説明

コレステロール結合剤およびコレステロール検出キット

【課題】新規なコレステロール結合剤およびコレステロール検出キットを提供する。
【解決手段】DAMP(N-(3-((2,4-dinitrophenyl)amino)-N-(3-aminopropyl)-methylamine)をコレステロール結合剤として用い、DAMPのコレステロール結合性を利用して細胞や組織中のコレステロールを検出する。試料にDAMPを添加して試料中に含まれるコレステロールとDAMPとの複合体を形成させ、該複合体中のDAMPを介してコレステロールを検出することを特徴とする、コレステロール検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コレステロール結合剤及びそれを用いたコレステロール検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
コレステロールは肝臓で低密度リポタンパク質LDLとして産生され、末梢組織に運ばれ、取り込まれる。コレステロールは末梢組織で生体膜の構成要素として、またステロイドホルモンの原料として使われる。生体膜からは高密度リポタンパク質HDLによってコレステロールが取り除かれ、肝臓に運ばれて再利用される。しかし、細胞内でのコレステロールの分布は簡便な染色法がないために容易には調べられない。実際には、細胞内のコレステロール動態評価は血流中のLDL、VLDL、HDLコレステロールの測定から推察しているのが現状である。
生体組織のコレステロール分布は蛍光を発する抗生物質フィリピン(Fillipin)で観察できる。しかしフィリピンの蛍光は弱く、すぐに消退してしまう。またフィリピンは細胞膜のコレステロールとは反応するが、細胞内の脂肪滴コレステロールとは反応せず、細胞内全体のコレステロール分布の観察には適していない。
DAMP(N-(3-((2,4-dinitrophenyl)amino)propyl)-N-(3-aminopropyl)-methylamine)は、内分泌顆粒、リソゾームなどの細胞内小器官内に酸性pH依存的に取り込まれ、発色するので、その強度から細胞内小器官内のpH測定に用いられていた(非特許文献1〜3)。しかしながら、DAMPがコレステロールと結合し、コレステロールの測定に使用できることは全く知られていなかった。
【非特許文献1】Orci, L., et al. Conversion of proinsulin to insulin occurs coordinately with acidification of maturing secretory vesicles. J. Cell Biol. 103, 2273-2281 (1986).
【非特許文献2】Anderson, R. G. W. & Orci, L. View of acidic intracellular compartments. J. Cell Biol. 106, 539-543 (1988).
【非特許文献3】Hayashi, M., Yamamoto, A. & Moriyama, Y. The internal pH of synaptic-like microvesicles in rat pinealocytes in culture. J. Neurochem. 82, 698-704 (2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、コレステロールと特異的に結合してコレステロールを効率よく検出することができる試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、DAMPがコレステロールに特異的に結合することを見出した。そこでDAMPとコレステロールの結合を利用することで、コレステロールを効率よく検出できることを見出して本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)DAMPからなるコレステロール結合剤。
(2)(1)のコレステロール結合剤を含む、コレステロール検出キット。
(3)さらに抗DAMP抗体を含む、(2)のコレステロール検出キット。
(4)試料にDAMPを添加して試料中に含まれるコレステロールとDAMPとの複合
体を形成させ、該複合体中のDAMPを介してコレステロールを検出することを特徴とする、コレステロール検出方法。
(5)抗DAMP抗体を用いて検出を行う、(4)のコレステロール検出方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、コレステロールを簡便かつ特異的に検出することができる。特に、細胞内コレステロールを簡便に検出することができ、白血球などを利用して細胞内のコレステロール分布を判定できるため、高コレステロール血症などの検査にも適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳しく説明する。
DAMPは、N-(3-((2,4-dinitrophenyl)amino)propyl)-N-(3-aminopropyl)-methylamineの略語であり、式(I)の構造を有する化合物である。DAMPは化学合成して用いてもよいし、市販のもの(Molecular Probes社)を用いてもよい。
【化1】

【0008】
本発明者らにより、DAMPがコレステロールに特異的に結合するという性質が明らかになったため、DAMPはコレステロール結合剤として利用することができる。
コレステロール結合剤の用途としては、コレステロールの回収、検出などが挙げられる。コレステロールの回収方法としては、例えば、DAMPを適当な担体などに結合させて対象試料と接触させ、DAMPを介して担体に結合したコレステロールを回収する方法が挙げられる。また、コレステロールを検出する方法としては、コレステロールを含む試料にDAMPを添加してDAMPと試料中のコレステロールとの複合体を形成させ、複合体中のコレステロールをDAMPを介して検出する方法などが挙げられる。この場合、DAMPに検出可能な置換基(例えば、蛍光を発する置換基など)を結合させ、そのような修飾されたDAMPを用いて検出してもよいが、抗DAMP抗体を用いて検出することが好ましい。
検出の対象はコレステロールを含有しうる試料であれば特に制限されないが、コレステロールを含有しうる生体試料が好ましく、コレステロールを含有しうる細胞や組織切片がより好ましい。
コレステロールを含有しうる細胞や組織切片におけるコレステロールの量や分布を検出する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。
ホルマリン等で固定化された細胞または組織切片にDAMP溶液を添加し、一定時間反応させた後、洗浄する。その後、抗DAMP抗体を反応させる。洗浄後、標識された2次抗体を反応させ、その標識に基づいて検出する。
抗DAMP抗体としては、DAMPに特異的に結合するものであれば特に制限されず、市販の抗体や、DAMPを動物に免疫することによって作製される抗体を用いることができるが、DAMPのジニトロフェニル(DNP)基に対する抗体を用いることが好ましい。市販の抗DAMP抗体としては、抗DAMPポリクローナル抗体(Sigma-Aldrich社)などが利用できる。
標識された2次抗体としては、蛍光標識抗体や酵素標識抗体を使用することができる。蛍光標識抗体を用いた場合、蛍光顕微鏡などを用いて検出することができる。一方、酵素
標識抗体を用いたときは、酵素の基質を添加して基質分解反応によって生じる発光や発色に基づいて検出することができる。
【0009】
本発明は、また、DAMPを含むコレステロール検出キットを提供する。該キットは、それがコレステロールの検出に使用するためのものである旨、及びその検出方法に関するプロトコルを記載した使用説明書を含むキットであることが好ましい。また、本発明のキットは抗DAMP抗体や2次抗体などのその他の試薬を含むものであってもよい。
本発明のキットは研究目的のみならず、高コレステロール血症などの診断目的に使用することもできる。
【実施例】
【0010】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0011】
[実施例1]
0、0.02、0.2、2.0、および20μgのコレステロールの溶液を、それぞれ膜(Protoran:Schleicher & Schuell BioScience Inc)にドットブロットした。また、比較対照として、それぞれ20μgのフォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジルセリンおよびスフィンゴミエリンを膜にブロットした。得られた膜に1%BSA(ウシ血清アルブミン)/PBSを加えて30分間ブロッキングを行った。次に、1%BSA/PBSに希釈した10μg/mlのDAMPを加えて室温で4時間インキュベートした。次に、PBSで5分間洗浄し、これを3回繰り返した。次に、1%BSA/PBSで1:100に希釈した抗DAMPポリクローナル抗体(Sigma-Aldrich社)を添加して4℃で一晩インキュベートした。PBSで5分間洗浄する操作を3回繰り返した後、1%BSA/PBSで1:500に希釈した2次抗体(抗ウサギ二次抗体:Jackson社)を添加して室温で2時間インキュベートした。PBSで5分間洗浄する操作を3回繰り返した後、発光基質(ECL Western Blotting Detection kit; Amersham Biosciences社)を加えて検出を行った。結果を図1に示した。それによると、DAMPはコレステロールに濃度依存的に結合することがわかった。また、DAMPは比較対照の脂質のいずれにも反応せず、DAMPが特異的にコレステロールに結合することがわかった。
【0012】
[実施例2]
ラット(Wister rat、オス、10週令)から下垂体を摘出し、凍結させた。これから4μmの厚さの凍結切片をスライドガラス上に作製した。PBSで5分間切片を洗浄し、これを3回繰り返した。次に、1%BSA/PBSを加えて30分間ブロッキングを行った。次に、1%BSA/PBSに希釈した10μg/mlのDAMPを加えて室温で4時間インキュベートした。次に、PBSで5分間洗浄し、これを3回繰り返した。次に、1%BSA/PBSで1:100に希釈した抗DAMPポリクローナル抗体(Sigma-Aldrich社)を添加して4℃で一晩インキュベートした。PBSで5分間洗浄する操作を3回繰り返した後、1%BSA/PBSで1:500に希釈した2次抗体(Redx anti-rabbit
IgG:Jackson社)を添加して室温で2時間インキュベートした。PBSで5分間洗浄する操作を3回繰り返した後、カバーガラスを載せて、蛍光顕微鏡で観察した。また、連続した切片を抗コレステロール抗体(Rabbit Anti-Cholesterol 3 Polyclonal Antibody;Biogenesis社)を1次抗体として用い、上記と同様の手順で蛍光検出した。さらに、蛍光物質フィリピン(Sigma-Aldrich社)を用いた検出も行った。
結果を図2に示した。それによると、DAMPを用いて得られた蛍光パターンと抗コレステロール抗体を用いて得られた蛍光パターンは一致しており、DAMPを用いることによって細胞内のコレステロール分布を測定できることがわかった。なお、フィリピンの自家蛍光を用いた場合もコレステロールを検出することはできたが、蛍光が弱く、短時間でシグナルが消退した。
フィリピンは細胞膜のコレステロールとは反応するが、細胞内の脂肪滴コレステロールとは反応せず、細胞内全体のコレステロール分布の観察には適していない。一方、DAMPを用いれば、スライドグラスに固定した組織片、細胞塊と数分インキュベーションするだけで組織、細胞内のコレステロール分布を知ることができる。DAMPはコレステロールが高濃度に集積した形質膜、内分泌顆粒膜、脂肪滴と結合するため、DAMPの方が、既存フィリピンに比べて、より詳しく正確なコレステロール局在や集積が観察できる。
【0013】
[実施例3]
次に、1:50に希釈した成長ホルモンの抗体(抗Growth Hormone 抗体:Biogenesis社)を用いて蛍光組織染色を行い、DAMPの蛍光パターンと比較した。その結果、コレステロールは成長ホルモン分泌細胞だけでなく、多くの内分泌細胞に存在していることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】各濃度のコレステロール(上段)、および各脂質(下段)に対するDAMPの結合を示す図(写真)。略語は以下のとおりである。PC:フォスファチジルコリン、PE:フォスファチジルエタノールアミン、PI:フォスファチジルイノシトール、PS:フォスファチジルセリン、SM:スフィンゴミエリン、Chol:コレステロール。
【図2】下垂体組織切片のコレステロールの検出結果を示す図(写真)。左から、フィリピン、DAMP、抗コレステロール抗体による検出パターンを示す。
【図3】下垂体組織切片の蛍光染色結果を示す図(写真)。左から、DAMPを用いた像、抗成長ホルモン抗体を用いた像、両者を重ね合わせた像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DAMP(N-(3-((2,4-dinitrophenyl)amino)propyl)-N-(3-aminopropyl)-methylamine)からなるコレステロール結合剤。
【請求項2】
請求項1に記載のコレステロール結合剤を含む、コレステロール検出キット。
【請求項3】
さらに抗DAMP抗体を含む、請求項2に記載のコレステロール検出キット。
【請求項4】
試料にDAMPを添加して試料中に含まれるコレステロールとDAMPとの複合体を形成させ、該複合体中のDAMPを介してコレステロールを検出することを特徴とする、コレステロール検出方法。
【請求項5】
抗DAMP抗体を用いて検出を行う、請求項4に記載のコレステロール検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−327920(P2007−327920A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161408(P2006−161408)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)