説明

ケーソン及びその施工方法

【課題】道路上を搬送することができない大型のプレキャストコンクリートケーソンセグメントを用いて品質の優れたケーソンを短工期に施工する技術を提供する。
【解決手段】1ピースで道路上を搬送できない大寸法のプレキャストコンクリートケーソンセグメント10をケーソン軸方向に沿う目地16によって複数個に分割し、分割されたセグメントピース11、12の対向する目地部に、分割されたセグメントを相互に連結するU字形鉄筋14を突設してコンクリート22で連結すると共にセグメントピース11、12が相互に噛み合う段差又は凹凸を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーソン及びその施工方法に関し、さらに詳しくは外形寸法が大きく、1ピースで道路上を搬送できない大寸法のプレキャストコンクリートケーソンの構造及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
断面の外寸法が差し渡し4m以上の大口径のケーソンは、従来、運搬上の制限により現場打ちコンクリートによって施工されていた。現場打ちコンクリートに代え、プレキャストコンクリート部材を用いて施工すれば、ケーソンの品質を高めることができると共に、施工工期を短縮することができるというメリットがある。しかしこの場合、プレキャスト部材を搬送可能な大きさに分割して搬送しなければならない。
【0003】
その分割されたセグメントの目地の構造に要求される事項としては、一体構造のケーソンと同様な強度を有すること、接合に要する時間が全体施工工程に影響を及ぼさないこと及び十分耐久性を有すること等である。
【0004】
円筒体を軸方向に3つに分割した樋形状のシェルを円形に結合して順次地盤内に圧入して立坑を構築する技術がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この技術は、分割した樋状のシェルをボルトで結合するので、強度や耐久性の面で十分とはいえない。
【0006】
また、コンクリート部材の打継目にループ鉄筋を配設してコンクリート部材を結合する技術がある(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
この技術は、コンクリート部材の打継目にループ筋を配設し、ひび割れ発生後のひび割れ成長抑制を図るものである
プレキャストコンクリート床版の突き合わせ面にループ鉄筋を突設し、これを貫く横鉄筋を設け、ループ鉄筋と横鉄筋とを結合し、これらを収納した溝内にコンクリートを打設して床版を結合する技術がある(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
この技術では、コンクリート打設溝を形成するために一方の床版の底辺側を延長して他方の床版の端面に接触させる構造を取っている。
【特許文献1】特開2003−148081号公報(第2−3頁、図1)
【特許文献2】特開2002−88928号公報(第2−3頁、図1)
【特許文献3】特開2000−328704号公報(第2−3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、道路上を搬送することができない大型のケーソンの構造に関するもので、分割したセグメントの接合技術を改善し、プレキャストケーソンセグメントを工場で製作し、品質の優れたケーソンを短工期に施工する技術を開発し、これを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するためになされたもので、次の技術手段を講じたことを特徴とするケーソンである。すなわち、本発明は、1ピースで道路上を搬送できない大寸法のプレキャストケーソンセグメントをケーソン軸方向に沿う目地によって複数個に分割し、該分割されたセグメントの対向する目地部に、分割されたセグメントを相互に連結するU字形鉄筋をセグメントから突設したことを特徴とするケーソンである。ここでケーソン軸方向に沿う目地は、ケーソン軸に平行なもののみでなく、傾きをもったものでもよい。
【0011】
上記ケーソンにおいて、前記セグメントの分割部に相互に噛み合う円周方向の段差又は凹凸を設けると、この段差又は凹凸が鉛直目地のずれせん断力に抵抗するので安全となり、好適である。
【0012】
また、前記段差が鋭角のZ字状の噛合形状からなる段差であると、分割されたセグメントの目地端面を互いに圧着する作用力が生ずるので、目地の圧着とずれせん断力に対する抵抗と両者の作用を生ずるので好ましい。
【0013】
さらに、前記目地内又は目地部側壁内にケーソン軸方向PC鋼材を挿通するシースを設け、PC鋼材により緊張力を付与することによって、目地部の結合を強化し、一体化したケーソンを得ることができる。
【0014】
また、 前記セグメント内に円周方向PC鋼より線を配設し、その両端部をケーソン軸方向に沿う目地部に露出させ、圧着グリップを装着したケーソンとしてもよい。
【0015】
次に、本発明のケーソンを用い、連結機構としてケーソン内に配設した円周方向PC鋼より線の両端を目地部に露出させておき、目地部の隣接セグメント端面相互間隔が設定値となるようにPC鋼より線端部同士を接続し、次いで該セグメント端面相互間隔が所望寸法になるようにセグメントを拡径し、目地部にコンクリートを打設し、コンクリート硬化後拡径力を開放し、目地コンクリートにプレストレスを導入することを特徴とするケーソンの施工方法を提供する。
【0016】
この場合、円周方向PC鋼より線の両端近傍はアンボンド構造としておくとよい。
【0017】
上記方法では、セグメント内の上下端に近傍配置された円周方向PC鋼より線によって目地部コンクリートにプレストレスを導入するため、目地部コンクリートの自己収縮によるひび割れを抑制することができ、ケーソンの一体性が向上し、耐久性が向上する。
【0018】
なお、本発明において、U字鉄筋を円周方向PC鋼より線に置換することとしてもよく、この場合、目地部コンクリート打設空間を十分大きく確保することができると言うメリットがある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ケーソンに正負交番荷重が載荷された時に生じる鉛直目地のずれせん断力に対して、多段接合キーおよび緊張力によって抵抗することによって、一体部材と同様な挙動を示すケーソンとなる。
【0020】
本発明方法によれば、ケーソンの目地部コンクリートにプレストレスを導入するため、目地部コンクリートの自己収縮によるひび割れを抑制することができ、ケーソンの一体性が向上し、耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
道路を搬送することができる限界寸法は、幅2.5m以下、長さ25m以下、高さ3.8m以下に制限されている。従って、外形の差し渡し寸法が4m以上となるような大型のケーソンは、工場等で製作して道路上を搬送することができない。
【0022】
本発明のケーソンは、このような1ピースで道路上を搬送できない大寸法のプレキャストコンクリートケーソンセグメントをケーソン周方向に複数分割し、分割された目地部を強固に結合して、一体のケーソンと同等の強度を有するケーソンを形成するようにしたものである。
【0023】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
図1は実施例のケーソンのセグメント10の平面図、図2、図3、図4、図5はそれぞれ異なる目地形状を有する図1の側面図である。
【0025】
本発明のケーソン10は、ケーソン軸方向に沿う目地16によって複数個に分割されている。図1では円筒半割の2個のセグメントピース11、12を目地16で突き合わせるようにしている。その鉛直継目構造として、橋梁上部工のプレキャストコンクリート床版の接合に用いられているループ継手を採用し、その部分は早強性の場所打ちコンクリートを打設する。
【0026】
図1では、分割されたセグメントピース11、12の対向する目地部には、一方のセグメントピース11又は12に凹部15を設けている。そしてセグメントピース11、12を目地16で突き合わせたとき、この凹部15内に、U字形鉄筋14が位置するようにする。このU字形鉄筋14は、分割されたセグメントピース11、12の内部鉄筋13を突出させて形成したものである。このU字形鉄筋14が図1に示す平面視で互いにループを形成するように上下に位置をずらして交互に配設してある。図4はこの鉄筋13、14が露出して見えている様子を示している。凹部15内にコンクリート22を注入してU字形鉄筋14が形成するループを埋設し、セグメントピース11、12を一体に連結する。
【0027】
U字形鉄筋14はセグメントピース11、12を力学的に連結するものである。この継手による連結は簡易的であり経済的である。
【0028】
しかし、このようなU字形鉄筋14による継手構造は、床版コンクリートについては曲げモーメントの伝達に関して、従来、静荷重、動荷重、疲労等について、数多くの実験が実施され研究されている。しかし、本発明の構造のようなずれせん断を生ずる鉛直目地に用いることについて、従来、検討されていない。
【0029】
そこで、本発明では、上部工で採用されている多段接合キー構造を鉛直目地断面に設置し、その効果を期待するようにした。図3〜図5は目地16が段状をなし、この段によって上記ずれせん断力に抵抗させるようにしたものを示している。
【0030】
なお、鉛直目地部のひび割れ耐久性およびせん断応力度が許容平均せん断強度を満足しない場合は、その鉛直目地断面に対して、図3〜図5に例示したようにPC鋼材21を用いて緊張力を導入する。このため、PC鋼材挿通用のシースをセグメントピース11、12にあらかじめ埋設して置く。
【0031】
図3に示す例では目地16に設けた段状部16aが鈍角をなしており、噛合わせが容易で、この段状部16aがセグメントピース11、12間に作用するずれせん断力に対して抵抗する。PC鋼材21によって圧着力を導入すると段状部16aが強固に密着する。
【0032】
図4は目地16が円周方向に凹凸嵌合するような形状になっている。なお図4ではU字形鉄筋14が上下にずれて重なり合いが生じループを形成する状況、及びU字形鉄筋14がセグメントピース11、12内の周方向鉄筋13の端部が突出しているものであることを示している。
【0033】
図5は目地16に設けた段状部16bが鋭角のZ字状をなすようにすると、PC鋼材21で目地部をセグメント軸方向に緊張したとき、セグメントピース11、12の目地の当接面を押圧する力(分力)16cが生じることを示している。目地16の面が強固に圧着されると共に目地部のずれせん断力に対して、抵抗する強固な構造となっている。
【0034】
図6は別の実施例のセグメント10を示すもので、セグメントピース11、12の接続目地部の双方に凹部15,15aを設けて突合わせる例を示している。図7はその側面図を示すもので、目地16はケーソン軸方向に直線状である。
【0035】
図8は別の様式のセグメント10の結合を示す平面図、図9はその側面図である。図8に示すように、鉄筋13の目地部で突出したU字形部分を交差させ、図9に示すように、セグメント10aの上下端に近傍に円周方向PC鋼より線23をそれぞれ配設して分割されたセグメントピース11、12を結合する。
【0036】
図10(a)、図10(b)は、図8、図9に示すセグメントピース11、12の目地部の拡大図を示すもので、このセグメント10の施工工程を示すものである。図10(a)、図10(b)では鉄筋13を省略してある。
【0037】
セグメントピース11、12内に配設されている円周方向PC鋼より線23は、目地16内に端部を露出しており、カプラ24に接続するようになっている。PC鋼より線23は目地16から一定長さ26の部分はアンボンド構造となっている。
【0038】
図10(a)に示すように、目地16の間隔が予め設定してある設定寸法25に一致するようにカプラ24のねじ込み量を調整する。
【0039】
次に、図示省略したジャキでセグメントピース11、12の内径側を押圧して拡径させる。この時、図10(b)に示すように、PC鋼より線23の目地16内の部分は直線となり、さらにジャッキを作動させると目地寸法27が所望のセット寸法となる。ここでジャッキをロックし、目地16にコンクリートを打設する。コンクリート硬化後、ジャッキを解放すると、目地コンクリートにプレストレスが導入される。
【0040】
以上の工程中の設定寸法25、所望のセット寸法(目地寸法27)等は、条件に応じて、予め適正に定めておくとよい。
【0041】
図11は角形の実施例のケーソン10を示した。図12は図11のA−A矢視図を示したものである。セグメントピース11、12は辺の中央で2分割したU字形をなしており、これを連結して四角形の箱形にする。鉄筋13、U字形鉄筋14は円筒形の場合と同様である。縦目地のせん断力に抵抗するために、目地面にモルタル22と噛み合う凹凸噛み合わせ17を形成し、モルタル22と係合させている。
【0042】
図11、図12に示す実施例では、縦筋はすべてPC鋼材を用いることとし、多数のシース31がコンクリート内でケーソン軸方向に配設されており、フープ鉄筋13は中間帯鉄筋32により上下左右の鉄筋同士が連結されている。また、コンクリート又はモルタル22は膨張性を有する材料を用い、セグメントピース11、12の凹凸噛み合わせ17に強固に噛み合うようにするとよい。
【0043】
図13はずれせん断力の説明図である。縦目地で結合されている構造物51に水平力Pが作用すると、構造物51の軸方向鉄筋52が降伏したとき大きなせん断力53が作用する。軸方向鉄筋52が降伏した後は、水平目地開きも顕著になり、次いで、鉛直目地部のせん断力へ力が移行するのでこれを防止するせん断キー、例えば上述の凹凸噛み合わせが必要となる。
【0044】
図14は鉛直目地に発生する最大せん断応力度54を示すもので最大せん断応力τは
τ=S×Q/I×b
ただし
S:せん断力(tf)
Q:中立軸に関する断面一次モーメント(m3
I:中立軸に関する断面二次モーメント(m4
b:τを求める面の幅(m)
で表される。1例を挙げると
B:供試体断面幅 0.4m
t:部材厚、2t=b 0.067m
Bh:中空部断面幅 0.266m
I:0.0017161m4
Q:0.0056474m3
S:17tf
τ:417tf/m2
42kgf/cm2 ≦ 53kgf/cm2(平均せん断応力度の最大値)又は4.2N/mm2(道路橋示方書III p.155)
よって、多段接合キーによリ作用せん断力に抵抗できる。
【0045】
次に、図13において最大水平荷重P=17tf、最大変位=60mmとすると、最大変形角αはtan α=60/1400よりα=2.4となる。このときずれせん断力Vは
V = P×tan α =0.7tf
せん断キーの断面積 A = 536cm2
せん断応力度 V/A = 13kgf/cm2
となる。
【0046】
本発明に係るプレキャストコンクリートセグメントピース11、12を工場で製作する場合、上方が開断面となるような姿勢で型枠を設置し、この型枠中にコンクリートを打設し、セグメントピースの外面が型枠面となるようにする。このとき、セグメントの水平継目となる面にはガイドキーを二個以上設置しておき、セグメントをケーソンとして組み立てる時に、このガイドキーによって上下のセグメントの位置決めを行うようにする。
【0047】
セグメントピース11、12を製造するとき、上下に隣接するセグメントの当接面を先に製造したセグメントの面を型枠面として、いわゆるマッチキャスト方式で製造すると好適である。この場合、マッチキャスト面を合わせ、セグメントを2ブロック重ねた段階でその鉛直性を確認し、その鉛直性の値が1/2000程度(立ち2mm)以内に収まるようにし、2ブロック毎に鉛直性を管理すると好適である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例の平面図である。
【図2】図1の側面図の例である。
【図3】図1の側面図の例である。
【図4】図1の側面図の例である。
【図5】図1の側面図の例である。
【図6】別の実施例の平面図である。
【図7】図8の側面図である。
【図8】別の実施例の平面図である。
【図9】図6の側面図である。
【図10(a)】図8の目地部の拡大図である。
【図10(b)】図8の目地部の拡大図である。
【図11】別の実施例の平面図である。
【図12】図6の側面図である。
【図13】ずれせん断力の説明図である。
【図14】ずれせん断力の説明図である。
【符号の説明】
【0049】
10 ケーソン
11、12 セグメントピース
13 鉄筋
14 U字形鉄筋
15 凹部
15,15a 凹部
16 目地
16a 段状部
16b 段状部
16c 押圧する力(分力)
17 凹凸噛み合わせ
21 PC鋼材
22 コンクリート又はモルタル
23 PC鋼材
24 カプラ
25 設定寸法
26 一定長さ
27 目地寸法(所望のセット寸法)
31 シース
32 中間帯鉄筋
51 構造物
52 鉄筋
53、54 せん断力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1ピースで道路上を搬送できない大寸法のプレキャストケーソンセグメントをケーソン軸方向に沿う目地によって複数個に分割し、該分割されたセグメントの対向する目地部に分割されたセグメントを相互に連結する連結機構を設けたことを特徴とするケーソン。
【請求項2】
連結機構はセグメントから目地部に突出したU字形鉄筋とすると共に、前記セグメントの分割部に相互に噛み合う円周方向の段差又は凹凸を設けたことを特徴とする請求項1記載のケーソン。
【請求項3】
前記段差が鋭角のZ字状の噛合形状からなる段差であることを特徴とする請求項2記載のケーソン。
【請求項4】
前記目地内又は目地部側壁内にケーソン軸方向PC鋼材を挿通するシースを設けたことを特徴とする請求項2又は3の何れかに記載のケーソン。
【請求項5】
前記セグメント内に円周方向PC鋼より線を配設し、その両端部をケーソン軸方向に沿う目地部に露出させ、圧着グリップを装着したことを特徴とする請求項2〜4の何れかに記載のケーソン。
【請求項6】
請求項1記載のケーソンを用い、連結機構としてケーソン内に配設した円周方向PC鋼より線の両端を目地部に露出させておき、目地部の隣接セグメント端面相互間隔が設定値となるようにPC鋼より線端部同士を接続し、次いで該セグメント端面相互間隔が所望寸法になるようにセグメントを拡径し、目地部にコンクリートを打設し、コンクリート硬化後拡径力を開放し、目地コンクリートにプレストレスを導入することを特徴とするケーソンの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10(a)】
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【図10(b)】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−183343(P2006−183343A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378826(P2004−378826)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)