説明

ゲル含有消火水用の消火剤

【課題】消火効率が高い消火水を簡便に調製するための消火剤を提供することを課題とする。
【解決手段】少なくとも1種の炭素数10〜18の脂肪酸金属塩成分と、少なくとも1種の金属封鎖剤成分よりなる、ゲル含有消火水用の消火剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は界面活性剤系のゲル含有消火水を調製するための消火剤に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、火災においては水(消火水)を用いて消火作業をする。水は比熱及び蒸発熱が高いことから冷却作用が高く、燃焼物や可燃物から効率的に熱を奪うことで消火あるいは燃焼を防止する。しかしながら、水は表面張力が高く、燃焼物または可燃物表面に滞留せずに、落下して流失しやすい。消火活動に使用した水のうち、実際に消火に寄与するのは10%程度といわれている。したがって、消火に際しては長時間に渡って連続放水する必要があるため大量の水を必要とする。また、放水された消火水は滞留せずに大量に流れ落ちるために、例えば高層建物の火災の消火に際しては、火災とは直接関係のない下層への水の流入や、隣接した建物への水の飛散等が起こり、二次災害を引き起こす問題点も有している。
【0003】
一方で、火災現場近傍において水資源の量が限られている場合もある。例えば、林野火災等においては、消火に必要な水を十分に確保できないことが多い。この場合には、限られた量の水を効率的に消火に寄与させることが特に求められる。
【0004】
これまで、水の消火作用を増強させるために下記の水添加型消火剤が開発されてきている。
(a)リン酸塩無機化合物系消火剤
通常、主成分としてリン酸アンモニウムを含む。リン酸塩無機化合物系消火剤を含む消火水が火災域に散布されると、加熱によりリン酸アンモニウムが分解されて、その際の吸熱作用により周囲の熱を奪う。また、不燃性のガスを発生して周囲にガス層を形成することで酸素を遮断し、さらに高温になると、溶融ガラス状に変化して燃焼面を被覆して酸素を遮断する。リン酸塩無機化合物系の消火剤を含む消火水は無色であるため、特に森林火災等においては、着色剤を添加することではじめて散布域の識別が可能になる。
【0005】
しかしながら、リン酸塩無機化合物系消火剤を添加して消火水の消火作用を増強するためには、多くの消火剤を水に添加する必要がある。また、着色剤等の添加といった手間もかかり、火災時における迅速な消火水の調製には課題が残る。さらに、リン酸塩無機化合物は水に溶けにくいためにママコ(継粉)を生成しやすく、長期保管されたものは成分が析出して塊になるため、使用時にはこれを粉砕する装置が必要となる。リン酸塩無機化合物が水に溶けにくいことは、資機材の洗浄作業に手間がかかるという問題も生じさせる。
さらに、リン酸アンモニウムは、肥料に使われる成分と類似しているため、散布された土壌に富栄養化現象をもたらすという環境面に対する問題点も指摘されている。
【0006】
(b)合成界面活性剤系消火剤
合成界面活性剤を主成分とするため、合成界面活性剤系消火剤を含む消火水は表面張力が低く、燃焼物や可燃物等の消火対象に浸透しやすい。また、衝突した衝撃等により形成した泡が燃焼物や可燃物を覆って酸素を遮断することで、消火・再燃防止・延焼抑制の効果が向上する。界面活性剤系消火剤の水への添加濃度は低く、また、該消火剤のみを水に添加することで消火水を調製できるので、消火水の調製を比較的迅速に行うことができる。
【0007】
しかしながら、特にヘリコプターや航空機などを使用して火災上空から空中放水(散布)を行う場合には、合成界面活性剤系消火剤を含む消火水は空気の抵抗によって気泡を発生しやすく、火災による上昇気流及びヘリコプター、飛行艇、飛行機等の航空機自身の飛行によって発生する気流によって吹き飛ばされ、拡散して消失したり狙ったポイントに消火水が到達しにくいなどの問題がある。
また、合成界面活性剤は、環境中に放出されても一定期間界面活性作用を失わないため、水生生物に対する毒性が懸念される。
【0008】
(c)吸水性ポリマー系消火剤
吸水性ポリマーを主成分とし、水を十分に吸水した吸水性ポリマーを、燃焼物や可燃物に接触させることにより、消火・再燃防止・延焼抑止効果を発揮する。
【0009】
しかしながら、吸水性ポリマー系の消火剤を含む消火水は透明であり、該消火水が到達した部分を識別することができないため、通常は着色剤も添加する。そのため消火水の調製に手間がかかる。また、吸水性ポリマー系の消火剤を含む消火水は、界面活性剤系消火剤を含む消火水と比べて浸透力が弱いので、付着した部分から周囲へ消火水が展開しにくく、周囲への消火・再燃防止・延焼抑止効果はさほど期待できない。さらに、吸水性ポリマーは、火災後の残火処理、現場調査等の作業の際に、足をすべらせる原因となる。
加えて、吸水性ポリマーは生分解しにくく、環境中に蓄積して生態系に悪影響を及ぼすことが指摘されている。
【0010】
上記のリン酸塩無機化合物系、合成界面活性剤系及び吸水性ポリマー系の消火剤の問題点を解決すべく、界面活性剤として脂肪酸ナトリウム塩や脂肪酸カリウム塩といったいわゆる石鹸を使用した水添加型の非合成界面活性剤系消火剤も報告されている(特許文献1)。石鹸は生分解性の高い界面活性剤であるため、非合成界面活性剤系消火剤は生態系に対する影響を抑えられる利点がある。また、特許文献1に記載の消火剤では、脂肪酸ナトリウム塩や脂肪酸カリウム塩にキレート成分を共存させることで、消火水中の金属成分との反応による石鹸カスの生成を抑えている。しかしながら特許文献1には、石鹸成分とある種のキレート剤を水に混合すると常温でゲル化してしまい、その場合には消火水として使用できなくなることが記載されている。
【0011】
一方、特許文献2には、水に、オレイン酸等のアルカリ金属塩とキレート剤とを混合することによるゲル化剤の製造方法が記載されている。当該ゲル化剤の製造方法は、疎水性物質の固定方法や、細胞培養ゲルの製造方法に利用できることが記載されているが、該製造方法で製造したゲルを消火水として使用しうることは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開WO2006/028233号パンフレット
【特許文献2】特開2007−131715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、消火効率が高い消火水を簡便に調製するための消火剤を提供することを課題とする。
また、本発明は、消火効率が高い消火水を簡便な方法で調製し、これを火災現場に放水することで効率的に火災を消火する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、界面活性剤を含む消火水の一部又は全部がハイドロゲル化したゲル含有消火水を放水(散布)すると、放水後の消火水が適度に拡散しながら火災現場に着地するので、火災現場に効率的に消火水を送り込むことができることを見出した。また、水に界面活性作用を有するゲル化剤を添加することで、付着性、発泡性及び浸透性に優れたゲル含有消火水を簡便に調製することができ、火災を効率的に消火できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成するに至ったものである。
【0015】
本発明の課題は下記の手段により達成された。
[1]界面活性作用を有するゲル化剤を含有する、ゲル含有消火水用の消火剤。
[2]少なくとも1種の炭素数10〜18の脂肪酸金属塩成分と、少なくとも1種の金属封鎖剤成分よりなる、ゲル含有消火水用の消火剤。
[3]ゲル含有消火水が、少なくとも1種の炭素数10〜18の脂肪酸金属塩及び少なくとも1種の金属封鎖剤を、それぞれ0.1〜4重量%及び1〜10重量%の濃度で含有するものであり、該ゲル含有消火水の30〜100重量%がゲル化している、上記[2]に記載の消火剤。
[4]ゲル含有消火水に含有されるゲルが燃焼物及び/又は可燃物に衝突して付着及び/又は発泡するものであり、かつ火災の熱によりゾル化するものである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の消火剤。
[5]少なくとも1種の炭素数10〜18の脂肪酸金属塩が、ラウリン酸のアルカリ金属塩、ミリスチン酸のアルカリ金属塩、パルミチン酸のアルカリ金属塩、ステアリン酸のアルカリ金属塩及びオレイン酸のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上の脂肪酸金属塩である、上記[2]〜[4]のいずれかに記載の消火剤。
[6]少なくとも1種の金属封鎖剤が、グルタミン酸二酢酸四金属塩、アスパラギン酸二酢酸四金属塩、メチルグリシン二酢酸三金属塩、エチレンジアミンジコハク酸三金属塩及びヒドロキシイミノジコハク酸四金属塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属封鎖剤である、上記[2]〜[5]のいずれかに記載の消火剤。
[7]ゲル含有消火水の30〜100重量%のゲル化が、少なくとも1種の炭素数10〜18の脂肪酸金属塩及び少なくとも1種の金属封鎖剤を水に添加してから10分以内に起こる、上記[3]〜[6]のいずれかに記載の消火剤。
[8]ゲル含有消火水が、生分解性の林野火災用消火水である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の消火剤。
[9]上記[1]〜[8]のいずれかに記載の消火剤を水に添加してゲル含有消火水を調製する工程、及び
該ゲル含有消火水を火災現場に放水する工程、
を含む、火災の消火方法。
[10]放水されたゲル含有消火水は火災現場及び延焼防止帯以外への拡散が抑えられ、該ゲル含有消火水に含有されるゲルが燃焼物及び/又は可燃物に衝突して付着及び/又は発泡し、かつ火災の熱によりゾル化する、上記[9]に記載の消火方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の消火剤によれば、少ない放水量で火災を効率的に消火することができる消火水を簡便に調製することができる。
また、本発明の消火方法によれば、少ない放水量で火災を効率的に消火することができるので、火災現場の限られた量の水資源を用いて火災を消火することができる上、放水された消火水による2次災害を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】3成分系でのゲル化領域を示す相図である。
【図2】実施例で用いた1組の火災模型セットを示す図である。左側の火災模型(1a)には消火水散布処理がなされておらず、右側の火災模型(1b)には消火水散布処理がなされている。該火災模型セットはオイルパン(2)にのせられ、延焼防止能の評価試験に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、その好ましい実施態様に基づき詳細に説明する。
〔本発明の消火剤〕
本発明の消火剤は、界面活性作用を有するゲル化剤を含有する消火剤であり、水に添加することで界面活性剤を含むハイドロゲルを形成する。該ハイドロゲルを含有する水は、消火水(ゲル含有消火水)として利用される。界面活性作用を有するゲル化剤としては、脂肪酸金属塩成分と金属封鎖剤成分とを含有するもの、セルロース系、ポリアクリル酸塩系、ポリアクリルアミド系等の水に膨潤してハイドロゲルを形成する吸水性高分子成分とイオン性界面活性剤成分とを含有するもの、ポリエチレンオキシド成分とイオン性界面活性剤成分とを含有するもの、ゼラチン成分とイオン性界面活性剤成分とを含有するもの等が挙げられるが、脂肪酸金属塩成分と金属封鎖剤成分とを含有するものが好ましい。該脂肪酸金属塩と該金属封鎖剤について以下(1)及び(2)に説明する
【0019】
(1)脂肪酸金属塩
本発明に用いられる脂肪酸金属塩は、後述する金属封鎖剤と共に水に添加されてゲル化作用を示すものであれば特に制限はないが、炭素数10〜18の飽和又は不飽和脂肪酸の金属塩であることが好ましく、炭素数12〜18の飽和又は不飽和脂肪酸の金属塩であることがより好ましい。炭素数12〜18の脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。
本発明に用いられる脂肪酸金属塩は、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩であっても、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等のアルカリ金属以外の金属塩であってもよいが、アルカリ金属塩であることが好ましい。本発明に用いられる脂肪酸金属塩の具体例として、例えば、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等が挙げられる。
脂肪酸のアルカリ金属塩は生分解性を示す点からも好ましく用いられる。
【0020】
本発明の消火剤は、上記脂肪酸金属塩を1種含むものであっても、2種以上含むものであってもよいが、ゲルを効率的に生成するには、脂肪酸金属塩の種類は少ない方が好ましい。
【0021】
上記脂肪酸金属塩は、市販されているものを用いることもできるし、通常の方法で合成したものを用いることもできる。
【0022】
本発明に用いられる脂肪酸金属塩は、後述する金属封鎖剤と共に本発明の消火剤を構成し、該消火剤が水に添加されてゲル含有消火水を形成する限り、ゲル含有消火水における濃度に特に制限はないが、ゲル含有消火水における脂肪酸金属塩の総濃度は0.01〜4重量%であることが好ましく、0.1〜4重量%であることがより好ましく、0.2〜3重量%であることがさらに好ましい。
【0023】
(2)金属封鎖剤
本発明に用いられる金属封鎖剤は、前記脂肪酸金属塩と共に水に添加されてゲル化作用を示すものであれば特に制限はないが、グルタミン酸二酢酸四金属塩、アスパラギン酸二酢酸四金属塩、メチルグリシン二酢酸三金属塩、ヒドロキシイミノジコハク酸四金属塩又はエチレンジアミンジコハク酸三金属塩であることが好ましい。このような金属封鎖剤の具体例として、例えば、下記式(1)で表されるL−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム(GLDA)、
【0024】
【化1】

下記式(2)で表されるL−アスパラギン酸−(N,N)−二酢酸四ナトリウム(ASDA)、
【0025】
【化2】

下記式(3)で表されるメチルグリシン二酢酸三ナトリウム(MGDA)、
【0026】
【化3】

下記式(4)で表される3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸四ナトリウム(HIDS)、
【0027】
【化4】

下記式(5)で表される(S,S)−エチレンジアミンジコハク酸三ナトリウム(EDDS)等が挙げられる。
【0028】
【化5】

【0029】
上記の金属封鎖剤は、天然化合物由来の生分解性金属封鎖剤であり、代表的な金属封鎖剤であるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)と比較して環境に対する負荷が極めて少ない。これらの金属封鎖剤と脂肪酸金属塩とを水溶液中で所定の混合比で混合すると、溶液が白くゲル化する。これは、上記金属封鎖剤と脂肪酸金属塩とが複合体を作り、それが自己集合してラメラ構造をとることによる。該ラメラ構造を有するゲルは火災の熱等により容易にゾル化する。また、該ゲルは脂肪酸金属塩を含有するので、衝撃により発泡する。
【0030】
上記金属封鎖剤は、本発明の消火剤に含まれる脂肪酸金属塩が水に含まれる金属成分と反応していわゆる石鹸カスが発生するのを防ぐ役割も有する。石鹸カスは乾燥すると表面にこびりつき、除去することが困難である。したがって、例えば燃焼中の建物の隣の住居の壁等に放水した際には、火災の延焼は防げても、火災鎮火後には白くなった石鹸カスが残ってしまい、特に高層マンション等の場合には清掃するのが非常に困難となる。したがって、消火水においては石鹸カスの発生を抑制することが望まれる。
【0031】
本発明の消火剤は、上記金属封鎖剤を1種含むものであっても、2種以上含むものであってもよい。
【0032】
上記金属封鎖剤は、市販されているものを用いることもできるし、通常の方法で合成したものを用いることもできる。
【0033】
本発明に用いられる金属封鎖剤は、上記の脂肪酸金属塩と共に本発明の消火剤を構成し、該消火剤が水に添加されてゲル含有消火水を形成する限り、ゲル含有消火水における濃度に特に制限はないが、ゲル含有消火水における該金属封鎖剤の総濃度は少なくとも0.5重量%であることが好ましく、少なくとも1重量%であることがより好ましく、少なくとも2重量%であることがさらに好ましい。また、この場合において、該金属封鎖剤の濃度は20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
続いて、本発明の消火剤の好ましい態様について以下(3)に説明する。
(3)消火剤
本発明の消火剤は、界面活性作用を有するゲル化剤を含有する消火剤であり、好ましくは少なくとも1種の上記脂肪酸金属塩成分と少なくとも1種の上記金属封鎖剤成分よりなる消火剤である。当該少なくとも1種の上記脂肪酸金属塩成分と少なくとも1種の上記金属封鎖剤成分よりなる消火剤は、該少なくとも1種の上記脂肪酸金属塩と該少なくとも1種の上記金属封鎖剤とが混合された状態で含まれるものであっても、別々により分けられた状態で含まれるものであってもよい。さらに、本発明の消火剤が2種以上脂肪酸金属塩を含む場合には各脂肪酸金属塩は混合された状態で含まれていても別々により分けられた状態で含まれていてもよく、本発明の消火剤が2種以上の金属封鎖剤を含む場合には、各金属封鎖剤は混合された状態で含まれていても別々により分けられた状態で含まれていてもよい。
また、上記少なくとも1種の上記脂肪酸金属塩と少なくとも1種の上記金属封鎖剤よりなる消火剤は、上記脂肪酸金属塩と上記金属封鎖剤以外に、不凍液、酸化防止剤、腐食防止剤等の他の成分を含んでいてもよい。
本発明の消火剤は、上記界面活性作用を有するゲル化剤を粉末やタブレット等の固形物の状態で含むものであってもよいし、水溶液等の液体、流動体、ゲル等の半固形体の状態で含むものであってもよいが、通常には粉末の状態で含む。
【0035】
本発明の消火剤に含まれる界面活性作用を有するゲル化剤の含量は、該消火剤を水に添加したときにゲル含有消火水を生成する限り特に制限はないが、通常には消火剤の総重量に対して10〜100重量%であり、20〜100重量%であることが好ましく、50〜100重量%であることがより好ましい。
【0036】
本発明の消火剤が、上記脂肪酸金属塩と上記金属封鎖剤よりなる消火剤である場合において、上記脂肪酸金属塩と上記金属封鎖剤の含有割合は、該消火剤を水に添加したときに該消火剤がゲル化剤として機能しうる限り特に制限はないが、該消火剤に含まれる脂肪酸金属塩の総重量が、該消火剤に含まれる金属封鎖剤の総重量と同重量かそれよりも軽いことが好ましい。具体的には、脂肪酸金属塩の総重量を1としたときに、金属封鎖剤の総重量が1〜50であることが好ましく、1.1〜40であることがより好ましく、1.2〜30であることがさらに好ましい。
【0037】
本発明の消火剤が添加されて形成されるゲル含有消火水は、該ゲル含有消火水全量に対して少なくとも30重量%がゲル化していることが好ましく、少なくとも50重量%がゲル化していることがより好ましく、少なくとも70重量%がゲル化していることがさらに好ましい。また、該ゲル含有消火水の全量がゲル化していてもよい。
【0038】
実際の火災現場では消火活動の迅速性が求められるため、本発明の消火剤を水に添加した後、迅速にゲル含有消火水が形成されることが望まれる。上記ゲル化にかかる時間は短い方が好ましく、消火剤を添加してから10分以内、好ましくは5分以内、より好ましくは2分以内にゲル化することが好ましい。本発明の消火剤が、少なくとも1種の炭素数10〜18の脂肪酸金属塩と少なくとも1種の金属封鎖剤よりなるものであるときには、該脂肪酸金属塩及び金属封鎖剤を、それぞれ0.1〜4重量%及び1〜10重量%の濃度になるように該消火剤を水に添加することで、ゲル含有消火水の30〜100重量%が10分以内にゲル化しうる。
【0039】
本発明の消火剤が添加される水は、水道水、河川水、湖水、地下水等の真水であってもよいし、海水であってもよい。ゲル含有消火水の調製にあたり30〜40℃の比較的高温の真水を用いる場合には、上記脂肪酸金属塩としてミリスチン酸カリウムを含む消火剤を好適に用いることができる。また、ゲル含有消火水の調製にあたり海水を用いる場合には、上記脂肪酸金属塩としてラウリン酸カリウムを含む消火剤を好適に用いることができる。
【0040】
本発明の消火剤は水に添加するとゲル化剤として作用し、該水の全部又は一部をゲル化する。ここで、消火剤は一度に全量を添加してもよいし、少量ずつ時間をかけて添加してもよい。このようにして形成されたハイドロゲルを含有する水は界面活性作用を有する消火水として利用することができる。該消火水は、ゲル不含の界面活性剤系の消火水に比べて放水後の気流による拡散が少なく、また、吸水性ポリマー系の消火水に比べれば適度に拡散するため、十分に水を保持したゲルが適度に広がって火災現場に着地することができる。特に林野火災等においては、火災による上昇気流やヘリコプターや航空機の飛行により生じる気流による過度の拡散が抑えられ、適度に拡散しながら火災現場に着地することができるので、消火に寄与する消火水の割合を従来の消火水よりも上昇させることができ、少ない放水量で高い消火作用を示す。
【0041】
本発明の消火剤を添加して調製されたゲル含有消火水に含まれるゲルは、着地の衝撃で飛散して周囲の燃焼物や可燃物にも付着して消火作用を高める。さらに、該ゲルは界面活性剤を含むため、着地や付着の際の衝撃で発泡して燃焼物は可燃物を泡で覆うため、高い窒息消火の効果をも有すると同時に消火部分の再燃防止効果や未燃焼物の延焼抑止効果も有する。
【0042】
本発明の消火剤を添加して調製されたゲル含有消火水に含まれるゲルは、燃焼物や可燃物に付着した後、保持していた水を徐々に放出するため、持続的な消火作用を示す。また、放出された水は界面活性作用を有するので、燃焼物や可燃物に対する浸透性が高く、高い冷却効果を示すと同時に消火部分の再燃防止効果や未燃焼物の延焼抑止効果も有する。また、該浸透作用は、ゲルが火災の熱によりゾル化することでさらに促進される。
【0043】
〔本発明の消火方法〕
本発明の消火方法は、上述した消火剤を水に添加してゲル含有消火水を調製する工程、及び該ゲル含有消火水を火災現場に放水する工程を含む。
【0044】
本発明の消火方法におけるゲル含有消火水は、上述した消火剤を水に添加することで調製する。消火剤は一度に全量を添加してもよいし、少量ずつ時間をかけて添加してもよい。
【0045】
調製されたゲル含有消火水は火災現場に放水される。該ゲル含有消火水の放水方法に特に制限はなく、上空からの散布、消防車両からの放水、バケツ等を用いて人力で散布する等の方法を用いることができるが、ヘリコプター、飛行艇、飛行機等の航空機を用いて上空から火災現場に散布することが好ましい。
【0046】
本発明の消火方法で放水される消火水は、界面活性剤を含む水の一部又は全部がゲル化するため、ゲル不含の界面活性剤系の消火水に比べて放水後の気流による拡散が少なく、また、吸水性ポリマー系の消火水に比べれば適度に拡散する。したがって、本発明の消火方法によれば、十分に水を保持したゲルを適度に拡散させた状態で火災現場に着地させることができる。特に林野火災等においては、火災による上昇気流やヘリコプターや航空機の飛行により生じる気流による過度の拡散が抑えられ、適度に拡散しながら火災現場に着地することができるので、消火に寄与する消火水の割合を従来の消火水よりも上昇させることができ、少ない水量で効率的な消火作業が可能になる。
【0047】
本発明の消火方法では、消火水が界面活性剤を含むハイドロゲルを含有しているため、着地の衝撃で該ゲルが飛散して周囲の燃焼物や可燃物にも付着して消火作用を高める。さらに、該ゲルは着地や付着の際の衝撃で発泡し、燃焼物や可燃物を泡で覆うため、高い窒息消火の効果をも有すると同時に消火部分の再燃防止効果や未燃焼物の延焼抑止効果も有する。
【0048】
本発明の消火方法では、消火水が界面活性剤を含むハイドロゲルを含有しており、該ハイドロゲルは燃焼物や可燃物に付着した後、保持していた水を徐々に放出する。したがって持続的な消火作用を示す。また、放出された水は界面活性作用を有するので、燃焼物や可燃物に対する浸透性が高く、高い冷却効果を示すと同時に消火部分の再燃防止効果や未燃焼物の延焼抑止効果も有する。また、該浸透作用は、ゲルが火災の熱によりゾル化することでさらに促進される。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
調製例1 グルタミン酸二酢酸四ナトリウムとラウリン酸カリウムをゲル化剤として用いたときのゲル生成量
ビーカーに20℃±0.2℃の蒸留水を用意し、これに金属封鎖剤としてL−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム(GLDA、キレスト株式会社製)と脂肪酸金属塩としてラウリン酸カリウム(LK、日油株式会社製)を下記表1に示す濃度となるように添加して攪拌し、続いて20℃の恒温水槽にビーカーを入れて10分間静置することでゲル含有消火水を調製した。形成されたゲルを網で採取し、ゲルの質量を計測し、以下の式からゲル生成量(重量%)を算出した。

ゲル生成量(重量%)=ゲルの重量(g)/ゲル含有消火水の重量(g)×100

結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1の結果から、2重量%より低い濃度でGLDAを添加してもゲルが形成されないことがわかる。また、濃度(重量%)比で、LK1に対してGLDAが1〜5の割合で添加された場合は相対的に堅いゲルが形成され、LK1に対してGLDAが5〜10の場合、又はLK1に対してGLDAが1より小さい場合は中程度の堅さのゲルが形成され、LK1に対してGLDAが10以上の場合は軟らかいゲルが形成される。
ゲル含有消火水として好ましい量のゲルを形成するための水とGLDAとLAの濃度(重量%)の関係を図1に示す。各成分が図1中の「ゲル」として囲まれた範囲内にあるときに好ましいゲル含有消火水が形成される。
【0053】
調製例2 金属封鎖剤及び脂肪酸金属塩の組み合わせとゲル生成量との関係
調製例1の方法において、GLDAとLAを下記表2に示す金属封鎖剤と脂肪酸金属塩に置き換えてゲル生成量を調べた。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2から脂肪酸金属塩としてONを用いるとゲルの生成量が少ないことがわかる。また、脂肪酸金属塩としてONやLNを用いた場合には、ゲル化のために比較的多くの量の金属封鎖剤が必要になることがわかった。さらに、EDDSはONやLNと組合わせてもゲルを生成しないことがわかる。
以上の結果、脂肪酸金属塩としてLK、MK又はPKを用い、金属封鎖剤としてGLDA、ASDA、MGDA又はHIDSを使用することで、より良好なゲル含有消火水をより経済的に得られることがわかった。
【0056】
調製例3 複数の金属封鎖剤を用いた場合又は複数の脂肪酸金属塩を用いた場合のゲル生成量
調製例1の方法において、GLDAとLAを下記表3に示す金属封鎖剤と脂肪酸金属塩に置き換えてゲル生成量を調べた。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3の結果から、複数種の金属封鎖剤又は複数種の脂肪酸金属塩を用いてもゲルが形成することがわかった。GLDAとMK+PKの組み合わせでは、MK又はPK単独で組み合わせた場合(表2)よりもゲル生成量が増加していることから、複数混ぜることでゲルの生成量を増加させることが可能であることがわかった。
【0059】
試験例1 界面活性剤系ゲル含有消火水の浸透性評価
調製例1の方法に準じて、金属封鎖剤としてGLDAを2.46重量%、脂肪酸金属塩としてLKを0.60重量%含む界面活性剤系ゲル含有消火水を作製した。25℃±0.2℃に調整した該界面活性剤系ゲル含有水中のゲル0.5gを半径1cmの円状になるように木材の上に静かにのせた。該ゲルに含まれる水分が木材に浸透し、浸透された部分の木材の形状が半径2cmの円状に広がるまでの時間(2cm到達時間)を測定した。比較例として、蒸留水、既存の合成界面活性剤系消火剤である市販泡消火剤Aの0.5%(v/v)溶液、既存の吸水性ポリマー系消火剤である市販ポリマー系消火剤Bの0.5%(w/w)溶液についても同様の試験を行った。
【0060】
【表4】

【0061】
市販ポリマー系消火剤B溶液は、水と同様に木材への浸透力が弱いのに対し、界面活性剤を含む消火水である市販泡消火剤A溶液と界面活性剤系ゲル含有消火水は優れた浸透力を示した。
界面活性剤系ゲル含有消火水の浸透力は市販泡消火剤Aと同等レベルであり、該界面活性剤系ゲル含有消火水を湯煎で溶解することで、その浸透力がさらに増強されることがわかった。この結果は、界面活性剤系ゲル含有消火水が、効果的に延焼を防止するための1つの要素である浸透性に優れていることを示す。
【0062】
試験例2 界面活性剤系ゲル含有消火水の有効消火面積の評価
(1)界面活性剤系ゲル含有消火水の調製
調製例1の方法をスケールアップして、1.5重量%のMKと3.0重量%のGLDAとを含む界面活性剤系ゲル含有消火水、及び1.5重量%のLKと3.0重量%のGLDAとを含む界面活性剤系ゲル含有消火水をそれぞれ2.5L調製した。
【0063】
(2)評価系の構築
水タンク(底面の散布口が200mm×200mm、エアシリンダー駆動による底蓋自動開閉)の底面を床面から3.4mの位置に設置し、該水タンクに上記消火水2.5Lを入れた。該水タンクから散布された消火水が落下するまでの間連続的に一定方向から風を当てるために、床面と垂直に交差する同一面上に扇風機7台を水タンクの方向に向けて設置した。さらに、有効消火面積を測定するために、上記水タンクの直下から風下に向けて、床面の0.9m×1.8mの範囲に1000mLディスポーサブルカップ(上面φ125mm、下面φ100mm)を98個整列させた。
【0064】
(3)評価方法
風速6.5m/sになるように上記扇風機の風量を設定した後、水タンクの底蓋を開いて上記界面活性剤系消火水を散布し、15秒後に底蓋を閉めた。床面に設置した上記ディスポーサブルカップの各々に入った消火水の重量を計測し、消火水の散布状態から有効消火面積を評価した。有効消火面積は以下の方法により算出した。

i)98個のディスポーサブルカップについて、各々に入った界面活性剤系消火水の重量を測定。
ii)i)で測定した各重量それぞれをディスポーサブルカップの上面断面積(φ125mm)で割り、単位面積あたりに落下した消火水の重量(kg/m)を算出。
iii)消火水1L(リットル)を1kgとして、1.6L/mを超える散布密度を有するディスポーサブルカップの個数を計数。(有効な消火には消火水の散布密度が1.6L/mより高いことが必要であるといわれている。(「SCEJ 2nd Three-Branch Joint Meeting (Kitakyushu,2009) A117 消防飛行艇の概要」参照)
iv)iii)で計数した個数にカップ上面の断面積をかけた値を有効消火面積(m)とした。

有効消火面積が大きい程消火能力が高いことを示す。比較のため、上記界面活性剤系ゲル含有消火水に代えて水道水、既存の合成界面活性剤系消火剤である市販泡消火剤Aの0.5%(v/v)溶液、既存の合成界面活性剤系消火剤である市販泡消火剤Cの0.5%(v/v)溶液、市販の吸水性ポリマー系消火剤である市販ポリマー系消火剤Bの0.5%(w/w)溶液を用いた場合についても同様の実験を行った。
(4)評価結果
結果を表5に示す。
【0065】
【表5】

【0066】
表5の結果から、界面活性剤系ゲル含有消火水は、水道水や既存の消火水に比べて有効消火面積が大きく、消火水として優れていることがわかる。なお、市販泡消火剤A溶液や市販泡消火剤C溶液では、散布した消火水の拡散が激しいために有効消火面積が小さくなっており、逆に市販ポリマー系消火剤B溶液では、散布した消火水の拡散が少ないために、有効消火面積が小さくなった。すなわち、効率的な消火には、散布された消火水が適度に拡散して広がることが好ましく、表5の結果は、脂肪酸金属塩と金属封鎖材を含む界面活性剤系ゲル含有消火水が、散布された際に適度に拡散して効率的に火災を消火しうることを示している。
【0067】
試験例3 界面活性剤系ゲル含有消火水の延焼防止能の評価
(1)火災模型の作製
断面形状35mm×30mm、長さ330mmのスギ気乾材(含水率10〜15%)51本を用いて、これを格子上に積み重ねて火災模型を作製した。
【0068】
(2)評価方法
水タンクを、底面が床面から3.4mの位置になるように設置し、試験例2と同じ方法で調製した界面活性剤系ゲル含有消火水1.0Lを入れた。上記火災模型を番線で軽く固定したものを該水タンクの直下に置き、水タンクの底蓋を開いて消火水を散布した。15秒後に水タンクの底蓋を閉めた。
番線を解いて、消火水を浴びていない火災模型と組にして、図2に示すようにナベ部が2つに仕切られたオイルパンの上に該1組の火災模型セットを設置した。オイルパンの各ナベ部には2cmの高さまで水が入っており、さらに、消火水を浴びていない火災模型がのせられたナベ部(図2中左側のナベ部)には300mLのn−ヘプタンが入っている。上記水タンクの底蓋を閉めてから3分後に着火棒でn−ヘプタンに火を付け、1組の火災模型セットが全焼するのにかかる時間を計測した。全焼するのにかかる時間が長い程延焼防止能が高いことを示す。比較のため、上記ゲル含有消火水に代えて水道水、既存の合成界面活性剤系消火剤である市販泡消火剤Aの0.5%(v/v)溶液、市販の吸水性ポリマー系消火剤である市販ポリマー系消火剤Bの0.5%(w/w)溶液を用いた場合についても同様の実験を行った。
【0069】
(3)評価結果
結果を表6に示す。
【0070】
【表6】

【0071】
表6の結果から、界面活性剤系ゲル含有消火水が水道水や既存の消火水に比べて優れた延焼防止能を有することがわかる。特にMKとGLDAを含有する界面活性剤系ゲル含有消火水を浴びた火災模型を含む火災模型セットでは、燃焼したのは消火水を浴びていない火災模型の部分(図2中左側部分に相当)だけであり、MKとGLDAを含有する界面活性剤系ゲル含有消火水は、延焼防止効果に特に優れることが示された。
界面活性剤系ゲル含有消火水を浴びた火災模型では、表面に付着したゲルが火災の熱で徐々にゾル化して火災模型に浸透しており、これが延焼防止に有効である様子が観察された。
【0072】
以上の試験結果からも明らかなように、本発明の消火剤を用いて調製したゲル含有消火水は、次のような優れた効果を有している。
【0073】
第一に、本発明の消火剤を用いて調製したゲル含有消火水を散布すると、界面活性剤系ゲル含有消火水がハイドロゲル化した性状において適度に分散した塊の状態で落下していく。すなわち、火災の上昇気流や飛行による気流の影響を適度に受け流して拡散しつつ、消失することもなく、火災現場及びその周辺に、鎮火及び延焼防止に有効な量の消火水を供給できる。試験例2では、界面活性剤単体のゲル不含の消火水では目的物に到達する前に空中で過度に拡散してしまい、水単体または吸水ポリマー系消火水では逆に拡散が少なすぎ、主に散布地点直下に限定されて落下してしまうことが示されている。本発明の消火剤を用いて調製したゲル含有消火水は、数限られた消火水投下の機会においても、火災の中心部から延焼帯の進行方向に向けて消火及び延焼防止に有効な量の消火水を広範囲に供給できる。したがって、林野火災用の消火水として特に適している。
【0074】
第二に、本発明の消火剤を用いて調製したゲル含有消火水が散布されて樹木等の燃焼物に到達する段階においては、自身が界面活性剤を含むゲルであるため、燃焼物や可燃物に付着しやすい上に馴染み易く、消火水の消火寄与度を高めることができる。界面活性剤単体のゲル不含の消火水では燃焼物に到達する前に空中で気泡になり過度に拡散してしまうため、そもそも火災現場に有効な量の消火水を供給することが困難である。一方、水単体の消火水では、水の表面張力によって燃焼物や可燃物に接触した消火水が即座に流れ落ちてしまい、燃焼物や可燃物に付着、浸透する消火水の割合は極めて少ない。また、吸水ポリマー系消火水は吸水した樹脂の粒であるため、水単体の消火水と同様に燃焼物や可燃物から転がり落ちる消火水の割合が多い。
【0075】
第三に、本発明の消火剤を用いて調製したゲル含有消火水では、燃焼物や可燃物に付着したゲルに含まれる水分が界面活性を有するため、該燃焼物や可燃物に対して強い浸透作用を示すと同時に、付着の際の衝撃で一部が発泡し燃焼物や可燃物を泡で覆う。試験例1のごとく、木材への浸透性は水単体の消火水や吸水ポリマー系消火水に比べて格段に優れており、またその浸透効果は火災の受熱によってゲルがゾル化することによりさらに促進される。これにより、例えば林野火災において、延焼の進行方向に対して消火水を散布して延焼防止帯を形成したい場合に、散布当初は延焼防止に有効な量の消火水を被燃焼物へ強固に付着させることができ、次いで延焼ラインの接近に伴って、被燃焼物に浸透作用に優れた水分を持続的に供給することが出来る。
【0076】
上記のように、本発明の消火剤は既存の消火剤に比べて優れた効果を有するものである。
【符号の説明】
【0077】
1a 消火水を浴びていない火災模型
1b 消火水を浴びた火災模型
2 オイルパン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の炭素数10〜18の脂肪酸金属塩成分と、少なくとも1種の金属封鎖剤成分よりなる、ゲル含有消火水用の消火剤。
【請求項2】
ゲル含有消火水が、少なくとも1種の炭素数10〜18の脂肪酸金属塩及び少なくとも1種の金属封鎖剤を、それぞれ0.1〜4重量%及び1〜10重量%の濃度で含有するものであり、該ゲル含有消火水の30〜100重量%がゲル化している、請求項1に記載の消火剤。
【請求項3】
ゲル含有消火水に含有されるゲルが燃焼物及び/又は可燃物に衝突して付着及び/又は発泡するものであり、かつ火災の熱によりゾル化するものである、請求項1又は2に記載の消火剤。
【請求項4】
少なくとも1種の炭素数10〜18の脂肪酸金属塩が、ラウリン酸のアルカリ金属塩、ミリスチン酸のアルカリ金属塩、パルミチン酸のアルカリ金属塩、ステアリン酸のアルカリ金属塩及びオレイン酸のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上の脂肪酸金属塩である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の消火剤。
【請求項5】
少なくとも1種の金属封鎖剤が、グルタミン酸二酢酸四金属塩、アスパラギン酸二酢酸四金属塩、メチルグリシン二酢酸三金属塩、エチレンジアミンジコハク酸三金属塩及びヒドロキシイミノジコハク酸四金属塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属封鎖剤である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の消火剤。
【請求項6】
ゲル含有消火水の30〜100重量%のゲル化が、少なくとも1種の炭素数10〜18の脂肪酸金属塩及び少なくとも1種の金属封鎖剤を水に添加してから10分以内に起こる、請求項2〜5のいずれか1項に記載の消火剤。
【請求項7】
ゲル含有消火水が、生分解性の林野火災用消火水である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の消火剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の消火剤を水に添加してゲル含有消火水を調製する工程、及び
該ゲル含有消火水を火災現場に放水する工程、
を含む、火災の消火方法。
【請求項9】
放水されたゲル含有消火水は火災現場及び延焼防止帯以外への拡散が抑えられ、該ゲル含有消火水に含有されるゲルが燃焼物及び/又は可燃物に衝突して付着及び/又は発泡し、かつ火災の熱によりゾル化する、請求項8に記載の消火方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−167357(P2011−167357A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34022(P2010−34022)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000165996)株式会社古河テクノマテリアル (23)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)