説明

コンバイン

【課題】冷却ファンの起風(吸引)する冷却風が、ラジエータを通過した後にエンジンを冷却しながら熱風となり、しかる後に脱穀部の前側近傍に排風されるサクション式のエンジン冷却風路を有するコンバインにおいて、手扱ぎ作業を行なう作業者に熱風状態の冷却風が直接当たり、作業者がその暑さを感じるといった問題点を解消する。
【解決手段】エンジン冷却風路Aにおけるエンジン14の下流側に、穀稈を刈取る前処理部4に駆動系に連動して回転する排風ファン57を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サクション式のエンジン冷却風路を有するコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコンバインでは、運転席下方のエンジンルーム内にラジエータと、冷却(吸引)ファンを備えるエンジンを機体の左右方向に並べて配設すると共に、エンジンルームの外側にエンジンカバーを設け、このエンジンカバーに防塵網を張設した吸風口から、エンジンルームの内方に向けてエンジン冷却風を吸入するように構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−287332号公報(第3−4頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そして、上述した従来のコンバインは、穀稈を刈取って搬送する前処理部、該前処理部で刈取った穀稈から穀粒を脱穀して選別処理する脱穀部、脱穀済みの排藁を切断処理する後処理部、及びクローラ走行装置等を備えて構成されており、このように構成されるコンバインの通常作業では、前記穀稈の刈取りから排藁の切断処理まで自動的に行われるが、圃場の各所に刈り残された穀稈を手刈りしたものや、圃場の四隅等で手刈りした穀稈を脱穀部に投入する手扱ぎ作業を行うことができ、その際、作業者は、脱穀部の前側近傍の側方に立ち、脱穀フィードチェンの始端部に手刈り茎稈を手持ち供給することによって手扱ぎ作業を行なっている。
【0005】
しかし、従来のコンバインでは、冷却ファンの起風(吸引)する冷却風が、ラジエータを通過した後にエンジンを冷却しながら熱風となり、しかる後に脱穀部の前側近傍に排風される、所謂サクション式のエンジン冷却風路を形成しているので、手扱ぎ作業を行う作業者に熱風状態の冷却風が直接当たり、作業者がその暑さを感じるといった問題点を有していた。一方、手扱ぎ作業中の作業者に熱風状態の冷却風が直接当たらないように遮蔽カバー等を設けた場合は、冷却風の排風される方向が変わって上方への排風量が増え、今度は操縦部の機体内方側カバー等が熱風状態の冷却風により熱せられて、オペレータに不快感を与えてしまうといった不具合が起こることもあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として創案したものであって、エンジンルーム内に設けたラジエータの下流側に冷却ファンを備えるエンジンを配置し、前記冷却ファンの起風する冷却風によってサクション式のエンジン冷却風路を形成してなるコンバインにおいて、前記エンジン冷却風路におけるエンジンの下流側に、穀稈を刈取って搬送する前処理部の駆動系に連動して回転する排風ファンを設けたことを第1の特徴としている。
そして、前記排風ファンを、前処理部の入力軸の機体内方側軸端に設けたことを第2の特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、サクション式のエンジン冷却風路を形成してなるコンバインにおいて、前記エンジン冷却風路におけるエンジンの下流側に、穀稈を刈取って搬送する前処理部の駆動系に連動して回転する排風ファンを設けたことによって、圃場内に植立する穀稈の刈取りから排藁の切断処理まで自動的に行なうコンバインの通常作業時は、前記エンジンの下流側、即ち冷却風路の略終端部に設けた排風ファンによって熱風状態の冷却風を脱穀部の前側近傍に強制的に排風することができ、この冷却風の流れにより、操縦部の左側パネル周辺が熱せられ難くなるのでコンバインのオペレータに不快感を与ることがない。また、前記排風ファンの排風能力に略相当する冷却ファンの起風能力を低減させることが可能であり、このように起風能力を低減させた冷却ファンを採用すると、手扱ぎ作業時は、前処理部を停止させて行なうので、この時、前処理部の駆動系に連動して回転する排風ファンが停止し、しかも冷却ファンの起風(吸引)する冷却風の風量が減少するので、手扱ぎ作業を行う作業者に熱風状態の冷却風が当たり難くなり、手扱ぎ作業中に作業者が暑さを感じるといった従来の問題点を解消することができる。更に、圃場内に植立する穀稈の刈取りと脱穀作業を行なわない非作業時(路上走行を含む)は、上述の如く冷却ファンの吸引する冷却風の風量が減少することにより、エンジンルームの外側に設けた側方カバーの防塵網に藁屑等のダストが付着し難くなる。また、例えば圃場内に植立する穀稈の刈取りと脱穀作業を高速で行なう高負荷作業時においても、エンジンに備える冷却ファンと前処理部の駆動系に連動して回転する排風ファンによって十分なエンジンの冷却性能を確保することができる。
そして、請求項2の発明によれば、前記排風ファンを、前処理部の入力軸の機体内方側軸端に設けたことによって、前処理部に連動して排風ファンを回転駆動させることができると共に、エンジン冷却風路の終端部における排風の流れ方向を殆ど変化させることなく、効率的なサクション式のエンジン冷却風路を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】コンバインの斜視図。
【図2】一部を省略したコンバインの平面図。
【図3】コンバインの伝動図。
【図4】エンジン周辺の斜視図。
【図5】一部を省略したエンジン周辺の正面図。
【図6】一部を省略したエンジン周辺の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
図1及び図2は、コンバイン1の斜視図と平面図であって、コンバイン1は左右一対のクローラ走行装置2,2を備えており、このクローラ走行装置2,2に機体フレーム3を支持し、該機体フレーム3の一側前部に穀稈を刈取る前処理部4を昇降自在に架設すると共に、その後方には、前処理部4で刈取った穀稈から穀粒を脱穀して選別処理する脱穀部5を搭載している。一方、機体フレーム3の他側前部には、オペレータが着座する運転席6や操向操作具であるマルチステアリングレバー7、及び主変速レバー8等の各種操作具を配設した操縦部9を備えている。
【0011】
そして、操縦部9の後方には、脱穀部5において脱穀と選別処理がなされた穀粒を一時的に貯留する穀粒タンク11が設けてあり、この穀粒タンク11内に一時的に貯留された穀粒は、穀粒タンク11の後側底部に連通する図示しない縦搬送パイプを経て、起伏及び回動動作自在な穀粒排出オーガ12の排出口12aから機外に排出できるようになっている。更に、脱穀部5と穀粒タンク11の後方には、排藁処理装置(カッタ)13を設けている。
【0012】
また、図3は、コンバイン1の伝動図であって、エンジン14の出力軸14aには、このエンジン14の動力を前処理部用伝動ケース15と脱穀部5に出力する作業機出力プーリ16と、走行用の動力を走行用静油圧式無段変速装置(以下走行用HSTとする)17に出力する走行出力プーリ18とを取付けてある。
【0013】
そして、前処理部用伝動ケース15の入力軸19に設けた入力プーリ21と作業機出力プーリ16との間には、Vベルト22を巻き掛けると共に両プーリ16,21の間にベルトテンション式の脱穀(作業機)クラッチ23を設けている。また、走行用HST17の入力軸24に設けた入力プーリ25と走行出力プーリ18との間には、Vベルト26を巻き掛けてあり、エンジン14の動力は、脱穀クラッチ23を介して入り切り自在に前処理用伝動ケース15に伝達される一方、走行用HST17にも伝達されるようになっている。
【0014】
そして、前処理用伝動ケース15の入力軸19の軸端に設けたプーリ27と、脱穀部5に備える唐箕ファン28の唐箕軸28aに設けたプーリ29との間には、Vベルト31が巻き掛けてあり、このVベルト31を介して唐箕ファン28が回転駆動すると共に、唐箕軸28aに伝達された動力によって脱穀部5の扱胴32や、脱穀部5で脱穀された後の排藁を排藁処理装置13に後送する図示しない排藁搬送装置等が駆動されるようになっている。
【0015】
また、前処理用伝動ケース15に入力された動力は、この前処理用伝動ケース15に一体的に設けた前処理用静油圧式無段変速装置(以下前処理用HSTとする)33に入力される。前処理用HST33に入力された動力は、該前処理用HST33によって任意に変速されると共に、前処理用伝動ケース15内でも変速がなされて脱穀フィードチェン駆動軸34と前処理駆動軸35に出力される。
【0016】
そして、脱穀フィードチェン駆動軸34に出力された動力は、この脱穀フィードチェン駆動軸34の軸端に設けた駆動スプロケット36に伝達されるようになっており、これによって脱穀フィードチェン37が回転駆動し、前処理部4側から受け継いだ穀稈を脱穀部5に供給することができる。
【0017】
また、前処理駆動軸35の軸端には、前処理出力プーリ38を設けてあり、この前処理出力プーリ38と前処理部4へ動力を入力する入力プーリ39との間に巻き掛けたVベルト41と、両プーリ38,39の間に設けたベルトテンション式の前処理クラッチ42を介して、前処理部4に動力が入り切り自在に伝達されるようになっている。
【0018】
以上説明した伝動構成により、コンバイン1は、エンジン14から出力される動力により左右一対のクローラ走行装置2,2、前処理部4、及び脱穀部5等が駆動する。即ち、操縦部9に搭乗するオペレータの運転操作により、左右一対のクローラ走行装置2,2を駆動させて圃場内を走行しながら、圃場内に植立する穀稈の刈取りと脱穀作業を自動的に行なうことができるようになっている。
【0019】
また、図4は、エンジン14周辺の斜視図、図5は、一部を省略したエンジン14周辺の正面図、図6は一部を省略したエンジン14周辺の平面図であって、オペレータが着座する運転席6の下方には、略箱状のエンジンルーム46が形成してあり、このエンジンルーム46内の機体フレーム3上に、ラジエータ47と、冷却(吸引)ファン48を備えるエンジン14を機体の左右方向に並べて配設すると共に、エンジンルーム46の外側に側方カバー49を設け、この側方カバー49に防塵網51を張設した吸風口から、冷却ファン48の起風(吸引)する冷却風が、前記ラジエータ47を通過した後にエンジン14を冷却しながら熱風となり、しかる後に脱穀部5の前側近傍に排風されるように、図中に矢印で示すようなサクション式のエンジン冷却風路Aを形成している。尚、図中符号52は、ラジエータ47の上流側(外側)に設けられるオイルクーラーである。
【0020】
そして、前処理部4へ動力を入力する入力プーリ39が固設されている入力軸56の機体内方側軸端には、前処理部4の駆動系に連動して回転する排風ファン57を取り付けている。つまり、この排風ファン57は、上述したエンジン冷却風路Aにおけるエンジン14の下流側、換言するとエンジン冷却風路Aの略終端部に設けられており、穀稈を刈取って搬送する前処理部4の駆動系に連動して回転または停止する。
【0021】
更に詳しく説明すると、圃場内に植立する穀稈の刈取りから排藁の切断処理まで自動的に行なうコンバイン1の通常作業時は、エンジン冷却風路Aにおけるエンジン14の下流側、即ちエンジン冷却風路Aの略終端部に設けた排風ファン57によって、熱風状態の冷却風が上方に吹き上がることなく強制的に脱穀部5の前側近傍に排風され、この冷却風の流れにより、例えば操縦部9の左側パネル9a周辺、即ち機体内方側のカバー等が熱せられ難くなるのでコンバイン1のオペレータに不快感を与ることがない。
【0022】
また、手扱ぎ作業は、作業者が脱穀部5の前側近傍の側方に立ち、脱穀フィードチェン37の始端部に手刈り茎稈を手持ち供給することによって手扱ぎ作業を行なっているが、
排風ファン57の排風能力に略相当する冷却ファン48の起風能力を低減させることが可能であり、このように起風能力を低減させた冷却ファン48を採用すると、手扱ぎ作業時は、前処理部4を停止させて行なうので、この時、前処理部4の駆動系に連動して回転する排風ファン57が停止し、しかも冷却ファン48の起風(吸引)する冷却風の風量が減少するので、手扱ぎ作業を行う作業者に熱風状態の冷却風が当たり難くなり、手扱ぎ作業中に作業者が暑さを感じるといった従来の問題点を解消することができる。
【0023】
そして、上述した排風ファン57を、前処理部4の入力軸56の機体内方側軸端に設けたことによって、前処理部4の駆動系に連動して回転させることができると共に、エンジン冷却風路Aの終端部における排風の流れ方向を殆ど変化させることなく効率的なサクション式のエンジン冷却風路Aを形成することができる。
【0024】
以上説明したように、エンジン14に備える冷却ファン48の起風する冷却風によってサクション式のエンジン冷却風路Aを形成すると共に、該エンジン冷却風路Aにおけるエンジン14の下流側に、穀稈を刈取って搬送する前処理部4の駆動系に連動して回転する排風ファン57を設けることによって、この排風ファン57の排風能力に略相当する冷却ファン48の起風能力を低減させることが可能であり、このように起風能力を低減させた冷却ファン48を採用すると、手扱ぎ作業時は、前処理部4を停止させて行なうので、この時、前処理部4の駆動系に連動して回転する排風ファン57が停止し、しかも冷却ファン48の起風(吸引)する冷却風の風量が減少するので、手扱ぎ作業を行う作業者に熱風状態の冷却風が当たり難くなり、手扱ぎ作業中に作業者が暑さを感じるといった従来の問題点を解消することができる。更に、圃場内に植立する穀稈の刈取りと脱穀作業を行なわない非作業時(路上走行を含む)は、上述の如く冷却ファン48の吸引する冷却風の風量が減少することにより、エンジンルーム46の外側に設けた側方カバー49の防塵網51に藁屑等のダストが付着し難くなる。また、例えば圃場内に植立する穀稈の刈取りと脱穀作業を高速で行なう高負荷作業時においても、エンジン14に備える冷却ファン48と前処理部4の駆動系に連動して回転する排風ファン57によって十分なエンジン14の冷却性能を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、サクション式のエンジン冷却風路を有する建設作業機械等にも応用可能である。
【符号の説明】
【0026】
4 前処理部
14 エンジン
46 エンジンルーム
47 ラジエータ
48 冷却ファン
56 入力軸
57 排風ファン
A エンジン冷却風路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルーム(46)内に設けたラジエータ(47)の下流側に冷却ファン(48)を備えるエンジン(14)を配置し、前記冷却ファン(48)の起風する冷却風によってサクション式のエンジン冷却風路(A)を形成してなるコンバインにおいて、前記エンジン冷却風路(A)におけるエンジン(14)の下流側に、穀稈を刈取って搬送する前処理部(4)の駆動系に連動して回転する排風ファン(57)を設けたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記排風ファン(57)を、前処理部(4)の入力軸(56)の機体内方側軸端に設けた請求項1に記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−178688(P2010−178688A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25826(P2009−25826)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】