説明

コンタクトレンズ用液剤及びコンタクトレンズ並びにコンタクトレンズに対する殺菌剤の付着防止方法

【課題】コンタクトレンズへの殺菌剤の付着を防止することができるコンタクトレンズ用液剤を提供すること、また、コンタクトレンズへの殺菌剤の付着を防止するための有利な方法を提供すること、更には、そのような殺菌剤の付着が防止されたコンタクトレンズを提供すること。
【解決手段】(A)分子中にカチオン基を有するポリマー及び/又は(B)けん化度:70モル%以上のポリビニルアルコールを含有するコンタクトレンズ用液剤に、コンタクトレンズを浸漬した後、少なくとも60℃以上の温度に加熱せしめることにより、コンタクトレンズに(A)成分のカチオン基を有するポリマー及び/又は(B)成分のポリビニルアルコールを固着させて、コンタクトレンズへの殺菌剤の付着を防止するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ用液剤及びコンタクトレンズ並びにコンタクトレンズに対する殺菌剤の付着防止方法に係り、特に、コンタクトレンズへの殺菌剤の付着を効果的に抑制乃至は阻止し得る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンタクトレンズを安全に且つ快適に使用するために、コンタクトレンズに付着したタンパク質や眼脂等の汚れを取り除く洗浄処理や、微生物の繁殖を防ぐための殺菌処理等の、コンタクトレンズのケアが、日常的に行われてきている。そのようなコンタクトレンズのケアにおいては、通常、コンタクトレンズの材質や種類に応じたケア用品が用いられており、近年においては、特に、1つの液剤でコンタクトレンズの洗浄処理、すすぎ処理、消毒処理、及び保存処理の全てを行うことができるマルチパーパスソリューション(MPS)が、従来の煮沸や過酸化水素の中和等の煩雑な処理が必要なケア用品に比べて、ケアが簡単で利便性に優れているところから、急速に普及してきている。
【0003】
そして、そのようなMPSには、液剤中における微生物の繁殖や微生物によるコンタクトレンズの汚染を防いで、コンタクトレンズを清潔に保つために、通常、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)や塩化ベンザルコニウム等のカチオン性の高分子殺菌剤が添加されているのであるが、その含有量が極少量(1〜10ppm程度)に抑えられているところから、かかるMPSで処理されたコンタクトレンズは、他の液剤ですすぐことなく、そのまま、直接、眼に装用することが許容されている。
【0004】
しかしながら、近年の研究においては、MPSに極少量において含まれるカチオン性高分子殺菌剤、特にPHMBが原因で、角膜上皮障害等の眼障害が惹起されるおそれがあることが明らかにされている。これは、コンタクトレンズ(特にシリコーンハイドロゲル製コンタクトレンズ)に、涙濡れ性を高めるための表面親水化処理が施されることによって、コンタクトレンズ自体が、カチオン性の高分子殺菌剤を取り込みやすい素材となってきていること等に起因するものであることが推測されている。より具体的には、コンタクトレンズに表面親水化処理が施されることによって、コンタクトレンズ表面に、例えば、OH基やアニオン性基が形成され、そのような基に対して、カチオン性の高分子殺菌剤が付着乃至は吸着し易くなっているものと考えられている。このため、MPSに含有される殺菌剤の濃度を低く抑えたとしても、MPSを使用する日々のコンタクトレンズケアによって、殺菌剤がコンタクトレンズの内部や表面に含浸乃至は吸着して蓄積し、そしてそのように蓄積された殺菌剤が、コンタクトレンズ装着後、涙液によって眼表面上に放出されて、眼刺激や眼障害が惹起されることとなると推察されている。そこで、殺菌剤によって惹起される眼障害の問題を解消するための対策の一つとして、殺菌剤による殺菌効果を弱めることなく、コンタクトレンズへの殺菌剤の付着を防止することが求められている。
【0005】
ところで、特許文献1には、コンタクトレンズに付着した汚れを洗浄し、更にコンタクトレンズ表面に親水性を付与することにより、汚れの再付着を防止し、コンタクトレンズの装用感を向上させるコンタクトレンズ用液剤を提供することを目的として、水溶性カチオン化ポリマーと界面活性剤を含有するコンタクトレンズ用溶液が提案されている。そこでは、レンズ表面に親水性を付与することにより、汚れの再付着を防止するようにしているが、コンタクトレンズに殺菌剤が付着することによって惹起される問題に関しては何等の検討も為されてはいない。また、特許文献2,3には、コンタクトレンズ等の生物医学的デバイスの表面への細菌の付着を防止するために、生物医学的デバイス表面にカチオン性多糖を接触させる方法が提案されている。そこにおいても、上記特許文献1と同様に、コンタクトレンズに殺菌剤が付着することによって惹起される問題については、何等検討されていない。
【0006】
なお、特許文献4には、コンタクトレンズ等の生体材料が抗菌剤を吸収する能力を阻害することを目的として、コンタクトレンズ表面をカチオン性ポリサッカリド(カチオン性多糖類)で処理する方法が明らかにされているが、かかる特許文献4に開示の手法では、コンタクトレンズ表面にカチオン性ポリサッカリドをコーティングしても、それが簡単に取れてしまうところから、コンタクトレンズに対する抗菌剤の永続的な付着防止効果はあまり得られず、未だ改善の余地を有するものであった。
【0007】
【特許文献1】特開2000−347145号公報
【特許文献2】特表2004−517653号公報
【特許文献3】特表2004−537348号公報
【特許文献4】特表2004−515813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、コンタクトレンズへの殺菌剤の付着を効果的に抑制乃至は阻止することができるコンタクトレンズ用液剤を提供することにあり、また、そのような殺菌剤の付着が防止され得るコンタクトレンズを提供すること、更には、コンタクトレンズへの殺菌剤の付着を防止するための有利な方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明者等が、上述の如き課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のポリマー成分を含有するコンタクトレンズ用液剤に浸漬されて、所定の加熱操作が施されたコンタクトレンズには、殺菌剤が付着し難くなることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0010】
すなわち、本発明は、前述の如き解決課題のために、コンタクトレンズを浸漬した状態下において、少なくとも60℃以上の温度に加熱されて用いられるコンタクトレンズ用液剤であって、(A)分子中にカチオン基を有するポリマー及び/又は(B)けん化度:70モル%以上のポリビニルアルコールを殺菌剤付着防止剤として含有していることを特徴とするコンタクトレンズ用液剤を、その要旨としている。
【0011】
なお、かかる本発明に従うコンタクトレンズ用液剤にあっては、前記(A)のポリマーのカチオン基として、4級アンモニウム基が、好適に選択されることとなる。
【0012】
また、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤における好ましい態様の一つによれば、前記カチオン基を有するポリマーとしては、カチオン化セルロース、カチオン化ポリビニルピロリドン、カチオン化デンプン、カチオン化デキストラン及びポリクオタニウムからなる群より選ばれるのである。
【0013】
さらに、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤における望ましい態様の一つによれば、前記カチオン基を有するポリマーの窒素含有率は、0.1〜40重量%とされる。
【0014】
加えて、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤にあっては、メーカーから出荷され、流通過程を経てユーザー(消費者)に提供される新品のコンタクトレンズを包装する際に用いられる流通保存液として、特に有利に用いられることとなる。
【0015】
そして、本発明においては、上述の如きコンタクトレンズ用液剤に浸漬した状態下において、少なくとも60℃以上の温度に加熱することにより、前記殺菌剤付着防止剤が付着せしめられていることを特徴とするコンタクトレンズをも、その要旨としている。
【0016】
また、本発明は、上述の如きコンタクトレンズ用液剤に、コンタクトレンズを浸漬した後、少なくとも60℃以上の温度に加熱せしめることにより、該コンタクトレンズに前記殺菌剤付着防止剤を付着せしめたことを特徴とするコンタクトレンズに対する殺菌剤の付着防止方法をも、その要旨とするものである。
【0017】
なお、かかる本発明に従うコンタクトレンズに対する殺菌剤の付着防止方法によれば、前記殺菌剤としてビグアニド系及び/又は4級アンモニウム系殺菌剤が用いられる場合において、その付着が有利に防止され得ることとなる。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤にあっては、殺菌剤付着防止剤として、(A)分子中にカチオン基を有するポリマー及び(B)けん化度:70モル%以上のポリビニルアルコールのうちの何れか一方若しくはその両方を含有していると共に、コンタクトレンズを浸漬した状態において、少なくとも60℃以上の温度に加熱されて用いられることによって、そのような含有成分がコンタクトレンズに強固に固着乃至は結合せしめられるものであるところから、コンタクトレンズへの殺菌剤の付着が効果的に防止乃至は抑制され得るようになるのである。
【0019】
より具体的には、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤中に、コンタクトレンズを浸漬して、それらコンタクトレンズ用液剤とコンタクトレンズとを60℃以上の温度に加熱せしめて熱エネルギーを加えることにより、上記した(A)成分のカチオン基を有するポリマー及び/又は(B)成分のポリビニルアルコールが、コンタクトレンズの表面や内部に強固に固着乃至は結合せしめられるようになるのである。そして、これにより、そのような浸漬・加熱処理の施されたコンタクトレンズを、ビグアニド系殺菌剤や4級アンモニウム系殺菌剤等の殺菌剤を含むコンタクトレンズ・ケア溶液(例えば、MPS等)に浸漬しても、かかるコンタクトレンズ・ケア溶液中に含まれる殺菌剤がコンタクトレンズに付着するようなことが、効果的に防止乃至は抑制され得ることとなるのである。つまり、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤に浸漬されて、60℃以上に加熱処理されたコンタクトレンズにあっては、ビグアニド系殺菌剤や4級アンモニウム系殺菌剤等の殺菌剤が付着し易いコンタクトレンズの部位が、上記(A)成分のカチオン基を有するポリマー及び/又は(B)成分のポリビニルアルコールにて、前もって強固に被覆せしめられているところから、殺菌剤を含むコンタクトレンズ・ケア溶液に浸漬しても、かかる殺菌剤の付着が効果的にブロックされ、その付着防止効果が有利に実現され、またそれが持続され得るようになっているのである。
【0020】
その結果、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤を使用すれば、殺菌剤がコンタクトレンズに付着するようなことが有利に回避され得ることとなるため、かかるコンタクトレンズを装用しても、従来の如き殺菌剤によって惹起される眼障害等の問題は、何等惹起されることがないのである。
【0021】
また、本発明に従うコンタクトレンズやそれに対する殺菌剤の付着防止方法にあっても、上述せる如きコンタクトレンズ用液剤にコンタクトレンズを浸漬して加熱処理を行うようにしているところから、上記と同様な殺菌剤の付着防止効果を有利に享受することができることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
ところで、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤は、水を主体とする水系媒体中に、殺菌剤付着防止剤として、(A)分子中にカチオン基を有するポリマー(以下、カチオン性ポリマーと呼称する。)及び(B)けん化度:70モル%以上のポリビニルアルコール(PVA)のうちの何れか一方若しくはその両方が溶解されて、含有せしめられることによって、構成されている。
【0023】
ここにおいて、上記(A)成分のカチオン性ポリマーとしては、コンタクトレンズへの適合性に優れ、眼に対する毒性が低いものであって、カチオン基を有するものであれば、如何なる構造のものをも対象とすることができ、例えば、ポリマーの主鎖骨格にカチオン基を有するものであっても、ポリマーの側鎖にカチオン基を有するものであっても、或いはポリマーの主鎖骨格と側鎖の両方にカチオン基を有するものであってもよい。また、かかるカチオン基にあっても、特に限定されるものではないものの、本発明においては、特に4級アンモニウム基を有するものが、好適に用いられる。
【0024】
ここで、上記(A)成分のカチオン性ポリマーの具体例としては、カチオン化セルロース、カチオン化ポリビニルピロリドン、カチオン化デンプン、カチオン化デキストラン、ポリクオタニウム、カチオン化グアーガム、カチオン化キトサン、カチオン化PVA、リン脂質ポリマー、ポリエチレンイミン、ε−ポリリジン等を挙げることができ、それらカチオン性ポリマーのうちの1種を単独で、或いはそれらの2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
より具体的には、上記カチオン化セルロースとしては、ヒドロキシエチルセルロースの側鎖にカチオン基を有するポリクオタニウム−10やポリクオタニウム−67が好適に用いられる。また、上記カチオン化デキストランとしては、重量平均分子量が10000〜1000000の範囲にあるものが好適であり、また、カチオン化キトサンとしては、重量平均分子量が、35000〜350000の範囲にあるものが好適である。更に、ポリクオタニウムの具体例としては、側鎖にカチオン基を有するポリクオタニウム−10(カチオン化セルロース)、ポリクオタニウム−67(カチオン化セルロース)、ポリクオタニウム−51(リン脂質ポリマー)の他、主鎖骨格にカチオン基を有する、ポリクオタニウム−6、ポリクオタニウム−7、ポリクオタニウム−22等を挙げることができる。
【0026】
また、カチオン性ポリマーとして、4級アンモニウム基や3級アンモニウム基、2級アンモニウム基、1級アンモニウム基等の窒素原子を有する基を、カチオン基として有するポリマーを用いる場合には、その窒素含有率が、一般に0.1〜40重量%程度、好ましくは0.5〜35重量%程度であることが望ましく、このようなポリマーを用いることによって、コンタクトレンズ表面へのカチオン性ポリマーの被覆がより一層効果的に行われ得るようになる。なお、かかる窒素含有率が小さすぎる場合、カチオン性ポリマーのカチオン化度が低く、カチオン性ポリマーにてコンタクトレンズを充分に被覆することができなるおそれがある。また一方、窒素含有率が大きすぎる場合には、カチオン性ポリマー同士の電気的反発により、コンタクトレンズを充分に被覆できないおそれがあるところから、あまり望ましくない。
【0027】
一方、(B)成分のポリビニルアルコールとしては、けん化度:70モル%以上のポリビニルアルコールが用いられ、それによって、コンタクトレンズ表面に、かかるポリビニルアルコールが効果的に固着乃至は結合せしめられることとなる。(B)のポリビニルアルコールのけん化度は、70モル%以上であれば、特に制限されるものではないものの、より好ましくは、85モル%以上であるものが有利に用いられ得る。なお、けん化度が70モル%に満たない場合には、ポリビニルアルコール中のOH基の含有割合が小さくなって、ポリビニルアルコールがコンタクトレンズ表面に強固に固着乃至は結合し難くなり、殺菌剤の付着防止効果を十分に得ることができなくなる。
【0028】
また、本発明にあっては、上述の如きけん化度を有するポリビニルアルコールであれば、特に限定されるものではないが、コンタクトレンズ用液剤の使用感等の観点から、20℃、4w/w%における動粘度が、4〜70mPa・sであるものが、より好適に用いられる。
【0029】
そして、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤にあっては、上記した(A)カチオン性ポリマー及び(B)ポリビニルアルコールのうちの何れか一方が少なくとも含有せしめられ、特に好ましくは、それら(A)カチオン性ポリマー及び(B)ポリビニルアルコールの両方が含有せしめられることとなる。
【0030】
ここで、上記(A)成分のカチオン性ポリマーの含有量としては、特に限定されるものではなく、対象とするコンタクトレンズの種類やカチオン性ポリマーの種類等に応じて適宜に設定されることとなるが、好ましくは、0.0001〜1w/w%(重量%)、より好ましくは、0.001〜0.1w/w%となる濃度範囲が有利に採用されることとなる。なお、このカチオン性ポリマーの含有量が少な過ぎると、添加による効果が充分に発揮され得なくなるおそれがあり、逆に、カチオン性ポリマーの含有量が多すぎる場合には、液剤の粘性が高くなりすぎて、カチオン性ポリマーの拡散が低下し、充分な効果が得られないおそれがあるため、望ましくない。
【0031】
一方、上記(B)成分のポリビニルアルコールの含有量にあっても、特に限定されるものではなく、対象とするコンタクトレンズの種類やポリビニルアルコールのけん化度等に応じて適宜に設定されることとなるが、好ましくは、0.0001〜1w/w%、より好ましくは、0.001〜0.1w/w%となる濃度範囲が有利に採用されることとなる。なお、このポリビニルアルコールの含有量が少な過ぎると、添加による効果が充分に発揮され得なくなるおそれがあり、逆に、ポリビニルアルコールの含有量が多すぎる場合には、液剤の粘性が高くなりすぎて、ポリビニルアルコールの拡散が低下し、充分な効果が得られないおそれがあるため、望ましくない。
【0032】
また、本発明にあっては、上述のように、上記(A)カチオン性ポリマー及び(B)ポリビニルアルコールのうちの何れか一方が含有されておれば、そのような含有成分によってコンタクトレンズの殺菌剤吸着部位が効果的に被覆されて、コンタクトレンズへの殺菌剤の付着防止効果が有利に得られることとなるが、より好適には、それら(A)カチオン性ポリマーと(B)ポリビニルアルコールとが組み合わされて、用いられることが望ましく、そうすることによって、コンタクトレンズがより一層強固にコーティングされて、コンタクトレンズへの殺菌剤の付着防止効果がより一層向上せしめられるようになる。このように、上記(A)カチオン性ポリマーと(B)ポリビニルアルコールを併用する場合、それらの含有比率は、特に制限されるものではないが、(A)カチオン性ポリマーと(B)ポリビニルアルコールの濃度比(重量比)が、(A):(B)=1:10〜10:1となる比率において用いられることが望ましく、このような含有比率を採用することによって、殺菌剤の付着乃至は吸着しやすいコンタクトレンズの部位に、カチオン性ポリマーとポリビニルアルコールが確実に固着乃至は結合して、殺菌剤の付着が効果的にブロックされ得るようになる。
【0033】
ところで、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤には、上記した(A)カチオン性ポリマーや(B)ポリビニルアルコール以外にも、該液剤に浸漬されたコンタクトレンズを装用する際に眼に刺激を与えないように、また、コンタクトレンズの形状に影響を及ぼさないように、浸透圧を、通常、250〜400mOsm/kg程度の、実質的に生理的浸透圧に等しい範囲内に調整する目的で、等張化剤を含有せしめることができる。
【0034】
かかる等張化剤としては、一般に、塩化ナトリウムや塩化カリウム、アミノ酸(グリシン等)等のイオン性等張化剤、糖類、糖アルコール、及び多価アルコール若しくはそのエーテル又はそのエステル等の非イオン性等張化剤を挙げることができ、これら従来より公知のものの中から何れか一種以上が適宜に選択されて用いられることとなるが、上述の(A)カチオン性ポリマー及び/又は(B)ポリビニルアルコールによる殺菌剤の防止効果をより一層向上させる観点から、それらの中でも、特に、非イオン性等張化剤が好適に用いられることとなる。これは、(A)カチオン性ポリマー及び/又は(B)ポリビニルアルコールのコンタクトレンズへの固着乃至は結合を妨害することなく、生理的浸透圧に等しい範囲内に調整することができるからである。
【0035】
なお、非イオン性等張化剤の具体例としては、プロピレングリコール、グリセリン、グリシン、ソルビトール等を挙げることができ、これらのうちの1種を単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。そして、このような非イオン性等張化剤を、添加、含有せしめることによって、眼刺激の発生がより一層有利に抑制されることとなって、更に優れた使用感が得られるようになる。また、それらの中でも、特に、プロピレングリコールは、比較的低濃度で生理的浸透圧に等しい範囲内に有利に調整できることから、より好適に採用される。そして、このような非イオン性等張化剤が添加される場合、その添加量は、他の含有成分の添加量等に応じて所期の浸透圧となるように設定されるのであり、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤においては、通常、0.1〜3w/w%となる濃度範囲において、用いられる。
【0036】
加えて、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤には、等張化剤の他にも、本発明による殺菌剤の付着防止効果を損なわない限りにおいて、キレート化剤、pH調整剤、緩衝剤、界面活性剤、増粘剤等、従来からコンタクトレンズ用液剤に添加、含有せしめられている公知の各種の添加剤を、適宜に選択して、含有せしめることも可能である。なお、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤においては、コンタクトレンズへの殺菌剤の付着を防止する目的から、角膜上皮障害等の眼障害の原因となっている殺菌剤、つまり、コンタクトレンズへの付着防止の対象となる殺菌剤である、PHMB(ビグアニド系ポリマー)やAlexidine(ビグアニド系ダイマー)等のビグアニド系殺菌剤、塩化ベンザルコニウム(4級アンモニウム系低分子化合物)等の4級アンモニウム系殺菌剤の如き殺菌剤が添加されることはない。
【0037】
ここで、上記キレート化剤は、カルシウム等の金属イオンがコンタクトレンズに沈着乃至は吸着するのを防ぐために配合されるものであって、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びその塩、例えばエチレンジアミン四酢酸・2ナトリウム(EDTA・2Na)、エチレンジアミン四酢酸・3ナトリウム(EDTA・3Na)等を挙げることができる。なお、そのようなキレート化剤は、一般に、0.005〜0.5w/w%程度の割合において添加せしめられる。
【0038】
また、前記pH調整剤や緩衝剤は、眼に対して刺激を与えないように、コンタクトレンズ液剤のpH値を中性付近に調整するために配合されるものであって、pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、塩酸等を挙げることができる一方、緩衝剤としては、リン酸塩緩衝剤や、ホウ酸塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパン(AMP)緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝液、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis−Tris)等のGood−Buffer等を挙げることができる。
【0039】
さらに、界面活性剤は、水系媒体中に非水溶性成分を安定的に可溶化させたり、眼脂等の汚れを除去するため等に配合されるものであって、本発明による殺菌剤の付着防止効果を損なわない限りにおいて、従来から公知の界面活性剤を、何れも添加せしめることが可能である。それらの中でも、特に、非イオン性界面活性剤が好適である。具体例としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンエチレンジアミン、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレン水素添加ステロール、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリソルベート等を挙げることができ、一般に、0.001〜5w/w%程度の濃度において、有利に用いられる。
【0040】
加えて、前記増粘剤は、コンタクトレンズ用液剤の粘度を調整して、その使用感を向上させるために配合されるものであって、例えば、ヘテロ多糖類等の種々のガム類、合成有機高分子化合物、例えば、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド等や、更にはセルロース誘導体、スターチ誘導体等を、適宜に用いることができる。
【0041】
ところで、前述の如き(A)カチオン性ポリマー及び/又は(B)ポリビニルアルコールを含有せしめてなる、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤を調製するにあたっては、何等特殊な方法を必要とせず、精製水、蒸留水等の水系媒体中に各成分を溶解させることにより、容易に得ることができる。
【0042】
そして、以上のようにして得られる本発明に従うコンタクトレンズ用液剤は、例えば、新品のコンタクトレンズを包装する際に用いられ、メーカーから出荷されてユーザー(消費者)に提供される流通過程において、新品のコンタクトレンズを浸漬するのに使用される流通保存液(パッケージング溶液)として、また装用後のコンタクトレンズ(非新品レンズ)のレンズ状態を整えるためのコンディショニング溶液として、好適に用いられることとなるのであり、これによって、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤による殺菌剤の付着防止効果が極めて有利に発揮され得るようになる。なお、上記流通保存液やコンディショニング溶液以外にも、後述するように、所定の温度に加熱された状態でコンタクトレンズに接触せしめられるものであれば、他のコンタクトレンズ用ケア用品(例えば、コンタクトレンズ用すすぎ液、保存液等)にも、応用することができる。
【0043】
<流通保存液>
本発明に従うコンタクトレンズ用液剤を、上述の如き流通保存液(パッケージング溶液)として用いるに際しては、例えば、先ず、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤と共に、少なくとも一枚の新品のコンタクトレンズを、ブリスターケース等の密封が可能な所定の包装容器内に収容して、コンタクトレンズ全体をコンタクトレンズ用液剤に浸漬させた後、包装容器の開口部を、プラスチックフィルム等の包装用シートを用いて覆蓋し、流体密に密封する。その後、かかる包装容器内の新品のコンタクトレンズ及び液剤を滅菌するために、新品のコンタクトレンズと液剤とが収容されたコンタクトレンズ包装品に対して、高温高圧の飽和水蒸気によるオートクレーブ滅菌処理(加熱処理)を施すのである。この際、オートクレーブ滅菌処理(加熱処理)は、一般に、120〜125℃程度、10〜30分程度の条件で行われるところから、包装容器内に収容された液剤とコンタクトレンズは何れも、120℃程度の温度にまで、加熱されることとなる。
【0044】
これにより、滅菌処理が行われると同時に、前記(A)カチオン性ポリマー及び/又は(B)ポリビニルアルコールが、コンタクトレンズの表面や内部に、特に、PHMBやAlexidine等のビグアニド系殺菌剤や塩化ベンザルコニウム等の4級アンモニウム系殺菌剤等の殺菌剤が付着しやすいコンタクトレンズ部位に、極めて強固に固着乃至は結合せしめられるようになる。その結果、密封包装されたコンタクトレンズ包装品からコンタクトレンズを取り出して、装用した後、かかるコンタクトレンズを、カチオン性の高分子殺菌剤を含むCLケア(コンタクトレンズ・ケア)溶液(例えば、MPS等)に浸漬しても、CLケア溶液中に含まれる殺菌剤がコンタクトレンズに付着するようなことが効果的に防止乃至は抑制され得るのである。しかも、かかるコンタクトレンズには、熱エネルギーが加えられることによって、カチオン性ポリマー及び/又はポリビニルアルコールが強固に固着乃至は結合しているところから、熱を加えないものに比して、殺菌剤の付着防止効果が長期に亘って持続するようになっているのである。即ち、コンタクトレンズを繰り返し装用して、殺菌剤を含むCLケア溶液に繰り返し浸漬しても、殺菌剤の付着防止効果が何回にも亘って得られるようになっているのである。このため、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤を流通保存液として用いれば、コンタクトレンズ使用初期における、殺菌剤によって惹起される眼障害の発生が効果的に防止され得るようになる。
【0045】
また、コンタクトレンズに強固に固着乃至は結合したカチオン性ポリマーやポリビニルアルコールは、何れも、殺菌剤による殺菌効果を阻害するものではないところから、上述の浸漬・加熱処理の施されたコンタクトレンズを、CLケア溶液に浸漬しても、CLケア溶液中の殺菌剤の殺菌作用は充分に発揮され得るようになっているのである。加えて、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤を用いて浸漬・加熱処理が施されたコンタクトレンズは、上述せるように、その表面や内部がカチオン性ポリマー及び/又はポリビニルアルコールで被覆されているところから、装用時に、涙液中に含まれる、リゾチーム蛋白等のカチオン性の汚れ成分の付着も防止され得るといった利益も享受できるのである。
【0046】
<コンディショニング溶液>
本発明に従うコンタクトレンズ用液剤を、コンディショニング溶液として用いるに際しては、例えば、先ず、眼から外した装用後のコンタクトレンズ(非新品のコンタクトレンズ)を、洗浄成分が添加されたCLケア溶液や本発明に従うコンタクトレンズ用液剤を用いて、こすり洗い若しくは漬け置き洗浄することによって、タンパク質等の汚れを取り除いた後、この洗浄済のコンタクトレンズを、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤と共にレンズケースに収容して、コンタクトレンズ全体をコンタクトレンズ用液剤に浸漬させる。その後、コンタクトレンズと液剤が収容されたレンズケースを、従来から公知のコンタクトレンズ用煮沸器(煮沸消毒器)に入れて、煮沸処理することによって、100℃程度の温度に加熱せしめるようにする。これにより、前記(A)カチオン性ポリマー及び/又は(B)ポリビニルアルコールが、コンタクトレンズの表面や内部に、特に、殺菌剤が付着しやすいコンタクトレンズ部位に、極めて強固に固着乃至は結合せしめられるようになる。その結果、上記流通保存液の場合と同様な効果が得られるのである。
【0047】
ところで、本発明に従って、殺菌剤の付着を防止するには、上述のように、(A)カチオン性ポリマー及び/又は(B)ポリビニルアルコールを含むコンタクトレンズ用液剤にコンタクトレンズを浸漬した後、この浸漬状態下において、コンタクトレンズ用液剤を加熱するようにすればよいのであるが、この際の加熱温度は、少なくとも60℃以上に設定する必要があり、このような温度を採用することによって、カチオン性ポリマーやポリビニルアルコールが、コンタクトレンズに強固に固着乃至は結合せしめられ、コンタクトレンズの表層部がカチオン性ポリマーやポリビニルアルコールで被覆されることとなる。
【0048】
なお、加熱温度が60℃未満では、カチオン性ポリマーやポリビニルアルコールがコンタクトレンズに対して強固に付着し難く、また、例え、コンタクトレンズ表面がカチオン性ポリマーやポリビニルアルコールにて被覆されても、その付着が強固ではないところから、コンタクトレンズの装用等によって、付着した成分が脱離しやすく、効果が持続しない。また、少なくとも60℃以上であれば、殺菌剤の付着防止効果が享受され得るものの、より一層強固な固着乃至は結合状態を得るには、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上に加熱することが望ましく、また、このような高い温度を採用することによって、コンタクトレンズの滅菌乃至は消毒をも同時に行うことが可能となる。かかる加熱温度の上限は、コンタクトレンズの劣化や変形等が惹起されないように、コンタクトレンズの材質等に応じて適宜に設定され得るが、通常、150℃以下とされることが、望ましい。
【0049】
なお、本発明において、殺菌剤の付着を防止するための処理が施される対象となるコンタクトレンズとしては、その種類が何等限定されるものではなく、例えば、非含水、低含水、高含水等の全てに分類されるソフトコンタクトレンズ、及びハードコンタクトレンズが何れもその対象となり得るのであって、コンタクトレンズの材質等が、本発明に従うコンタクトレンズ用液剤の適用に際して問われることはない。中でも、本発明においては、眼障害の原因となるPHMBやAlexidine等のビグアニド系殺菌剤、塩化ベンザルコニウム等の4級アンモニウム系殺菌剤を取り込みやすいコンタクトレンズ、特に、シリコーンハイドロゲル製のソフトコンタクトレンズに対して、上述せる如きコンタクトレンズ用液剤を用いた浸漬・加熱処理が、有利に実施されることとなる。なお、そのようなシリコーンハイドロゲルレンズとしては、Asmofilcon A(プレミオ、株式会社メニコン製)、Galyfilcon A(アキュビューアドバンス、Johnson and Johnson Vision Care社製)、Senofilcon A(アキュビューオアシス、Johnson and Johnson Vision Care社製)、Balafilcon A(ピュアビジョン、Bausch & Lomb社製)等を例示することができる。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0051】
先ず、精製水に対して、所定の添加成分を、下記表1及び表2に示される各種割合においてそれぞれ添加せしめて、浸透圧が290mOsm/kg程度、及びpHが7付近に調整された、実施例1〜24及び比較例1〜5に係るコンタクトレンズ用液剤を、それぞれ、調製した。
【0052】
なお、コンタクトレンズ用液剤の調製に際して、上記(A)のカチオン性ポリマーとしては、ポリクオタニウム−6(マーコート100、NALCO社製、窒素含有率:11重量%)、ポリクオタニウム−7(マーコート2200、NALCO社製、窒素含有率:14重量%)、カチオン化セルロースであるポリクオタニウム−67(SL−30、Amerchol社製、窒素含有率:1.0重量%)、カチオン化キトサン(キミカキトサン、(株)キミカ製、Mw:350000、窒素含有率:8.7重量%)、カチオン化グアーガム(ジャガーC17、三晶(株)製、窒素含有率:1.4重量%)、カチオン化デキストラン(CDC−NK、名糖産業(株)製、Mw:1000000、窒素含有率:2.8重量%)、カチオン化デンプン(エキセルNL、日澱化学(株)製、窒素含有率:3.0重量%)、ポリエチレンイミン(エポミン、(株)日本触媒製、窒素含有率:31重量%)、リン脂質ポリマー(LIPIDURE−PMB、日油(株)製、窒素含有率:5.2重量%)、及びカチオン化ポリビニルアルコール(ゴーセファイマーK(K−210)、日本合成化学工業(株)製、けん化度:85.5〜88.0モル%、窒素含有率:0.8重量%)を準備する一方、上記(B)のポリビニルアルコールとしては、けん化度が99.4モル%以上であり、20℃、4w/w%における動粘度が、60〜68mPa・sであるポリビニルアルコール(ゴーセノールNH−26、日本合成化学製)を準備した。また、等張化剤として、非イオン性等張化剤であるプロピレングリコール、グリセリン、グリシン、及びソルビトールを準備した。さらに、比較のために、親水性ポリマーであるポリビニルピロリドン、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)及び非イオン性界面活性剤であるポロクサマー407を準備した。
【0053】
一方、試験用コンタクトレンズとして、殺菌剤が付着しやすい素材(シリコーンハイドロゲル)からなる、新品のコンタクトレンズ(プレミオ、株式会社メニコン製)を準備し、以下に示す評価方法にて、実施例1〜24及び比較例1〜5に係る各コンタクトレンズ用液剤によるコンタクトレンズへの殺菌剤の付着防止効果の評価を行った。
【0054】
<殺菌剤吸着率の評価方法>
(1)試験用コンタクトレンズを生理食塩水に一晩以上浸漬して、置換する。
(2)生理食塩水で置換したコンタクトレンズを、上述のようにして準備されたコンタクトレンズ用液剤(実施例1〜24、比較例1〜5)に浸漬する。
(3)その後、実施例1〜22及び比較例1〜3については、オートクレーブ処理(121℃×20分)を施した後、そのまま室温で三晩以上コンタクトレンズ用液剤に浸漬する。また、実施例22,23については、加熱処理(80℃×20分)を施した後、そのまま室温で三晩以上コンタクトレンズ用液剤に浸漬する。さらに、比較例4,5については、加熱処理を何等施さず、そのまま室温で三晩以上コンタクトレンズ用液剤に浸漬する。
(4)次いで、そのコンタクトレンズを、0.01w/w%のPHMBを含む殺菌剤水溶液に、約16時間浸漬する。
(5)その後、かかるコンタクトレンズを、染色液(0.06w/v%Eosin Y水溶液:2.5ml、4w/v%酢酸ナトリウム水溶液:1.0ml、水:3.5mlの混合液)に約30秒間漬けて染色する。
(6)染色液に漬けたコンタクトレンズをエタノール7mLに約30秒間漬けて、過剰なEosin Yを除去する。
(7)次いで、コンタクトレンズの吸収スペクトルを、分光光度計を用いて、下記条件で測定する。
分析条件 測定モード:ABS.
測定波長領域:450〜600nm
スリット幅:8nm
(8)得られた吸収スペクトルの極大吸収波長(λmax:531nm付近)における吸光度(X)を求める。この際、PHMBがより多く付着しているコンタクトレンズほど、吸光度(X)が大きな値を示すこととなる。
(9)上記(1)及び(5)〜(8)の操作を同様にして行い、生理食塩水に浸漬した後、殺菌剤水溶液に浸漬することなく、染色液に漬けたコンタクトレンズの吸収スペクトル(図1中、y)を測定し、その極大吸収波長における吸光度(Y)を求める。また、上記(1)及び(4)〜(8)の操作を同様にして行い、生理食塩水に浸漬した後、殺菌剤水溶液に浸漬し、染色液で染色したコンタクトレンズの吸収スペクトル(図1中、z)を測定し、その極大吸収波長における吸光度(Z)を求める。
(10)そして、求めた各吸光度(X〜Z)を用いて、下記式により、各コンタクトレンズ用液剤の殺菌剤吸着率を算出する。なお、PHMB吸着率の値が小さいほど、PHMBの付着が防止され得ていることを示し、下記式からも明らかなように、従来から流通保存液として用いられている生理食塩水に浸漬されたコンタクトレンズは、PHMBが含有された殺菌剤溶液に浸漬されると、PHMB吸着率が100%(∵X=Z)となり、100%よりも小さい値であると、生理食塩水に比べてコンタクトレンズに対する殺菌剤の付着防止性能が高いことを示す。
PHMB吸着率[%]=(X−Y)/(Z−Y)×100
【0055】
そして、算出された殺菌剤(PHMB)の吸着率(%)を、下記表1及び表2に併せて示した。また、上記評価方法で得られた吸収スペクトルのうち、カチオン化セルロース(ポリクオタニウム−67)を含有する液剤を用いて121℃で加熱処理されたコンタクトレンズ(実施例3)、けん化度が99.4モル%以上であるPVAを含有する液剤を用いて121℃で加熱処理されたコンタクトレンズ(実施例13)、カチオン化セルロース(ポリクオタニウム−67)とけん化度が99.4モル%以上であるPVAとを含有する液剤を用いて121℃で加熱処理されたコンタクトレンズ(実施例20)及びカチオン化セルロース(ポリクオタニウム−67)を含有する液剤に浸漬されたものの、加熱処理が何等施されていないコンタクトレンズ(比較例4)に係る吸収スペクトルを、基準となる上記吸収スペクトルy、zと共に、図1に示した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
かかる表1、2及び図1の結果からも明らかなように、(A)カチオン性ポリマー及び/又は(B)ポリビニルアルコールを含有するコンタクトレンズ用液剤に浸漬された状態で、80℃以上の温度に加熱された実施例1〜24に係るコンタクトレンズは、ポリビニルピロリドンやカルボキシメチルセルロース、ポロクサマー407等の他のポリマーを含有するコンタクトレンズ用液剤に浸漬された状態で、121℃に加熱された比較例1〜3に係るコンタクトレンズと比べて、コンタクトレンズへの殺菌剤の吸着率が大きく低下していることがことが認められる。
【0059】
また、加熱処理の有無のみが異なる実施例3,23と比較例4、及び、実施例13,24と比較例5を、それぞれ比較すると、加熱処理によって、コンタクトレンズへの殺菌剤の吸着率が大きく低下していることがわかる。また、加熱温度を比較すると、加熱温度が高い方(121℃)が、殺菌剤の吸着率が低くなっていることがわかる。
【0060】
さらに、複数のカチオン性ポリマー組み合わせた実施例15〜17、及びカチオン性ポリマーとポリビニルアルコールとを組み合わせた実施例18〜22は、カチオン性ポリマー又はポリビニルアルコールを単独で用いたものに比べて、コンタクトレンズに対する殺菌剤の吸着率が低くなっている。特に、カチオン化セルロースとポリビニルアルコールを組み合わせた実施例20にあっては、殺菌剤の吸着率が5%となっており、コンタクトレンズに殺菌剤が殆ど付着していないことが認められる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例において測定されたコンタクトレンズの吸収スペクトルを表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトレンズを浸漬した状態下において、少なくとも60℃以上の温度に加熱されて用いられるコンタクトレンズ用液剤であって、(A)分子中にカチオン基を有するポリマー及び/又は(B)けん化度:70モル%以上のポリビニルアルコールを殺菌剤付着防止剤として含有していることを特徴とするコンタクトレンズ用液剤。
【請求項2】
前記(A)のポリマーのカチオン基が、4級アンモニウム基である請求項1記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項3】
前記カチオン基を有するポリマーが、カチオン化セルロース、カチオン化ポリビニルピロリドン、カチオン化デンプン、カチオン化デキストラン及びポリクオタニウムからなる群より選ばれる請求項1又は請求項2に記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項4】
前記カチオン基を有するポリマーの窒素含有率が、0.1〜40重量%である請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項5】
新品のコンタクトレンズを包装する際に用いられる流通保存液である請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のコンタクトレンズ用液剤。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のコンタクトレンズ用液剤に浸漬した状態下において、少なくとも60℃以上の温度に加熱することにより、前記殺菌剤付着防止剤が付着せしめられていることを特徴とするコンタクトレンズ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のコンタクトレンズ用液剤に、コンタクトレンズを浸漬した後、少なくとも60℃以上の温度に加熱することにより、該コンタクトレンズに前記殺菌剤付着防止剤を付着せしめたことを特徴とするコンタクトレンズに対する殺菌剤の付着防止方法。
【請求項8】
前記殺菌剤が、ビグアニド系及び/又は4級アンモニウム系殺菌剤である請求項7に記載のコンタクトレンズに対する殺菌剤の付着防止方法。


【図1】
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【公開番号】特開2009−175543(P2009−175543A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15400(P2008−15400)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】