説明

コーティング剤組成物および複合フィルム

【課題】 硬化速度が速く、硬化後は、耐水性,帯電防止性,ガスバリア性に優れた硬化被膜を形成し得るコーティング剤組成物および該組成物の硬化被膜が積層されてなる複合フィルムを提供する。
【解決手段】 (A)特定のアミノ基含有アルコキシシラン(代表例、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランおよび(B)特定のアクリル系ポリマーからなる高エネルギー線硬化性コーティング剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は硬化速度が速く、硬化後は、耐水性,帯電防止性,ガスバリア性に優れた硬化被膜を形成し得るコーティング剤組成物および該コーティング剤組成物の硬化被膜が積層されてなる複合フイルムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、オルガノシランを主成分とする組成物を有機樹脂フィルム上に塗布して硬化させることにより、ガスバリア性に優れた複合フイルムを得る方法は知られている。かかる組成物としては、例えば、テトラメチルオルソシリケートとビニルトリアルコキシシランのようなアルコキシシランとポリビニルアルコールからなる組成物(特開平6−329821号公報参照)、アミノ基含有アルコキシキシシランとキシリレンジイソシアネートのような芳香環を有する化合物の混合物(特開平7−18221号公報参照)が知られている。また、ビニルベンジル(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランを有機樹脂フイルム上に塗布し、その上に高エネルギー線を照射し硬化させてガスバリア性に優れた包装材料を得る方法も知られている(特公平5−73774号公報参照)。しかし、これらの方法で使用されている組成物はいずれも硬化速度が遅いという欠点を有し、また、硬化後の硬化被膜は、耐水性に劣り、高湿度下において性能低下が起こるという問題点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、上記問題点を解消するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち、本発明の目的は硬化速度が速く、硬化後は、耐水性,帯電防止性,ガスバリア性に優れた硬化被膜を形成し得るコーティング剤組成物および該組成物の硬化被膜が積層されてなる複合フィルムを提供することにある。
【0004】
【課題の解決手段】本発明は、(A)一般式:
【化3】


(式中、R1およびR2は炭素数が12個以下の2価炭化水素基であり、R3は炭素数が6個以下のアルキル基,シクロアルキル基またはフェニル基であり、R4はアルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選択された加水分解性基である。Q1,Q2およびQ3は、一般式;X−C64−CH2−(式中、Xはビニル基または水素原子である。)で表される基または水素原子であり、その内少なくとも1個は一般式;X−C64−CH2−(式中、Xは前記と同じである。)で表される基である。nは0,1または2であり、aは0,1または2である。)で表されるアミノ基含有アルコキシシランまたはその塩酸塩および(B)一般式:
【化4】


(式中、R5は異なる炭素原子に結合したアルコール性ヒドロキシル基を含む有機多価アルコールの残基または該有機多価アルコールと多塩基酸とで構成されるエステルの残基を示し、R6は水素原子またはメチル基であり、bは2〜6の整数である。)で表される有機化合物からなる高エネルギー線硬化性コーティング剤組成物、および該コーティング剤組成物の硬化被膜が有機樹脂フイルムの少なくとも片面に積層されてなる複合フイルムに関する。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明に使用される(A)成分のアミノ基含有アルコキシシランまたはその塩酸塩は、一般式
【化5】


(式中、R1およびR2は炭素数が12個以下の2価炭化水素基であり、R3は炭素数が6個以下のアルキル基,シクロアルキル基またはフェニル基であり、R4はアルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選択された加水分解性基であり、Q1,Q2およびQ3は、一般式;X−C64−CH2−(式中、Xはビニル基または水素原子である。)で表される基または水素原子であり、その内少なくとも1個は一般式;X−C64−CH2−(式中、Xはビニル基または水素原子である。)で表される基である。nは0,1または2であり、aは0,1または2である。)で表される。ここで、R1はメチレン基、エチレン基、プロピレン基などのアルキレン基で例示される炭素数が12個以下の2価炭化水素基であり、これらの中でもエチレン基が好ましい。R2はメチレン基、エチレン基、プロピレン基などのアルキレン基、フェニレン基、トリレン基などのアリーレン基で例示される炭素数が12個以下の2価炭化水素基であり、これらの中でもプロピレン基が好ましい。R3は炭素数が6個以下のアルキル基,シクロアルキル基またはフェニル基であり、これらの中でもメチル基が好ましい。R4はメトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基で例示されるアルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選択された加水分解性基であり、これらの中でもメトキシ基が好ましい。Q1、Q2およびQ3は一般式;X−C64−CH2−(式中、Xはビニル基または水素原子であり、これらの中でもビニル基が好ましい。)または水素原子であり、その内少なくとも1個は一般式;X−C64−CH2−(式中、Xは前記と同じである。)で表される基である。nは0、1または2であり、好ましくは1である。aは0、1または2であり、好ましくは0である。かかる(A)成分の具体例としては、N−β−(N−ビニルベンジル−N−ベンジル)アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランまたはその塩酸塩、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−N−ベンジル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランまたはその塩酸塩、N−β−(N−ビニルベンジル−N−ベンジル)アミノエチル−N−ベンジル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランまたはその塩酸塩、N−ビニルベンジル−N−ベンジル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランまたはその塩酸塩、N−β−(N−ビニルベンジル−N−ベンジル)アミノエチル−N−ベンジル−γ−アミノプロピルトリエトキシシランまたはその塩酸塩、N−β−(N−ビニルベンジル−N−ベンジル)アミノエチル−N−ベンジル−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランまたはその塩酸塩、N−β−(N−ビニルベンジル−N−ベンジル)アミノエチル−N−ベンジル−γ−アミノプロピルメトキシジメチルシランまたはその塩酸塩、N−β−(N−ビニルベンジル−N−ベンジル)アミノエチル−N−ベンジル−γ−アミノブチルトリメトキシシランまたはその塩酸塩、N−β−(N−ビニルベンジル−N−ベンジル)アミノエチル−N−ベンジル−γ−アミノペンチルトリメトキシシランまたはその塩酸塩、N−β−(N−ビニルベンジル−N−ベンジル)アミノエチル−N−ベンジル−γ−アミノヘキシルトリメトキシシランまたはその塩酸塩等が挙げられる。高粘度のものを使用する場合は、溶剤で希釈して用いることができる。このような溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、トルエン、キシレン、ヘキサン、1,1,1−トリクロロエタン、n−ブタノール、ジオキサンなどが挙げられる。
【0006】本発明に使用される(B)成分の有機化合物は、一般式
【化6】


(式中、R5は異なる炭素原子に結合したアルコール性ヒドロキシル基を含む有機多価アルコールの残基または該有機多価アルコールと多塩基酸とで構成されるエステルの残基を示し、R6は水素原子またはメチル基であり、bは2〜6の整数である。)で表される。ここで、R5は異なる炭素原子に結合したアルコール性ヒドロキシル基を含む有機多価アルコールの残基または該有機多価アルコールと多塩基酸とで構成されるエステルの残基を示す。この多価アルコールとしては、エチレングリコール、重合度2〜30のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、重合度2〜30のポリプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、1,6−ヘキサジオール、1,5−ペンタジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオールなどが挙げられる。また、上記多塩基酸としては、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマール酸などが挙げられる。このような有機化合物としては、具体的にはジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどが挙げられる。(B)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して1〜10,000重量部、特に、50〜2,000重量部が好ましい。配合量が10,000部を越えると硬化物の帯電防止性、ガスバリア性等の性能を損なう可能性があり、1重量部以下では硬化時間が遅くなり、実用性に劣る。
【0007】本発明のコーティング剤組成物は、上記した(A)成分および(B)成分を均一に混合することにより容易に製造できるが、これらの成分に加えて、一般に、コーティング剤組成物に添加配合されることが公知とされる各種添加剤を必要に応じて添加配合することは本発明の目的を損なわない限り差し支えない。かかる添加剤としては、シランカップリング剤、顔料、酸化防止剤、基材への密着向上剤、熱重合禁止剤などが挙げられる。ここで、シランカップリング剤としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,テトラエトキシシラン,テトライソプロポキシシラン,メチルトリメトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン,γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン,γ−クロロプロピルトリメトキシシラン,γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0008】本発明のコーティング剤組成物は、これを各種基材に塗布した後、紫外線,X線,電子線等の高エネルギー線を照射して硬化させる。ここで、本発明の組成物の硬化被膜の厚さは、一般に1μm〜1000μm程度とすることができる。基材としてはポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィル等の有機樹脂フイルム、金属、ガラス等が挙げられ、これらの中でも、有機樹脂フイルムが好ましい。本発明のコーティング剤組成物を基材に塗工する方法としては、ナイフコーター、ロールコーターなどのコーターを用いる方法や、スプレー、浸漬による方法など公知の方法を用いることができる。
【0009】以上のような本発明のコーティング剤組成物は硬化速度が速く、硬化後は、耐水性,帯電性,耐バリアー性に優れた硬化被膜を形成する。そして、本発明のコーティング剤組成物の硬化被膜が有機樹脂フイルムの少なくとも片面に積層されてなるフィルムは、耐水性,帯電性,耐バリアー性に優れているので、かかる特性を要求される用途に使用される。
【0010】
【実施例】以下、本発明を実施例にて説明する。尚、実施例中、硬化性,硬化時間,耐水性の評価は次のようにして測定した。
○硬化性、硬化時間コーティング組成物を有機樹脂フイルム表面に塗布し、紫外線を所定時間照射して硬化させた後、得られた硬化被膜面上を指で5回擦り硬化が十分行われているか否か調べた。ここで硬化被膜に曇が発生したり、硬化皮膜が有機樹脂フイルム表面から剥がれなくなった時間を硬化時間とした。
○耐水性コーティング組成物を有機樹脂フイルム表面に塗布し、紫外線を照射して硬化させた後、得られた複合フィルム(2cm×5cm)をイオン交換水50ccの入った100ccビーカーに浸漬させ、所定時間放置した後、取り出し、この複合フイルムの表面をペーパークロスで5回擦り、拭き取り行なった。評価結果は次のようにして表した。
○ 硬化被膜に膨潤、変化が認められず、硬化被膜はフイルムから剥がれなかった。
× 硬化被膜がフイルム表面から剥がれた。
【0011】
【実施例1】N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩(40%メタノール溶液)(商品名:SZ6032、東レダウコーニングシリコーン(株)製)10重量部とペンタエリスリトールテトラアクリレート37重量部を混合して、コーティング剤組成物を調製した。このコーティング剤組成物を厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムにバーコーターを用いて厚さ10μmとなるように塗布し、風乾した後、電子線照射装置(CB250/30/180L,岩崎電気(株)製)を用い150kv,5mA,10m/min(5kGy)の条件で電子線を照射して硬化させた。ここで得られたコーティング剤組成物の硬化性を調べた。次いで、得られた複合フィルムの、耐水性および体積固有抵抗値を測定した。これらの結果を表1に示した。
【0012】
【実施例2】N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩(40%メタノール溶液)(商品名:SZ6032、東レダウコーニングシリコーン(株)製)100部とトリメチロールプロパンアクリレート32重量部を混合してコーティング剤組成物を調製した。このコーティング剤組成物を厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムにバーコーターを用いて厚さ10μmとなるように塗布し、風乾した後、電子線照射装置(CB250/30/180L,岩崎電気(株)製)を用い150kv,5mA,10m/min(5kGy)の条件で電子線を照射して硬化させた。ここで得られたコーティング剤組成物の硬化性を調べた。次いで、得られた複合フィルムの、耐水性および体積固有抵抗値を測定した。これらの結果を表1に示した。
【0013】
【比較例1】実施例1において、ペンタエリストールテトラアクリレート37部を配合しなかった以外は、実施例1と同様にしてコーティング剤組成物[N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩(40%メタノール溶液)のみからなるコーティング剤組成物]を調製した。このコーティング剤組成物の特性を実施例1と同様に測定した。この結果を表1に併記した。
【0014】
【比較例2】実施例2において、トリメチロールプロパンアクリレートの替わりにテトラヒドロフルフリルアクリレートを配合した以外は、実施例1と同様にしてコーティング剤組成物を調製した。このコーティング剤組成物の特性を実施例1と同様に測定した。この結果を表1に併記した。
【0015】
【比較例3】実施例1において、トリメチロールプロパンアクリレート37部の替わりN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシランを配合した以外は、実施例1と同様にしてコーティング剤組成物を調製した。このコーティング剤組成物の特性を実施例1と同様に測定した。この結果を表1に併記した。
【0016】
【表1】


【0017】
【発明の効果】本発明の高エネルギー線硬化型のコーティング剤組成物は、(A)成分および(B)成分からなるので硬化速度が速く、硬化後は耐水性,帯電性,ガスバリアー性に優れた硬化被膜を形成するという特徴を有する。また本発明の複合フイルムは耐水性,帯電性,ガスバリアー性に優れているという特徴を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)一般式:
【化1】


(式中、R1およびR2は炭素数が12個以下の2価炭化水素基であり、R3は炭素数が6個以下のアルキル基,シクロアルキル基またはフェニル基であり、R4はアルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選択された加水分解性基である。Q1,Q2およびQ3は、一般式;X−C64−CH2−(式中、Xはビニル基または水素原子である。)で表される基または水素原子であり、その内少なくとも1個は一般式;X−C64−CH2−(式中、Xは前記と同じである。)で表される基である。nは0,1または2であり、aは0,1または2である。)で表されるアミノ基含有アルコキシシランまたはその塩酸塩および(B)一般式:
【化2】


(式中、R5は異なる炭素原子に結合したアルコール性ヒドロキシル基を含む有機多価アルコールの残基または該有機多価アルコールと多塩基酸とで構成されるエステルの残基を示し、R6は水素原子またはメチル基であり、bは2〜6の整数である。)で表される有機化合物からなる高エネルギー線硬化性コーティング剤組成物。
【請求項2】 (A)成分がN−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩である、請求項1に記載のコーティング剤組成物。
【請求項3】 請求項1に記載のコーティング剤組成物の硬化被膜が有機樹脂フイルムの少なくとも片面に積層されてなる複合フィルム。
【請求項4】 有機樹脂フイルムがポリエチレンテレフタレートフイルムである、請求項3に記載の複合フイルム。

【公開番号】特開平10−101965
【公開日】平成10年(1998)4月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−280384
【出願日】平成8年(1996)9月30日
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社 (338)