説明

コンクリート床構造体及びその施工方法

【課題】 塗り床材の下地材として用いられるアルミナセメントを含む自己流動性水硬性組成物において、表面の良好な水平性や、塗り床材との良好な付着性を有し、特に、垂直方向に働く引張り力のみではなく、水平方向に働く引張り力を含む付着性試験においても良好な自己流動性水硬性組成物を用いた塗り床仕上げコンクリート床構造体が得られる施工方法と、その施工方法によって得られるコンクリート床構造体を提供する。
【解決手段】 本発明は、コンクリート床表面に、フェロニッケルスラグ細骨材を含む特定の自己流動性水硬性組成物と所定量の水とを混練して得られたスラリーを施工し、スラリーが硬化した硬化体表面に塗り床材を施工するコンクリート床構造体の施工方法及び、そのコンクリート床構造体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物のコンクリート床に自己流動性水硬性組成物(セルフレベリング材)と塗り床材とを組合せて施工するコンクリート床構造体の施工方法およびそのコンクリート床構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
機械工場、食品工場、倉庫、物流センター、百貨店及び病院等の建築物では、新設及び改修コンクリート床表面の仕上げ材として各種樹脂系塗り床材や各種ポリマーセメント系塗り床材が用いられることが多く、これらの塗り床材をコンクリート床表面の仕上げに用いた場合、床表面の耐磨耗性、耐薬品性、防食性及び帯電防止性などが向上する効果が得られる。
【0003】
これらの塗り床材を仕上げ材として用いる場合のコンクリート床表面の施工方法としては、コンクリート直押え工法や、モルタル類や自己流動性水硬性組成物のスラリーをコンクリート床表面の上に施工する打ち継ぎ工法等がある。
【0004】
新設コンクリート床表面の仕上がりが悪い場合、例えば、コンクリート床が硬化する前の降雨による床表面の凹凸(雨打たれ表面)やコンクリート床表面の仕上げ不足による水平性不良(不陸表面)などが発生した場合、又は改修コンクリート床の表面の場合には、打ち継ぎ工法を用いてモルタル類や自己流動性水硬性組成物のスラリーをコンクリート床表面の上に施工して、床表面の仕上がりを改善した後に塗り床材で表面仕上げを行い、コンクリート床構造体を形成する。また、打ち継ぎ工法での塗り床材の下地材としては、表面の良好な水平性や、十分な表面硬度、強度、寸法安定性、塗り床材との良好な付着性を具備する必要がある。
【0005】
モルタル類としては、樹脂モルタルが多く用いられ、樹脂としてはエポキシ樹脂やウレタン樹脂等が使用されているが、塗り床材並に高価である。また、粘度が高く表面を仕上げるための鏝作業性が悪いものもある。一般的な補修用セメントモルタルは安価であるが塗り床材との付着性や強度特性が低く、鏝作業による水平性確保も難しい。
【0006】
自己流動性水硬性組成物としては、大別すると石膏系とセメント系がある。前者は、表面を塗り床材で密閉された状態で、下地からの湿気等の水分により膨張する可能性が大きく、後者は、ポルトランドセメントのみの場合、寸法安定性が低く(収縮・膨張の変化が大きく)、塗り床材との付着性が低下する可能性が大きい。
【0007】
セメント系の中でアルミナセメントを含む場合、スラリーの状態では鏝やトンボで表面を軽く均すだけで水平性の良い表面を仕上げることができ、硬化後も寸法安定性に優れ、湿気等の水分に対しても安定しており、樹脂モルタルに比べて安価である。例えば、塗り床材との付着性が比較的良好なアルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏よりなる水硬性成分と無機粉末、細骨材および再乳化形樹脂粉末を含み、さらに凝結調整剤、流動化剤、増粘剤および消泡剤から選ばれる成分を1種以上含むセルフレベリング材のスラリーを打設して硬化させ、その硬化体層の上面に塗り床材を施工するコンクリート床構造体の施工方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、勾配を有する非吸水性の下地床の上面に、アルミナセメントを含むポリマーセメント組成物からなる下地調整材を用いて下地調整材層を設けて、その上面にアルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分とアクリル共重合系樹脂粉末とを含むレベリング材を用いてレベリング材スラリー硬化体層を設け、さらにその上面に、塗り床仕上げ層、貼り床材仕上げ層及び塗装仕上げ層から選ばれるいずれか1種の仕上げ層を設けることができる複合床構造体の施工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−190315公報
【特許文献2】特開2010−77702公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、機械工場、食品工場、倉庫、物流センター、百貨店及び病院等はリフトやキャスター等の重量のある車両の移動が多く、車輪の走行や切り返し等によって床面に対して水平方向の力(剪断力)も働くため、垂直方向に働く引張り力に対する付着性が良好であっても、塗り床材が剥離することがあり問題となっている。
【0011】
本発明は、塗り床材の下地材として用いられるアルミナセメントを含む自己流動性水硬性組成物において、表面の良好な水平性や、十分な表面硬度、強度、塗り床材との良好な付着性を有し、特に、垂直方向に働く引張り力のみではなく、水平方向に働く引張り力を含む付着性試験であるJIS・K・5600−5−6:1999「塗料一般試験方法の付着性−クロスカット法」に準拠した試験方法においても、付着性の評価が良好な自己流動性水硬性組成物を用いた塗り床仕上げコンクリート床構造体が得られる施工方法と、その施工方法によって得られるコンクリート床構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意試行錯誤を繰り返した結果、フェロニッケルスラグ細骨材を使用することで、塗り床材との付着性に優れ、流動性に優れた水平性の良い表面を形成できる特定の自己流動性水硬性組成物を見出した。
【0013】
さらに、コンクリート床表面に前記自己流動性水硬性組成物と所定量の水とを混練して得られたスラリーを施工し、スラリーが硬化した硬化体表面に塗り床材を施工することにより、水平性に優れ、塗り床材と自己流動性水硬性組成物の硬化体との付着性に優れた塗り床仕上げコンクリート床構造体が得られることを見出して本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1は、建築物のコンクリート床上面に、自己流動性水硬性組成物用プライマーを塗布して自己流動性水硬性組成物用プライマーの皮膜層を設ける工程と、前記自己流動性水硬性組成物用プライマーの皮膜層の上面に、自己流動性水硬性組成物と、水とを混練して調製したスラリーを打設して自己流動性水硬性組成物の硬化体層を設ける工程と、前記自己流動性水硬性組成物の硬化体層の上面に、塗り床材用プライマーを塗布して塗り床材用プライマーの皮膜層を設ける工程と、前記塗り床材用プライマーの皮膜層の上面に、塗り床材ベースコートを塗布して塗り床材ベースコートの硬化体層を設ける工程と、を有するコンクリート床構造体の施工方法であって、前記自己流動性水硬性組成物は、アルミナセメント20〜60質量%、ポルトランドセメント20〜60質量%及び石膏5〜40質量%からなる水硬性成分と、細骨材と、を含む自己流動性組成物であって、前記細骨材は、フェロニッケルスラグ細骨材であることを特徴とするコンクリート床構造体の施工方法である。
【0015】
本発明の第2は、前記本発明の第1の施工方法により得られるコンクリート床構造体である。
【0016】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法の好ましい態様を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)前記自己流動性水硬性組成物は、さらに再乳化形樹脂粉末を含む。
(2)前記自己流動性水硬性組成物は、前記水硬性成分100質量部に対して、前記再乳化形樹脂粉末の含有量が、0質量部を超えて6質量部以下である。
(3)前記自己流動性水硬性組成物は、前記水硬性成分100質量部に対して、前記フェロニッケルスラグ細骨材を60〜150質量部含む。
(4)前記再乳化形樹脂粉末は、酢酸ビニル−ベオバ−アクリル共重合体系の再乳化形樹脂粉末及び/又はアクリル−メタアクリル共重合体系の再乳化形樹脂粉末である。
(5)前記自己流動性水硬性組成物は、さらに無機粉体を含み、前記水硬性成分100質量部に対して、前記無機粉体を40〜80質量部含む。
(6)前記無機粉体は、高炉スラグ微粉末及び/又は石灰石微粉末である。
(7)前記自己流動性水硬性組成物は、さらに、流動化剤、凝結調整剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含む。
(8)塗り床材は、エポキシ樹脂系塗り床材、ウレタン樹脂系塗り床材、メタクリル樹脂系塗り床材、アクリル樹脂系塗り床材、ポリエステル樹脂系塗り床材、ビニルエステル系塗り床材及びポリマーセメント系塗り床材から選ばれるいずれか1種の塗り床材である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表面の良好な水平性や、十分な表面硬度、強度を有し、また従来の塗り床材の下地材に用いられるアルミナセメントを含む自己流動性水硬性組成物よりも塗り床材との付着性に優れ、特に、垂直方向に働く引張り力のみではなく、水平方向に働く引張り力を含む付着性試験であるJIS・K・5600−5−6:1999「塗料一般試験方法の付着性−クロスカット法」に準拠した試験方法においても、付着性の評価が良好な自己流動性水硬性組成物と塗り床材とを組み合わせたコンクリート床構造体の施工方法によって、床表面の水平性や床構造体の一体性に優れたコンクリート床構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】コンクリート床の部分断面図である。
【図2】コンクリート床の上に自己流動性水硬性組成物用プライマーの被膜層を構成している部分断面図である。
【図3】コンクリート床の上に自己流動性水硬性組成物用プライマーの被膜層、その上に自己流動性水硬性組成物のスラリーの層を構成している部分断面図である。
【図4】コンクリート床の上に自己流動性水硬性組成物用プライマーの被膜層、その上に自己流動性水硬性組成物の硬化体層、その上に塗り床材用プライマーの被膜層、その上に塗り床材ベースコートの硬化体層、その上に塗り床材トップコートの硬化体層を構成している部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0020】
本発明の自己流動性水硬性組成物と塗り床材とを組み合わせたコンクリート床構造体の施工方法およびコンクリート床構造体の実施形態について、図1〜図4に一例を示す。
【0021】
図1は、コンクリート床スラブ1を示す部分断面図である。
本発明では、まず図2に示すように、小さな凹凸3や微妙な傾斜4を有するコンクリート床2の上面に、自己流動性水硬性組成物用プライマーを塗布し、自己流動性水硬性組成物用プライマーの皮膜層5が形成した後に、その上面に図3に示すように自己流動性水硬性組成物のスラリー6を打設する。
【0022】
自己流動性水硬性組成物のスラリーの調製は、自己流動性水硬性組成物を袋物の形態で施工現場に搬入し、施工場所の近傍で現場設置型の混合・混練装置やハンドミキサー等の混合機を用いて、所定量の水と自己流動性水硬性組成物とを混合してスラリーを調製することができる。
【0023】
自己流動性水硬性組成物用プライマーの皮膜層5の上面に打設された図3に示す自己流動性水硬性組成物のスラリー6が硬化し、図4に示すように自己流動性水硬性組成物の硬化体層7が形成した後に、その上面に塗り床材用プライマーを塗布し、塗り床材用プライマーの皮膜層8が形成した後に、その上面に塗り床材ベースコートを塗布して塗り床材ベースコートの硬化体層9を設ける。
【0024】
また、本発明では、コンクリート床2上面に、自己流動性水硬性組成物用プライマーの皮膜層5を設け、その上面に自己流動性水硬性組成物の硬化体層7を設けた後、前記自己流動性水硬性組成物の硬化体層7の表面に研磨装置などを用いて目荒らし処理し、その上面に塗り床材用プライマーの皮膜層8を設け、その上面に塗り床材ベースコートの硬化体層9を設けることが、自己流動性水硬性組成物の硬化体層7と塗り床材用プライマーの皮膜層8及び塗り床材ベースコートの硬化体層9との付着をより以上に高めることができることから好ましい。
【0025】
目荒らし処理を行う場合には、例えば業務用電動床ポリッシャー等が好適に使用でき、ポリッシャーに♯50〜♯200の研磨紙を取り付けて使用することが好ましい。
【0026】
また、塗り床材ベースコートの硬化体層9の上面に、前記塗り床材ベースコートの硬化体層9の表面を保護したり、耐久性向上或いは滑り防止などの機能性を向上したりすること目的として、塗り床材トップコートの硬化体層10を設けることができることからより好ましい。
【0027】
次に、本発明で用いる自己流動性水硬性組成物用プライマー、自己流動性水硬性組成物及び塗り床材について説明する。
【0028】
本発明で使用する自己流動性水硬性組成物用プライマーは、コンクリート床と自己流動性水硬性組成物の硬化体層とを強固に付着するため、及び、自己流動性水硬性組成物のスラリーを打設した際に、スラリー中の水分がコンクリート床に浸透する作用を防止するため、さらに、コンクリート床の細孔中の空気が自己流動性水硬性組成物のスラリー中を通過してスラリー表面に気泡を形成することを防止するために用いる。
【0029】
自己流動性水硬性組成物用プライマーとしては、アクリル−スチレン共重合樹脂やエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とする市販のプライマーが使用でき、特にアクリル−スチレン共重合樹脂を主成分とする樹脂エマルションを好適に使用できる。
【0030】
自己流動性水硬性組成物用プライマーの塗布量は、良好な付着強度を安定して得るために、プライマー(樹脂エマルション)中に含まれる樹脂固形分量として、30〜120g/mを塗布することが好ましく、45〜90g/mを塗布することがさらに好ましい。
【0031】
プライマーの塗布作業は、前記の塗布量を1回の処理で塗布することができ、また、プライマーを2回〜3回の塗布作業で前記の塗布量を塗布することもできる。
【0032】
自己流動性水硬性組成物用プライマーを塗布した後の乾燥時間は、温度条件や通風条件に応じて適宜乾燥時間をとることができ、通常夏季には3時間〜8時間、冬季には5時間〜12時間乾燥することが好ましい。
【0033】
本発明で用いる自己流動性水硬性組成物は、アルミナセメント20〜60質量%、ポルトランドセメント20〜60質量%及び石膏5〜40質量%からなる水硬性成分と、フェロニッケルスラグ細骨材と、を含む自己流動性水硬性組成物であって、フェロニッケルスラグ細骨材は、該フェロニッケルスラグ細骨材中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含有する。
【0034】
水硬性成分として用いられるアルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されている。これらの市販品は、いずれも主成分がモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。本発明のアルミナセメントとしては、モノカルシウムアルミネート含有量が50質量%以上のものを使用することが好ましい。
【0035】
水硬性成分として用いられるポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントを用いることができる。
【0036】
水硬性成分として用いられる石膏としては、例えば、二水石膏、半水石膏及び無水石膏が挙げられ、排煙脱硫やフッ酸製造工程等で副産される石膏、又は天然に産出される石膏のいずれも使用することができる。石膏は、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルスラリーが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0037】
本発明で用いる自己流動性水硬性組成物は、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いることにより、優れた自己流動性や速硬性、優れた寸法安定性等を得ることができる。
【0038】
水硬性成分の配合割合は、好ましくはアルミナセメント20〜60質量%、ポルトランドセメント20〜60質量%、及び石膏5〜40質量%から成る組成、より好ましくはアルミナセメント30〜50質量%、ポルトランドセメント28〜48質量%、及び石膏12〜32質量%から成る組成、さらに好ましくはアルミナセメント35〜45質量%、ポルトランドセメント33〜43質量%、及び石膏17〜27質量%から成る組成、特に好ましくはアルミナセメント38〜42質量%、ポルトランドセメント36〜40質量%、
及び石膏20〜24質量%である。
【0039】
上記配合割合にすることにより、速硬性を有し、寸法安定性に優れ硬化体中の体積変化の少ない硬化物を得られやすいために好ましい。
【0040】
本発明に係るフェロニッケルスラグ細骨材はロータリーキルン、電気炉などでフェロニッケルを精錬する際に副産される溶融スラグを冷却し、粉砕・粒度調整した物である。製造方法として、キルン水砕砂、電炉風砕砂、電炉徐冷砕砂、電炉水砕砂に分類され、JIS・A・5011−2:2003「コンクリート用スラグ骨材−第2部:フェロニッケルスラグ骨材」に規定されている粒度による区分で、粒の大きさの範囲が1.2mm以下(FNS1.2)のフェロニッケルスラグ骨材を粒度調整して用いるのが好ましい。
【0041】
前記フェロニッケルスラグ細骨材は、フェロニッケルスラグ細骨材中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含有することが好ましい。
【0042】
フェロニッケルスラグ細骨材中に600μm以上の粒子径を有する粗粒分を5質量%以上含有する場合、自己流動性組成物の細骨材が分離し、自己流動性や強度が低下する傾向にある。上記粗粒分の下限値は特に制限がなく、0質量%であってもよい。
【0043】
優れた自己流動性を得るため、フェロニッケルスラグ細骨材中の同粗粒分は、0〜5質量%が好ましく、0.1〜4質量%がより好ましく0.2〜3質量%がさらに好ましく、0.3〜2質量%が特に好ましい
【0044】
本発明で用いる自己流動性水硬性組成物において、前記フェロニッケルスラグ細骨材の粗粒率が1.00〜1.50の範囲であり、粒度指数が80〜120の範囲であることが好ましい。これにより優れた自己流動性を得ることができる。
【0045】
フェロニッケルスラグ細骨材の粗粒率として、好ましくは1.00〜1.50であり、より好ましくは、1.05〜1.45であり、さらに好ましくは1.08〜1.42であり、特に好ましくは1.10〜1.40である。
【0046】
また、フェロニッケルスラグ細骨材の粒度指数として、好ましくは80〜120であり、より好ましくは85〜115であり、さらに好ましくは88〜112であり、特に好ましくは90〜110である。
【0047】
本発明で用いる自己流動性水硬性組成物は、水硬性成分100質量部に対して、フェロニッケルスラグ細骨材を60〜150質量部含むことが好ましい。これにより、作業性や硬化特性、塗り床材との付着性をより向上できる。
【0048】
フェロニッケルスラグ細骨材の含有量は、水硬性成分100質量部に対して60〜150質量部であることが好ましく、80〜130質量部であることがより好ましく、90〜120質量部であることがさらに好ましく、100〜110質量部であることが特に好ましい。
【0049】
本発明で用いる自己流動性水硬性組成物は、さらに再乳化形樹脂粉末を含んでも良い。構成成分の配合比率を厳格に品質管理できることから、構成成分をプレミックス化して現場に供給することが好ましい。このため、粉末状の再乳化形樹脂粉末であることが好ましい。
【0050】
再乳化形樹脂粉末としては、樹脂の粉末化方法などの製法については特にその種類は限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができ、また再乳化形樹脂粉末としては、ブロッキング防止剤を主に再乳化形樹脂粉末の表面に付着しているものを用いることができる。また、再乳化形樹脂粉末は、水性ポリマーディスパージョンを噴霧やフリーズドライなどの方法で溶媒を除去し乾燥した再乳化形樹脂粉末を用いることが好ましい。
【0051】
本発明に係る再乳化形樹脂粉末は酢酸ビニル−ベオバ−アクリル共重合体系の再乳化形樹脂粉末及び/又はアクリル−メタアクリル共重合体系の再乳化形樹脂粉末であることが好ましい。これにより、より均質な硬化表面を得ることができる。
【0052】
再乳化形樹脂粉末の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、0質量部を超えて6質量部以下であることが好ましく、0.5〜4質量部であることがより好ましく、0.8〜3質量部であることがさらに好ましく、1〜2質量部であることが特に好ましい。
【0053】
再乳化形粉末樹脂の割合が、上記範囲より大きい場合、水を加えて得られるスラリーの粘度が高くなり施工性が低下するとともに、硬化体の圧縮強度が低下する傾向がある。
【0054】
本発明に用いる自己流動性水硬性組成物は、さらに無機粉体を含み、無機粉体としては、JIS・A・6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」で規定される高炉スラグ微粉末、JIS・R・5212「シリカセメント」で規定されるシリカ質混合材、JIS・A・6207「コンクリート用シリカフューム」で規定されるシリカフューム、JIS・A・6201「コンクリート用フライアッシュ」で規定されるフライアッシュ、石灰石微粉末を利用することができる。ここで、石灰石微粉末は、石灰石を粉砕したものが好適に使用できるが、炭酸カルシウムを主成分とする無機質の粉末状物質であれば、廃コンクリート等を粉砕したものや、化学的に精製した炭酸カルシウム等も代用することができる。中でも、無機粉体として、高炉スラグ微粉末及び/又は石灰石微粉末を用いることで、強度発現性や寸法安定性を高めることができる。
【0055】
また、これらの無機粉体は、JIS・R・5201「セメントの物理試験方法」に従い測定されるブレーン比表面積が3000cm/g以上であることが好ましく、3000〜8000cm/gであることがより好ましく、3200〜5200cm/gであることが更に好ましい。
【0056】
本発明に用いる自己流動性水硬性組成物は、水硬性成分100質量部に対して、無機粉体を40〜80質量部含むことが好ましい。これにより、作業性や硬化特性を向上できる。
【0057】
無機粉体の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、40〜80質量部であることが好ましく、45〜70質量部であることがより好ましく、50〜65質量部であることがさらに好ましく、56〜60質量部であることが特に好ましい。
【0058】
自己流動性水硬性組成物は、材料分離を抑制しつつ好適な流動性を確保するために流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を用いることができる。
【0059】
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、リグニン系、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリカルボン酸系、ポリエーテル系及びポリエーテルポリカルボン酸系等の市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系及びポリエーテルポリカルボン酸等の市販の流動化剤を用いることが好ましい。
【0060】
流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して好ましくは0.1〜3.0質量部であり、より好ましくは0.3〜2.0質量部であり、さらに好ましくは0.4〜1.7質量部であり、特に好ましくは0.5〜1.5質量部の範囲で用いることができる。
【0061】
流動化剤の添加量が少なすぎると優れた流動性と高い硬化体強度を発現せず、また添加量が多すぎても添加量に見合った効果は期待できず、単に不経済であるだけでなく、場合によっては粘稠性も大きくなり所要の流動性を得るための混練水量が増大して強度性状が悪化する場合がある。
【0062】
凝結調整剤は、使用する水硬性成分や自己流動性水硬性組成物の構成成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結遅延剤及び凝結促進剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して調製するスラリーの可使時間と速硬性・速乾性とを調整することができ、前記スラリーの使用が非常に容易になるため好ましい。
【0063】
凝結遅延剤としては、公知のものを用いることができる。一例として、オキシカルボン酸類等の有機酸や、グルコース、マルトース、デキストリン等の糖類、重炭酸ナトリウムやリン酸ナトリウム等を、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることができる。
【0064】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。オキシカルボン酸としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸等の脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸及びトロパ酸等の芳香族オキシ酸を挙げることができる。
【0065】
オキシカルボン酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩及びカリウム塩等)及びアルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩及びマグネシウム塩等)を挙げることができ、ナトリウム塩がより好ましい。また、特に、酒石酸ナトリウムが、凝結遅延効果、入手容易性及び価格の面から好ましく、重炭酸ナトリウムと併用することが更に好ましい。
【0066】
凝結遅延剤は、1種または2種類以上を用いる場合、それぞれの凝結遅延剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜1.3質量部であり、より好ましくは0.05〜1.0質量部であり、さらに好ましくは0.08〜0.7質量部であり、特に好ましくは0.1〜0.5質量部の範囲で用いることにより好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できる。
【0067】
さらに、凝結遅延剤の添加量を、上記好ましい範囲に調整することにより、自己流動性(セルフレベリング性)を有し、好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を有するモルタルを得ることができる。
【0068】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることがでる。例えば、凝結促進効果を有するリチウム塩、硫酸アルミニウム及び塩化カルシウムを好適に用いることができ、これらを数種組み合わせて使用することができる。
【0069】
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム等の無機リチウム塩や、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウム等の有機酸有機リチウム塩を挙げることができる。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性及び価格の面から好ましい。
【0070】
凝結促進剤としては、自己流動性水硬性組成物の特性を妨げない粒子径のものを用いることが好ましく、粒子径は50μm以下にすることが好ましい。特にリチウム塩を用いる場合、リチウム塩の粒子径は50μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下であることが好ましい。リチウム塩の粒子径が上記範囲より大きくなるとリチウム塩の溶解度が小さくなるために好ましくなく、特に顔料添加系では微細な多数の斑点として目立ち、美観を損なう場合がある。
【0071】
凝結促進剤は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜1質量部であり、より好ましくは0.01〜0.5質量部であり、さらに好ましくは0.03〜0.3質量部であり、特に好ましくは0.04〜0.2質量部の範囲で用いることによって、自己流動性水硬性組成物の可使時間を確保したのち好適な速硬性が得られることから好ましい。
【0072】
凝結促進剤の添加量を、前記の好ましい範囲に調整することにより、自己流動性(セルフレベリング性)を有し、良好な可使時間を確保したのち、好適な速硬性を発現するモルタルを得ることができるため好ましい。
【0073】
自己流動性水硬性組成物は、材料分離を抑制しつつ構成成分が均質に混ざっているスラリーを確保するために増粘剤を用いることができる。
【0074】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、スターチエーテルやグアーガム等の化工澱粉系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を併用して用いることができる。
【0075】
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.005〜1質量部であり、より好ましくは0.01〜0.5質量部であり、さらに好ましくは0.01〜0.3質量部であり、特に好ましくは0.02〜0.2質量部の範囲で用いることができる。
【0076】
増粘剤の添加量が多くなると、自己流動性水硬性組成物のスラリー粘度が増加して流動性の低下を招く恐れがあるために上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
【0077】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、自己流動性水硬性組成物のスラリーの硬化物の特性を向上させる上で好ましい。
【0078】
消泡剤は、シリコーン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は鉱物油系、植物由来の天然物質など、公知のものを1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、1種類の消泡剤を用いる場合、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.002〜3.5質量部であり、より好ましくは0.01〜2.5質量部であり、さらに好ましくは0.03〜2.3質量部であり、特に好ましくは0.04〜2.2質量部の範囲で用いることができる。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
【0080】
また、2種類以上の消泡剤を併用する場合の消泡剤の添加量は、それぞれの消泡剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部であり、より好ましくは0.005〜1.7質量部であり、さらに好ましくは0.01〜1.5質量部であり、特に好ましくは0.02〜1.3質量部の範囲で用いることができる。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
【0081】
本発明に用いる自己流動性水硬性組成物には、必要に応じてシリコーンオイルを用いることができる。
【0082】
自己流動性水硬性組成物を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、フェロニッケルスラグ細骨材、再乳化形樹脂粉末、無機粉体、流動化剤、凝結調整剤、増粘剤及び消泡剤を含むものである。
【0083】
また、自己流動性水硬性組成物は、水硬性成分、フェロニッケルスラグ細骨材、再乳化形樹脂粉末、無機粉体、流動化剤、凝結調整剤、増粘剤及び消泡剤などを混合機で混合し、プレミックス粉体を得ることができる。
【0084】
自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、スラリー状の自己流動性(セルフレベリング性)を有する自己流動性組成物のスラリー(モルタル)を製造することができ、そのスラリーを硬化させて自己流動性水硬性組成物の硬化体を得ることができる。
【0085】
自己流動性水硬性組成物は、水と混合・攪拌してスラリーを製造することができ、水の添加量を調整することにより、スラリーの流動性、可使時間、材料分離抵抗性、スラリーを硬化させた硬化体の強度などを調整することができる。
【0086】
本発明で用いる自己流動性水硬性組成物のスラリーは、自己流動性水硬性組成物(C)と水(W)とを質量比(W/C)が、好ましくは0.15〜0.21であり、より好ましくは、0.16〜0.20であり、特に好ましくは0.17〜0.19の範囲になるように配合して混練することが好ましい。
【0087】
本発明で用いる塗り床材は、一般に、プライマー、ベースコート及びトップコートの複層で構成される。また、目的・用途によっては前記構成からプライマーを除く構成、トップコートを除く構成、ベースコートを複数層設ける構成あるいはベースコートに無機粉体や無機粒子などを混合する構成など、多種の組み合わせ構成があり、各塗り床材メーカーの施工要領書に準拠することが好ましい。
【0088】
本発明で用いる塗り床材の種類としては、要求される特性に応じて有機質系塗り床材又は無機質系塗り床材から適宜選択して用いることができる。
【0089】
本発明で用いる塗り床材用プライマーは、塗り床材の下地へ吸い込みを防止するため、及び、下地の細孔中の空気が塗り床材を通過して塗り床材表面に膨れやピンホールを形成することを防止するため、さらに、塗り床材の下地との付着性を向上するために用いる。
【0090】
本発明で用いる有機質系塗り床材用プライマーは、溶剤形エポキシ樹脂系、無溶剤形エポキシ樹脂系、水性形エポキシ樹脂系、水性形エポキシ樹脂系とセメントの混合物、溶剤形ウレタン樹脂系、溶剤形ウレタン樹脂系とセメントの混合、無溶剤形ウレタン樹脂系、湿気硬化形ウレタン樹脂系、湿気硬化形ウレタン樹脂系とセメントの混合、メタクリル樹脂系、溶剤形アクリル樹脂系、水性形アクリル樹脂系等を用いることができる。また、用途により有機系顔料、無機系顔料あるいはタルク、炭酸カルシウム、粉末状シリカ等の充填材を含有した塗り床材用プライマーを用いることができる。
【0091】
本発明で用いる無機質系塗り床材用プライマーは水形エチレン酢酸ビニル樹脂系、水形アクリル樹脂系、水形エポキシ樹脂系、溶剤形エポキシ樹脂系、溶剤形アクリル樹脂系等を用いることができる。
【0092】
本発明で用いる塗り床材用プライマーの施工は、各塗り床材メーカーの施工要領書に準拠し、はけやローラーを適宜選択して使用することができる。
【0093】
本発明で使用する塗り床材ベースコートは、塗り床材の耐久性、機械的強度、弾性等の主な機能を付与するために用いられる。
【0094】
本発明で用いる有機質系塗り床材ベースコートは、溶剤形エポキシ樹脂系、無溶剤形エポキシ樹脂系、水性形エポキシ樹脂系、溶剤形ウレタン樹脂系、溶剤形ウレタン樹脂系、湿気硬化形ウレタン樹脂系、メタクリル樹脂系、溶剤形アクリル樹脂系、水性形アクリル樹脂系、ポリエステル樹脂系、ビニルエステル樹脂系等を用いることができる。また用途により有機系顔料、無機系顔料あるいはタルク、炭酸カルシウム、粉末状シリカ等の充填材さらには細骨材を含有した有機質系塗り床材ベースコートから選ばれる1種又は2種以上のベースコートを適宜選択し、1層又は2層以上施工して用いることができる。
【0095】
本発明で用いる無機質系塗り床材ベースコートは、ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、超速硬セメント、特殊速硬形セメントおよびアルミナセメントからなる1種あるいは2種以上を組み合わせたセメント質、およびエチレン酢酸ビニル、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリル、エポキシ等の合成樹脂エマルションからなる1種あるいは2種以上を組み合わせた樹脂質から構成される塗り床材ベースコートを用いることができる。また、用途により有機系顔料、無機系顔料あるいはタルク、炭酸カルシウム、粉末状シリカ等の充填材を含有した無機質系塗り床材ベースコートから選ばれる1種又は2種以上のベースコートを適宜選択し、1層又は2層以上施工して用いることができる。
【0096】
本発明で用いる塗り床材ベースコートの施工は各塗り床材メーカーの施工要領書に準拠し、コテ、ローラーあるいは刷毛を適宜選択して使用することができる。
【0097】
本発明で用いる塗り床材トップコートは、耐候性、耐汚染性、防滑性あるいはつや消し仕上げ等のベースコートの硬化体層の保護や各種機能を付与することを目的として用いられる。
【0098】
本発明で用いる有機質系または無機系の塗り床材トップコートとしては、溶剤形エポキシ樹脂系、無溶剤形エポキシ樹脂系、水性形エポキシ樹脂系、溶剤形ウレタン樹脂系、溶剤形ウレタン樹脂系、湿気硬化形ウレタン樹脂系、メタクリル樹脂系、溶剤形アクリル樹脂系、水性形アクリル樹脂系、ポリエステル樹脂系、ビニルエステル樹脂系等から選ばれる1種又は2種以上のトップコートを適宜選択し、1層又は2層以上施工して用いることができる。
【0099】
本発明で用いる塗り床材トップコートの施工は、各塗り床材メーカーの施工要領書に準拠し、コテ、ローラーあるいは刷毛等を適宜選択して使用することができる。
【実施例】
【0100】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例
によって限定されるものではない。
【0101】
[使用材料]
使用した材料を以下に記す。
(1)水硬性成分
・アルミナセメント[AC](商品名:フォンジュ、ケルネオス社製、ブレーン比表面積3100cm/g)
・ポルトランドセメント[PC](商品名:早強ポルトランドセメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン4700cm/g)
・石膏[GG](天然無水石膏、ブレーン比表面積4500cm/g)
【0102】
上記アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏を表1に示す割合で配合し、水硬性成分を調製した。
【0103】
【表1】

【0104】
(2)細骨材
・フェロニッケルスラグ細骨材[FNS](600μm以上の粒子径を有する粗粒分=1.96%、粗粒率=1.22、粒度指数=96.8)
・珪砂[S](600μm以上の粒子径を有する粗粒分=0.26%、粗粒率=1.26、粒度指数=92.4)
ここで、細骨材の粒子径は、JIS・Z・8801−1:2006「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定される呼び寸法の異なる数個の篩を用いて測定することができる。また、「600μm以上の粒子を有する粗粒分」とは、600μmの網目の篩を用いたときの篩上残分の粒子の質量割合のことをいう。
また、「粗粒率」とは、JIS・A・1102:2006「骨材のふるい分け試験方法」に規定される骨材の粗粒率をいう。また、「粒度指数」とは、JIS・Z・2601:1993「鋳物砂の試験方法」に規定される鋳物砂の粒度指数をいう。
(3)再乳化形樹脂粉末
・酢酸ビニル−ベオバ−アクリル共重合体系再乳化形樹脂粉末(ニチゴーモビニール社製)
(4)無機粉体
・高炉スラグ微粉末[BFS](商品名:リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g)
(5)流動化剤
・ポリカルボン酸系流動化剤(花王社製)
(6)凝結遅延剤
・遅延剤A:酒石酸Na(扶桑化学工業社製)
・遅延剤B:重炭酸Na(東ソー社製)
(7)凝結促進剤
・促進剤:炭酸Li(本荘ケミカル社製)
(8)増粘剤
・ヒドロキシエチルメチルメチルセルロース系増粘剤(松本油脂社製)
(9)消泡剤
・消泡剤A:ポリエーテル系消泡剤(サンノプコ社製)
・消泡剤B:ポリエーテル系消泡剤(ADEKA社製)
【0105】
上記水硬性成分、細骨材、再乳化形樹脂粉末、無機粉体、流動化剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、増粘剤、消泡剤を表2に示す割合で配合し、自己流動性組成物を調製した。
【0106】
【表2】

【0107】
(10)自己流動性水硬性組成物用プライマー
・プライマー(商品名:UプライマーG、宇部興産社製、アクリル−スチレン共重合樹脂エマルジョン、固形分45±1%)
【0108】
(10)塗り床材
・塗り床材用プライマー(エポキシ系2液混合型、ABC商会社製)
・塗り床材ベースコート(エポキシ系2液混合型、ABC商会社製)
【0109】
[自己流動性水硬性組成物のスラリーの調製]
自己流動性水硬性組成物の材料(総量:1.5kg)を表2に示す配合割合で混合し、ホバートミキサーを用いて混練して自己流動性水硬性組成物のプレミックス粉体を得た。次いで、得られたプレミックス粉体に水270gを加えて3分間混練して自己流動性組成物のスラリーを得た。自己流動性組成物のスラリーの調製は、温度20℃の恒温室内で行なった。
【0110】
[特性の評価方法]
(1)自己流動性水硬性組成物のスラリーの流動性評価
・フロー値の測定法
JASS・15M−103「社団法人日本建築学会:セルフレベリング材の品質基準」に準拠してフロー値を測定し、スラリーの流動性を評価した。評価は、温度20℃の恒温室内で行なった。評価結果を表3に示す。
【0111】
(2)垂直方向の引張りによる付着強さの評価
・垂直引張りによる付着強さの測定法
温度20℃の恒温室内で、300×300×60mmのコンクリート舗道板の上に自己流動性水硬性組成物用プライマーの皮膜層を形成し、その上に調製した自己流動性水硬性組成物のスラリーを10mm厚みで打設して硬化させ、材齢14日養生した後の自己流動性水硬性組成物の硬化体層の上に、塗り床材用プライマーの皮膜層を形成し、その上に塗り床材ベースコートを施工し硬化させ、材齢7日養生して試験体を作製した。該試験体を用いて、NNK−005:2006「日本塗り床工業会:塗り床材の付着強さ試験方法」に準拠して付着強さを測定した。評価結果を表3に示す。
【0112】
(3)水平方向の引張りを含む付着強さの評価
・クロスカットの測定法
温度20℃の恒温室内で、300×300×60mmのコンクリート舗道板の上に自己流動性水硬性組成物用プライマーの皮膜層を形成し、その上に調製した自己流動性水硬性組成物のスラリーを10mm厚みで打設して硬化させ、材齢14日養生した後の自己流動性水硬性組成物の硬化体層の上に、塗り床材用プライマーの皮膜層を形成し、その上に塗り床材ベースコートを施工し硬化させ、材齢7日養生して試験体を作製した。該試験体を用いて、JIS・K・5600−5−6:1999「塗料一般試験方法の付着性−クロスカット法」に準拠して付着強さを測定した。塗り床材ベースコートの硬化体層を自己流動性組成物の硬化体層に達するように格子状に切り込みを入れた。格子の間隔は各方向ともに4mmの間隔で、各方向での切り込み数は6個とした。格子面にIEC60454−2規格に準拠した25mm幅の粘着テープを貼り付け、貼り付けてから5分以内に0.5〜1秒で引き離し、塗り床材が剥がれた面積の割合(%)で評価した。評価結果を表3に示す。
【0113】
【表3】

【0114】
表3より、スラリーの流動性を示すフロー値において、実施例及び比較例ともに190mm以上を超えて優れた流動性であることから、表面の良好な水平性が得られることが示された。
【0115】
垂直引張りの付着強さにおいて、実施例及び比較例ともに日本塗り床工業会の塗り床下地としての付着強さ1.5N/mmを超えて優れた付着強さであることから、優れた表面硬度や強度が得られることが示された。
【0116】
クロスカット法の付着強さにおいて、細骨材がフェロニッケルスラグ細骨材と珪砂の違いによる付着強さへの影響について、再乳化形樹脂粉末が1.32重量部の場合、実施例2と比較例1を比較すると、剥離(0%)に対して剥離(40%)であり、再乳化樹脂粉末が5.26重量部の場合、実施例3と比較例2を比較すると、剥離(80%)に対して剥離(100%)であり、フェロニッケルスラグ細骨材を用いることにより剥離面積が減少する効果が認められた。
【0117】
したがって、細骨材にフェロニッケルスラグ細骨材を用いることは、塗り床材と自己流動性水硬性組成物の硬化体との付着性が向上する効果を奏することが明らかとなった。
【0118】
再乳化形樹脂粉末が0質量部の場合、実施例1は剥離が76%であったことから、フェロニッケルスラグ細骨材を使用しないと、塗り床材は100%近く剥離すると推察される。
【0119】
以上の結果より、アルミナセメントを含む自己流動性水硬性組成物において、粒度を適正に調整したフェロニッケルスラグ細骨材を使用することで、流動性に優れ、塗り床材との付着性に優れた組成物を得ることができることが確認された。
【0120】
さらに、前記自己流動性水硬性組成物を用いて塗り床下地を形成し、塗り床仕上げ施工を行うことで、床表面の水平性や床構造体の一体性に優れた、塗り床仕上げコンクリート床構造体を提供できる。
【符号の説明】
【0121】
1 : コンクリート床スラブ
2 : コンクリート床
3 : 小さな凹凸
4 : 微妙な傾斜
5 : 自己流動性水硬性組成物用プライマーの皮膜層
6 : 自己流動性水硬性組成物のスラリー
7 : 自己流動性水硬性組成物の硬化体層
8 : 塗り床材用プライマーの皮膜層
9 : 塗り床材ベースコートの硬化体層
10 : 塗り床材トップコートの硬化体層
11 : 塗り床材表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物のコンクリート床上面に、自己流動性水硬性組成物用プライマーを塗布して自己流動性水硬性組成物用プライマーの皮膜層を設ける工程と、
前記自己流動性水硬性組成物用プライマーの皮膜層の上面に、自己流動性水硬性組成物と、水とを混練して調製したスラリーを打設して自己流動性水硬性組成物の硬化体層を設ける工程と、
前記自己流動性水硬性組成物の硬化体層の上面に、塗り床材用プライマーを塗布して塗り床材用プライマーの皮膜層を設ける工程と、
前記塗り床材用プライマーの皮膜層の上面に、塗り床材ベースコートを塗布して塗り床材ベースコートの硬化体層を設ける工程と、を有するコンクリート床構造体の施工方法であって、
前記自己流動性水硬性組成物は、アルミナセメント20〜60質量%、ポルトランドセメント20〜60質量%及び石膏5〜40質量%からなる水硬性成分と、細骨材と、を含む自己流動性組成物であって、前記細骨材は、フェロニッケルスラグ細骨材であることを特徴とするコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項2】
前記自己流動性水硬性組成物は、さらに再乳化形樹脂粉末を含むことを特徴とする請求項1に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項3】
前記自己流動性水硬性組成物は、前記水硬性成分100質量部に対して、前記再乳化形樹脂粉末の含有量が、0質量部を超えて6質量部以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項4】
前記自己流動性水硬性組成物は、前記水硬性成分100質量部に対して、前記フェロニッケルスラグ細骨材を60〜150質量部含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項5】
前記再乳化形樹脂粉末は、酢酸ビニル−ベオバ−アクリル共重合体系の再乳化形樹脂粉末及び/又はアクリル−メタアクリル共重合体系の再乳化形樹脂粉末であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項6】
前記自己流動性水硬性組成物は、さらに無機粉体を含み、前記水硬性成分100質量部に対して、前記無機粉体を40〜80質量部含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項7】
前記無機粉体は、高炉スラグ微粉末及び/又は石灰石微粉末であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項8】
前記自己流動性水硬性組成物は、さらに、流動化剤、凝結調整剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項9】
塗り床材は、エポキシ樹脂系塗り床材、ウレタン樹脂系塗り床材、メタクリル樹脂系塗り床材、アクリル樹脂系塗り床材、ポリエステル樹脂系塗り床材、ビニルエステル系塗り床材及びポリマーセメント系塗り床材からなる群から選ばれるいずれか1種の塗り床材であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の施工方法により得られるコンクリートの床構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−92599(P2012−92599A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241860(P2010−241860)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】