説明

グリセリルエーテル

【課題】乳液、ファンデーション、クレンジングオイル、サンスクリーン乳液、セルフタンニングローション、シャンプー、ヘアリンス、酸性染毛料、ボディーソープ等の各種香粧料をはじめ、洗浄剤、潤滑剤、保湿剤等に極めて有用な、酸性からアルカリ性の広い液性において耐加水分解性に優れ安定性に優れるグリセリルエーテルを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のグリセリルエーテルは、式(1)で表される構成を有する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリルエーテルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
グリセリルエーテルは、天然には鮫肝油の不ケン化物中にスクワレンと共に存在し、毒性が低く、皮膚に対する刺激性もなく、サラサラ感があり保湿性に優れているため、従来より、化粧品や軟膏などに広く使用されている。しかしながら、鮫肝油等から得られるグリセリルエーテルは動物資源であるため、動物愛護及び動物資源保護の観点からその使用が著しく規制されているという問題があった。さらに、鮫肝油等から得られるモノグリセリルエーテルであるバチルアルコール、キミルアルコール及びセラキルアルコールは固体又は半固体であるため、取扱性に劣るという問題も有していた。
上記問題解決のために、動物資源の代替品として様々なアルコールから(特許文献1),(特許文献2),(特許文献3)に示すような方法でグリセリルエーテルが合成され、香粧剤、洗浄剤、潤滑剤等に使用されている。
【特許文献1】特開平5−43501号公報
【特許文献2】特開昭58−134049号公報
【特許文献3】特開昭56−133281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)グリセリルエーテルの原料アルコールが石油化学合成によって得られるアルコールの場合は、石油資源枯渇の一因となるとともに、個人差はあるが、皮膚刺激等の問題が生じ易いという課題を有していた。また、香粧剤に使用した場合、保湿性やしっとり感に欠けるという課題を有していた。
(2)香粧剤、洗浄剤及び潤滑剤等に使用する場合、他の配合成分等の影響を受け、酸性条件下或いはアルカリ性条件下で使用されることになるため、酸性からアルカリ性の広い液性において高い耐加水分解性を有することが求められる。しかし、酸性からアルカリ性の広い液性において安定性に優れるグリセリルエーテルは、いまだ得られていないのが現状である。
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、酸性からアルカリ性の広い液性において安定性に優れるグリセリルエーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記従来の課題を解決するために本発明のグリセリルエーテルは、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載のグリセリルエーテルは、式(1)で表される構成を有している。
【0006】
【化1】

【0007】
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)酸性からアルカリ性の広い液性において高い耐加水分解性を有しおり安定性に優れている。これは、酸素と結合した2級炭素に2つの長鎖アルキル基が結合したアルコール残基を有しているので、加水分解に対して立体障害として作用するためではないかと推察している。
【0008】
ここで、グリセリルエーテルの原料であるCH(CHCH(OH)CHCH(CH)(CHCHで表される7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンは、2−オクタノールのゲルベ反応により得られる2量化2−オクタノールである。2−オクタノールとして、ひまし油中のリシノール酸のアルカリ分解により得られるアルコールを用いると、その入手は容易であり、石油化学由来の化合物ではなく、トウゴマの種子を圧搾して得られるヒマシ油やリシノール酸からの植物由来の化合物なので、石油資源枯渇のおそれがなく省資源性に優れるとともに環境保全性に優れている。また、植物由来の化合物なので皮膚刺激等の問題が生じ難い。
【0009】
グリセリルエーテルを2量化2−オクタノールより製造する方法としては、種々の公知の方法を用いることができる。例えば、(a)2量化2−オクタノールをハライドとなし、これに水酸基を保護したグリセロールアルカリ金属アルコラートを反応させて4−アルコキシメチル−1,3−ジオキソランに導き、次いでこれを加水分解する方法、(b)2量化2−オクタノールとエピハロヒドリンよりグリシジルエーテルを導き、これを加水分解する方法、(c)2量化2−オクタノールとエピハロヒドリンよりグリシジルエーテルを導き、これにカルボン酸を反応させた後、これを加水分解する方法、(d)2量化2−オクタノールから導いたグリシジルエーテルにカルボニル化合物を付加させて1,3−ジオキシソラン化合物に導き、これを加水分解する方法等である。
なかでも、2量化2−オクタノールとエピハロヒドリンよりグリシジルエーテルを導き、これに酢酸等のカルボン酸を反応させた後、これを加水分解する式(2)で表される方法が好適に用いられる。これにより、2級アルコールであると同時に立体的障害によるため反応性の低い2量化2−オクタノールであっても高収率で高純度のモノグリセリルエーテルを製造できる。
【0010】
【化2】

【0011】
ここで、エピハロヒドリンとしては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンが挙げられるが、入手のし易さから、特にエピクロロヒドリンが好ましい。
【0012】
本発明において2量化2−オクタノールとエピハロヒドリンとのハロヒドリンエーテル化は、エピハロヒドリンを2量化2−オクタノールに対して0.5〜1.5モル倍量、好ましくは0.6〜1.5モル倍量用い、触媒を2量化2−オクタノールに対して0.001〜0.2モル倍量、好ましくは0.005〜0.1モル倍量用い、反応温度は10〜150℃、好ましくは50〜110℃で、0.5〜10時間行うとよい。
【0013】
触媒としては、塩酸、硫酸等のブレンステッド酸のほか、一般にルイス酸とよばれるホウ素、アルミニウム、ケイ素、チタン、鉄、コバルト、亜鉛、ジルコニウム、スズ、アンチモン等の1種以上の元素を含む金属化合物等の酸触媒を用いることができる。ルイス酸としては、三フッ化ホウ素エーテル錯体、三フッ化ホウ素酢酸錯体、三フッ化ホウ素フェノール錯体、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、塩化亜鉛、四塩化スズ、塩化アンチモン、四塩化チタン、四塩化ケイ素、塩化第二鉄、臭化第二鉄、塩化第二コバルト、臭化第二コバルト、塩化ジルコニウム、酸化ホウ素、酸性活性アルミナ等が挙げられる。また、アルミニウム,チタン,ジルコニウム等のアルコキシドであるアルミニウムトリイソプロポキシド,チタニウムテトライソプロポキシド,ジルコニウムテトライソプロポキシド等を用いることもできる。
【0014】
上記反応によって得られたハロヒドリンエーテルからグリシジルエーテルを得るには、反応混合物にアルカリを添加し、脱ハロゲン反応により閉環させればよい。
ハロヒドリンエーテルの閉環反応に用いるアルカリには、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物が挙げられるが、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。また、エピハロヒドリンエーテルの仕込みに対して1.0〜5.0モル倍量、特に1.5〜3.0モル倍量のアルカリを用いるのが好ましい。また、反応温度は40〜110℃が好ましく、6〜12時間反応させるのが好ましい。
【0015】
得られたグリシジルエーテルに蟻酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸を反応させた後、これをアルカリ水溶液等で加水分解することにより、グリセリルエーテルを得ることができる。
酢酸等のカルボン酸の使用量は、グリシジルエーテル及び水にカルボン酸を加えて、均一相とすることが望ましい。即ち、グリシジルエーテル1重量部に対して、0.5〜5重量部、好ましくは1.5〜3重量部である。1.5重量部より少なくなるにつれ反応系が不均一となり反応速度が著しく低下する傾向がみられる。3重量部より多くなるにつれグリセリルエーテルのカルボン酸エステルの生成量が増大し、加水分解処理に使用するアルカリの量が多くなる傾向がみられる。特に、0.5重量部より少なくなるか5重量部より多くなると、これらの傾向が著しくなるため、いずれも好ましくない。
また、反応温度は60〜110℃が好ましく、5〜10時間反応させるのが好ましい。
【0016】
グリシジルエーテルの加水分解反応に用いる水の使用量は、グリシジルエーテル1モルに対して2〜10モル、好ましくは4〜7モルである。4モルより少なくなるにつれ高沸点副生物が生成し易くなり、目的とするグリセリルエーテルの収率が低下する傾向がみられる。7モルより多くなるにつれ、反応系が不均一となり易く反応速度が低下する傾向がみられる。特に、2モルより少なくなるか10モルより多くなると、これらの傾向が著しいため、いずれも好ましくない。
【0017】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のグリセリルエーテルであって、前記7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンが、2−オクタノールを、アルカリ性物質からなる触媒及び金属触媒の存在下で加熱還流し縮合させ反応物を得た後、前記反応物を水素化して得られた構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)2−オクタノールをアルカリ性物質からなる触媒及び金属触媒の存在下で加熱縮合させると、ゲルベ反応によって2−オクタノール2分子から水が除去され1分子の二量化アルコールを含む反応物が得られるので低コストで量産が可能である。
(2)原料の2−オクタノールは第二級アルコールにも関わらず、ゲルベ反応によって得られた二量化アルコールは一種類のみの化学構造式を有していることがわかった。このため、分離・精製の必要がなく純度の高い二量化アルコールの量産化を可能にすることができる。
(3)出発原料の2−オクタノールは沸点が179℃と高いため、還流冷却器付きの水分離器を装着した容器に2−オクタノール,アルカリ性物質及び金属触媒を入れて加熱するだけで、常圧下でも2−オクタノールの沸点(179℃)で反応を進行させ水の脱離を促進させゲルベ反応を活発化させることができるので、加圧容器等の大掛かりな生産設備が不要で生産コストを著しく低下させることができ、また省エネルギー性にも優れる。
(4)ゲルベ反応ではアルカリ性物質からなる触媒を用いるため、高温加圧下の反応では反応容器(加圧容器)が激しく腐食され反応容器の耐久性が問題になるが、常圧下の反応でも得られるため、反応容器の腐食がほとんど問題にならず反応容器の耐久性にも優れる。
【0018】
ここで、アルカリ性物質からなる触媒としては、金属ナトリウム,ナトリウムアルコラート,水酸化ナトリウム,金属カリウム,水酸化カリウム,水酸化リチウム等が挙げられる。
なかでも、アルカリ金属の水酸化物が好適に用いられる。取扱性に優れるからである。
触媒の添加量は、2−オクタノール100質量部に対して0.01〜10質量部好ましくは0.02〜8質量部さらに好ましくは0.03〜5質量部が好適である。添加量が0.03質量部より少なくなるにつれ反応速度が低下し収率も低下する傾向がみられ、5質量部より多くなるにつれ3量化物等の高沸点副生物の生成量が増加する傾向がみられる。これらの傾向は、添加量が0.02質量部より少なくなるにつれ、また8質量部より多くなるにつれ著しくなる。特に、添加量が0.01質量部より少なくなるか10質量部より多くなると、これらの傾向が著しくなるため好ましくない。
アルカリ性物質からなる触媒は固形状のまま添加する方法あるいは水溶液にして添加する方法いずれでもかまわないが、水溶液で添加した方が早く均一化できるので好ましい。水溶液は、できるだけ高濃度のものが好ましい。反応速度を高めることができるとともに水の留去に要するエネルギーを少なくできるからである。
【0019】
金属触媒としては、ニッケル,クロム,銅等のラネー触媒や、白金,パラジウム,ルテニウム,ロジウム等の第8族白金族元素等も用いることができる。また、第8族白金族元素等を担体に担持したもの等も用いることができる。担体としては、アルミナ,カーボン等を用いることができる。
金属触媒は粉末のものを添加するが、その添加量は、2−オクタノール100質量部に対して0.01〜5質量部好ましくは0.05〜4質量部が好適である。添加量が0.05質量部より少なくなるにつれ反応速度が低下し収率も低下する傾向がみられ、4質量部より多くなるにつれ反応速度は上がるがランニングコストが増加する傾向がみられる。特に、添加量が0.01質量部より少なくなるか5質量部より多くなると、これらの傾向が著しくなるため好ましくない。
【0020】
加熱縮合させる温度は、120〜260℃が好適に用いられる。120℃より低くなると水が除去され難く、ゲルベ反応が進まないことがあるので好ましくない。また、260℃より高くなると二量化アルコール以外の高沸点物等の副生物が多く生成されるため好ましくない。
加熱縮合は、常圧下で行うことができる。出発原料の2−オクタノールは沸点が179℃と高いため、還流冷却器付きの水分離器を装着した容器に2−オクタノール,アルカリ性物質及び金属触媒を入れて加熱するだけで、常圧下でも2−オクタノールの沸点(179℃)で反応を進行させ水の脱離を促進させゲルベ反応を活発化させることができるからである。このため、加圧容器等の大掛かりな生産設備が不要で生産コストを著しく低下させることができ、また省エネルギー性にも優れる。さらに、このゲルベ反応ではアルカリ性物質からなる触媒を用いるため、高温加圧下の反応では反応容器(加圧容器)が激しく腐食され反応容器の耐久性が問題になるが、常圧下の反応でも得られるため、反応容器の腐食や耐久性をほとんど考慮する必要がない点でも優れている。
【0021】
さらに、反応物中には二量化しているもののアルコールに転化していない化合物も存在するため、この反応物を水素化することにより、7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンの収率を高めることができる。2−オクタノールのゲルベ反応により得られる反応物は、第一級アルコールのゲルベ反応によって得られる反応物に比べ、二量化アルコールに転化していない化合物の生成量が多いので、反応物を水素化することによって二量化アルコールの生成量を増やすことができるからである。
【0022】
ここで、反応物を水素化する方法としては、鉄,コバルト,ニッケル,白金,パラジウム,ルテニウム,ロジウム等の周期表第8族元素、銅、レニウム、ラネー触媒、ホウ化ニッケル触媒等の水素化触媒を用いて接触水素化する方法等が用いられる。水素化触媒は、高温における活性を安定化するため、アルミナ,シリカアルミナ,ケイソウ土,シリカ,カーボン,活性炭,天然及び合成ゼオライト等の担体に担持させたものも用いることができる。
また、亜鉛/酢酸、鉄/酢酸等の酸性還元剤、亜鉛/苛性ソーダ、ナトリウム/アルコール、ナトリウムアマルガム等のアルカリ性還元剤、アルミニウムアマルガム等の中性還元剤等を用いることもできる。
【0023】
水素化条件としては、水素圧2〜5MPa、反応温度70〜150℃及び反応時間1〜5時間で行うのが好ましい。水素圧が2MPa未満では水素化が十分行われず、5MPaを超えると耐圧装置や安全装置等を要し生産設備の規模が増大するとともに、多品種少量生産の場合には作業の切り替え等が煩雑で生産性に欠けるからである。また、反応温度が70℃未満では反応に長時間を要し生産性が低下し、150℃を越えると逆反応(脱水素化)を生じさせる傾向が高まるからである。また、反応時間が1時間未満では水素化が十分行われず、5時間を越えると生産性の低下につながるからである。
【0024】
なお、反応物を水素化した後、必要に応じて、カラムで分離・精製することにより7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンの純度をより高めることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明のグリセリルエーテルによれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)酸性からアルカリ性の広い液性において高い耐加水分解性を有する安定性に優れたグリセリルエーテルを提供できる。
【0026】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)原料アルコールが常圧下で得られるため、加圧容器等の大掛かりな生産設備が不要で生産コストを著しく低下させることができ、省エネルギー性にも優れたグリセリルエーテルを提供できる。
(2)原料アルコールが常圧下の反応で得られるため、反応容器の腐食がほとんど問題にならず反応容器の耐久性にも優れたグリセリルエーテルを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンの調製)
実施例のグリシジルエーテルの原料となる7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンは、以下の方法で調製し同定した。
1リットルの三口フラスコに温度計、撹拌機、還流冷却器付き水分離器を装着し、2−オクタノール(小倉合成工業(株)製)400gと48重量%水酸化カリウム溶液0.65gとカーボン担持パラジウム(エヌ・イーケムキャット(株)製、5重量%担持)1.6gとを加えて加熱した。2−オクタノールの沸点(179℃)まで加熱し6時間還流を続けて反応を終了した。このときの反応物の温度は220℃であった。反応物中のカーボン担持パラジウムを濾過後、反応物を水洗した。この反応物に2gのラネーニッケル(日興リカ(株)製 スポンジニッケル触媒R−200)を加え、4MPaの水素圧にし、110℃で4時間、水素添加反応を行い、水素添加後の反応混合物を蒸留した。
沸点140℃(6.0×10−4MPa)の留分を採取した。収量は241gであった。
【0028】
(留分の評価)
得られた留分を以下の手段で評価した。
(1)ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC−14B):カラムDB−1(J&W Scientific製)を用い、カラム温度80℃から10℃/分で昇温し、300℃に達してから10分間その温度に保って測定した。
(2)NMR:試料を重クロロホルムに溶解しテトラメチルシランを内部標準として500MHzの核磁気共鳴装置(日本電子製、JNM−A500)を用いてプロトンNMRスペクトル及びC13NMRスペクトルを測定した。
(3)高分解能マススペクトル:二重収束型ガスクロマトグラフ質量分析計(日本電子製、JMS−SX102A)を用いてFAB法により測定した。
(4)水酸基価:JIS K0070−1992により求めた。
(5)ヨウ素価:JIS K0070−1992により求めた。
(6)粘度:JIS K7117−2:1999に準拠し、東機産業製TV−2型粘度計(コーンプレートタイプ)を用いて測定した。測定温度は25℃であった。
【0029】
この留分はガスクロマトグラフィーから2つのピークを有していた。ガスクロマトグラフィーから分析された純度は98.5%であった。また、屈折率n20D=1.4465であり、ヨウ素価は0.6であった。
この留分について、ヘキサン−酢酸エチル(9/1)を展開溶媒としてカラムクロマトグラフ(カラム:シリカゲル)により、ガスクロマトグラフィー上の2つのピークの化合物をそれぞれ単品として分離した。
次に、この2つの単品の化合物について高分解能マススペクトルを測定した。高分解能マススペクトルから得られた分子量は、それぞれ225.2552及び225.2592であった。これは化学式C1633の分子量の計算値225.2584とよく一致した。よって、高分解能マススペクトルが示す分子量はC1633の分子量であると同定できた。但し、FAB法では分子量はM(分子量)+1として観測されるため、実際の分子量は224であると推定できる。さらに、それぞれのフラグメンテーションも同一であった。
次に、この留分の水酸基価は225(理論値231)であった。また、この留分をトリメチルシリル(TMS)化した後のガスクロマトグラフィーにTMS化されていないピークが存在しなかった。よって、この留分の化合物は水酸基を有していることが確認された。
以上のことから、高分解能マススペクトルから得られた分子量224は、マススペクトルの測定中に脱水された化合物の分子量であると決定できた。即ち、ガスクロマトグラフの2つのピークは分子量242(分子量224にHOの分子量18を加えた値)であり、化学式C1634Oの二量化アルコールであることが判明した。
ガスクロマトグラフの2つのピーク(以下、第1ピーク及び第2ピークと称する)のそれぞれ単離された化合物についてNMRスペクトルを測定した。第1ピークの化合物のC13NMRスペクトルを図1に、第2ピークの化合物のC13NMRスペクトルを図2にそれぞれ示した。
【0030】
測定結果はC13NMR及びプロトンNMRとの二次元NMRの結果から、各位の炭素のC13NMRの吸収位置は(表1)のように帰属できる。なお、各位の炭素は式(3)で表される。
H(OH)CH(C16)−C101112131415…(3)
【0031】
【表1】

【0032】
以上の結果より、上記の留分の2つのピークを示す化合物とも7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンであることが確定した。二つのピークはジアステレオマーの関係にある。
なお、この留分(二つのピークを有する化合物)の粘度は31mPa・sであった。
以上のようにして、7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンの同定と調製を行うことができた。
【0033】
(実施例1)
7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカン800gと、触媒のアルミニウムトリイソプロポキシド8.2g及び硫酸5.6gを四つ口フラスコに入れ、撹拌しながら90℃まで昇温した。エピクロロヒドリン337gを2時間かけて滴下した後、2時間熟成した。
反応混合物を50℃まで冷却した後、40%水酸化ナトリウム水溶液882gを加え80℃まで昇温し、8時間撹拌した。水層を分離後、有機層を40℃まで冷却し400mLの水で2回洗浄して、1152gの粗7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンモノグリシジルエーテルを得た。減圧蒸留(0.4kPa、176℃)により精製し、698gの7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンモノグリシジルエーテルを得た。
7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンモノグリシジルエーテル698g、酢酸1400g、水250gを四つ口フラスコに入れ、80℃で4時間撹拌した。反応終了後、減圧下で酢酸、水を留去した。次いで、10%水酸化ナトリウム水溶液980gを加え50℃で4時間処理した。水層を分離後、有機層にヘキサン600gを加え300mLの水で2回洗浄し、溶媒のヘキサンを減圧下留去した。減圧蒸留(0.5kPa、214℃)により精製し、488gの7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンモノグリセリルエーテル(純度99.8%)を得た。
なお、留分の評価は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製GC−8A)により、以下の条件で行った。
充填剤:DB−17(J&W SCIENTIFIC製)、膜厚0.25μm、カラム:キャピラリー0.32mmφ×30m、カラム温度:120℃から290℃(15分)まで昇温速度10℃/分、注入口温度:250℃、検出器温度250℃。
【0034】
(比較例1)
7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンと同じ炭素数16のヘキシルデカノールを出発原料として、対応するグリセリルエーテルを製造した。
ヘキシルデカノール1900g、触媒としてアルミニウムトリイソプロポキシド19.5g及び硫酸13.3gを四つ口フラスコに入れ、撹拌しながら90℃まで昇温した。エピクロロヒドリン800gを2時間かけて滴下した後、2時間熟成した。反応混合物を50℃まで冷却した後、40%水酸化ナトリウム水溶液1180gを加え80℃まで昇温し、8時間撹拌した。水層を分離後、有機層を40℃まで冷却し400mLの水で2回洗浄して2325gの粗ヘキシルデシルモノグリシジルエーテルを得た。減圧蒸留(0.4kPa、190℃)により精製し、1631gのヘキシルデシルグリシジルエーテルを得た。
ヘキシルデシルグリシジルエーテル1631g、酢酸1800g、水400mLを四つ口フラスコに入れ、90℃で7時間撹拌した。反応終了後、減圧下で酢酸、水を留去した。次いで10%水酸化ナトリウム水溶液650gを加え、70℃で5時間処理した。水層を分離後、有機層にヘキサン1600gを加え600mLの水で2回洗浄をし、溶媒のヘキサンを減圧下留去した。減圧蒸留(0.4kPa、211℃)により精製し、883gのヘキシルデシルグリセリルエーテル(純度98.3%)を得た。
【0035】
(アルカリ性条件下における安定性の評価)
30mLのサンプル管に、それぞれ実施例1、比較例1のグリセリルエーテル1.2gを入れ、トルエン5mLで希釈し48%水酸化カリウム水溶液を加えた。90℃に昇温して4時間撹拌した後、ガスクロマトグラフィーでチャートのピーク面積からグリセリルエーテルの分解率(アルコールの生成率)を算出した。
図3は実施例1のグリセリルエーテルの試験前のガスクロマトグラフィーチャートであり、図4は実施例1のグリセリルエーテルの試験後のガスクロマトグラフィーチャートであり、図5は比較例1のグリセリルエーテルの試験前のガスクロマトグラフィーチャートであり、図6は比較例1のグリセリルエーテルの試験後のガスクロマトグラフィーチャートである。
この結果、実施例1のグリセリルエーテルの分解によるアルコール生成率は2.8%であったのに対し、比較例1のグリセリルエーテルの分解によるアルコール生成率は12.4%であった。
この結果より、比較例1のグリセリルエーテルは、アルカリ性条件下で分解されてアルコールが生成され易いのに対し、実施例1のグリセリルエーテルは、より安定であることが確認された。
【0036】
(酸性条件下における安定性の評価)
30mLのサンプル管に、それぞれ実施例1、比較例1のグリセリルエーテル1gを入れ、トルエン5mLで希釈し12N塩酸を加えた。80℃に昇温して4時間撹拌した後、ガスクロマトグラフィーで純度を測定した。
図7は実施例1のグリセリルエーテルの試験後のガスクロマトグラフィーチャートであり、図8は比較例1のグリセリルエーテルの試験後のガスクロマトグラフィーチャートである。
この結果、実施例1のグリセリルエーテルの試験後の純度は97.2%であったのに対し、比較例1のグリセリルエーテルの試験後の純度は93.1%であった。
この結果より、比較例1のグリセリルエーテルは、酸性条件下で純度が低下し易いのに対し、実施例1のグリセリルエーテルは、より安定であることが確認された。
以上のアルカリ性条件下及び酸性条件下における安定性の評価の結果、本実施例のグリセリルエーテルは、酸性からアルカリ性の広い液性において高い耐加水分解性を有しており、安定性に優れていることが確認された。
【0037】
(保湿性の評価)
実施例1、比較例1のグリセリルエーテルをそれぞれ、5人の被験者の手の甲に塗布して、そのときの感触を、(a)皮膚に温もりを感じる、(b)サラッとしている、(c)ヒンヤリするのなかから選んでもらう官能試験を行った。なお、一般的に保湿剤として使用されるグリセリン(小倉合成工業(株)製)についても、比較例2として評価してもらった。表2は官能試験結果である。
【0038】
【表2】

【0039】
表2に示すように、実施例1のグリセリルエーテルは、比較例1のグリセリルエーテルと同等以上で、グリセリンよりも遥かに優れた保湿性を有していることが確認された。
以上のことから、実施例1のグリセリルエーテルは、高い保湿性と高い耐加水分解性をともに有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、グリセリルエーテルに関し、酸性からアルカリ性の広い液性において安定性に優れ、乳液、ファンデーション、クレンジングオイル、サンスクリーン乳液、セルフタンニングローション、シャンプー、ヘアリンス、酸性染毛料、ボディーソープ等の各種香粧料をはじめ、洗浄剤、潤滑剤、保湿剤等に極めて有用なグリセリルエーテルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】第1ピークの化合物のC13NMRスペクトル
【図2】第2ピークの化合物のC13NMRスペクトル
【図3】実施例1のグリセリルエーテルの試験前のガスクロマトグラフィーチャート
【図4】実施例1のグリセリルエーテルの試験後のガスクロマトグラフィーチャート
【図5】比較例1のグリセリルエーテルの試験前のガスクロマトグラフィーチャート
【図6】比較例1のグリセリルエーテルの試験後のガスクロマトグラフィーチャート
【図7】実施例1のグリセリルエーテルの試験後のガスクロマトグラフィーチャート
【図8】比較例1のグリセリルエーテルの試験後のガスクロマトグラフィーチャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

で表されるグリセリルエーテル。
【請求項2】
前記7−ヒドロキシ−9−メチルペンタデカンが、2−オクタノールを、アルカリ性物質からなる触媒及び金属触媒の存在下で加熱還流し縮合させ反応物を得た後、前記反応物を水素化して得られたことを特徴とする請求項1に記載のグリセリルエーテル。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−162980(P2008−162980A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356263(P2006−356263)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(592135041)小倉合成工業株式会社 (4)
【出願人】(306002825)有限会社 ナコス研究所 (2)
【Fターム(参考)】