説明

コンバイン

【課題】コンバインで手こぎ作業を効率的に行う。
【解決手段】刈取搬送部の穀稈搬送装置13と脱穀フィードチェン34の挟扼レール35との間に設けた継送レール44を前側の第1継送レール45と後側の第2継送レール46に分割し、第2継送レール46の穀稈挟持力を挟扼レール35の穀稈挟持力より弱くすると共に、第1継送レール45を挟持姿勢イから上方の退避姿勢ロに切り換えた状態で、第2継送レール46の始端部に作業者が手刈り穀稈を供給可能に構成した。また、挟持姿勢イで第1継送レール45の後部45aを第2継送レール46と重合させた。また、脱穀部4の前部に設けた緊急スイッチ43の操作により、脱穀フィードチェン34の駆動を停止させると同時に、第2継送レール46及び挟扼レール35の挟持状態を解除させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインにおいて、特に手刈りした穀稈を脱穀部に供給して脱穀処理する手こぎ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脱穀部の脱穀フィードチェンの始端位置に、脱穀フィードチェン上部に近接して穀稈を挟持搬送する茎稈押圧杆(穀稈供給ガイド)を設け、該茎稈押圧杆を脱穀フィードチェンに対して上方に大きく回動離間した非挟持姿勢に切り換えて、手刈りした穀稈を脱穀フィードチェンの挟扼レール始端部に人手により直接供給し、手刈り穀稈を脱穀フィードチェンと挟扼レールにより挟持搬送させながら脱穀処理するようにした手こぎ装置は既に知られている。(例えば、特許文献1〜3参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−255254号公報
【特許文献2】特開2000−139177号公報
【特許文献3】特開平11−178429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般的に、刈取作業において、脱穀フィードチェンと挟扼レールで挟持搬送される穀稈が脱穀部の扱室内で回転する扱胴により引き抜かれないように、挟扼レールは脱穀フィードチェンに向けて強い弾性力で押圧され、その挟持力は強く設定されているから、手こぎ作業者が、挟扼レールの始端部に手刈りした穀稈を供給する時、誤って衣服等の異物を挟み込んでしまうと、上記強い挟持力のために、これを素早く抜き取ることがでない問題がある。
【0005】
また、上記特許文献2に記載されているように、脱穀部入口側に緊急停止スイッチを設け、脱穀フィードチェンと挟扼レールの間に衣服等の異物を挟み込んだ時、緊急停止スイッチを操作してエンジンや脱穀フィードチェンを停止させるものも知られているが、手刈り穀稈を供給する挟扼レールの挟持始端部から後方の扱室内の扱胴までの搬送距離が極めて短く、作業者が異常に気が付いて緊急停止スイッチを押した時には、スイッチ操作が間に合わず、挟み込んだ異物が既に扱胴部位まで搬送されて回転する扱胴と接触してしまう問題がある。
【0006】
また、上記特許文献2のものは、緊急停止スイッチを押して脱穀フィードチェンを停止させても脱穀フィードチェンと挟扼レールは挟持状態のままであるから、挟み込んだ異物を早急に取り除くことができない問題がある。
本発明の目的は上記従来の問題点を改善する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、走行装置2に支持された機台1の前方に刈取搬送部3を装着し、その後方の機台1上に脱穀部4を搭載し、刈取搬送部3の穀稈搬送装置13で搬送された穀稈を脱穀部4の脱穀フィードチェン34と挟扼レール35で挟持搬送しながら、穀稈の穂先側を扱室30内に供給して扱室30内に軸架した扱胴32により脱穀処理するコンバインにおいて、脱穀フィードチェン34を挟扼レール35の始端より前方に延設して延設部34aを構成し、刈取搬送部3の穀稈搬送装置13の終端部と挟扼レール35の始端部の間で上記脱穀フィードチェン34の延設部34aの上方に継送レール44を対設し、穀稈搬送装置13で搬送された穀稈を、脱穀フィードチェン34の延設部34aと継送レール44で引き継ぎ挟持搬送して後方の挟扼レール35に受け渡すように構成する一方、継送レール44を前側の第1継送レール45と後側の第2継送レール46に分割し、第2継送レール46と脱穀フィードチェン34による穀稈挟持力を挟扼レール35と脱穀フィードチェン34による穀稈挟持力より弱く設定すると共に、第1継送レール45を脱穀フィードチェン34の延設部34a上に対向した挟持姿勢イと脱穀フィードチェン34の延設部34a上から離間した退避姿勢ロとに切り換え自在に構成し、第1継送レール45を退避姿勢ロに切り換えた状態において、第2継送レール46の始端部に作業者が手刈り穀稈を供給可能となして、第2継送レール46の始端部に供給された手刈り穀稈を、脱穀フィードチェン34の延設部34aと第2継送レール46で挟持搬送して挟扼レール35の始端部に受け渡すように構成したことを特徴とする。
【0008】
また、第1継送レール45を挟持姿勢イに切り換えた状態で、第1継送レール45の後部45aが第2継送レール46と搬送方向で重合するように構成したことを特徴とする。
【0009】
また、脱穀部4の前部で脱穀フィードチェン34側の外側に緊急スイッチ43を設け、該緊急スイッチ43の操作により脱穀フィードチェン34の駆動を停止させると同時に、脱穀フィードチェン34に対して第2継送レール46及び挟扼レール35を離間作動させてその挟持状態を解除するように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記請求項1に記載した発明は、継送レール44を前側の第1継送レール45と後側の第2継送レール46に分割し、第1継送レール45を脱穀フィードチェン34上から離間した退避姿勢ロに切り換えることにより、作業者が手刈り穀稈を第2継送レール46の始端部に直接供給して、手こぎ作業を可能とするものでありながら、第2継送レール46と脱穀フィードチェン34による穀稈挟持力を挟扼レール35と脱穀フィードチェン34による穀稈挟持力より弱く設定したから、手こぎ作業中に誤って第2継送レール46と脱穀フィードチェン34との間に衣服等が挟み込まれても、その挟持力は弱いから反射的に手を引けば抜き取ることができて、安全である。
また、従来の脱穀フィードチェンの挟扼レール始端部(挟持開始位置)に手刈り穀稈を供給するものに比べ、第2継送レール46の始端部の挟持開始位置から扱室30内の扱胴32までの搬送距離を長くすることができ、挟み込まれた異物が扱胴32に到達するまでの時間を長くして、挟み込まれた異物を、それが回転する扱胴32に接触するまでにより確実に抜き取ることができる。
また、脱穀部4入口側に脱穀フィードチェン34の駆動等を停止させる緊急スイッチ43を設けた場合においても、挟み込まれた異物が扱胴32に接触するまでに緊急スイッチ43を操作することができる。
【0011】
また、請求項2に記載した発明では、第1継送レール45を挟持姿勢イに切り換えたとき、第1継送レール45の後部45aが第2継送レール46と搬送方向で重合するようにしたから、第1継送レール45を退避姿勢ロに切り換えた手こぎ状態では、第2継送レール46のみで穀稈を挟持してその穀稈挟持力を弱めて前述の効果を奏するものでありながら、刈取作業では第1継送レール45を挟持姿勢イに切り換え、第1継送レール45の後部45aと第2継送レール46の両者で穀稈を挟持することにより穀稈挟持力を高め、挟持力不足による搬送乱れ等を防止できる。
【0012】
また、請求項3に記載した発明では、衣服等の異物が挟み込まれた場合、手こぎ作業者は緊急スイッチ43を操作することにより、脱穀フィードチェン34の駆動を停止させて挟み込まれた衣服等のそれ以上の後方への搬送を阻止できると同時に、脱穀フィードチェン34に対して第2継送レール46及び挟扼レール35を離間作動させてその挟持状態を解除することにより、挟み込まれた状態を素早く解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施例の脱穀部を搭載したコンバインの左前方斜視図である。
【図2】同上脱穀部の左側面図である。
【図3】同上脱穀部の正面図である。
【図4】同上脱穀部の継送レール付近の拡大正面図である。
【図5】コンバインの伝動系統図である。
【図6】第1若しくは第2実施例の脱穀部を搭載したコンバインの制御ブロック図である。
【図7】同上コンバインの搬送・手こぎ制御のフローチャート図である。
【図8】コンバインの走行速度と脱穀フィードチェン及び刈取搬送速度との関係を示すグラフである。
【図9】第2実施例の脱穀部の左側面図である。
【図10】同上脱穀部の正面図である。
【図11】第3実施例の脱穀部の左側面図である。
【図12】第4実施例の脱穀部の左側面図である。
【図13】第5実施例の脱穀部の左側面図である。
【図14】同上脱穀部の正面図である。
【図15】同上脱穀部を搭載したコンバインの搬送・手こぎ制御のフローチャート図である。
【図16】第6実施例の脱穀部の左側面図である。
【図17】同上脱穀部の正面図である。
【図18】同上脱穀部を搭載したコンバインの搬送・手こぎ制御のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を図1〜18に基づいて説明する。
図1に基づいて本発明を採用したコンバインの基本的構造を説明すると、符号1はコンバインの機台を示し、機台1の下部にクローラ式の走行装置2が備えられ、機台1の前方に刈取搬送部3が上下回動昇降自在に装着され、刈取搬送部3の後方の機台1上に、刈取搬送部3で刈取り搬送された穀稈を受け継ぎ脱穀選別処理する脱穀部4が搭載され、脱穀部4の後方に脱粒済みの排藁を切断処理する藁処理部5が備えられている。
【0015】
機台1の右側前方(機体の前進方向を基準にして右側前方)には運転操作部6が備えられ、その後方に脱穀部4で選別された穀粒を貯留する穀粒タンク7が並設されている。符号8は穀粒タンク7に貯留された穀粒を機外の運搬車等に排出する穀粒排出オーガを示し、穀粒排出オーガ8の下端は穀粒タンク7に連通し、穀粒排出オーガ8は水平回動自在でかつ起伏自在に構成されている。
【0016】
次に、図1〜8に基づき第1実施例の脱穀部を搭載したコンバインの構造を説明する。
刈取搬送部3は、圃場に立植した穀稈を分草する分草体10、分草された穀稈を引き起こす引起装置11、刈刃12、及び刈刃12で刈り取られた穀稈を後方の脱穀部4まで搬送する穀稈搬送装置13等により構成されている。
運転操作部6は、運転座席20の前方に配置した前方操作パネル21と、運転座席20の左側方に配置した側方操作パネル22と、両操作パネル21、22上に突設された各種操作レバー、及び各種操作スイッチを有している。
即ち、前方操作パネル21には、機体の左右操向操作と刈取搬送部3の上下昇降操作を司る操向レバー23が設けられ、側方操作パネル22には、前側に走行速度を変速する走行主変速レバー24と走行副変速レバー25が、その後方で運転座席20の左側方に刈取搬送部3の駆動を入切する刈取クラッチレバー26と脱穀部4の駆動を入切する作業機クラッチレバー27(脱穀クラッチレバー)が並設されている。また、走行副変速レバー25の左側には手こぎスイッチ28が設けられている。
【0017】
脱穀部4は、扱室30を有し、該扱室30には多数の扱歯31を植設した扱胴32が内装軸架されており、扱室30の下側外周には受網33が張設されている。
扱室30の左外側には脱穀フィードチェン34が固設され、該脱穀フィードチェン34の上側には挟扼レール35が対設され、刈取搬送部3で刈取り搬送された穀稈の株元側を脱穀フィードチェン34と挟扼レール35で挟持搬送しながら、穀稈の穂先側を扱室30内に挿入し回転する扱胴32により脱穀処理(脱粒処理)し、脱粒済みの排藁を排藁搬送体(図示せず)で挟持搬送し、藁処理部5内に供給するように構成されている。
【0018】
上記、挟扼レール35は、扱室30の左側板59にブラッット36を介して固定された前後方向の支持フレーム37に、レールピン38を介して上下動自在に支持され、レールピン38に外嵌支持された圧縮スプリング39により脱穀フィードチェン34に向けて弾圧付勢されている。
一方扱室30の下方から後方に亘って選別室40が設けられており、選別室40内に揺動選別体41が前後方向に揺動駆動するように支架されている。
揺動選別体41の下方には、選別された穀粒を回収して側方に移送する一番ラセン42と、穀粒と屑が混在した二番物を回収して側方に移送する二番ラセン(図示せず)等が設けられている。
また、脱穀部4はその前部で脱穀フィードチェン34側の外側に緊急スイッチ43を備えている。
【0019】
次に、手こぎ装置について説明する。
脱穀部4の脱穀フィードチェン34は挟扼レール35の始端より前方に延設された延設部34aを有し、該延設部34aの上方で、前記刈取搬送部3の穀稈搬送装置13の搬送終端部と挟扼レール35の搬送始端部との間に、継送レール44が対設されている。
継送レール44は前側の第1継送レール45と後側の第2継送レール46に分割されている。そして、前記挟扼レール35の支持フレーム37に固定された支持ブラケット47に、レールフレーム49が横方向の軸48中心に上下回動可能に枢着され、該レールフレーム49に前後の支持杆50,51を介して第1継送レール45が支持されている。
【0020】
即ち、前側の支持杆50は上端がレールフレーム49に枢支され、後側の支持杆51はレールフレーム49に上下動自在に支持され、前後の支持杆50,51の下端に第1継送レール45が固定されている。また、後側の支持杆51には押圧スプリング52が設けられ、該押圧スプリング52により第1継送レール45が脱穀フィードチェン34に向けて弾圧付勢されていると共に、レールフレーム49自体が支持ブラケット47との間に介在された引っ張りスプリング53により、前記横方向の軸48中心に下方へ回動付勢されている。従って、第1継送レール45は押圧スプリング52と引っ張りスプリング53の両者により脱穀フィードチェン34の延設部34aに向けて弾圧付勢されている。
【0021】
また、第1継送レール45はレールフレーム49と一体で上記横方向の軸48中心に上下回動自在であり、これにより第1継送レール45は脱穀フィードチェン34の延設部34a上に近接対向した挟持姿勢イと、軸48中心に上方に大きく回動して、脱穀フィードチェン34の延設部34aの上方から離間した退避姿勢ロとに切り換え自在に構成されている。
第1継送レール45の退避姿勢ロにおいて、引っ張りスプリング53はレールフレーム49の支点越え作用をすると共に、レールフレーム49の上辺が支持ブラケット47の上端に接当することで、第1継送レール45が退避姿勢ロに保持されるように構成されている。
尚、第1継送レール45は搬送方向において、脱穀フィードチェン34の延設部34aの先端部から挟扼レール35の始端部に亘って設けられている。
【0022】
一方、前記挟扼レール35の支持フレーム37は脱穀フィードチェン34の延設部34aの上方部位まで一体的に前方に延設されており、かかる延設部分37aに第2継送レール46が前後の支持杆54,54を介して支持されている。そして、前後の支持杆54,54は上記延設部分37aに上下動自在に支持され、支持杆54,54に外嵌支持された圧縮スプリング55,55により、第2継送レール46は脱穀フィードチェン34の延設部34aに向けて弾圧付勢されている。
また、上記第2継送レール46用の圧縮スプリング55の押圧力は前記挟扼レール35用の圧縮スプリング39の押圧力より弱く構成されており、従って、第2継送レール46と脱穀フィードチェン34による穀稈挟持力が挟扼レール35と脱穀フィードチェン34による穀稈挟持力より弱くなるように設定されている。
【0023】
上記第2継送レール46は、脱穀フィードチェン34の延設部34aの前後方向の中程から挟扼レール35の始端部に亘って設けられ、第2継送レール46の始端部の挟持開始位置は挟扼レール35の挟持開始位置より距離Lだけ前方に位置しており、また、第2継送レール46の始端部46aは上方に向け大きく湾曲され、穀稈を手こぎ供給し易いように構成されている。
また、第1継送レール45は挟持姿勢において第2継送レール46の内側(右側)に位置し、第1継送レール45の後部(後側約半分)45aは第2継送レール46と左右方向に並列し、両継送レール45,46は搬送方向で重合するように構成されている。
尚、上記のように第1継送レール45の後部45aと第2継送レール46は搬送方向で重合する関係上、かかる重合部位での穀稈挟持力が必要以上に強くならないように、第2継送レール46による穀稈挟持力は第1継送レール45による穀稈挟持力より弱く設定されている。
手こぎ装置は上述のように構成されており、手こぎ作業は、第1継送レール45を退避姿勢ロに切り換えた状態で、第2継送レール46の始端部に作業者が手刈り穀稈を供給することにより行う。
【0024】
次に、図3に基づき脱穀部4のシリンダーカバー56及び挟扼レール35等の開閉構造について説明する。
脱穀部4の扱室30は、上方をシリンダーカバー56で、前後を前側板57と後側板58で、左右を左側板59と右側板60で覆われ、該シリンダーカバー56と前後側板57,58と左側板59を一体的に構成して脱穀部4の上下可動枠体Aが構成されている。
そして、前後側板57,58間に前記扱胴32が回転自在に軸架されており、前述したように、左側板59にブラケット36を介して固定された前後方向の支持フレーム37に、レールピン38を介して挟扼レール35が取り付けられている。また、上記左側板59にはレールカバー61が固定され、該レールカバー61に前記緊急スイッチ43が取り付けられている。
【0025】
一方、脱穀部4の固定枠体Bの脱穀フィードチェン34と反対側(右側)には前後方向の支軸62が回転自在に軸支されており、該支軸62と上下可動枠体Aが回動アーム63で一体的に連結固定され、上下可動枠体Aは固定枠体Bに対して上記支軸62を中心に上下回動開閉可能に構成されている。
そして、操作の詳細は後述するが、上下可動枠体Aを上方に回動開放すると、シリンダーカバー56、前側板57、後側板58、扱胴32及び挟扼レール35が一体で上動し、扱室30内が開放されると共に、脱穀フィードチェン34に対して挟扼レール35が上方に離間するから両者の挟持状態が解除され、また、この時、支持フレーム37側に支持されている継送レール44も共に上動し、脱穀フィードチェン34の始端部34aに対する第1継送レール45及び第2継送レール46の挟持状態も解除される。
【0026】
次に、上下可動枠体Aのロック装置について説明する。
扱室30の前側板57の右側(奥側)にはフック64が前後方向の軸67に回動自在に枢着されており、フック64の先端には係合凹部64aが設けられ、フック64の基部側は、ロッド65を介してフック解除レバー66側に連結されている。即ち扱室30の前側板57の左側(外側)に固設した前後方向の軸68aに、リンク68が回動自在に枢着され、上記ロッド65の左端がリンク68に連結され、該リンク68から一体的にフック解除レバー66が外側に向けて突設されている。
【0027】
そして、フック64の係合凹部64aは脱穀部4の固定枠体Bに固設したピン(係止体)70に係脱可能に構成され、係合凹部64aがピン70に係合することで、上下可動枠体Aを下降閉鎖姿勢(刈取作業状態)ハでロック固定し、係合凹部64aとピン70の係合を解除して上下可動枠体Aを上昇開放姿勢ホまで回動可能に構成している。
また、上記ロッド65と扱室30の前側板57の間にはロッド65を引っ張り付勢することで、係合凹部64aとピン70の係合状態を維持する引っ張りスプリング71が設けられ、上下可動枠体Aと固定枠体Bとの間には、上下可動枠体Aを上昇方向に付勢するガスシリンダ(上昇付勢手段)72が設けられている。
尚、上記と同様なロック装置が扱室30の後側板58側にも設けられている。
【0028】
上下可動枠体Aのロック装置は上記のように構成されており、フック64の係合凹部64aとピン70が係合したロック状態から、引っ張りスプリング71に抗してフック解除レバー66を上動操作すると、図3において、リンク68及びロッド65を介してフック64が軸67中心に反時計回りに回動し、係合凹部64aとピン70との係合が外れる。するとガスシリンダ72の押上力は上下可動枠体Aの自重による下方回動力より勝るように設定されているため、ガスシリンダ72により、その押上力が上下可動枠体Aの自重による下方回動力と釣り合う所(中間上昇姿勢ニ)まで上下可動枠体Aが上昇回動される。この上下可動枠体Aの中間上昇姿勢ニでは扱室30は開放状態には至らないが、挟扼レール35及び継送レール44が上昇して脱穀フィードチェン34との挟持状態が解除される。
また、上記状態でフック解除レバー66を手放すと、引っ張りスプリング71によりフック64が時計回りに回動してロック姿勢に復帰するが、既にフック64はピン70より上方に位置しているからフック64の係合凹部64aとピン70が係合状態に戻ることはない。
【0029】
更に、上下可動枠体Aを扱室30内の点検整備等の為に上方へ大きく回動開放させたい場合は、作業者は上下可動枠体Aの挟扼レール35側に突設した持手73を把持して上下可動枠体Aを手動で上昇させ上昇開放姿勢ホで固定する(固定手段は省略する)。
また、作業者が持手73を把持して上下可動枠体Aを上昇開放姿勢ホ又は中間上昇姿勢ニから下方閉鎖姿勢ハに下降操作すると、ピン70にフック64の先端の傾斜カム部64bが接当し、フック64が反時計方向に回動し係合凹部64aがピン70の受け入れ姿勢となり、更に上下可動枠体Aが下限位置まで下降するとピン70とフック64の先端の傾斜カム部64bの接当が外れ、フック64が引っ張りスプリング71により時計方向に回動しフック64の係合凹部64aが自動的にピン70に係合して上下可動枠体Aは下降閉鎖姿勢ハでロック固定される。
【0030】
また、上記フック解除レバー66を固定したリンク68にはプル式のロック解除ソレノイド(電磁ソレノイド)74が連結されている。そして、上下可動枠体Aの下方閉鎖姿勢ハにおいて緊急スイッチ43が操作されると、ロック解除ソレノイド74に通電されてソレノイドピン74aが引き込まれ、リンク68が反時計回りに回動し、フック解除レバー66を上方へ操作したときと同様の状態となって、フック64の係合凹部64aとピン70の係合が解除され、ガスシリンダ72により上下可動枠体Aが中間上昇姿勢ニまで自動的に上昇回動する。
尚、後述するようにロック解除ソレノイド74の通電状態は一定時間後に自動的に解除されてロック解除ソレノイド74はフリー状態(ソレノイドピン74aが自由に出入する状態)となり、その後の上下可動枠体Aの上動及び下動操作は、前述のフック解除レバー66を操作してロック解除した場合と同様に持手73により行う。
【0031】
尚、上記実施例では、シリンダーカバー56と扱胴32が一体で上下回動するように構成されているが、扱胴32を固定枠体B側に軸架固定して上下動させず、シリンダーカバー56と挟扼レール35及び継送レール44が上下動するようにしてもよい。言い換えれば、上下可動枠体Aは、少なくとも、シリンダーカバー56と挟扼レール35と継送レール44が一体で構成されていればよい。
【0032】
次に、本実施例におけるコンバインの伝動構成を図5に基づいて説明する。
エンジン80からの動力は走行装置側と作業機側(刈取搬送部3と脱穀部4)とに分岐され、走行装置側に分岐された動力は走行HST81及び走行ミッション82により変速されて走行装置の駆動スプロケット83に伝動され、作業機側に分岐された動力は脱穀部4の扱胴32及び揺動選別体41等に伝動される一方、搬送HST84および搬送ミッション85により変速されて刈取搬送部3と脱穀フィードチェン34に伝動される。
【0033】
上記伝動構成を詳説すると、走行主変速レバー24の操作により走行HST81のトラニオン軸を回動操作して走行HST81の回転を無段階に変速し、該変速された動力が走行ミッション82を介して走行装置に伝動され、即ち、走行速度が走行主変速レバー24の操作位置に応じて無段階に変速回転され、更に走行副変速レバー25の操作により走行ミッション82に設けた変速ギヤを作動させて、その回転を有段階に切り換えるように構成されている。また、走行ミッション82を内蔵するミッションケース82aには、走行ミッション82中の伝動軸の回転数を検出することにより走行速度を検出する走行速度検出センサ86が設けられている。
【0034】
一方、作業機側に分岐された動力は作業機クラッチ(脱穀クラッチ)87を備えるベルト式伝動装置88及び中間軸89を介して搬送HST84に入力され、搬送HST84のトラニオン軸が搬送HST駆動モータ(電動モータ)90により回動操作され、搬送HST84により無段階に変速回転された動力が搬送ミッション85に設けた刈取出力軸91と脱穀フィードチェン駆動軸92に伝動され、刈取搬送部3の回転と脱穀フィードチェン34の回転即ち両者の搬送速度が同期した状態で無段階に変速される。また、刈取出力軸91と刈取入力軸93の間のベルト式伝動装置94は、上記作業機クラッチ87と同構造の刈取クラッチ95を備えている。
【0035】
上記両クラッチ87,95はベルトテンションクラッチ機構に構成されており、刈取クラッチ95について説明すると、刈取出力プーリ91aと刈取入力プーリ93aに掛け回された伝動ベルト96を緊緩するテンションプーリ97が設けられ、電動モータである刈取クラッチモータ98の正逆回転駆動によりテンションプーリ97を伝動ベルト96の緊張位置と弛緩位置とに切換移動させることにより刈取クラッチ95を入り切りするように構成されている。また、刈取クラッチ95部位には刈取クラッチ95の入切を検出する刈取クラッチスイッチ99を設けている。
【0036】
また、作業機クラッチ87は、エンジン出力プーリ100と中間プーリ89aに掛け回された伝動ベルト101を緊緩するテンションプーリ102を、電動モータである作業機クラッチモータ103の正逆回転駆動により、伝動ベルト101の緊張位置と弛緩位置とに切換移動させることにより入り切りするように構成されている。作業機クラッチ87部位には作業機クラッチ87の入切を検出する作業機クラッチスイッチ104を設けている。
また、扱胴32及び揺動選別体41等の脱穀部4への伝動は、前記ベルト式伝動装置88及び中間軸89を介して行われ、作業機クラッチ87のON、OFFにより脱穀部4への伝動が入切される。更に、作業機クラッチ87は作業機のメインクラッチを兼ねており、作業機クラッチ87を切ると刈取搬送部3及び脱穀フィードチェン34への伝動も絶たれる。
尚、上記刈取クラッチモータ98は前記刈取クラッチレバー26の操作により作動され、作業機クラッチモータ103は前記作業機クラッチレバー27の操作により作動される。
【0037】
また、搬送ミッション85を内蔵するミッションケース85aには、刈取出力軸91の回転数を検出することにより刈取搬送部3及び脱穀フィードチェン34の穀稈搬送速度(駆動速度)を検出する搬送速度検出センサ105が設けられている。
そして、以下のような走行搬送速度同調手段が構成されている。
即ち、制御ユニット106(図6に示す)を構成するマイクロコンピュータにより、前記走行速度検出センサ86の検出値に基づいて上記搬送HST84のトラニオン軸駆動用の搬送HST駆動モータ90を作動させて搬送HST84の斜板角度を変更し、走行速度検出センサ86で検出した走行ミッション82の伝動軸の回転数が高くなるほど搬送HST84の回転数が高くなるように同調制御している。そして図8の実線アに示すように、走行停止及び後進時は刈取搬送部3と脱穀フィードチェン34は駆動を停止するが、前進走行速度に比例して走行速度が速くなるほど刈取搬送部3と脱穀フィードチェン34の穀稈搬送速度(駆動速度)が速くなるように調節制御される。(即ち、走行速度に対して刈取搬送部3と脱穀フィードチェン34の穀稈搬送速度が図8の実線ア上となるように搬送HST84の目標回転数を設定しておき、走行速度検出センサ86の検出値と搬送速度検出センサ105の検出値を読み込んで、搬送HST84が目標回転数となるように制御する。)
【0038】
尚、上記実施例では、走行速度検出センサ86の検出値に基づいて搬送HST84の回転数を同調制御するように構成したが、これに替えて走行主変速レバー24の操作位置を検出するセンサを設け、かかるセンサの検出値に基づいて搬送HST84の回転数を同調制御するようにしてもよい。
【0039】
次に、図7に基づき搬送・手こぎ制御について説明する。
コンバインによる作業中(刈取作業中又は手こぎ作業中)において、ステップ1で緊急スイッチ43(モーメンタリスイッチ)が操作されたかどうか(OFFからONに替わったかどうか)が判断され、操作されていないとステップ2で緊急モードフラグのON,OFFが判定され、初期設定では緊急モードフラグはOFFであるから、ステップ3で運転操作部6に設けた手こぎスイッチ28(オルタネイトスイッチ)のON,OFFが判定され、手こぎスイッチ28が入っていると、刈取クラッチモータ98を作動させて刈取クラッチ95をOFFにすると共に、搬送HST84のトラニオン軸を搬送HST駆動モータ90により回動操作して搬送HST84を設定回転数で定速駆動し、図8の点線イに示すように、脱穀フィードチェン34を手こぎに適した搬送速度で定速駆動する。
また、ステップ3で手こぎスイッチ28がOFFであると、コンバインによる通常の刈取作業であると判定して、図8の実線アに示すように、走行速度に比例して走行速度が速くなるほど刈取搬送部3と脱穀フィードチェン34の穀稈搬送速度(駆動速度)が速くなるように、搬送HST84を走行速度検出センサ86で読み込んだ走行速度に連動させて変速回転駆動させる。
【0040】
一方、コンバイン作業中に緊急スイッチ43が操作されると、ステップ1がYESとなり、緊急モードフラグをONにし、緊急タイマをセットする。そして、搬送HST84の斜板角度が中立となるようトラニオン軸を搬送HST駆動モータ90により急速に回動作動(逆転)させ、搬送HST84を駆動停止させと共に、燃料カットソレノイド107を作動させエンジン80を停止させコンバインの全ての作業機を停止させる。
同時に、脱穀部4の上下可動枠体Aのロック解除ソレノイド74をONし、上下可動枠体Aのロック固定を解除する。すると、前述したようにガスシリンダ72により上下可動枠体Aが中間上昇姿勢ニまで上昇回動し、挟扼レール35と継送レール44も上昇し、脱穀フィードチェン34との挟持状態が解除される。
更に、ステップ4で緊急タイマの計時が終了したかどうかを判定し、計時が終了したら(即ち、緊急スイッチ43の操作から一定時間後)緊急モードフラグがOFFとなると共に、ロック解除ソレノイド74がOFFとなって、前記フック64がロック姿勢に復帰する。
【0041】
次に、上記第1実施例の脱穀部を搭載したコンバインによる刈取作業と手こぎ作業について説明する。
コンバインで通常の刈取作業を行う場合は、継送レール44の第1継送レール45を挟持姿勢イにセットして作業を行う。そして、穀稈は、刈取搬送部3で刈刃12により刈り取られ、穀稈搬送装置13で後方に移送され、第1継送レール45と脱穀フィードチェン34の前方の延設部34aで引き継がれて挟持搬送され、更に第2継送レール46と脱穀フィードチェン34の延設部34aで挟持搬送されて挟扼レール35に受け継がれ、穀稈の株元側が脱穀フィードチェン34と挟扼レール35で挟持搬送されながら、穀稈の穂先側が扱室30内に挿入され回転する扱胴32により脱穀処理される。
【0042】
一方、手刈りした穀稈を人手により脱穀部4に直接供給して脱穀処理を行う、所謂手こぎ作業を行う場合は、先ず、作業者はエンジン80駆動状態で、作業機クラッチ(脱穀クラッチ)87がOFFであれば、作業機クラッチレバー27を操作して作業機クラッチモータ103作動させて作業機クラッチ87をONとし脱穀部4を駆動すると共に搬送HST84を伝動状態とする。次に、手こぎスイッチ28をON操作し、搬送HST84を設定回転で定速駆動させることにより脱穀フィードチェン34を手こぎに適した一定搬送速度で駆動させる。この時刈取クラッチ95がON状態であれば、手こぎスイッチ28のON操作により刈取クラッチ95はOFFに切り替わり刈取搬送部3が停止する。
【0043】
次に作業者は、第1継送レール45を持ってこれを退避姿勢ロに切り換える(この切り換えは、作業機クラッチレバーON操作より先に行ってもよい)。
そして、作業者は手刈りした穀稈を手に持って第2継送レール46の始端部で脱穀フィードチェン34の延設部34aとの間に直接供給する。そして、前述したように、穀稈は第2継送レール46と脱穀フィードチェン34の延設部34aで挟持搬送されながら挟扼レール35に受け継がれ、挟扼レール35と脱穀フィードチェン34で挟持搬送されながら穂先側が扱室30内に挿入され脱穀処理される。
【0044】
本発明の第1実施例における構成及びそれに基づくコンバイン作業は以上のとおりであり、本発明は以下のような作用効果を奏する。
即ち、上記のように、継送レール44を前側の第1継送レール45と後側の第2継送レール46に分割し、第1継送レール45を脱穀フィードチェン34上から離間した退避姿勢ロに切り換えることにより、作業者が手刈り穀稈を第2継送レール46の始端部に直接供給して、手こぎ作業を可能とするものでありながら、第2継送レール46と脱穀フィードチェン34による穀稈挟持力を挟扼レール35と脱穀フィードチェン34による穀稈挟持力より弱く設定したことにより、仮に、誤って第2継送レール46と脱穀フィードチェン34との間に衣服等の異物が挟み込まれても、その挟持力は弱いから反射的に手を引けば衣服等を抜き取ることができ、安全に作業ができるものである。
【0045】
また、第2継送レール46始端の挟持開始位置は挟扼レール35の挟持開始位置より距離Lだけ前方に位置しており、従来の挟扼レール始端部に直接手刈り穀稈を供給するものに比べ、第2継送レール46の始端部の手こぎ供給位置(挟持開始位置)から扱室30内の扱胴32までの搬送距離が長くなるから、衣服等の挟み込まれた異物が扱胴32に到達するまでの時間をその分長くでき、挟み込まれた異物を、それが挟扼レール35と脱穀フィードチェン34に挟持されて回転する扱胴32に到達して接触するまでに抜き取ることも可能となる。
また、脱穀部4入口側の手こぎ供給位置近傍に脱穀フィードチェン34の駆動等を停止させる緊急スイッチ43を設けた場合においても、異物が扱胴32に接触するまでに余裕を持って緊急スイッチ43を操作することが可能となりより安全に作業ができる。
【0046】
また、本発明では、第1継送レール45を挟持姿勢イに切り換えたとき、第1継送レール45の後部45aが第2継送レール46と搬送方向で重合するように構成されている。これにより、第1継送レール45を退避姿勢ロに切り換えた手こぎ状態では、第2継送レール46のみで穀稈を挟持してその挟持力を弱めて前述の効果を奏するものでありながら、刈取作業では第1継送レール45を挟持姿勢イに切り換え、脱穀フィードチェン34に対して第1継送レール45の後部45aと第2継送レール46の両者で穀稈を挟持するようにしたから、その穀稈挟持力を高め、挟持力不足による搬送乱れ等を防止できる。
【0047】
また、前記したように、本発明では、脱穀部4の前部で脱穀フィードチェン34側の外側(即ち第2継送レール46始端部の手こぎ供給位置近傍)に緊急スイッチ43を設け、該緊急スイッチ43の操作により脱穀フィードチェン34の駆動を停止させると同時に、脱穀フィードチェン34に対して第2継送レール46及び挟扼レール35を離間作動させてその挟持状態を解除するように構成している。かかる構成により、衣服等の異物が挟み込まれた場合、手こぎ作業者は緊急スイッチ43を操作することにより、脱穀フィードチェン34の駆動を停止させて挟み込まれた衣服等のそれ以上の後方への搬送を阻止できると共に、脱穀フィードチェン34に対して第2継送レール46及び挟扼レール35を離間作動させてその挟持状態を解除することにより、挟み込まれた状態を素早く解消できる。
【0048】
更に、従来、手こぎ供給位置近傍に緊急スイッチを設け、手こぎ作業中に脱穀フィードチェンと挟扼レール間に衣服等が挟まれたとき緊急スイッチを操作してエンジンを停止させることにより、脱穀フィードチェン及び扱胴駆動を停止させるものは公知であるが、コンバインのエンジンはディーゼルエンジンが一般的で燃料カットによりエンジンを停止するようにしていたため、緊急スイッチを操作しても、瞬時に燃料供給が停止されず、かつエンジンが惰性で回転するため、脱穀フィードチェン及び扱胴駆動が停止するまでに時間がかかり、衣服等が挟まれたまま更に後方に移送され、それを素早く解消することができない問題がある。
【0049】
この点、本発明の上記第1実施例のものは上記従来の問題を解消するものであって、脱穀フィードチェン34を扱胴32等とは別に搬送HST84により駆動し、緊急スイッチ43を操作すると搬送HST84のトラニオン軸を搬送HST駆動モータ90により強制的に作動させて、その斜板を素早く中立位置に戻すことにより、脱穀フィードチェン34を停止させるものである。従って、搬送HST駆動モータ90により斜板を中立位置に戻すだけの僅かな時間で素早く脱穀フィードチェン34を停止させることができ(HSTの特性により停止時は強制ブレーキ作用が働き、しかも脱穀フィードチェン34は質量も小さく駆動力停止後に慣性で作動することも殆どない)、衣服等の異物が挟まれまま脱穀フィードチェン34で挟持搬送されること極力防止して、より安全性を高めることができる。
【0050】
また、第1実施例のものは、脱穀部4の上下可動枠体A(少なくともシリンダーカバー56、挟扼レール35及び第2継送レール46を含む)を下方閉鎖姿勢ハでロック固定するフック(ロック部材)64を設ける一方、上下可動枠体Aをその自重に抗して上昇作動させるガスシリンダ(上昇付勢手段)72を設け、更に、上記フック64をロック解除姿勢へ作動させてそのロック状態を解除するロック解除ソレノイド(アクチュエータ)74を設けると共に、緊急スイッチ43の操作によりロック解除ソレノイド74を作動させて、上記フック64によるロックを解除するように構成したことにより、手こぎ作業者が緊急スイッチ43をON操作すれば、上記ロックが解除され、ガスシリンダ72の押上力により、上下可動枠体A即ち挟扼レール35及び第2継送レール46を脱穀フィードチェン34に対して上昇させて挟持状態を素早く解除することができるものである。
しかも、緊急スイッチ43をON操作後、一定時間(ガスシリンダ72により上下可動枠体Aが上昇終了するまでの時間)が経過するとロック解除ソレノイド74の作動を停止させ、フック64のロック解除姿勢への保持状態を自動的に解除するように構成したことにより、トラブル等の解消後、上下可動枠体Aを上昇回動位置(上昇開放姿勢ホや中間上昇姿勢ニ)から下方閉鎖姿勢ハに操作したとき、容易にフック64によるロック固定を行うことができる。
【0051】
次に、図9,10に基づき、本発明の第2実施例の脱穀部4について説明する。
前記第1実施例の脱穀部4は、上下可動枠体Aを下方閉鎖姿勢ハでロック固定するフック64のロック状態の解除を、フック解除レバー66の操作若しくは緊急スイッチ43の操作によるロック解除ソレノイド74の作動により行うよう構成したが、第2実施例のものは、フック解除レバーを廃止し緊急スイッチ43の操作によるロック解除ソレノイド74の作動によってのみ、フック64のロック状態の解除を行うように構成したものである。
そして、扱室30内等のメンテナンス時に上下可動枠体Aを上方開放姿勢ホに切り換える時は、緊急スイッチ43を操作してフック64によるロックを解除し、持手73を把持して上下可動枠体Aを手動で上昇させる。即ちこのものは、緊急スイッチ43を上下可動枠体Aのロック解除スイッチに兼用したものであり、別の専用のフック解除レバー等を廃止できて構成簡単となる。また、第2実施例のものは、緊急スイッチ43の直後方に持手73を配設し、両者を近接させてセットで使い易くしている。図中符号108はフックをロック姿勢に付勢するコイルスプリングを示す。
尚、第2実施例の脱穀部4の上記以外の構造は、第1実施例の脱穀部4の構造と同一である。
【0052】
次に、図11に基づき、本発明の第3実施例の脱穀部4について説明する。
第3実施例の脱穀部4は、第2継送レール46を板バネを屈曲形成して構成したものであり、第2継送レール46をより簡単な構成とすることができる。尚、第3実施例の脱穀部4の上記以外の構造は、第1実施例の脱穀部4の構造と同一である。
【0053】
次に、図12に基づき、本発明の第4実施例の脱穀部4について説明する。
第4実施例の脱穀部4は、脱穀フィードチェン34を挟扼レール35の始端より前方に延設して延設部34aを構成するにあたり、脱穀フィードチェン34をそのまま一体的に挟扼レール35の始端より前方に延設した第2延設部34cと、該第2延設部34cとは分割され、第2延設部34cの前端内側から前方に向けて別途連設構成した第1延設部34bとにより、全体の延設部34aを構成したものである。尚、第1延設部34bは第2延設部34cに支持固定されると共に、第2延設部34cから駆動される。
【0054】
更に、このものは、第1継送レール45を第1延設部34b上に対設して、穀稈を第1継送レール45と第1延設部34bで挟持搬送した後、第2継送レール46と第2延設部34cに引き継ぐように構成すると共に、第1継送レール45を刈取搬送部3側に上下回動自在に支持し、第1継送レール45を脱穀フィードチェン34の延設部34a上に対向した挟持姿勢イと脱穀フィードチェン34の延設部34a上方から刈取搬送部3側に回動させ離間させた退避姿勢ロとに切り換え自在に構成したものである。
そしてこのものは、手こぎ作業時に第2継送レール46の始端部に穀稈を供給するとき、第1延設部34bの終端側と第2延設部34cの始端側の両方で穀稈を載置支持することができて、その供給が容易となるものである。図中符号109は、第1継送レール45を第1延設部34bに向けて弾圧付勢すると共に、第1継送レール45を退避姿勢ロで支点越え支持する引っ張りスプリングである。
尚、第4実施例の脱穀部4の上記以外の構造は、第1実施例の脱穀部4の構造と同一である。
【0055】
次に、図13〜15に基づき、本発明の第5実施例の脱穀部4について説明する。
第5実施例の脱穀部4は、上下可動枠体A(シリンダーカバー56、扱胴32、挟扼レール35及び継送レール44等)の上下回動開閉作動を電動シリンダ(アクチュエータ)110により行なうもので、緊急スイッチ43の操作による挟扼レール35と継送レール44の非挟持位置への離間作動も上記電動シリンダ110を作動させて行うものである。
【0056】
即ち、脱穀部4の固定枠体Bに回転自在に軸支された支軸62と上下可動枠体Aが回動アーム63で一体的に連結固定され、更に支軸62に一端を固着した作動アーム111の他端と固定枠体B間に電動シリンダ110が設けられている。そして、電動シリンダ110の伸長により上下可動枠体Aが下降回動し、電動シリンダ110の短縮により上下可動枠体Aが上昇回動するように構成されている。また、脱穀部4の前部で脱穀フィードチェン34側の外側(上下可動枠体A側)に緊急スイッチ43が設けられ、脱穀部4の脱穀フィードチェン34側の外側で固定枠体B側には上下可動枠体Aを上下動させるための、上昇スイッチ112と下降スイッチ113が設けられている。尚、両スイッチ112,113は何れもモーメンタリスイッチであり押し操作しているときだけONとなる。
【0057】
図15に基づいて第5実施例における搬送・手こぎ制御を説明すると、先ず作業機クラッチ(脱穀クラッチ)87のON,OFFが判定され、作業機クラッチ87が入っていない時、即ち扱胴32が回転していない状態で上昇スイッチ112又は下降スイッチ113を操作すると、操作中電動シリンダ110が伸縮作動し上下可動枠体Aの上下回動開閉作動が可能となる。但し、作業機クラッチ87が入っていない時は緊急スイッチ43を操作しても電動シリンダ110は作動しない。
一方、作業機クラッチ87が入っていて扱胴32が回転している状態(刈取作業又は手こぎ作業中)では、上昇スイッチ112又は下降スイッチ113を操作しても電動シリンダ110は作動しないが、この状態で緊急スイッチ43を操作(OFF→ON)すると、前記第1実施例と同様な構成により搬送HST84が停止して脱穀フィードエン34が停止し、同時に、エンジン80が停止し、かつ緊急タイマにより設定される一定時間電動シリンダ110が短縮作動して上下可動枠体Aが中間上昇姿勢ニまで上昇し、脱穀フィードチェン34に対して挟扼レール35と継送レール44が上方に離間して挟持状態が解除される。
【0058】
また、このものでは、扱胴32が回転していない時は上昇スイッチ112を操作し続けて上下可動枠体Aを上昇開放姿勢ホまで大きく上昇回動させて、扱室30内を開放しメンテナンス等を容易に行うことができる一方、緊急スイッチ43の操作時は電動シリンダ110を一定時間だけ短縮作動させることで、挟扼レール35と第2継送レール46の挟持状態が解除される分だけ上下可動枠体Aを上昇させ、それ以上上下可動枠体Aが上昇して、回転している扱胴32(前述のようにエンジン30は急には停止しない)が大きく露出するのを防止している。
また、上昇スイッチ112又は下降スイッチ113操作による上下可動枠体Aの上下回動開閉作動は、扱胴32が回転していない非コンバイン作業時でのみ可能とし、緊急スイッチ43操作による上下可動枠体Aの上昇回動は扱胴32が回転しているコンバイン作業時(刈取作業又手こぎ作業)でのみ可能としたから、作業者の意に反して上下可動枠体Aが上昇回動することがなく、安全に作業ができる。
【0059】
更に、第5実施例では、緊急スイッチ43操作時の電動シリンダ110の作動速度(短縮速度)が、上昇スイッチ112又は下降スイッチ113を操作した時の電動シリンダ110の作動速度(伸縮速度)より大きくなるように設定されている。かかる構成により緊急スイッチ43を操作したときは挟扼レール35と第2継送レール46の挟持状態をより早く解除することができると共に、メンテナンス時等に上昇スイッチ112又は下降スイッチ113を操作して上下可動枠体Aを大きく上下動させる時は、上下可動枠体Aの急上昇や急下降を防止してより安全に作業をすることができる。
尚、第5実施例の上記以外の構造、即ち脱穀部4の手こぎ装置の構造やコンバインの伝動構造等は、第1実施例の構造と同一である。
【0060】
次に、図16〜18に基づき、本発明の第6実施例の脱穀部4について説明する。
第6実施例の脱穀部4は上記第5実施例と基本構造は同一であり、以下に相違箇所についてのみ説明する。
第6実施例の脱穀部4は、緊急スイッチと上下可動枠体Aの上昇スイッチを単一の操作スイッチ(モーメンタリスイッチ)114で兼用し、構成の単純化を図ったものである。そして、図16,17に示されているように、脱穀部4の前部で脱穀フィードチェン34側の外側位置において、下側の固定枠体B側に操作スイッチ114が設けられ、その下方に上下可動枠体Aの下降スイッチ115が設けられている。操作スイッチ114は下降スイッチ115より大きく、しかも、下降スイッチ115の操作面は脱穀部4の左側カバー116より内側に入り込んでいるが、操作スイッチ114の操作面は左側カバー116より外側に突出している。かかる構成により、緊急の場合、操作スイッチ114を押し易く、また誤って下降スイッチ115を押さないようにしている。
【0061】
また、図18の搬送・手こぎ制御のフロー図に示すように、作業機クラッチ87が入っていない時、即ち扱胴32が回転していない状態で操作スイッチ114又は下降スイッチ115を操作すると、操作中電動シリンダ110が伸縮作動し上下可動枠体Aの上下回動開閉作動が可能となる。一方、作業機クラッチ87が入っていて扱胴32が回転している状態(刈取作業又は手こぎ作業中)で操作スイッチ114を操作(OFF→ON)すると、搬送HST84が停止して脱穀フィードチェン34が停止し、同時に、エンジン80が停止し、かつ緊急タイマにより設定される一定時間電動シリンダ110が短縮作動して上下可動枠体Aが上昇し、脱穀フィードチェン34に対して挟扼レール35と継送レール44が上方に離間して挟持状態が解除される。
【符号の説明】
【0062】
1 機台
2 走行装置
3 刈取搬送部
4 脱穀部
13 穀稈搬送装置
30 扱室
32 扱胴
34 脱穀フィードチェン
34a 延設部
35 挟扼レール
43 緊急スイッチ
44 継送レール
45 第1継送レール
45a 後部
46 第2継送レール
イ 挟持姿勢
ロ 退避姿勢

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置(2)に支持された機台(1)の前方に刈取搬送部(3)を装着し、その後方の機台(1)上に脱穀部(4)を搭載し、刈取搬送部(3)の穀稈搬送装置(13)で搬送された穀稈を脱穀部(4)の脱穀フィードチェン(34)と挟扼レール(35)で挟持搬送しながら、穀稈の穂先側を扱室(30)内に供給して扱室(30)内に軸架した扱胴(32)により脱穀処理するコンバインにおいて、脱穀フィードチェン(34)を挟扼レール(35)の始端より前方に延設して延設部(34a)を構成し、刈取搬送部(3)の穀稈搬送装置(13)の終端部と挟扼レール(35)の始端部の間で上記脱穀フィードチェン(34)の延設部(34a)の上方に継送レール(44)を対設し、穀稈搬送装置(13)で搬送された穀稈を、脱穀フィードチェン(34)の延設部(34a)と継送レール(44)で引き継ぎ挟持搬送して後方の挟扼レール(35)に受け渡すように構成する一方、継送レール(44)を前側の第1継送レール(45)と後側の第2継送レール(46)に分割し、第2継送レール(46)と脱穀フィードチェン(34)による穀稈挟持力を挟扼レール(35)と脱穀フィードチェン(34)による穀稈挟持力より弱く設定すると共に、第1継送レール(45)を脱穀フィードチェン(34)の延設部(34a)上に対向した挟持姿勢(イ)と脱穀フィードチェン(34)の延設部(34a)上から離間した退避姿勢(ロ)とに切り換え自在に構成し、第1継送レール(45)を退避姿勢(ロ)に切り換えた状態において、第2継送レール(46)の始端部に作業者が手刈り穀稈を供給可能となして、第2継送レール(46)の始端部に供給された手刈り穀稈を、脱穀フィードチェン(34)の延設部(34a)と第2継送レール(46)で挟持搬送して挟扼レール(35)の始端部に受け渡すように構成したことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
第1継送レール(45)を挟持姿勢(イ)に切り換えた状態で、第1継送レール(45)の後部(45a)が第2継送レール(46)と搬送方向で重合するように構成したことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
脱穀部(4)の前部で脱穀フィードチェン(34)側の外側に緊急スイッチ(43)を設け、該緊急スイッチ(43)の操作により脱穀フィードチェン(34)の駆動を停止させると同時に、脱穀フィードチェン(34)に対して第2継送レール(46)及び挟扼レール(35)を離間作動させてその挟持状態を解除するように構成したことを特徴とする請求項1又は2記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−161271(P2012−161271A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23453(P2011−23453)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)