説明

コークス炉押出機

【課題】炭化室からコークスを押出し、ガイド車へ排出する押出機に装備されているラムヘッド、ラムビームが高温環境で損傷もなく長期間使用できる押出機を提供する。
【解決手段】押出機1の機体上面に往復運動可能に配置されるラム2は、ラムビーム4とラムヘッド3から成り、駆動力伝達部は、該ラムビーム4の略全長に渡って長手軸方向に延在するラックギア5とピニオンギア6から成り、この該ピニオンギア6に対して電動機7の駆動力を与えることで該ラム2が該押出機1の機体上面上を往復運動し、該ラムヘッド3によりコークス12を押出すこと、および該ラムビーム4と該ラムヘッド3が耐火鋼板より成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉の炭化室からコークスを押出し、ガイド車へ排出するための押出機であって、押出機の機体上面に往復運動可能に配置されるラム、当該ラムを駆動するための電動機、電動機の駆動力をラムに伝える駆動力伝達部を有する押出機に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉は、炉内での燃料ガス燃焼から発生する熱によってコークスの原料である石炭を乾留し、コークスを生産する。このようなコークス炉には、石炭を投入する装炭車、コークスを排出する押出機、排出コークスを誘導するガイド車、排出コークスを回収し搬送する消火電車・消火車といった各種機械が配置されている。
【0003】
コークスが乾留される空間は、炭化室と呼ばれる、一例を示すと長さ約16m、高さ約6.8m、幅約0.45mの細長い矩形状の密閉空間である。押出機は、乾留後この炭化室からコークスを押出し、ガイド車へ排出する。このため、押出機には、排出のためのラムヘッド、ラムビーム及びこれらを駆動するための駆動機器等から構成される押出装置が装備されている。ラムヘッド及びラムビームは、コークスを押出し排出する際に炭化室内を出入りし、高温環境で繰り返し使用される。また、いわゆる「押しづまり」が発生すると、高温環境下における負荷は極めて大きいものとなる。
【0004】
従来、押出機の押出装置ラムビームは、一般的な圧延鋼材のSS材やSM材を採用しており、高温環境における長期的な使用により、変形・亀裂・折損等の損傷を引き起こすことが認められている。特に、5〜10年の使用において疲労等による強度の低下が認められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の欠点を解消し、高温環境においても損傷なく長期間使用可能なラムビームを有する押出機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1に記載の特徴を有する押出機により解決される。本発明に従いラムが、ラムビームと、このラムビームの一端に設けられるラムヘッドから成り、駆動力伝達部が、ラムビームの略全長に渡って長手軸方向に延在するラックギアと、当該ラックギアとかみ合うピニオンギアから成り、このピニオンギアに対して電動機の駆動力を与えることにより、ラムが押出機の機体上面上を往復運動する。ラムは、往復運動によって高温状態にあるコークス炉の炭化室へと挿入され、またはこの炭化室から常温へと取り出される。本出願人は実験により、このような挿入・取出しの際のラムビームがおよそ300℃近辺の温度に至ることを確認した。本発明にしたがい、ラムビームおよびラムヘッドが耐火鋼板より成ることによって、300℃近辺における引張り強度や降伏点応力は略10〜20%程度改善されるので、高温環境においても損傷なく長期間使用可能なラムビームを有する押出機が提供される。
【0007】
本発明の有利な実施形では、耐火鋼板を、ラムビームのみに対して採用することも可能である。
【0008】
本発明の別の有利な実施形では、ラムビームの高熱環境にさらされる部分のみが、耐火鋼板よりなっている。その際、高温環境にさらされる部分とは、ラムビームの往復運動時に、前進から後進に引替わる時点で、当該ラムビームのうち炭化室及びガイド車内に瞬間的に停止している部分を意味している。一例を示すと、この停止している部分の長さは、約20mにわたる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るラムビームを含む押出機全体の図。
【図2】コークス炉及びラムビームを表わす図。コークス炉は乾留中の状態を表わす。
【図3】本発明に係る押出機によりコークスを押出している状態の図。
【図4】従来のラムビームが損傷した状態を表わす図。
【図5】本発明に係る押出機につき回転曲げ疲労試験(室温)を行った結果を表わす図。
【図6】試験温度をかえて行った回転曲げ疲労試験(300℃)の結果を表わす図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明に係る押出機を添付の図面に基づき詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る押出機1の全体の図である。押出機1は、ラム2、このラム2を駆動するための電動機7、電動機7の駆動力をラム2に伝達するための駆動力伝達部5,6等を主として有している。
【0012】
最初に、ラム2について説明する。ラム2は、炉の高さに略等しい高さのラムヘッド3と、一例を示すと押出ストロークが約24mのラムビーム4から成っている。ラムヘッド3はラムビーム4に対して固定されている。これらラムヘッド3およびラムビーム4が、後述する機構により押出機1上を往復運動することで、ラムヘッド3によりコークス12をガイド車に向けて押出す構造となっている。押出されたコークス12は、ガイド車を介して消火車に積載される。
【0013】
次に、ラム2に対して駆動力を与える機構について説明する。本発明においては、ラム2に対する駆動力は電動機7により与えられる。電動機7は、押出機の機体上面に電動機架台(図示せず)を介して固定して設けられており、後述する駆動力伝達部のピニオンギア6に対して駆動力を付与する。その際、電動機7とピニオンギア6の間には、減速機が設けられ、電動機からピニオンに対する駆動力の伝達を補助している。電動機にはまたブレーキ装置が設けられている。減速機、ブレーキ装置は図示されていない。
【0014】
続いて、駆動力伝達部について説明する。駆動力伝達部は、電動機7からラム2に対する駆動力を伝達するために設けられている。この駆動力伝達部は、ラムビーム4の略全長に渡って長手軸方向に延在するラックギア5と、当該ラックギア5とかみ合うピニオンギア6から成っている。本実施形においてラックギア5は、ラムビーム4の上面に固定して設けられている。ピニオンギア6は、押出機1の機体上にピニオン架台(図示せず)を介して固定されている。これにより電動機の回転がピニオンギア・ラックギアを介してラムビーム4に伝達され、ラムビーム4はコークス炉の炭化室内へと前進し、または炭化室から後進する。なお駆動力を発生する電動機7に対する指示は、押出機1に設けられる押出機運転室8から与えられる。
【0015】
本発明に係る押出機を用いた押出しについて以下に説明する。図2に示すように、まず押出機1は、コークス排出を行う窯に合わせられる。各窯に取付けられた炉蓋11を外した後に、電動機7に対して指示が与えられ、電動機7は駆動力を発生するに至る。電動機7により発生される駆動力は、ラックギア5、ピニオンギア6を介してラムビーム4およびラムヘッド3に伝達される。
【0016】
図3に示すように、電動機7の駆動力が伝達された結果、ラムビーム4およびラムヘッド3はコークス炉内へと前進し、コークスを押出す。コークス排出後に押出機のラムヘッド3およびラムビーム4は、電動機7、ラックギア5、ピニオンギア6を介して引戻され、最後に炉蓋11を装着し、図2の状態に戻る。
【0017】
コークスを押出す際に、コークス炉の炉内は、石炭を乾留するため1100℃前後の高温状態になっている。コークス炉操業では、数分間隔でコークス排出作業を行うことから、ラムビーム4は一日あたり100〜120回の加熱・冷却を繰り返す熱変動サイクルに曝されることとなる。
【0018】
一方、ラムビーム4は、長期の使用でコークス炉の変形や炉への付着物などの影響により、コークスを排出している途中でコークス炉から過大な抵抗を受けることがある。この場合、抵抗力が電動機容量を超え、ピニオンギア6は回転できず、よってラムビームとラムヘッドは押出途中に炉内で停止してしまうとう事象が発生し得る。この事象が発生すると、コークス炉内に残ったコークス排出を処置する等が必要となり、その間、ラムヘッド3及びラムビーム4は長時間にわたって高温のコークス炉内にとどまることとなり、多大な熱負荷が掛かる。
【0019】
このように高温環境で使用することによって、ラムビーム4には熱疲労が蓄積される。また、かかる状況下では、ラムビーム4は、長時間にわたりコークスからの反力を受けるのみならず、ラムヘッド自重による負荷や、コークス炉内で炉壁を構成する煉瓦との頻繁な接触による負荷を受けることになる。結果としてラムビーム4は、ラムヘッド3側で塑性変形の発生や、亀裂・折損を引き起こすことが認められている。
【0020】
ラムビーム4の全部または一部や、あるいはこれに加えてラムヘッド3側の一部の部位を耐火鋼板とすることで、長寿命化を図ることができる。特に図4に示すように、ラムビームのうち、引き戻し時のピニオンギアより前の部分で変形が発生しやすいことを考慮し、この部分に対して耐火鋼板を採用すると、最も効果的である。
【0021】
図5および図6に、本発明に係る押出機におけるラムビーム4の全部を耐火鋼板とした実施例について回転曲げ疲労試験を行った結果を示す。試験はJIS Z 2274に準拠して行い、本発明に係る押出機のラムビーム4を建築構造用圧延鋼材(◆SN490B)を用いて製造した場合と、建築構造用耐火鋼材(■NSFR490B)を用いて製造した場合との比較として試験を実施した。試験温度は、室温(図5)および300℃(図6)である。室温および300℃いずれの場合においても、本発明に係る押出機のように、ラムビーム4を耐火鋼板により製造した場合の方が、疲労特性が優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0022】
1 押出機
2 ラム
3 ラムヘッド
4 ラムビーム
5 ラックギア
6 ピニオンギア
7 電動機
8 押出機運転室
9 押出機走行車輪
10 コークス炉
11 炉蓋
12 コークス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉(10)の炭化室からコークス(12)を押出し、ガイド車へ排出するための押出機(1)であって、押出機(1)の機体上面に往復運動可能に配置されるラム(2)、当該ラム(2)を駆動するための電動機(7)、電動機(7)の駆動力をラム(2)に伝える駆動力伝達部を有する押出機(1)において、
ラム(2)は、ラムビーム(4)と、このラムビーム(4)の一端に設けられるラムヘッド(3)から成り、駆動力伝達部は、ラムビーム(4)の略全長に渡って長手軸方向に延在するラックギア(5)と、当該ラックギア(5)とかみ合うピニオンギア(6)から成り、このピニオンギア(6)に対して電動機(7)の駆動力を与えることにより、ラム(2)が押出機(1)の機体上面上を往復運動し、前記ラムヘッド(3)によりコークス(12)を押出すこと、および前記ラムビーム(4)およびラムヘッド(3)が、耐火鋼板より成ることを特徴とする押出機。
【請求項2】
ラムビーム(4)のみが耐火鋼板よりなることを特徴とする請求項1に記載の押出機(1)。
【請求項3】
ラムビーム(4)の高熱環境にさらされる部分、すなわちラムビーム(4)の往復運動時、前進から後進に引替わる時点で、当該ラムビーム(4)のうち炭化室及びガイド車内に瞬間的に停止している部分のみが耐火鋼板よりなることを特徴とする請求項2に記載の押出機(1)。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−95819(P2013−95819A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238773(P2011−238773)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(592200811)株式会社ThyssenKrupp Otto (7)