説明

コンバイン

【課題】 引き起し装置に至る動力伝達系の負荷を増すことなく、引き起し装置の拘束を離れた穀稈の穂先側を早期に右上穂先搬送体で拘束させて、刈り取り後、速やかに穀稈の配列状態を揃えて、穀稈の損傷や姿勢の乱れ少なく脱穀フィードチェーンへの受け渡しが可能なコンバインを提供する。
【解決手段】 脱穀機を搭載した走行機体の前方に支持された前処理部16は、多数の引き起し装置と、多数の掻込み装置とを備え、進行方向右側の条列を刈り取った穀稈を搬送する右穂先搬送体35Aに対して中穂先搬送体、左穂先搬送体をY字型に合流させている。右穂先搬送体35Aの上方に右上穂先搬送体36Aが配置され、右上穂先搬送体36Aは、縦伝動軸42の根元側から動力を分岐して駆動される。すなわち、右穂先搬送体35Aの従動スプロケット35dから従動軸36fにより動力を取り出して、駆動スプロケット36pを回転させることにより、右上穂先搬送体36Aが循環する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多条列の穀稈を刈り取って、刈り取った穀稈の株元側と穂先側とを保持して後方の脱穀機へ搬送する多条刈りのコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
多条列の穀稈を刈り取って、刈り取った穀稈の株元側と穂先側とを保持して後方の脱穀機へ搬送する多条刈りのコンバインが実用化されている。一般的な多条刈りのコンバインは、穀稈の植付圃場を走行可能な走行機体の前方側に、刈刃装置を備えて昇降可能な前処理部を搭載し、走行機体の後方側に、刈り取った穀稈から穀粒等を分離する脱穀機を搭載している。
【0003】
そして、前処理部は、棒状爪(タイン)を用いて地上から上方へ植立穀稈を梳き上げる(持ち上げる)引き起し装置と、刈り取った穀稈の株元と穂先側とを保持して後方の脱穀機へ搬送する搬送装置とを備えており、引き起し装置および搬送装置は、前処理部を支持する構造材を兼ねた縦伝動ケースに格納された縦伝動軸から動力を取り出して、収穫速度(走行速度)に応じた速度で駆動される。
【0004】
特許文献1に示されるコンバインは、刈り取った穀稈の株元側をチェーン式の株元搬送体で挟持しつつ、穂先側を爪付きチェーン式(タイン式)の穂先搬送体で緩く保持して平行に搬送する。株元搬送体と穂先搬送体とは等しい速度で駆動され、搬送過程で株元搬送体と穂先搬送体との間隔を広げて穀稈の株元を株元側へ引っ張ることにより、穂先搬送体の棒状爪が穂先側へ梳き上げて穀稈を搬送方向と直角に整列させる。
【0005】
そして、株元搬送体と穂先搬送体との間隔が狭い刈り取り位置では、穂先搬送体から上方へ突き出した穀稈の長さが長過ぎて穂先が不安定なので、穂先搬送体の上方に爪付きチェーン式の上穂先搬送体を追加して設けており、刈り取り直後の穀稈を株元から穂先まで3箇所で保持することにより、穀稈のからみや交差を減じて搬送姿勢を安定させている。穂先搬送体と上穂先搬送体とは、引き起し装置を駆動させるために縦伝動軸から引き起し装置へ向かって立ち上げた縦駆動軸によって循環駆動される。
【0006】
特許文献2に示されるコンバインは、走行機体の進行方向右側に運転席を設け、脱穀機の穀稈受け入れ口を進行方向左側に設定しており、株元搬送体と穂先搬送体とで搬送された穀稈を受け取って脱穀機に沿って挟持搬送する脱穀フィードチェーンが走行機体の進行方向左側面に配置されている。
【0007】
そして、進行方向右側の条列を刈り取った穀稈を搬送する右穂先搬送体が、刈り取り位置から脱穀フィードチェーンへの受け渡し位置まで一体に連続する一方、中央の条列の穀稈を搬送する中穂先搬送体と左側の条列の穀稈を搬送する左穂先搬送体とが右穂先搬送体の途中位置へY型に合流している。
【0008】
特許文献3に示されるコンバインは、特許文献2と同様に、右側条列の穀稈を搬送する右穂先搬送体を脱穀フィードチェーンまで一体に連続させ、中央条列の穀稈を搬送する中穂先搬送体と左側条列の穀稈を搬送する左穂先搬送体とが右穂先搬送体の途中位置へY型に合流している。また、特許文献1と同様に、進行方向右側の刈り取り位置に対応させて右上穂先搬送体を設けているが、右上穂先搬送体は、内側(右から2番目)の引き起し装置から動力を取り出して駆動され、引き起し装置の背面側に配置されて、右穂先搬送体と対向させた位置関係で棒状爪による搬送を行っている。
【0009】
【特許文献1】実開平1−137126号公報
【特許文献2】特開2000−224912号公報
【特許文献3】特開2004−24138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、コンバインの収穫速度(対地速度)の上昇、刈り取り条数の増大に伴って、前処理部で搬送される穀稈の時間当たり搬送量が増加して、脱穀フィードチェーンに受け渡される穀稈の整列状態を搬送過程で大きく修正することが困難になっており、前処理部で刈り取って搬送開始するまでに、穀稈の姿勢を揃えて整列状態を高めておくことが望まれている。
【0011】
前処理部では、引き起し装置が梳き上げて姿勢を整えた穀稈を右上穂先搬送体の棒状爪で受け取るので、右上穂先搬送体の棒状爪による拘束が遅れると、穂先が垂れたり、折れ曲がったり、交差してからんだりする穀稈が増えて穀稈の穂先位置がばらつき易いので、右上穂先搬送体は、引き起し装置の拘束を離脱した穀稈を早期に保持できることが望ましい。
【0012】
特許文献1に示される前処理部では、引き起し装置の拘束を離れた穀稈の中間高さを右穂先搬送体が速やかに拘束できるが、右上穂先搬送体が右穂先搬送体よりもかなり後方で遅れて穀稈の穂先側を拘束するため、肝心の穂先側で穂先が垂れたり、折れ曲がったり、交差してからんだりする可能性がある。
【0013】
特許文献3に示されるコンバインは、一対の引き起し装置の間隔を穀稈の掻き込み経路として確保するとともに、右上穂先搬送体を内側の引き起し装置の背面スペースに収めて隣接状態で配置しているので、引き起し装置の拘束を離れた穀稈の穂先側を右上穂先搬送体によって速やかに拘束できる。
【0014】
しかし、右穂先搬送体と対向させた位置関係で右上穂先搬送体を循環させるため、刈り取られた穀稈の穂先側は、右上穂先搬送体の外側を大きく迂回して外側へ強く振り回され、収穫速度が増すと、穂先側に作用する遠心力が増大して穀稈が絡み合ったり損傷したりする可能性がある。右穂先搬送体と対向させた位置関係の右上穂先搬送体が刈り取られた穀稈を小さな回転半径で方向転換するため、穀稈が絡み易いという問題もある。
【0015】
また、引き起し装置の背面に隠すように右上穂先搬送体を配置するので、循環させる幅や長さが制約されて、棒状爪(搬送爪)も短いものを採用するほかない。短い搬送爪では、搬送量が少ないので収穫速度を増すことが困難である。
【0016】
また、引き起し装置は、前処理部の動力伝達系の末端に位置する(図5参照)ので、引き起し装置から動力を取り出して右上穂先搬送体を駆動すると、末端までのすべての動力伝達部材の負荷が増してそれぞれ設計強度を増す必要がある。
【0017】
そして、穀稈の整列状態を改善するために、右穂先搬送体に先立たせて右上穂先搬送体によって穀稈を保持させようとすると、右上穂先搬送体の搬送負荷が増大してさらなる設計強度が必要となり、コンバインの収穫速度の上昇、刈り取り条数の増大によっても搬送負荷が増大して、大きな設計強度が必要となる。
【0018】
従って、引き起し装置に至るまでの各伝動軸、軸受け、伝動軸ケース、傘歯車機構等が大型化し、前処理部の機構配置の自由度が損なわれたり、前処理部の重量増、部品コスト増等を招いたり、伝達損失の増大によって燃費が低下したりする。
【0019】
本発明は、引き起し装置に至る動力伝達系の負荷を増すことなく、引き起し装置の拘束を離れた穀稈の穂先側を早期に右上穂先搬送体で拘束させて、刈り取り後、速やかに穀稈の配列状態を揃えて、穀稈の損傷や姿勢の乱れ少なく脱穀フィードチェーンへの受け渡しが可能なコンバインを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1のコンバインは、脱穀機(12)を搭載した走行機体(11)の前方に、多条列の穀稈を刈取ると共に該刈取った穀稈を前記脱穀機(12)に向けて搬送する前処理部(16)を支持してなる、コンバイン(10)において、前記前処理部(16)は、多数の引き起し装置(22A、22B)と、少なくとも一方側及び他方側の株元搬送体(34A)、穂先搬送体(35A)及び上穂先搬送体(36A)と、前記走行機体(11)からの動力が前記前処理部(16)に伝達される縦伝動軸(42)とを有し、前記一方側の穂先搬送体(35A)は、前記縦伝動軸(42)から直接分岐した伝動系から入力する入力回転体(35e)と、一方側の先端部に位置する従動回転体(35d)との間に巻回されて、一方側の先端部から前記脱穀機(12)の供給口(18)まで延びると共に、その中間位置にて他方側の穂先搬送体(35C)により搬送された穀稈を合流して、刈取り穀稈を前記脱穀機(12)に向けて搬送してなり、前記一方側の上穂先搬送体(36A)は、前記従動回転体(35d)と一体の回転軸(36f)に固定された回転体(36p)と、従動回転体(36r)との間に巻回されてなるものである。
【0021】
請求項2のコンバインは、請求項1のコンバインにおいて、前記一方側の穂先搬送体(35A)及び上穂先搬送体(36A)の搬送速度が、前記他方側の穂先搬送体(35C)及び上穂先搬送体(36C)の搬送速度より速くなるように設定したものである。
【0022】
なお、上記括弧内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係る本発明によると、上穂先搬送体を設けたので、長稈の穀稈であっても、穂先側の搬送が遅れることなく、一方(例えば右)側及び他方(例えば左)側の株元、穂先、上穂先の各搬送体により、各条列の刈取り穀稈は、整然と脱穀機に供給されて、高い精度で脱穀、選別作業を行うことができるものでありながら、脱穀機の供給部から離れている側である一方側の上穂先搬送体は、縦伝動軸から、一方側の穂先搬送体を伝動媒体として、その従動回転体の回転軸を介して直接駆動されており、かつ引き起し装置は、別ルートにより動力伝達されており、一方側の上穂先搬送体と一方側の引き起し装置との間に動力伝達部材が介在することがなく、一方側の引き起し装置の穀稈引き起し経路内に一方側の上穂先搬送体を臨ませて、上記引き起し経路内の穀稈を確実かつ正確に上穂先搬送体に受渡すことができ、かつ上穂先搬送体に長いタインを取付けることが可能となり、より確実に穀稈の穂先側を上穂先搬送体により搬送することができる。
【0024】
請求項2に係る本発明によると、脱穀機の供給口から遠くかつ横方向に穀稈を搬送する、一方側の穂先搬送体及び上穂先搬送体の搬送速度が、他方側の穂先搬送体及び上穂先搬送体の搬送速度より速いので、一方側の穂先搬送体及び上穂先搬送体が穀稈の搬送遅れを生じることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面に沿って本発明の一実施形態のコンバインを説明する。本実施形態のコンバインは、クローラ式走行装置13を採用して、6条刈りの前処理部16を搭載しているが、本発明のコンバインは、クローラ式以外の走行装置を採用してもよく、6条刈り以外の前処理部を搭載してもよい。
【0026】
<コンバイン>
図1は本発明の一実施形態であるコンバインを側面から見た断面図、図2はコンバインの前方部分を上方から見た平面図である。図1に示すように、本実施形態のコンバイン10の走行機体11は、左右一対のクローラ式走行装置13によって支持され、湿地帯や凹凸のある植付圃場でも走行可能である。走行機体11の後部には、刈り取った穀稈から穀粒等を分離する脱穀機12が搭載され、走行機体11の前部には、植立穀稈を刈り取る刈刃装置31を装備した前処理部16が配置されている。
【0027】
コンバイン10の進行方向右側に片寄せて運転席14が配置され、運転席14の後方に、脱穀機12で分離された穀粒等を一時貯留する不図示の貯留タンクや貯留タンクから穀粒等を外部へ取り出す不図示のオーガ(スクリュー搬送機構)等が設けられている。脱穀機12の進行方向左側面には、刈り取った穀稈を配列状態で挟持搬送して脱穀機12の供給口18へ穀稈を供給する脱穀フィードチェーン15が取り付けられている。
【0028】
図2に示すように、前処理部16は、3対6基の引き起し装置22A、22B、22Cを有し、引き起し装置22A、22B、22Cの前方に分草ディバイダ21を配置している。進行方向右側の一対の引き起し装置22Aは、所定間隔で棒状爪(タイン)22nを取り付けた爪付きチェーン22mを循環させて、分草ディバイダ21で条ごとに梳き分けた植立穀稈を起立状態に梳き上げる。引き起し装置22Aは、一対の引き起し装置22Aの間隔へ棒状爪22nを突出させて下から上へと移動させる一方、爪付きチェーン22mの下降過程では棒状爪22nをケース22dの内側へ機械的に引き込む。
【0029】
なお、中央の一対の引き起し装置22Bおよび進行方向左側の一対の引き起し装置22Cも同様に構成されており、同様に機能する。また、一対の引き起し装置22A、22B、22Cのうち左側のものは棒状爪22nを図示略しているが、右側のものと同様に棒状爪22nを備えて循環させている。そして、右側のものも棒状爪22nを一部間引いて図示している。
【0030】
<前処理部>
図3は前処理部の構成を示す側面から見た断面図、図4は前処理部の構成を示す平面図、図5は前処理部の各部を作動させる駆動力伝達機構の説明図である。
【0031】
図3に示すように、前処理部16は、その全体が伝導縦ケース42Eに支持されており、軸41aを中心にして回動されて先端側を昇降可能である。伝導縦ケース42Eの先端側には、分草ディバイダ21および刈刃装置31を支持するナローガイド21dが取り付けられている。
【0032】
引き起し装置22Aの内側には、下から、掻き込みスターホイル32A、掻き込みベルト33A、右株元搬送体34A(図3ではスプロケット)、右穂先搬送体35A、右上穂先搬送体36Aの各機構が配置されている。
【0033】
図4に示すように、運転席14の前方を横切って右株元搬送体34Aが配置されている。刈刃装置31で刈り取られた穀稈は、カバー39に持たせ掛けて穂先部分を支持されつつ、併走する右株元搬送体34A、右穂先搬送体35A、および右上穂先搬送体36Aによって、後方の供給口18へ向かって搬送される。刈刃装置31は、左右方向へ往復移動可能な一対の刈刃部材を備え、不図示の駆動機構によって一対の刈刃部材を相対移動させることにより、バリカン式に植立穀稈を刈り取る。
【0034】
一対の掻き込みベルト33Aは、突出/引き込みが可能な棒状爪(掻き込み爪)を所定ピッチで取り付けた爪付き搬送ベルトを、一対の引き起し装置22Aの中心後方へ向かって循環させており、一対の引き起し装置22Aによって植付圃場に起立させた植立穀稈を一対の掻き込みスターホイル32Aの噛み合わせへと掻き込む。
【0035】
掻き込みスターホイル32Aは、掻き込みベルト33Aに連動して内側後方へ向かって回転しており、左右の掻き込みベルト33Aが掻き寄せた2条分の植立穀稈の株元を左右から挟み込んで刈刃装置31による刈り取りを助けるとともに、刈り取られた植立穀稈の株元を、後方へ持ち上げつつ搬送して、右株元搬送体34Aとガイド34gの間に押し込む。
【0036】
右株元搬送体34Aは、連結された駒の各プレートに穀稈断面を係止する切り込みを形成した搬送用チェーンで構成され、不図示のバネ部材によって近接方向に付勢されたガイド34gとの間に穀稈の株元側を挟持してその循環方向に搬送する。
【0037】
右穂先搬送体35Aは、突出/引き込みが可能な棒状爪(搬送爪)を所定ピッチで取り付けた爪付きチェーンで構成され、脱穀フィードチェーン15(図1)へ向かう往路では棒状爪を突出させ、先端側へ向かう復路では棒状爪を引き込む。右穂先搬送体35Aは、右株元搬送体34Aと連動して循環し、右株元搬送体34Aによって株元側を挟持された穀稈の穂先側を棒状爪の間に緩く保持する。
【0038】
右上穂先搬送体36Aもまた、突出/引き込みが可能な棒状爪(搬送爪)を所定ピッチで取り付けた爪付きチェーンで構成され、右穂先搬送体35Aと連動して循環し、右穂先搬送体35Aよりも穂先側で穀稈を緩く保持する。
【0039】
こぎ深さ搬送体37は、右株元搬送体34Aと同様に形成された搬送用チェーン(図7参照)であって、対向配置されたガイド38gとの間に穀稈の株元側を挟持してその循環方向に搬送する。こぎ深さ搬送体37は、搬送穀稈の平面内で搬送穀稈の移動方向に対して傾斜して配置(図7参照)され、その傾斜角度が調整可能である。こぎ深さ搬送体37は、右株元搬送体34Aから受け渡された穀稈を株元搬送体38へ向かって搬送しつつ傾斜に沿って株元側へ引っ張ることにより、穀稈の傾きを減らして姿勢を揃える。
【0040】
こぎ深さ搬送体37は、右株元搬送体34Aから受け渡された穀稈をより穂先側に近い位置で株元搬送体38に挟持させるが、その傾斜角度を変更することによって、株元搬送体38による挟持位置から穂先までの長さ、つまり、脱穀フィードチェーン15へ受け渡した際の穂先の位置(脱穀機12によるこぎ深さ)を調整可能である。
【0041】
なお、引き起し装置22Bの間隔に配置された掻き込みベルト33B、掻き込みスターホイル32B、および引き起し装置22Cの間隔に配置された掻き込みベルト33C、掻き込みスターホイル32Cは、それぞれ引き起し装置22Aの間隔に配置された掻き込みベルト33A、掻き込みスターホイル32Aと同様に構成され、同様に機能する。
【0042】
また、中央状列の穀稈の株元を挟持搬送する中株元搬送体34B、および左条列の穀稈の株元を挟持搬送する左株元搬送体34Cは、右株元搬送体34Aと同様に形成して、右株元搬送体34Aに合流させて配置しており、それぞれのガイドとの間に挟持した穀稈を、右株元搬送体34Aによって搬送される穀稈に合流させる。
【0043】
また、中央状列の穀稈の穂先側を保持して搬送する中穂先搬送体35B、および左条列の穀稈の穂先側を保持して搬送する左穂先搬送体35Cは、それぞれ右穂先搬送体35Aと同様に形成して、右穂先搬送体35Aに合流させて配置しており、それぞれの棒状爪で保持して搬送される穀稈を右穂先搬送体35Aによって搬送される穀稈に合流させる。
【0044】
また、中穂先搬送体35Bの上方に配置された中上穂先搬送体36B、および左穂先搬送体35Cの上方に配置された左上穂先搬送体36Cは、それぞれ右上穂先搬送体36Aと同様に形成され、それぞれ中穂先搬送体35B、左穂先搬送体35Cに沿って穀稈の穂先側を保持搬送する。
【0045】
ただし、右穂先搬送体35A、右上穂先搬送体36Aによる搬送距離は、中穂先搬送体35B、中上穂先搬送体36Bによる搬送距離や、左穂先搬送体35C、左上穂先搬送体36Cによる搬送距離に比較して長いので、それぞれの搬送速度(搬送体循環速度)は、右穂先搬送体35Aの搬送速度=右上穂先搬送体36Aの搬送速度>中穂先搬送体35Bの搬送速度=中上穂先搬送体36Bの搬送速度>左穂先搬送体35Cの搬送速度=左上穂先搬送体36Cの搬送速度の関係に設定して、刈刃装置31によって同時に刈り取られた穀稈が、中穂先搬送体35B、左穂先搬送体35Cによって右穂先搬送体35Aの同じ位置に合流するようにしている。
【0046】
図5に示すように、駆動入力プーリー41には、不図示のトランスミッションから収穫速度(対地速度)に追従した回転速度の駆動力が入力され、引き起し装置22A、22B、22Cによる引き起し、掻き込みベルト33A、33B、33Cによる掻き込み、掻き込みスターホイル32A、32B、32Cによる挟み込み等を収穫速度に同調させる。駆動入力プーリー41に伝達された駆動力は、伝動縦ケース42E(図3)に収納された縦伝動軸42から、傘歯車機構43aによって、伝動横ケース43E(図3)に収納された水平伝導軸43へ伝達され、往復運動に変換されて刈刃装置31を駆動する。
【0047】
水平伝動軸43の回転は、伝動縦ケース44E(図3)に収納された縦伝動軸44から、傘歯車機構44aによって、伝動横ケース(図3)45Eに収納された水平伝動軸45へ伝達され、水平伝動軸45の回転が、傘歯車機構45a、45b、45c等を経て、3対6基の引き起し装置22A、22B、22Cへ分配される。
【0048】
縦伝動軸44の回転は、分岐軸47を経て、左株元搬送体34C、左穂先搬送体35C、左上穂先搬送体36Cを駆動する。循環する左株元搬送体34Cは、掻き込みスターホイル32Cを回転させ、相互に噛み合う掻き込みスターホイル32B、32Cを一体に回転させる。それぞれの掻き込みスターホイル32B、32Cの回転軸に取り付けたプーリー33eによって掻き込みベルト33B、33Cが駆動される。
【0049】
一方、縦伝動軸42の回転は、分岐軸46を経て中株元搬送体34B、中穂先搬送体35B、中上穂先搬送体36Bを駆動するとともに、分岐軸49を経て右株元搬送体34Aおよびこぎ深さ搬送体37を駆動する。循環する中株元搬送体34Bは、噛み合う一対の掻き込みスターホイル32Aを回転させ、掻き込みスターホイル32Aと同軸配置したプーリー33eによって掻き込みベルト33Aを循環させる。
【0050】
また、縦伝動軸42の回転は、傘歯車機構48aによって根元側の分岐軸48に分配され、傘歯車機構48bを経て駆動軸35fを回転させて株元搬送体38を循環させるとともに、駆動スプロケット35eと従動スプロケット35dに掛け回された右穂先搬送体35Aも循環させる。循環する右穂先搬送体35Aは、従動軸36fを経て駆動スプロケット36pを回転させ、右上穂先搬送体36Aを循環させる。
【0051】
<右上穂先搬送体>
図6は右上穂先搬送体の駆動系を側面側から見た斜視図、図7は右上穂先搬送体の駆動系を正面側から見た斜視図、図8は右上穂先搬送体の拡大された平面図である。図6〜図8では、機構の理解を容易にすべく、各搬送体、スプロケット、軸、棒状爪の一部の図示を省略している。
【0052】
図6に示すように、伝動縦ケース42Eに収納された縦伝動軸42(図5)の回転は、傘歯車機構48a(図5参照)を経て、分岐ケース48Eに収納された分岐軸48(図5)へ分岐される。分岐軸48の回転は傘歯車機構48b(図5参照)を経て駆動軸35fに伝達され、駆動スプロケット35eを回転させて、右穂先搬送体35Aを循環させる。循環する右穂先搬送体35Aは、従動スプロケット35dを経て従動軸36fを回転させて、右上穂先搬送体36Aを循環させる。
【0053】
伝動縦ケース42Eに収納された縦伝動軸42(図5)の回転は、分岐ケース49Eに収納された分岐軸49(図5)を経て右株元搬送体34Aを循環させる。循環する右株元搬送体34Aは、従動スプロケット34dを経て掻き込みスターホイル32Aおよび掻き込みベルト33Aを駆動する。
【0054】
図7に示すように、右穂先搬送体35Aの従動スプロケット35dは、従動軸36fによって右上穂先搬送体36A(図6)の駆動スプロケット36pと連結されており、右穂先搬送体35Aが循環すると、駆動スプロケット36pが回転して右上穂先搬送体36Aを循環させる。
【0055】
図8に示すように、一対の掻き込みベルト33Aは、掻き込み中心33iへ向かって穀稈を掻き込む。掻き込まれた穀稈は、一対の掻き込みスターホイル32Aの噛み合わせで保持されて株元側を刈刃装置31によって切断される。
【0056】
右上穂先搬送体36Aは、突出・引き込みが可能な棒状爪(搬送爪)36nをチェーン36mの駒に所定ピッチで取り付けた爪付きチェーンである。右上穂先搬送体36Aの棒状爪36nは、対向配置されたガイド36gと共働して穀稈を掻き込み、束ねて受け取る。チェーン36mは、駆動スプロケット36p、テンションスプロケット36r、およびアイドルスプロケット36qに掛け回されている。
【0057】
テンションスプロケット36rは、付勢機構36hによって外側へ付勢されてチェーン36mに張力を付与する。アイドルスプロケット36qは、掻き込み中心33iの後方に位置し、駆動スプロケット36pよりも大きく前方へ突き出し、穂先搬送体35Aの搬送面よりもさらに前方に配置される。一方、テンションスプロケット36rは、穂先搬送体35Aの搬送面よりも後方へ後退させて配置される。
【0058】
従って、図3に示すように、一対の引き起こし装置22Aの間隔の中心線上では、右上穂先搬送体36Aが右穂先搬送体35Aよりも前方へ突出して配置され、掻き込みベルト33Aによって掻き込まれた穀稈は、一対の引き起こし装置22Aによる支持を失う前に(または一対の引き起こし装置22Aの支持から離脱した直後に)右上穂先搬送体36Aによって穂先側の高い位置を保持され、その後(またはほぼ同時に)、その中間高さ位置を右穂先搬送体35Aによって保持される。
【0059】
本実施形態のコンバイン10では、右上穂先搬送体36A、中上穂先搬送体36B、左穂先搬送体36Cを設けたので、長稈の穀稈であっても、穂先側の搬送が遅れることなく、右株元搬送体34A、右穂先搬送体35A、右上穂先搬送体36A、中株元搬送体34B、中穂先搬送体35B、中上穂先搬送体36B、左株元搬送体34C、左穂先搬送体35C、左上穂先搬送体36Cにより、各条列の刈取り穀稈は、整然と脱穀機12に供給されて、高い精度で脱穀、選別作業を行うことができる。
【0060】
そして、脱穀機12の供給口18から離れている右上穂先搬送体36Aは、縦伝動軸42から、右穂先搬送体35Aを伝動媒体として、従動スプロケット35dから従動軸36fを介して直接駆動されており、かつ引き起し装置22Aは、別ルートにより動力伝達されており、右上穂先搬送体36Aと引き起し装置22Aとの間に動力伝達部材が介在することがなく、引き起し装置22Aの穀稈引き起し経路内に右上穂先搬送体36Aを臨ませて、引き起し経路内の穀稈を確実かつ正確に右上穂先搬送体36Aに受渡すことができ、かつ右上穂先搬送体36Aに長いタインを取付けることが可能となり、より確実に穀稈の穂先側を右上穂先搬送体36Aにより搬送することができる。
【0061】
本実施形態のコンバイン10では、脱穀機12の供給口18から遠くかつ横方向に穀稈を搬送する右穂先搬送体35A及び右上穂先搬送体36Aの搬送速度が、中穂先搬送体35B、中上穂先搬送体36B及び左穂先搬送体35C、左上穂先搬送体36Cの搬送速度より速いので、搬送距離の長い右穂先搬送体35A及び右上穂先搬送体36Aが穀稈の搬送遅れを生じることを防止できる。
【0062】
本実施形態のコンバイン10では、引き起し装置22Aに動力伝達する動力伝達系(水平伝動軸45以降)と無関係に右上穂先搬送体36Aを駆動するので、引き起し装置22Aの配置と無関係に、搬送性能を優先して右上穂先搬送体36Aを配置できるので、引き起し装置の配置に大きく影響される特許文献1、特許文献3に示される前処理部よりも、右上穂先搬送体36Aの搬送性能を最適化できる。
【0063】
具体的には、右上穂先搬送体36Aを前方から見た引き起し装置22Aの間隔の正面に、引き起し装置22Aに近接した位置に配置して、穀稈が引き起し装置22Aによって引き起されるとほぼ同時に右上穂先搬送体36Aで拘束して、起立状態、整列状態を乱すことなく右穂先搬送体35Aと右株元搬送体34Aとによる搬送に引き継がせることができる。
【0064】
また、右上穂先搬送体の循環する幅と長さを十分に確保でき、引き起し装置22Aとの間隔も十分に確保できるので、特許文献3に示される前処理部よりもはるかに大きな棒状爪(搬送爪)を採用でき、収穫速度を増すことへの対応も容易である。
【0065】
また、右穂先搬送体35Aと右上穂先搬送体36Aとの前端位置は、他の穂先搬送体(35B、35C)より後方であるため、穂先搬送体(35A)が穀稈をつかむタイミングが他(35B、35C)より遅れて穂先遅れが生じる。この穂先遅れを修正すべく、右穂先搬送体35A、右上穂先搬送体36Aの搬送速度を他の穂先搬送体(35B、35C)より高速に設定してあるので、穂先遅れがなくなり、搬送性能が向上した。
【0066】
また、特許文献1に示される前処理部よりも穂先搬送体35Aを後方にずらせて、右上穂先搬送体36Aと株元搬送体34Aとで保持した中間位置を少し遅れて穂先搬送体35Aにより保持させるので、穂先搬送体が上穂先搬送体よりも先行して穀稈を保持させる搬送機構に比較して、搬送される穀稈の姿勢が直線的となり、穂先の垂れ下がり、折れ曲がり、からみ付き等を減らして、穀稈の直立状態、整列状態が改善される。
【0067】
また、前処理部16を駆動する縦伝動軸42の根元側から動力を取り出して右上穂先搬送体36Aを駆動するので、縦伝動軸42の下流側の駆動機構は、右上穂先搬送体36Aの負荷を受けなくて済み、先行的な保持によって右上穂先搬送体36Aが増大するにもかかわらず、駆動軸(42、43、45、45c)や軸ケース(42E)、傘歯車機構(43a、44a、45a、45b)や歯車ケースを小型化して、伝達効率の高い軽量小型の駆動系を設計できる。また、軸ケースや歯車ケースの小型化によって前処理部16の全体的な機器配置の自由度が増して、見通し性やメンテナンス性の良い前処理部の設計が可能となる。
【0068】
また、特許文献2、特許文献3では従動循環して搬送を担う作業部材に過ぎない右穂先搬送体35Aを駆動力伝達部材に兼用して、右上穂先搬送体36Aを駆動させるので、縦伝動軸42に新たな動力分岐を追加することなく、また、専用の動力伝達部材を追加することなく、駆動力伝達系の全体を構成して、部品点数を減らすとともに、高効率に運転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態であるコンバインを側面から見た断面図である
【図2】コンバインの前方部分を上方から見た平面図である。
【図3】前処理部の構成を示す側面から見た断面図である。
【図4】前処理部の構成を示す平面図である。
【図5】前処理部の各部を作動させる駆動力伝達機構の説明図である
【図6】右上穂先搬送体の駆動系を側面側から見た斜視図である。
【図7】右上穂先搬送体の駆動系を正面側から見た斜視図である。
【図8】右上穂先搬送体の拡大された平面図である。
【符号の説明】
【0070】
10 コンバイン
11 走行機体
12 脱穀機
16 前処理部
18 供給口
22A、22B、22C 引き起し装置
33A、33B、33C 掻き込み装置(掻き込みベルト)
33e 中心位置(掻き込み中心)
34A 一方側の株元搬送体(右株元搬送体)
34B 中株元搬送体
34C 他方側の株元搬送体(左株元搬送体)
35A 一方側の穂先搬送体(右穂先搬送体)
35B 中穂先搬送体
35C 他方側の穂先搬送体(左穂先搬送体)
35d 従動回転体(従動スプロケット)
35e 入力回転体(駆動スプロケット)
36A 一方側の上穂先搬送体(右上穂先搬送体)
36B 中上穂先搬送体
36C 他方側の上穂先搬送体(左上穂先搬送体)
36p 回転体(駆動スプロケット)
36q 回転体(アイドルスプロケット)
36r 従動回転体(テンションスプロケット)
36f 回転軸(従動軸)
42 縦伝動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱穀機を搭載した走行機体の前方に、多条列の穀稈を刈取ると共に該刈取った穀稈を前記脱穀機に向けて搬送する前処理部を支持してなる、コンバインにおいて、
前記前処理部は、多数の引き起し装置と、
少なくとも一方側及び他方側の株元搬送体、穂先搬送体及び上穂先搬送体と、
前記走行機体からの動力が前記前処理部に伝達される縦伝動軸と、を有し、
前記一方側の穂先搬送体は、前記縦伝動軸から直接分岐した伝動系から入力する入力回転体と、一方側の先端部に位置する従動回転体との間に巻回されて、一方側の先端部から前記脱穀機の供給口まで延びると共に、その中間位置にて他方側の穂先搬送体により搬送された穀稈を合流して、刈取り穀稈を前記脱穀機に向けて搬送してなり、
前記一方側の上穂先搬送体は、前記従動回転体と一体の回転軸に固定された回転体と、従動回転体との間に巻回されてなる、
ことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記一方側の穂先搬送体及び上穂先搬送体の搬送速度が、前記中間及び他方側の穂先搬送体及び上穂先搬送体の搬送速度より速くなるように設定した、
請求項1記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−34(P2007−34A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181417(P2005−181417)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】