説明

ゲル化炭化水素の品質保持方法

【課題】軟膏の基材としては最近、従来のワセリンの代わりにポリエチレンを基材としたゲル化炭化水素が多く用いられるようになってきているが、従来供給されているゲル化炭化水素の場合は、臭いがあることが問題であったので、本発明は、このゲル化炭化水素における臭いの問題を解決することを課題とする。
【解決手段】本発明者は、ゲル化炭化水素における臭いは、溶解工程における加熱に伴う熱劣化に起因するとの知見を得て本発明を完成させたものであり、本発明に係るゲル化炭化水素の品質保持方法は、原材料の選択工程と、前記原材料を加熱攪拌しつつ溶解する溶解工程と、前記溶解工程により得られた溶解液の冷却工程とから成り、前記冷却工程は、前記溶解工程における加熱処理により溶解液が80℃を超えた時点から、20分以内に開始することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化炭化水素の品質保持方法に関するものであり、より詳細には、主に軟膏の基材として用いられる医薬品添加物であるゲル化炭化水素の品質を、より長期間保持するためのゲル化炭化水素の品質保持方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軟膏の基材としては、多くの場合ワセリンが用いられていた。ワセリンには非結晶な部分と結晶質な部分が含まれていて、前者がパラフィン・ワックスのゲル化に多きな役割を果たしている。ワックスの非結晶部分だけを用いて鉱油(流動パラフィン)をゲル化する場合、軟膏基剤として使用するためには、更に大量のワックスが必要となる。また、結晶質のワセリンだけを使用して流動パラフィンゲルを作ろうとしても、それはゲル構造をとらないために、軟膏に必要な滑らかさと均一性を欠いた基剤となる。従って、適切な滑らかさと稠度を持たせるためには、結晶部分と非結晶部分とが適当な比率で存在することが必要である。
【0003】
最近では軟膏の基材として、従来のワセリンの代わりにポリエチレンが多く用いられるようになってきている。ポリエチレン樹脂は大きな分子量と高い融点を持った炭化水素で、ゲル化剤として必要な結晶性部分と非結晶性部分とを含んでいる。ポリエチレンをゲル化剤として作られたゲル基剤は、温度による稠度の変化も少なく、広範囲な温度的環境において、常時、一定の稠度を維持することが可能である。
【0004】
このポリエチレンを基材とする場合、原材料であるポリエチレンと流動パラフィンとを攪拌しつつ加熱溶解し、その後冷却して固化させて得たゲル化炭化水素として供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−276187号公報
【特許文献2】特開2000−247886号公報
【特許文献3】特開平10−87487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、軟膏の基材としては最近、従来のワセリンの代わりにポリエチレンが多く用いられ、このポリエチレンを基材として得たゲル化炭化水素として供給されるようになってきているが、従来供給されているゲル化炭化水素の場合は、臭いがあることが問題視されている。本発明は、このゲル化炭化水素における臭いの問題を解決することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々研究を重ねた結果、上記ゲル化炭化水素における臭いは、溶解工程における加熱に伴う熱劣化に起因するとの知見を得て本発明を完成させたものであり、上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、原材料の選択工程と、前記原材料を加熱攪拌しつつ溶解する溶解工程と、前記溶解工程により得られた溶解液の冷却工程とから成り、前記冷却工程は、前記溶解工程における加熱処理により溶解液が80℃を超えた時点から、20分以内に開始することを特徴とするゲル化炭化水素の品質保持方法である。
【0008】
好ましい実施形態においては、前記原材料として、ポリエチレンと流動パラフィンを用い、前記ポリエチレンは、粉末の無添加の低密度ポリエチレンで、分子量が15,000〜20,000で、MFR(メルトフローレート)が0.29〜0.41g/10minで、融点が約109℃のものとされ、前記流動パラフィンは、密度が0.862〜0.880g/cmで、粘度が66.5〜78cstのものとされる。
【0009】
また、好ましい実施形態においては、前記溶解工程における加温温度は、前記原材料の融点よりも少し高い温度とされ、前記冷却工程における冷却は、スチールベルトに溶解液を塗布し、前記スチールベルトの下から15〜25℃の冷却水を噴きかけることにより、毎秒約10℃の速さで冷却を進めることにより行われる。
【0010】
更に、好ましい実施形態においては、スチールベルト上においてゲル化する溶解液の膜厚が、1〜3mmの範囲内となるように設定される。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上述したとおりであって、本発明に係るゲル化炭化水素の品質保持方法の場合は、冷却工程が、溶解工程における加熱処理により溶解液が、熱劣化が始まる80℃を超えた時点から20分以内に開始されるために、その熱劣化が極力抑えられ、以て、熱劣化に起因する臭いの発生が抑えられる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について、工程順に説明する。本発明に係る方法の第1工程は、原材料の選択工程である。原材料としては、一般の場合と同様に、ポリエチレンと流動パラフィンが用いられる。ポリエチレンと流動パラフィンの配合比は、5〜10:95〜90%である。
【0013】
原材料のポリエチレンは、粉末の無添加の低密度ポリエチレンで、好ましくは、分子量は15,000〜20,000とされ、MFR(メルトフローレート)は0.29〜0.41g/10minとされ、また、融点が109℃程度のものとされる。無添加のポリエチレンは、分子量が増えるに従って融点が上がるが、融点の許容範囲は100〜120℃であり、分子量が15,000〜20,000のポリエチレンは、この範囲内に収まる。また、流動パラフィンとしては、密度が0.862〜0.880g/cmで、粘度が66.5〜78cstのものが好適に用いられる。
【0014】
本発明に係る方法の第2工程は、原材料の溶解工程である。この工程は、原材料の粉末の無添加の低密度ポリエチレンと流動パラフィンとを、5〜10:95〜90%の配合比で溶解容器内に投入し、加温しつつ攪拌する工程である。攪拌スピードは、例えば、ビーカーブレンドの場合において、800〜1200rpmとする。ここにおいて800rpm以下で攪拌した場合には、加熱して融点に達しても、粒形が崩れずに溶け残ってしまうという不都合が生ずる。また、1200rpm以上で攪拌した場合には、流動パラフィンが飛び散るという不都合が生ずる。
【0015】
攪拌時における加温温度は、原材料の融点よりも少し高い温度、例えば、115℃が適当である。本製品は薬品添加物であって、医薬品ではないので、滅菌のためにより高温に加熱する必要はない。
【0016】
本発明に係る方法の第3工程は、溶解液の冷却工程である。この冷却工程は、溶解工程における加熱処理により溶解液が80℃を超えた時点から、20分以内に開始する必要がある。それは、溶解液は80℃を超えると熱劣化が始まり、温度がそれ以上高くなればなる程熱劣化が加速するからであり、溶解液が80℃を超えた時点から20分以内に冷却を開始することで、特に、熱劣化によって臭いが発生することを防止するのである。
【0017】
溶解液の冷却は、スチールベルト(金属製の回転ベルト)に溶解液を塗布し、そのベルトの下から冷却水を噴きかけ、毎秒約10℃の速さで冷却を進める。その場合の冷却水の温度は、15〜25℃とする。温度がこの範囲を外れた冷却水にて処理した場合は、遊離油分の規格値が、0.2%を超えて外れることになる。
【0018】
スチールベルト上においてゲル化する溶解液の膜厚は、1〜3mmの範囲内となるようにする。その膜厚が3mm以上となると、熱交換率が悪くなり、温度勾配が不均一になって、遊離油分の規格が外れ、稠度も変わってしまう。また、スチールベルトの回転速度は、1.0〜10.0m/minの可変式で、量によって速度を変え、膜厚を1〜3mmと一定に保つことができる。
【0019】
この発明をある程度詳細にその最も好ましい実施形態について説明してきたが、この発明の精神と範囲に反することなしに広範に異なる実施形態を構成することができることは明白なので、この発明は添付請求の範囲において限定した以外はその特定の実施形態に制約されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原材料の選択工程と、前記原材料を加熱攪拌しつつ溶解する溶解工程と、前記溶解工程により得られた溶解液の冷却工程とから成り、前記冷却工程は、前記溶解工程における加熱処理により溶解液が80℃を超えた時点から、20分以内に開始することを特徴とするゲル化炭化水素の品質保持方法。
【請求項2】
前記原材料として、ポリエチレンと流動パラフィンを用い、前記ポリエチレンは、粉末の無添加の低密度ポリエチレンで、分子量が15,000〜20,000で、MFR(メルトフローレート)が0.29〜0.41g/10minで、融点が約109℃のものとし、前記流動パラフィンは、密度が0.862〜0.880g/cmで、粘度が66.5〜78cstのものとする、請求項1に記載のゲル化炭化水素の品質保持方法。
【請求項3】
前記溶解工程における加温温度は、前記原材料の融点よりも少し高い温度となるようにする、請求項1又は2に記載のゲル化炭化水素の品質保持方法。
【請求項4】
前記冷却工程における冷却は、スチールベルトに溶解液を塗布し、前記溶解液を塗布したスチールベルトの下から15〜25℃の冷却水を噴きかけ、毎秒約10℃の速さで冷却を進めることにより行う、請求項1乃至3のいずれかに記載のゲル化炭化水素の品質保持方法。
【請求項5】
前記スチールベルト上に塗布されてゲル化する溶解液の膜厚が、1〜3mmの範囲内となるようにする、請求項1乃至4のいずれかに記載のゲル化炭化水素の品質保持方法。