説明

コンディショナルノックアウト動物

【課題】Ror2の生後(特に成体)における機能を解明するための手段を提供すること。
【解決手段】少なくとも1つのエクソンが複数のloxP配列で挟まれた構造を有するRor2(receptor tyrosine kinase-like orphan receptor 2)遺伝子をホモで有し、ここで該複数のloxP配列の少なくとも1つは、該Ror2遺伝子の非翻訳領域又はイントロン内に存在し、且つ、体の少なくともいずれかの部位でCreタンパク質が発現される、非ヒト哺乳動物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ror2のコンディショナルノックアウト動物に関する。
【背景技術】
【0002】
Wntファミリータンパク質は、発生における形態形成や癌化、癌の浸潤・転移等の様々な生理的及び病理的局面において重要な役割を担う分子である。Wntタンパク質は、βカテニン依存的又は非依存的シグナル伝達経路を惹起するが、Wnt5a(Wingless-type MMTV integration site family, member 5A)は主に細胞極性・細胞移動を制御するβカテニン非依存的シグナル伝達において中心的な役割を担うことが知られている。Wnt5aは、細胞表面に存在する受容体に結合することによりβカテニン非依存的シグナル伝達を活性化するが、中でもRor2受容体チロシンキナーゼ(receptor tyrosine kinase-like orphan receptor 2;以下「Ror2」)はWnt5aによる細胞極性・細胞移動制御において重要な機能をつかさどっていることが明らかになってきている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0003】
Ror2は、種の壁を越えて構造のよく保存されたRor−ファミリー受容体チロシンキナーゼの一員であり、細胞外領域にはWnt5aやFzd(Frizzled)との結合に必要なシステインリッチドメイン(CRD)を、また、細胞内領域にはチロシンキナーゼドメイン(TKD)やプロリンリッチドメイン(PRD)といった、機能ドメインを有する。Ror2は、発生過程において、神経堤細胞や間葉系細胞を中心に、神経系、心臓、肺、骨軟骨系などに発現している。
【0004】
Wnt5aノックアウトマウス及びRor2ノックアウトマウスでは、肺及び気管の形態異常、心奇形、骨軟骨形成不全などの、多くの共通した表現型がみられることが報告されている。しかしながら、Ror2をノックアウトすると胎児期に死亡してしまうため、これまでに得られているこのような知見は、全て胎児を用いた動物実験で見出された知見であって、成体においてRor2がどのような働きを有するのかは全く不明であった。また、上記のとおり、胎児におけるこれまでの解析では、Ror2は多種多様な機能を有しているとも考えられ、このことが成体におけるRor2の機能の推測を一層困難としていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dev.Dyn.,239:1−15,2010
【非特許文献2】医学のあゆみ Vol.233 No.10:955−959, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、Ror2の生後(特に成体)における機能を解明するための手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、少なくとも1つのエクソンが複数のloxP配列で挟まれた構造を有するRor2(receptor tyrosine kinase-like orphan receptor 2)遺伝子をホモで有し、ここで該複数のloxP配列の少なくとも1つは、該Ror2遺伝子の非翻訳領域又はイントロン内に存在し、且つ、体の少なくともいずれかの部位でCreタンパク質(リコンビナーゼ活性を有する。Creリコンビナーゼ、あるいは単にCreともいう)が発現される、非ヒト哺乳動物を作製すれば、Creタンパク質が発現される部位において、Ror2をノックアウトすることができる(すなわち、コンディショナルノックアウトが可能である)ことを見出した。
【0008】
またさらに、上記の技術を用いて、特に破骨細胞及び破骨細胞前駆細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞で、Ror2遺伝子がコンディショナルノックアウトされた非ヒト哺乳動物を作製すると、当該非ヒト哺乳動物は骨吸収不全を示すことを見出した。
【0009】
そして、これらの知見を基に、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は例えば以下の項1〜10に記載の非ヒト哺乳動物、及び当該非ヒト哺乳動物を用いた方法を包含する。
項1.
少なくとも1つのエクソンが複数のloxP配列で挟まれた構造を有するRor2(receptor tyrosine kinase-like orphan receptor 2)遺伝子をホモで有し、ここで該複数のloxP配列の少なくとも1つは、該Ror2遺伝子の非翻訳領域又はイントロン内に存在し、
且つ、体の少なくともいずれかの部位でCreタンパク質が発現される、
非ヒト哺乳動物。
項2.
Cre遺伝子が組み込まれた染色体を有する、項1に記載の非ヒト哺乳動物。
項3.
部位特異的発現プロモーターの下流にCre遺伝子が組み込まれた染色体を有する、項2に記載の非ヒト哺乳動物。
項4.
部位特異的発現プロモーターが、RANKプロモーター、Spcプロモーター、K5プロモーター、HoxB7プロモーター、及びα−ミオシン重鎖プロモーターからなる群より選択される、少なくとも1種のプロモーターである、項3に記載の非ヒト哺乳動物。
項5.
部位特異的発現プロモーターが、RANKプロモーターである、項4に記載の非ヒト哺乳動物。
項6.
破骨細胞及び破骨細胞前駆細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞で、Ror2遺伝子がノックアウトされた、項1〜6のいずれかに記載の非ヒト哺乳動物。
項7.
骨吸収不全モデル動物である、項5又は6に記載の非ヒト哺乳動物。
項8.
項7に記載の非ヒト哺乳動物に対し、被験物質を投与し、骨吸収の程度を測定する工程を含む、骨吸収不全の予防又は治療剤のスクリーニング方法。
項9.
項7に記載の非ヒト哺乳動物に対し、骨吸収不全予防又は治療候補物質を投与し、骨吸収の程度を測定する工程を含む、骨吸収不全の予防又は治療候補物質の効能評価方法。
項10.
項7に記載の非ヒト哺乳動物に対し、骨吸収不全予防又は治療候補物質を投与し、骨吸収の程度を測定する工程を含む、骨吸収不全の予防又は治療物質を特定する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Ror2遺伝子をコンディショナルノックアウトした動物を提供することができる。本発明によれば、動物を出生および成体まで成長させた上で、所望の部位でのみRor2遺伝子をノックアウトすることが可能である。なお、“コンディショナルノックアウト”とは特定の遺伝子を任意の場所(例えば組織,細胞)、及び/又は、任意の時間(例えば胎生期,生後週齢)にノックアウトする、という意味合いである。
【0012】
このようなRor2遺伝子コンディショナルノックアウト動物は、成体におけるRor2の機能の解明に好ましく用いることができる。
【0013】
また、特に、上記技術を用いて、特に破骨細胞及び破骨細胞前駆細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞で、Ror2遺伝子がコンディショナルノックアウトされた非ヒト哺乳動物を作製することにより、骨吸収不全モデル動物を得ることができる。当該骨吸収不全モデル動物は、骨吸収不全の予防又は治療剤のスクリーニング、骨吸収不全の予防又は治療候補物質の効能評価、骨吸収不全の予防又は治療物質の特定、等のため、好ましく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】Ror2コンディショナルノックアウト(cKO)マウス作製のための、ターゲティングベクター構築の概略を示す。
【図2】ターゲティングベクターが相同組換えにより組み込まれたES細胞を選択するため行ったサザンブロッティング解析の概要を示す。
【図3】RANKCre/+マウスを作製するために用いたノックインベクターの概略をa左側に示す。ノックインベクターが組み込まれたことを確認するために行った、サザンブロッティング解析の結果をa右側に示す。ノックインベクターが組み込まれたことが確認できる。RANKCre/+マウスが、破骨細胞前駆細胞において、EGFP-Cre融合タンパク質を発現することを確認する目的で、抗Cre抗体及び抗アクチン抗体により、破骨細胞前駆細胞中のCre及びアクチン(コントロール)を検出したウエスタンブロット解析の結果をbに示す。さらに、同様の目的で、確認破骨細胞前駆細胞をDAPI染色した上でEGFP(EGFP-Cre融合タンパク質のEGFPタンパク質部分)を励起して観察した結果をcに示す。RANKCre/+マウスの破骨細胞前駆細胞において、EGFP-Cre融合タンパク質が発現していることが確認できる。
【図4】本発明の非ヒト哺乳動物のうち、RANK発現特異的にRor2遺伝子がノックアウトされるマウスのCre−loxPシステムの概要を示す。
【図5】骨髄由来マクロファージの調整の概要を示す。
【図6】Ror2cKOマウス及びコントロールマウスの、Ror2mRNAの発現量及びRor2タンパク質の発現量を検討した結果を示す。
【図7】Ror2cKOマウス及びコントロールマウスの大腿骨のレントゲン画像を示す。
【図8】Ror2cKOマウス及びコントロールマウスの大腿骨のμCT解析結果を示す。
【図9】Ror2cKOマウス及びコントロールマウスの大腿骨をTRAP染色した結果(画像)、及び当該染色により陽性であった破骨細胞の数及び骨芽細胞の数を定量した結果(グラフ)を示す。
【図10】cKOマウス及びコントロールマウスの脛骨における破骨細胞マーカー遺伝子の発現解析の結果を示す。
【図11】マウス頭蓋冠由来骨芽細胞と骨髄由来マクロファージ共存培養による破骨細胞形成実験の結果を示す。なお、図1〜11にグラフが記載される場合において、アスタリスク等の記号は次の意味を表す。*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001. n.s. = not significant
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0016】
本発明の非ヒト哺乳動物は、少なくとも1つのエクソンが複数のloxP配列で挟まれた構造を有するRor2(receptor tyrosine kinase-like orphan receptor 2)遺伝子をホモで有し、ここで該複数のloxP配列の少なくとも1つは、該Ror2遺伝子の非翻訳領域又はイントロン内に存在し、且つ、体の少なくともいずれかの部位でCreタンパク質が発現される、非ヒト哺乳動物である。なお、当該非ヒト哺乳動物は成体である。
【0017】
loxP配列とは、バクテリオファージP1由来の34bpからなる塩基配列であり、具体的にはATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTAT(配列番号1)の塩基配列である。loxP配列は、Cre(バクテリオファージP1由来のDNA recombinase)によって特異的に認識され、二つのloxPに挟まれたDNAは切り出される。当該機能を利用したコンディショナルノックアウト方法はCre−loxPシステムと呼ばれている。
【0018】
本発明の非ヒト哺乳動物では、染色体上のRor2遺伝子の少なくとも1つのエクソンが複数のloxP配列で挟まれている。このような構造を有することにより、Creが存在する場合に、loxP配列で挟まれたRor2遺伝子のエクソン領域が切り出されるため、正常なRor2のmRNAが発現せず、従って正常なRor2タンパク質も発現しないこととなり、Ror2の機能は失われる。なお、2つのloxP配列が同一染色体上で逆向きに存在する場合、これらのloxP配列で挟まれた領域は、Creの働きにより反転することが知られている。また、2つのloxP配列が同一染色体上で同じ向きに存在する場合、これらのloxP配列で挟まれた領域は、Creの働きにより欠失することが知られている。特に制限はされないが、上記のエクソンを挟むように存在するloxP配列は、同じ向きで存在することが好ましい。
【0019】
本発明の非ヒト哺乳動物は、このような構造を有するRor2遺伝子をホモで有する。このため、Creが存在する場合には全くRor2の機能を発現することができず、Ror2はノックアウトされることになる。
【0020】
本発明の非ヒト哺乳動物では、loxP配列はRor2遺伝子の少なくとも1つのエクソンを挟むように存在する。このため、少なくとも2以上(複数;好ましくは2〜5個、2〜4個、又は2〜3個)のloxP配列が染色体上に存在する。例えば、Ror2遺伝子の1個又は複数個(好ましくは2、3、又は4個)のエクソンを挟むように2つのloxP配列が存在してもよく、Ror2遺伝子の複数個のエクソンをそれぞれ挟むように3つ又は4つのloxP配列が存在してもよい。
【0021】
また、loxP配列の少なくとも1つは、Ror2遺伝子の非翻訳領域又はイントロン内に存在する。つまり、loxP配列が存在する(置換又は挿入される)ことにより、Ror2遺伝子の発現に影響が無い又は小さい部位に、loxP配列は存在する。loxP配列の少なくとも1つが、Ror2遺伝子の非翻訳領域又はイントロン内に存在すれば、他のloxP配列は、Ror2遺伝子領域外に存在してもよい。好ましくは、本発明の非ヒト哺乳動物では、染色体上に存在するloxP配列の全てが、Ror2遺伝子の非翻訳領域又はイントロン内に存在する。
【0022】
なお、上のloxP配列の存在位置についての説明において用いた、エクソン、イントロン、非翻訳領域との用語は、通常mRNAの構造を示す場合に用いられることが多いが、ここでは染色体上に存在するDNAの領域を説明するために広義の意味で用いている。つまり、mRNAへ転写された場合に、エクソン、イントロン、非翻訳領域となるDNA領域を示すために、これらの用語を用いている。また、“Ror2遺伝子”は、“Ror2をコードするDNA”と言い換えてもよい。
【0023】
本発明の非ヒト哺乳動物では、体の少なくともいずれかの部位でCreタンパク質(Cre)が発現される。Creが発現した部位でのみ、loxP配列で挟まれたRor2遺伝子のエクソン領域が切り出され、Ror2の機能が失われる(ノックアウトされる)。
【0024】
Creを発現させるためには、発現可能な状態で組み込まれたCre遺伝子を有することが好ましい。Cre遺伝子を発現可能な状態で組み込む方法としては、例えば、Cre遺伝子の発現を可能とするプロモーターの下流にCre遺伝子を組み込む方法が挙げられる。このようなプロモーターとしては、哺乳動物において働く公知のプロモーターを用いることができ、例えば公知の遺伝子のプロモーターや、公知のウイルス由来のプロモーターが挙げられる。
【0025】
例えば、発現可能な状態でCre遺伝子が組み込まれた遺伝子構築物(例えばベクター)を公知の遺伝子導入手法により任意の部位に導入することによって、当該導入部位においてCreを発現させることができる。例えば、ウイルスベクター(例えば、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター)とCre遺伝子を連結して用いることができる。
【0026】
また、本発明の非ヒト哺乳動物は、好ましくは、Cre遺伝子が発現可能な状態で染色体に組み込まれている。この場合、Cre遺伝子は、部位特異的発現プロモーターの下流に組み込まれていることが好ましい。部位特異的発現プロモータの下流にCre遺伝子をつないだコンストラクトを作製し、これを導入して染色体へ組み込むことが好ましい。このような部位特異的発現プロモーターとしては、公知の哺乳動物由来遺伝子のプロモーターを用いることができる。また、用いる部位特異的発現プロモーターによって、Creが発現する部位が異なるため、Ror2遺伝子をノックアウトできる部位も異なる。よって、用いる部位特異的発現プロモーターにより、所望の部位でRor2遺伝子をノックアウトすることができる。
【0027】
このような部位特異的発現プロモーターとしては、公知のプロモーターを適宜選択して用いることができる。また、公知の部位特異的発現プロモーターの下流にCre遺伝子が存在するようにデザインされたトランスジェニック哺乳動物は、種々のものが公知であり、このような公知のトランスジェニック哺乳動物を購入して、又は分与してもらって、用いることもできる。
【0028】
公知の部位特異的発現プロモーターとしては例えば、RANKプロモーター、Spcプロモーター、K5プロモーター、HoxB7プロモーター、α−ミオシン重鎖プロモーター等が例示される。
【0029】
RANK(receptor activator of NF-κB)は、破骨細胞前駆細胞に存在する受容体であり、RANKL(receptor activator of NF-κB ligand)をリガンドとする。骨芽細胞と破骨細胞前駆細胞がcell-cell コンタクトすることにより,RANKL/RANK 結合が起こり,RANK 細胞内ドメインにTRAF6(TNF receptor-associated factor6)が結合し,破骨細胞の分化・骨吸収活性に必要な情報伝達経路が活性化されることが知られている。そして、RANKプロモーターは、特に破骨細胞前駆細胞(及び破骨細胞)において遺伝子の発現を促進することが知られている。
【0030】
Spc(surfactant protein C)は肺サーファクタントタンパク質の一つであり、II型肺胞上皮細胞から分泌される。肺サーファクタントは肺胞の表面張力を減少させることにより、吸息時に肺胞を伸展しやすくする。Spcプロモーターは、特に肺において遺伝子の発現を促進することが知られている。(Spcプロモーター−Creトランスジェニックマウスは、公知である。参考文献:Development 132: 1363-1374, 2005)
【0031】
K5(ケラチン5)は表皮の基底層の未分化角化細胞に発現している細胞骨格の一つであり、ケラチン14と結合して存在している。K5プロモーターは、特に皮膚において遺伝子の発現を促進することが知られている。(K5プロモーター−Creトランスジェニックマウスは、入手可能である:[熊本大学生命資源開発研究・支援センター 動物資源開発研究部門 (CARD), 系統名:STOCK-Tg(K5-Cre)Jt, CARD ID: 250])
【0032】
HoxB7は動植物の発生を制御するホメオボックス遺伝子ファミリー転写因子の一つであり、腎臓の発生において細胞の運命決定に関わっている。HoxB7プロモーターは、特に腎臓において遺伝子の発現を促進することが知られている。(HoxB7プロモーター−Creトランスジェニックマウスは、入手可能である:The Jackson Laboratory, Strain Name: STOCK Tg(Hoxb7-cre)13Amc/J, Stock Number: 004692)
【0033】
α−ミオシン重鎖は心筋を構成する主要なタンパク質であり、心筋の収縮に関与する。α−ミオシン重鎖プロモーターは、特に心臓において遺伝子の発現を促進することが知られている。(α−ミオシン重鎖プロモーター−Creトランスジェニックマウスは、入手可能である:The Jackson Laboratory, Strain Name: B6.FVB-Tg(Myh6-cre)2182Mds/J, Stock Number: 011038)
【0034】
プロモーターは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。つまり、例えば2種以上のプロモーターを連結した下流にCre遺伝子を連結して用いることもできるし、また、例えば、AプロモーターとCre遺伝子を連結した構造及びBプロモーターとCre遺伝子を連結した構造を、いずれも有する非ヒト哺乳動物も本発明に包含される。(ここでのAプロモーター及びBプロモーターは、任意の公知プロモーターを示す。)
【0035】
なお、本発明の非ヒト哺乳動物は、製造時のポジティブセレクションに用いるための薬剤耐性遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等)を有していてもよい。当該薬剤耐性遺伝子はloxP配列に挟まれて存在することが好ましい。Creの働きにより、薬剤耐性遺伝子が切り出されて機能しなくなるため、表現型に影響を与える可能性を排除できるからである。
【0036】
本発明の非ヒト哺乳動物は、ヒト以外の哺乳動物であれば特に限定されない。実験動物、家畜、ペットとして用いられる哺乳動物が好ましい。実験動物として用いられる哺乳動物としては、特に齧歯類(例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター等)及び霊長類(例えばサル等)が好ましく例示できる。非ヒト哺乳動物としては、具体的には、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ等が例示される。
【0037】
本発明の非ヒト哺乳動物は、通常のCre−loxPシステムを有する哺乳動物を製造する方法に準じて製造することができる。例えば、次のようにして製造することができる。なお、次の説明では、非ヒト哺乳動物としてマウスを例に挙げて説明するが、他の非ヒト哺乳動物でも同様にして製造し得る。
【0038】
すなわち、マウスの遺伝子ライブラリーをスクリーニングし、Ror2のコーディング領域を含む陽性クローンを選抜し、制限酵素及びPCR等を用いて、少なくとも1つのエクソンを挟むように、非翻訳領域又はイントロン領域にloxPを挿入し、5’末端側にジフテリアトキシンAフラグメント(DT−A)遺伝子(ネガティブセレクション用)やネオマイシン耐性遺伝子(ポジティブセレクション用)等のマーカー遺伝子を連結して、ターゲティングベクターを構築し、この構築したターゲッティングベクターを線状化し、エレクトロポレーション(電気穿孔)法等によって全能性細胞(ES細胞、iPS細胞等)に導入し、相同的組換えを行い、その相同的組換え体の中から、上記ポジティブセレクション用薬剤(例えばネオマイシン、G418等)に抵抗性を示す全能性細胞を選択する。この選択された全能性細胞が目的とする組換え体かどうかをサザンブロット法等により確認することが好ましい。
【0039】
さらに、上記組換え全能性細胞をマウスの胚盤胞中にマイクロインジェクションし、かかる胚盤胞を仮親のマウスに戻し、キメラマウスを作製する。このキメラマウスを野生型のマウスと交配させると、ヘテロ接合体マウス(Ror2flox/+マウス)を得ることができる。また、このヘテロ接合体マウスを交配させることによって、少なくとも1つのエクソンが複数のloxP配列で挟まれた構造を有するRor2遺伝子をホモで有するマウス(Ror2flox/floxマウス)を得ることができる。なお、“flox” とは“flanked by loxP”の略記である。
【0040】
また、上記マウスの製造とは別に、特定のプロモーター配列、例えばRANKプロモーターの下流にCre遺伝子を連結したノックインベクターを作製し、これを同様に全能性細胞に導入し、セレクションし、マウスの胚盤胞中にマイクロインジェクションし、キメラマウスを作製する。このキメラマウスを野生型のマウスと交配させると、ヘテロ接合体マウス(RANKCre/+マウス)を得ることができる。また、このヘテロ接合体マウスを交配させることによって、Cre遺伝子をホモで有するマウス(RANKCre/Creマウス)を得ることもできる。
【0041】
そして、例えば、Ror2flox/+マウスとRANKCre/+マウスとを掛け合わせることにより、或いは、Ror2flox/floxマウスとRANKCre/+マウスとを掛け合わせることにより、F1としてRor2flox/+;RANKCre/+マウスを得ることができ、さらに当該F1同士を掛け合わせて、F2としてRor2flox/flox;RANKCre/+マウスを得ることができる。
【0042】
当該Ror2flox/flox;RANKCre/+マウスは、破骨細胞前駆細胞及び/又は破骨細胞において、Creが特異的に発現し、当該細胞においてRor2がノックアウトされる。すなわち、本発明の非ヒト哺乳動物として用いることができる。
【0043】
なお、全能性細胞としては、ES(embryonic stem)細胞、EG(embryonic germ)細胞等を例示することができ、ES細胞はマウス、ラット、サル、ウサギ等で、また、EG細胞はブタ等で確立している。さらには、iPS(induced pluripotent stem)細胞も例示できる。iPS細胞は、ヒト、マウス、サル等で確立している。
【0044】
特に、本発明の非ヒト哺乳動物が、RANKプロモーターの下流にCre遺伝子が組み込まれた染色体を有する場合、上述のようにCreが破骨細胞前駆細胞及び/又は破骨細胞において特異的に発現することとなり、これらの細胞においてのみRor2がノックアウトされる。当該非ヒト哺乳動物は、骨吸収が不全となり、異常に骨量が増加する。よって、当該非ヒト哺乳動物は、骨吸収不全モデル動物(特に低骨(代謝)回転を伴う骨吸収不全モデル動物)として好ましく用いることができる。本発明は、当該骨吸収不全モデル動物も包含する。
【0045】
なお、骨吸収の程度は、具体的には、(1)(骨量/組織容量)値(%)(Bone volume/tissue bolume)、(2)骨梁数(mm−1)(Trabecular number)、(3)骨梁厚さ(μm)(Trabecular thickness)、(4)骨梁距離間隔(μm)(Trabecular separation)、を正常マウスと比較することで判断できる。これら(1)(2)(3)及び(4)からなる群より選択される少なくとも1種の項目、好ましくは少なくとも2種の項目、さらに好ましくは少なくとも3種の項目、よりさらに好ましくは全ての項目、で正常マウスに比べて骨が増加していると判断される場合に、骨吸収不全であると判断できる。これらの項目の測定には、μCT解析を用いる。μCT解析にはScanXmate-A080(Comscan Tecno)を用いることができる。より具体的には、これらの項目の値は、μCT解析により大腿骨のCT画像を取得し、成長板から0.5〜1.5mm地点の骨梁を画像解析ソフトTRI/3D-BON(Ratoc System)を用いて解析して求める値である。
【0046】
本発明の骨吸収不全モデル動物は、骨吸収不全が原因で起こる疾病(以下「骨吸収不全症」ともいう)のメカニズム解明や、骨吸収不全の予防又は治療剤のスクリーニング、骨吸収不全の予防又は治療候補物質の効能評価、骨吸収不全の予防又は治療物質の特定等に有用である。
【0047】
骨吸収不全症としては、例えば、大理石骨病、歯槽骨吸収不全、等を挙げることができる。大理石骨病(osteopetrosis)は、骨吸収不全のため、骨が異常に成長し硬くなり、結果的に、血液細胞の形成が減少し、貧血をおこしやすく感染症にかかりやすくなる病気である。また、歯槽骨吸収不全は、歯欠損後に顎骨が徐々にやせ細る際、部分的に骨がやせずに残り表面に凸凹が生じた状態をいい、入れ歯(義歯)を使用して噛もうとすると入れ歯が骨の飛び出した部分に当たって痛み、潰瘍ができるなどする。
【0048】
本発明の骨吸収不全の予防又は治療剤のスクリーニング方法は、本発明の骨吸収不全モデル動物に対し、被検物質を投与し、骨吸収の程度を測定する工程を含む。被験物質の投与により骨吸収が促進される場合、投与被験物質は骨吸収不全の予防又は治療剤の有効成分になり得ると判断できる。被験物質の投与は、出生前及び/又は出生後に行い得る。また、骨吸収の程度を測定する時期は、特に制限はされず、適宜設定可能である。例えばマウスであれば6〜10週齢程度が例示される。骨吸収の程度の測定は、詳細には、上述した通りに、μCTを用いて行う。上述した(1)(2)(3)及び(4)からなる群より選択される少なくとも1種の項目、好ましくは少なくとも2種の項目、さらに好ましくは少なくとも3種の項目、よりさらに好ましくは全ての項目、で、被験物質の投与がされていない本発明の骨吸収不全モデル動物に比べ、被験物質が投与された本発明の骨吸収不全モデル動物の方が、骨が減少していると判断される場合に、投与した被験物質は骨吸収不全の予防又は治療剤の有効成分になり得ると判断できる。
【0049】
本発明の骨吸収不全の予防又は治療候補物質の効能評価方法は、本発明の骨吸収不全モデル動物に対し、骨吸収不全予防又は治療候補物質を投与し、骨吸収の程度を測定する工程を含む。各候補物質の投与により起こる骨吸収の程度の変動を比較することにより、各候補物質の骨吸収不全予防又は治療効果を評価することができる。候補物質の投与は、出生前及び/又は出生後に行い得る。また、骨吸収の程度を測定する時期は、特に制限はされず、適宜設定可能である。例えばマウスであれば6〜10週齢程度が例示される。骨吸収の程度の測定は、詳細には、上述した通りに、μCTを用いて行うことができる。上述した(1)(2)(3)及び(4)からなる群より選択される少なくとも1種の項目、好ましくは少なくとも2種の項目、さらに好ましくは少なくとも3種の項目、よりさらに好ましくは全ての項目、において測定を行い、候補物質の投与がされていない本発明の骨吸収不全モデル動物及び、各候補物質が投与された、それぞれの本発明の骨吸収不全モデル動物、について、骨が減少している程度(又は骨吸収の程度)を比較することにより、各候補物質の骨吸収不全予防又は治療効果を評価することができる。
【0050】
本発明の骨吸収不全の予防又は治療物質を特定する方法は、本発明の骨吸収不全モデル動物に対し、骨吸収不全予防又は治療候補物質を投与し、骨吸収の程度を測定する工程を含む。候補物質の投与は、出生前及び/又は出生後に行い得る。また、骨吸収の程度を測定する時期は、特に制限はされず、適宜設定可能である。例えばマウスであれば6〜10週齢程度が例示される。骨吸収の程度の測定は、上述した通りに、μCTを用いて行うことができる。上述した(1)(2)(3)及び(4)からなる群より選択される少なくとも1種の項目、好ましくは少なくとも2種の項目、さらに好ましくは少なくとも3種の項目、よりさらに好ましくは全ての項目、において測定を行い、ある候補物質(物質A)が投与された本発明の骨吸収不全モデル動物に比べ、他の候補物質(物質B)が投与された本発明の骨吸収不全モデル動物の方が、骨が減少していると判断される場合に、物質Aよりも物質Bの方が、骨吸収不全の予防又は治療効果が高いと判断することができ、用いた候補物質の中で、最適の予防又は治療物質を特定することができる。
【0051】
なお、これらの方法において、投与方法は特に限定されず、経口投与、皮下投与、経静脈投与等が例示される。また、投与量は適宜設定することができる。また、これらの方法においては、上記(1)〜(4)の項目を指標とすることができる、ともいえる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、実験に際して、当該技術分野の教科書等(例えばMolecular Cloning: A Laboratory Mnual(3 Vol.Set);Cold Spring Harbor Laboratory Press)を適宜参照してもよい。
【0053】
ターゲティングベクターの構築
マウスRor2遺伝子を含む約10kbのフラグメントをゲノムライブラリーから単離し、pBlueScriptSK(+)(Stratagene)Not Iサイトに組み込んだ。ネオマイシン耐性遺伝子の上流と下流をloxPで挟んだカセットを用い第2エクソン上流のSal I/Kpn Iサイトに導入した。さらにもう一つのloxPサイトを第3エクソン下流Eco RI/Sma I-Pvu I(Sma I, Pvu Iサイトはブラントエンドでライゲーション)サイトに導入した。
DT-A (diphtheria toxin fragment A) pA (Rabbit beta globin pA signal)は第2exonの上流3.8Kbの、Kpn I/Hid IIIサイトに導入し、ターゲティングベクターを得た。当該ターゲティングベクター構築の概略を、図1に示す。図1に示されるように、当該ターゲティングベクターでは、−[loxP]−[ネオマイシン耐性遺伝子]−[loxP]−[エクソン2]−[エクソン3]−[loxP]−との構造を有する。
【0054】
ネオマイシン耐性遺伝子は、ポジティブセレクションのために挿入した。つまり、ネオマイシン(又はG418)添加培地で培養して、ターゲティングベクターにより相同組換えが起こった細胞を選別できるようにするため挿入した。また、DT−ApAは、ネガティブセレクションのために挿入した。つまり、ターゲティングベクターがランダムに挿入された細胞は、毒素であるDT−A(ジフテリアトキシンのAフラグメント)が産出されることで除去されるようにするため、挿入した。
【0055】
なお、マウスRor2遺伝子のアクセッションNo.はNM_013846である。
【0056】
ES細胞の培養及び相同組換え
検討には、以下の2種のES細胞を用いた。
EB3/5細胞: E14tg2a ES cells carrying IRES-BSD in one of Oct-3/4 locus, which allow selection of Oct-positive undifferentiated stem cells.
E14tg2a細胞: 129/Ola-derived HPRT-negative ES cells. HPRT-minigene can be used as an additional option of selectable marker by combination with HAT selection.
【0057】
E14tg2a細胞(ATCC (CRL-1821TM))は、129/ola由来の細胞であり、HPRT陰性のES細胞株である。EB3/5細胞は、丹羽仁史博士(理研発生・再生科学総合研究センター)から供与して頂いたもので、HPRT(−)BSD(+)のため、C57BL/6N ♀ × Ror2 キメラ ♂ の仔(F1)のうちBSD (−) の♂を選択し、その後の繁殖に用いることができる。
【0058】
なお、HPRTは、hypoxanthine phosphoribosyl transferase遺伝子の略で、その遺伝子産物はプリン代謝(サルベージ経路)酵素の1つで、ヒポキサンチンからイノシン酸を、グアニンからグアニン酸を、キサンチンからキサンチル酸を合成する。HAT selection(選択)のための遺伝子(産物)である。また、BSDはblasticidin(ブラストサイジン)resistant遺伝子(産物)の略で、放線菌由来のblasticidin(タンパク合成阻害剤)に対する耐性を付与する遺伝子(産物)である。EB3/5細胞では、BSD遺伝子をOct-3/4遺伝子座に挿入してあり、Oct-3/4遺伝子がヘテロのES細胞(つまり、未分化のES細胞)をブラストサイジンで選別することができる。Oct-3の発現量を制限することにより、未分化状態を維持できるということが報告されている。
【0059】
EB3/5細胞は、以下の組成の培地で培養することができる。
〔ES culture mediumの組成〕
GMEM (Sodium bicarbonate 2.75 g/ L添加)
10% FCS
1 x NEAA
1 x sodium pyruvate
10-4 M 2-ME
1000 U/ml LIF
【0060】
上記ターゲティングベクターを直鎖上として、ES細胞(EB3/5細胞)にエレクトロポレーションにより導入し、G418存在下で生存・増殖するES細胞を単離した。具体的には、次のようにして行った。
Day 1 :
ES細胞凍結ストック(2.4 x 106 cells/本)を融解後、10 ml ES medium/90 mm dish x 2にまいた。
Day 3 :
継代した。 (5 x 105 cells/ 10 ml/90 mm dish)
Day 5:
Targeting vector 100 μg in 50 μl of dH2Oに350 μlのPBSを加えた。
細胞を回収してPBSで2回洗った。
cell count して3.2 x 107 cellsを回収した。*
PBS 400 μlでけん濁 し、targeting vector 液400 μlを加えよくまぜた。
15 min氷上に静置した。
0.4 cm distanceのelectroporation cubetteに移した。
Bio-RadのGene pulserで0.8 kV/3 μFのpulseを与えた。
ES mediumでけん濁し、2 x 106 cells/10 ml/90 mm dishでまいた。(16 枚)
(*4 x 106 cells も回収し、800 μlのPBSでけん濁し、electroporation後、90 mm dish 2枚にまいた: この細胞がすべてG418で死滅することを確認した後、pick upを開始した)
Day 6:
培地交換した。
Day 7:
Selection開始
175 μg/ml G418入り ES medium(Selection medium)で培地交換した。
(150 μg/ml 8枚 + 1枚、175 μg/ml 8枚 + 1枚)
Day 9:
Selection mediumへと培地交換した
Day 11:
Selection mediumへと培地交換した。
Day 12-13:
colony pick up 48 well plate へうつした。
Day 14:
48 wellから24 wellへ継代 (細胞液の大部分をinjection用、一部をDNA回収用とした)
Day 16:
injection用 24 well plateを凍結した。
Day 17-19:
DNA回収用 24 well plateを培地交換した(当該培地はLIFを含まない)。
Day 20:
DNA回収用 24 well plateを凍結した。
【0061】
Ror2flox/+マウスの作成
ES細胞をG418含有培地で培養し、形質転換体を選抜してセルライン化し、ターゲティングベクターが相同組換えにより染色体上に組み込まれたかを、サザンブロッティングによって確認し、選抜した。
【0062】
サザンブロッティングに用いる制限酵素としては、5’側の解析には、5’armを含み切断する制限酵素(Eco RI)を、3’側の解析には、3’armを含み切断する制限酵素(Hind III)を選択した。5’プローブには他の染色体上と相同性の低い5’arm内の約1Kbを選択した。組換えが行なわれていれば、約5.2Kbのバンドが、起きていなければ約10Kbのバンドが検出される。3’プローブには他の染色体上と相同性の低い3’arm内の約1.2Kbを選択した。組換えが行なわれていれば、約8.9Kbのバンドが、起きていなければ約10Kbのバンドが検出される。当該サザンブロッティング解析の概要を図2に示す。
【0063】
ターゲティングベクターが染色体上に組み込まれたES細胞をC57BL/6マウスの胚盤胞に注入した。擬制妊娠させた仮親マウスに、ES細胞を注入した胚盤胞を移植し、出産させてキメラマウスを得た。そして、このキメラマウスをC57BL/6マウスと交配してヘテロ接合体(Ror2flox/+)を得た。
【0064】
RANKCre/+マウスの作製
破骨細胞前駆細胞に発現するRANK(receptor activator of NF-κB)のプロモーター配列をCreリコンビナーゼ遺伝子につなぎ、これを染色体上へ相同組換えさせたRANKCre/+マウスを作製した。
【0065】
具体的には、図3aに示すように、ノックインベクターを作製し(pBlueScriptSK(+)を用いた)、これをES細胞に導入し、相同組換えにより染色体上へ組み込んで、キメラマウスを得、これをC57BL/6マウスと交配してヘテロ接合体RANKCre/+マウスを作製した。(ノックインベクターのES細胞への導入及び確認は、上記Ror2flox/+マウスの場合と同様に行った。概要は図3aを参照。)なお、ノックインベクターは、E10(Tnfrsf11a〔RANKの同義語〕のエクソン10)のストップコドン後にIRES配列をつなぎ、これにEGFPとCreの融合タンパク質をコードする配列をつなぎ、さらにloxPで挟んだネオマイシン耐性遺伝子をつないで作製した。IRES配列は、internal ribosomal entry site(リボソーム内部進入部位)であり、この後ろにレポーター遺伝子(本ケースではEGFP-Cre融合タンパク質をコードする遺伝子)を連結することで、目的遺伝子が発現している細胞を簡便に検出することが可能となる。
【0066】
RANKCre/+マウスは、破骨細胞前駆細胞において、EGFP-Cre融合タンパク質を発現する。このことは、抗Cre抗体及び抗アクチン抗体により、破骨細胞前駆細胞中のCre及びアクチン(コントロール)を検出したウエスタンブロット解析により確認した(図3b)。また、破骨細胞前駆細胞をDAPI染色した上でEGFP(EGFP-Cre融合タンパク質のEGFPタンパク質部分)を励起して観察することによっても、破骨細胞前駆細胞においてEGFPが発現していることが確認できた(図3c)。
【0067】
Cre−loxPを用いた遺伝子組換えによるRor2コンディショナルノックアウト(cKO)マウスの作製
上述のようにして作製したRor2flox/+マウス及びRANKCre/+マウスを掛け合わせて、コンディショナルノックアウトマウス(cKOマウス〔Ror2flox/flox;RANKCre/+マウス〕)を得た。より詳細には、Ror2flox/+マウス及びRANKCre/+マウスを掛け合わせて、まず、F1としてRor2flox/+;RANKCre/+マウスを得て、当該F1同士を掛け合わせて、F2としてRor2flox/flox;RANKCre/+マウスを得た。当該cKOマウスは、Ror2遺伝子のエクソン2及び3がloxPに挟まれており、RANKの発現と同時にCreも発現することで、Ror2遺伝子のエクソン2及び3が切り出されて、Ror2遺伝子がノックアウトされるマウスである。すなわち、RANK発現特異的にRor2遺伝子がノックアウトされるマウスである。当該概略を、図4に示す。
【0068】
cKOマウスにおけるRor2の発現
cKOマウスにおける、Ror2の発現量を検討した。具体的には、骨髄由来マクロファージ(Bone marrow macrophage;BMM)における、Ror2のmRNA及びタンパク質の発現量を検討した。具体的には、Ror2flox/flox;RANKCre/+マウス(cKOマウス)及びRor2+/+;RANKCre/+マウス(コントロールマウス)の骨髄液を採取し、リアルタイムPCR及びウエスタンブロッティングにより検討を行った。手順の詳細を以下に示す。
【0069】
I.骨髄由来マクロファージの調整
1.Control 及び Ror2cKOマウスから脛骨を無菌的に取り出し、両端部分(1mm)を切断した。
2. 1 ml 注射筒(27G)を用いて、α−MEM FBS (−) にて脛骨の骨髄腔から、骨髄細胞を50mlチューブに押し出した(脛骨2本を処理した)。当該処理の概略を図5に示す。
3. α−MEM FBS(−)で30mlにメスアップした。
4. 得られた液体サンプルを遠心した(1200rpm、4℃、10min)。
5. 上清をアスピレートして除去した。
6. 3mlのα−MEM 10% FBSを加え、ピペッティングし十分に細胞をサスペンジョンした。
7. M‐CSFを終濃度50ng/mlになるように加え、6cmディッシュに播種後、37℃、 5%CO、 条件下で17〜18時間培養した。
8. 浮遊細胞を、ピペットを用いて50mlチューブに回収した。
9. 5mlのα−MEM FBS (−) にてディッシュを一度軽く洗い、その液を50mlチューブに回収した(浮遊細胞をより多く回収するため)。
10.得られた回収サンプルを遠心した(1200rpm、4℃、10min)。
11.回収した細胞を6mlのα−MEM 10% FBSにサスペンジョンし、6cmディッシュ2枚に播種した。
12.M−CSF(終濃度50ng/ml)を添加したα−MEM 10% FBSで約3日間培養を行った。骨髄由来マクロファージが約80%コンフルエントの状態に増殖した後、細胞からtotal RNA及び細胞抽出液を調整した。
【0070】
II. total RNAの調製
培養液を捨て、細胞培養ディッシュをPBSで一回洗浄した。そして、1mlのTrizol(インビトロジェン社)を加え、細胞を溶解させた。得られた溶解液に200μlのクロロホルムを加え、ボルテックスミキサーを使い、十分に混和した。2分間静置し、フェノール層と水層が分離し始めたら、12000rpmで10分間遠心し、水層を回収した。回収した水層をRNA精製用カラム(PureLink RNA mini kit, Invitrogen)を使い、マニュアルにしたがってTotal RNAを調製した。
【0071】
III.逆転写反応
精製したRNA 2μgを逆転写反応に供しcDNAを作製した。逆転写反応には、oligo dT primer (Invitrogen) および 逆転写酵素(Revertra Ace, TOYOBO)を用いた。具体的には、次の通り行った。
【0072】
1.Oligo dT(20 pmol/μl)、5×RT buffer、10 mM each dNTP、を室温で溶解させた。

2.PCRマシーン(ASTEC, PC802) を起動させ、70℃に設定した。

3.RNA抽出後の吸光度測定結果よりRNAを2μgとなるように計算し、以下のとおりサンプル(合計25μl)を調製した。
RNA(2μg分):xμl
Oligo dT12−18 (20pmol/μl):2μl
DEPC水:(23−x)μl

4.調製したサンプルを、PCRマシーン (PC802)にかけた。(条件:70℃ 10分 → 0℃ 1分)

5.RT mix(合計25μl)を作製し、サンプル(25μl)に加えた。
た。組成は次の通りとした。
5×RT buffer 10μl
10 mM each dNTP 5μl
RNase inhibitor 0.5μl
Rever TraAse 0.2μl
DEPC水 9.3μl

6.PCRマシーン(ASTEC, PC802)を用いて、以下の条件で逆転写を行った。
42℃ 60分
99℃ 5分
0℃ で保存

7.反応産物1μlをテンプレートとしてGAPDHのPCR(18〜26サイクル) を行い、増幅がみられることを確認して、cDNA合成が成功したと判断した。
【0073】
IV. Real time PCR
使用機械
PC (IBM Net Vista) 、DNA Engine OPTICONTM
使用試薬
SYBR Green qPCR Kits (FINNZYNMES社) (2×MM)
方法(SYBR Green qPCR Kitsのプロトコールに準じてリアルタイムPCRを行った。)
(1)使用template及びprimer
template (cDNA):10ng/μl
primer:10μM
検量線用template:250ng/μl、25ng/μl、2.5ng/μl、0.25ng/μl
(2)primerのアニール温度の決定
PCRチューブに以下の試薬を調製した。
白い8連チューブ:8−strip low profile tubes (MJ Research,inc.社)
白い96穴チューブ:Low 96−well White (BIO RAD社)
透明なキャップ:Flat Cap Strips (BIO RAD社)
【0074】
(終濃度)
2×MM: 10μl
primerF (10μM): 0.5μl (0.5μM)
primerR (10μM): 0.5μl (0.5μM)
template: 2μl (1ng/μl)
MilliQ : 7μl
total: 20μl
【0075】
PCR primer
F(Ror2 ex3 Fwd) 5’tttctggagccagtcaacaa3’
R(Ror2 ex3 Rev) 5’ctgtcttccggatgatgacc3’
【0076】
以上の条件で、SYBR Green qPCR Kitsのプロトコールに準じてリアルタイムPCRを行った。結果を図6のブラフに示す。
【0077】
V. イムノブロッティング(ウエスタンブロッティング)
培養液を捨て、細胞培養ディッシュをPBSで一回洗浄した。
細胞培養ディッシュに細胞抽出液(20mM Tris−HCl (pH7.4), 200mM NaCl, 2.5mM MgCl, 0.05% (w/v) NP−40 (Nonidet P−40) を50μl 加え、スクレイパーを用い細胞をかき集めた。
【0078】
不溶物を除去した後のタンパク質濃度をBicinchoninic Acid(BCA)法で求めた。
【0079】
20μg proteinのサンプルをLaemmliのバッファー系を用いたSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供した。分離した蛋白質を、Blotting装置 (アトー社)を用いて、PVDF膜(Clear Blot Membrane−P、アトー社)に転写した後、Ror2タンパク質を抗体を用いて検出した。
【0080】
ブロッキングは、2.5 % skim milk, 0.1% Triton X100 TBS溶液中に室温で1時間浸することで行った。
【0081】
1次抗体(Ror2抗体:大腸菌に発現させたGST−mouse Ror2融合蛋白質をグルタチオンセファロースビーズを用いて精製したものを抗原としてウサギに免疫し得られた抗体。Kani,S.et al. J.Biol.Chem. 279:50102−50109,2004参照)、及び2次抗体(ペルオキシダ−ゼ結合抗ウサギ抗体、バイオラッド)は、免疫反応増強試薬(Can Get Signal, TOYOBO)を用いてそれぞれ1000倍希釈、10000倍希釈の濃度で用いた。1次抗体反応は、4℃で12〜16時間行った。
【0082】
2次抗体反応は、室温で1時間行った。抗体の検出は、ECL Plus Western Blotting Detection System(GEヘルスケア)を用いた。結果を図6の画像に示す。
【0083】
以上の結果から、cKOマウスでは、骨髄由来マクロファージ(Bone marrow macrophage;BMM)において、Ror2のmRNA及びタンパク質の発現が、コントロールマウス(Ror2+/+;RANKCre/+マウス)に比べ、低下していることが確認できた。
【0084】
cKOマウスの大腿骨の解析
<X線解析>
8週齢のControl及びRor2cKOマウスから大腿骨を取り出し、70%エタノールで固定した。軟X線発生装置(SOFTEX M−1005W)を用いて、固定した大腿骨のレントゲン像を撮影した。得られたレントゲン画像を図7に示す。Ror2cKOマウスの方が骨量が多く、特に図7の三角で示す部分は、明らかに骨密度が高くなっていた。
<μCT解析>
また、μCT(micro-computed tomography)により、各マウスの大腿骨の3次元断面画像を取得した。図8(左側)に示す。さらに、μCT解析により、(1)(骨量/組織容量)値(%)(Bone volume/tissue bolume)、(2)骨梁数(mm−1)(Trabecular number)、(3)骨梁厚さ(μm)(Trabecular thickness)、(4)骨梁距離間隔(μm)(Trabecular separation)、についてもデータを収集し、結果をグラフにまとめた。これらのグラフを図8(右側)に示す。これらの結果からも、Ror2cKOマウスの方が、骨量が増え、骨密度が高くなったことが確認できた。このことから、Ror2cKOマウスでは、骨吸収不全が起きていることが明らかとなった。
【0085】
なお、当該μCT解析には、ScanXmate-A080(Comscan Tecno)を用いた。また、上記(1)〜(4)の解析結果は、成長板から0.5〜1.5mm地点の骨梁を画像解析ソフトTRI/3D-BON(Ratoc System)を用いて解析した結果である。
【0086】
<組織染色>
固定した大腿骨をVillanueva bone stain液[0.5%(w/v)in 70% エタノール溶液、Maruto Instruments Co.Ltd]に室温で2週間浸漬し、骨を染色した。次に70%−100%エタノールを用いて、大腿骨を脱水し、グリコールメタクリレート樹脂に包埋した。ミクロトームを用いて樹脂ブッロクを厚さ3-4 μmの薄切切片を作製した。切片を酒石酸耐性酸性ホスファターゼ(TRAP)染色に供した。TRAP染色の方法は以下に示す方法で行った。
【0087】
TRAP 染色緩衝液の作製 (pH 5.0)

Sodium Acetate trihydrate (junsei chemical 31215-0301)4.84 g (終濃度 0.1 M)
Acetic Acid (nacalai tesque 00212-85) 0.82 ml (終濃度 0.1 M)
Sodium Tartrate (wako 190-03455) 5.75 g (終濃度 50 mM)

これらをミリQで500 mlにメスアップして作製した。
【0088】
TRAP染色液の作製
1. 基質: Naphthol AS-MX Phosphate (SIGMA N-4875)を 5 mgをN-N-dimethyl formamide (Wako 045-02916) 500μlに溶かした。
2. TRAP染色緩衝液を50 ml加えた。
3. Fast Red Violet salt (SIGMA F-1625) 30 mgを溶かした。
4. チューブをアルミホイルで遮光し、4℃ に保存した。
【0089】
スライドガラスを湿箱に並べた。切片上に、TRAP染色液を50−100μl加え(のせ)、37℃で15分から30分間インキュベートした。顕微鏡で赤く染色されたことを確認後、水道水で洗浄し、反応をとめた。スライドガラスを風乾し、樹脂封入した。
【0090】
大腿骨遠位部海綿骨部分の画像をAxiocam (デジタルカメラ)付きAxioplan2 (顕微鏡)で撮影し、JPEGファイルとして保存した。保存した画像は、画像解析ソフト(NIH image)を用いて、TRAP陽性破骨細胞数および骨芽細胞数を定量した。海綿骨周囲長あたりの細胞数を計測した。1匹につき、3〜5枚の切片を解析し、計算した値の平均を個体の値とした。コントロール、cKOマウス、それぞれ6匹、10匹を解析に供し、グループの平均値と標準偏差を求めた。有意差検定は、t検定により行った。結果を図9に示す。
【0091】
図9に示されるように、cKOマウスでは、破骨細胞の数が減少し、骨芽細胞の数が増加していた。このことからも、cKOマウスでは、骨吸収不全が起こっていることが裏付けられた。
【0092】
脛骨における破骨細胞マーカー遺伝子の発現解析
8週齢のマウスの脛骨を取り出した。1.5mlチューブにジルコニアボール(直径約5mm)、0.5 mlのTrizol(インビトロジェン社)と脛骨を入れ、Tissue Lyser II (キアゲン社)を用いて、骨を粉砕しながらRNAを抽出した。Total RNAの精製、逆転写反応、real time PCRは上記「cKOマウスにおけるRor2の発現」で行った方法と同様に行った。Csf1r, Tnfrs11a, Ctsk, Acp5, Gapdhの検出には、Takara Bio 社製 Real time -PCR primerを用い、Calcrのプライマーは、Invitorgenに外注して合成した。すなわち、用いたプライマーは以下の通りである。なお、これらの遺伝子のうち、GAPDHはコントロールとして用いたものである。また、それ以外の遺伝子は、公知の破骨細胞マーカーである。
【0093】
Calcr(calcitonin receptor)…5 ctgctcctagtgagcccaa 3’/5 gcggttgcagtacagacctt 3’
Csf1r (CSF1 receptor)…MA072804 (Primer set ID, Takara Bio)
Tnfrs11a (RANK)…MA075536 (Primer set ID, Takara Bio)
Ctsk (cathepsin K)…MA025136 (Primer set ID, Takara Bio)
Acp5 (TRAP)…MA092518 (Primer set ID, Takara Bio)
Gapdh (GAPDH)…MA050371 (Primer set ID, Takara Bio)
【0094】
結果を図10に示す。図10からも、cKOマウスでは破骨細胞の数が減少しており、骨吸収不全が起こっていることが強く示唆された。
【0095】
マウス頭蓋冠由来骨芽細胞と骨髄由来マクロファージ共存培養による破骨細胞形成実験
上記「cKOマウスにおけるRor2の発現」のIの方法に従い、あらかじめ骨髄由来マクロファージを調製した。そして、マウス脛骨より採取した骨髄細胞をM−CSFで16時間培養した後の浮遊細胞(1-1.5x105 cells/well)とマウス骨芽細胞(下記の野生型骨芽細胞)(3x104 cells/well)を48穴プレートに播種した。活性型ビタミンD3(1,25D3)を最終濃度10-8 Mとなるように添加した。2日毎に培地を交換した。位相差顕微鏡で観察し、多核巨細胞が形成した時点で、細胞を4%パラホルムアルデヒド含PBSで固定した(500 μl/well, 室温、10−15分間)。固定液を捨て、0.1% Triton X-100含有PBSを入れ、室温で1−2分インキュベートした。0.1% Triton X-100含有PBSを捨て、上記「cKOマウスの大腿骨の解析」で作製したTRAP染色液を加えた。顕微鏡で観察しながら、室温で5分から10分間インキュベートする。細胞が赤く染まったら、細胞を水道水で洗い、反応を停止した。
【0096】
上記の方法で、野生型骨芽細胞とコントロールあるいはcKO骨髄細胞(骨髄マクロファージ)の共存培養を各4 wellずつ行った。各wellにおいて形成された破骨細胞(細胞核を3核以上有し、TRAP染色陽性)数をカウントした。結果を図11に示す。
【0097】
なお、野生型骨芽細胞は、マクロファージ実験マニュアル(講談社)64頁〜に記載される方法に準じてCalvaria(頭蓋冠)から単離培養し、−80℃にストックしておいたものを使用した。具体的には、以下のようにして単離し、培養した。以下の方法は、マウス(1日齢)のcalvariaからコラゲナーゼ、およびディスパーゼを用いて骨芽細胞様ストローマ細胞を単離する方法である。これより得られた骨芽細胞と、マウス脛骨より得られた骨髄細胞との共存培養により破骨細胞の形成を誘導することができる。
【0098】
<使用動物及び試薬>
ddy mouse 1日齢 (40匹)
コラゲナーゼ (Wako 034−10533)
ディスパーゼ (三光純薬 GD81020)
セルバンカー (日本全薬工業 ZBC-101)
70%エタノール
【0099】
〔0.1 % コラゲナーゼ、0.2 % ディスパーゼ溶液の作成〕
コラゲナーゼ 0.05 g(終濃度 0.1%)
ディスパーゼ 0.1 g(終濃度 0.2%)
これらを50 mlの α-MEM FBS(−)に溶かし、フィルター滅菌を行い、これをA液とした。
【0100】
<単離方法>
1. 70 % エタノール入りのビーカーにマウスを5匹ずつ入れ、屠殺した。
2. シャーレの上でマウスのcalvariaを切り取り、α-MEM FBS(−)の入ったシャーレに入れた。
3. シャーレの中で calvariaをきれいにした(すなわち、ピンセットで肉片および血管を取る)。
4. A液10 mlが入った50 mlチューブに calvariaを入れ撹拌し、その後上清をアスピレートして除去した。
5. 再びA液を10 ml入れてチューブにテープを巻いてウォーターバスでインキュベートした(37 ℃、 シェイカー 130 rpm、 10 min)。
6. 5〜10 mlの α-MEM 10% FBS入りの50 mlチューブに上清を回収した。
7. (5. 6.) の行程をさらに3回繰り返した(50 mlチューブに2本に回収)。
8. 1200 rpm、4 ℃、7 minの条件でチューブを遠心した。
9. 上清をアスピレートして除去し、チューブ1本につきα-MEM 10% FBSを20 mlずつ入れ、ピペッティングした。
10. (9.) の懸濁液を10 cmシャーレ 4枚に各10 mlまき、さらにα-MEM 10% FBSを
各シャーレに10 ml加え、インキュベートした(37 ℃、 5% CO2)。
【0101】
図11に示される通り、骨芽細胞及び活性型ビタミンD3で破骨細胞の形成誘導をかけたとしても、Ror2cKOマウスでは、誘導が起こりにくいことが分かった。この点からも、当該cKOマウスの骨吸収不全が裏付けられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのエクソンが複数のloxP配列で挟まれた構造を有するRor2(receptor tyrosine kinase-like orphan receptor 2)遺伝子をホモで有し、ここで該複数のloxP配列の少なくとも1つは、該Ror2遺伝子の非翻訳領域又はイントロン内に存在し、
且つ、体の少なくともいずれかの部位でCreタンパク質が発現される、
非ヒト哺乳動物。
【請求項2】
Cre遺伝子が組み込まれた染色体を有する、請求項1に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項3】
部位特異的発現プロモーターの下流にCre遺伝子が組み込まれた染色体を有する、請求項2に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項4】
部位特異的発現プロモーターが、RANKプロモーター、Spcプロモーター、K5プロモーター、HoxB7プロモーター、及びα−ミオシン重鎖プロモーターからなる群より選択される、少なくとも1種のプロモーターである、請求項3に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項5】
部位特異的発現プロモーターが、RANKプロモーターである、請求項4に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項6】
破骨細胞及び破骨細胞前駆細胞からなる群より選択される少なくとも1種の細胞で、Ror2遺伝子がノックアウトされた、請求項1〜6のいずれかに記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項7】
骨吸収不全モデル動物である、請求項5又は6に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項8】
請求項7に記載の非ヒト哺乳動物に対し、被験物質を投与し、骨吸収の程度を測定する工程を含む、骨吸収不全の予防又は治療剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項7に記載の非ヒト哺乳動物に対し、骨吸収不全予防又は治療候補物質を投与し、骨吸収の程度を測定する工程を含む、骨吸収不全の予防又は治療候補物質の効能評価方法。
【請求項10】
請求項7に記載の非ヒト哺乳動物に対し、骨吸収不全予防又は治療候補物質を投与し、骨吸収の程度を測定する工程を含む、骨吸収不全の予防又は治療物質を特定する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−200249(P2012−200249A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71014(P2011−71014)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】