説明

コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法

【課題】コンクリートの乾燥収縮ひずみを、簡易に精度よく予測することができる方法を提供する。
【解決手段】 下記(1)式および(2)式に基づいて、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値を算出するコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法。


……(1)


……(2)

上記式中、αは粗骨材に基づく補正係数を表し、W、C、G、γ、γ、γ、εsh(t,t)、t、hおよびV/Sは、「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説」(日本建築学会編、2006年2月発行)の182頁に記載の予測式における該当する記号と同じ内容を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗骨材の吸水率等を用いて、コンクリートの乾燥収縮ひずみを予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、引張強度が低いため、乾燥収縮等の収縮によりひび割れ(収縮ひび割れ)が発生することがある。このひび割れは、コンクリート造建築物の美観を損なうとともに、コンクリートの水密性・気密性の低下や鉄筋の腐食などの、建築物の耐久性低下の原因ともなっている。
したがって、コンクリートの耐久性を確保するためには、収縮ひび割れを制御することが必要となる。
【0003】
収縮ひび割れの制御は、古くから取り組まれてきた重要なテーマであるが、平成11年に「住宅の品質確保の促進等に関する法律」等が公布されて以来、コンクリートの収縮ひび割れについて、社会的関心が高まってきた。この法律には、建築物の工事が完了し引渡した後、RC造建築物については少なくとも2年間、住宅については10年間に亘り、瑕疵担保責任が定められており、瑕疵の判断基準のひとつとして、ひび割れ幅が挙げられている。
【0004】
ところで、収縮ひび割れは、通常、コンクリートの収縮ひずみが大きくなるほど、その発生リスクが高まる。したがって、コンクリートを製造しようとする場合に、ひび割れ抑制手段を講じるために、コンクリートの収縮ひずみを事前に把握する必要がある。
【0005】
コンクリートの収縮にはさまざまなものがあるが、主たる要因のひとつとして、乾燥による収縮がある。従来、乾燥下での収縮ひずみは、コンクリートの供試体を作製し、この収縮量を一定期間に亘って実測して求めていた。一般には、JIS A 1129−1〜3「モルタル及びコンクリートの長さ変化測定方法」および附属書A(参考)「モルタル及びコンクリートの乾燥による自由収縮ひずみ試験方法」に準じて、工事に用いようとしている配合に従い、100×100×400mmの角柱供試体を作製し、これを7日間20℃で水中養生した後、所定の温度(20±2℃)および湿度(60±5%)の環境下に置き、乾燥期間が6か月における供試体の収縮ひずみを求めていた。なお、本発明において、該JISの方法に基づいて求めた、所定の乾燥期間における収縮ひずみを、乾燥収縮ひずみと定義する。
【0006】
しかし、この方法では、工事に用いようとしているコンクリートが、目標とする乾燥収縮ひずみを満足するか否か判明するまで、6か月もの長期間を必要とし、コンクリートの品質管理に時間がかかることが課題となっていた。
【0007】
そこで、この問題に対処するために、コンクリートの乾燥収縮ひずみを、前記JIS等の試験手段に依らずに推測しうる予測式が、種々提案されている。
例えば、非特許文献1では、コンクリートの体積、外気に接する表面積、体積表面積比、相対湿度等のパラメータを含む式に、セメント等の種類の影響を表す修正係数を含む式を乗じてなる下記の予測式(以下「日本建築学会式」という。)が提案されている(182頁)。
【0008】
【数1】

【0009】
また、非特許文献2では、前記式と同様のパラメータを含む下記の予測式(以下「土木学会式」という。)が提案されている(46頁)。
【0010】
【数2】

【0011】
しかし、いずれの予測式(以下合わせて「学会式」という。)も、コンクリートの構成材料である粗骨材等の材料特性が、ほとんど考慮されていないことなどから、これらの学会式の予測精度は十分とはいえず(非特許文献1の185頁の付図2.4、および、後掲の図1と図2を参照)、予測精度の面で改善が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説」、日本建築学会編、2006年2月発行
【非特許文献2】「2007年制定コンクリート標準示方書[設計編]」、土木学会編、2008年3月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、コンクリートの乾燥収縮ひずみを、簡易に精度よく予測することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決するために、乾燥収縮ひずみと相関が高いコンクリートの構成材料の物性を探究した結果、(1)粗骨材の吸水率は、乾燥収縮ひずみと高い相関があること、また、(2)該吸水率をパラメータとして含む特定の補正係数を用いると、学会式の予測精度が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[3]を提供する。
[1]下記(1)式および(2)式(以下、これらの式を合わせて「修正日本建築学会式」という。)に基づいて、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値を算出するコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法。
【数3】

……(1)

【数4】

……(2)

上記式中、αは粗骨材に基づく補正係数を表し、W、C、G、γ、γ、γ、εsh(t,t)、t、hおよびV/Sは、前記日本建築学会式における該当する記号と同じ内容を表す。
【0016】
[2]下記(3)式、(4)式および(5)式(以下、これらの式を合わせて「修正土木学会式」という。)に基づいて、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値を算出するコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法。
【数5】

……(3)

【数6】

……(4)

【数7】

……(5)

上記式中、βは粗骨材に基づく補正係数を表し、εsh´、RH、W、V/S、t、t、Δt、T、Tおよびεcs´(t,t)は、前記土木学会式における該当する記号と同じ内容を表す。
【0017】
[3]前記粗骨材の絶乾密度が1.5g/cm以上である、前記[1]または[2]のいずれかに記載のコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の予測方法によれば、コンクリートの乾燥収縮ひずみを、簡易に精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】コンクリートの乾燥収縮ひずみの実施値と、日本建築学会式を用いた予測値との相関を示す図である。
【図2】コンクリートの乾燥収縮ひずみの実施値と、土木学会式を用いた予測値との相関を示す図である。
【図3】コンクリートの乾燥収縮ひずみの実施値と、修正日本建築学会式を用いた予測値との相関を示す図である。
【図4】コンクリートの乾燥収縮ひずみの実施値と、修正土木学会式を用いた予測値との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、上述したとおり、修正日本建築学会式や修正土木学会式に基づいて、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値を算出する、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法である。
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0021】
[粗骨材]
本発明の予測方法において、修正日本建築学会式を用いる場合は、コンクリートに用いる粗骨材の種類(「石灰石」、「硬質砂岩」および「その他」)に応じて、下記の表1から補正係数αを選択し、また、修正土木学会式を用いる場合は、前記と同様に粗骨材の種類に応じて、下記の表2から補正係数βを選択する。
ここで、「その他」に分類される粗骨材の種類として、玄武岩、安山岩、流紋岩、斑レイ岩、粘板岩、砂岩、花崗岩、角閃岩、凝灰岩および砂利等の1種または2種以上の混合物が挙げられる。
また、前記粗骨材の絶乾密度は、1.5g/cm以上が好ましく、2.0g/cm以上がより好ましく、2.5g/cm以上が更に好ましい。該値が1.5g/cm未満では、予測精度が低下する傾向にある。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
粗骨材が、「硬質砂岩」または「その他」の場合は、補正係数αやβは、表1や表2に示すように、粗骨材の吸水率Qを含む式となる。この粗骨材の吸水率は、JIS A 1110「粗骨材の密度及び吸水率試験方法」に準じて測定する。
該試験方法は、具体的には以下のとおりである。
1)粗骨材を、20±5℃の水中に24時間浸漬して吸水させる。
2)吸水した後の粗骨材を、粗骨材表面の水膜が視認できなくなるまで、吸収性の布の上で転がし、表面乾燥飽水状態にした後、該粗骨材の質量m(g)を測定する。
3)表面乾燥飽水状態の粗骨材を105±5℃の恒温室内で、恒量になるまで乾燥後、デシケータ内で室温まで冷却し、乾燥後の粗骨材の質量m(g)を測定する。
4)粗骨材の吸水率Qは、下記式により求める。
Q=(m−m)/m×100(%)
【0025】
[乾燥収縮ひずみの予測値の算出]
修正日本建築学会式((1)式および(2)式)を用いる場合
前記選択された補正係数αと、単位水量Wと、単位セメント量Cと、単位粗骨材量Gと、修正係数γ、γおよびγを、(1)式に代入してkを求める。ここで、修正係数γは骨材の種類の影響を、修正係数γはセメントの種類の影響を、修正係数γは混和材の種類の影響を表す係数であり、下記の表3から選択される。
【0026】
【表3】

【0027】
次に、前記(1)式に代入して求めたkと、乾燥開始材齢tと、相対湿度hと、コンクリートの材齢tと、コンクリートの体積と外気に接するコンクリートの表面積の比V/Sを、(2)式に代入することにより、材齢t日のコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値εsh(t,t)を算出することができる。
【0028】
修正土木学会式((3)式、(4)式および(5)式)を用いる場合
前記選択された補正係数βと、相対湿度RHと、単位水量Wと、コンクリートの体積と外気に接するコンクリートの表面積の比V/Sを、(3)式に代入して乾燥収縮ひずみの最終値εsh´を求める。
また、温度がT(℃)である期間の日数Δtと、Tと、T(1℃)を、(4)式に代入してtおよびtを求める。
次に、前記(3)式に代入して求めたεsh´と、前記(4)式に代入して求めたtおよびtを(5)式に代入することにより、材齢t日におけるコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値εcs´(t,t)を算出することができる。
【0029】
[本発明の予測方法の対象となるコンクリートの構成材料]
本発明の予測方法の対象となるコンクリートにおいて、使用可能なセメントは、特に限定されず、ポルトランドセメント、混合セメントおよびエコセメント等が挙げられる。また、使用可能な細骨材は、天然砂、砕砂および珪砂等が挙げられる。また、使用可能な混和材(剤)は、収縮低減剤や膨張材を除く、減水剤、AE剤、フライアッシュ、高炉スラグおよび石灰石微粉末等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
1.各種粗骨材の吸水率の測定
測定に用いた粗骨材は、玄武岩、安山岩、流紋岩、斑レイ岩、石灰石、硬質砂岩、粘板岩および砂利であり、すべて天然骨材であった。また、粗骨材の吸水率は、前記JIS A 1110「粗骨材の密度及び吸水率試験方法」に準じて測定した。その結果と、用いた粗骨材の絶乾密度を表4に示す。
【0032】
2.各種粗骨材を用いたコンクリートの乾燥収縮ひずみの測定
該測定は、JIS A 1129−2(コンタクトゲージ方法)および附属書A(参考)に準じて行った。
具体的には、表5に示す配合のコンクリートの供試体(100×100×400mm)を作製した後、該供試体を材齢7日まで、20℃の水中に浸漬して養生を行った。この養生後、引き続き、供試体を温度20℃、相対湿度60%の室内に、材齢182日まで静置して乾燥させた。この乾燥させた供試体を用いて、JIS A 1129−2(コンタクトゲージ方法)に準じて、長さ変化(乾燥収縮ひずみ)を測定した。その結果を表5に示す。
なお、表5のコンクリートの空気量は、3〜6%の範囲であった。また、材齢28日における該コンクリートの圧縮強度は、31.7〜63.8N/mmの範囲であった。
【0033】
3.修正日本建築学会式を用いた乾燥収縮ひずみの予測値の算出
以下の(a)〜(d)に従い、該予測値を算出した。
(a)表4に記載の岩種に基づき、表1から補正係数αを、表3から修正係数γを選択した。これらの係数を表4に示す。
(b)表5に示す配合に基づき、表3から修正係数γ(1.0)およびγ(1.0)を選択し、また、表5から単位水量W、単位セメント量Cおよび単位粗骨材量Gを決定した。
(c)前記(a)と(b)において選択・決定した数値を、(1)式に代入してkを求めた。
(d)前記代入して求めたk、乾燥開始材齢t(7日)、相対湿度h(60%)、供試体の体積V(4×10mm)、外気に接する供試体の表面積S(16×10mm)を(2)式に代入して、材齢182日におけるコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値εsh(182,7)を算出した。
該予測値と実測値の関係を図3に示す。
【0034】
4.修正土木学会式を用いた乾燥収縮ひずみの予測値の算出
以下の(e)〜(h)に従い、該予測値を算出した。
(e)表4に記載の岩種に基づき、表2から補正係数βを選択した。この係数を表4に示す。
(f)表5に示す配合に基づき、単位水量Wを決定した。
(g)前記(e)と(f)において選択・決定した数値と、相対湿度RH(60%)およびコンクリートの体積と外気に接するコンクリートの表面積の比V/S(25)を(3)式に代入して、乾燥収縮ひずみの最終値εsh´を求めた。
(h)温度がT(20℃)である期間の日数(7日、182日)と、T(20℃)と、T(1℃)を、(4)式に代入してtおよびtを求めた。
(i)前記代入して求めたεsh´とtおよびtを、(5)式に代入し、材齢182日におけるコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値εcs´を算出した。
該予測値と実測値の関係を図4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
日本建築学会式を用いた図1と、本発明に係る修正日本建築学会式を用いた図3を比較すると、決定係数(R)は、日本建築学会式を用いた場合では0.3227であるのに対し、該修正式を用いた場合では0.8022である。したがって、修正日本建築学会式は、日本建築学会式と比べて、予測精度は格段に向上している。
また、土木学会式を用いた図2と、本発明に係る修正土木学会式を用いた図4を比較すると、決定係数(R)は、土木学会式を用いた場合では6×10−5であるのに対し、該修正式を用いた場合では0.8645である。したがって、前記と同様に、修正土木学会式は、土木学会式と比べて、予測精度が格段に向上している。
よって、本発明に係る乾燥収縮ひずみの予測方法は、従来の学会式を用いた予測方法よりも信頼性が極めて高いといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)式および(2)式に基づいて、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値を算出するコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法。
【数1】

……(1)

【数2】

……(2)

上記式中、αは粗骨材に基づく補正係数を表し、W、C、G、γ、γ、γ、εsh(t,t)、t、hおよびV/Sは、「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説」(日本建築学会編、2006年2月発行)の182頁に記載の予測式における該当する記号と同じ内容を表す。
【請求項2】
下記(3)式、(4)式および(5)式に基づいて、コンクリートの乾燥収縮ひずみの予測値を算出するコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法。
【数3】

……(3)

【数4】

……(4)

【数5】

……(5)

上記式中、βは粗骨材に基づく補正係数を表し、εsh´、RH、W、V/S、t、t、Δt、T、Tおよびεcs´(t,t)は、「2007年制定コンクリート標準示方書[設計編]」(土木学会編、2008年3月発行)の46頁に記載の予測式における該当する記号と同じ内容を表す。
【請求項3】
前記粗骨材の絶乾密度が1.5g/cm以上である、請求項1または2のいずれかに記載のコンクリートの乾燥収縮ひずみの予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−107934(P2012−107934A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255929(P2010−255929)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)