説明

コンテナクレーン

【課題】コンテナクレーンにおいて、風による脚の浮き上がりを防止する、安定度を向上したコンテナクレーンを提供し、さらに、安定度や剛性を維持しながら軽量化を実現したコンテナクレーンを提供する。
【解決手段】海上用輸送コンテナを荷役するコンテナクレーンにおいて、前記コンテナクレーンを構成するフレームの長手方向に沿って少なくとも一部の海側面12Aと陸側面12B、もしくはブームの下面に、板状の補強部材2を設置し、前記補強部材2を、前記海側面12A及び前記陸側面12Bの設置面にそれぞれ少なくとも2枚ずつ立てて設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、港湾や内陸地のコンテナターミナルなどで、コンテナの荷役に使用されるクレーン等、特にコンテナクレーンの安定度を向上させるための構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾や内陸地等のコンテナターミナルでは、コンテナクレーンや橋形クレーンによって、船舶及びトレーラ間のコンテナの荷役を行っている。図7にコンテナクレーン1Xの概要を示しており、海側脚3、陸側脚4、マスト5、ブーム8及びガーダ9等を有しているコンテナクレーン1Xを、岸壁10に設置している様子を示している。
【0003】
コンテナクレーン1Xは、海側から吹く風Wにより、海側脚3の走行輪11が浮いてしまい、脱輪等の事故を起こす場合がある。この事故を防止するために従来は、コンテナクレーン1Xにカウンターウエイトを搭載して、海側脚3の輪重を増加して、安定度を向上していた。ここで、輪重とは、例えば海側脚3に設置された走行輪11にかかる荷重のことを指している。
【0004】
また、コンテナクレーン1Xの設置可能な奥行き(スパンL)が長い岸壁10では、コンテナクレーン1Xを海側脚3と陸側脚4の間隔が広いものに交換して、コンテナクレーン1Xの風Wに対する安定度を向上させることもできる。
【0005】
しかし、スパンLの短い岸壁10や、基礎の強度が低いため輪重を増加できない岸壁10も存在し、前述の方法では、風Wに対するコンテナクレーン1Xの安定度を向上させることができない場合があった。この場合は、岸壁10を作りかえる等、莫大なコストがかかる対策を取るしか方法がなかった。この問題に対して、ガーダ上に2つのトロリと受け台を有したコンテナクレーンの軽量化の方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。このコンテナクレーンの軽量化に伴い、輪重を増加することなく、従来のカウンターウエイトを搭載して、コンテナクレーン1Xの安定度向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−211743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、受け台をもともと有さない通常のコンテナクレーンにおいては、コンテナクレーン自体の重量を軽量化することができず、コンテナクレーン1Xの安定度を向上させることはできない。
【0008】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、コンテナクレーンにおいて、風による脚の浮き上がりを防止する、安定度を向上したコンテナクレーンを提供することである。さらに、安定度や剛性を維持しながら、余分なカウンターウエイトを搭載することなく軽量化を実現したコンテナクレーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明に係るコンテナクレーンは、海上用輸送コンテナを荷役するコンテナクレーンにおいて、前記コンテナクレーンを構成するフレームの長手方向に沿って少なくとも一部の海側面と陸側面、もしくはブームの下面に、板状の補強部材
を設置し、前記補強部材を、前記海側面、前記陸側面及びブームの下面の設置面にそれぞれ少なくとも2枚ずつ立てて設置したことを特徴とする。
【0010】
上記のコンテナクレーンにおいて、前記補強部材を、前記コンテナクレーンの海側脚、2本の前記海側脚を連結している水平な梁状部材であるシルビーム及びタイビーム、マストを構成するフレーム、もしくは前記ブームの前記設置面の長手方向に沿って少なくとも1か所に設置したことを特徴とする。
【0011】
上記のコンテナクレーンにおいて、前記補強部材を設置した前記フレームもしくは前記ブームの断面において、前記補強部材の高さが設置面の幅の8〜25%であり、かつ、前記補強部材を前記設置面の両端部から内側に、前記設置面の幅の5〜25%の位置に設置したことを特徴とする。
【0012】
上記のコンテナクレーンにおいて、前記補強部材を設置した前記フレームもしくは前記ブームの断面において、前記補強部材の頂部と前記設置面の頂部を結んだ直線と、前記設置面のなす角が45〜70°であることを特徴とする。
【0013】
上記のコンテナクレーンにおいて、前記フレームの内部に設置していた座屈防止部材を、前記フレームの前記海側面及び前記陸側面の前記設置面、もしくは前記ブームの前記設置面に少なくとも2枚ずつ立てて設置し、前記補強部材としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
補強部材を設置する構成により、海側から吹く風の抵抗を低減し、クレーンの安定度向上を実現すると同時にフレームを補強することができる。そのため、例えば、従来と同等の安定性と剛性を有するコンテナクレーンであれば、重量を低減した軽量コンテナクレーンとして提供することが可能となる。
【0015】
また、フレームの断面において、補強部材の高さが、設置面の幅の8〜25%であり、かつ、補強部材を、設置面の両端部から内側に、設置面の幅の5〜25%の位置に設置した構成により、フレームの断面形状が、矩形の四隅の角を切欠いたような十字型となり、海側面又は陸側面にあたる風のはく離するポイントが矩形の角部の1箇所で固定だったものから2箇所になり、はく離流れが相互に干渉し、後流の流れの曲率が小さくなり、後流域の負圧が弱く、かつ負圧領域も小さくなることから、フレームにおける風の抵抗を低減することができる。
【0016】
同様に、補強部材の頂部と設置面の頂部を結んだ直線と、設置面のなす角を45〜70°とする構成により、フレームにおける風の抵抗を低減することができる。
【0017】
また、従来、フレームの内部に設置されていた板状の座屈防止部材を取り除き、この板状の座屈防止部材を、フレームの海側面及び陸側面の設置面に2枚ずつ立てて設置して、補強部材とした構成により、従来のクレーンから重量を増加せず、かつ剛性を低下せずに、フレームにおける風の抵抗を低減し、クレーンの安定度向上を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る実施の形態のコンテナクレーンのフレーム断面を示した図である。
【図2】本発明に係る実施の形態のコンテナクレーンを示した図である。
【図3】コンテナクレーンの模型の平面を示した図である。
【図4】コンテナクレーンの模型の側面を示した図である。
【図5】風洞実験の結果を示したグラフである。
【図6】本発明に係る異なる実施の形態のコンテナクレーンのフレーム断面を示した図である。
【図7】従来のコンテナクレーンの側面を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施の形態のコンテナクレーンについて、図面を参照しながら説明する。図1に、フレーム16の断面を示しており、フレーム16の断面は側面15、海側設置面12A及び陸側設置面12Bからなる設置面12で構成する矩形であり、それぞれの設置面12にそれぞれ2枚の補強部材2を設置している。また、設置面12の幅をH、補強部材2の高さをx、側面15頂部から補強部材2までの設置距離をy、側面15の幅をBとし、補強部材2の頂部と側面15の頂部を結んだ直線と、設置面12のなす角をθとして示しており、海から吹く風をWで示している。
【0020】
なお、フレーム16は筒状であり、例えば設置面12及び側面15の幅H、Bはクレーンの規模及び脚、シルビーム、マスト等の構成部材により異なるが、900〜1600mmであり、補強部材2は板状で、高さxは100〜400mmであり、幅は6〜40mmである。また、角度θは45〜70°となるように補強部材2を設置するとよい。ここで、補強部材2は、設置面12に対してほぼ垂直(90°)に設置することが望ましいが、若干のずれ(80°〜100°)を許容することはできる。
【0021】
次に、フレーム16に補強部材2を設置する手順を説明する。まず、クレーン1において、補強部材2を設置するフレーム16を決定する。フレーム16の設置面12の幅Hの長さを測定し、この幅Hから補強部材2の高さxを決定する。高さxは、幅Hの8〜25%とする。この幅Hは、コンテナクレーン1の強度(規模や定格荷重)や岸壁10で発生する風の強さを勘案して設計することができる。具体的には、例えば風Wに対しては幅Hの15〜25%程度とすることが望ましく、補強としては、部材の重量増加を考慮して8〜15%程度とすることが望ましい。次に、高さxから補強部材2の設置距離yを決定する。設置距離yは角度θが45〜70°となるように決定し、海からの風Wに対する安定性を重視するならばθを60°程度とすることが望ましい。
【0022】
つまり、風の抵抗を考えると角度θは45〜70°の範囲であることが望ましく、フレーム16の補強を考慮すると、高さxにもよるが一般的には、この角度θは小さい方が望ましい。以上より、風の抵抗を低減し、かつ、フレーム16の補強の効果を考慮して、最適な角度θを算出することができる。
【0023】
図2に、コンテナクレーン1を海側から見た正面図を示しており、海側脚3、タイビーム6及びシルビーム7に補強部材2を設置した様子を示している。加えてマスト5及び頂部タイビーム18にも補強部材2を設置してもよく、これらの補強部材2の設置箇所は、コンテナクレーン1の強度や、岸壁10で発生する風の状況から適宜決定することができる。なお、コンテナクレーン2の模型を作成し、風洞実験を行なったところ、補強部材2を設置しない場合に比べ抗力を低減できることを確認した。
【0024】
以下に、上記の風洞実験の詳細を説明する。図3にコンテナクレーン2の模型の平面図を示しており、図4に側面図を示しており、この模型に方向を変えながら風Wによる荷重を負荷し、コンテナクレーン2に係る走行方向Sの抗力及び横行方向Tの抗力を測定した。なお、図4に示すように、ブーム8はアップの状態で実験を行った。
【0025】
図5に風洞実験の結果を示しており、縦軸に抗力(%)、横軸に風の方向(角度)を示している。ここで、抗力は、実験において観測した最大値を100%として、無次元化している。また、破線は従来のコンテナクレーン1X、実線は補強部材2を設置したコンテ
ナクレーン1の模型の実験データを示しており、Sは走行方向の抗力、Tは横行方向の抗力を示している。なお、コンテナクレーン1の模型は、海側脚3、陸側脚4、マスト5、タイビーム6、及び頂部タイビーム18の設置面12A、12Bに補強部材2を設置し、さらにブーム8の下面に補強部材2を設置したものを使用した。
【0026】
図5のグラフは、風Wの方向(角度)と実機に換算した抗力の関係を示している。例えば、風Wの方向がクレーン1に対して斜めに吹く場合、即ち、風Wの方向が30°の場合の抗力は、補強部材なしが100%、補強部材ありが94.6%となった。また、風の方向が海側からの場合(0°)は、補強部材なしが92.6%、補強部材ありが79.7%となった。つまり、補強部材2を設置した本発明のコンテナクレーン1は、従来の補強部材2を設置していないクレーンと比べて、抵抗が小さく、風Wの抵抗を受けにくいため、風による脚の浮き上がりを抑制することができる。特に、風Wが海側から吹く場合(例えばー50°から50°の範囲)の横行方向Tへかかる力を抑制することができる。
【0027】
ここで、ブーム8の下面に設置する補強部材2は、特に、ブームアップした状態で効果を発揮する。つまり、コンテナクレーン1は、コンテナ船等が出入りする際に、船舶の船橋とブーム8との接触を避けるため、ブーム8を上方に跳ね上げるように構成されている。このコンテナクレーン1が荷役を行わないときには、ブーム8は跳ね上げた状態となっており、この際に、ブーム8の下面に設置した補強部材2が風Wの抵抗を低減する効果を発揮する。なお、ブーム8の上面にも補強部材2を設置した方が、風Wの抵抗を低減する効果は高いが、ブーム8の上面は、作業員が移動する歩廊となるため、補強部材2を設置しなくてもよい。
【0028】
また、海陸側の設置面12のみならず、側面15に補強部材2を設置して、横方向の風の抵抗を低減することもできる。しかし、海側脚3と海側脚3(及び陸側脚4と陸側脚4)の間隔は、コンテナを通過させる必要があるため、20m程度あり、また、走行輪11が複数並ぶため、安定性は比較的高く、この安定性が問題となることは少ない。そのため、側面15への補強部材2の設置は効果が少ない。
【0029】
さらに、海風Wが卓越するような地域のコンテナクレーン1を考慮した場合、側面15に補強部材2を設置すると、かえって海風Wに対するフレーム16の受風面積が増加してしまう。そのため、風Wの抵抗を低減するという観点からは設置面12に補強部材2を設置することが望ましい。
【0030】
また、地形的な要因などから明らかに走行レールに平行な風が卓越する場合、側面15に補強部材2を設置するとよいが、例えば図1に示すように、もともと座屈防止部材17を側面15内側に1つずつしか設置していない場合は、コンテナクレーン1の重量増加を招いてしまう。つまり、座屈防止部材17を、側面15外側に移動して設置しても、1つしかないため、新たに部材を追加する必要がある。
【0031】
図6に、本発明に係る異なる実施の形態のコンテナクレーン1における、フレーム16の断面を示している。このフレーム16は、補強部材2に薄板19を設置し、内部に形成した空間に電線21用のダクト20を通している。補強部材の頂部と側面15の頂部の位置関係が、本発明の作用効果をもたらしているので、薄板19を設置することができる。この構成により、補強部材2と薄板19で形成した空間内は、塗装の必要が無くなるため、クレーンの塗り替えコストを抑えることができる。
【0032】
ここで、本発明は、コンテナクレーン、岸壁クレーン、橋形クレーン、門型クレーンの他に、製鉄所等の製品出荷用クレーンやアンローダ等にも適応することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 コンテナクレーン
2 補強部材
3 海側脚
4 陸側脚
5 マスト
6 タイビーム
7 シルビーム
8 ブーム
12 設置面
12A 海側設置面
12B 陸側設置面
15 側面
16 フレーム
17 座屈防止部材
H 幅(設置面)
B 幅(側面)
x 高さ(補強部材)
y 設置距離
θ 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上用輸送コンテナを荷役するコンテナクレーンにおいて、前記コンテナクレーンを構成するフレームの長手方向に沿って少なくとも一部の海側面と陸側面、もしくはブームの下面に、板状の補強部材を設置し、
前記補強部材を、前記海側面及び前記陸側面の設置面にそれぞれ少なくとも2枚ずつ立てて設置したことを特徴とするコンテナクレーン。
【請求項2】
前記補強部材を、前記コンテナクレーンの海側脚、2本の前記海側脚を連結している水平な梁状部材であるシルビーム及びタイビーム、マストを構成するフレーム、もしくは前記ブームの前記設置面の長手方向に沿って少なくとも1か所に設置したことを特徴とする請求項1に記載のコンテナクレーン。
【請求項3】
前記補強部材を設置した前記フレームもしくは前記ブームの断面において、前記補強部材の高さが設置面の幅の8〜25%であり、かつ、前記補強部材を前記設置面の両端部から内側に、前記設置面の幅の5〜25%の位置に設置したことを特徴とする請求項1又は2に記載のコンテナクレーン。
【請求項4】
前記補強部材を設置した前記フレームもしくは前記ブームの断面において、前記補強部材の頂部と前記設置面の端部を結んだ直線と、前記設置面のなす角が45〜70°であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のコンテナクレーン。
【請求項5】
前記フレームの内部に設置していた座屈防止部材を、前記フレームの前記海側面及び前記陸側面の前記設置面、もしくは前記ブームの前記設置面に少なくとも2枚ずつ立てて設置し、前記補強部材としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のコンテナクレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−201434(P2012−201434A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65582(P2011−65582)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)