説明

グループ行動推定装置およびサービス提供システム

【構成】 グループ行動推定装置10は、コンピュータ30を含み、環境に設置された位置検出システム12によって検出される人間の位置情報に基づいて、環境内に存在するグループがグループとしてどのような行動を行っているのかを推定する。コンピュータ30は、位置検出システム12から、グループに属する各人間の所定時間分の位置履歴データを取得し、この位置履歴データを用いて人間相互間に関する特徴量を算出する。そして、算出した特徴量を判別式に与えることにより、グループが行っている行動を推定する。
【効果】 環境内に存在するグループが行っている行動を短時間で推定できるので、グループの行動に素早く対応したサービスを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はグループ行動推定装置およびサービス提供システムに関し、特にたとえば、環境内に存在するグループがどのような行動を行っているかを推定する、新規なグループ行動推定装置およびサービス提供システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄積された個人の位置情報や移動情報に基づいて、その人間がどのような行動を行っているかを推定する技術が提案されている。たとえば、特許文献1の技術では、GPS端末を利用して対象者の位置情報を取得し、移動履歴と移動にかかった時間とに基づいて、「あまり興味のない探索行動」、「ぶらぶらしている探索行動」、「興味の対象がある探索行動」といった対象者の行動状態を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−152655号公報 [G06Q 50/00]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は、個人の行動を推定するにとどまり、複数の人間がグループとしてどのような行動を行っているかということについては、推定できない。また、対象者の行動を推定するために、対象者を数分以上観測する必要があるので、対象者の行動に素早く対応したサービスを提供することができない。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、グループ行動推定装置およびサービス提供システムを提供することである。
【0006】
この発明の他の目的は、グループの行動を推定できる、グループ行動推定装置およびサービス提供システムを提供することである。
【0007】
この発明のさらに他の目的は、グループの行動を短時間の観測で推定できる、グループ行動推定装置およびサービス提供システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、この発明を何ら限定するものではない。
【0009】
第1の発明は、環境内に存在するグループが行っている行動を推定するグループ行動推定装置であって、グループに属する人間のそれぞれについて所定時間分の位置履歴を取得する位置履歴取得手段、位置履歴取得手段によって取得した位置履歴から人間相互間に関する特徴量を示す第1特徴量を算出する第1特徴量算出手段、第1特徴量算出手段によって算出した第1特徴量に基づいてグループが行っている行動を推定する行動推定手段を備える、グループ行動推定装置である。
【0010】
第1の発明では、グループ行動推定装置(10)は、コンピュータ(30)を含み、環境に設置された位置検出システム(12)によって検出される人間(26)の位置情報に基づいて、環境内に存在するグループがグループとしてどのような行動を行っているのかを推定する。位置履歴取得手段(32,36,38,S7)は、位置検出システムから、グループに属する各人間の所定時間分、たとえば数秒ないし数十秒間分の位置履歴を取得する。各人間の位置履歴データは、たとえば、時刻の情報を含むxy平面上のn+1個の点列で表される。第1特徴量算出手段(32,S9)は、各人間の位置履歴データから、人間相互間に関する特徴量である第1特徴量を算出する。たとえば、グループに含まれる人々の重心座標、重心座標と各人間26の位置座標との距離、および重心座標の移動速度などを算出する。行動推定手段(32,40,S11)は、第1特徴量に基づいてグループが行っている行動を推定する。たとえば、閾値を用いて定義した判別式に第1特徴量を与えたり、サポートベクタマシン(SVM)等の学習アルゴリズムを用いたりすることによって、グループが行っている行動(グループ行動)を推定する。
【0011】
第1の発明によれば、グループに属する各人間の位置履歴を検出し、位置履歴から算出した人間相互間に関する特徴量を用いることによって、環境内に存在するグループが行っている行動を短時間で推定できる。したがって、グループの行動に素早く対応したサービスを提供できる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明に従属し、位置履歴取得手段によって取得した位置履歴から、各個人に関する特徴量を示す第2特徴量を算出する第2特徴量算出手段を備え、行動推定手段は、第1特徴量および第2特徴量に基づいて、グループが行っている行動を推定する。
【0013】
第2の発明では、第2特徴量算出手段(32,S9)は、各人間(26)の位置履歴データから、各個人に関する特徴量を示す第2特徴量を算出する。たとえば、各個人の距離、速度、角度および分散などに関する特徴量を算出する。行動推定手段(32,40,S11)は、第1特徴量および第2特徴量に基づいてグループが行っている行動を推定する。
【0014】
第2の発明によれば、第1特徴量に加えて第2特徴量も算出し、グループ行動の推定に用いるので、グループが行っている行動をより正確に推定できる。また、より多くの種類のグループ行動を推定できるようになる。
【0015】
第3の発明は、環境内に存在するグループに対してサービスを提供するサービス提供システムであって、グループに属する人間のそれぞれについて所定時間分の位置履歴を取得する位置履歴取得手段、位置履歴取得手段によって取得した位置履歴から人間相互間に関する特徴量を示す第1特徴量を算出する第1特徴量算出手段、第1特徴量算出手段によって算出した第1特徴量に基づいてグループが行っている行動を推定する行動推定手段、行動推定手段によって推定されたグループの行動に応じたサービスを提供するサービス提供手段を備える、サービス提供システムである。
【0016】
第3の発明では、サービス提供システム(100)は、グループ行動推定装置(10)および位置検出システム(12)を含み、環境内に存在するグループが、グループとしてどのような行動を行っているのかを推定し、その推定した行動に適したサービスをそのグループに対して提供する。位置履歴取得手段(10,12,S7)は、グループに属する各人間(26)の所定時間分の位置履歴を取得し、第1特徴量算出手段(10,S9)は、各人間の位置履歴データから、人間相互間に関する特徴量である第1特徴量を算出する。行動推定手段(10,S11)は、第1特徴量に基づいてグループが行っている行動を推定し、サービス提供手段(10,14,S13)は、推定したグループの行動に応じたサービスをグループに対して提供する。
【0017】
第3の発明によれば、第1の発明と同様に、環境内に存在するグループが行っている行動を短時間で推定できるので、グループの行動に素早く対応したサービスを提供できる。
【0018】
第4の発明は、第3の発明に従属し、位置履歴取得手段によって取得した位置履歴から各個人に関する特徴量を示す第2特徴量を算出する第2特徴量算出手段を備え、行動推定手段は、第1特徴量および第2特徴量に基づいてグループが行っている行動を推定する。
【0019】
第4の発明では、第2特徴量算出手段(10,S9)は、各人間(26)の位置履歴データから、人各個人に関する特徴量を示す第2特徴量を算出し、行動動推定手段(10,S11)は、第1特徴量および第2特徴量に基づいてグループが行っている行動を推定する。
【0020】
第4の発明によれば、第2の発明と同様に、より正確に、或いはより多くの種類のグループ行動を推定できる。
【0021】
第5の発明は、第3または第4の発明に従属し、サービス提供手段は、音声および身体動作を用いてコミュニケーションを実行する機能を備えるコミュニケーションロボットを含む。
【0022】
第5の発明では、サービス提供手段(10,14,S13)は、コミュニケーションロボット(14)を含む。コミュニケーションロボットは、たとえば、グループが一緒に移動していることが推定された場合、個人にではなくグループに対して話しかけるように制御される。したがって、コミュニケーションロボットは、現場の状況により適したコミュニケーションを行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、グループに属する各人間の位置履歴を検出し、位置履歴から算出した人間相互間に関する特徴量を利用することによって、環境内に存在するグループが行っている行動を短時間で推定できる。したがって、グループの行動に応じたサービスをそのグループに対して素早く提供できる。
【0024】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明のサービス提供システムの一実施例を示す図解図である。
【図2】図1の位置検出システムが適用された環境の様子を概略的に示す図解図である。
【図3】図1の位置検出システムの電気的な構成を示す図解図である。
【図4】図1の位置検出システムが検出する位置履歴データの一例を示す図解図である。
【図5】「一緒に移動している」グループ行動の一例を示す図解図である。
【図6】「ある地点に集まってくる」グループ行動の一例を示す図解図である。
【図7】「散らばっていく」グループ行動の一例を示す図解図である。
【図8】「はぐれている」グループ行動の一例を示す図解図である。
【図9】「追いかけている」グループ行動の一例を示す図解図である。
【図10】図1のグループ行動推定装置の動作の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1を参照して、この発明の一実施例であるサービス提供システム(以下、「提供システム」という。)100は、グループ行動推定装置(以下、「推定装置」という。)10、および位置検出システム12を含む。提供システム100は、たとえば、複数の人間がグループとして訪れ、グループで共に行動したり個々で行動したりする環境(イベント会場、ショッピングセンタ、美術館および遊園地など)に適用され、環境内に存在するグループが、グループとしてどのような行動を行っているのかを推定する。そして、推定したグループの行動に基づいて、ロボット14等を制御する等して、その行動に適したサービスをそのグループに提供する。なお、グループとは、なんらかの相互関係によって結ばれている人々の集まりであり、家族、恋人および友人、ならびに同じツアーに参加したツアー客同士などを含む。
【0027】
先ず、位置検出システム12について説明する。図2は、位置検出システム12が適用された環境の様子を概略的に示す図解図であり、図3は、位置検出システム12の電気的な構成を示す図解図である。図2および図3に示すように、位置検出システム12は、位置検出処理を実行するコンピュータ20、環境内に設置される複数のレーザレンジファインダ(LRF)22および無線IDタグリーダ24、ならびに各人間26に装着される無線IDタグ28を含む。
【0028】
位置検出システム12のコンピュータ20は、パーソナルコンピュータやワークステーションのような汎用のコンピュータである。このコンピュータ20には、たとえばRS-232Cのような汎用のインタフェースを介して、複数のLRF22および無線IDタグリーダ24が接続される。これらの機器22,24によって検出された情報を含むデータは、コンピュータ20に送信され、その検出時刻と共にコンピュータ20のメモリの所定領域や外部のデータベースに適宜記憶される。また、コンピュータ20のメモリには、XY2次元平面座標系で表される各機器22,24の位置データや、環境の地図データが予め記憶されている。
【0029】
LRF22は、レーザ光線を利用した画像センサであり、パルスレーザを照射し、そのレーザ光が対象物に反射して戻ってきた時間から対象物との距離を瞬時に測定するものである。LRF22としては、SICK社製のLRF(型式 LMS 200)などを用いることができる。LRF22は、たとえば、高さ約90cmの台座の上に設置され、環境内に存在する人間26の位置座標を検出するために利用される。
【0030】
この実施例では、コンピュータ20は、たとえば37.5回/秒の頻度でLRF22からのセンサ情報を取得し、パーティクルフィルタや人形状モデルによって人間26の腰部の位置座標や身体の方向などを推定する。この推定方法の詳細については、本件出願人が先に出願した特願2008−6105号に記載されているので参照されたい。
【0031】
無線IDタグ28は、環境内に存在する各人間26に装着される。無線IDタグ28としては、たとえばRFID(Radio Frequency Identification)タグを用いることができる。RFIDは、電磁波を利用した非接触ICタグによる自動認識技術のことである。具体的には、RFIDタグは、識別情報用のメモリや通信用の制御回路等を備えるICチップおよびアンテナ等を含む。RFIDタグのメモリには、人間26を識別可能な情報が予め記憶され、その識別情報が所定周波数の電磁波・電波などによってアンテナから出力される。
【0032】
無線IDタグリーダ24は、たとえば環境内の天井に敷設されたレールに設置され、上述の無線IDタグ28からの出力情報を検出する。具体的には、無線IDタグリーダ24は、無線IDタグ28から送信される識別情報の重畳された電波を、アンテナを介して受信し、電波信号を増幅し、当該電波信号から識別情報を分離し、当該情報を復調(デコード)する。また、無線IDタグリーダ24は、検出した電波強度に基づいて、無線IDタグ28との距離を検出する。
【0033】
この実施例では、コンピュータ20は、たとえば5回/秒の頻度で無線IDタグリーダ24によって検出される無線IDタグ28からのセンサ情報(識別情報および距離情報)を取得する。そして、取得した識別情報に基づいて、その無線IDタグ28を所持している人間26を特定する。また、同一の無線IDタグ28に対して3つの無線IDタグリーダ24から取得した距離情報と、予め記憶した無線IDタグリーダ24の位置データとに基づいて、その無線IDタグ28を所持している人間26の位置座標を特定する。
【0034】
そして、位置検出システム12のコンピュータ20は、各機器22,24によって検出されたセンサ情報(測位データ)或いはセンサ情報から推定した情報を統合し、各人間26の位置座標(x,y)をその検出時刻tに対応付けて、メモリ或いはデータベースに記憶する。つまり、人間26(識別情報またはID番号)ごとに、時系列データとしてその位置履歴が記憶される。たとえば、時刻tnにおける位置をPtn(xn,yn)としたとき、時刻t0からtnまでの軌跡は、点列Pt0,Pt1,…,Ptnとして表される。すなわち、各人間26の位置履歴データ(移動軌跡データ)は、図4に示すように、xy平面上のn+1個の点列で表され、各点(図4では丸印で示している)は、その点が観測された時刻の情報を含んでいる。
【0035】
なお、位置検出システム12は、各人間26を識別して位置座標ないし位置履歴を検出できるものであれば、上述の構成のものに限定されず、たとえば、赤外線センサ、ビデオカメラ、床センサ、或いはGPS等を適宜利用するものであってもよい。
【0036】
推定装置10は、上述のような位置検出システム12から送信される各人間26の位置履歴データに基づいて、環境内に存在するグループが行っている行動を推定する。
【0037】
図1に戻って、推定装置10は、位置履歴データから特徴量を算出し、グループの行動を推定するコンピュータ30を含む。コンピュータ30は、たとえば、CPU32、メモリ34、通信装置36、入力装置および表示装置などを備える汎用のパーソナルコンピュータやワークステーションである。コンピュータ30のメモリ32は、HDDやROMおよびRAMを含む。HDDないしROMには、推定装置10の動作を制御するためのプログラムが記憶されており、CPU32は、このプログラムに従って処理を実行する。RAMは、CPU32の作業領域またはバッファ領域として使用される。通信装置36は、たとえば無線LANやインタネットのようなネットワークを介して、外部のコンピュータ(位置検出システム12やロボット14等)と無線または有線で通信するためのものである。
【0038】
また、推定装置10のコンピュータ30には、グループ情報データベース(DB)38、および判別式DB40が接続される。なお、これらDB38,40は、図1に示すようにコンピュータ30の外部に設けられてもよいし、コンピュータ30内のHDD等に設けられてもよい。また、これらDB38,40は、コンピュータ30と通信可能なネットワーク上の他のコンピュータに設けられてもよい。
【0039】
グループ情報DB38は、複数の人間26をグループ分けして記憶している。具体的には、グループ情報DB38には、人間26のID番号に対応つけて、その人間26に取り付けられる無線IDタグ28の識別情報、およびその人間26が属しているグループのグループID番号が予め登録される。また、グループ情報DB38には、提供システム100が適用される環境に応じて、そのグループの種類(家族や友人など)や、その人間26の年齢などのユーザ情報が適宜登録される。したがって、コンピュータ30は、このグループ情報DB38を参照して、たとえば、位置検出システム12から送信されるデータがどのグループに属する人間26のものであるかや、環境内にグループが存在するかどうかを認識できる。
【0040】
判別式DB40には、各人間26の位置履歴データから算出した特徴量に基づいて、環境内に存在するグループが行っている行動を推定するための判別式が記憶される。グループが行っている行動を推定する際には、判別式DB40に記憶した判別式に応じて後述の特徴量が適宜算出される。この判別式の具体例については後述する。
【0041】
このような構成の提供システム100では、上述のように、位置検出システム12によって環境内に存在する人間26の位置座標或いは位置履歴に関するデータが検出される。そして、推定装置10によって位置履歴データから特徴量が算出され、この特徴量に基づいてグループの行動が推定される。
【0042】
推定装置10によって位置履歴データから算出される特徴量には、同じグループに属する人間相互間に関する特徴量(第1特徴量)と、各個人に関する特徴量(第2特徴量)とが含まれる。
【0043】
人間相互間に関する特徴量には、グループに含まれる人々の重心座標、重心座標と各人間の位置座標との距離の平均や分散、重心座標の移動速度の平均、およびグループに含まれる人間同士の距離の平均と分散などがある。
【0044】
また、各個人に関する特徴量には、たとえば、距離、速度、角度および分散に関する特徴量がある。図4を参照して、距離に関する特徴量は、0番目の点とk番目の点とのユークリッド距離、x方向距離およびy方向距離などである。速度に関する特徴量は、0番目の点とn番目の点との間の速度などであり、たとえば、k番目の点とk+1番目の点間の速度をk=0〜k=nまで求めたものの平均および分散である。角度に関する特徴量は、0番目の点とk番目の点とn番目の点とがなす角度などである。分散(値のばらつき)に関する特徴量は、0番目の点からk番目の点までのx座標の分散およびy座標の分散などである。
【0045】
もちろん、これら以外の特徴量を算出してグループ行動の推定に利用することもできる。
【0046】
この実施例では、上述のような特徴量を適宜用いて、「一緒に移動している」、「ある地点に集まってくる」、「散らばっていく」、「はぐれている」および「追いかけている」等のグループが行っている行動(或いはグループの状況ないし状態)を推定する。以下、図5−図9を参照して、グループ行動の推定方法について説明する。なお、図5−図9では、グループを構成する人数が3人(A,B,C)の場合を例示しているが、グループを構成する人数は、2人でもよいし、4人以上でもよい。
【0047】
グループが「一緒に移動している」状態は、図5に示すように、その行動を行っている間の或る一定時間(たとえば時刻t0からtnまでの数秒ないし数十秒間)において、グループに含まれる人々が、互いに離れずに所定範囲内に存在しながら移動する状態であると考えられる。したがって、グループに含まれる人々の重心が所定速度(SpeedTH)よりも大きい速度で移動しており、かつグループに含まれる人々の重心座標と各人間の位置座標との距離の平均が所定距離(DistTH)よりも小さいときには、そのグループは一緒に移動していると判定できる。この場合、判別式DB40には、たとえば、“重心の移動速度>SpeedTH,かつ各人と重心座標との距離平均<DistTH ”を表わす判別式が記述される。
【0048】
「ある地点に集まってくる」状態は、図6に示すように、その行動を行っている間の或る一定時間において、グループに含まれる人々の重心座標があまり変化せずに、各人間の位置座標と重心座標とが近づいてくる状態であると考えられる。したがって、グループに含まれる人々の重心座標の移動量が所定量(MoveTH)よりも小さく、かつ各人間の位置座標と重心座標との距離の平均の減少量が所定量(DecreseTH)よりも大きいときには、そのグループはある地点に集まってくると判定できる。この場合、判別式DB40には、たとえば、“重心座標の移動量<MoveTH,かつ各人と重心座標との距離平均の減少量>DecreseTH ”を表わす判別式が記述される。
【0049】
「散らばっていく」状態は、図7に示すように、その行動を行っている間の或る一定時間において、グループに含まれる人々の重心座標があまり変化せずに、各人間の位置座標と重心座標とが離れていく状態であると考えられる。すなわち、グループに含まれる人々の重心座標の移動量が所定量(MoveTH)よりも小さく、かつ各人間の位置座標と重心座標との距離の平均の増加量が所定量(IncreseTH)よりも大きいときには、そのグループは散らばっていくと判定できる。この場合、判別式DB40には、たとえば、“重心座標の移動量<MoveTH,かつ各人と重心座標との距離平均の増加量>IncreseTH ”を表わす判別式が記述される。
【0050】
「はぐれている」状態は、図8に示すように、その行動を行っている間の或る一定時間において、グループを構成する人間が2つの小集団に別れている状態(図8では、AおよびCとBとに別れている状態を示している)であると考えられる。すなわち、グループ内に2つの小集団が存在し、これら小集団同士の距離が所定距離(DistGroupTH)よりも大きいときには、はぐれていると判定できる。この場合、判別式DB40には、たとえば、“グループ内の小集団の数=2,かつ小集団間の距離>DistGroupTH ”を表わす判別式が記述される。
【0051】
「追いかけている」状態は、図9に示すように、その行動を行っている間の或る一定時間において、グループを構成する人間が2つの小集団に別れているが、2つの小集団の移動方向が同じであり、かつ小集団同士の距離が近づいてきている状態であると考えられる。すなわち、グループ内に2つの小集団が存在し、2つの小集団の移動方向がなす角の大きさが所定角度(AngleTH)よりも小さく、小集団同士の距離の減少量が所定量(DecreseGroupTH)よりも大きいときには、追いかけていると判定できる。この場合、判別式DB40には、たとえば、“グループ内の小集団の数=2,かつ小集団の移動方向同士がなす角<AngleTH,かつ小集団間の距離>DistGroupTH ”を表わす判別式が記述される。
【0052】
なお、上述のグループ行動およびその判別式はあくまでも例示であり、推定装置10(提供システム100)は、他のグループ行動を推定するようにしてもよいし、他の判別式を用いてグループ行動を推定するようにしてもよい。また、上述のような閾値を用いて定義した判別式によってグループの行動を推定することに限定されず、たとえば、サポートベクタマシン(SVM)やニューラルネットワーク(NN)等の公知の学習アルゴリズムと学習データとを用いてグループの行動を推定することもできる。この場合にも、各人間26の位置履歴データから算出した上述のような特徴量が適宜用いられる。
【0053】
このように、グループに属する各人間26の位置履歴を検出し、同じグループに属する人間相互間に関する特徴量および各個人に関する特徴量を算出して、これらの特徴量を判別式に適宜与えることによって、環境内に存在するグループが行っている行動を正確に推定することができる。なお、グループ行動の推定は、人間相互間に関する特徴量のみを用いて推定することもできるが、人間相互間に関する特徴量と共に各個人に関する特徴量を用いることによって、より正確に、またより多くの種類のグループ行動を推定できるようになる。
【0054】
また、このようなグループ行動の推定は、数秒ないし数十秒の短時間、各人間26の位置履歴を検出するだけで実行できるので、そのグループの行動に素早く対応したサービスを提供することができる。
【0055】
たとえば、音声および身体動作を用いてコミュニケーションを実行する機能を備える相互作用指向のロボット14を環境内に配置しておき、推定したグループ行動に応じてそのロボット14に指示を与え、そのグループ行動に適したサービスをロボット14に提供させるようにするとよい。ロボット14としては、本件出願人が開発したロボビー(登録商標)を用いることができる。
【0056】
具体的には、グループが一緒に移動していたり、特定の場所に集まっていたりする場合には、個人にではなく、グループに対して話しかけるようにロボット14の対話内容を制御するようにするとよい。また、グループがある地点に集まってくる場合には、グループが集まるタイミングに合わせて、その待ち合わせ地点にロボット14を移動させ、グループに対してサービスを提供させるようにするとよい。これにより、ロボット14の無駄な移動をなくすことができる。さらに、グループ内で誰かがはぐれている場合、たとえば子供がはぐれている場合には、その子供に話しかけて親の場所まで誘導したり、その子供を捜す親に子供の現在位置を教えたりする案内サービスを提供できる。
【0057】
以下には、上述のような推定装置10の動作の一例をフロー図を用いて説明する。具体的には、推定装置10のコンピュータ30のCPU32が、図10に示すフロー図に従って行動推定処理を実行する。図10に示すように、コンピュータ30のCPU32は、ステップS1で、環境内にグループが存在するか否かを判断する。たとえば、通信装置36を介して、環境内に存在する無線IDタグ28の識別情報を位置検出システム12から取得し、グループ情報DB38を参照して、環境内に同じグループに属する人間26が存在するかどうかを判断する。ステップS1で“NO”のとき、すなわち環境内にグループが存在しないときには、そのままこの行動推定処理を終了する。一方、ステップS1で“YES”のとき、すなわち環境内にグループが存在するときには、ステップS3に進む。
【0058】
ステップS3では、グループIDを示す変数Xを初期化する(X=0)。たとえば、ステップS1で存在が確認されたグループのグループIDを0〜Lとした場合、X=0に設定する。続くステップS5では、X=Lか否かを判断する。つまり、環境内に存在する全てのグループに対して行動を推定したか否かを判断する。ステップS5で“YES”のとき、すなわち環境内に存在する全てのグループに対して行動推定を行ったときには、この行動推定処理を終了する。一方、ステップS5で“NO”のとき、すなわち環境内に存在する全てのグループに対して行動推定を行っていないときには、ステップS7に進む。
【0059】
ステップS7では、グループIDがXのグループ(グループX)に属する人間26の所定時間分の位置履歴を取得する。具体的には、位置検出システム12から、そのグループXに属する各人間26の位置履歴を、たとえば時刻t0からtnまでの数秒ないし数十秒間分、通信装置36を介して取得する。このとき、たとえば、ID番号がiであり、グループID番号がkである人間26の、時刻がjのときの位置座標は、式Traj_ijk(i=0…M,j=t0…tn,k=0…L)で表現され、各人間26の位置履歴データは、図4に示すように、時刻の情報を含むxy平面上のn+1個の点列で表される。
【0060】
続くステップS9では、ステップS7で取得した位置履歴データから、各個人に関する特徴量(第2特徴量)および人間相互間に関する特徴量(第1特徴量)を算出する。たとえば、各個人に関する特徴量として、距離、速度、角度および分散などに関する特徴量を算出し、人間相互間に関する特徴量として、グループに含まれる人々の重心座標と各人間26の位置座標との距離平均や重心座標の移動速度などを算出する。なお、このステップS9で算出される特徴量は、判別式DB40に記憶された判別式に応じて適宜決定される。
【0061】
続くステップS11では、ステップS9で算出した特徴量を、判別式DB40から読み出した判別式に与え、そのグループが行っている行動を推定する。たとえば、グループに含まれる人々の重心の移動速度>SpeedTHであり、かつ各人と重心座標との距離平均<DistTHであるときには、そのグループは一緒に移動していると判定する。
【0062】
そして、ステップS13では、そのグループXの行動パターンを、ステップS11で算出したグループ行動、たとえば「一緒に移動している」に設定し、続くステップS15で変数XをインクリメントしてステップS5に戻る。なお、コンピュータ30は、ステップS13で設定した行動パターンに応じて、ロボット14に指示を与える等して、そのグループ行動に適したサービスを提供する。
【0063】
この実施例によれば、各人間の位置履歴を検出し、各個人に関する特徴量および同じグループに属する人間相互間に関する特徴量を判別式に与えることによって、環境内に存在するグループが行っている行動を短時間で推定できる。したがって、そのグループの行動に対応したサービスを素早く提供することができる。
【0064】
なお、上述の実施例では、位置検出システム12と推定装置10とで、異なるコンピュータ20,30を用いてそれぞれの処理(位置検出処理や行動推定処理など)を分担して行うようにしたが、1つのコンピュータが一括してこれらの処理を行うこともできるし、3つ以上のコンピュータでさらに処理を分担して行うこともできる。
【0065】
また、上述の実施例では、グループ情報DB38には、複数の人間26を予めグループ分けして記憶しておくようにしたが、これに限定されない。たとえば、検出した各人間26の位置履歴に基づいて、どの人間26同士が同じグループに属するかを自動的に判別するようにし、その結果得たグループ情報をその後のグループ行動の推定に用いるようにしてもよい。この場合には、たとえば、複数の人間が、所定距離内に所定時間以上の間一緒に存在すれば、それら複数の人間は同じグループに属すると判断して、グループ情報DB38にグループとして登録するようにするとよい。
【0066】
さらに、同じグループに属する人間26の数が多い場合、たとえば6人以上で構成されるグループの場合には、そのグループをさらに小グループに分け、各人間26にグループID番号とは別に小グループID番号を付与してグループ情報DB38に記憶しておくようにしてもよい。そして、グループ全体および小グループのそれぞれについて、グループ行動を推定するとよい。この場合には、人間相互間の特徴量と同様に、小グループ相互間の特徴量を算出し、その特徴量を利用してグループ全体の行動を推定することもできる。
【符号の説明】
【0067】
10 …グループ行動推定装置
12 …位置検出システム
14 …ロボット
20 …位置検出システムのコンピュータ
22 …レーザレンジファインダ
24 …無線IDタグリーダ
28 …無線IDタグ
30 …グループ行動推定装置のコンピュータ
38 …グループ情報DB
40 …判別式DB
100 …サービス提供システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境内に存在するグループが行っている行動を推定するグループ行動推定装置であって、
前記グループに属する人間のそれぞれについて、所定時間分の位置履歴を取得する位置履歴取得手段、
前記位置履歴取得手段によって取得した前記位置履歴から、人間相互間に関する特徴量を示す第1特徴量を算出する第1特徴量算出手段、
前記第1特徴量算出手段によって算出した前記第1特徴量に基づいて、前記グループが行っている行動を推定する行動推定手段を備える、グループ行動推定装置。
【請求項2】
前記位置履歴取得手段によって取得した前記位置履歴から、各個人に関する特徴量を示す第2特徴量を算出する第2特徴量算出手段を備え、
前記行動推定手段は、前記第1特徴量および前記第2特徴量に基づいて、前記グループが行っている行動を推定する、請求項1記載のグループ行動推定装置。
【請求項3】
環境内に存在するグループに対してサービスを提供するサービス提供システムであって、
前記グループに属する人間のそれぞれについて、所定時間分の位置履歴を取得する位置履歴取得手段、
前記位置履歴取得手段によって取得した前記位置履歴から、人間相互間に関する特徴量を示す第1特徴量を算出する第1特徴量算出手段、
前記第1特徴量算出手段によって算出した前記第1特徴量に基づいて、前記グループが行っている行動を推定する行動推定手段、
前記行動推定手段によって推定された前記グループの行動に応じたサービスを提供するサービス提供手段を備える、サービス提供システム。
【請求項4】
前記位置履歴取得手段によって取得した前記位置履歴から、各個人に関する特徴量を示す第2特徴量を算出する第2特徴量算出手段を備え、
前記行動推定手段は、前記第1特徴量および前記第2特徴量に基づいて、前記グループが行っている行動を推定する、請求項3記載のサービス提供システム。
【請求項5】
前記サービス提供手段は、音声および身体動作を用いてコミュニケーションを実行する機能を備えるコミュニケーションロボットを含む、請求項3または4記載のサービス提供システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−205015(P2010−205015A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50431(P2009−50431)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト、コミュニケーション知能(社会・生活分野)の開発、公共空間における情報支援知能モジュール群の開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)