説明

グラフト重合体及びその製造方法

【課題】 セメント用の減水剤として用いることができるグラフト重合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 グラフト重合体は、下記反応式(2)に従って不飽和カルボン酸を重合してポリカルボン酸を製造した後、下記反応式(3)に従って前記ポリカルボン酸及びポリオキシアルキレングリコールをエステル化反応させることにより製造される。
【化1】


【化2】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト重合体及びその製造方法に関し、より詳細には、セメント用の減水剤として用いることができるグラフト重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは結合剤としてのセメント、砂及び砂利を含んでおり、これら成分を円滑に混合するために水が添加されている。調製されたコンクリートは、硬化前に建設現場で打設される。コンクリートは、ケイ酸三カルシウム(Ca3SiO5;略してC3S)及び水の水和反応を介して、セメントクリンカー粒子の活性点で硬化される。
【0003】
未硬化状態のコンクリートに多量の水が添加されると、水及びセメントの水和反応が促進されてコンクリートは建設現場に移動される前に硬化される。このため、作業効率が低下するとともに、コンクリートの耐久性が大幅に低下する。このような現象を防止するために、水の添加量が低減されるとともに減水剤がセメントに添加される。
【0004】
セメント及びコンクリート用の減水剤として、エーテル系グラフト重合体が用いられている。特許文献1〜3には、エーテル系グラフト重合体の中でもセメント及びコンクリート用の減水剤として良好な性能を有する共重合体が開示されている。この共重合体(以下、エステル系グラフト重合体ともいう。)は、アリルアルコール、メタリルアルコール、1,1−ジメチル−2−プロペニルアルコール、3−メチル−3−ブテニルアルコールなどの不飽和アルコールのアルキレンオキシド付加物と、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸とから得られる。
【0005】
しかし、エーテル系グラフト重合体は、単量体の重合度が比較的低いことから、水/セメント比が低い高減水性作業に適用するには限界がある。特に、エーテル系グラフト重合体には、その使用量に比例してコンクリートの過度な凝結遅延が発生するなどの短所がある。
【0006】
特許文献4〜7には、水/セメント比が低い高減水性作業に適用可能な減水剤として、アクリル酸又はメタクリル酸の単量体のアルキレンオキシド付加物と、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸との共重合体が開示されている。しかし、このエステル系グラフト重合体には、単量体がほぼ100%重合されることから、単量体の品質の小さい変動によって重合体の性能が大きく影響を受けるという問題点がある。
【0007】
エステル系グラフト重合体においては、アクリル酸、又はメタクリル酸にアルキレンオキシドが付加して得られる単量体の品質が、合成されるエステル系グラフト重合体の品質を左右する。従って、前述した単量体の原料であるアルキレンオキシド付加物の品質も高いことが求められる。この場合、アルキレンオキシドの付加前の残留水分は、製造される単量体の品質を大きく低下させる。
【0008】
即ち、エステル系グラフト重合体の場合、単量体の製造条件及びその単量体の原料の製造条件を厳しく管理しなければならない。しかし、エステル系グラフト重合体の重合前における一般的な物性規格に基づく単量体及びその原料の品質の確認は不可能である。従って、品質が低いエステル系グラフト重合体の製造を防止するために、エステル系グラフト重合体の量産前に、ロット毎に実験室次元の重合によって原料の品質を確認しなければならないという短所がある。
【特許文献1】大韓民国公開特許第1993−17839号明細書
【特許文献2】大韓民国公開特許第1997−65574号明細書
【特許文献3】大韓民国公開特許第2000−6263号明細書
【特許文献4】大韓民国公開特許第1998−1547号明細書
【特許文献5】大韓民国公開特許第1994−6960号明細書
【特許文献6】大韓民国公開特許第1999−68043号明細書
【特許文献7】大韓民国公開特許第2001−50216号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、良好な分散性能を有するグラフト重合体を提供することにある。
本発明の他の目的は、原料の品質による影響を最小限に抑えて良好な分散性能を有するグラフト重合体を製造することができるグラフト重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るグラフト重合体は、下記一般式(1)に示す構造を有する。
【化1】

前記一般式(1)において、R1及びR3は水素原子又はメチル基を示し、R2及びR4は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示し、R2及びR4の少なくとも一方は水素原子を示す。−A1O−は炭素数が2〜4であるオキシアルキレン単位を示し、1種のオキシアルキレン単位、又は2種以上のオキシアルキレン単位の組み合わせを示す。nはオキシアルキレン単位の平均付加モル数として1〜100の整数を示し、R5は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示し、c、d、e及びfは重合体を構成する繰り返し単位のモル比を示す。c+d+e+fの値は0より大きく、d+fの値は0〜0.5である。前記グラフト重合体の融解粘度は、好ましくは80℃において0.1〜50Pa・s(100〜50000cps)である。
【0011】
本発明に係るグラフト重合体の製造方法は、不飽和カルボン酸を重合してポリカルボン酸を製造した後、該ポリカルボン酸及びポリオキシアルキレングリコールをエステル化反応させることで、融解粘度が80℃において0.1〜50Pa・sであるグラフト重合体を製造する。
【0012】
本発明の一実施形態では、下記反応式(2)に従い不飽和カルボン酸を重合してポリカルボン酸を製造した後、下記反応式(3)に従いポリカルボン酸及びポリオキシアルキレングリコールをエステル化反応させることで、融解粘度が80℃において0.1〜50Pa・sであるグラフト重合体を製造する。
【化2】

【化3】

前記反応式(2)及び反応式(3)において、R1及びR3は水素原子又はメチル基を示し、R2及びR4は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示し、R2及びR4の少なくとも一方は水素原子を示す。−A1O−は炭素数が2〜4であるオキシアルキレン単位を示し、1種のオキシアルキレン単位、又は2種以上のオキシアルキレン単位の組み合わせを示す。nはオキシアルキレン単位の平均付加モル数として1〜100の整数を示し、R5は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示し、a、b、c、d、e及びfは重合体を構成する繰り返し単位のモル比を示す。a+bの値は0より大きく、c+e=aであり、d+f=bであり、bは0〜0.5である。
【0013】
前記ポリカルボン酸を製造する工程は80〜170℃の温度雰囲気下及び0.5MPa(5atm)以下の圧力雰囲気下で行われ、重合触媒としてアゾ系触媒を用いることができる。前記減水剤を製造する工程は80〜150℃の温度雰囲気下で行われ、エステル化触媒としてp−トルエンスルホン酸などの酸触媒を用いることができる。前記エステル化反応は、グラフト重合体の融解粘度が80℃において0.1〜50Pa・sとなるまで行われる。この場合、前記エステル化反応と同時に真空脱水反応を行うこともできる。
【0014】
本発明の他の実施形態において、前記ポリカルボン酸は酸触媒の存在下で合成される。従って、前記ポリカルボン酸の製造と、該ポリカルボン酸及び前記ポリオキシアルキレングリコールのエステル化反応とが同時に行われる。
【0015】
本発明によると、グラフト重合体は、不飽和カルボン酸から得られるポリカルボン酸と、ポリオキシアルキレングリコールとのエステル化反応により製造される。この場合、エステル化反応は、反応時間に対応するエステル化反応率を調節することで、エステル系グラフト重合体の融解粘度が過度に増加する前に停止される。従って、エステル系グラフト単量体と不飽和カルボン酸との重合から減水剤を製造する従来に比べて使用原料の品質変動によるグラフト重合体の品質変動を最小限に抑えることができ、従来の減水剤と同程度の分散性能を有するグラフト重合体を製造することができる。また、エステル化反応の際に真空脱水反応を同時に行うことによって過度な溶媒還流による製造コストの増加を抑えることができ、良好な分散性能を有するグラフト重合体をより経済的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。
<グラフト重合体>
本実施形態に係るグラフト重合体は、下記一般式(1)に示す構造を有する。
【化4】

前記一般式(1)において、R1及びR3は水素原子又はメチル基を示す。R2及びR4は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示し、好ましくは水素原子又は炭素数が1〜6である炭化水素基を示し、より好ましくはメチル基、エチル基、又はブチル基を示す。−A1O−は炭素数が2〜4であるオキシアルキレン単位を示し、1種のオキシアルキレン単位、又は2種以上のオキシアルキレン単位の組み合わせを示す。nはオキシアルキレン単位の平均付加モル数として1〜100の整数を示し、R5は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示す。c、d、e及びfは重合体を構成する繰り返し単位のモル比を示す。c+d+e+fの値は0より大きい。d+fの値は0〜0.5であり、好ましくは0.05〜0.3である。
【0017】
前記グラフト重合体の融解粘度は、該グラフト重合体が良好な分散性能を示すことから、好ましくは80℃において0.1〜50Pa・sである。
本実施形態に係るクラフト重合体を用いて製造されたセメントスラリーは、原料単量体の品質の影響をほとんど受けず、従来のセメントスラリーと同程度の分散性能を有する。
【0018】
<グラフト重合体の製造方法>
本実施形態に係るグラフト重合体の製造方法において、ポリカルボン酸は、下記反応式(2)に従う不飽和カルボン酸の重合により製造される。
【化5】

前記反応式(2)において、R1及びR3は水素原子又はメチル基を示す。R2及びR4は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示し、好ましくは水素原子又は炭素数が1〜6である炭化水素基を示し、より好ましくはメチル基、エチル基、又はブチル基を示す。R2及びR4の少なくとも一方は水素原子を示す。a及びbは重合体を構成する繰り返し単位のモル比を示す。a+bの値は0より大きい。bは0〜0.5であり、好ましくは0.05〜0.3である。
【0019】
本実施形態に係るグラフト重合体の製造方法では、重合触媒としてアゾ系触媒を用いることが好ましい。エステル系グラフト重合体を構成するポリカルボン酸は、ポリメタクリル酸ホモポリマー、ポリアクリル酸ホモポリマー、又はメタクリル酸とアクリル酸とのコポリマーを含む。このポリカルボン酸は、水、イソプロピルアルコールなどの低沸点溶媒を用いて容易に重合される。しかし、ポリカルボン酸とポリオキシアルキレングリコールとのエステル反応を行うための脱水又は脱溶媒の際、ポリカルボン酸が沈殿して炭酸化されることから、エステル化反応の進行は実質的に不可能になる。また、エステル化反応が継続的に進行すると、水に不溶なゲルが生成される。この現象は、重合触媒として過硫酸ナトリウムなどの無機系触媒を用いる場合に顕著に発生する。
【0020】
また、有機過酸化物触媒を用いる場合、ポリカルボン酸とポリオキシアルキレングリコールとの相溶性は若干改善されるが、ポリオキシアルキレングリコールの一部が酸化分解されてエステル系グラフト重合体の品質が低下する。従って、ポリカルボン酸の製造時には、分解時に窒素ガスを発生するアゾ系触媒を重合触媒として用いることにより、自己重合溶媒又は希釈剤として作用するポリオキシエチレングリコールの酸化分解を最小限に抑えるとともに、ポリカルボン酸とポリオキシアルキレングリコールとの相溶性を確保することができる。
【0021】
本実施形態に係るグラフト重合体の製造において、ポリカルボン酸の重合温度が170℃を超えると、アゾ系触媒が急激に分解されて極小的な爆発が生じ、その結果、反応槽が不安定になる虞がある。また、溶媒と共沸する単量体成分が液化し、反応槽の表面を流れ落ちながら熱重合して反応槽の表面に付着することから、反応槽の洗浄が困難になる虞がある。更に、設計されたポリカルボン酸の組成が変わる虞がある。
【0022】
一方、本実施形態に係るグラフト重合体の製造において、ポリカルボン酸の重合温度が80℃未満である場合、ポリカルボン酸の分子量が大きくなり、その結果、ポリカルボン酸はポリオキシアルキレングリコールとの相溶性が急激に低下して凝集物として沈殿する虞がある。また、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコールなどの添加溶媒が蒸発しにくくなることから、重合と同時に進行可能なエステル化反応が遅延する虞がある。更に、反応槽内の水の除去が困難となることから、反応槽の腐食が促進されて重合体の色が非常に不良となる虞がある。従って、前記ポリカルボン酸の重合温度は、好ましくは80〜170℃であり、より好ましくは110〜160℃である。
【0023】
本実施形態に係るグラフト重合体の製造方法において、ポリカルボン酸の重合温度は、第一にポリカルボン酸のガラス転移温度(Tg)によって決定される。即ち、重合反応は、好ましくはポリカルボン酸のガラス転移温度(Tg)以上の温度で行われ、より好ましくはポリカルボン酸のガラス転移温度より10℃〜50℃高い温度で行われる。
【0024】
具体的に、ポリメタクリル酸ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は228℃であり、ポリアクリル酸ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は106℃である。メタクリル酸とアクリル酸とのコポリマーのガラス転移温度(Tg)は、メタクリル酸とアクリル酸との組成比によって106〜228℃である。この場合、ポリメタクリル酸のガラス転移温度(Tg)は特に高いことから、ポリカルボン酸のガラス転移温度(Tg)を低下させるために、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルなどを、メタクリル酸の重量を基準として0〜50モル%共重合させる。アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチルなどがメタクリル酸の重量を基準として50モル%を超えて共重合されると、グラフト重合体の分散性能が相対的に低下する。従って、前記反応式(2)において、bは0〜0.5であり、好ましくは0.05〜0.3である。
【0025】
また、ポリメタクリル酸の量が多くなるほどポリカルボン酸のガラス転移温度(Tg)が高くなる。従って、重合温度を低下させるために、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコールなどのポリカルボン酸とポリオキシアルキレングリコールとの相溶性が高い溶媒を、ポリオキシアルキレングリコールの重量を基準として0〜20重量%用い、これと同時に全還流又は部分還流を行うことにより、ポリカルボン酸のガラス転移温度(Tg)以下、即ち170℃以下においてもポリカルボン酸を重合することができる。イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコールなどの溶媒の量がポリオキシルアルキレングリコールの重量の20重量%を超えると、tert−ブチルアルコールの場合には溶媒の副反応が多く発生する。また、高い重合温度を維持するために、好ましくない過度な加圧状態を維持する必要がある。
【0026】
本実施形態に係るグラフト重合体の製造方法において、ポリカルボン酸の重合圧力は、好ましくは0.5MPa以下であり、より好ましくは0.3MPa(3atm)以下である。重合圧力が0.5MPaを超えるとポリカルボン酸の重合反応が円滑に行われなくなる。更に、過剰な圧力は経済的に不必要である。
【0027】
グラフト重合体は、下記反応式(3)に従う前記ポリカルボン酸及びポリオキシアルキレングリコールのエステル化反応により製造される。
【化6】

前記反応式(3)において、R1及びR3は水素原子又はメチル基を示す。R2及びR4は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示し、好ましくは炭素数が1〜6である炭化水素基を示し、より好ましくはメチル基、エチル基、又はブチル基を示す。R2及びR4の少なくとも一方は水素原子を示す。−A1O−は炭素数が2〜4であるオキシアルキレン単位を示し、1種のオキシアルキレン単位、又は2種以上のオキシアルキレン単位の組み合わせを示す。nはオキシアルキレン単位の平均付加モル数として1〜100の整数を示し、R5は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示す。a、b、c、d、e及びfは重合体を構成する繰り返し単位のモル比を示す。a+bの値は0より大きく、c+e=aであり、d+f=bである。bは0〜0.5であり、好ましくは0.05〜0.3である。
【0028】
前記重合反応において、p−トルエンスルホン酸などのエステル反応の酸触媒を用いることにより、ポリカルボン酸及びポリオキシアルキレングリコールのエステル化反応をより容易に行うことができる。
【0029】
本実施形態に係るグラフト重合体の製造において、前記エステル化反応の温度が80℃未満である場合、エステル化反応が過度に遅延する虞がある。一方、前記エステル化反応の温度が150℃を超えると、ポリオキシエチレングリコールの分解が促進される虞がある。従って、前記エステル化反応の温度は、好ましくは80〜150℃であり、より好ましくは120〜150℃である。
【0030】
本実施形態に係るグラフト重合体の製造においては、前記エステル化反応と同時に真空脱水反応を行うことにより、エステル反応又はエステル交換反応時に加えられる溶媒、及び反応促進のための溶媒の過度な還流による製造コストの増加を抑えることができる。
【0031】
本実施形態に係るグラフト重合体の製造において、前記エステル化反応は、グラフト重合体の融解粘度が80℃において0.1〜50Pa・sに到達したときに終了することが好ましく、融解粘度が80℃において0.11〜15Pa・s(110〜15000cps)に到達したときに終了することがより好ましい。前記グラフト重合体の融解粘度を調節する方法としては、インラインビスコメーター(In−Line Viscometer)を用いる方法、トルクメーターを用いる方法、撹拌機の電流又は電圧の変量をモニタリングする方法などが挙げられる。グラフト重合体は、その融解粘度を前記範囲に設定することにより、従来の方法により得られる減水剤と同程度の分散性能を有することができる。
【0032】
本発明の他の実施形態に係るグラフト重合体の製造方法は、下記反応式(2)に従い不飽和カルボン酸を重合してポリカルボン酸を製造すると同時に、ポリカルボン酸とポリオキシアルキレングリコールとのエステル化反応の一部を行う。
【化7】

前記反応式(2)において、R1及びR3は水素原子又はメチル基を示す。R2及びR4は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示し、好ましくは炭素数が1〜6である炭化水素基を示し、より好ましくはメチル基、エチル基、又はブチル基を示す。R2及びR4の少なくとも一方は水素原子を示す。a及びbは重合体を構成する繰り返し単位のモル比を示す。a+bの値は0より大きい。bは0〜0.5であり、好ましくは0.05〜0.3である。
【0033】
他の実施形態に係るグラフト重合体の製造方法では、重合触媒としてアゾ系触媒及びp−トルエンスルホン酸などの酸触媒を用いることが好ましい。この場合、アゾ系触媒は重合に用いられ、酸触媒はエステル化に用いられる。ポリカルボン酸の重合時にアゾ系触媒と共にp−トルエンスルホン酸などの酸触媒を前もって添加することにより、ポリカルボン酸の重合反応と同時にポリカルボン酸とポリオキシアルキレングリコールとのエステル反応の一部を進行させることができ、その結果、ポリカルボン酸とポリオキシアルキレングリコールとの相溶性を更に高めることができる。
【0034】
従って、ポリカルボン酸の製造時には、p−トルエンスルホン酸などの酸触媒とともに分解時に窒素ガスを発生するアゾ系触媒を重合触媒として用いることにより、自己重合溶媒又は希釈剤として作用するポリオキシエチレングリコールの酸化分解を最小限に抑え、これと同時にポリカルボン酸とポリオキシアルキレングリコールとの高い相溶性を確保することができる。尚、ポリカルボン酸の具体的な重合条件等は前記と同じであるのことから、具体的な説明は省略する。
【0035】
グラフト重合体は、下記反応式(3)に応う前記ポリカルボン酸及びポリオキシアルキレングリコールのエステル化反応により製造される。
【化8】

前記反応式(3)において、R1及びR3は水素原子又はメチル基を示す。R2及びR4は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示し、好ましくは炭素数が1〜6である炭化水素基を示し、より好ましくはメチル基、エチル基、又はブチル基を示す。R2及びR4の少なくとも一方は水素原子を示す。−A1O−は炭素数が2〜4であるオキシアルキレン単位を示し、1種のオキシアルキレン単位、又は2種以上のオキシアルキレン単位の組み合わせを示す。nはオキシアルキレン単位の平均付加モル数として1〜100の整数を示し、R5は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示す。a、b、c、d、e及びfは重合体を構成する繰り返し単位のモル比を示す。a+bの値は0より大きく、c+e=aであり、d+f=bである。bは0〜0.5であり、好ましくは0.05〜0.3である。
【0036】
前記エステル化反応の具体的な条件は前記と同じであることから、具体的な説明は省略する。前述したように、本発明の他の実施形態に係るグラフト重合体の製造方法によっても、従来の方法によって製造された減水剤と同程度の分散性能を有するグラフト重合体を得ることができる。
【0037】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記各実施形態をより詳細に説明する。
<エステル系グラフト重合体の製造>
(実施例1)
まず、ポリカルボン酸を重合した。即ち、温度計、攪拌機、滴下漏斗、及び還流冷却装置を備えるガラス製2リットル反応槽に、メトキシポリオキシエチレングリコール(オキシエチレン単位の平均付加モル数23モル)1405重量部、イソプロピルアルコール92重量部、フェノチアジン1重量部、p−トルエンスルホン酸9重量部、及びアゾビスイソブチロニトリル1重量部を加え、それらを攪拌しながら120℃まで加熱した。次いで、アゾビスイソブチロニトリル6重量部をアクリル酸202重量部に溶解させた後、2時間かけて反応槽内に滴下した。滴下終了後、アゾビスイソブチロニトリル0.5重量部をイソプロピルアルコール5重量部に分散した混合物を反応槽内に加え、30分間放置してポリカルボン酸を得た。
【0038】
次に、エステル化反応を行ってエステル系グラフト重合体を得た。即ち、アスピレーター真空装置を用い、反応温度を130℃に維持しながらエステル化反応を16時間行い、融解粘度が80℃で0.12Pa・s(120cps)であるエステル系グラフト重合体を得た。融解粘度の測定は、ブルックフィールド(Brookfield)粘度計を用いて行った。
【0039】
(実施例2〜4及び実施例7〜10)
実施例2〜4及び実施例7〜10においては、重合触媒としてアゾビスイソブチロニトリルを、ポリカルボン酸を重合するためのモノマー対比で1.5重量部、p−トルエンスルホン酸をポリオキシエチレングリコール対比で1重量部、酸化防止剤としてフェノチアジンをポリオキシエチレングリコール対比で0.05重量部加えるとともに、エステル反応を130℃で20時間行う以外は、実施例1と同様にしてエステル系グラフト重合体を得た。実施例2〜4及び実施例7〜10の具体的な重合条件を表1に示す。
【0040】
(実施例5及び実施例6)
実施例5及び実施例6においては、0.5MPaまで加圧が可能な200リットルパイロット反応槽を用い、重合圧力を0.25MPa(2.5atm)に変更した以外は実施例1と同様にしてエステル系グラフト重合体を得た。実施例5及び実施例6の具体的な重合条件を表1に示す。
【表1】

前記表1において、Aはアクリル酸を示し、MAはメタクリル酸を示し、AMはアクリル酸メチルを示し、AEはアクリル酸エチルを示し、ABはアクリル酸ブチルを示し、MAMはメタクリル酸メチルを示す。MPE23はメトキシポリオキシエチレングリコール(オキシエチレン単位の平均付加モル数23モル)を示し、MPE15はメトキシポリオキシエチレングリコール(オキシエチレン単位の平均付加モル数15モル)を示し、PEG45はポリオキシエチレングリコール(オキシエチレン単位の平均付加モル数45モル)を示す。IPAはイソプロピルアルコールを示し、TBAはtert−ブチルアルコールを示す。
【0041】
(比較例1)
従来の方法によってポリオキシエチレングリコールエステル単量体を合成した。即ち、温度計、攪拌機、ディーンスタークトラップ、及び還流冷却装置を備えるガラス製2リットル反応槽に、メトキシポリオキシエチレングリコール(オキシエチレン単位の平均付加モル数23モル)1000重量部、ポリオキシエチレングリコール(オキシエチレン単位の平均付加モル数45モル)25重量部、メチルメタクリル酸215重量部、トルエン350重量部、フェノチアジン1重量部、及びp−トルエンスルホン酸9重量部を加え、それらを攪拌しながらトルエンの還流温度にまで加熱してエステル化反応を20時間行った。トルエンの還流温度は124〜134℃であった。次いで、真空蒸発により反応槽内からトルエンを回収した後、反応槽内の混合物を80℃以下に冷却した。続いて、更に1重量%苛性ソーダ液300重量部を反応槽内に加えた後に再び真空蒸発によってトルエンを回収して反応槽内の混合物中のトルエンの含有量を100ppm以下にし、固形分が70重量%であり酸価が34であるメタクリル酸ポリオキシエチレングリコールエステル単量体を約1400重量部得た。
【0042】
次いで、2リットルのガラス製四ツ口フラスコに蒸留水400重量部を加えた後、75℃まで加熱した。一方、2リットルビーカーに、蒸留水100重量部、前記70%メタクリル酸ポリオキシエチレングリコールエステル単量体1000重量部、メタクリル酸160重量部、及び3−メルカプトプロピオン酸12重量部を加え、均一に混合溶解させた。続いて、重合触媒として10重量%過硫酸アンモニウム水溶液120重量部を用いて、4時間かけて滴下重合反応を行った。しかし、滴下重合反応開始から2時間後に水に不溶なゲルが形成され始め、エステル系グラフト重合体を得ることができなかった。
【0043】
<セメントスラリーの分散性能平価実験>
<分散剤水溶液サンプルの製造>
(水溶液サンプル1)
前記実施例1で製造されたエステル系グラフト重合体200重量部を、アルカリ性のジエタノールアミン溶液20重量部及び蒸留水280重量部の混合溶液に連続的に加えた。エステル系グラフト重合体を加えている間、混合溶液を攪拌し続けた。その後、混合溶液の温度を50℃以下まで冷却しながら前記エステル系グラフト重合体を均一に溶解させ、分散剤水溶液のサンプル1を製造した。
【0044】
(水溶液サンプル2〜10)
水溶液サンプル2から水溶液サンプル10においては、使用された蒸留水の量と用いられたアルカリ中和成分の種類及び量を変更した以外は、水溶液サンプル1と同様にして分散剤水溶液のサンプルを製造した。水溶液サンプル2〜10の具体的な水溶液の製造条件及び物性を表2に示す。
【表2】

【0045】
(比較水溶液サンプル1)
一般に利用可能な分散剤を用いた。即ち、LG化学社(LG Chemical Co.,Ltd.;大韓民国)製のPC系減水剤であるCP−WR(商品名)を用いた。
(比較水溶液サンプル2)
一般に利用可能な分散剤を用いた。即ち、LG化学社(LG Chemical Co.,Ltd.;大韓民国)製のPC系減水剤であるCP−WB(商品名)を用いた。
【0046】
水溶液サンプル1から水溶液サンプル10、並びに比較水溶液サンプル1及び比較水溶液サンプル2を、200ミリリットルのガラス製サンプル瓶に、有効成分1.5重量%を基準として83重量部ずつ加えた。次いで、韓一セメント社(Hanil Cement Co.,Ltd.;大韓民国)製の一般ポルトランドセメント250重量部を加え、手で予備混合した。続いて、実験室高速攪拌機を用いて3000回毎分の速度で均一に3分間攪拌した後、ブルックフィールド粘度計で粘度を測定した。ここで、粘度の測定は、ブルックフィールド粘度計が可動してから30秒後に行った。また、前記セメントスラリーを、室温又は10℃に調整されたインキュベータ内で60分間放置した後、実験室高速攪拌機を用いて3000回毎分の速度で1分間攪拌し、ブルックフィールド粘度計で粘度を測定した。これらの結果を表3に示す。
【表3】

【0047】
表3を参照すると、比較水溶液サンプル1及び比較水溶液サンプル2のセメントスラリーは、本発明に係る水溶液サンプル1〜10とほぼ同程度の分散性能を示していることが分かる。即ち、比較水溶液サンプル1のセメントスラリーは水溶液サンプル3のセメントスラリーとほぼ同程度の分散性能を示し、比較水溶液サンプル2のセメントスラリーは水溶液サンプル8のセメントスラリーとほぼ同程度の分散性能を示す。
【0048】
従って、本発明に係るグラフト重量体の製造方法によって製造されたグラフト重合体を用いて製造されたセメントスラリーは、従来の減水剤に比べて原料単量体の品質による影響を最小限に抑えながら従来のセメントスラリーと同程度の分散性能を維持することができることが分かる。
【0049】
前述した本発明によると、ポリカルボン酸を製造し、続けてポリカルボン酸及びポリオキシアルキレングリコールをエステル化反応させることにより、グラフト重合体が製造される。これによって、エステル系グラフト単量体と不飽和カルボン酸との重合から減水剤を製造する従来の方法に比べて、使用原料の品質変動によるグラフト重合体の品質変動を最小限に抑えるとともに、従来の減水剤と同程度のセメント分散性能を有するグラフト重合体を製造することができる。その上、良好な分散性能を有するグラフト重合体をより経済的に製造することができる。
【0050】
以上、本発明を実施形態によって詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明が属する技術分野において通常の知識を有するものであれば本発明の思想と精神を離脱することなく、本発明を修正または変更できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に示す構造を有するグラフト重合体。
【化1】

(前記一般式(1)中、R1及びR3は水素原子又はメチル基を示し、R2及びR4は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示し、R2及びR4の少なくとも一方は水素原子を示す。−A1O−は炭素数が2〜4であるオキシアルキレン単位を示し、1種のオキシアルキレン単位、又は2種以上のオキシアルキレン単位の組み合わせを示す。nはオキシアルキレン単位の平均付加モル数として1〜100の整数を示し、R5は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示す。c、d、e及びfはグラフト重合体を構成する繰り返し単位のモル比を示す。c+d+e+fの値は0より大きく、d+fの値は0〜0.5である。)
【請求項2】
融解粘度が80℃において0.1〜50Pa・sであることを特徴とする請求項1に記載のグラフト重合体。
【請求項3】
前記一般式(1)において、d+fの値が0.05〜0.3であることを特徴とする請求項1に記載のグラフト重合体。
【請求項4】
前記R2及びR4は、メチル基、エチル基、又はブチル基を示すことを特徴とする請求項1に記載のグラフト重合体。
【請求項5】
ポリカルボン酸及びポリオキシアルキレングリコールをエステル化反応させる工程を経てグラフト重合体を製造することを特徴とするグラフト重合体の製造方法。
【請求項6】
前記ポリカルボン酸は、不飽和カルボン酸を重合させる工程を経て製造されることを特徴とする請求項5に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項7】
前記ポリカルボン酸の製造が下記反応式(2)に従って行われることを特徴とする請求項6に記載のグラフト重合体の製造方法。
【化2】

(前記反応式(2)中、R1及びR3は水素原子又はメチル基を示し、R2及びR4は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示し、R2及びR4の少なくとも一方は水素原子を示す。a及びbは重合体を構成する繰り返し単位のモル比を示し、a+bの値は0より大きく、bは0〜0.5である。)
【請求項8】
前記R2及びR4は、メチル基、エチル基、又はブチル基を示すことを特徴とする請求項7に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項9】
前記ポリカルボン酸を製造する工程は、80〜170℃の温度雰囲気下で行われることを特徴とする請求項6に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項10】
前記ポリカルボン酸を製造する工程は、0.5MPa以下の圧力雰囲気下で行われることを特徴とする請求項6に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項11】
前記ポリカルボン酸を製造する工程はエステル化酸触媒の存在下で行われ、ポリカルボン酸の製造と、該ポリカルボン酸及び前記ポリオキシアルキレングリコールのエステル化反応とが同時に行われることを特徴とする請求項6に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項12】
前記ポリカルボン酸を製造する工程において、重合溶媒としてイソプロピルアルコール又はtert−ブチルアルコールを、前記ポリオキシアルキレングリコールの重量を基準として0〜20重量%用いることを特徴とする請求項6に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項13】
前記ポリカルボン酸を製造する工程は、アゾ系触媒の存在下で行われることを特徴とする請求項6に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項14】
前記グラフト重合体の製造が下記反応式(3)に従って行われることを特徴とする請求項5に記載のグラフト重合体の製造方法。
【化3】

(前記反応式(3)中、R1及びR3は水素原子又はメチル基を示し、R2及びR4は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示し、R2及びR4の少なくとも一方は水素原子を示す。−A1O−は炭素数が2〜4であるオキシアルキレン単位を示し、1種のオキシアルキレン単位、又は2種以上のオキシアルキレン単位の組み合わせを示す。nはオキシアルキレン単位の平均付加モル数として1〜100の整数を示し、R5は水素原子又は炭素数が1〜30である炭化水素基を示す。a、b、c、d、e及びfは重合体を構成する繰り返し単位のモル比を示す。a+bの値は0より大きく、c+e=aであり、d+f=bであり、bは0〜0.5である。)
【請求項15】
前記グラフト重合体を製造する工程は、80〜150℃の温度雰囲気下で行われることを特徴とする請求項5に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項16】
前記グラフト重合体を製造する工程は、エステル酸触媒の存在下で行われることを特徴とする請求項5に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項17】
前記エステル酸触媒はp−トルエンスルホン酸であることを特徴とする請求項16に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項18】
前記エステル化反応は、前記グラフト重合体の融解粘度が80℃において0.1〜50Pa・sとなるまで行われることを特徴とする請求項5に記載のグラフト重合体の製造方法。
【請求項19】
前記エステル化反応と同時に真空脱水反応を行う工程を更に備えることを特徴とする請求項5に記載のグラフト重合体の製造方法。

【公開番号】特開2006−63303(P2006−63303A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9520(P2005−9520)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(505020260)韓国サン ノプコ 株式会社 (1)
【Fターム(参考)】