、
N−p−ビニルベンジル−O−β−2−アセタミンド−2−デオキシ−D−グルコピラノシル−(1−4)−2−アセタミド−2−デオキシ−D−グルコアミド、
N−p−ビニルベンジル−O−α−D−グルコピラノシル−(1−4)−D−グルコサミド、
N−p−ビニルベンジル−O−β−D−グルコピラノシル−(1−4)−D−グルコアミド、
N−p−ビニルベンジル−O−β−D−マンノピラノシル−(1−4)−D−マンナミド、
N−p−ビニルベンジル−O−α−D−ガラクトピラノシル−(1−6)−D−グルコアミド、
N−p−ビニルベンジル−O−α−D−グルコピラノシル−(1−3)−D−グルコアミド、
N−p−ビニルベンジル−O−α−D−グルコピラノシル−(1−4)−O−α−D−グルコピラノシル−(1−4)−D−グルコアミド、
N−p−ビニルベンジル−O−α−D−グルコピラノシル−(1−4)−O−α−D−グルコピラノシル−(1−4)−O−α−D−グルコピラノシル−(1−4)−D−グルコアミド、
N−p−ビニルベンジル−O−α−D−グルコピラノシル−(1−4)−O−α−D−グルコピラノシル−(1−4)−O−α−D−グルコピラノシル−(1−4)−O−α−D−グルコピラノシル−(1−4)−D−グルコアミドなどを挙げることができる。
上記において、XまたはYの有する水酸基の一部または全部がアシル化されていてもよい。アシル基としては例えばアセチル基などを挙げることができる。
上記に例示した化合物(I)の具体例のうち、N−p−ビニルベンジル−O−β−D−ガラクトピラノシル−(1−4)−D−グルコアミドは、下記式(I−1)
【0016】
【化3】

【0017】
で表される化合物である。
上記の如き化合物(I)は、例えば基Xにおける糖にさらに一個の構成単糖がグリコシド結合で連結した原料糖を使用して合成することができる。例えば化合物(I)のXにおける糖の構造がガラクトース構造であるならば、原料糖としてラクトースなどを使用することができ、Xにおける糖の構造がマルトテトラオース構造であるならば、原料糖としてマルトペンタオースなどを使用することができる。
化合物(I)の合成は、例えば上記の如くして選択された原料糖をラクトン化し、次いでこのラクトン化物をp−ビニルベンジルアミンと反応させることにより、容易に行うことができる。
原料糖のラクトン化は、二級アルコールの酸化反応に準じて公知の方法により行うことができる。原料糖は、例えばヨウ素による酸化反応、酵素酸化反応などによって容易にラクトンとすることができる。
ラクトン化した原料糖を、次いでp−ビニルベンジルアミンと反応させる。かかる反応は公知の方法に準じて行うことができる。
【0018】
<溶媒>
本発明の方法に使用される溶媒は、上記の如き共役ジエン(共)重合体に対する膨潤度が100〜1,500重量%の溶媒である。
この膨潤度は、共役ジエン(共)重合体からなる試験片を溶媒中に浸漬したときに、試験片が溶媒を吸収する程度を表す指標であり、浸漬前の試験片重量(W)および浸漬後の試験片重量(W)から、下記式(i)

膨潤度(重量%)=((W−W)÷W)×100 (i)

により求めることができる。この浸漬試験は、共役ジエン(共)重合体を体積約15mmの球形もしくは略球形または立方体形状もしくは略立方体形状に成形した試験片を用い、これを30℃において溶媒中に24時間浸漬して行われる。かかる膨潤度は、好ましくは200〜1,200重量%であり、より好ましくは300〜1,000重量%である。
本発明の方法に使用される溶媒は、さらに、上記重合性不飽和結合を有する水溶性化合物を溶解しうるものであることが好ましい。このことにより、本発明の方法におけるグラフト重合の反応効率をより高くすることができる。かかる観点から、本発明の方法に使用される溶媒は、極性溶媒であることが好ましい。
このような溶媒として、例えばエーテル、ケトンなどを挙げることができる。その具体例としては、上記エーテルとして、例えばジオキサン(1,4−ジオキサン)などを;
上記ケトンとして、例えば2−ペンタノン、4−メチル−2−ペンタノンなどを、それぞれ挙げることができる。
本発明の方法における好ましい溶媒は、使用される共役ジエン(共)重合体の種類により異なる。例えば共役ジエン(共)重合体として1,2−ポリブタジエンを使用する場合には、ジオキサンを使用することが好ましく、
共役ジエン(共)重合体としてポリイソプレンを使用する場合には、2−ペンタノンまたは4−メチル−2−ペンタノンを使用することが好ましい。
【0019】
<グラフト重合体の製造方法>
本発明のグラフト重合体の製造方法では、上記の如き共役ジエン(共)重合体に、上記の如き溶媒の存在下で重合性不飽和結合を有する水溶性化合物をグラフト重合する。
重合性不飽和結合を有する水溶性化合物の使用割合は所望のグラフト率などにより適宜に設定されるべきであるが、共役ジエン(共)重合体100重量部に対する重合性不飽和結合を有する水溶性化合物の使用割合として、30〜700重量部であることが好ましく、50〜500重量部であることがより好ましい。
溶媒の使用割合は、溶媒の共役ジエン(共)重合体に対する膨潤度、水溶性化合物の溶媒に対する溶解度などにより適宜に設定されるべきであるが、反応効率の観点から、共役ジエン(共)重合体の100重量部に対して、300〜1,500重量部とすることが好ましく、500〜1,000重量部とすることがより好ましい。
本発明におけるグラフト重合は、適当な重合開始剤を使用して行うことができる。ここで使用できる好ましい重合開始剤としては、一般にラジカル重合開始剤として知られているものを使用することができ、例えばアゾ化合物、有機過酸化物、過酸化水素などのほか、有機過酸化物または過酸化水素と還元剤とからなるレドックス系開始剤を挙げることができる。上記アゾ化合物としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などを;
上記有機過酸化物としては、例えばベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、1,1’−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルペルオキシピバレートなどを、それぞれ挙げることができる。
これらのラジカル重合開始剤のうち、酸素などによる副反応物が生起し難いとの観点から、アゾ化合物が好ましく、特に2,2’−アゾビスイソブチロニトリルまたは2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が好ましい。
本発明の方法における重合開始剤の使用割合としては、共役ジエン(共)重合体の100重量部に対して好ましくは0.5〜20重量部であり、より好ましくは1〜10重量部である。
グラフト重合における重合温度は、好ましくは50〜90℃であり、より好ましくは60〜80℃である。
【0020】
本発明におけるグラフト重合は、共役ジエン(共)重合体、重合性不飽和結合を有する水溶性化合物および重合開始剤を上記の如き溶媒の存在下で接触せしめ、この混合物を好ましくは上記範囲の温度下に置くことにより、容易に行うことができる。溶媒の存在下における共役ジエン(共)重合体、重合性不飽和結合を有する水溶性化合物および重合開始剤の接触は、溶媒、共役ジエン(共)重合体、重合性不飽和結合を有する水溶性化合物および重合開始剤を任意の順序で混合することにより行うことができるが、先ず溶媒中に重合性不飽和結合を有する水溶性化合物および重合開始剤を含有する溶液を調製し、共役ジエン(共)重合体に前記溶液を含浸して膨潤させ、次いで少なくとも該膨潤した共役ジエン(共)重合体を上記範囲の温度下に置く方法によることが、グラフト鎖が主鎖に均等に結合した均一なグラフト重合体を容易に合成することができる点から好ましい。
本発明の方法においては、原料たる共役ジエン(共)重合体は、使用溶媒に上記の範囲で膨潤するが、溶解していない。ここで、グラフト重合に使用される溶媒は、好ましくは重合性不飽和結合を有する水溶性化合物を溶解するものであるから、本発明の方法におけるグラフト重合は、共役ジエン(共)重合体が不溶の状態で、好ましくは固液反応として進行する。グラフト重合が進行して共役ジエン(共)重合体が重合性不飽和結合を有する水溶性化合物の重合鎖からなるグラフト鎖を多く有するようになると、当該重合体分子は溶媒に可溶となり、固体状の共役ジエン(共)重合体から溶液中に離脱する。そしてグラフト重合体が離脱して新たに溶媒中に露出した表面において、同様の固液反応によりグラフト重合が進行することとなるから、本発明の方法は、効率的且つ確実にグラフト重合体を製造することができるのである。
【0021】
本発明の方法は、グラフト重合反応が上記のような態様によるものであるため、反応終点を光学的に検出することができる利点を有する。すなわち、原料の共役ジエン(共)重合体のすべてについてグラフト重合が進行して可溶となり、反応系から不溶分が消失した時点が反応終点であるから、反応終点を適当な光学測定装置または目視で容易に検出することができる。
グラフト重合の終点は上記のとおり光学的に検出することが可能であるが、グラフト重合の所要時間としては、好ましくは30分〜4時間であり、より好ましくは1〜3時間である。
上記の如くしてグラフト重合体を含有する溶液が得られる。そしてこの溶液を、グラフト重合体の貧溶媒に投入することにより、グラフト重合体を析出物として回収することができる。ここで、貧溶媒として、グラフト重合体は沈殿するが重合性不飽和結合を有する水溶性化合物は溶解する溶媒を使用することにより、反応混合物から未反応の重合性不飽和結合を有する水溶性化合物を容易に除去することができ、便宜である。
かかる溶媒としては、例えばアルコール、エーテルなどを挙げることができ、その具体例としては、アルコールとして、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノールなどを;
エーテルとして、例えばジエチルエーテルなどを、それぞれ挙げることができる。
なお、重合性不飽和結合を有する水溶性化合物として、上記式(I)においてXまたはYの有する水酸基の一部または全部がアシル化されている化合物を使用した場合には、上記のようにして得られたグラフト重合体を、さらに加水分解反応に供し、水酸基を再生してもよい。この加水分解反応は、公知の方法に準じて行うことができる。
【0022】
<グラフト重合体>
上記の如き本発明の方法により製造されたグラフト重合体は、生体特性および環境親和性に優れる水溶性部位をグラフト鎖として有し、成形性および機械的強度に優れる共役ジエン(共)重合ユニットを主鎖として有するグラフト重合体である。
本発明の方法により製造されたグラフト重合体は、糖構造を有するグラフト鎖の含有割合(グラフト率)を高くすることができ、例えば9〜90重量%、好ましくは15〜80重量%とすることができる。このグラフト率は、グラフト重合体のグラフト鎖部分の重量がグラフト重合体の全重量に対して占める割合として定義される値である。
従って、本発明の方法により製造されたグラフト重合体は、生体用または非生体用の接着剤、医療用途(例えば人工臓器用材料、組織形成用材料、治療用材料など)などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0023】
以下の実施例において、赤外分光分析はパーキンエルマー社製のFT−IR分析装置を用いて行った。また、重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)は、以下の条件で行った。
測定装置:HLC−8220GPC(東ソー(株)製)
分離カラム:TSK gel G4000H、TSK gel G3000H、TSK gel G2000HおよびTSK gel G2000H(以上、いずれも東ソー(株)製)を直列に接続
カラム温度:40℃
溶出溶媒:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
試料濃度:0.5質量%
試料注入量:100μm
検出器:示差屈折計
標準物質:ポリスチレン
【0024】
合成例1
(1)化合物(I)の合成
(1−1)p−ビニルベンジルフタルイミドの合成
ナスフラスコ中で、p−クロロメチルスチレン1gをジメチルホルムアミド(DMF)3.2mLに溶解し、フタルイミドカリウム1.2gを加えた。これを50℃で4時間加熱して反応を行った。反応終了後、エバポレーターを用いてDMFを留去した後、ベンゼン4.5mLを加えて残存物を溶解した。このベンゼン溶液を、0.2規定の水酸化ナトリウム水溶液で数回洗浄し、さらに水で数回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。残存物をメタノールから再結晶することにより、p−ビニルベンジルフタルイミド1.5gを得た。
(1−2)p−ビニルベンジルアミンの合成
セパラブルフラスコ中で、上記(1−1)で合成したp−ビニルベンジルフタルイミドの1gをエタノール2.7mLに溶解した。この混合物に窒素気流下で滴下ロートを用いて、0.36gのヒドラジンモノハイドレート(純度80%)を含有するエタノール溶液0.545mLを、約40分間かけて滴下した。滴下終了後、90分間還流し、反応を行った。反応終了後、生成した固体を濾取し、これに1gの水酸化カリウムを含有する水溶液6.5mLを加えて溶解した後、エーテルにて抽出した。エーテル相を2重量%炭酸カリウム水溶液で洗浄し、さらに水で数回洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、エーテルを留去した。残存物を減圧蒸留することにより、p−ビニルベンジルアミン0.45gを得た。
【0025】
(1−3)ラクトースのラクトン化物の合成
4−O−β−D−ガラクトピラノシル−D−グルコピラノース(以下、単に「ラクトース」ともいう。)12gをメタノール300mL中に懸濁し、40℃に加熱した。これに18gのヨウ素を含有するメタノール溶液30mLを滴下し、その後40℃で60分間反応を行った。反応終了後、反応混合物に4規定の水酸化カリウムのメタノール溶液を、ヨウ素の着色がなくなるまで添加した。沈殿を濾取し、冷メタノールで数回洗浄し、さらにエーテルで洗浄した。得られた固体をごく少量の水に溶解し、プロトン型イオン交換樹脂アンバーライト120B(ローム・アンド・ハース社製)にアプライし、酸性分画を単離した。
得られた水溶液150mLにメタノール200mLおよびエタノール300mLを加えてエバポレーションにより溶媒を留去した。完全に乾固した後、再びメタノール150mLおよびエタノール300mLを加えてエバポレーションにより溶媒を留去した。この操作を数回繰り返すことにより、ラクトースのラクトン化物12gを得た。
(1−4)N−p−ビニルベンジル−O−β−D−ガラクトピラノシル−(1−4)−D−グルコアミドの合成
ナスフラスコ中で、上記(1−3)で合成したラクトースのラクトン化物1gを、メタノール5.4mLに70℃にて溶解した後、上記(1−2)で合成したp−ビニルベンジルアミンの0.4gを加え、70℃にて120分反応を行った。反応終了後、21.7mLのアセトンを加えたところ、沈殿物が生じた。これを4℃で2時間静置した後、沈殿物を濾取し、メタノールから再結晶することにより、N−p−ビニルベンジル−O−β−D−ガラクトピラノシル−(1−4)−D−グルコアミド(上記式(I−1)で表される化合物、VLA)1.1gを得た。
(1−5)N−p−ビニルベンジル−O−β−D−ガラクトピラノシル−(1−4)−D−グルコアミドのアセチル化物の合成
上記(1−4)で合成したN−p−ビニルベンジル−O−β−D−ガラクトピラノシル−(1−4)−D−グルコアミドの1gを無水酢酸20mLに溶解し、2時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を冷水10mLに投入し、2時間加水分解した。その後、クロロホルム30mLを加えて抽出し、クロロホルム相を2重量%のクエン酸水溶液、5重量%の炭酸水素ナトリウム水溶液および水の順で順次に洗浄した。最終のクロロホルム相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去して、残存物をエタノールから再結晶することにより、下記式(I−2)
【0026】
【化4】

【0027】
(式(I−2)中、Acはアセチル基である。)
で表される化合物であるN−p−ビニルベンジル−O−β−D−ガラクトピラノシル−(1−4)−D−グルコアミドのアセチル化物(Ac−VLA)0.7gを得た。この生成物の赤外分光分析を行ったところ、1,220cm−1および1,750cm−1に特徴的な吸収が見られた。
なお、必要に応じて上記(1−1)〜(1−5)の操作を上記のスケールで繰り返すことにより、以下の実施例および比較例におけるAc−VLAの必要量を確保した。
【0028】
実施例1
<Ac−VLAがグラフトした1,2−ポリブタジエンの合成>
磁気撹拌子を入れた50mLナスフラスコ中に、上記合成例1で合成したAc−VLA 1g、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.05gおよびジオキサン5mLを仕込み、室温にて撹拌して均一な溶液とした。ここに、RB−820(商品名、1,2−ポリブタジエン、JSR(株)製)のペレットを粉砕して粉体としたもの1gを加え、窒素中にて撹拌下、70℃に昇温し、この温度を2時間維持してグラフト重合を行った。この間、原料のRB−820である不溶物の量は時間とともに減少していき、グラフト重合開始後1時間程度で不溶物は完全に消失した。
次いで得られた反応混合物を、メタノール100mL中に投入し、グラフト重合体を析出物として回収した。ここで、Ac−VLAはメタノールに可溶であるため、未反応のAc−VLAが存在すれば、この段階で除去される。
上記析出物を40℃で20時間真空乾燥することにより、Ac−VLAがグラフトした1,2−ポリブタジエン(Ac−VLA−g−RB(1))1.66gを得た。
<Ac−VLAがグラフトした1,2−ポリブタジエンの加水分解(VLAがグラフトした1,2−ポリブタジエンの合成)>
撹拌機を装着した200mLナスフラスコ中で、上記Ac−VLA−g−RB(1)の全量(1.66g)をジオキサン60mLに溶解し、ナトリウムメトキシド600mgおよびメタノール3mLを加え、撹拌下に40℃にて4時間加水分解反応を行った。次いで、反応混合物をメタノール600mL中に投入し、重合体を析出物として回収した。この析出物を40℃で20時間真空乾燥することにより、VLAがグラフトした1,2−ポリブタジエン(VLA−g−RB(1))1.28gを得た。
上記で使用した原料のRB−820ならびに上記で得たAc−VLA−g−RB(1)およびVLA−g−RB(1)の赤外スペクトルを図1ないし3に、RB−820およびAc−VLA−g−RB(1)のGPCチャートを図4に、それぞれ示した。
【0029】
実施例2〜5
上記実施例1において、Ac−VLA、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルおよびジオキサンの使用量を、それぞれ表1に記載のとおりとしたほかは実施例1と同様に実施して、Ac−VLAがグラフトした1,2−ポリブタジエンAc−VLA−g−RB(2)〜(5)をそれぞれ合成し、これらを加水分解することによりVLAがグラフトした1,2−ポリブタジエンVLA−g−RB(2)〜(5)をそれぞれ得た。
ここで得たAc−VLA−g−RB(2)〜(5)およびVLA−g−RB(2)〜(5)の収量を、表1にあわせて示した。
なお、表1において「AIBN」は、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを示す。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例6
<Ac−VLAがグラフトした1,2−ポリブタジエンの合成>
上記実施例1の<Ac−VLAがグラフトした1,2−ポリブタジエンの合成>において、RB−820ペレットの粉砕物の代わりにRB−820をペレットのまま1g使用したほかは実施例1と同様にして、Ac−VLAがグラフトした1,2−ポリブタジエン(Ac−VLA−g−RB(6))1.12gを得た。
実施例7
<Ac−VLAがグラフトした1,2−ポリブタジエンの合成>
上記実施例1の<Ac−VLAがグラフトした1,2−ポリブタジエンの合成>において、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルの代わりに、25重量%含水のベンゾイルペルオキシド(市販品)をベンゾイルペルオキシドに換算して100mgに相当する量だけ用い,ジオキサンの使用量を15mLとしたほかは実施例1と同様にして、Ac−VLAがグラフトした1,2−ポリブタジエン(Ac−VLA−g−RB(7))1.16gを得た。
ここで得たAc−VLA−g−RB(7)の赤外スペクトルを、図5に示した。
【0032】
比較例1
磁気撹拌子を入れた10mLガラスボトル中に、上記合成例1で合成したAc−VLA 200mg、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル4mgおよびトルエン2mLを仕込み、室温にて撹拌して均一な溶液とした。ここにさらに、RB−820のペレット50mgを粉砕して粉体としたものを加え、室温にて撹拌して均一な溶液とした。その後、系を窒素中にて撹拌下、70℃に昇温してこの温度を2時間維持して反応を行ったところ、析出物が見られ、重合体がゲル化したことが伺われた。
次いで実施例1におけるのと同様にして生成物を単離することにより、ゲル状の生成物54mgを得た。
比較例2
磁気撹拌子を入れた10mLガラスボトル中に、上記合成例1で合成したAc−VLA 0.25g、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.04gおよびジメチルスルホキシド1mLを仕込み、室温にて撹拌して均一な溶液とした。ここに、RB−820(商品名、1,2−ポリブタジエン、JSR(株)製)のペレットを粉砕して粉体としたもの0.25gを加え、窒素中にて撹拌下、70℃に昇温してこの温度を2時間維持した。
次いで実施例1におけるのと同様にして0.26gの生成物を単離回収した。ここで得た生成物の赤外スペクトルを図6に示した。図6の赤外スペクトルは、図1に示したRB820の赤外スペクトルとほぼ同じパターンであり、本比較例の生成物中にAc−VLAがグラフトした1,2−ポリブタジエンがほとんど存在していなかったことが判った。
比較例3
磁気撹拌子を入れた10mLガラスボトル中に、上記合成例1で合成したAc−VLA 100mg、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル20mgおよびベンゼン0.7mLを仕込み、室温にて撹拌して均一な溶液とした。ここにさらにRB−820のペレット100mgを加え、室温にて撹拌して均一な溶液とした。その後、系を窒素中にて撹拌下、70℃に昇温してこの温度を2時間維持して反応を行ったところ、析出物が見られ、重合体がゲル化したことが伺われた。
【0033】
実施例8
<Ac−VLAがグラフトしたシス−1,4−ポリイソプレンの合成>
磁気撹拌子を入れた10mLガラスボトル中に、上記合成例1で合成したAc−VLA 0.1g、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.02gおよび溶媒としてジオキサン0.7mLを仕込み、室温にて撹拌して均一な溶液とした。ここに、IR−2200(商品名、シス−1,4−ポリイソプレン、JSR(株)製)のペレットを粉砕して粉体としたもの0.1gを加え、窒素中にて撹拌下、70℃に昇温し、この温度を2時間維持してグラフト重合を行った。この間、原料のIR−2200である不溶物の量は時間とともに減少していき、グラフト重合開始後1時間程度で不溶物は完全に消失した。
次いで得られた反応混合物を、メタノール100mL中に投入し、グラフト重合体を析出物として回収した。
上記析出物を40℃で20時間真空乾燥することにより、Ac−VLAがグラフトしたシス−1,4−ポリイソプレン(Ac−VLA−g−IR(1))0.111gを得た。
上記で使用した原料のIR−2200ならびに上記で得たAc−VLA−g−IR(1)の赤外スペクトルを図7および8に、それぞれ示した。
実施例9
上記実施例8において、溶媒としてジオキサンの代わりに2−ペンタノン0.7mLを使用したほかは実施例8と同様に実施して、Ac−VLAがグラフトしたシス−1,4−ポリイソプレン(Ac−VLA−g−IR(2))0.116gを得た。
【0034】
実施例10
上記実施例8において、溶媒としてジオキサンの代わりに4−メチル−2−ペンタノン0.7mLを使用したほかは実施例8と同様に実施して、Ac−VLAがグラフトしたシス−1,4−ポリイソプレン(Ac−VLA−g−IR(3))0.118gを得た。
比較例4
上記実施例8において、溶媒としてジオキサンの代わりにN,N−ジメチルホルムアミド0.7mLを使用したほかは実施例8と同様に実施して、反応生成物0.100gを得た。ここで得た反応生成物の赤外スペクトルを測定したところ、原料として使用したIR−2200の赤外スペクトルとほぼ同じパターンを示したことから、シス−1,4−ポリイソプレンへのAc−VLAグラフト重合体を得られなかったことが判った。
【0035】
実施例11
磁気撹拌子を入れた10mLガラスボトル中に、メタクリル酸(東京化成工業(株)製)0.13gおよびジオキサン2mLを仕込み、室温にて撹拌して均一な溶液とした。ここに、RB−820(商品名、1,2−ポリブタジエン、JSR(株)製)のペレットを粉砕して粉体としたもの0.2gを加え、窒素中にて撹拌下、70℃に昇温してこの温度を2時間維持してグラフト重合を行った。
次いで実施例1におけるのと同様にして生成物を単離することにより、メタクリル酸がグラフトした1,2−ポリブタジエン(MAA−g−RB(1))0.25gを得た。ここで得たMAA−g−RB(1)の赤外スペクトルを、図9に示した
【0036】
なお、上記実施例および比較例で使用した各溶媒の各共役ジエン重合体に対する膨潤度は、それぞれ以下の通りである。
ジオキサン
RB820に対して899重量%
IR2000に対して480重量%
トルエン
RB820に対して無限膨潤(溶解する)
ジメチルスルホキシド
RB820に対して3重量%
ベンゼン
RB820に対して無限膨潤(溶解する)
2−ペンタノン
IR2000に対して521重量%
4−メチル−2−ペンタノン
IR2000に対して564重量%
N,N−ジメチルホルムアミド
IR2200に対して32重量%
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1で使用したRB−820の赤外スペクトル。
【図2】実施例1で得たAc−VLA−g−RB(1)の赤外スペクトル。
【図3】実施例1で得たVLA−g−RB(1)の赤外スペクトル。
【図4】実施例1で使用したRB−820および同実施例で得たAc−VLA−g−RB(1)のGPCチャート。
【図5】実施例7で得たAc−VLA−g−RB(7)の赤外スペクトル。
【図6】比較例2で得た生成物の赤外スペクトル。
【図7】実施例8で使用したIR−2200の赤外スペクトル。
【図8】実施例8で得たAc−VLA−g−IR(1)の赤外スペクトル。
【図9】実施例11で得たMAA−g−RB(1)の赤外スペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン(共)重合体に、該共役ジエン(共)重合体に対する膨潤度が100〜1,500重量%である溶媒の存在下で重合性不飽和結合を有する水溶性化合物をグラフト重合することを特徴とする、グラフト重合体の製造方法。
【請求項2】
上記重合性不飽和結合を有する水溶性化合物が、下記式(I)
【化1】

(式(I)中、Xは糖の有する水酸基のうちのひとつから水素原子一個を除いて得られる一価の基であり、Yは単結合または二価の有機基である。)
で表される化合物である、請求項1に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項3】
上記式(I)におけるXが、単糖、オリゴ糖または多糖の有する水酸基のうちのひとつから水素原子一個を除いて得られる一価の基である、請求項1または2に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項4】
上記共役ジエン(共)重合体が1,2−ポリブタジエン、ポリイソプレンまたは1,4−ポリブタジエンであり、上記溶媒がジオキサン、2−ペンタノンまたは4−メチル−2−ペンタノンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法により製造されたことを特徴とする、グラフト重合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−150312(P2010−150312A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327116(P2008−327116)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(503368373)有限会社セラジックス (4)
【Fターム(参考)】