説明

グリコシル化リピートモチーフ分子結合体

以下の式のグリコシル化リピートモチーフ分子結合体を、本明細書において報告する:
(リピートモチーフ分子−リンカーn)m−結合パートナー−(リンカーo−リピートモチーフ分子)p
ここで、nおよびoは、互いとは無関係でありかつmおよびpの各値とは無関係である、0または1の整数値であり、mおよびpは、互いとは無関係である、0または1または2または3または4または5または6または7の整数値であり、かつリピートモチーフ分子結合体は、グリコシル化部位に付着した少なくとも1つのオリゴ糖を含む。また、コード核酸およびこれらのリピートモチーフ結合体を哺乳動物細胞において作製するための方法も報告する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
組換えによって作製され、インビボのグリコシル化を含む、すなわち、EMOC(repeat-motif-molecule conjugate)を発現する細胞型に由来するGEMOC(glycosylated repeat-motif-molecule conjugate)、ならびにこれらの結合体を作製するための方法およびこれらの結合体の使用が、本明細書において報告される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
様々なリピートモチーフ分子が、免疫グロブリンのような古典的な抗原結合分子の代替物を提供するために開発されている。
【0003】
例示的なリピートモチーフ分子は、設計されたアンキリンリピートタンパク質(DARPin)である。DARPinは、大腸菌(E.coli)株の細胞質において、機能的な形態で発現され得る。DARPinのリピートモチーフは、33残基のアミノ酸配列を含む。これらのリピートは、βターンモチーフとそれに続く一対の逆平行αヘリックスおよび次のリピートのターンにつながるループを含む。一般に、1〜30個超のリピートモチーフがアンキリンリピートモチーフ分子中に存在し、4〜6個が最も高頻度である。
【0004】
Kohlら(Kohl, A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100 (2003) 1700 -1705(非特許文献1))は、約2000個の天然のアンキリンリピート配列のアライメントに基づいて、人工のアンキリンリピートモジュールを開発した。この人工のコンセンサスアンキリンリピート配列は、1つの結合部位(の一部分)を形成する、27個の確定したアミノ酸残基および6個の不定のアミノ酸残基を含む(Forrer, P., et al., ChemBioChem 5(2004) 183-189(非特許文献2))。
【0005】
所定の標的分子に結合するDARPinを得るために、人工のコンセンサスアンキリンリピート配列の不定のアミノ酸残基がランダム化され、特異的な結合体がリボソームディスプレイによって同定される(例えば、WO 02/020565(特許文献1); Hanes, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94 (1997) 4937-4942(非特許文献3)を参照されたい)。
【0006】
US 2009/0148905(特許文献2)において、抗原結合構築体が報告されている。補体因子Hに由来するショートコンセンサスリピート-抗体構築体が、WO 2008/135237(特許文献3)において報告されている。抗体-RNアーゼ結合体が、WO 2007/122511(特許文献4)において報告されている。ウイルスに感染した腫瘍細胞によって発現された場合に治療活性を有する結合タンパク質をコードする組換え核酸を含むニューキャッスル病ウイルス(Newcastle Disease Virus)が、US 2008/0206201(特許文献5)において報告されている。US 2008/0248026(特許文献6)では、BMPに関連するPTEN/AKT法および組成物が報告されている。2本の鎖がジスルフィド架橋された形態のタンパク質の組換え発現が、WO 2005/076902(特許文献7)およびUS 2008/0103098(特許文献8)において報告されている。WO 2009/068649(特許文献9)では、抗原結合構築体が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 02/020565
【特許文献2】US 2009/0148905
【特許文献3】WO 2008/135237
【特許文献4】WO 2007/122511
【特許文献5】US 2008/0206201
【特許文献6】US 2008/0248026
【特許文献7】WO 2005/076902
【特許文献8】US 2008/0103098
【特許文献9】WO 2009/068649
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kohl, A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100 (2003) 1700 -1705
【非特許文献2】Forrer, P., et al., ChemBioChem 5(2004) 183-189
【非特許文献3】Hanes, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94 (1997) 4937-4942
【発明の概要】
【0009】
グリコシル化された形態の、すなわち、哺乳動物細胞において発現されるリピートモチーフ分子結合体が、本明細書において報告される。
【0010】
したがって、本明細書において報告される第1の局面は、以下の式
(リピートモチーフ分子−リンカーn)m−(結合パートナー)q−(リンカーo−リピートモチーフ分子)p
のグリコシル化リピートモチーフ分子結合体であり、ここでnおよびoは、互いとは無関係でありかつmおよびpおよびqの各値とは無関係である、0または1の整数値であり、mおよびpは、互いとは無関係である、0または1または2または3または4または5または6または7の整数値であり、qは、n、m、o、およびpの値とは無関係である、0または1の整数値であり、
かつリピートモチーフ分子結合体は、グリコシル化部位に付着した少なくとも1つのオリゴ糖を含み、
かつここで、少なくともm=q=1またはp=q=1である。
【0011】
1つの態様において、リピートモチーフ分子は、アンキリンリピートモチーフ分子またはロイシンリッチリピートモチーフ分子である。さらなる態様において、アンキリンリピートモチーフ分子は、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列またはその変異体を有する。別の態様において、リンカーは、SEQ ID NO:14およびSEQ ID NO:25〜SEQ ID NO:33より選択されるペプチドリンカーである。1つの態様において、結合パートナーは、多量体化結合パートナーである。さらに別の態様において、多量体化結合パートナーは、重鎖CH2ドメインおよびCH3ドメインの天然もしくは改変(engineered)ペア、重鎖CH1ドメインおよび軽鎖定常ドメインの天然もしくは改変ペア、天然もしくは改変重鎖ヒンジ領域、重鎖ヒンジ領域ならびにCH2ドメインおよびCH3ドメインの天然もしくは改変配列、ロイシンジッパードメイン、イソロイシンジッパードメイン、4ヘリックスバンドル、ならびにp53四量体化ドメイン、またはそれらの組合せより選択される。
【0012】
1つの態様において、本発明による結合体は、以下の式
((リピートモチーフ分子−リンカーn)m−(結合パートナー)q−(リンカーo−リピートモチーフ分子)p)r
を有することを特徴とし、ここで
(i) n=1、m=1、q=1、p=0、r=1、または
(ii) n=1、m=1、q=1、p=0、r=2、または
(iii) n=0、m=1、q=1、p=0、r=1、または
(iv) n=0、m=1、q=1、p=0、r=2、または
(v) m=0、o=1、q=1、p=1、r=1、または
(vi) m=0、o=1、q=1、p=1、r=2、または
(vii) m=0、o=0、q=1、p=1、r=1、または
(viii) m=0、o=0、q=1、p=1、r=2、または
(ix) m=1、n=0、o=1、q=1、p=1、r=1、または
(x) m=1、n=0、o=1、q=1、p=1、r=2、または
(xi) m=1、n=1、o=1、q=1、p=1、r=1、または
(xii) m=1、n=1、o=1、q=1、p=1、r=1
であり、該結合パートナーは、重鎖CH2ドメインおよびCH3ドメインの天然もしくは改変ペア、重鎖CH1ドメインおよび軽鎖定常ドメインの天然もしくは改変ペア、天然もしくは改変重鎖ヒンジ領域、重鎖ヒンジ領域ならびにCH2ドメインおよびCH3ドメインの天然もしくは改変配列より選択され、
かつリピートモチーフ分子は、アンキリンリピートモチーフ分子である。
【0013】
さらなる態様において、結合体は、少なくとも1つのオリゴ糖が、CHO細胞またはHEK293細胞における結合体の発現によって得られるオリゴ糖の混合物であることを特徴とする。
【0014】
1つの態様において、結合体は以下を特徴とする:
m=0、q=1、p=1、およびo=0またはo=1、およびr=1または2
であり、結合パートナーは、N末端のSEQ ID NO:50もしくは51もしくは52とC末端のSEQ ID NO:43もしくは44の結合体との、またはN末端のSEQ ID NO:53もしくは54もしくは55とC末端のSEQ ID NO:45もしくは46との結合体より選択され、かつ
リピートモチーフ分子は、アンキリンリピートモチーフ分子である。
【0015】
本明細書において報告される別の局面は、本明細書において報告されるグリコシル化リピートモチーフ分子結合体を2つ含むことを特徴とする、グリコシル化リピートモチーフ分子結合体である。
【0016】
別の態様において、グリコシル化リピートモチーフ分子結合体は、前述の態様の内の1つに記載のグリコシル化リピートモチーフ分子結合体を2つ含む。
【0017】
さらなる態様において、グリコシル化リピートモチーフ分子結合体は、以下をさらに含む:
(a) リピートモチーフ分子の結合パートナーがSEQ ID NO:50、51、および52より選択される場合には、N末端のSEQ ID NO:53もしくは54もしくは55とC末端のSEQ ID NO:45もしくは46との結合体2つ、または
(b) リピートモチーフ分子の結合パートナーがSEQ ID NO:53、54、および55より選択される場合には、N末端のSEQ ID NO:50もしくは51もしくは52とC末端のSEQ ID NO:43もしくは44との結合体2つ。
【0018】
本明細書において報告されるさらなる局面は、以下の要素を含む核酸である:
-ヒトサイトメガロウイルス由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-抗体生殖系列遺伝子の5'非翻訳領域、
-免疫グロブリンの重鎖シグナル配列、
-リピートモチーフ分子結合体のコード配列、
-ポリアデニル化(「ポリA」)シグナル配列。
【0019】
本明細書において報告される別の局面は、以下の段階を含む、本明細書において報告されるグリコシル化リピートモチーフ分子結合体を作製するための方法である
-本明細書において報告される核酸を含む哺乳動物細胞を、リピートモチーフ分子の発現に適した条件下で培養する段階、
-細胞または培地からグリコシル化リピートモチーフ分子を回収し、それによって、グリコシル化リピートモチーフ分子を作製する段階、
-任意で、回収されたグリコシル化リピートモチーフ分子を精製する段階。
【0020】
1つの態様において、哺乳動物細胞は、CHO細胞およびHEK293細胞より選択される。
【0021】
1つの態様において、多量体化結合パートナーは、3つのシステイン残基を有する改変重鎖ヒンジ領域である。別の態様において、結合パートナーは、改変抗体重鎖ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。さらなる態様において、リピートモチーフ分子はアンチカリン(anticalin)である。さらに別の態様において、リピートモチーフ分子は、結合パートナーのN末端に結合されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
以下の一般式のグリコシル化リピートモチーフ分子結合体(GEMOC)が、本明細書において報告される:
(リピートモチーフ分子−リンカーn)m−(結合パートナー)q−(リンカーo−リピートモチーフ分子)p
ここで、nおよびoは、互いとは無関係でありかつmおよびpの各値とは無関係である、0または1の整数値であり、mおよびpは、互いとは無関係である、0または1または2または3または4または5または6または7の整数値であり、qは、独立に0または1であり、
結合パートナーは少なくとも1つのグリコシル化部位を含み、GEMOCは哺乳動物細胞において発現される。
【0023】
「グリコシル化」という用語またはその文法的同義語は、各リピートモチーフ分子が、リピートモチーフ分子のアミノ酸骨格のアミノ酸に共有結合的に連結されている糖残基を含むことを意味する。1つの態様において、リピートモチーフ分子は、天然のモチーフまたは改変モチーフのいずれかの、少なくとも1つのN-グリコシル化部位モチーフまたはO-グリコシル化部位モチーフを含む(SEQ ID NO:56および58を参照されたい)。1つの態様において、N-グリコシル化部位モチーフは、asp-X-thr、asp-X-ser、またはasp-X-cysより選択され、ここで、Xはプロリン(pro、P)以外の任意のアミノ酸残基でよい。別の態様において、グリコシル化タグは、リピートモチーフ分子に付加される(例えば、SEQ ID NO:60、61、62、および63を参照されたい;また、Meder, D., et al., J. Cell Biol. 168 (2005) 303-313; Bulbarelli, A., et al., J. Cell Sci., 115 (2002) 1689-1702も参照されたい)。したがって、1つの態様において、結合体は、SEQ ID NO:62または63の分子をリピートモチーフ分子として含む。これらのグリコシル化タグを含むリピートモチーフ分子を用いて、優良なグリコシル化を達成することができる。
【0024】
「哺乳動物細胞」という用語は、CHO細胞、BHK細胞、HEK細胞、COS細胞、Per.C6(登録商標)細胞、またはハイブリドーマ細胞より選択される細胞を意味する。
【0025】
本出願内で使用される「アミノ酸」という用語は、核酸によって直接または前駆体の形態でコードされ得るカルボキシαアミノ酸のグループを意味する。個々のアミノ酸は、3個のヌクレオチドからなる核酸、いわゆるコドンまたは塩基トリプレットによってコードされる。各アミノ酸は、少なくとも1つのコドンにコードされる。これは、「遺伝コードの縮重(degeneration)」として公知である。本出願内で使用される「アミノ酸」という用語は、アラニン(3文字記号:ala、1文字記号:A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン(gln、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、トレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)、およびバリン(val、V)を含む、天然のカルボキシαアミノ酸を意味する。
【0026】
「抗体」という用語は、抗体遺伝子に実質的にコードされる1つまたは複数のポリペプチドからなる分子を意味する。一般に、抗体は、いわゆる軽鎖ポリペプチド(軽鎖)2つおよびいわゆる重鎖ポリペプチド(重鎖)2つを含む。重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドはそれぞれ、抗原と相互作用することができる結合領域を含む可変ドメイン(可変領域)(一般に、ポリペプチド鎖のアミノ末端部分)を含む。重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドはそれぞれ、定常領域(一般にカルボキシル末端部分)を含む。重鎖の定常領域は、抗体のi) 食細胞のようなFcγ受容体(FcγR)を有する細胞への、またはii)ブランベル(Brambell)受容体としても公知の新生児型Fc受容体(FcRn)を有する細胞への結合を媒介する。それはまた、成分(C1q)のような古典的補体系の因子を含むいくつかの因子への結合も媒介する。抗体の軽鎖または重鎖の可変ドメインは、異なるセグメント、すなわち4つのフレームワーク領域(FR)および3つの超可変領域(CDR)を順に含む。
【0027】
「ヒンジ領域」という用語は、1つの態様において、ヒト完全長抗体重鎖の、通常はグルタミン酸残基である216番残基から、通常はシステイン残基である226番残基または通常はプロリン残基である230番残基までの断片を意味する。ヒンジ領域は、例えば第2の抗体重鎖の第2のヒンジ領域の対応するシステイン残基とジスルフィド結合を形成できるシステイン残基を含む。1つの態様において、ヒンジ領域は、2つのシステイン残基を含む。
【0028】
同義的に使用され得る「第2の重鎖定常ドメイン」および「CH2ドメイン」および「CH2」という用語は、1つの態様において、ヒト完全長抗体重鎖の231番残基から340番残基までの断片を意味する。CH2ドメインは、通常はアミノ酸アスパラギンである297番残基を含み、この箇所で、糖がアミノ酸骨格に共有結合されている。
【0029】
同義的に使用され得る「第3の重鎖定常ドメイン」および「CH3ドメイン」および「CH3」という用語は、1つの態様において、ヒト完全長抗体重鎖の341番残基から447番残基、すなわちCH2ドメインに対してC末端側の断片を意味する。
【0030】
本出願内で同義的に使用され得る「抗体依存的細胞媒介性細胞障害性」および「ADCC」という用語は、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、好中球、およびマクロファージなどFc受容体(FcR)を自身の細胞表面に有する非特異的細胞障害性細胞によってもたらされる細胞溶解のメカニズムを意味する。これらの細胞は、Fc部分のようなFc受容体結合部分を有する表面に結合した抗体を用いて細胞を認識し、溶解する。
【0031】
本出願内で同義的に使用され得る「補体依存的細胞障害性」および「CDC」という用語は、例えば抗原に結合した抗体にC1qが結合することによって開始される、補体によってもたらされる細胞溶解のメカニズムを意味する。
【0032】
「標的分子への結合」という用語は、結合分子、すなわち相補性を与える分子とその結合パートナー、すなわち特異的標的分子との特異的相互作用を意味する。結合親和性として示されるこの特異的相互作用の強さは、KD値として与えられる。「標的分子に非特異的に結合」という用語は、KD値が10-5mol/lまたはそれ以上(例えば、10-3mol/l)、1つの態様において、KD値が10-6mol/lまたはそれ以上である、結合分子とその標的分子との非特異的相互作用を意味する。結合親和性は、表面プラズモン共鳴技術(BIAcore(登録商標))のような標準的結合アッセイ法を用いて測定される。この結合親和性の値は、厳密な値として扱われる必要はなく、評価の基準にすぎない。「標的分子に特異的に結合」という用語は、KD値が10-7mol/lまたはそれ以下(例えば、10-10mol/l)、1つの態様において、KD値が10-8mol/lまたはそれ以下である、結合分子とその標的分子との特異的相互作用を意味する。
【0033】
1つの態様において、リピートモチーフ分子のリピートは、20〜40アミノ酸残基長のものである。これらのリピートは、個々の構造単位で並んで、リピートモチーフ分子を一緒に形成している。1つの態様において、リピートモチーフ分子は、アンキリンリピートモチーフ分子およびロイシンリッチリピートモチーフ分子(LRRP)より選択される。
【0034】
1つの態様において、結合パートナーは、免疫グロブリン膜アンカードメインまたはGPIアンカードメインを含む。
【0035】
「リピートモチーフ分子」という用語は、大腸菌の細胞質またはペリプラズムにおいて可溶型の単一の分子として発現され得る、すなわち、第2の分子にもそれ自身の第2のコピーにも結合していない、天然ポリペプチドまたは人工ポリペプチドを意味する。1つの態様において、リピートモチーフ分子は、構造が同一の少なくとも2つの単位(リピート)を含む。これらの単位は、アミノ酸配列が同一である必要はない。これらの単位は、単独でフォールディングするドメインであってよいが、そうである必要はない。リピートモチーフ分子は、繰り返し単位のほかに他の配列ストレッチを含んでよいが、含まなくてもよい。1つの態様において、リピートモチーフ分子は、アンキリンリピートモチーフ分子である。別の態様において、リピートモチーフ分子は、ロイシンリッチリピートモチーフ分子である。
【0036】
「アンキリンリピートモチーフ分子」という用語は、1〜30個の共通な33残基アミノ酸配列からなる人工ポリペプチドを意味する。各リピートは、βターンモチーフとそれに続く一対の逆平行αヘリックスおよび次のリピートのターンにつながるループを含む。アンキリンリピートモチーフ分子は、1つの態様において1〜30個のリピートを含み、別の態様において2〜10個のリピートを含み、およびさらなる態様において3〜6個のリピートを含む。
【0037】
1つの態様において、アンキリンリピートモチーフ分子は、ランダム変異誘発および例えばリボソームディスプレイ、酵母ディスプレイ、またはファージディスプレイによる標的分子結合の選択によって、以下のコンセンサス配列の内の1つから誘導される:

ここで、「x」は全面的に変更可能な位置を示し、
括弧内に与えられるアミノ酸は、この位置に存在可能な特定の変種(variant)を示し、
「a」は、無極性(apolar)側鎖を有するアミノ酸を示し、
「p」は、極性側鎖を有するアミノ酸残基を示し、
「1」は、アミノ酸残基A、D、E、F、H、I、K、L、M、N、Q、R、S、T、V、W、およびY(一文字記号)からなる群より選択されるアミノ酸残基を示し、かつ
「2」は、アミノ酸残基H、N、およびYからなる群より選択されるアミノ酸残基を示す。
【0038】
任意の所定の標的分子に結合するアンキリンリピートモチーフ分子を含むGEMOCは、ランダム化されたGEMOCまたはランダム化されたアンキリンリピートモチーフ分子を含むライブラリーを、例えばリボソームディスプレイによってスクリーニングすることによって得ることができる(例えば、WO 02/120565; Hanes, J.およびPluckthun, A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94 (1997) 4937-4942を参照されたい)。
【0039】
1つの態様において、GEMOCは、アミノ酸配列

のN末端キャッピングリピートを含む。
【0040】
1つの態様において、GEMOCは、アミノ酸配列

のC末端キャッピングリピートを含む。
【0041】
別の態様において、リピートモチーフ分子はロイシンリッチリピートモチーフ分子(LRR)である。ロイシンリッチリピートモチーフ分子を作製するための方法は、WO 2006/083275において報告されている。
【0042】
一般に、抗体は、中和活性、毒性部分に対するターゲティング活性、またはエフェクター機能より選択される活性を有する。
【0043】
図1において、抗体のドメイン構造が示される。完全長抗体は、いわゆる軽鎖2つおよびいわゆる重鎖2つを含む。各軽鎖は、軽鎖可変ドメインおよび軽鎖定常ドメインを順に含む。軽鎖定常ドメインは、κ型ドメインまたはλ型ドメインより選択される。各重鎖は、重鎖可変ドメイン、第1の重鎖定常ドメイン(CH1)、ヒンジ領域、第2の重鎖定常ドメイン(CH2)、第3の重鎖定常ドメイン(CH3)、および任意で第4の重鎖定常ドメイン(CH4)を順に含む。さらに、完全長抗体は、軽鎖定常ドメインと第1の重鎖定常ドメインの間にジスルフィド結合を含み、かつ2つの重鎖の第2の重鎖定常ドメインの間に2つのジスルフィド結合も含む。
【0044】
1つの態様において、GEMOC中の結合パートナーは、完全長抗体重鎖または完全長抗体軽鎖であるが、ただし、それぞれ可変ドメインを含まない。1つの態様において、GEMOC中の結合パートナーは、抗体重鎖または抗体軽鎖であり、それぞれ可変ドメインを含む。別の態様において、リピートモチーフ分子は、直接的にまたはペプチドリンカーを介して、各抗体鎖のC末端に結合する。1つの態様において、GEMOCは、前述の態様に記載の2つのGEMOCを含む。
【0045】
1つの態様において、結合パートナーは、抗Aβ抗体の抗体軽鎖または抗体重鎖である。このような抗Aβ抗体および対応する核酸配列は、例えば、WO 2003/070760もしくはUS 2005/0169925またはSEQ ID NO:50〜55もしくはその変異体において報告されている。
【0046】
本明細書において報告される結合体は、同じ標的分子または異なる標的分子にそれぞれが結合する1つまたは複数のリピートモチーフ分子を含む様々な変異体を含む。本明細書において報告される結合体において、非リピートモチーフ分子すなわち結合パートナーの一方の末端に(C末端であるかN末端であるかに関係なく)、1つだけすなわち単一のリピートモチーフ分子が、共有結合的に連結されている。
【0047】
第1の変異体は、同じ標的分子または異なる標的分子にそれぞれが結合する2つまたは複数のリピートモチーフ分子を含み、リピートモチーフ分子の各ペアがペプチドリンカーによって連結されている結合体である。1つの態様において、リピートモチーフ分子の数は、2、3、4、5、6、7、8、9、または10より選択される。図2において、ペプチドリンカーによって連結された2つまたは複数のリピートモチーフ分子を含む例示的な結合体が示される。
【0048】
第2の変異体は、1つまたは複数のリピートモチーフ分子および1つまたは複数の非リピートモチーフ分子を含む結合体である。各リピートモチーフ分子は、同じ標的分子または異なる標的分子に結合する。非リピートモチーフ分子は、1つまたは複数のリピートモチーフ分子が任意で、かつ互いとは無関係に、ペプチドリンカーによって共有結合的に連結されている足場を提供する。1つの態様において、非リピートモチーフ分子は、天然のまたは改変されたその変異体である、抗体CLドメイン、抗体CH1ドメイン、抗体ヒンジ領域、抗体CH2ドメイン、抗体CH3ドメイン、抗体CH4ドメイン、膜アンカーモチーフ、膜貫通ドメイン、グリコシル化タグ配列、精製タグ配列もしくは検出タグ配列、またはそれらの1つもしくは複数の組合せより選択される。1つの態様において、非リピートモチーフ分子は、1つまたは複数のジスルフィド結合によって共有結合的に相互に連結されている2つまたはそれ以上のポリペプチドを含む。1つの態様において、非リピートモチーフ分子は、抗体Fc部分である。1つの態様において、非リピートモチーフ分子は、重鎖ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインをN末端からC末端の方向にそれぞれが含む2つの単量体からなる2量体、もしくはCH1ドメイン、重鎖ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインをN末端からC末端の方向にそれぞれが含む2つの単量体からなる2量体、またはCH1ドメイン、重鎖ヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインをN末端からC末端の方向にそれぞれが含む2つの単量体ならびに軽鎖定常ドメインを含む2つの単量体を含む4量体である。別の態様において、各単量体は、互いとは無関係に可変ドメインをさらに含む。
【0049】
「ペプチドリンカー」という用語は、ペプチド結合を介して互いに連結したアミノ酸残基を含む、天然由来および/または合成由来のリンカーを意味する。それらは、20種の天然アミノ酸が単量体の基本単位である直線状アミノ酸鎖からなる。この鎖の長さは、1〜50個のアミノ酸残基、1つの態様において、3〜28個の間のアミノ酸残基、さらなる態様において、4〜20個の間のアミノ酸残基である。リンカーは、反復アミノ酸配列または天然ポリペプチドの配列を含んでよい。リンカーは、そのリンカーを介して連結された2つの構成要素が、立体的自由および回転の自由のおかげで正確にフォールディングでき、適切に提示され得ることを確実にする機能を有する。1つの態様において、リンカーは、グリシン残基、グルタミン残基、および/またはセリン残基が豊富になるように指定された「合成ペプチドリンカー」である。これらの残基は、例えば、(G)GGGS、(Q)QQQG、または(S)SSSG(SEQ ID NO:14、15、および16)など最高5個のアミノ酸の小さな反復単位中に配列されている。この小さな反復単位は、2〜5回繰り返されて多量体単位を形成してもよい。他の合成ペプチドリンカーは、例えば、リンカー

中のセリンのように10〜20の間の回数だけ繰り返された単一のアミノ酸から構成されている。1つの態様において、リンカーは、

より選択される。
【0050】
1つの態様において、リンカーは、4〜20個のアミノ酸残基を有する。1つの態様において、リンカーは、リピートモチーフ分子間で同じであり、別の態様において、結合体は、2つまたはそれ以上の異なるアミノ酸配列を有するリンカーを含む。さらなる態様において、リンカーは、(G3S)、(G3S)2、(G3S)3、(G3S)4、(G3S)5、(G4S)、(G4S)2、(G4S)3、(G4S)4、(G4S)5(SEQ ID NO:14および25〜33)、好ましくは(G4S)3および(G4S)4(SEQ ID NO:31およびSEQ ID NO:32)より選択される。
【0051】
1つの態様において、本明細書において報告される結合体は、1つのリピートモチーフ分子および1つの非リピートモチーフ分子、ならびに任意で、これらの分子間のペプチドリンカーを含む。リピートモチーフ分子は、非リピートモチーフ分子のC末端もしくはN末端、または非リピートモチーフ分子を形成するポリペプチドのC末端の内の1つもしくはN末端の内の1つのいずれかに共有結合的に連結されている。
【0052】
図3〜5において、第2の変異体の態様の例示的な結合体が示される。図3において、様々な個々の抗体ドメインのN末端およびC末端に1つのリピートモチーフ分子が結合した結合体が示される。図4において、2つ、3つ、または4つの抗体ドメインの組合せのN末端およびC末端に1つのリピートモチーフ分子が結合した結合体が示される。図5において、ジスルフィド結合によって連結された抗体ドメイン(CL-CH1またはヒンジ-ヒンジ)のN末端およびC末端に1つのリピートモチーフ分子が結合した結合体が示され、これらの結合体は任意で、可変ドメイン以外の別の抗体ドメインをさらに含んでもよい。
【0053】
別の態様において、本明細書において報告される結合体は、2つのリピートモチーフ分子および1つの非リピートモチーフ分子、ならびに任意で、最高2個のペプチドリンカーを含む。1つのリピートモチーフ分子が非リピートモチーフ分子のC末端に、もう1つのリピートモチーフ分子がN末端に共有結合的に連結されるか、または両方が、非リピートモチーフ分子を形成するポリペプチドのC末端もしくはN末端に共有結合的に連結されるか、またはリピートモチーフ分子の内の1つが、非リピートモチーフ分子を形成するポリペプチドのC末端に共有結合的に連結され、もう1つがN末端に共有結合的に連結される。その際、C末端およびN末端は、同じポリペプチドまたは異なるポリペプチドの末端である。図6〜8において、この態様の例示的な結合体が示される。図6において、2つのリピートモチーフ分子は、C末端1つだけおよびN末端1つだけを含む非リピートモチーフ分子に結合されており、この非リピートモチーフ分子は1つまたは複数の抗体ドメインを含んでよい。図7および8において、2つのリピートモチーフ分子は、ジスルフィド結合によって連結された抗体ドメインを含む非リピートモチーフ分子に結合されており、これらの結合体は任意で、可変ドメイン以外の別の抗体ドメインをさらに含んでもよい。
【0054】
さらなる態様において、結合体は、4つのリピートモチーフ分子および1つの非リピートモチーフ分子、ならびに任意で、最高4個のペプチドリンカーを含む。この態様において、非リピートモチーフ分子は、1つの態様において1つまたは複数のジスルフィド結合によって相互に共有結合されている少なくとも2つのポリペプチドを含む。1つの態様において、リピートモチーフ分子は、非リピートモチーフ分子のそれぞれの個数のC末端およびN末端に共有結合的に連結されている。別の態様において、リピートモチーフ分子の内の2つは互いに結合して二量体リピートモチーフ分子を形成し、この二量体リピートモチーフ分子が次に非リピートモチーフ分子に結合している。図9〜11において、この態様の例示的な結合体が示される。図9において、4つのリピートモチーフ分子は、2つのC末端および2つのN末端を含む非リピートモチーフ分子に結合しており、この非リピートモチーフ分子は1つまたは複数の抗体ドメインを含んでよい。図10および11において、4つのリピートモチーフ分子は、ジスルフィド結合によって連結された抗体ドメインを含む非リピートモチーフ分子に結合しており、これらの結合体は任意で、可変ドメイン以外の別の抗体ドメインをさらに含んでもよい。
【0055】
さらに別の態様において、結合体は、6つのリピートモチーフ分子および1つの非リピートモチーフ分子、ならびに任意で、最高6個のペプチドリンカーを含む。この態様において、非リピートモチーフ分子は、1つの態様において1つまたは複数のジスルフィド結合によって相互に共有結合されている少なくとも2つのポリペプチドを含む。1つの態様において、リピートモチーフ分子は、非リピートモチーフ分子のそれぞれの個数のC末端およびN末端に共有結合的に連結されている。別の態様において、リピートモチーフ分子の内の4つは互いに結合して二量体リピートモチーフ分子を形成し、この二量体リピートモチーフ分子が次に非リピートモチーフ分子に結合しており、2つのリピートモチーフ分子は互いに結合していないが、非リピートモチーフ分子の1つの末端にそれぞれ結合している。図12において、この態様の例示的な結合体が示される。
【0056】
さらなる態様において、結合体は、8つのリピートモチーフ分子および1つの非リピートモチーフ分子、ならびに任意で、最高8個のペプチドリンカーを含む。この態様において、非リピートモチーフ分子は、1つの態様において1つまたは複数のジスルフィド結合によって相互に共有結合されている少なくとも2つのポリペプチドを含む。1つの態様において、リピートモチーフ分子は、非リピートモチーフ分子のそれぞれの個数のC末端およびN末端に共有結合的に連結されている。別の態様において、リピートモチーフ分子の内の2〜8つは互いに結合して二量体リピートモチーフ分子を形成し、この二量体リピートモチーフ分子が次に非リピートモチーフ分子に結合しており、残りの個数のリピートモチーフ分子は互いに結合していないが、非リピートモチーフ分子の1つの末端にそれぞれ結合している。
【0057】
リピートモチーフ分子は、以下からなる群より選択される足場の誘導体でよい: CTLA-4(Evibody)、リポカリン、プロテインAのZドメインのようなプロテインA由来分子(Affibody、SpA)、Aドメイン(Avimer、Maxibody)、GroElおよびGroESなどの熱ショックタンパク質、トランスフェリン(トランスボディ(transbody))、ペプチドアプタマー、C型レクチンドメイン(テトラネクチン(Tetranectin))、ヒトy-クリスタリンおよびヒトユビキチン(アフィリン(affilin))、PDZドメイン、サソリ毒、ヒトプロテアーゼインヒビターのクニッツ型ドメイン、およびフィブロネクチン(アドネクチン(adnectin))、Src相同ドメイン(例えばSH2ドメインまたはSH3ドメイン)由来のリピートモチーフ分子、PDZドメイン由来のリピートモチーフ分子、β-ラクタマーゼ由来のリピートモチーフ分子、高親和性プロテアーゼインヒビター由来のリピートモチーフ分子、サソリ毒のような小型ジスルフィド結合タンパク質足場由来のリピートモチーフ分子、EGF様ドメインのようなリピート結合ドメインを含むリピートモチーフ分子、クリングルドメイン、PANドメイン、Glaドメイン、SRCRドメイン、クニッツドメイン、ウシ膵臓トリプシンインヒビタードメイン、カザル型セリンプロテアーゼインヒビタードメイン、トレフォイル(Trefoil)(P型)ドメイン、フォン・ヴィレブランド因子C型ドメイン、アナフィラトキシン(anhaphylatoxin)様ドメイン、CUBドメイン、チログロブリンI型リピート、LDL受容体クラスAドメイン、スシ(Sushi)ドメイン、リンク(Link)ドメイン、トロンボスポンジンI型ドメイン、免疫グロブリン様ドメイン、C型レクチンドメイン、MAMドメイン、フォン・ヴィレブランド因子A型ドメイン、ソマトメジン(Somatomedin)Bドメイン、WAP型4ジスルフィドコアドメイン、F518型Cドメイン、ヘモペキシン(Hemopexin)ドメイン、ラミニン型EGF様ドメイン、C2ドメイン、Avimer由来のリピートモチーフ分子、Telobodies由来のリピートモチーフ分子、Evibodies由来のリピートモチーフ分子、Microbodies由来のリピートモチーフ分子(例えば、Jeong, K.J.およびSilverman, J., Nat. Biotechnol. 23 (2005) 1493-1494; Panni, S., et al., J. Biol. Chem. 277 (2002) 21666-21674; Schneider, S., et al., Nat. Biotechnol. 17 (1999) 170-175; Legendre, D., et al., Protein Sci. 11 (2002) 1506-1518; Stoop, A.A., et al., Nat. Biotechnol. 21 (2003) 1063-1068; Vita, C., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92 (1995) 6404-6408; WO 2006/055689; US 2006/0234299を参照されたい)。
【0058】
1つの態様において、GEMOCは、抗体の部分構造、ミニボディ、アドネクチン、アンチカリン(anticalin)、アフィボディ、アフィリン、ノッティン、グリボディ(glybody)、C型レクチン様ドメインタンパク質、設計されたアンキリンリピートタンパク質(DARPin)、テトラネクチン(Tetranectin)、クニッツドメインタンパク質、チオレドキシン(Thioredoxin)、シトクロムb562、亜鉛フィンガー足場、ブドウ球菌(Staphylococcal)ヌクレアーゼ足場、フィブロネクチンまたはフィブロネクチン2量体、テネイシン、N-カドヘリン、E-カドヘリン、ICAM、タイチン、GCSF受容体、サイトカイン受容体、グリコシダーゼインヒビター、抗生作用のある色素タンパク質、ミエリン膜接着分子PO、CD8、CD4、CD2、クラスI MHC、T細胞抗原受容体、VCAM-1のCD1、C2、およびI-セットドメイン、ミオシン結合タンパク質Cの1セット(1-set)免疫グロブリンドメイン、ミオシン結合タンパク質Hの1セット免疫グロブリンドメイン、テロキンのIセット免疫グロブリンドメイン、NCAM、トゥイッチン、ニューログリアン、成長ホルモン受容体、エリスロポエチン受容体、プロラクチン受容体、インターフェロン-γ受容体、β-ガラクトシダーゼ/グルクロニダーゼ、β-グルクロニダーゼ、グルタミン転移酵素、T細胞抗原受容体、スーパーオキシドジスムターゼ、組織因子ドメイン、シトクロムF、緑色蛍光タンパク質、GroEL、およびタウマチンより選択される結合パートナーを含む。
【0059】
1つの態様において、結合パートナーはアンチカリンである。さらなる態様において、アンチカリンはアンチカリンA-44である。1つの態様において、結合体は、SEQ ID NO:64および/またはSEQ ID NO:65および/またはSEQ ID NO:66のアミノ酸配列を含む。アンチカリンを含むGEMOCSが、DARPinを含むGEMOCSと比べて多い量(higher yields)で発現され得ることが見出されている。1つの態様において、アンチカリンは抗体Fc部分に融合されている。別の態様において、Fc部分は、変異を含むまたは含まないヒトIgG1またはヒトIgG4のFc部分である。例示的な変異は、IgG1の場合のアミノ酸交換L234AおよびL235AならびにIgG4の場合のアミノ酸交換S228PおよびL235Eである。
【0060】
上記に特定したアミノ酸交換を含むまたは含まないヒトIgG1 Fc部分またはヒトIgG4 Fc部分などの抗体Fc部分のN末端に融合されたリピートモチーフ分子を含むGEMOCSの作製のためには、ヒンジ領域が3つの鎖間ジスルフィド結合を含むことが有利であることが見出されている。ヒンジ領域中に2つの鎖間ジスルフィド架橋を含む結合体と比べて、ヒンジ領域中に3つの鎖間ジスルフィド架橋を含む結合体は、特に断片化に関して、少ない副産物含有量で作製することができる。
【0061】
2つまたはそれ以上のリピートモチーフ分子を含む本明細書において先に報告したGEMOCは、二重特異性、三重特異性、または四重特異性の標的分子結合構築体を実現可能にする。「二重特異性」という用語は、2つの異なる標的分子に結合する少なくとも2つのリピートモチーフ分子をGEMOCが含むことを意味する。「三重特異性」という用語は、3つの異なる標的分子に結合する少なくとも3つのリピートモチーフ分子をGEMOCが含むことを意味する。「四重特異性」という用語は、4つの異なる標的分子に結合する少なくとも4つのリピートモチーフ分子をGEMOCが含むことを意味する。
【0062】
抗体ドメインを含むGEMOCの場合、満足のいく作製収率(production yield)を達成するために、かつ複雑な精製手順を必要とせずにすむように、誤って対形成した(mispaired)副産物ならびに断片の生成は回避するか、または少なくとも最小限に抑えなければならない。「ノブイントゥーホール(knobs-into-holes)」として公知である、誤って対形成した副産物という問題を回避するためのアプローチは、CH3ドメインに変異を導入して接触面を改変することによって、抗体重鎖CH3ドメインをそれぞれが含む2つの異なる結合体の対形成を強いることを目標とする。一方の鎖において、かさ高いアミノ酸を側鎖の短いアミノ酸で置換して、「ホール」を作り出す。同時に、側鎖の大きなアミノ酸を他方のCH3ドメイン中に導入して、「ノブ」を作り出す。これら2つの改変結合体を同時発現させることによって、ホモ二量体形成(「ホール−ホール」または「ノブ−ノブ」と比べて高収率のヘテロ二量体形成(「ノブ−ホール」)が観察された(例えば、Ridgway, J.B., Protein Eng. 9 (1996) 617-621; WO 96/027011を参照されたい)。誤って対形成した副産物の形成をはっきりと減少させるための別のアプローチは、「ドメイン交換」または「クロスオーバー」と呼ばれる技術の使用である。この技術では、抗体CLドメインとCH1ドメインの間の特異的相互作用が利用される。1つの態様において、本明細書において報告されるGEMOC中の結合パートナーは、2つのポリペプチドを含み、その内の一方は抗体軽鎖定常ドメイン(CL)を含み、他方は抗体重鎖第1定常ドメイン(CH1)を含む。例示的な二重特異性 GEMOCが図13に示される。
【0063】
「標的分子」という用語は、リピートモチーフ分子と相補的であり、リピートモチーフ分子と相互作用するための相互作用部位を提供する分子を意味する。1つの態様において、標的分子は、細胞表面分子、可溶性細胞表面分子、サイトカイン、ホルモン、酵素、免疫グロブリン、毒素、ウイルス粒子タンパク質、斑タンパク質(plaque protein)および斑前駆体タンパク質、またはナノ粒子より選択される。
【0064】
本明細書において報告されるGEMOCは、リピートモチーフ分子を提示するための足場を提供する結合パートナーを含む。この結合パートナーは、例えば受容体結合機能のようなさらなる機能をさらに提供することができる。結合パートナーは、1つの態様において抗体ドメインより選択され、1つの態様において抗体のCH2ドメインを含む。抗体CH2ドメインは、ADCCまたはCDCに必要とされるFc受容体結合機能を提供する。別の態様において、結合パートナーは、同じ結合パートナーまたはそれぞれの相補的結合パートナーを含む他のGEMOCと多量体を形成できるか、またはそれに結合できる分子である。
【0065】
このような多量体化結合パートナーまたは結合パートナーと相補的結合パートナーとのペアは、1つの態様において、ロイシンジッパー、cAMP依存性プロテインキナーゼA(PKA)の調節サブユニットおよびaキナーゼアンカータンパク質(AKA)のアンカードメインを含むペアより選択される。
【0066】
GEMOC中で使用される結合パートナーは、ヒト由来のもので、フォールディングおよび分解に関して安定性が高く、「不活性」、すなわち、サイトカイン機能もシグナル伝達機能もなく、作製が容易かつ経済的であり、さらなる加工処理(例えばタンパク質分解切断、ペプチドの化学的修飾、翻訳後修飾)を可能にし、適切なサイズであるか(腎臓でろ過されない)または他の全身的排泄(systemic elimination)のもので、かつ免疫原性ではないべきである。
【0067】
「多量体化結合パートナー」という用語は、2つまたはそれ以上の個々のGEMOCを共有結合的または非共有結合的に結合できる分子を意味する。多量体化結合パートナーは、1つの態様において、ロイシンジッパードメイン(Kostelny, S.A., et al., J. Immunol. 148 (1992) 1547-1553; de Kruif, J., et al., J. Biol. Chem. 271 (1996) 7630-7634)、酵母GCN4ロイシンジッパー、イソロイシンジッパードメイン、ヘリックス・ターン・ヘリックスモチーフ(Pack, P., et al., Biotechnol. 11 (1993) 1271-1277)、max相互作用タンパク質および関連分子(US 5,512,473)、ポリグルタミン酸-ポリリジンドメイン(US 5,582,996)、重鎖CH2-CH3ドメインの天然または改変ペア、重鎖CH1ドメイン-軽鎖定常ドメインの天然または改変ペア(Mueller, K.M., et al., FEBS Lett. 422 (1998) 259-264)、TATA結合タンパク質のアミノ酸180個のカルボキシル末端ドメイン(Colemen, R.A., et al., J. Biol. Chem. 270 (1995) 13842-13849)、VCAMおよびVLA-4、インテグリンおよび細胞外マトリックスタンパク質、インテグリンおよび細胞表面分子(例えば、CD54またはCD102)、ALCAM、グルタチオントランスフェラーゼ(transferease)、SRCRドメイン、受容体の二量体ペア(例えば、インターロイキン-8受容体(IL-8R)、インテグリンヘテロ二量体(LFA-1およびGPIIIb/IIIaなど)またはそれらの二量体形成領域のみ、二量体リガンドポリペプチド(例えば、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、インターロイキン-8(IL-8)、血管内皮増殖因子(VEGF)、および脳由来神経栄養因子(BDNF)(例えば、Arakawa, T., et al., J. Biol. Chem. 269 (1994) 27833-27839; Radziejewski, C., et al., Biochem. 32 (1993) 13350-6を参照されたい)またはそれらの二量体形成領域のみ、一般に、ジスルフィド結合を形成できるシステイン残基のペア、ペプチドまたはポリペプチド間でジスルフィド結合が形成できるように少なくとも1つのシステイン残基(例えば、約1、2、または3〜約10個のシステイン残基)をそれぞれが含むペプチドまたはポリペプチドのペア、一般にコイルドコイルドメイン(例えば、Lupas, A., et al., Science 252 (1991) 1162-1164を参照されたい)、p53の四量体化ドメイン、軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(COMP)のN末端残基(アミノ酸20〜80)、αヘリックス配列(例えば、Eisenberg, D., et al., Protein 1 (1986) 16-22; Ho, S.P.およびDeGrado, W.F., J. Am. Chem. Soc. 109 (1987) 6751-6758; Regan, L.およびDeGrado, W.F., Science 241 (1988) 976-978; Hill, C.P., et al., Science 249 (1990) 543-546; Pluckthun, A.およびPack, P., Immunotechnol. 3 (1997) 83-105を参照されたい)より選択される。1つの態様において、多量体化結合パートナーは、重鎖CH2ドメインおよびCH3ドメインの天然もしくは改変ペア、重鎖CH1ドメインおよび軽鎖定常ドメインの天然もしくは改変ペア、天然もしくは改変重鎖ヒンジ領域より選択される。さらなる態様において、多量体化結合パートナーは、重鎖CH2ドメインおよびCH3ドメインの天然もしくは改変ペア、重鎖CH1ドメインおよび軽鎖定常ドメインの天然もしくは改変ペア、重鎖ヒンジ領域ならびにCH2ドメインおよびCH3ドメインの天然もしくは改変配列より選択される。別の態様において、多量体化結合パートナーは、重鎖CH2ドメインおよびCH3ドメインの天然もしくは改変ペア、重鎖CH1ドメインおよび軽鎖定常ドメインの天然もしくは改変ペアより選択される。
【0068】
抗体は、パパイン酵素によるタンパク分解によって各ヒンジ領域のN末端側近くを切断されて、2つの抗原結合断片(Fab)および1つの定常領域断片(Fc)を生じ得る。Fab断片は、軽鎖全体ならびにVHドメインおよびCH1ドメインを含む重鎖のN末端断片からなる。その結果として、Fc部分は、ヒンジ領域中のジスルフィド結合によって連結された2つの重鎖の残りのドメインを含む。
【0069】
抗体のFc部分は、免疫系の構成要素、例えば、補体カスケード(補体依存的細胞障害性(CDC))と相互作用するか、またはFc-γ受容体(抗体依存的細胞障害性(ADCC))もしくは細胞障害性エフェクター細胞に結合することによって相互作用する。Fc部分のエフェクター機能を変更するために、アミノ酸残基の置換を行うことができる(US 5,648,260; US 5,624,821)。Fc部分は、サイトカイン誘導、ADCC、食作用、補体依存的細胞障害性(CDC)、ならびに抗体および抗原-抗体複合体の半減期/クリアランス速度などのエフェクター機能の媒介を担っている。一般に、Fc部分は、226位(Cys)または230位(Pro)から開始し、抗体重鎖のC末端まで及ぶ。
【0070】
本明細書において報告されるGEMOCは、1つまたは複数の炭水化物残基を含むグリコシル化タンパク質である。インビボのタンパク質産生は、翻訳後修飾段階、特にグリコシル化を含む。糖(グリコシル)残基は、タンパク質アミノ酸配列のN-グリコシル化モチーフまたはO-グリコシル化モチーフに酵素によって付加される。例えば、抗体は、Fc部分中およびまた可変ドメイン中に1つまたは複数の炭水化物部分を有するグリコシル化タンパク質である。Fc部分の炭水化物部分は、エフェクター機能を少なくともある程度担っており、抗体の抗原結合または半減期に関して重要度が劣るだけである(only less important)(Jefferis, R., Biotechnol. Prog. 21 (2005) 11-16)。
【0071】
重鎖の定常領域のアミノ酸配列によって、抗体(免疫グロブリン)はIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMのクラスに分類される。これらのクラスの内のいくつかはサブクラス(イソタイプ)にさらに分類され、すなわち、IgGはIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4に、またはIgAはIgA1およびIgA2に分類される。抗体が属する免疫グロブリンに従って、免疫グロブリンの重鎖定常領域はそれぞれα(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)、およびμ(IgM)と呼ばれる。定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、抗体軽鎖はカッパ(κ)軽鎖またはラムダ(λ)軽鎖と表示される。
【0072】
「グリコシル化」という用語は、オリゴ糖が少なくとも1つのアミノ酸残基に付着していることを意味する。細胞中、すなわちインビボでの翻訳後グリコシル化には多数の酵素が関与するため、グリコシル化パターン(patter)を有する、すなわちグリコシル化異種性の組み換えによって作製されるポリペプチドは、そのポリペプチドを発現する細胞の寄与により得られる。このように、したがって、組換えによって作製されるポリペプチドは、指定されたアミノ酸残基において単一の所定のN結合型オリゴ糖またはO結合型オリゴ糖を含むだけでなく、同じアミノ酸配列をそれぞれ有するが、この指定されたアミノ酸位置において異なるオリゴ糖を含むポリペプチドの混合物であり、すなわちグリコシル化パターンを有する。したがって、グリコシル化EMOCは、同じアミノ酸配列をそれぞれ有するが、指定されたアミノ酸位置に異なるオリゴ糖が付着している結合体の集団を含む。本出願内で使用される「オリゴ糖」という用語は、2つまたはそれ以上の共有結合的に連結されている単糖単位を含む糖ポリマーを意味する。1つの態様において、グリコシル化部位に付着するオリゴ糖は、CHO細胞またはHEK293細胞において結合体を発現させることによって得られるオリゴ糖の混合物であり、すなわち、オリゴ糖は、結合体を発現する細胞の翻訳後修飾によって得られるオリゴ糖の混合物であり、すなわち、それは、結合体を発現する細胞に特有である。あるポリペプチドを発現する細胞によって、すなわちインビボで得られるグリコシル化およびグリコシル化パターンは、インビトロで得られるグリコシル化またはグリコシル化パターンと全く異なっている。
【0073】
本発明の別の局面は、それぞれのコード核酸を哺乳動物細胞において発現させることによって、本明細書において報告されるGEMOCを作製するための方法である。
【0074】
詳細には、以下の段階を含む、グリコシル化リピートモチーフ分子結合体を哺乳動物細胞において作製するための方法が本明細書において報告される:
-リピートモチーフ分子結合体をコードする核酸を含む哺乳動物細胞を供給する段階、
-リピートモチーフ分子の発現に適した条件下で細胞を培養する段階、
-細胞または培養培地からグリコシル化リピートモチーフ分子を回収し、それによって、該グリコシル化リピートモチーフ分子を作製する段階、
-任意で、回収された該グリコシル化リピートモチーフ分子を精製する段階。
【0075】
本明細書において報告されるGEMOCは、哺乳動物細胞において、すなわち、インビボのグリコシル化リピートモチーフ分子結合体として作製することができる。グリコシル化型、1つの態様において、インビボグリコシル型のリピートモチーフ分子結合体を作製するための方法が本明細書において報告される。このようなインビボグリコシル化、すなわちリピートモチーフ分子結合体を発現もする同じ細胞におけるグリコシル化は、細胞特異的な翻訳後修飾である。組換えによって作製されるポリペプチドは、インビトロで、すなわち、産生細胞から単離した後にグリコシル化することができる(例えば、抗体に関するLeung, S., et al., J. Immunol. 154 (1995) 5919-5926; US 5,443,953を参照されたい)。
【0076】
ポリペプチドおよび免疫グロブリンを精製するための方法は十分に確立されて広く使用されており、単独でまたは組み合わせて使用される。このような方法は、例えば一定の態様において、微生物由来タンパク質を用いるアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例えば、陽イオン交換クロマトグラフィー(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換クロマトグラフィー(アミノエチル樹脂)、および混合モードの交換クロマトグラフィー)、硫黄親和性吸着(例えば、β-メルカプトエタノールおよび他のSHリガンドを使用)、疎水性相互作用または芳香族吸着クロマトグラフィー(例えば、フェニルセファロース、アザアレーン親和性(aza-arenophilic)樹脂、またはm-アミノフェニルボロン酸を使用)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(例えば、Ni(II)親和性材料およびCu(II)親和性材料を使用)、サイズ排除クロマトグラフィー、ならびに分取用電気泳動法(例えば、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動)(Vijayalakshmi, M.A., Appl. Biochem. Biotech. 75(1998) 93-102)である。1つの態様において、クロマトグラフィーカラム充填剤は、アフィニティークロマトグラフィー材料、またはイオン交換クロマトグラフィー材料、または硫黄親和性吸着クロマトグラフィー材料、または疎水性相互作用クロマトグラフィー材料、または芳香族吸着クロマトグラフィー材料、または金属キレートアフィニティークロマトグラフィー材料、またはサイズ排除クロマトグラフィー材料より選択されるクロマトグラフィー材料である。
【0077】
分泌性ポリペプチドを作製するために、関心対象の構造遺伝子はまた、シグナル配列/リーダーペプチドをコードするDNAセグメントも含んでよい。シグナル配列は、新しく合成されたポリペプチドを小胞体(ER)の膜へ、かつ膜を通過するように導き、そこでポリペプチドの分泌経路を定めることができる。シグナル配列は、タンパク質がER膜を通過する間に、シグナルペプチダーゼによって切断される。シグナル配列の機能に関しては、宿主細胞の分泌機構による認識が不可欠である。したがって、使用されるシグナル配列は、宿主細胞のタンパク質および分泌機構の酵素によって認識されなければならない。
【0078】
翻訳調節要素には、翻訳開始コドン(AUG)および停止コドン(TAA、TAG、またはTGA)が含まれる。配列内リボソーム進入部位(IRES)が、一部の構築体に含まれてよい。
【0079】
したがって、本明細書において報告される別の局面は、以下の要素を含む、哺乳動物細胞においてリピートモチーフ分子結合体を発現させるための核酸である:
-ヒトサイトメガロウイルス由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-抗体生殖系列遺伝子の5'非翻訳領域、
-免疫グロブリンの重鎖シグナル配列、
-リピートモチーフ分子結合体のコード配列、
-ポリアデニル化(「ポリA」)シグナル配列。
【0080】
1つの態様において、抗体生殖系列遺伝子の5'非翻訳領域はヒト抗体生殖系列遺伝子のものである。別の態様において、免疫グロブリン重鎖シグナル配列は、マウスまたはヒトの免疫グロブリン重鎖シグナル配列である。さらなる態様において、免疫グロブリン重鎖シグナル配列は、シグナル配列イントロンを含む(シグナル配列1、イントロン、シグナル配列2[L1-イントロン-L2])。
【0081】
本明細書において提示する主題を、HER2に結合するリピートモチーフ分子の2つのモデル(DARPin H10-2-G3、足場N2C(2リピート)、Zahnd, C., et al., J. Mol. Biol. 369 (2007) 1015-1028; DARPin 9-26、足場N3C(3リピート)、Steiner, D., et al., J. Mol. Biol. 382 (2008) 1211-1227)を用いて以下に例示する。これらのGEMOCをHEK293細胞において発現させるための4つの発現構築体を試験した(N末端からC末端の方向に):
1)リーダーペプチド-リピートモチーフ分子-ヘキサヒスチジンタグ、
2)リーダーペプチド-リピートモチーフ分子-免疫グロブリンFc断片、
3)リーダーペプチド-免疫グロブリンFc断片-リピートモチーフ分子、
4)リーダーペプチド-免疫グロブリンFab断片-リピートモチーフ分子。
【0082】
したがって、本明細書において報告されるさらなる局面は、SEQ ID NO:10、11、12、13、34、35、36、37、38、39、40、41、42のGEMOC、SEQ ID NO:11および11、SEQ ID NO:13および13、SEQ ID NO:11および13、SEQ ID NO:34および34、SEQ ID NO:35および35、SEQ ID NO:34および35、SEQ ID NO:36および37、SEQ ID NO:39および39を含むGEMOC、ならびにそれらをコードする個々の核酸、ならびにこれらのコード核酸配列および配列組合せを有する個々の核酸、ならびにこれらのGEMOCを作製するための方法である。
【0083】
以下の実施例、配列表、および図面は、本発明の理解を助けるために提供され、本発明の真の範囲は添付の特許請求の範囲において説明される。本発明の精神から逸脱することなく、説明される手順に変更を加え得ることが理解されよう。
【0084】
配列表の説明
SEQ ID NO:01 アンキリンリピートモチーフ分子のアミノ酸のコンセンサス配列1。
SEQ ID NO:02 アンキリンリピートモチーフ分子のアミノ酸のコンセンサス配列2。
SEQ ID NO:03 アンキリンリピートモチーフ分子のアミノ酸のコンセンサス配列3。
SEQ ID NO:04 アンキリンリピートモチーフ分子のアミノ酸のコンセンサス配列4。
SEQ ID NO:05 アンキリンリピートモチーフ分子のアミノ酸のコンセンサス配列5。
SEQ ID NO:06 アンキリンリピートモチーフ分子のアミノ酸のコンセンサス配列6。
SEQ ID NO:07 アンキリンリピートモチーフ分子のアミノ酸のコンセンサス配列7。
SEQ ID NO:08 アンキリンリピートモチーフ分子のアミノ酸のコンセンサス配列8。
SEQ ID NO:09 アンキリンリピートモチーフ分子のアミノ酸のコンセンサス配列9。
SEQ ID NO:10 ヘキサヒスチジンタグアミノ酸配列がC末端に結合したリピートモチーフ分子モデルH10-2-G3。
SEQ ID NO:11 IgG1 Fc部分がC末端に結合したリピートモチーフ分子モデルH10-2-G3。
SEQ ID NO:12 ヘキサヒスチジンタグアミノ酸配列がC末端に結合したリピートモチーフ分子モデル9-26。
SEQ ID NO:13 IgG1 Fc部分がC末端に結合したリピートモチーフ分子モデル9-26。
SEQ ID NO:14〜33 ペプチドリンカー配列。
SEQ ID NO:34 ヒンジ領域中に2つのジスルフィド結合を有するIgG1 Fc部分がC末端に結合したリピートモチーフ分子モデルH10-2-G3。
SEQ ID NO:35 ヒンジ領域中に2つのジスルフィド結合を有するIgG1 Fc部分がC末端に結合したリピートモチーフ分子モデル9-26。
SEQ ID NO:36 CH3ノブドメインを有するIgG1 Fc部分がC末端に結合したリピートモチーフ分子モデルH10-2-G3。
SEQ ID NO:37 CH3ホールドメインを有するIgG1 Fc部分がC末端に結合したリピートモチーフ分子モデル9-26。
SEQ ID NO:38 リピートモチーフ分子モデル9-26がC末端に結合したリピートモチーフ分子モデルH10-2-G3。
SEQ ID NO:39 リピートモチーフ分子モデル9-26がC末端に結合されヒンジ領域中に2つのジスルフィド結合を有するIgG1 Fc部分がC末端に結合した、リピートモチーフ分子モデルH10-2-G3。
SEQ ID NO:40 ヘキサヒスチジンタグがC末端に結合したリピートモチーフ分子モデル9-26がC末端に結合した、リピートモチーフ分子モデルH10-2-G3。
SEQ ID NO:41 ヘキサヒスチジンタグがC末端に結合したリピートモチーフ分子モデルH10-2-G3がC末端に結合した、リピートモチーフ分子モデル9-26。
SEQ ID NO:42 ヘキサヒスチジンタグがC末端に結合したリピートモチーフ分子9-26二量体モデル。
SEQ ID NO:43 ヒトIgG1定常領域。
SEQ ID NO:44 ヒトIgG4定常領域。
SEQ ID NO:45 ヒトκ定常領域。
SEQ ID NO:46 ヒトλ定常領域。
SEQ ID NO:47 N末端キャッピングリピート。
SEQ ID NO:48 C末端キャッピングリピート。
SEQ ID NO:49 CMVプロモーター配列。
SEQ ID NO:50 抗Aβ抗体可変重鎖ドメイン(variable heavy chain domain)アミノ酸配列。
SEQ ID NO:51 抗Aβ抗体可変重鎖ドメインアミノ酸配列。
SEQ ID NO:52 抗Aβ抗体可変重鎖ドメインアミノ酸配列。
SEQ ID NO:53 抗Aβ抗体可変軽鎖ドメイン(variable light chain domain)アミノ酸配列。
SEQ ID NO:54 抗Aβ抗体可変軽鎖ドメインアミノ酸配列。
SEQ ID NO:55 抗Aβ抗体可変軽鎖ドメインアミノ酸配列。
SEQ ID NO:56 ヘキサヒスチジンタグアミノ酸配列がC末端に結合し、Cキャッピングリピートの最初の位置に改変グリコシル化部位が導入されたリピートモチーフ分子モデルH10-2-G3。
SEQ ID NO:57 IgG1 Fc部分がC末端に結合し、そのC末端に膜アンカードメインが結合したリピートモチーフ分子モデルH10-2-G3。
SEQ ID NO:58 ヘキサヒスチジンタグアミノ酸配列がC末端に結合し、Cキャッピングリピートの最初の位置に改変グリコシル化部位が導入されたリピートモチーフ分子モデル9-26。
SEQ ID NO:59 IgG1 Fc部分がC末端に結合し、そのC末端に膜アンカードメインが結合したリピートモチーフ分子モデル9-26。
SEQ ID NO:60 ヘキサヒスチジンタグアミノ酸配列がC末端に結合し、C末端領域中にグリコシル化タグを有する、リピートモチーフ分子モデルH10-2-G3。
SEQ ID NO:61 ヘキサヒスチジンタグアミノ酸配列がC末端に結合し、C末端領域中にグリコシル化タグを有する、リピートモチーフ分子モデル9-26。
SEQ ID NO:62 ヘキサヒスチジンタグアミノ酸配列およびグリコシル化タグがC末端に結合したリピートモチーフ分子モデルH10-2-G3。
SEQ ID NO:63 ヘキサヒスチジンタグアミノ酸配列およびグリコシル化タグがC末端に結合したリピートモチーフ分子モデル9-26。
SEQ ID NO:64 ヘキサヒスチジンタグを有するアンチカリンA-44を含む結合体モデル。
SEQ ID NO:65 Fcタグおよびヒンジ領域中の3つのジスルフィド架橋を有するアンチカリンA-44モデル。
SEQ ID NO:66 Fcタグおよびヒンジ領域中の2つのジスルフィド架橋を有するアンチカリンA-44モデル。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】抗体のドメイン構造の図式的提示およびその他の図面の記号説明。
【図2】2つまたはそれ以上のリピートモチーフ分子を含む例示的結合体。
【図3】様々な個々の抗体ドメインのN末端およびC末端に1つのリピートモチーフ分子が結合した例示的結合体。
【図4】2つ、3つ、または4つの抗体ドメインの組合せのN末端およびC末端に1つのリピートモチーフ分子が結合した例示的結合体。
【図5】ジスルフィド結合によって連結された抗体ドメインのN末端およびC末端に1つのリピートモチーフ分子が結合した例示的結合体。
【図6】C末端1つだけおよびN末端1つだけを含む非リピートモチーフ分子に2つのリピートモチーフ分子が結合した例示的結合体。
【図7】ジスルフィド結合によって連結された抗体ドメインを含む非リピートモチーフ分子に2つのリピートモチーフ分子が結合した例示的結合体(パート1)。
【図8】ジスルフィド結合によって連結された抗体ドメインを含む非リピートモチーフ分子に2つのリピートモチーフ分子が結合した例示的結合体(パート2)。
【図9】2つのC末端および2つのN末端を含む非リピートモチーフ分子に4つのリピートモチーフ分子が結合した例示的結合体。
【図10】ジスルフィド結合によって連結された抗体ドメインを含む非リピートモチーフ分子に4つのリピートモチーフ分子が結合した例示的結合体(パート1)。
【図11】ジスルフィド結合によって連結された抗体ドメインを含む非リピートモチーフ分子に4つのリピートモチーフ分子が結合した例示的結合体(パート2)。
【図12】6つのリピートモチーフ分子および1つの非リピートモチーフ分子の例示的結合体。
【図13】ドメイン交換された例示的GEMOC。
【図14】発現プラスミド9800のプラスミドマップ。
【図15】発現プラスミド9801のプラスミドマップ。
【図16】重鎖-ポリペプチド結合体発現プラスミド9807のプラスミドマップ。
【図17】抗体軽鎖発現ベクター5170のプラスミドマップ。
【図18】一過性にトランスフェクトされたHEK293細胞の上清において7日目に発現されたアンキリン-リピートモチーフ分子結合体のSDS-PAGEゲル;構築体1=SEQ ID NO:10のタンパク質、構築体2=SEQ ID NO:12のタンパク質、構築体3=SEQ ID NO:11のタンパク質、構築体4=SEQ ID NO:13のタンパク質。
【図19】可溶性HER2への本発明によるGEMOCの結合のBIAcore解析。
【実施例】
【0086】
実施例1
プラスミド構築
Sambrook, J. et al., Molecular cloning: A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989において説明されているように、標準的方法を用いてDNAを操作した。分子生物学的試薬は、製造業者の取扱い説明書に従って使用した。遺伝子合成によって、所望の遺伝子セグメントを調製した。合成した遺伝子断片を指定の発現ベクター中にクローニングした。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列をDNA配列決定によって確認した。
【0087】
発現プラスミド9800および9803
SEQ ID NO:10またはSEQ ID NO:12の結合体をコードする遺伝子セグメントを、独特な制限部位BsmIおよびBpu10Iを介して指定の発現プラスミド中にクローニングした。発現プラスミドは、例えばHEK293細胞における発現とその後の精製のために、結合体のコード配列とC末端ヘキサヒスチジンタグを組み合わせるように設計した。結合体の発現カセットのほかに、プラスミドは以下を含む:
-大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にする、ベクターpUC18由来の複製起点、および
-大腸菌にアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子。
【0088】
結合体のコード配列の転写単位は、以下の要素を含む:
-ヒトサイトメガロウイルス由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-ヒト抗体生殖系列遺伝子の5'非翻訳領域、
-シグナル配列イントロンを含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列(シグナル配列1、イントロン、シグナル配列2[L1-イントロン-L2])およびL2の3'末端の独特な制限部位BsmI、
-結合体のコード配列、
-結合体のコード配列の3'末端の独特なBpu10Iをコードし、結合体のコード配列とインフレームであるGSGリンカー、
-GSGリンカーの3'末端にあり、結合体のコード配列およびGSGリンカーとインフレームである、ヘキサヒスチジンタグ
-ポリアデニル化(「ポリA」)シグナル配列、ならびに
-発現される配列の3'末端の独特な制限部位NheIおよびEagI。
【0089】
したがって、発現プラスミド9800および9803のプラスミドマップを図14に示す。成熟した(シグナル配列無しの)結合体のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:10および12に示す。
【0090】
発現プラスミド9801および9804
SEQ ID NO:11またはSEQ ID NO:13の結合体をコードする遺伝子セグメントを、独特な制限部位HindIIIおよびPmlIを介して指定の発現プラスミド中にクローニングした。発現プラスミドは、クラスIgG1免疫グロブリンのヒンジ領域のN末端に結合体を結合し、それによって、天然のVHドメインおよびCH1ドメインと入れ替わるように設計した。結果として生じる発現プラスミドは、例えばHEK293細胞においてそれぞれSEQ ID NO:11および13の結合体を発現させるために有用であった。IgG1のヒンジ、CH2配列、およびCH3配列に結合したリピートモチーフ分子の発現カセットのほかに、プラスミドは以下を含む:
-大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にする、ベクターpUC18由来の複製起点、および
-大腸菌にアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子。
【0091】
リピートモチーフ分子-ヒンジ-CH2-CH3結合体の転写単位は、以下の要素から構成される:
-ヒトサイトメガロウイルス由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-ヒトサイトメガロウイルスのイントロンA配列、
-ヒト抗体生殖系列遺伝子の5'非翻訳領域、
-シグナル配列イントロンを含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列(シグナル配列1、イントロン、シグナル配列2[L1-イントロン-L2])およびL2の3'末端の独特な制限部位BsmI、
-結合体のコード配列、
-ヒトIgG1のヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインをコードし、結合体のコード配列のクローニングを可能にする独特なPmlI制限部位をヒンジ領域中に有する配列、ならびに
-ポリアデニル化(「ポリA」)シグナル配列。
【0092】
したがって、発現プラスミド9801および9804のプラスミドマップを図15に示す。成熟した(シグナル配列無しの)結合体のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:11および13に示す。
【0093】
発現プラスミド9807および9808
ヘキサヒスチジンタグを有していないSEQ ID NO:10および12のリピートモチーフ分子と結合させることができる抗体の例は、アミロイドβ-A4ペプチドに対する抗体(抗Aβ抗体)である。このような抗体および対応する核酸配列は、例えば、WO 2003/070760またはUS 2005/0169925において報告されている。結合体をコードする遺伝子セグメントを、独特な制限部位MroIおよびNheIを介して指定の発現プラスミド中にクローニングした。発現プラスミドは、サブクラスIgG1のヒト免疫グロブリン重鎖のC末端にポリペプチドを結合するように設計した(ゲノムが組織化された(genomically organized)発現カセット;エキソン-イントロン構成(organization))。結果として生じる発現プラスミドは、例えばHEK293細胞において結合体を発現させるために有用であった。モノクローナル抗体の重鎖-リピートモチーフ分子結合体の発現カセットのほかに、プラスミドは以下を含む:
-大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にする、ベクターpUC18由来の複製起点、および
-大腸菌にアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子。
【0094】
重鎖-リピートモチーフ分子結合体の転写単位は、以下の要素から構成される:
-ヒトサイトメガロウイルス由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-ヒト抗体生殖系列遺伝子の5'非翻訳領域、
-シグナル配列イントロンを含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列(シグナル配列1、イントロン、シグナル配列2[L1-イントロン-L2])、
-スプライス供与部位および3'末端の独特なBamHI制限部位と共に配列された、抗Ab抗体可変重鎖ドメインをコードするセグメント、
-イントロンで隔てられた、ヒトγ1定常ドメインCH1、ヒンジ、CH2、およびCH3をコードする核酸、
-CH3ドメインの3'末端にインフレームで融合された(G4S)3リンカー、
-リンカーのC末端にインフレームなポリペプチドのクローニングを可能にする、リンカーの3'末端の独特な制限部位MroIおよびNheI、ならびに
-ポリアデニル化(「ポリA」)シグナル配列。
【0095】
したがって、重鎖-リピートモチーフ分子結合体発現プラスミド9807および9808のプラスミドマップを図15に示す。
【0096】
発現プラスミド5170
抗体軽鎖の発現のために、プラスミド5170を使用した。プラスミド5170は、例えば、HEK293細胞において抗体軽鎖を一過性発現させるための発現プラスミドである(ゲノムが組織化された(genomically organized)発現カセット;エキソン-イントロン構成(organization))。
【0097】
抗体κ軽鎖発現カセットのほかに、このプラスミドは以下を含む:
-選択マーカーとしてのネオマイシン(neomycine)耐性遺伝子、
-大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にする、ベクターpUC18由来の複製起点、および
-大腸菌にアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子。
【0098】
抗体κ軽鎖遺伝子の転写単位は、以下の要素から構成される:
-ヒトサイトメガロウイルス由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-ヒト抗体生殖系列遺伝子の5'非翻訳領域、
-シグナル配列イントロンを含むマウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列(シグナル配列1、イントロン、シグナル配列2[L1-イントロン-L2])、
-スプライス供与部位および3'末端の独特なBamHI制限部位、短縮されたヒトκ軽鎖イントロン2と共に配列された、抗Aβ抗体可変軽鎖ドメインをコードするセグメント、
-ヒトκ軽(light)遺伝子定常ドメイン
-ポリアデニル化(「ポリA」)シグナル配列、ならびに
-3'末端の独特な制限部位AscIおよびSgrAI。
【0099】
抗体κ軽鎖発現ベクター5170のプラスミドマップを図17に示す。
【0100】
実施例2
一過性のトランスフェクションおよび発現
実施例1において例示した本発明による組換え結合体を、懸濁液中で増殖するHEK293-Freestyle細胞(ヒト胎児由来腎臓細胞株(human embryonic kidney cell line 293)、Invitrogen)の一過性トランスフェクションによって得た。30ml〜250ml培地の規模、振盪フラスコ中、37℃、8%CO2で、6mMグルタミン(Ultra-Glutamine(Biowhittake/Lonza)またはL-Glutamine(Sigma)のいずれか)を添加したF17培地(Gibco)またはFreestyle 293培地(Invitrogen)において、トランスフェクトされた細胞を培養した。トランスフェクションのために、Fectin(Invitrogen)を試薬(μl)とDNA(μg)の比率4:3で使用した。抗体重鎖のC末端への結合体の場合、軽鎖をコードするプラスミドと重鎖をコードするプラスミドをそれぞれ1:2〜2:1の範囲のモル比で用いて、2つの異なるプラスミドから軽鎖および重鎖を発現させた。結合体を含む細胞培養物上清を、トランスフェクション後6〜8日目に回収した。例えばHEK293細胞におけるヒト免疫グロブリンの組み換え発現に関する一般的情報は、Meissner, P. et al., Biotechnol. Bioeng. 75 (2001) 197-203において与えられる。
【0101】
実施例3
SDS-PAGEを用いた発現解析
LDS試料用緩衝液、4倍濃縮物(4×LDS):4gグリセロール、0.682g TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(tris-(hydroxymethyl)-aminomethane))、0.666g TRIS-HCl(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩(tris-(hydroxymethyl)-aminomethane-hydrochloride))、0.8g LDS(lithium dodecyl sulfate)、0.006g EDTA(ethylene diamin tetra acid)、1重量%(w/w)のServa Blue G250水溶液0.75ml、1重量%(w/w)のフェノールレッド水溶液0.75ml、水を加えて総体積10mlにする。
【0102】
分泌された結合体を含む培養液を遠心分離して、細胞および細胞片を除去した。清澄にした上清の分取物を1/4体積(v/v)の4×LDS試料用緩衝液および1/10体積(v/v)の0.5M 1,4-ジチオトレイトール(DTT)と混合した。次いで、75℃で10分間、試料をインキュベートし、SDS-PAGEによってタンパク質を分離した。NuPAGE(登録商標) Pre-Castゲルシステム(Invitrogen)を製造業者の取扱い説明書に従って使用した。具体的には(In particular)、10% NuPAGE(登録商標)Novex(登録商標)Bis-TRIS Pre-Castゲル(pH6.4)およびNuPAGE(登録商標)MES泳動用緩衝液を使用した。ポリペプチドおよびポリペプチド結合体を明瞭に検出することができた(図18を参照されたい)。
【0103】
実施例4
アフィニティークロマトグラフィーおよびゲルろ過クロマトグラフィーによるタンパク質精製
Fc結合体および抗体結合体
発現され分泌されたFc結合体および抗体結合体を、プロテインA親和性材料MabSelectSure(GE Healthcare)を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。簡単に説明すると、遠心分離(10,000gで10分間)および0.45μmフィルターによるろ過後、結合体を含む清澄にした培養上清を、PBS緩衝液(10mM Na2HPO4、1mM KH2PO4、137mM NaCl、および2.7mM KCl、pH7.4)で平衡にしたMabSelectSureカラムに添加した。平衡緩衝液で洗浄することによって、未結合タンパク質を除去した。0.1Mクエン酸緩衝液、pH3.3で結合体を溶出させ、生成物を含む画分を1M TRIS pH9.0で中和した。その後、溶液を4℃でPBS緩衝液に対して透析し、Amicon Centricon濃縮装置を用いて濃縮し、0℃で氷水を入れた水槽中に保存した。解析的サイズ排除クロマトグラフィーによって、Fc結合体および抗体結合体の凝集を解析した。高分子量の凝集物を示す画分を分取用サイズ排除クロマトグラフィーに供した。簡単に説明すると、Centricon装置(Amicon)中で濃縮および希釈を繰り返すことによって、結合体の緩衝液をヒスチジン緩衝液(20mMヒスチジン、140mM NaCl、pH6.0)に交換した。1〜4mlに濃縮した後、結合体を含む溶液を、同じヒスチジン緩衝液で平衡にしたSuperdex200 High Loadカラム(GE HealthCare)に添加した。1mlの画分を採取した。解析的SEC(Superdex200、GE HealthCare)によって全画分を解析し、単量体だけ(purely)の結合体を有する画分を集めた。以前のパラグラフで説明したように、還元剤の存在下および不在下でクーマシーブリリアントブルーによって染色するSDS-PAGEによって、結合体の完全性を解析した。
【0104】
SEQ ID NO:10および12の結合体
ヘキサヒスチジンタグを含む発現され分泌された結合体(SEQ ID NO:10および12)を、公知の方法に従って、ニッケルキレート化親和性材料Ni-Sepharose HP HighTrap(GE Healthcare)を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。簡単に説明すると、遠心分離(10,000gで10分間)および0.45μmフィルターによるろ過後、結合体を含む清澄にした培養上清を、リン酸緩衝液(50mM Na3PO4、300mM NaCl、pH8.0)で平衡にしたNi-Sepharoseカラムに添加した。20mMイミダゾールを含むリン酸平衡緩衝液で洗浄することによって、未結合タンパク質を除去した。導電率勾配(conductivity gradient)を用いて、結合体を溶出させた。その後、結合体を含む溶液を4℃でヒスチジン緩衝液(20mMヒスチジン、140mM NaCl、pH6.0)に対して徹底的に(extensively)透析し、Amicon Centricon濃縮装置を用いて濃縮し、0℃で氷水を入れた水槽中に保存した。解析的サイズ排除クロマトグラフィーによって、Fc結合体および抗体結合体の凝集を解析した。高分子量の凝集物を示す画分を、公知の方法に従う分取用サイズ排除クロマトグラフィーに供した。簡単に説明すると、結合体を含む濃縮された溶液を、上記に報告したように、同じヒスチジン緩衝液で平衡にしたSuperdex200 High Loadカラム(GE HealthCare)に添加した。1mlの画分を採取した。解析的SEC(Superdex200、GE HealthCare)によって全画分を解析し、単量体だけの結合体を有する画分を集めた。以前のパラグラフで説明したように、還元剤の存在下および不在下でクーマシーブリリアントブルーによって染色するSDS-PAGEによって、結合体の完全性を解析した。
【0105】
実施例5
BIAcoreによる結合アッセイ法
表面プラズモン共鳴測定はすべて、BIAcore 3000機器(GE Healthcare Biosciences AB、Sweden)を用いて25℃で実施した。泳動用緩衝液および希釈緩衝液は、PBS(1mM KH2PO4、10mM Na2HPO4、105mM NaCl、2.7mM KCl)、pH6.0、0.005%(v/v) Tween 20であった。可溶性プロテインAを10mM酢酸ナトリウム緩衝液、pH5.0中で希釈し、標準的なアミンカップリングキット(GE Healthcare Biosciences AB、Sweden)を用いてCM5バイオセンサーチップ上に固定して、約1000 RUのプロテインA表面密度を得た。HBS-P(10mM HEPES、pH7.4、118mM NaCl、0.005%サーファクタントP20;GE Healthcare Biosciences AB、Sweden)を固定化中の泳動用緩衝液として使用した。問題のFc結合体および抗体結合体を、PBS、0.005%(v/v) Tween 20、pH6.0で濃度が450nMになるまで希釈し、30μl/分の流速で3分間に渡って注入した。次いで、可溶性リガンドを同じ緩衝液中で70〜680nMの間の様々な濃度に希釈し、30μl/分の流速で3分間に渡って注入した。その後、PBS、pH8.0、0.005%(v/v) Tween 20で1分間、センサーチップを再生した。BIAevaluationソフトウェア(BIAcore、Sweden)を用いてデータ解析を実施した(図19を参照されたい)。
【0106】
実施例6
ELISAによる結合アッセイ法
ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)試験を用いて、Fc結合体および抗体結合体の結合を測定した。本明細書においては、ストレプトアビジン/ビオチン技術に基づいたサンドイッチアッセイ法を使用した。ストレプトアビジンでコーティングしたマイクロタイタープレートをこのアッセイ法のために使用した。
【0107】
実施例7
FACSによる結合アッセイ法
HER2を過剰発現する安定な細胞株SK-BR-3(ATCC番号HTB-30)を、10%ウシ胎児血清(FCS)および2mM L-グルタミンを添加したマッコイ5a培地(PAN)中で培養した。本発明による結合体によって細胞表面のHER2を検出するために、ブロッキング試薬として1%FCSを添加したPBSで細胞を洗浄した。PBS/1% FCS中、4℃で15分間、結合体を細胞と共にインキュベートし、洗浄し、結合体を検出する適切な蛍光標識二次抗体と共にインキュベートした。標識された細胞を、蛍光支援型細胞選別(fluorescence assisted cell sorting)(FACS)により、細胞への結合体の結合に関して選別した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式
(リピートモチーフ分子−リンカーn)m−(結合パートナー)q−(リンカーo−リピートモチーフ分子)p
のグリコシル化リピートモチーフ分子結合体であり、ここで、
nおよびoは、互いとは無関係でありかつmおよびpおよびqの各値とは無関係である、0または1の整数値であり、かつ
mおよびpは、互いとは無関係である、0または1または2または3または4または5または6または7の整数値であり、かつ
qは、n、m、o、およびpの値とは無関係である、0または1の整数値であり、
該リピートモチーフ分子結合体が、グリコシル化部位に付着した少なくとも1つのオリゴ糖を含み、かつ
該結合パートナーが、3つのシステイン残基を有する改変抗体重鎖ヒンジ領域を含む、グリコシル化リピートモチーフ分子結合体。
【請求項2】
前記リピートモチーフ分子がアンキリンリピートモチーフ分子もしくはロイシンリッチリピートモチーフ分子またはアンチカリンであることを特徴とする、請求項1記載の結合体。
【請求項3】
前記アンキリンリピートモチーフ分子がSEQ ID NO:4のアミノ酸配列またはその変異体を有することを特徴とする、請求項2記載の結合体。
【請求項4】
前記リンカーが、SEQ ID NO:14およびSEQ ID NO:25〜SEQ ID NO:33より選択されるペプチドリンカーであることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の結合体。
【請求項5】
前記結合パートナーが、多量体化結合パートナーであることを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の結合体。
【請求項6】
前記多量体化結合パートナーが、重鎖CH2ドメインおよびCH3ドメインの天然もしくは改変ペア、重鎖CH1ドメインおよび軽鎖定常ドメインの天然もしくは改変ペア、天然もしくは改変重鎖ヒンジ領域、重鎖ヒンジ領域ならびにCH2ドメインおよびCH3ドメインの天然もしくは改変配列、ロイシンジッパードメイン、イソロイシンジッパードメイン、4ヘリックスバンドル、ならびにp53四量体化ドメインより選択されることを特徴とする、請求項5記載の結合体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載のグリコシル化リピートモチーフ分子結合体を2つ含むことを特徴とする、グリコシル化リピートモチーフ分子結合体。
【請求項8】
前記多量体化結合パートナーが、3つのシステイン残基を有する改変重鎖ヒンジ領域を含むことを特徴とする、請求項7記載の結合体。
【請求項9】
(i) n=1、m=1、q=1、p=0、または
(ii) n=0、m=1、q=1、p=0、または
(iii) m=0、o=1、q=1、p=1、または
(iv) m=0、o=0、q=1、p=1、または
(v) m=1、n=0、o=1、q=1、p=1、または
(vi) m=1、n=1、o=1、q=1、p=1
であり、
前記結合パートナーが、重鎖CH2ドメインおよびCH3ドメインの天然もしくは改変ペア、重鎖CH1ドメインおよび軽鎖定常ドメインの天然もしくは改変ペア、ならびに天然もしくは改変重鎖ヒンジ領域、重鎖ヒンジ領域ならびにCH2ドメインおよびCH3ドメインの天然もしくは改変配列より選択され、
前記リピートモチーフ分子が、アンキリンリピートモチーフ分子である
ことを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の結合体。
【請求項10】
m=0、q=1、p=1、o=0またはo=1
であり、
前記結合パートナーが、N末端のSEQ ID NO:50もしくは51もしくは52とC末端のSEQ ID NO:43もしくは44との結合体、またはN末端のSEQ ID NO:53もしくは54もしくは55とC末端のSEQ ID NO:45もしくは46との結合体より選択され、かつ
前記リピートモチーフ分子が、アンキリンリピートモチーフ分子である
ことを特徴とする、前記請求項のいずれか一項記載の結合体。
【請求項11】
請求項10記載のグリコシル化リピートモチーフ分子結合体を2つ含むことを特徴とする、グリコシル化リピートモチーフ分子結合体。
【請求項12】
以下をさらに含むことを特徴とする、請求項11記載のグリコシル化リピートモチーフ分子結合体:
(a)リピートモチーフ分子の結合パートナーがSEQ ID NO:50、51、および52を含む場合には、N末端のSEQ ID NO:53もしくは54もしくは55とC末端のSEQ ID NO:45もしくは46との結合体2つ、または
(b)リピートモチーフ分子の結合パートナーがSEQ ID NO:53、54、および55を含む場合には、N末端のSEQ ID NO:50もしくは51もしくは52とC末端のSEQ ID NO:43もしくは44との結合体2つ。
【請求項13】
以下の要素を含む、核酸:
-ヒトサイトメガロウイルス由来の最初期エンハンサーおよびプロモーター、
-抗体生殖系列遺伝子の5'非翻訳領域、
-免疫グロブリンの重鎖シグナル配列、
-リピートモチーフ分子結合体のコード配列、
-ポリアデニル化(「ポリA」)シグナル配列。
【請求項14】
以下の段階を含む、請求項1〜11のいずれか一項記載のグリコシル化リピートモチーフ分子結合体を作製するための方法:
-請求項13記載の核酸を含む哺乳動物細胞を供給する段階、
-該リピートモチーフ分子結合体の発現に適した条件下で該細胞を培養する段階、
-該細胞または培養培地から該グリコシル化リピートモチーフ分子結合体を回収し、それによって、該グリコシル化リピートモチーフ分子結合体を作製する段階、
-任意で、回収された該グリコシル化リピートモチーフ分子結合体を精製する段階。
【請求項15】
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞、NS0細胞、Sp2/0細胞、Per.C6細胞、およびHEK293細胞より選択される、請求項14記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公表番号】特表2013−509868(P2013−509868A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537323(P2012−537323)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006728
【国際公開番号】WO2011/054519
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】