説明

コークス消火電車の走行制御方法

【課題】コークス消火電車の加速走行中にたとえスリップが発生したとしても、それによる悪影響を最小限に止めて、サイクルタイムの有利な短縮を可能としたコークス消火電車の走行制御方法を提供する。
【解決手段】コークス消火電車を、コークス炉からコークス消火塔まで搬送するに際し、予め、定常速度、定常速度までの加速速度および定常速度からの減速速度を定めておき、加速時において、目標とする加速速度TAに対する実際の加速速度T1の差が許容範囲値Hを超える時間が一定時間t1継続した場合にスリップが発生したと判断して、加速速度をスリップを抑制する加速速度TBに減速し、このスリップ抑制加速速度TBに対する実際の加速速度T2の差が許容範囲Lを満足する時間が一定時間t2継続した場合にスリップが解消されたと判断して、加速速度を再度、目標加速速度TAに復帰して、コークス消火電車の搬送を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス消火電車の走行制御方法に関し、特に該消火電車の加速走行中にスリップが発生した場合であっても、走行時間の有利な短縮を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
コークス工場における操業概要は次のとおりである。まず、操炭車でコークス炉に石炭を装入する。装入された石炭は乾留されコークスとなる。乾留が終了した赤熱コークスは押出機によりコークス炉から押し出され、ガイド車を介してコークス消火電車に移される。コークス消火電車は、赤熱コークスを消火して排出する場合もあるが、通常は消火設備(コークス消火塔)へ搬送し、ワンサイクルが終了する。
なお、コークス消火電車に積載される赤熱コークスは約1000℃と高温であるため、コークス炉からコークス消火塔までの間は、コークス消火電車を自動走行させて赤熱コークスを搬送している。
【0003】
コークス工場において、コークスの生産量を増やすためには、サイクルタイムの短縮が必要であり、最短時間でコークス消火電車を目標位置に停止させることでサイクルタイムの短縮が可能となる。
しかしながら、コークス消火電車が、スリップ等の外乱によって目標停止位置に停止しなかった場合は、再度、目標停止位置まで走行させることになる。この場合、再走行を行わずに、予定どうり目標停止位置に停止した場合に比べてサイクルタイムが長くなる。
【0004】
そこで、従来から、コークス消火電車を目標停止位置に停止させるべく、種々の提案がなされている(例えば、特許文献1,特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−242877号公報
【特許文献2】特開平9−263762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、コークス消火電車の走行に際しては、スリップが発生しにくい目標速度を設定していた。しかしながら、このような目標速度では、目標停止位置までの到達時間が長くなるという問題がある。
また、上掲した従来技術では、走行中にスリップが発生した場合の修正が十分とはいえないため、サイクルタイムの短縮に関しては、やはり満足いく結果を得ることができなかった。
【0007】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、たとえコークス消火電車の走行中、特に加速走行中にスリップが発生したとしても、それによる悪影響を最小限に止めて、サイクルタイムの有利な短縮を可能としたコークス消火電車の走行制御方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.コークス消火電車を、コークス炉からコークス消火塔まで搬送するに際し、予め、定常速度、定常速度までの加速速度および定常速度からの減速速度を定めておき、加速時において、目標とする加速速度TAに対する実際の加速速度T1の速度差が許容範囲Hを超える時間が一定時間t1継続した場合にスリップが発生したと判断して、加速速度をスリップを抑制する加速速度TBに減速し、このスリップ抑制加速速度TBに対する実際の加速速度T2の速度差が許容範囲Lを満足する時間が一定時間t2継続した場合にスリップが解消されたと判断して、加速速度を再度、目標加速速度TAに復帰して、コークス消火電車の搬送を行うことを特徴とするコークス消火電車の走行制御方法。
【0009】
2.コークス消火電車を、コークス炉からコークス消火塔まで搬送するに際し、予め、定常速度、定常速度までの加速速度および定常速度からの減速速度を定めておき、加速時において、スリップが発生すると予測される区域については、目標とする加速速度TAからスリップ抑制加速速度TBに減速し、該区域をスリップ抑制加速速度TBで走行したのち、加速速度を再度、目標加速速度TAに復帰して、コークス消火電車の搬送を行うことを特徴とするコークス消火電車の走行制御方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コークス消火電車を、コークス炉からコークス消火塔まで搬送する際に、たとえコークス消火電車の加速走行中にスリップが発生したとしても、それによる悪影響を最小限に止めて、サイクルタイムの短縮を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】コークス消火電車の基本構成を示した図である。
【図2】予め定めておいた目標速度を示した図である。
【図3】スリップが発生した時の、実際の加速速度T1と目標加速速度TAとの違いを示した図である。
【図4】本発明に従う走行速度制御要領を示したフローチャートである。
【図5】スリップが発生したと判断した場合に、加速速度を目標加速速度TAからスリップ抑制加速速度TBに変更した状態を示した図である。
【図6】スリップが解消されたと判断した場合に、加速速度を再度、目標加速速度TAに復帰した状態を示した図である。
【図7】予めスリップ多発区域をスリップ抑制加速速度TBに減速した設定になる、目標速度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。
図1に、コークス消火電車の基本構成を示す。図中、符号1は、シーケンスや走行速度制御を行う計算機、2は、計算機1からの指令を受けて車輪に接続されたモータMの回転速度制御を行う走行速度制御装置であり、3が駆動車輪である。また、4は、レールに設置した車輪の回転からコークス消火電車の実際の走行速度を検出する走行速度検出装置であり、5が走行速度を検出用の車輪で、フリー状態でレール6に設置されている。
【0013】
コークス炉操業において、コークス消火電車を現在位置から目標位置へ搬送する場合、図2に示すように、予め、定常速度、定常速度までの加速速度および定常速度からの減速速度を定めておき、この目標速度に従って速度制御を行い、目的位置まで搬送する。
加速時においてスリップが発生した場合、図3に示すように、実際の加速速度T1は目標とする加速速度TAより遅くなるため、目標位置までの到達時間は長くなる。
【0014】
そこで、本発明では、加速時にスリップが発生した場合には、図4に示すような、走行速度制御を行うのである。
(1) 走行速度検出装置4により、実際の加速速度T1を検出しておき、目標とする加速速度TAと実際の加速速度T1との速度差(TA−T1)が許容範囲Hを超える時間が一定時間t1継続した場合、スリップが発生したと判断する。
通常、上記した許容速度範囲Hは0.2〜0.5m/s程度、また判定のための一定時間t1は0.5〜2s程度とする。
【0015】
(2) スリップが発生したと判断した場合、図5に示すように、加速速度を目標加速速度TAからスリップを抑制する加速速度TBに変更する。
スリップを抑制する加速速度の決定方法は次のとおりである。
スリップが発生した時の電流値を検出し、この電流値以下となる加速レートを求め、この加速レートを用いて、現在の位置、速度から停止位置までの目標速度を求め、適用する。
【0016】
(3) 上記したスリップ抑制加速速度TBを適用後、このスリップ抑制加速速度TBと実際の加速速度T2の速度差(TB−T2)が許容範囲Lを満足する時間が一定時間t2継続した場合、スリップが解消されたと判断し、図6に示すように、加速速度を再度、目標加速速度TAに復帰させる、目標速度の再計算を行う。
また、上記した許容速度範囲Lは0.1〜0.4m/s程度、また判定のための一定時間t2は0.5〜2s程度とする。
なお、TBとT2の速度差が許容範囲Lを満足する時間が一定時間t2継続しなかった場合には、未だスリップが解消していないと判断して、改めてスリップ抑制加速速度TB′まで減速し、同様の操作を行って、スリップの解消の有無を判断し、その後、目標速度の再計算を行う。
また、図4にも示したとおり、目標加速速度TAと実際の加速速度T1との速度差が許容範囲H超える時間が、一定時間t1継続することがない場合には、予め定めた目標速度で最後まで制御すればよい。
【0017】
上記の制御を行うことにより、スリップに起因した弊害を最小限に抑えることができ、その結果、サイクルタイムの無用の延長を効果的に抑制することができる。
【0018】
また、上述のようにして、スリップが発生した場合であっても、スリップの発生に伴う加速速度の制御を行うことができるが、かような速度制御を通して、スリップが多発する区域を特定することができる。
従って、スリップの発生が予測される区域については、予め、図7に示すように、所定の加速速度TAからスリップ抑制加速速度TBに減速する速度設定とし、この区域をスリップ抑制加速速度TBで走行したのちに、加速速度を再度、目標加速速度TAに復帰してやることもできる。
そして、この方法によっても、スリップの発生を抑制しつつ、サイクルタイムの短縮を図ることができる。
【実施例】
【0019】
本発明の制御方法を適用した場合、従来法に比べてサイクルタイムを一回当たり約12.6秒短縮することができる。
従って、一日当たりのコークスの生産量が約1600トンで、スリップの発生回数が一日当たり10回と仮定すると、本発明の適用により、年間当たり約850トンの生産量増加を達成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によれば、スリップに起因したサイクルタイムの無用の延長を効果的に抑制して、サイクルタイムを短縮することができるので、その分、コークスの生産量を増加させることができる。
【符号の説明】
【0021】
1 計算機
2 走行速度制御装置
3 駆動車輪
4 走行速度検出装置
5 フリー車輪
6 レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス消火電車を、コークス炉からコークス消火塔まで搬送するに際し、予め、定常速度、定常速度までの加速速度および定常速度からの減速速度を定めておき、加速時において、目標とする加速速度TAに対する実際の加速速度T1の速度差が許容範囲Hを超える時間が一定時間t1継続した場合にスリップが発生したと判断して、加速速度をスリップを抑制する加速速度TBに減速し、このスリップ抑制加速速度TBに対する実際の加速速度T2の速度差が許容範囲Lを満足する時間が一定時間t2継続した場合にスリップが解消されたと判断して、加速速度を再度、目標加速速度TAに復帰して、コークス消火電車の搬送を行うことを特徴とするコークス消火電車の走行制御方法。
【請求項2】
コークス消火電車を、コークス炉からコークス消火塔まで搬送するに際し、予め、定常速度、定常速度までの加速速度および定常速度からの減速速度を定めておき、加速時において、スリップが発生すると予測される区域については、目標とする加速速度TAからスリップ抑制加速速度TBに減速し、該区域をスリップ抑制加速速度TBで走行したのち、加速速度を再度、目標加速速度TAに復帰して、コークス消火電車の搬送を行うことを特徴とするコークス消火電車の走行制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−202021(P2011−202021A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70790(P2010−70790)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)