説明

コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部のひび割れ評価方法及び設計方法

【課題】コンクリート製壁部のひび割れ評価方法及びコンクリート製水槽構造物の設計方法を提供すること。
【解決手段】コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁厚寸法が1m未満のコンクリート製壁部のひび割れ評価方法であって、下記式(1)により最小ひび割れ指数Icrを求め、その最小ひび割れ指数Icrの値が、1以上となることで、コンクリート製壁部について漏水を生じないコンクリート製壁部であると評価するコンクリート製壁部のひび割れ評価方法とした。
Icr=2.320−0.0030X1−0.0256X2+0.0241X3−0.3322log10(X4)・・・(1)
但し、Icrは、最小ひび割れ指数、X1は水セメント比(W1/C)(%)、X2は終局断熱温度上昇量(Q∞:℃)、X3は断熱温度上昇速度に関する定数(γ)、X4は誘発目地間隔Lとコンクリート打設リフト高さHとの比L/Hである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物のひび割れ評価方法及び設計方法に関し、特に、コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部のひび割れ評価方法及び設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、コンクリート構造物は、その築造時にセメントと水の水和反応によって生じる水和熱によりコンクリート温度が外気温より上昇し、その後、コンクリート温度が外気温まで降下する過程において温度差に相当する体積収縮が生じるが、拘束されている場合には収縮することができず、そのためコンクリートに引張応力が生じ、その引張応力がコンクリートの引張強度以上になると、ひび割れ(温度ひび割れ、以下、単にひび割れともいう)が発生するようになる。
【0003】
コンクリート構造物における前記のひび割れのうち、貯水槽又は水処理施設等における水槽構造物におけるコンクリート製壁部のひび割れでは、内部鉄筋の防錆上問題となる外表面側のひび割れもあるが、漏水を生じる壁部の表裏に貫通するひび割れの有無がより重要な考慮対象になる。
【0004】
漏水を生じる壁部の表裏に貫通するひび割れを検討する上で、コンクリート製壁部の温度ひび割れ指数に関する簡易評価式としは、コンクリート製壁部の厚み寸法が1m以上を対象としている温度ひび割れ指数の簡易評価式は、JCI(Japan Concrete Institute:社団法人 日本コンクリート工学協会 )のひび割れ制御指針において知られている。前記のJCIのひび割れ制御指針においては、コンクリート製壁状構造物における最小ひび割れ指数(温度ひび割れ指数の最小値)Icr(JCI)の照査に関する下記の簡易評価式(2)を用いて評価している。
下記の簡易評価式(2)は、コンクリート製壁状構造物に関する最小ひび割れ指数Icr(JCI)に関する簡易評価式で、壁厚寸法が1m以上を対象としている最小ひび割れ指数Icr(JCI)の簡易評価式である。
Icr(JCI)=−1.93×10-2Ta−2.80×10-3D−1.17×10-2Q∞+1.15×10-2γ+
8.72×10-2 log10 (HR)+0.476Ft−0.165log10 (L/H)+
0.224 log10(Ec/Er)−2.85 ・・・・・・(2)
ただし、Icr(JCI):最小ひび割れ指数、 Ta:打ち込み温度(通常、四季を考慮して4.1℃〜33.7℃の間に設定される)、D:壁厚(コンクリート構造物の場合、1.0m〜5.4mの広範囲の壁厚を対象にしている)、Q∞:終局断熱温度上昇量(38.5℃〜53.9℃の広範囲を対象にしている。)、 γ:断熱温度上昇速度に関する定数(0.36〜1.42)、 HR:型枠存置期間(日)に表面熱伝達率を乗じた値[24〜232(W/m2℃)・日]、 Ft:標準養生材齢における割裂引張強度(2.39N/mm2〜3.52 N/mm2)、L/H:コンクリート部材の長さ(L)と高さ(H)の比(0.4〜30[L:3.0m〜40 m 、H:0.75〜7.2 m])、 Ec/Er:被拘束体のヤング係数Ecと拘束体のヤング係数との比(前記指針では、7以上で、拘束体が改良土の場合は、7としている)
【0005】
前記の最小ひび割れ指数Icr(JCI)の簡易評価式(2)は、コンクリート製構造物におけるコンクリート製壁厚寸法が1m以上の壁部の評価には正確に評価できるが、今まで、壁厚寸法が1m未満の水槽構造物のコンクリート製壁部の評価をするのに、正確でより簡単な簡易評価式がなかったため、壁厚寸法が1m未満のコンクリート製壁部に、前記のJCIの最小ひび割れ指数Icr(JCI)の簡易評価式(2)を使用することが考えられていた。
【0006】
しかし、壁厚寸法が1m未満の水槽構造物のコンクリート製壁部の評価に、前記のJCIの最小ひび割れ指数Icr(JCI)の簡易評価式(2)を適用していたため、精度が低くなり、簡易評価式(2)による評価とは別個に、有限要素法による特殊なFEM解析(3次元温度応力解析、例えば、3次元温度応力解析ソフトとして、JCMAC3がある。)による照査が必要であり、個々のコンクリート製水槽構造物毎に、そのようなFEM解析を行うことは、コストと時間が格段にかかり、コンクリート製水槽構造物の設計工期及び設計費用が高くなるという問題があった。
【0007】
前記の有限要素法による特殊なFEM解析以外にも、コンクリート構造物の最小ひび割れ指数について、携帯可能なパソコンを用いて算定できるようにした方法及び装置に関する技術は知られている(例えば、特許文献1参照)が、やはり、そのような携帯可能なパソコンを用いた算定でも、煩雑な計算のFEM解析となり、コストと時間がかかり、その分、コストが高くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−69037号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】マスコンクリートのひび割れ評価指針、社団法人 日本コンクリート工学協会 2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記のように、壁厚寸法が1m未満の水槽構造物のコンクリート製壁部の評価に、前記の最小ひび割れ指数Icr(JCI)の簡易評価式(2)を適用して評価しても、本来、適用外であるため、精度が低く、そのため、前記のような特殊な有限要素法による特殊なFEM解析あるいは、携帯可能なパソコンを用いて算定できるようにしたFEM解析が必要になり、コストと時間がかかり、コスト高になっていた。
【0011】
水槽構造物におけるコンクリート製壁部について、前記のセメント水和熱によるひび割れ(水和熱ひび割れ)に対する照査の方法が、コンクリート製水槽構造物の性能を確保できた上で、前記の最小ひび割れ指数Icr(JCI)を求める評価式(2)に比べて、より簡素な最小ひび割れ指数Icrの評価式で、実際の水槽構造物のひび割れによる漏水の有無と合致した評価式であると信頼性のある評価式になり、FEM解析を用いなくても漏水の有無を正確に評価できると、コンクリート製水槽構造物の施工コスト及び設計コストを安くすることができる。
【0012】
具体的には、前記のコンクリート製壁状構造物における前記の最小ひび割れ指数Icr(JCI)に関する簡易評価式(2)は、下記の1)〜5)の変数を含む簡易評価式(2)となっている。
1)打ち込み温度Taは、4.1℃〜33.7℃である。
2)部材厚としての壁厚Dは1.0m〜5.4mである。
3)放熱条件[型枠存置期間(日)に表面熱伝達率を乗じた値]HRは24〜232(W/m2℃)・日である。
4)標準養生材齢における割裂引張強度Ftは、2.39N/mm2〜3.52 N/mm2である。
5)被拘束体のヤング係数Ecと拘束体のヤング係数との比Ec/Erは、前記指針では、7以上である。
【0013】
前記の1)〜5)の条件の内、部材厚としてのコンクリート製壁厚Dが1m未満に適用可能な簡易評価式が望まれている。
その上で、打ち込み温度Taと、放熱条件[型枠存置期間(日)に表面熱伝達率を乗じた値]HRと、標準養生材齢における割裂引張強度Ftと、被拘束体のヤング係数Ecと拘束体のヤング係数との比Ec/Erとが、一定の値あるいは他の項において考慮されて、特に、パラメータとしての要素として考慮しなくてもよいようになると、最小ひび割れ指数Icrに左右されるコンクリート製水槽構造物における1m未満のコンクリート製壁部のひび割れの評価及びコンクリート製壁部の設計が容易になり、壁厚1m未満の水槽構造物の評価及び設計の工期が短縮し、また、容易に安価に評価あるいは設計することが可能になると共に精度が向上する。
【0014】
なお、温度ひび割れ指数(Icr)が求まると、前記のマスコンクリートのひび割れ制御指針においては、コンクリート壁部の温度ひび割れの幅の予測値(wc(JCI))は、温度ひび割れ指数(Icr(JCI))と、鉄筋比と、温度ひび割れ指数を緩和する定数と、温度ひび割れ幅を評価するための安全係数とを考慮した関数として表されているから、これを求めることができる。
【0015】
本発明者は、前記の1)〜5)の点について、コンクリート製底版(底板)とこれに一体に立設されたコンクリート製壁部を備えたコンクリート製水槽構造物についてのデータに基づき、種々検討した結果、コンクリート製水槽構造物で壁厚1m未満の簡易評価式に特化させ、その上で、前記の1)〜5)の要素を、パラメータとして見込まないようにすることで、最小ひび割れ指数の前記簡易評価式(2)に代えて、より格段に簡易な新たな最小ひび割れ指数Icrの評価式になると共に、前記の1)〜5)の要素を、パラメータとして見込まなくても既設の水槽構造物との関係で十分検証でき、今後築造する場合の水槽構造物にも適用可能であることを知見し、本発明を完成させた。
【0016】
本発明は、コンクリート製水槽構造物における壁厚1m未満のコンクリート製壁部に適用可能で、前記の課題を解消したコンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部のひび割れ評価方法及び設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1発明のコンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部のひび割れ評価方法においては、コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁厚寸法が1m未満のコンクリート製壁部のひび割れ評価方法であって、下記式(1)により最小ひび割れ指数Icrを求め、その最小ひび割れ指数Icrの値が1以上となることで、コンクリート製壁部について漏水を生じないコンクリート製壁部であると評価することを特徴とする。
Icr=2.320−0.0030X1−0.0256X2+0.0241X3−0.3322log10(X4)・・・(1)
但し、Icrは、コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁厚寸法が1m未満のコンクリート製壁部の最小ひび割れ指数,
X1は、水セメント比(W1/C)(%)、W1は、コンクリート1m3あたりの単位水量(kg/m3)、Cはコンクリート1m3あたりの単位セメント量(kg/m3)、
X2は、終局断熱温度上昇量(Q∞:℃)、
X3は、断熱温度上昇速度に関する定数(γ)、
X4は、誘発目地間隔Lとコンクリート打設リフト高さHとの比、L/Hである。
第2発明のコンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部の設計方法においては、コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部の設計方法において、コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部を設計するにあたり、第1発明における式(1)により求められる最小ひび割れ指数(Icr)の値が1以上となるように、コンクリートを打設するように設計することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1発明のコンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部のひび割れ評価方法によると、コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁厚寸法が1m未満のコンクリート製壁部のひび割れ評価方法であって、前記式(1)により最小ひび割れ指数Icrを求め、その最小ひび割れ指数Icrの値が1以上となることで、コンクリート製壁部について漏水を生じないコンクリート製壁部であると評価するので、コンクリート製壁厚寸法が1m以上を対象としている従来の最小ひび割れ指数に関する評価式Icr(JCI)に比べて、格段に少ない変数の評価式で、ひび割れを生じないコンクリート製壁部になると簡単に評価することができ、しかも、簡単な簡易評価式でありながら実際のコンクリート製水槽構造の性能に対応した実情に即した漏水の有無を正確に反映した精度の高い評価方法とすることができる等の効果が得られる。
第2発明によると、コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部の設計方法において、コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部を設計するにあたり、第1発明における式(1)により求められる最小ひび割れ指数(Icr)の値が1以上となるように、コンクリートを打設するように設計するので、第1発明における式(1)により求められる最小ひび割れ指数(Icr)の値が1以上となるように設計すれば、コンクリート壁部にひび割れが生じないようになるため、コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート壁部を施工する場合にひび割れによる漏水が生じない精度の高い設計が簡単で容易になる等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明において、3次元温度応力解析する場合に用いた解析モデルを示す図であり、水槽構造物における1/4の切り出しモデルを示す説明図である。
【図2】コンクリート製水槽構造物及びそのコンクリート製側壁を築造する場合に、コンクリートを打設する場合の区分(ロット)を2点鎖線で示す一部切り欠き側面図である。
【図3】図2に示すコンクリート製水槽構造物を示す一部切り欠き平面図である。
【図4】本発明において適用可能なコンクリート製水槽構造物の他の形態を示すものであって、(a)はコンクリートを打設する場合の区分(ロット)を2点鎖線で示す正面図、(b)(a)の平面図である。
【図5】最小ひび割れ指数(3次元温度応力解析値を横軸に、最小ひび割れ指数を縦軸にして、これらに相関関係があることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
先ず、本発明では、例えば、図2,3に示すように、コンクリート製底版1と、これに立設されたコンクリート製壁部2とを少なくとも備えたコンクリート製水槽構造物3を対象としている。コンクリート製壁部2の上部に蓋版5を備えた形態としてもよい。蓋版5は、コンクリート製蓋版であってもよい。
本発明のコンクリート製水槽構造物3は、前記のJCIの設計指針において分類されているコンクリート製壁状構造物に含まれるが、本発明では、コンクリート製水槽構造物3でも、そのコンクリート製壁厚寸法が1m未満のコンクリート製壁部2であり、そのコンクリート製壁部2の下端は、コンクリート製底版1に一体とされているコンクリート製水槽構造物を対象にしている。
そして、本発明のコンクリート製水槽構造物3としては、具体的には、例えば、コンクリート製水槽部を備えた水泳用プール、コンクリート製の水処理槽、コンクリート製下水処理槽、その他の水処理槽設備等がある。
【0022】
また、コンクリート製水槽構造物3におけるコンクリート製壁部2に用いるコンクリートとしては、例えば、一例として高炉セメントB種を用いることとし、前記のコンクリート製水槽構造物3において使用しているコンクリートは、高炉セメントB種(BB)であり、高炉セメントB種(BB)を用いたコンクリートを打設したコンクリート製水槽構造物3と、普通ポルトランドセメント(N)を用いてなるコンクリートを打設したコンクリート製水槽構造物3とについてのコンクリート製壁部2について対象としている。
【0023】
本発明では、変数要素の多い前記従来の簡易評価式(2)において変数要素となっている、打ち込み温度Taは、夏季を対象とし、安全側の評価式にすることで、4.1℃〜33.7℃の広範囲を設定することなく、夏季のみに、例えば、所定の温度(例えば、25℃〜33.7℃のほぼ一定の一日の平均温度)とすることで、打ち込み温度Taを変数として考慮しないこととした。
また、従来の前記2)の部材厚としての壁厚Dは、本発明において、1.0m未満のコンクリート製側壁を対象とて特化することで、値が小さく、大きく変化しないこともあり、壁厚Dを変数として考慮しないこととした。コンクリート製水槽構造物では、前記の壁厚Dの範囲としては、0.2m〜1.0m未満であり、多くの場合は、例えば、0.3m〜0.8mの範囲、或は0.3m〜0.9m程度で、例えば、壁厚が0.3m、0.4m、0.5m、0.6m等に設定される。
また、従来の前記3)の放熱条件[型枠存置期間(日)に表面熱伝達率を乗じた値]HRは、本発明において、一般的な湿潤養生とすることで、変数とすることなく、考慮しないこととした。
前記の一般的な湿潤養生としては、コンクリート製側壁を施工する場合にその側面に配置される型枠のみにより養生させる場合、あるいは前記型枠の外側に、湿式マット等を付属させて養生してもよく、打設したコンクリート壁部の上面に散水する散水養生を併用するようにしてもよく、前記のいずれかの湿潤養生でよい。コンクリートの硬化が始まるまで直射日光、風等による水分逸散を防止するようにする。
また、従来の前記4)の標準養生材齢における割裂引張強度Ft(N/mm2)は、本発明においては、水セメント比:W1/C(%)で代替して変数として考慮されているため、変数としないで考慮しないこととした。
また、従来の前記5)の被拘束体のヤング係数Ecと拘束体のヤング係数との比Ec/Erに関しては、本発明においては、コンクリート製水槽構造物3におけるコンクリート製壁部(側壁)2を対象としており、そのため、被拘束体がセメント(高炉セメントB種又は低熱高炉セメントB種)を用いたコンクリート製壁部2であり、拘束体(コンクリート製底版)が、前記被拘束体(コンクリート製壁部)と同じセメント(高炉セメントB種又は低熱高炉セメントB種)を用いたコンクリート底版1であるため、前記比Ec/Eの値が、1で一定となり、値が変化しにくいため、変数として考慮しないこととした。
【0024】
このように、本発明では、コンクリート製底版1に一体に立設されたコンクリート製壁部(側壁)2を対象にしぼり、そのコンクリート製壁部2に対する最小ひび割れ指数の評価に特化することで、前記1)〜5)を変数として考慮しないこととし、前記従来の最小ひび割れ指数に関する簡易評価式(2)に対応した本発明の簡易評価式に代入する変数として、コンクリート配合に関する水セメント比(W1/C)(%)と、セメント種による終局断熱温度上昇量Q∞(℃)及びセメント種による断熱温度上昇速度に関する定数γ(0.36〜1.42)と、コンクリート製壁部2の誘発目地間隔(L)と、1回のコンクリートの打設によるリフト高さ(H)との比(L/H)との関係を説明変数と設定した。
そして、下記表1に示す15ケース(計20例)の場合について、表1に示すパラメータ解析の条件として挙げた、コンクリート配合(水セメント比:W1/C)(%)をX1とし、セメント種による終局断熱温度上昇量(Q∞:℃)をX2とし、セメント種による断熱温度上昇速度に関する定数(γ)をX3とし、コンクリート製壁部2における誘発目地間隔(L:m)とリフト高(H)の関係(L/H)をX4とし、これらX1〜X4を説明変数とし、有限要素法による3次元温度応力解析(数値解析)によって得られた最小ひび割れ指数を目的変数として、本発明の最小ひび割れ指数(Icr)についての関連式が、前記従来の(2)式に代えて、Icr=aX1+bX2+cX3+dX4+α(定数)の式になるように、しかも、表1におけるコンクリート配合種別のデータ及び目地間隔のデータからIcr(SO)の値になるように、重回帰分析を行い、最小ひび割れ指数(Icr)に関する下記式(1)を得た。
Icr=2.320−0.0030X1−0.0256X2+0.0241X3−0.3322log10(X4)・・・(1)
上記の最小ひび割れ指数(Icr)に関する上記式(1)を作るにあたって考慮したパラメータである上記X1〜X4の4パラメータについては、それぞれ以下の理由で、これらのパラメータを選択している。
X1:水セメント比の中に含まれるセメント量はコンクリートの水和反応によって生じる水和熱の発生に大きく寄与し、水和熱ひび割れの発生に影響大であるため考慮している。
X2、X3:これらの物性値のパラメータは、コンクリートの水和反応によって生じる水和熱の発生に大きく寄与し、水和熱ひび割れの発生に影響大であるため考慮している。
X4:このパラメータは、リフト高さ(H:m))高さに対する長さ(L:m)である誘発目地間隔を表し、部材の拘束範囲に関するものとなるため、コンクリートの水和反応によって生じる引張応力に大きく寄与し、水和熱ひび割れの発生に影響大であるため考慮している。
【0025】
また、本発明における前記最小ひび割れ指数(Icr)に関する前記簡易評価式(1)により求まる値(右側の各項の次元を考慮しない値)は、後記する代表的なコンクリート製水槽構造物の構築データを示す表2の検証結果において説明するように、最小ひび割れ指数が0.96では、ひび割れが発生しているものの、1.07では、ひび割れが発生していないことから、本発明では、最小ひび割れ指数が1以上とした場合では、ひび割れによる漏水が発生しないものとみなした。
したがって、本発明においては、前記の式(1)により求められる最小ひび割れ指数Icrの値が、1以上の値であることが条件になる。
但し、前記の通り、前記の最小ひび割れ指数Icrは、コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁厚寸法Dが1m未満のコンクリート製壁部の最小ひび割れ指数であり、X1は、水セメント比(W1/C)(%)であり、W1は、コンクリート1m3あたりの単位水量(kg/m3)であり、Cはコンクリート1m3あたりの単位セメント量(kg/m3)であり、本発明においては、前記の水セメント比(W1/C)(%)は、例えば、45%〜60%の範囲とするとよい。
X2は、終局断熱温度上昇量(Q∞:℃)であり、表2中の最小値と最大値から38.99℃〜49.69℃が考えられるが、例えば、35℃〜55℃の範囲とすればよい。
X3は、断熱温度上昇速度に関する定数(γ)であり、例えば、0.8〜2.6の範囲とすればよい。
X4は、誘発目地間隔Lとコンクリート打設リフト高さHとの比、L/Hであり、例えば、0.2〜2.0の範囲とすればよい。
なお、前記の誘発目地間隔Lは、コンクリート壁部2において、ひび割れを集中的に誘発させる目地部4間の水平方向の距離である。
前記の誘発目地間隔Lとしては、例えば、表2から6m以下、1m〜6mとし、壁高さHとしては、例えば、表2から、3m〜5m程度でよい。しかし、本発明においては、前記の誘発目地間隔L及びコンクリート打設リフト高さHは、特に限定されるものではなく、前記の誘発目地間隔Lとコンクリート打設リフト高さHとの比で設定される。

【0026】
【表1】

【0027】
表1において、コンクリートの配合種別中、ハイフンで結ばれた各数値は、順に、コンクリートの設計基準強度(N/mm2)と、前記コンクリートのスランプ値(cm)と、前記コンクリートに混入させる粗骨材の最大寸法(mm)で、また、BBは高炉セメントB種、Nは普通ポルトランドセメント、LBBは低熱高炉セメントB種である。
【0028】
図1に解析モデルを示す。解析モデルは、壁厚0.8m、長辺25m、短辺20m、壁高さ6.3mのコンクリート製箱型構造物からなるコンクリート製水槽構造物3を模擬したモデルであり、長辺を12.5m、短辺を10mとした1/4の切り出しモデルとした。
前記の有限要素法による3次元温度応力解析ソフトに図1に示した解析モデルを入力すると共に、表1中の4つのパラメータの条件(ケース1〜ケース15の20例)を入れて、3次元温度応力解析ソフトに基づく、最小ひび割れ指数Icr(SO)を算出し、その値を表1の右端列に示した。
【0029】
図5に、最小ひび割れ指数についての前記の3次元温度応力解析ソフトによる解析値(Icr(SO))と、本発明における最小ひび割れ指数についての簡易評価式(1)により求めた値(Icr)とを、前記3次元温度応力解析ソフトによる最小ひび割れ指数Icr(SO)の解析値を横軸に、本発明における簡易評価式(1)の最小ひび割れ指数Icrの値を縦軸にとって、プロットして示す。
【0030】
この図5から、最小ひび割れ指数についての解析ソフトによる最小ひび割れ指数Icr(SO)の解析値と、本発明に用いた簡易評価式(1)による最小ひび割れ指数Icrの値とは、十分相関関係があることがわかる。次に、代表的な表2に示すひび割れによる漏水の有無の検証結果から、本発明において用いた簡易評価式(1)による最小ひび割れ指数Icrの値で所定の範囲が、ひび割れによる漏水を生じるコンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部であるか否かを評価する上で、妥当な値であり、正確で精度が高く、実用性があることがわかる。
【0031】
次に、前記の式(1)の最小ひび割れ指数Icrの簡易評価式を用いた場合に、過去に築造した複数のコンクリート製水槽構造物3のコンクリート製壁部2に適用可能であったか否かを検証した結果を表2に示す。
【0032】
過去に築造した各種の複数の水槽構造物についての、セメントの種類等の使用材料、水槽構造物にける壁厚等の設計条件、打ち込み温度等の設定条件について記録した値を表2に示すと共に、本発明による最小ひび割れ指数(Icr)の簡易評価式(1)によって得られた結果と、ひび割れの有無について示した。
また、表2における下部には、上から、前記式(1)による本発明の最小ひび割れ指数に関する簡易評価式(1)による最小ひび割れ指数Icrと、その値をひび割れ設計指針における温度ひび割れ幅の予測式(温度ひび割れ幅の予測式についてはその説明を省略した。)に代入して得られた温度ひび割れ幅の予測幅wc値(wc1)とを示すと共に、社団法人日本コンクリート工学協会の評価設計による簡易評価式(前記の段落0008に記載の式3)を用いた場合の最小ひび割れ指数Icr(JCI)と、その値をひび割れ設計指針における温度ひび割れ幅の予測式(その説明を省略した)に代入して得られた温度ひび割れ幅の予測幅wc2とについて示した。
また、前記の表2には、セメント種として、普通ポルトランドセメントを用いた水槽構造物3についても示した。
また、表2における鉄筋比(%)は、対象とするコンクリート断面積に対するひび割れ発生方向と直行方向の鉄筋断面積の比であり、適用範囲は、コンクリートひび割れ設計指針においては、0.2%〜0.9%とされている。
【0033】
表2に示す実際の代表的な水槽構造物(A〜I)の場合について算定した、本発明において用いた最小ひび割れ指数(Icr)についての簡易評価式の値が、0.96では、ひび割れが生じているものの、1.07では、ひび割れが生じていないことから、1以上であると、コンクリート製壁部にひび割れが生じないものと想定される。また、本発明において用いた簡易評価式により求めた最小ひび割れ指数が、表2から、好ましくは1.07を超えると、ひび割れが生じないことがわかる。
【0034】
なお、表2中、下段側のIcr(JCI)は、JCIのコンクリートひび割れ設計指針に基づく、壁状構造物についての前記式(2)に基づいて得られた、最小ひび割れ指数Icr(JCI)に関する値である。また、表2に、本発明における最小ひび割れ評価式Icrにより求めた値をJCI指針における温度ひび割れ幅の予測式に代入して得られた温度ひび割れ幅の予測値wc1(JCI)と、前記最小ひび割れ指数Icr(JCI)の簡易評価式により求めた値をJCI指針における温度ひび割れ幅の予測式に代入して得られた温度ひび割れ幅の予測値の予測値wc2(JCI)とを示した。
【0035】
【表2】

【0036】
また、本発明における温度ひび割れ指数が1以上であるか否かによる評価は、実際の水槽構造物のひび割れによる漏水の有無の結果と一致していることがわかる。
このことは、JCI指針が、様々な壁状構造物を網羅し多様な要素を含んだ評価式になっているのに対して、本発明において用いた評価式では、1m未満の壁厚の水槽構造物に特化し、かつ実際の水槽構造物の結果を踏まえて、より現実的な入力値を設定しているためであり、コンクリート製水槽構造物における1m未満の壁厚のコンクリート製壁部を評価する上で、本発明において用いた前記式(1)の簡易評価式によって、最小ひび割れ指数を求めて、コンクリート製壁部を評価するのが妥当な評価方法であることを裏付けている。したがって、前記の本発明の簡易評価式(1)は、簡易で精度の高いものであることがわかる。
【0037】
なお、本発明を実施する場合、図示の平面円形以外にも、平面正方形、平面5角形、6角形、その他の平面多角形(好ましくは、平面正多角形)等のコンクリート製水槽構造物に適用するようにしてもよい。
【0038】
本発明を実施する場合に、コンクリート製構造物における壁部に用いるコンクリートとして、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、高炉セメントB種、フライアッシュセメントB種等のセメントを用いてもよい。経済性の点から、高炉セメントB種を用いるようにしてもよい。
【0039】
本発明を実施する場合、コンクリート製壁部2としては、鉄筋コンクリート製壁部であっても、コンクリート製壁部2に、PC鋼棒等のPC鋼材が壁部内あるいは外側に配置されて、コンクリート製壁部にプレストレスが導入されているコンクリート製壁部であてもよい。蓋版5(底版)の部分についても、PC鋼棒等のPC鋼材が蓋版5内あるいは外側に配置されて、コンクリート製蓋版5(又は底版)にプレストレスが導入されているコンクリート製壁部(又は底版)であってもよい。
【0040】
なお、本発明を実施する場合、コンクリート製水槽構造物として、図4に示すように、円筒状のコンクリート壁部2を備えた水槽構造物3であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 コンクリート製底版
2 コンクリート製壁部
3 コンクリート製水槽構造物
4 目地部
5 天版

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁厚寸法が1m未満のコンクリート製壁部のひび割れ評価方法であって、下記式(1)により最小ひび割れ指数Icrを求め、その最小ひび割れ指数Icrの値が1以上となることで、コンクリート製壁部について漏水を生じないコンクリート製壁部であると評価することを特徴とするコンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部のひび割れ評価方法。
Icr=2.320−0.0030X1−0.0256X2+0.0241X3−0.3322log10(X4)・・・(1)
但し、Icrは、コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁厚寸法が1m未満のコンクリート製壁部の最小ひび割れ指数、
X1は、水セメント比(W1/C)(%)、
1は、コンクリート1m3あたりの単位水量(kg/m3)、
Cは、コンクリート1m3あたりの単位セメント量(kg/m3)、
X2は、終局断熱温度上昇量(Q∞:℃)、
X3は、断熱温度上昇速度に関する定数(γ)、
X4は、誘発目地間隔Lとコンクリート打設リフト高さHとの比(L/H)である。
【請求項2】
コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部の設計方法において、コンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部を設計するにあたり、請求項1における式(1)により求められる最小ひび割れ指数(Icr)の値が1以上となるように、コンクリートを打設するように設計することを特徴とするコンクリート製水槽構造物におけるコンクリート製壁部の設計方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−173071(P2012−173071A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33997(P2011−33997)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)