説明

ケーブル挿通治具及びこれを用いたアンテナの車両への取り付け方法

【課題】アンテナ用の貫通穴のように、1個のコネクタが通る程度の小さい穴や、また作業エリアから離れた位置にある貫通穴に対しても、容易にコネクタ及びケーブルを挿通できるケーブル挿通治具を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、先端にコネクタ30が設けられたケーブル20を貫通穴62に通すときに用いるケーブル挿通治具40であって、
端部に開口41を備え、該開口から前記コネクタの1個分だけが挿入可能な内径の略円筒形状を有し、
前記コネクタが挿入されたときに、前記略円筒形状を保てる硬度の材質で形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル挿通治具及びこれを用いたアンテナの車両への取り付け方法に関し、特に、ケーブルの先端にコネクタが設けられ、貫通穴への挿通が必要とされる場合において、ケーブルの挿通を補助するケーブル挿通治具及びこれを用いたアンテナの車両への取り付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車体パネルの貫通孔へのワイヤーハーネス通し治具となる樹脂製カバーであって、円錐筒形状の本体内部にコネクタを収容し、車体パネル貫通孔へのワイヤーハーネスの挿通を容易にした技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−80443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の特許文献1に記載の構成では、コネクタを収容する本体部の形状が、複数のコネクタを電線群として収容できる大きさを有する円錐筒形状であるため、複数のコネクタが本体内部である程度の自由度を保って分散して収容されることになり、径方向にも拡がりを有する形状となっている。従って、例えば車両のルーフに設けられたアンテナ用の貫通穴等、1個のコネクタがやっと通る程度の大きさしかない貫通穴には適用できないという不都合があった。また、例えばアンテナ用の貫通穴へのアンテナ取り付けの作業時のように、作業エリアから離れた位置で取り付け作業を行う場合には、やはり通し位置の精度が不十分で、作業性を向上させることが困難であるという問題があった。
【0004】
そこで、本発明は、アンテナ用の貫通穴のように、1個のコネクタが通る程度の小さい穴や、また作業エリアから離れた位置にある貫通穴に対しても、容易にコネクタ及びケーブルを挿通できるケーブル挿通治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、第1の発明に係るケーブル挿通治具は、先端にコネクタが設けられたケーブルを貫通穴に通すときに用いるケーブル挿通治具であって、
端部に開口を備え、該開口から前記コネクタの1個分だけが挿入可能な内径の略円筒形状を有し、
前記コネクタが挿入されたときに、前記略円筒形状を保てる硬度の材質で形成される。
【0006】
これにより、コネクタ1個分しか挿通できない小さな貫通穴に対しても、貫通穴を容易の挿通できる円筒形状にコネクタを含むケーブルの先端部を形成することができ、ケーブルの挿通作業を容易にすることができる。
【0007】
第2の発明は、第1の発明に係るケーブル挿通治具において、
前記略円筒形状は、複数のコネクタを1列に挿入配列可能な長さを有する。これにより、コネクタが複数あった場合でも、ケーブル挿通治具内にコネクタを1列に配列することができ、貫通穴へのケーブルの挿通が容易となるとともに、1回の挿通作業で総てのコネクタを貫通穴に通すことができる。
【0008】
第3の発明は、第1又は第2の発明に係るケーブル挿通治具において、
前記材質は、樹脂又は紙である。これにより、ある程度の硬度と弾力を有する材質でケーブル挿通治具を形成することができ、ケーブル挿通治具へのコネクタの着脱を容易にするとともに、コネクタを略円筒形状に保った状態で貫通穴での挿通作業を行うことが可能となる。
【0009】
第4の発明は、第1〜3のいずれか1つの発明に係るケーブル挿通治具において、
前記略円筒形状は、前記コネクタの脱落を防止するコネクタ脱落防止用凸部を円筒内部に設ける。これにより、コネクタをケーブル挿通治具内に確実に固定した状態で貫通穴への挿通作業を行うことができ、作業性を確実に向上させることができる。
【0010】
第5の発明は、第1〜4のいずれか1つの発明に係るケーブル挿通治具において、
前記ケーブルは、アンテナから出ているケーブルであって、
前記貫通穴は、車両のルーフに設けられたルーフ穴である。これにより、車両のルーフに設けられたアンテナ取り付け用の小さな貫通穴に対して、容易にアンテナから出ているケーブルを挿通させることができる。
【0011】
第6の発明に係るアンテナの車両への取り付け方法は、上側にアンテナが固定され、下側にアンテナケーブルが接続されたアンテナベース部を有するアンテナの車両への取り付け方法であって、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のケーブル挿通治具にコネクタ及びアンテナケーブルを挿入して該コネクタを前記ケーブル挿通治具内で1列に配列し、
前記挿通治具を前記車両のルーフ穴に外部から挿通し、
前記アンテナベース部を前記車両のルーフ穴に固定し、
前記挿通治具を前記車両の内部で取り外し、
前記コネクタを前記車両内の中継ケーブルコネクタに接続する。
【0012】
これにより、コネクタをケーブル挿通治具内で1列に配置して車両のルーフ穴に通すことができ、穴の大きさが小さく、かつ作業者の位置から離れて腕を伸ばした状態で取り付け作業を行わざるを得ないアンテナ取付作業において、ケーブルの挿通作業が容易となり、作業性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コネクタが1個しか通らない程度の大きさの貫通穴に対しても、コネクタを1回の作業で容易に通し、ケーブル挿通作業の作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0015】
図1は、本発明を適用する対象となるケーブル20及びコネクタ30を含む車載アンテナ200の一例を示した構成図である。図1において、車載アンテナ200は、アンテナ素子50と、アンテナベース部10と、ケーブル20と、コネクタ30とから構成される。
【0016】
アンテナベース部10は、車両のルーフ上に車載アンテナ200を取り付けるための、アンテナ素子50の支持基板となる部分である。アンテナベース部10の上側には、アンテナ素子50が備えられ、アンテナ支持体51によりアンテナベース部10と一体的に固定されている。アンテナ素子50により、車両のルーフ上で電波を受信する。
【0017】
アンテナベース部10の下側には、アンテナベース部10をルーフ上に固定するためのアンテナベース固定部材11と、位置決めを行うためのアンテナベース位置決め部材12が設けられてもよい。これらにより、車両のルーフ上への位置決め固定がなされる。
【0018】
車載アンテナ200は、ケーブル20を有し、ケーブル20の先端には、コネクタ30が備えられている。ケーブル20は、アンテナベース部10の下側に接続されていてよい。アンテナベース部10が車両のルーフ上に固定されたとき、ケーブル20及びコネクタ30は車両内部に設けられ、車両内の配線と接続される。
【0019】
ケーブル20は、アンテナ素子50から受信する電波信号の種類に応じて、複数備えられていてよい。図1においては、ケーブル21、22、23の3本のケーブルが設けられている。アンテナ素子50は、複数種類の用途の電波信号を受信できる統合アンテナが用いられてよく、車載アンテナ200として1本のアンテナ素子50のみ備えている場合であっても、その用途は、複数の用途に適応可能に構成されてもよい。詳細は後述するが、例えば、北米にはSDARS(Satellite Digital Audio Radio Service、衛星デジタルラジオサービス)と呼ばれるデジタルラジオ放送があり、かかるSDARSと、通常のラジオ放送を受信可能に構成されてもよいし、更にテレマティックスを備えてGPS(Global Positioning System)や電話に対応可能に構成されてもよい。また、アンテナ用のケーブル20のみではなく、電源用のケーブル20を備えていてもよい。
【0020】
また、ケーブル20の先端には、配線接続用のコネクタ30が設けられる。コネクタ30も、各々のケーブル21、22、23に対応して、コネクタ31、32、33が各々設けられてよい。コネクタ31、32、33は、単極でもよいし、多極性のコネクタであってもよい。コネクタ31、32、33は、ケーブル21、22、23の電気的接続を行うために必要なものであるが、その断面形状はケーブル21、22、23の径よりも遥かに大きく、一般に車両のルーフ上の貫通穴等はコネクタ31、32、33の1個の断面形状よりもやや大きい程度の大きさに形成されていることが多いため、ケーブル21、22、23の貫通穴への挿入作業を困難なものにしている。
【0021】
このように、本発明が適用されるケーブル20及びコネクタ30は、複数のケーブル21、22、23及び複数のコネクタ31、32、33を備えていてよく、それらは車載アンテナ200のような小さな貫通穴にケーブル21、22、23を通すことが必要なものであってよい。なお、図1に示した車載アンテナ200は、適用対象の一例であり、他にもコネクタ30をスペース的余裕のない貫通穴に通す場合には、本発明の適用対象となり得る。また、ケーブル20及びコネクタ30が1個のみの場合にも、適用可能である。
【0022】
次に、図2を用いて、本発明を適用した実施例に係るケーブル挿通治具40について説明する。図2は、本実施例に係るケーブル挿通治具40を、図1において説明した3本のケーブル21、22、23及びコネクタ31、32、33を有する車載アンテナ200に適用した例を示した図である。
【0023】
図2において、略円筒形状のケーブル挿通治具40の中に、コネクタ31、32、33が1列に配列されて収容されている。コネクタ31、32、33の背面部には、ケーブル21、22、23が接続され、ケーブル21、22、23も同様にケーブル挿通治具40に収容されている。ケーブル挿通治具40は、端部に開口41を有し、略円筒形状に形成され、中の中空部分にコネクタ31、32、33の1個分のみが収容可能な内径の大きさに形成されている。これにより、コネクタ31、32、33を略直線状の1列に配列することができるので、コネクタ31、32、33の1個のみが通れる大きさの貫通穴に対しても、3回コネクタ31、32、33を通す作業を行うことなく、1回の挿通作業でコネクタ31、32、33及びケーブル21、22、23の総てを通すことができる。ケーブル挿通治具40の略円筒形状の長さは、コネクタ31、32、33の大きさと数に応じて、これらを総て1列に配列して収容できる長さとすることが好ましい。なお、ケーブル挿通治具40は、ケーブルスリーブと呼んでもよい。
【0024】
ケーブル挿通治具40の材質は、樹脂又は紙であってもよい。ケーブル挿通治具40は、ケーブル21、22、23又はコネクタ31、32、33が挿入されて保持されているときに、その円筒形状を保てる硬度又は強度を有する材質であれば、何でも好適に適用可能であるが、例えば樹脂又は適度な強度を有する紙は、その要求を満たすことができる。円筒形状を保てずに、途中で折れ曲がったりする材質であると、ケーブル21、22、23を貫通穴に挿入する際に、貫通穴から離れた位置で作業を行う場合には、ケーブル挿通治具40の先端部42の位置を貫通穴に合わせるのが困難になるため、略棒状とも言える細長い円筒形状を保てる材質であることが必要である。
【0025】
また、ケーブル挿通治具40の材質は、ある程度の弾性及び復元性を有することが好ましい。ケーブル挿通治具40へのコネクタ31、32、33の挿入は、例えば、少し力を加えて開口41からコネクタ31、32、33を順番に押し込んだり、また外すときは軽くケーブル21、22、23を引っ張ったり、コネクタ31、32、33に先端側から力を加えて移動させたりして行われてもよい。このような方法でケーブル挿通治具40にコネクタ31、32、33を着脱する場合には、ケーブル挿通治具40にある程度の弾性や復元力がある材質が用いられることが好ましく、例えば、塩化ビニル等の樹脂や特定の紙は、この要求を満たすことができる。
【0026】
また、逆に、樹脂や紙は加工して容易にリサイクルが可能なので、使い捨てとしてリサイクルして再利用する方法で着脱を行ってもよい。例えば、図2に示したように一旦コネクタ31、32、33をケーブル挿通治具40内に1列に配列し、貫通穴を通した後は、ケーブル挿通治具40を切り開くことにより、ケーブル挿通治具40を外すようにしてもよい。使用済みのケーブル挿通治具40は、また再利用して加工すれば、材料も無駄にせず、挿通後のケーブル挿通治具40を外す作業も迅速に行うことができる。
【0027】
ケーブル挿通治具40の先端部42は、尖った形状をしていてもよい。先端部42を尖らせることにより、貫通穴への挿通が容易になるので、このような形状としてもよい。なお、ケーブル挿通治具40の先端部42は、図2においては、塞がれた形状となっているが、開口形状となっていてもよい。先端部42からコネクタ31、32、33が脱落しない限り、その形状の態様は問わない。
【0028】
ケーブル挿通治具40は、円筒内部にコネクタ31、32、33の脱落を防止するためのコネクタ脱落防止用凸部43が設けられていてよい。コネクタ脱落防止用凸部43は、円筒内部に、コネクタ31、32、33の移動を防止する隆起部分があればその形状は問わない。従って、例えば、ケーブル挿通治具40が樹脂製である場合には、ケーブル挿通治具40内にコネクタ31、32、33を挿入した後、コネクタ31、32、33の後の部分のケーブル挿通治具40を押しつぶすことにより、コネクタ脱落防止用凸部43を形成してもよい。また、ケーブル挿通治具40が紙製であれば、円筒内部に凸部ができるようにケーブル挿通治具40を内側に折り込むことにより、コネクタ脱落防止用凸部43を形成してもよい。また、上述のような簡略形でなく、ケーブル挿通治具40を構成する円筒内部を加工して傾斜のある凸部を設けるようにして、コネクタ脱落防止用凸部43を形成するようにしてもよい。
【0029】
このように、本実施例に係るケーブル挿通治具40によれば、先端にコネクタ31、32、33を有する複数のケーブル21、22、23を貫通穴に通す場合において、コネクタ31、32、33を略一直線状に配列することにより、容易に貫通穴を通すことができる。
【0030】
なお、このような先端にコネクタ31、32、33を有する複数のケーブル21、22、23を貫通穴に通す場合、ケーブル21、22、23の先端のケーブル長を変え、コネクタ31、32、33が重ならない状態に成形されていることが好ましい。本実施例に係るケーブル挿通治具40は、複数のケーブル21、22、23のケーブル長が同一の場合でも適用できるが、その場合は、ケーブル挿通治具40の中間に配列されたコネクタ32のケーブル22や開口41側に配列されたコネクタ33のケーブル23が余ってしまう状態になるので、これを防止するために、ケーブル21、22、23の先端の各ケーブル長が異なるように構成してもよい。
【0031】
次に、図3を用いて、本実施例に係るケーブル挿通治具40を、車載アンテナ200用のケーブル20に適用したときの、車載アンテナ200と車両60との関係及びケーブル20と貫通穴62との関係について説明する。図3は、車両60の平面図である。
【0032】
図3において、車両60のルーフ61上の後方に、貫通穴62が設けられている。貫通穴62は、車載アンテナ200から出ているケーブル20及びコネクタ30をルーフ61の外側から車両60の内側に通すための穴であり、一般的に車両幅方向の中央部分に設けられる。このような位置にある貫通穴62に、コネクタ30及びケーブル20を通すためには、例えば、車両60の側面に作業員が立ち、ルーフ61の中央に手を伸ばして作業を行うか、又はバックウィンドウガラスが取り付けられていない段階で、車両60の後部座席に乗り込み、バックウィンドウガラスの位置から手をルーフ61の上方に回して、手探りで貫通穴62の位置を確かめて作業を行うような作業形態とならざるを得ない。
【0033】
ここで、例えば貫通穴62が13〜18mm程度、例えば15mm前後のコネクタ30が1個だけ通過できる程度の穴に設定されていたとすると、作業者は、自分の位置から離れた位置で小さい貫通穴62にコネクタ30を通すことを要求される。柔らかいケーブル20の先端に大きなコネクタ30が設けられた構成で、離れた位置から貫通穴62にコネクタ30を通そうとすると、その位置合わせに多大な時間と労力を費やすものにならざるを得ない。また、挿通すべきコネクタ30が複数ある場合には、同様の作業をコネクタ30毎に複数回行わなければならず、その作業量はコネクタ30の数だけ増加することになる。
【0034】
そこで、本実施例に係るケーブル挿通治具40を適用し、コネクタ30が一列に配列されるような略円筒形状のケーブル挿通治具40にコネクタ30を挿入し、略円筒形状を保ったケーブル挿通治具40を貫通穴62に挿入するようにすれば、コネクタ30及びケーブル20が扱い易い適度の硬さを有する略円筒形状となり、またそこに総てのコネクタ30及びケーブル20が収容されているので、1回の挿入作業で総てのコネクタ30及びケーブル20を車両60の内部に通すことができる。
【0035】
また、ケーブル挿通治具40は、細長い略円筒形状の取り扱い容易な形状であるので、掴み治具やロボットハンドを用いてケーブル挿通治具40を掴むことが可能となり、これにより貫通穴62を通過させるような作業の簡素化も可能となる。つまり、コネクタ30のそのままの形状では、小さくて表面に凹凸があり、掴み治具等で掴むのは困難であるが、本実施例に係るケーブル挿通治具40にコネクタ30を収容すれば、その外形は細長い棒状となるので、掴み治具やロボットハンド等でも掴んで操作することが可能となる。
【0036】
なお、コネクタ30と貫通穴62の大きさは、適宜調整が可能であり、どの程度貫通穴62に余裕を持たせた大きさとするかは、車種や作業の状況に応じて、適宜所望の比率に設定してよい。しかしながら、車両60のルーフ61にあまり大きな貫通穴62を開けることは好ましくないので、一般的にはコネクタ30の断面形状よりもやや大きい程度に設定される場合が多い。このような場合に、本実施例に係るケーブル挿通治具を利用すれば、挿通作業を容易にすることができる。
【0037】
また、本実施例に係るケーブル挿通治具40は、ケーブル20及びコネクタ30が1つずつの場合にも適用可能である。つまり、柔らかくて形状を作ることができないケーブル20と、小さくて取り扱いにくい形状のコネクタ30を、取り扱い易い一定の硬度を有する細長い円筒形状にするので、貫通穴62に挿入し易くなるという効果を有している。従って、ケーブル20及びコネクタ30が1つずつの場合にも、本実施例に係るケーブル挿通治具40を適用することができ、上述のような掴み治具の適用が行い易くなる。
【0038】
このように、本実施例に係るケーブル挿通治具40は、車載アンテナ200を車両60のルーフ61上に取り付けるような、貫通穴62が小さく、かつ作業性も悪い状況下においても作業性を向上させることができ、このような状況に好適に適用することができる。
【0039】
次に、図4乃至6を用いて、本実施例に係るケーブル挿通治具40が適用され得る車載アンテナ200の態様の例について説明する。
【0040】
図4は、ラジオとSDARSの統合アンテナ200aの態様を示した図である。図4(a)は、本実施例に係るケーブル挿通治具を適用していない状態の車載アンテナ200aを示している。なお、今まで説明したのと同様の構成要素については、同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0041】
図4(a)において、車載アンテナ200aは、図1に示した構成と同様に、アンテナベース部10の上側に、ラジオ・SDARS統合アンテナ素子50aを備え、下側にアンテナベース固定部材11と、アンテナベース位置決め部材12を備えている。ケーブル20は、SDARSアンテナ用同軸ケーブル21、ラジオアンテナ用同軸ケーブル22及びラジオアンテナ用電源ケーブル23の3本のケーブル21、22、23から構成されている。また、SDARSアンテナ用同軸ケーブル21、ラジオアンテナ用同軸ケーブル22及びラジオアンテナ用電源ケーブル23の先端には、各々コネクタ31、32、33が設けられている。
【0042】
このように、例えば北米では、SDARS(衛星デジタルオーディオ無線サービス)と呼ばれるデジタルラジオ放送を聴くユーザが多いため、これを受信するアンテナが必要となることが多く、これに対応したSDARSアンテナ用同軸ケーブル21が必要とされる。また、通常のラジオを聴くラジオアンテナを設置する場合には、ラジオアンテナ用同軸ケーブル22と、ラジオアンテナ用電源ケーブル23の双方が必要とされる。従って、ラジオ・SDARS統合アンテナ200aを用いる場合には、3本のケーブル21、22、23及び3個のコネクタ31、32、33が用いられる。
【0043】
図4(b)は、図4(a)に係るラジオ・SDARS統合アンテナ200aに、本実施例に係るケーブル挿通治具40を適用した状態の図である。図2に示した構成と同様に、ケーブル挿通治具40は、開口41を有し、ここからコネクタ31、32、33が挿入され、ケーブル挿通治具40の先端部42から順に、コネクタ31、32、33の順で1列にコネクタ31、32、33が配列され、貫通穴62に通し易い略円筒形状となっている。また、円筒内部には、必要に応じてコネクタ脱落用凸部43を設けてもよい。
【0044】
このように、本実施例に係るケーブル挿通治具40は、ラジオ・SDARS統合アンテナ200aに好適に適用可能である。
【0045】
図5は、ラジオ、SDARS、GPS及び電話が統合されたラジオ・SDARS・GPS・電話統合アンテナ200bの態様を示した図である。
【0046】
図5に係るラジオ・SDARS・GPS・電話統合アンテナ200bは、図4に係るラジオ・SDARS統合アンテナ200aが備えているSDARSアンテナ用同軸ケーブル21、ラジオアンテナ用同軸ケーブル22及びラジオアンテナ用電源ケーブル23に加えて、更にGPSアンテナ用同軸ケーブル24及び電話アンテナ用同軸ケーブル25が備えられている点で、図4に係るラジオ・SDARS統合アンテナ200aと異なっている。また、GPSアンテナ用同軸ケーブル24及び電話アンテナ用同軸ケーブル25の先端には、各々コネクタ34、35が備えられ、ケーブル20及びコネクタ30の数は、各々5つとなっている。
【0047】
ラジオ、SDARSに加えて、GPSと電話の機能も必要なユーザの場合には、GPSと電話にも対応できるアンテナ素子50bを用い、5端子を備えた統合アンテナ200bが適用される。GPSと電話は、テレマティックスと呼ばれている車載通信システムの中核をなす通信手段である。テレマティックスは、特に北米で多く利用されている通信システムであり、例えば、無線音声、データサービス及びGPS技術を組み合わせたカーナビゲーション、位置情報サービス、緊急時対応サービスなどの利用が可能な通信システムとして構成されている場合が多い。ユーザが、かかるテレマティックスのサービス利用を希望する場合には、図5に示す5本のケーブル21、22、23、24、25及び対応する5個のコネクタ31、32、33、34、35を備えた統合アンテナ200bの態様となる。
【0048】
そして、図示はしないが、このように、5本のケーブル21、22、23、24、25と5個のコネクタ31、32、33、34、35を備えている場合でも、図2及び図4(b)と同様に、5個のコネクタ31、32、33、34、35を1列に配列して収容できる長さの略円筒形状を有するケーブル挿通治具40を適用することにより、ケーブル21、22、23、24、25を容易に貫通穴62に通すことができる。
【0049】
なお、他の構成要素については、今までの説明と同様であるので、その説明を省略する。
【0050】
図6は、SDARS、GPS及び電話を統合したSDARS・GPS・電話統合アンテナ200cを示した図である。上述のSDARSと、テレマッティックスとの組合せと考えてもよい。
【0051】
このように、一般のラジオ放送は不要であり、SDARS、GPS及び電話が必要なユーザに対しては、これらに対応したSDARS・GPS・電話統合アンテナ200cを適用してよい。図4及び図5に係る統合アンテナ200a、200bにおいて必要とされたラジオアンテナへの対応が不要となっている。よって、ラジオアンテナ用同軸ケーブル22及びラジオアンテナ用電源ケーブル23の2本が除かれており、全体として3本のSDARSアンテナ用同軸ケーブル21、GPSアンテナ用同軸ケーブル24及び電話アンテナ用同軸ケーブル25で済んでおり、先端に設けられたコネクタもコネクタ31、34、35の3個で済んでいる。従って、本実施例に係るケーブル挿通治具40をSDARS・GPS・電話統合アンテナ200cに適用した場合も、図2又は図4(b)に示した状態とほぼ同様となり、3個のコネクタ31、34、35を略一直線状に配列することにより、貫通穴62を容易に通すことができる。
【0052】
このように、本実施例に係るケーブル挿通治具40は、種々の統合アンテナ200a、200b、200cに対応して適用することができる。
【0053】
なお、図4乃至6では、北米で普及しているSDARS用のアンテナを例に挙げて説明したが、これらは今後世界各地に拡大されることが予想されるので、それに応じて日本やヨーロッパを含めた世界各地の通信態様に適合させることができる。また、SDARS以外にも、ケーブル20の数が複数ある車載アンテナ200に対しては総て適用可能であるので、他の通信態様にも適用可能であることは言うまでもない。
【0054】
次に、図7を用いて、ラジオ・SDARS・GPS・電話統合アンテナ200bを車両60に取り付けた場合の、車両60のシステム構成について説明する。図7は、ラジオ・SDARS・GPS・電話統合アンテナ200bが車両60に取り付けられた状態のシステム構成図である。
【0055】
図7において、車載通信システムの主要構成要素は、ラジオ・SDARS・GPS・電話統合アンテナ200bと、車載通信機70と、中継ケーブル100とから構成される。
【0056】
車載通信機70は、SDARSチューナ71と、ラジオレシーバ72と、テレマティックスECU(Electronic Control Unit、電子制御ユニット)74とから構成される。SDARSチューナ71は、SDARSを受信するための受信機であり、SDARSアンテナ用同軸ケーブル81を備えている。ラジオレシーバ72は、一般的なラジオ電波を受信するための受信機であり、ラジオアンテナ用同軸ケーブル82と、ラジオアンテナ用電源ケーブル83とを備える。また、テレマティックスECU74は、上述のようなテレマティックスに対応する通信手段であり、GPSアンテナ用同軸ケーブル84と、電話アンテナ用同軸ケーブル85とを備える。
【0057】
ラジオ・SDARS・GPS・電話統合アンテナ200bは、SDARSアンテナ用同軸ケーブル21、ラジオアンテナ用同軸ケーブル22、ラジオアンテナ用電源ケーブル23、GPSアンテナ用同軸ケーブル24及び電話アンテナ用同軸ケーブル25と、その先端に各々コネクタ31、32、33、34、35を備えるが、その内容は図5における説明と同様であるので、その説明を省略する。
【0058】
中継ケーブル100は、ラジオ・SDARS・GPS・電話統合アンテナ200bと車載通信機70とを電気的に接続するためのケーブル線であり、両端に雌コネクタを備える。中継ケーブル101は、統合アンテナ200b側のSDARSアンテナ用同軸ケーブル21のコネクタ31と、SDARSチューナ71側のSDARSアンテナ用同軸ケーブル81のコネクタ91とを接続する。中継ケーブル102は、統合アンテナ200b側のラジオアンテナ用同軸ケーブル22のコネクタ32と、ラジオレシーバ72側のラジオアンテナ用同軸ケーブル82のコネクタ92とを接続し、同様に中継ケーブル103は、統合アンテナ200b側のラジオアンテナ用電源ケーブル23のコネクタ33と、ラジオレシーバ72側のラジオアンテナ用電源ケーブル83のコネクタ93とを接続する。中継ケーブル104は、統合アンテナ200b側のGPSアンテナ用同軸ケーブル24のコネクタ34と、テレマティックスECU74側のGPSアンテナ用同軸ケーブル84のコネクタ94とを接続し、同様に中継ケーブル105は、統合アンテナ200b側の電話アンテナ用同軸ケーブル25のコネクタ35と、テレマティックスECU74側の電話アンテナ用同軸ケーブル85のコネクタ95とを接続する。
【0059】
このように、車両60のルーフ61の貫通穴62を通して取り付けられたラジオ・SDARS・GPS・電話統合アンテナ200bは、例えば、中継ケーブル100を介して車載通信機70に接続され、全体として車載通信システムを構成してよい。
【0060】
次に、図8を用いて、ラジオ・SDARS・GPS・電話統合アンテナ200bを車両60のルーフ61上に取り付ける場合のアンテナ取り付け方法の一例について説明する。図8は、車両60に統合アンテナ200bを取り付けるときの作業状態を示す状態模式図である。
【0061】
図8において、車両60の内部には、車載通信機70として、SDARSチューナ71と、ラジオレシーバ72と、テレマティックスECU74とが搭載されている。各々の車載通信機70からは、所定のケーブル80が出ており、車両60内部の所定の位置を通って配設されている。
【0062】
車両60のルーフ61の後部中央には、貫通穴であるルーフ穴62が設けられている。かかるルーフ穴62に、統合アンテナ200bを取り付ける方法について説明する。
【0063】
まず、統合アンテナ200bのアンテナベース部10から出ているSDARSアンテナ用同軸ケーブル21、ラジオアンテナ用同軸ケーブル22、ラジオアンテナ用電源ケーブル23、GPSアンテナ用同軸ケーブル24及び電話アンテナ用同軸ケーブル25について、先端に接続された各々のコネクタ31、32、33、34、35を本実施例に係るケーブル挿通治具40に順番に挿入し、略円筒形状の内部に1列をなすようにコネクタ31、32、33、34、35を配列する。
【0064】
次いで、貫通穴であるルーフ穴62に、本実施例に係るケーブル挿通治具40内に1列をなして細長い略一直線状の棒状となったコネクタ31、32、33、34、35及びケーブル21、22、23、24、25を車両60の外部から通す。複数あるコネクタ31、32、33、34、35が一塊の細長い円筒形状となっているため、寸法的に余裕のないルーフ穴62に容易に通すことができるとともに、1回の通し作業で複数のコネクタ31、32、33、34、35及びケーブル21、22、23、24、25を総て挿通させることができる。
【0065】
次に、アンテナベース部10を、アンテナベース固定部材11により仮固定する。このとき、例えば、ルーフ61に位置決め用の窪み等が設けられ、アンテナベース位置決め用部材12を用いてアンテナベース部10の位置決めを行い、アンテナベース固定部材11に設けられたバネ13により仮固定を行ってもよい。
【0066】
次いで、アンテナベース固定部材11に設けられた締結部材等の固定手段(図示せず)により、アンテナベース部10を貫通穴であるルーフ穴62に固定し、ルーフ61上に統合アンテナ200bを固定する。
【0067】
次に、車両60の内部でケーブル21、22、23、24、25及びコネクタ31、32、33、34、35から本実施例に係るケーブル挿通治具40を取り外し、コネクタ31、32、33、34、35を中継ケーブル101、102、103、104、105の各々に設けられた各コネクタと接続する。これにより、統合アンテナ200bの各ケーブル21、22、23、24、25がSDARSチューナ71、ラジオレシーバ72及びテレマティックスECU74と電気的に接続され、統合アンテナ200bの車両60への取り付けが終了する。
【0068】
このように、本実施例に係るケーブル挿通治具40を適用したアンテナ取り付け方法によれば、コネクタ31、32、33、34、35及びケーブル21、22、23、24、25のルーフ穴62への挿通作業が容易になるため、アンテナ取り付け作業の所要時間及び労力を低減し、作業性を向上させることができる。
【0069】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明を適用する対象となる車載アンテナ200の一例を示した構成図である。
【図2】本実施例に係るケーブル挿通治具40を、ケーブル21、22、23及びコネクタ31、32、33を有する車載アンテナ200に適用した図である。
【図3】車両60の平面図である。
【図4】ラジオ・SDARS統合アンテナ200aの態様図である。図4(a)は、本実施例に係るケーブル挿通治具を適用していない状態の車載アンテナ200aを示した図である。図4(b)は、ラジオ・SDARS統合アンテナ200aに、本実施例に係るケーブル挿通治具40を適用した状態の図である。
【図5】ラジオ・SDARS・GPS・電話統合アンテナ200bの態様図である。
【図6】SDARS・GPS・電話統合アンテナ200cを示した態様図である。
【図7】統合アンテナ200bが車両60に取り付けられた状態のシステム構成図である。
【図8】車両60に統合アンテナ200bを取り付ける際の作業状態を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
10 アンテナベース部
11 アンテナベース固定部材
12 アンテナベース位置決め部材
13 バネ
20、21、22、23、24、25、80、81、82、83、84、85 ケーブル
30、31、32、33、34、35、90、91、92、93、94、95 コネクタ
40 ケーブル挿通治具
41 開口
42 先端部
43 コネクタ脱落防止用凸部
50、50a、50b、50c アンテナ素子
51 アンテナ支持体
60 車両
61 ルーフ
62 貫通穴(ルーフ穴)
70、71、72、74 車載通信機
100、101、102、103、104、105 中継ケーブル
200、200a、200b、200c 車載アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端にコネクタが設けられたケーブルを貫通穴に通すときに用いるケーブル挿通治具であって、
端部に開口を備え、該開口から前記コネクタの1個分だけが挿入可能な内径の略円筒形状を有し、
前記コネクタが挿入されたときに、前記略円筒形状を保てる硬度の材質で形成されたケーブル挿通治具。
【請求項2】
前記略円筒形状は、複数のコネクタを1列に挿入配列可能な長さを有するケーブル挿通治具。
【請求項3】
前記材質は、樹脂又は紙である請求項1又は2に記載のケーブル挿通治具。
【請求項4】
前記略円筒形状は、前記コネクタの脱落を防止するコネクタ脱落防止用凸部を円筒内部に設けた請求項1乃至3のいずれか1項に記載のケーブル挿通治具。
【請求項5】
前記ケーブルは、アンテナから出ているケーブルであって、
前記貫通穴は、車両のルーフに設けられたルーフ穴である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のケーブル挿通治具。
【請求項6】
上側にアンテナが固定され、下側にアンテナケーブルが接続されたアンテナベース部を有するアンテナの車両への取り付け方法であって、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のケーブル挿通治具にコネクタ及びアンテナケーブルを挿入して該コネクタを前記ケーブル挿通治具内で1列に配列し、
前記挿通治具を前記車両のルーフ穴に外部から挿通し、
前記アンテナベース部を前記車両のルーフ穴に固定し、
前記挿通治具を前記車両の内部で取り外し、
前記コネクタを前記車両内の中継ケーブルコネクタに接続する、アンテナの車両への取り付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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