説明

グリコサミノグリカン誘導体の製造法

【課題】グリコサミノグリカンとアミノ基を有する脂質からなるグリコサミノグリカン誘導体を、グリコサミノグリカン・有機アンモニウム塩を介さずに、一段階で製造する方法を提供する。
【解決手段】グリコサミノグリカンのカルボキシル基100当量に対し、アミノ基を有するリン脂質5〜100当量とを、水と環状エーテルとからなり水が20〜70容量%である混合溶媒に溶解し、触媒下反応させることを特徴とするグリコサミノグリカン誘導体の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコサミノグリカンとアミノ基を有する脂質からなるグリコサミノグリカン誘導体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコサミノグリカンは、その優れた保水能力や粘弾性及び高い生体親和性を示すため、バイオマテリアルとして広く利用されている。例えば、膝関節機能改善剤、角膜保護剤、癒着防止材などがその例である。しかし、その用途によってはグリコサミノグリカンの消失が速いため、効果を持続させるために数回投与する必要があり、患者への負担を増大させる場合がある。そこで、この問題を解決するために架橋グリコサミノグリカンの検討がなされている。グリコサミノグリカンとアミノ基を有する脂質からなる化合物もその1つの例である(特許文献1,2,3)。
【0003】
その製造方法としては、1)グリコサミノグリカン・有機アンモニウム塩をイオン交換クロマトグラフィーにより調整し、2)1)で調整されたグリコサミノグリカン・有機アンモニウム塩とアミノ基を有する脂質を有機溶媒中、触媒下で反応させ、3)その後再度イオン交換を行いグリコサミノグリカン誘導体を得る。このように、グリコサミノグリカンの反応は、グリコサミノグリカンが有機溶媒に溶解しないため、1度アンモニウム塩にイオン交換してから反応させる方法が用いられており、これまでグリコサミノグリカン・有機アンモニウム塩を介さずに、一段階でグリコサミノグリカン誘導体を製造する方法は知られていない。
【0004】
【特許文献1】特許第3032824号公報
【特許文献2】特許第2997018号公報
【特許文献3】特開2003−335801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グリコサミノグリカンとアミノ基を有するリン脂質からなるグリコサミノグリカン誘導体を、グリコサミノグリカン・有機アンモニウム塩を介さずに、一段階で製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者は、グリコサミノグリカンとアミノ基を有するリン脂質とを、水と環状エーテルとからなり水が20〜70容量%である混合溶媒に溶解し、触媒下反応させることで、グリコサミノグリカン誘導体を一段階で製造できることを見出し本発明に到達した。
【0007】
本発明は以下の通りである。
1.グリコサミノグリカンのカルボキシル基100当量に対し、アミノ基を有するリン脂質5〜100当量を、水と環状エーテルとからなり水が20〜70容量%である混合溶媒に溶解し、触媒下反応させることを特徴とするグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
2.該グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、およびヘパラン硫酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする1に記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
3.該グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸であることを特徴とする2に記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
4.該アミノ基を有するリン脂質が、グリセロリン脂質であることを特徴とする1〜3のいずれかに記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
5.該グリセロリン脂質が、ホスファチジルエタノールアミンであることを特徴とする4に記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
6.ホスファチジルエタノールアミンが下記式(1)
【化1】

(Rは炭素数10〜28のアルケニル基)
であることを特徴とする5に記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
7.該ホスファチジルエタノールアミンが、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンであることを特徴とする6に記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
8.該環状エーテルが、テトラヒドロフラン、ジオキサン、またはジオキソランであることを特徴とする1〜7のいずれかに記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、グリコサミノグリカンとアミノ基を有する脂質からなるグリコサミノグリカン誘導体の製造法に関する。本発明によりグリコサミノグリカン誘導体を、グリコサミノグリカン・有機アンモニウム塩を介さずに、一段階で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。なお、これらの実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0010】
本発明で使用されているグリコサミノグリカンは、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、およびヘパラン硫酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。なかでも該グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸であることが好ましい。またグリコサミノグリカンの分子量は、約1×105〜1×107のものが好ましい。なお本発明でいうグリコサミノグリカンは、そのアルカリ金属塩、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムの塩をも包含する。
【0011】
本発明で使用されているアミノ基を有するリン脂質は、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質であることが好ましい。その中でも、グリセロリン脂質が好ましい。
グリセロリン脂質としては、ホスファチジルエタノールアミン、N−メチルホスファチジルエタノールアミン、N,N−ジメチルホスファチジルエタノールアミン、N−アシルホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、CDP−ジグリセリド、エタノールアミンプラスマノーゲン、セリンプラスマノーゲン、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルセリン、プラスマニルエタノールアミン、3−sn−ホスファチジルエチルアミン及びその誘導体が挙げられる。これらは動物組織から抽出したものまたは合成して製造したものどちらでも使用できる。その中でも、溶解性及び反応性の面からホスファチジルエタノールアミンが好ましい。
【0012】
ホスファチジルエタノールアミン及びその誘導体として以下のものが挙げられる。ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジアラキドイルホスファチジルエタノールアミン、ジベヘノイルホスファチジルエタノールアミン、ジリグノセロイルホスファチジルエタノールアミン、ジセロチオイルホスファチジルエタノールアミン、ジモンタノイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジネルボノイルホスファチジルエタノールアミン、ジキメノイルホスファチジルエタノールアミン、ジリノレノイルホスファチジルエタノールアミン、ジヒラゴノイルホスファチジルエタノールアミン、ジアラキドノイルホスファチジルエタノールアミン、ジドコサヘキサエノイルホスファチジルエタノールアミンが好ましい。
【0013】
なかでもホスファチジルエタノールアミンが下記式(1)
【化2】

(Rは炭素数10〜28のアルケニル基)
であることが好ましい。
その中でも、溶解性の面からジオレオイルホスファチジルエタノールアミンが好ましい。
【0014】
本発明で使用される混合溶媒は水と環状エーテルとからなり、水が20〜70容量%である。水の含有量が20%よりも少ないとグリコサミノグリカンが溶解せず、また70%よりも高いと脂質が溶解しないため反応が進まない。水の含有量はさらに好ましくは、40〜60%である。
環状エーテルは、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、モルフォリンであることが好ましい。
【0015】
本発明で使用される触媒としては、カルボキシル基活性剤としてN−ヒドロキシスクシンイミド、p−ニトロフェノール、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシピペリジン、N-ヒドロキシスクシンアミド、2,4,5−トリクロロフェノール、縮合剤として1−エチル−3−(ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド等が好ましく挙げられる。
本発明の反応温度は、好ましくは0〜60℃である。副生成物の産生を抑制するためには、反応を0〜10℃で行うことがより好ましい。
【0016】
本発明の製造方法で好ましく得られるグリコサミノグリカン誘導体として下記式(2)で表されるグリコサミノグリカン誘導体が好ましく挙げられる。
【化3】

ここで、Rは下記式(2)−a
【化4】

で表される基、−OHまたは−ONaであり、Rは炭素数10〜28のアルケニル基でありそしてnは50〜50,000の数である、但しRの1〜100%が上記式(2)−aで表される基であるものとする。
【実施例】
【0017】
以下の実施例により本発明の詳細をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例に使用したヒアルロン酸ナトリウム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド、0.1M HCl、0.1M NaOH、1−Ethyl−3−[3−(dimethylamino)propyl]−carbodiimide(EDC)、1−Hydroxybenzotriazole(HOBt)は、和光純薬工業(株)、L−α−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(COATSOME ME−8181)は日本油脂(株)のものを使用した。
【0018】
[実施例1]
L−α−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン22mg (0.00003mol)(ヒアルロン酸のカルボキシル基100当量に対し10当量)を、テトラヒドロフラン/水=1/1(v/v)40mlに溶解した。この溶液に、ヒアルロン酸ナトリウム100mgを加え、0.1M HCl/0.1M NaOHを添加し、pH6.8に調整した。1−Ethyl−3−[3−(dimethylamino)propyl]−carbodiimide(EDC) 6mg(0.000033mol)、1−hydroxybenzotriazole (HOBt)5mg(0.000033mol)をテトラヒドロフラン/水=1/1の水溶液10mlに溶解し反応系に添加し、終夜攪拌を行った。攪拌後、透析により精製を行い、凍結乾燥しヒアルロン酸誘導体を得た。確認は1HNMR(日本電子 JNM−alpha400)により行い、目的物の生成を確認した。
【0019】
[実施例2]
テトラヒドロフランに代わり、1,4−ジオキサンを使用した以外は実施例1と同様にヒアルロン酸誘導体を得た。確認は1HNMR(日本電子 JNM−alpha400)により行い、目的物の生成を確認した。
【0020】
[比較例1]
テトラヒドロフランに代わり、ジメチルホルムアミドを使用した以外は実施例1と同様の実験を試みた。しかし、L−α−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンが溶解せず、反応が進行しないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコサミノグリカンのカルボキシル基100当量に対し、アミノ基を有するリン脂質5〜100当量を、水と環状エーテルとからなり水が20〜70容量%である混合溶媒に溶解し、触媒下反応させることを特徴とするグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
【請求項2】
該グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、およびヘパラン硫酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
【請求項3】
該グリコサミノグリカンが、ヒアルロン酸であることを特徴とする請求項2に記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
【請求項4】
該アミノ基を有するリン脂質が、グリセロリン脂質であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
【請求項5】
該グリセロリン脂質が、ホスファチジルエタノールアミンであることを特徴とする請求項4に記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
【請求項6】
ホスファチジルエタノールアミンが下記式(1)
【化1】

(Rは炭素数10〜28のアルケニル基)
であることを特徴とする請求項5に記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
【請求項7】
該ホスファチジルエタノールアミンが、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンであることを特徴とする請求項6に記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。
【請求項8】
該環状エーテルが、テトラヒドロフラン、ジオキサン、またはジオキソランであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のグリコサミノグリカン誘導体の製造法。

【公開番号】特開2006−348071(P2006−348071A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172345(P2005−172345)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】