ゴムのシミュレーション装置、シミュレーション方法、及びシミュレーションプログラム
【課題】大変形及び超弾性というゴムの特性を好適に表現すると共に、実製品スケールでのゴム弾性挙動を再現する。
【解決手段】ゴムのシミュレーション装置10は、複数の粒子鎖と接着粒子とをゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する初期状態配置部13と、作業領域の温度を所定温度に上昇させる温度制御部14と、作業領域の温度が所定温度まで上昇したのに応じて、接着粒子が粒子鎖の粒子と接着するよう制御する接着粒子制御部15と、作業領域を小さくしてゴムモデルの形状を成形する形状成形部16と、温度制御部14、接着粒子制御部15、及び形状成形部16による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の粒子及び接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する粒子位置計算部17と、を備える。
【解決手段】ゴムのシミュレーション装置10は、複数の粒子鎖と接着粒子とをゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する初期状態配置部13と、作業領域の温度を所定温度に上昇させる温度制御部14と、作業領域の温度が所定温度まで上昇したのに応じて、接着粒子が粒子鎖の粒子と接着するよう制御する接着粒子制御部15と、作業領域を小さくしてゴムモデルの形状を成形する形状成形部16と、温度制御部14、接着粒子制御部15、及び形状成形部16による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の粒子及び接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する粒子位置計算部17と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムのシミュレーション装置、シミュレーション方法、及びシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムはゴムの木の樹液を原料とする材料で、最終製品として、輪ゴム、タイヤ、靴、手袋、スポーツ用品、コンドーム、防振免震体、絶縁被覆体など日常生活のありとあらゆるところで使われている。ゴムは、常温・常圧環境下では一定の形状を自ら保つことができて、水あめのように勝手に流れることはない点で明らかに固体である。しかし、ゴム以外の固体は、および1〜1000GPaの弾性率を有するのに対して、ゴムは0.01〜0.1GPaと非常に低い弾性率を持つ点で特殊な固体である。また、ゴムの弾性は、大きくひずませると硬くなる強い非線形性を示す。
【0003】
ところで、豆腐のような物質も非常に低い弾性率を持ちゴムのようにプヨプヨするが、大きく変形させるとすぐに壊れてしまう。しかし、ゴムは500%程度のひずみが生じるまで引っ張って変形させても破壊せず、力を取り除けば元の形状に戻る。このように非線形弾性で大変形できるという特殊な物性を有する物質を総じてエラストマー(Elastomer)と呼ぶ。エラストマーの性質を示す物質としては、天然ゴム、ネオプレン、シリコンなどが代表的であるが、いずれも、材料を構成する分子が長い鎖状構造となっているポリマーである。天然ゴムは、エラストマーの中でも伸縮性、耐久性、絶縁性に優れた材料である。
【0004】
近年では、コンピュータの高性能化に伴い、このようなゴムの特性を再現するための数値シミュレーションが試みられている。例えば、特許文献1のように粘弾性材料(ゴム)を高分子レベルでモデル化して変形シミュレーションを行う分子動力学シミュレーションによるアプローチや、特許文献2のように有限要素を用いてタイヤ構成部材をモデル化して部材モデルを作成するような有限要素法によるアプローチが取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−121536号公報
【特許文献2】特開2005−242788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような分子動力学シミュレーションによるアプローチは、実際に分子スケールのモデルを解析領域全体に施すものではなく、あくまで連続体モデルの構成方程式の決定に分子スケールのモデルから得られた情報を使うだけであり、基本は連続体モデルである。このように、分子スケールのモデルでは、現状の計算機環境では高分子の緩和時間をそのまま考慮することが不可能であるため、製品スケールほどの多数の分子鎖に対して言及することはできず、実ゴム製品を表現することができない。
【0007】
また、特許文献2のような有限要素法によるアプローチは、空間をある規則的なメッシュに分割した要素に分け、各要素の応力と歪みの関係を式で与え、境界から与えた条件に従って要素を変形させる。ところが、ゴムの場合、一方向に10倍程度伸縮するなど変形量が非常に大きいため、例えば当初立方体になるようにメッシュ分割しても、変形させた結果極端に細長い要素になってしまう。このままでは計算精度が落ちるので、変形した状態で再度、綺麗な形状のメッシュに再分割する必要がある。この再分割の過程で、要素の変形計算に必要な力学的な情報も再分割しなければならないため、計算精度が落ちてしまう。このような幾何学的な制約から、大変形及び超弾性というゴムの特性を上手く表現することができない。
【0008】
そこで本発明は、大変形及び超弾性というゴムの特性を好適に表現できると共に、実製品スケールでのゴム弾性挙動を再現できるゴムのシミュレーション装置、シミュレーション方法、及びシミュレーションプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係るゴムのシミュレーション装置は、ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための情報を含むゴムモデル成形情報を取得する取得手段と、取得手段により取得されたゴムモデル成形情報に基づいて、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、2つの前記粒子を一定範囲の距離に保つばね部からそれぞれ構成される、ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報を生成する生成手段と、生成手段により生成された複数の粒子鎖を示す情報と、温度に応じたランダム速度で動き、複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる粒子同士を接着する接着粒子を示す情報とを、所定の座標軸におけるゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する配置手段と、第1の温度からから第2の温度まで作業領域の温度を、シミュレーション上の時刻に応じて上昇させるように作業領域の温度を制御する温度制御手段と、作業領域の温度が第2の温度より低い場合には接着粒子が前記粒子と接着しないよう制御し、温度制御手段により作業領域の温度が第2の温度まで上昇したのに応じて、接着粒子が粒子と接着するよう制御する接着粒子制御手段と、温度制御手段により作業領域の温度が第2の温度まで上昇したときに、作業領域を小さくしてゴムモデルの形状を成形する成形手段と、温度制御手段、接着粒子制御手段、及び成形手段による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の粒子及び接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する位置計算手段と、位置計算手段による計算の結果を出力する出力手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
同様に、上記課題を解決するために、本発明に係るゴムのシミュレーション方法は、ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための情報を含むゴムモデル成形情報を取得する取得ステップと、取得ステップにおいて取得されたゴムモデル成形情報に基づいて、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、2つの粒子を一定範囲の距離に保つばね部からそれぞれ構成される、ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報を生成する生成ステップと、生成手段により生成された複数の粒子鎖を示す情報と、温度に応じたランダム速度で動き、複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる粒子同士を接着する接着粒子を示す情報とを、所定の座標軸における前記ゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する配置ステップと、第1の温度からから第2の温度まで作業領域の温度を、シミュレーション上の時刻に応じて上昇させるように作業領域の温度を制御する温度制御ステップと、作業領域の温度が第2の温度より低い場合には接着粒子が粒子と接着しないよう制御し、温度制御ステップにおいて作業領域の温度が第2の温度まで上昇したのに応じて、接着粒子が粒子と接着するよう制御する接着粒子制御ステップと、温度制御ステップにおいて作業領域の温度が第2の温度まで上昇したときに、作業領域を小さくしてゴムモデルの形状を成形する成形ステップと、温度制御ステップ、接着粒子制御ステップ、及び成形ステップにおける制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の前記粒子及び接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する位置計算ステップと、位置計算ステップにおける計算の結果を出力する出力ステップと、を備えることを特徴とする。
【0011】
同様に、上記課題を解決するために、本発明に係るゴムのシミュレーションプログラムは、ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための情報を含むゴムモデル成形情報を取得する取得機能と、取得機能により取得されたゴムモデル成形情報に基づいて、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、2つの粒子を一定範囲の距離に保つばね部からそれぞれ構成される、ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報を生成する生成機能と、生成機能により生成された複数の粒子鎖を示す情報と、温度に応じたランダム速度で動き、複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる粒子同士を接着する接着粒子を示す情報とを、所定の座標軸における前記ゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する配置機能と、第1の温度からから第2の温度まで作業領域の温度を、シミュレーション上の時刻に応じて上昇させるように作業領域の温度を制御する温度制御機能と、作業領域の温度が第2の温度より低い場合には接着粒子が粒子と接着しないよう制御し、温度制御機能により作業領域の温度が第2の温度まで上昇したのに応じて、接着粒子が粒子と接着するよう制御する接着粒子制御機能と、温度制御機能により作業領域の温度が第2の温度まで上昇したときに、作業領域を小さくしてゴムモデルの形状を成形する成形機能と、温度制御機能、接着粒子制御機能、及び成形機能による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の粒子及び接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する位置計算機能と、位置計算機能による計算の結果を出力する出力機能と、をコンピュータに実現させることと特徴とする。
【0012】
これらの構成により、作業領域に粒子鎖及び接着粒子が配置された状態で、作業領域内の温度が上昇されると、粒子鎖の粒子が温度に応じたランダム速度で動き回るようになる。粒子鎖の粒子は、バネ部によって、隣接する粒子との相対的な位置関係が一定範囲に制限されているので、粒子のランダムな動きによって粒子鎖は全長を折畳むように収縮させる挙動となる。そして、作業領域の温度が第2の温度まで上昇し、粒子鎖が充分に収縮した状態で、作業領域内をランダム速度で自由運動している接着粒子が、粒子鎖の粒子と接着するよう制御されると共に、作業領域がゴムモデルの形状へ縮小されるため、作業領域内の粒子鎖は折り畳まれ絡み合った状態で相互に接続される。この結果、実物のゴムなどの高分子材料と同様の多数の非常に長い高分子鎖が効率的に折り畳まれながら絡み合っている構造を実現できるので、大変形及び超弾性というゴムの特性を好適に表現できる。また、上記粒子鎖や接着粒子の大きさは分子レベルに限定されず、実製品スケールでよいので、実製品スケールでのゴム弾性挙動を再現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るゴムのシミュレーション装置、シミュレーション方法、及びシミュレーションプログラムによれば、大変形及び超弾性というゴムの特性を好適に表現することができると共に、実製品スケールでのゴム弾性挙動を再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一実施形態に係るゴムのシミュレーション装置のブロック構成図である。
【図2】図1の粒子鎖生成部によって生成される粒子鎖の構成図である。
【図3】温度上昇(平均粒子速度増大)に応じた粒子鎖の挙動を示す図である。
【図4】粒子鎖の温度(平均粒子速度)と短縮ひずみとの関係を示す図である。
【図5】粒子鎖の粒子数と短縮ひずみとの関係を示す図である。
【図6】引張力に応じた粒子鎖の弾性的挙動を示す図である。
【図7】粒子鎖の引張力と伸びとの関係を示す図である。
【図8】バネ剛性に応じた粒子鎖の弾性的挙動を示す図である。
【図9】図1の初期状態配置部によって作業領域に配置された粒子鎖及び接着粒子を示す図である。
【図10】図1の温度制御部によって作業領域の温度が所定温度に上昇したときの作業領域内の状態を示す図である。
【図11】図1の形状成形部によってゴムモデルの形状に成形された粒子鎖及び接着粒子を示す図である。
【図12】図11のゴムモデルが軸方向に圧縮された状態を示す図である。
【図13】本実施形態のゴムのシミュレーション装置により成形されたゴムモデルと、このゴムモデルと同様の形状のゴムとの、ひずみ−応力曲線を示す図である。
【図14】本実施形態のゴムのシミュレーション装置により実施されるゴムモデルの成形処理を示すフローチャートである。
【図15】本発明の第二実施形態に係るゴムのシミュレーション装置のブロック構成図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る鎖状構造体情報の生成装置のブロック構成図である。
【図17】鎖状構造体情報に用いる粒子の定義を示す図である。
【図18】鎖状構造体情報に用いる粒子の粒子間結合の定義を示す図である。
【図19】図16中の種粒子配置部により作業領域内に配置された種粒子を示す図である。
【図20】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図21】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図22】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図23】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図24】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図25】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図26】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図27】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図28】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図29】図16中の接触判別部により接触ありと判別される状態と、接触ありと判定された場合の粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図30】図16中の接触判別部により接触ありと判別される状態と、接触ありと判定された場合の粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図31】図16中の接触判別部により接触ありと判別される状態と、接触ありと判定された場合の粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図32】図16中の接触判別部により接触ありと判別される状態と、接触ありと判定された場合の粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図33】鎖状構造体の成長過程の一例を示す図である。
【図34】鎖状構造体の成長過程の一例を示す図である。
【図35】鎖状構造体の成長過程の一例を示す図である。
【図36】鎖状構造体の鎖の長さの分布を示す図である。
【図37】成長パラメータに応じた生成装置により生成された鎖状構造体の例を示す図である。
【図38】成長パラメータに応じた生成装置により生成された鎖状構造体の例を示す図である。
【図39】成長パラメータに応じた生成装置により生成された鎖状構造体の例を示す図である。
【図40】成長パラメータに応じた生成装置により生成された鎖状構造体の例を示す図である。
【図41】本実施形態の鎖状構造体情報の生成装置により実施される鎖状構造体情報の生成処理を示すフローチャートである。
【図42】本実施形態の鎖状構造体情報の生成装置により実施される鎖状構造体情報の生成処理を示すフローチャートである。
【図43】図15のゴムのシミュレーション装置における加熱プロセスを示す図である。
【図44】図15のゴムのシミュレーション装置における加熱プロセスを示す図である。
【図45】本実施形態に係るゴムのシミュレーションプログラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るゴムのシミュレーション装置の好適な実施形態について図1〜図45を参照しながら説明する。なお、各図において、同一の要素には同一の記号を付し、重複する説明は省略する。図1〜図14は、本発明の第一実施形態を、図15〜図44は、本発明の第二実施形態を各々示すものである。
【0016】
ここで、本発明に関連するエントロピー弾性の原理について説明する。
【0017】
一般に固体の弾性的な振る舞いは、原子間距離の変化で説明される。固体は外部から与えられる力や熱によって隣接原子間の距離が変化することで変形するが、その力や熱を取り除くと、隣接原子は元の位置関係をとろうとするので固体は元の形状に戻る。これが弾性変形である。しかし、隣接原子の位置関係が変わってしまったり、隣接原子間で相互作用が及ばなくなるほど大きく引き離されてしまうと、固体はもはや元の形に戻れなくなり、永久歪みが残ったり(塑性変形)、破壊したりしてしまうため、もはや弾性体ではなくなる。通常、固体が弾性変形できる原子間距離の範囲はごく僅かである。
【0018】
実際の固体の変形は不均質に局所化するもので、もっと小さな歪みで破壊してしまう。また、圧縮した場合、2原子間の距離の縮みとともに反発力は無限大に近づくので大きな圧縮変形もできない。原子間距離を変えないせん断変形にしても、幾何学的に50%以上変形すると、隣接原子間の関係が変わってしまう塑性変形になる。つまり、原子間距離変化が起因する弾性にはひずみ50%以上の大変形は存在できないのである。
【0019】
ところがゴムは、50%のひずみどころか、数百パーセント、局所的には数千パーセント歪ませても、力を取り除けば元の形状に戻る。この事実と上述したことを考慮すると、ゴムの弾性は他の固体のように原子間距離の変化で生じるものではないことは容易に想像がつく。
【0020】
上述したように、ゴムは、ポリイソプレンの長い分子鎖が複雑に絡み合っていて、局部的に分子鎖どうしを結びつけた架橋構造を有している。1本のポリイソプレンは、長いもので10の6乗個程度の炭素原子を含み、非常に折れ曲がりやすい。実は、ゴムの弾性はポリイソプレンを構成している分子、原子間距離の変化ではなく、ポリイソプレンの鎖の折れ曲がり状態の変化が起因していると考えられている。
【0021】
例えば、ゴムに力を加えて引っ張ると、折れ曲がっていた鎖が伸び、力を取り除くとまた折れ曲がって縮むと考えられる。なぜ、より折れ曲がった状態が自然状態となるのかについては、エントロピーの概念で説明することができる。つまり、多数のポリイソプレンの鎖は、折れ曲がっているときに状態数が多くなり、まっすぐに伸びると状態数が少なくなるので、ゴムは引っ張るとエントロピーが下がることになる。だから、引っ張った状態を維持するには力が必要で、力を取り除くと平衡状態に達するまでエントロピーが上がるために縮むのである。このようなエントロピーに起因する弾性的特性を「エントロピー弾性」と呼ぶ。
【0022】
1本の鎖のエントロピー弾性については、これまでに統計力学的な理論に基づいて詳細な解析がなされている。また、鎖の集合体の振る舞いについても統計力学的な理論の延長で幾つかの説明がなされてきた(例えば久保亮五、“ゴム弾性”、裳華房)。そこでのエッセンスは、1本の鎖を構成する分子の熱運動で、温度を上げればより折れ曲がるため鎖の長さは縮まることであり、これが弾性的な回復力の原動力である。
【0023】
本発明は、結果的にはこのエントロピー弾性の原理に基づいている。基本的には、特開2007−172169号公報に開示されている離散要素法(Discrete Element Method:DEM)の延長上と位置づけられる一種の粒子モデルである。しかし、通常のDEMのように物質の弾性的特性を粒子間のバネで表現するのではなく、粒子を鎖状に多数連結させ、さらに各粒子を熱運動させることで弾性的な性質を表現するところが新しい試みである。
【0024】
図1〜図14を参照して本発明の第一実施形態について説明する。図1は、本発明の第一実施形態に係るゴムのシミュレーション装置のブロック構成図、図2は、図1の粒子鎖生成部によって生成される粒子鎖の構成図、図3は、温度上昇(平均粒子速度増大)に応じた粒子鎖の挙動を示す図、図4は、粒子鎖の温度(平均粒子速度)と短縮ひずみとの関係を示す図、図5は、粒子鎖の粒子数と短縮ひずみとの関係を示す図、図6は、引張力に応じた粒子鎖の弾性的挙動を示す図、図7は、粒子鎖の引張力と伸びとの関係を示す図、図8は、バネ剛性に応じた粒子鎖の弾性的挙動を示す図、図9は、図1の初期状態配置部によって作業領域に配置された粒子鎖及び接着粒子を示す図、図10は、図1の温度制御部によって作業領域の温度が所定温度に上昇したときの作業領域内の状態を示す図、図11は、図1の形状成形部によってゴムモデルの形状に成形された粒子鎖及び接着粒子を示す図、図12は、図11のゴムモデルが軸方向に圧縮された状態を示す図、図13は、本実施形態のゴムのシミュレーション装置により成形されたゴムモデルと、このゴムモデルと同様の形状のゴムとの、ひずみ−応力曲線を示す図、図14は、本実施形態のゴムのシミュレーション装置により実施されるゴムモデルの成形処理を示すフローチャートである。
【0025】
本実施形態に係るゴムのシミュレーション装置10は、複数の粒子鎖(図2参照)やこれらの粒子鎖を結合させる複数の接着粒子で表されるゴムモデル(図11参照)を用いてゴムのシミュレーションを行う。このシミュレーション装置10では、粒子鎖の長さや本数、接着粒子数、ゴムモデル形状、ゴムモデルを成形する作業領域(粒子が移動可能な空間)の初期状態など、ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための「ゴムモデル成形情報」が入力されると、このゴムモデル成形情報に従ってゴムモデルを算出し、このゴムモデルに含まれる粒子鎖や接着粒子の位置情報や、接着粒子が接着する粒子の識別情報など、算出されたゴムモデルの構成を表現するための「ゴムモデル構成情報」が出力される。そして、このゴムモデル構成情報により画定されるゴムモデルは、大変形及び超弾性というゴムの特性を表現することができる。
【0026】
図1に示すように、本実施形態のシミュレーション装置10は、ゴムモデル成形情報取得部(取得手段)11、粒子鎖生成部(生成手段)12、初期状態配置部(配置手段)13、温度制御部(温度制御手段)14、接着粒子制御部(接着粒子制御手段)15、形状成形部(成形手段)16、粒子位置計算部(位置計算手段)17、及びゴムモデル構成情報出力部(出力手段)18を含んで構成されている。
【0027】
このシミュレーション装置10は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)、入力デバイスであるキーボード及びマウス等の入力装置、ディスプレイ等の出力装置、ハードディスク等の補助記憶装置などを含むコンピュータシステムとして構成されている。図1において説明した本実施形態のゴムのシミュレーション装置10を構成する各機能は、CPU、RAM等のハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェアを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで入力装置及び出力装置を動作させるとともに、RAMや補助記憶装置におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。以下、図1に示す機能ブロックに基づいて、各機能ブロックを説明する。
【0028】
ゴムモデル成形情報取得部11は、上述のゴムモデル成形情報を取得する部分である。ゴムモデル成形情報取得部11は、例えば、入力装置を介して操作者により入力された情報、または主記憶装置や補助記憶装置から読み出された情報などを受信して、ゴムモデル成形情報を取得する。
【0029】
ここで、ゴムモデル成形情報の一例としては、例えば直径5mm、長さ20mmの円柱形のゴム試験片を模擬したゴムモデルを成形する場合、粒子鎖の本数は8000本、1本の粒子鎖を構成する粒子数は200個、接着粒子数は粒子鎖の粒子の1〜20%程度となる。また、作業領域の初期状態は、例えば、形成するゴムモデルの形状の最大寸法の約10倍程度を一辺とする立方体形状であり、粒子がこの立方体形状より外に出ないように境界が画定され、この場合、200mm四方の立方体となる。なお、本実施形態では、ゴムモデルの形状は圧縮・引張試験シミュレーションに対応させるため円柱を想定しているが、角柱など他の形状でもよい。
【0030】
粒子鎖生成部12は、ゴムモデル成形情報取得部11により取得されたゴムモデル成形情報に基づいて、ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖12aを示す情報を生成する。粒子鎖12aは、図2に示すように、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子12bと、2つの粒子を一定範囲の距離に保つばね部12cから構成される。粒子鎖生成部12は、具体的には、ゴムモデル成形情報に含まれる粒子鎖の長さ、本数、粒子数などの情報を利用して個々の粒子鎖を示す情報を生成する。
【0031】
ここで粒子鎖12aの詳細について説明する。1本の粒子鎖12aは、図2に示すように、それぞれが質量m、半径rの球体として表される複数の粒子12bと、隣接する粒子間の距離の変化のみに反発する剛性K、自然長Lの1次元ばねとして表される複数のバネ部12cとを含む。
【0032】
粒子鎖の各粒子12bは、初期値として平均値vのランダム速度が与えられる。「ランダム速度」とは、例えば、その大きさが平均値vの正規分布から選択され、方向がランダムに選択される。このランダム速度の平均値(以下「平均粒子速度」という)vは、温度Tに対応しており、温度Tが増加すると平均粒子速度vも増加する。温度Tと平均粒子速度vとの関係は、例えば比例関係であり、この場合v=a・Tと表せる(aは定数)。ここではエネルギの散逸は考えず、E=εk(運動エネルギ)+εs(ひずみエネルギ)=constantである。このような条件では、粒子は常に動き回るか振動している。各粒子は、隣接粒子間のばねによる強い拘束を受けるため自由に飛びまわることはできない。粒子鎖は自発的に折れ曲がる。
【0033】
粒子鎖のバネ部の剛性(すなわちバネ定数)Kは、バネ部の両端それぞれ連結する2つの粒子の粒子間距離の変動が一定の範囲に収まることができる程度に十分な硬さに設定されている。このバネの「十分な硬さ」とは、与えられた平均値Vのランダム速度に対して、連結された隣接粒子が自由に動くことができず、隣接粒子間距離が大きく変化しない程度に十分に硬いという意味である。このようなバネの硬さの条件が満たされると、それぞれの粒子は、ランダム速度を有しているにも拘らず、隣接粒子間を結ぶ硬いバネの存在のために完全にランダムな運動ができない。一方、この条件が満たされずばねが柔らかすぎると、各粒子が自由に独立して運動することができ、気体分子運動に近くなってしまうため、温度(=速度)を上げたときに鎖が縮まらないどころか、どんどん開いてしまうことになり、鎖としての特性を失ってしまう。そこで、このような条件を満たすバネ定数Kを設定するための基準は次のように与えられる。
【0034】
バネ定数Kのバネ部の両端に質量m、平均粒子速度Vで移動方向が逆の2つの粒子がつながれて運動している状態を考える。すると、この系の運動エネルギεkは次式のように表される。
εk=2×(1/2)m・V^2 (1)
【0035】
また、バネ部の伸び量をΔxとすると、この系の弾性エネルギεsは次式のように表される。
εs=(1/2)K・Δx^2 (2)
【0036】
ここで、運動エネルギεkが、全て弾性エネルギεsに変換されるとき、εk=εsと表せるので、(1)、(2)式より、
(1/2)K・Δx^2=m・V^2 (3)
とおける。(3)式をKについて解くと、バネ定数Kは次式のように表される。
K=(2×m×V×V)/(Δx×Δx) (4)
ここで、質量mは、粒子の直径(ここではバネの自然長Lと等しいとする)と密度ρから決まり、m=4/3×π×(L/2)×(L/2)×(L/2)×ρである。また、Vには、想定する平均粒子速度の最大値を与える。
【0037】
このとき、Δxは、元のバネの長さ(L≦粒子直径)よりも十分小さくないと粒子鎖の折れ曲がりによる収縮が起こらないので、「Δx≪L」という制約条件が与えられる。そして、バネ定数Kを(4)式で定められる値よりも大きくすれば(つまりばねを硬くすれば)、同じ外力による伸びΔxを小さくすることができ、上記制約条件を満たしやすくなる。結局、バネ定数Kを与える基準は、制約条件Δx≪Lと(4)式より、次のように決まる。
K >=(2×m×V×V)/(Δx×Δx) (5)
【0038】
次に、図3〜8を参照して、1本の粒子鎖の特性について、粒子数n=500個の粒子鎖を例として説明する。この粒子鎖は、図3に示す環境に配置され、図中の左方の端部が固定され、図中の右方の端部が軸線方向に沿って任意の引張力fで引っ張られる。また、平均粒子速度はvで表され、粒子鎖の粒子間をつなぐバネ部のバネ定数はKで表される。図3(a),(b),(c)の横軸は、粒子鎖の長さ(cm)を示す。
【0039】
図3(a)は、温度T=0(すなわち平均粒子速度v=0)かつf=0のときの粒子鎖を示しており、このときの粒子鎖は長さL=5.05cmの基準長である。図3(b)は、温度Tが小さい(すなわち平均粒子速度vも小さい)、または引張力fが大きいときの粒子鎖を示している。この場合、粒子鎖の個々の粒子は鎖を収縮させる方向に十分な運動を行うことができず、粒子鎖の長さも基準長と大差無い。図3(c)は、温度Tが大きい(すなわち平均粒子速度vも大きい)、または引張力fが小さいときの粒子鎖を示している。この場合、全体で、より低次のモード(粒子単位には屈曲)を選びながら縮んで安定する。
【0040】
図4は、図3に示す粒子鎖において、温度T(平均粒子速度v)と短縮ひずみ(%)との関係を示す図である。図4の横軸は平均粒子温度vを示し、縦軸は粒子鎖の短縮ひずみを示す。図4に示すように、平均粒子速度v=100(m/sec)までの短縮ひずみの伸び率と比較して、これ以降の伸び率は鈍化している。
【0041】
図5は、1本の粒子鎖を構成する粒子数nを変化させた場合の、粒子鎖の粒子数と短縮ひずみとの関係を示す図である。図5の横軸は1本の粒子鎖の粒子数nを示し、縦軸は粒子鎖の短縮ひずみを示す。平均粒子速度vは全て100(m/sec)である。図5に示すように、粒子数nが200個以上で短縮ひずみはほぼ一定になる。
【0042】
図6は、図3に示す粒子鎖において、引張力fを変化させた場合の引張力に応じた粒子鎖の弾性的挙動を示す図である。図6の横軸は時間t(秒)を示し、縦軸は粒子鎖の長さ(cm)を示す。そして、図6にプロットされる各グラフは、それぞれ引張力f(N)が50(符号A)、100(符号B)、200(符号C)、500(符号D)、750(符号E)、1000(符号F)、1250(符号G)、及び1500(符号H)のときの粒子鎖の挙動を示している。また、図7は、図3に示す粒子鎖において、図6のように引張力fを変化させた場合の引張力と粒子鎖の長さとの関係を示す図である。図7の横軸は粒子鎖の伸び(cm)を示し、縦軸は引張力(N)を示す。平均粒子速度vは全て100(m/sec)である。図6及び図7に示すように、引張力fが小さいほど粒子鎖の収縮量が多く粒子鎖の長さは短くなり、引張力fが大きいほど収縮量が少なく粒子鎖の長さは基準長に近くなる。
【0043】
図8は、図3に示す粒子鎖において、バネ定数Kに応じた粒子鎖の弾性的挙動を示す図である。図8の横軸は時間(秒)を示し、縦軸は粒子鎖の長さ(cm)を示す。図8では、バネ定数Kが1.0×10−7(N/m)、1.0×10−8(N/m)、1.0×10−9(N/m)のときの粒子鎖の挙動を示している。粒子鎖の基準長Lは5.05(cm)であり、粒子数nは500であり、平均粒子速度vは100(m/sec)であり、引張力fは200(N)である。図8に示すとおり、3種類のバネ定数で、ほぼ同様に収束している。
【0044】
このように図3〜8を参照して説明したとおり、粒子鎖は、温度T(平均粒子速度v)や引張力fに応じて、短縮ひずみ/伸び率が変化するが、平均粒子速度vや粒子数nが所定値(例えばv=100(m/s)やn=200(個))に達すると、その変化量が減退するという特性がある。
【0045】
図1に戻り、初期状態配置部13は、粒子鎖生成部12により生成された複数の粒子鎖12aと、接着粒子13aとを、ゴムモデルを成形するための作業領域13b内に配置する。接着粒子13aは、粒子鎖の粒子12bと同様の構成をとり、質量m、半径rの球体として表され、温度Tに応じた平均粒子速度vが与えられて作業領域13b内を自由に動くことができる。また、接着粒子13aは、後述する接着粒子制御部15によって複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる粒子同士を接着させることができる。
【0046】
初期状態配置部13は、具体的には、粒子鎖生成部12により生成された複数の粒子鎖を示す情報と、ゴムモデル成形情報に含まれる接着粒子数を示す情報や作業領域の初期状態を示す情報(粒子がその内部で移動可能な境界を示す位置情報)を利用して、例えば図9に示すように、作業領域13b内に複数の粒子鎖12a及び接着粒子13aを配置する。粒子鎖12aの間隔は粒子鎖12aの太さ(すなわち粒子の直径)の10倍以上の距離をとられる。接着粒子13aは、粒子鎖12aと接触しない位置にランダムに配置される。
【0047】
温度制御部14は、作業領域13b内の温度を制御する。具体的には、温度制御部14は、ゴムモデル成形処理の初期状態では、粒子鎖の粒子12b及び接着粒子13aの平均粒子速度vが0となる絶対零度T=0(第1の温度)に作業領域13bの温度Tを保持している。また、ゴムモデル成形処理が開始されると、シミュレーション上の時刻に応じてステップ状やランプ状などの所与の挙動で、例えば摂氏100度などの所定温度(第2の温度)まで作業領域13bの温度Tを上昇させる。
【0048】
温度制御部14が作業領域13bの温度Tを所定温度まで上昇させると、例えば図10に示すように、初期状態(図9参照)で直線状だった粒子鎖12aのそれぞれが、粒子12bの動きによって様々な形態に折畳まれて収縮される。
【0049】
接着粒子制御部15は、シミュレーション上の時刻に応じて接着粒子13aが粒子鎖の粒子12bと接着するか否かを制御する。ここで、本実施形態では「接着」とは、2つの粒子の中心間の距離が両者の半径の和と等しい状態(接触状態)を維持した状態のことをいう。接着粒子制御部15は、作業領域13bの温度が所定温度より低い場合には接着粒子13aが粒子12bと接着しないよう制御し、温度制御部14により作業領域の温度が所定温度まで上昇したのに応じて、接着粒子13aが粒子12bと接着するよう制御する。具体的には、1本の粒子鎖12aを加熱して収縮させ、その収縮が平衡状態に達するまでの時間を測定するシミュレーションを行った結果を考慮して、本実施形態では加熱後1秒間放置した後に接着粒子13aの接着機能をオンにする。
【0050】
形状成形部16は、温度制御部14により作業領域13bの温度が所定温度まで上昇したときに、作業領域13bを小さくしていきゴムモデルの形状を成形する。具体的には、ゴムモデル成形情報に含まれるゴムモデル形状を示す情報を利用して、作業領域13bを初期状態からその容積が小さくなるように変化させていき、成形するゴムモデルの形状を決定する。例えば、形状成形部16は、図10に示すように、作業領域13bが初期状態の立方体形状をとり、作業領域13bの温度が所定温度に達して粒子鎖のそれぞれが様々に収縮した状態から、作業領域13bの境界面を徐々に内側へ狭めながら粒子鎖12aや接触粒子13aを作業領域13bの中央に集めて行き、図11に示すような円柱状まで凝縮させて円柱形状のゴムモデルを成形する。さらに、図12に示すように作業領域13bの上下面を内側に狭めた円柱形状を成形することも可能である。
【0051】
粒子位置計算部17は、温度制御部14、接着粒子制御部15、及び形状成形部16による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の粒子鎖の粒子及び接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する。具体的には、粒子位置計算部17は、温度制御部14から作業領域13bの現在の温度Tの情報を受け取り、接着粒子制御部15から接着粒子13aの位置・速度情報と、この接着粒子が接着している粒子の識別情報を受け取り、形状成形部16から現在の作業領域13bの境界面に関する位置情報を受け取る。そして、粒子位置計算部17は、これらの受け取った情報を用いて、作業領域13b内の各粒子の位置・速度情報を算出する。粒子位置計算部17における粒子位置の算出には、特開2007−172169号公報に開示されている粒子データ演算手法を適用することができる。
【0052】
ゴムモデル構成情報出力部18は、粒子位置計算部17による計算結果を上述のゴムモデル構成情報(ゴムモデルに含まれる粒子鎖や接着粒子の位置・速度情報、接着粒子が接着する粒子の識別情報など)として出力する。
【0053】
本実施形態のゴムのシミュレーション装置10は、このようにゴムモデル構成情報出力部18より出力されたゴムモデル構成情報に基づくゴムモデルを用いてゴムの形状変化などのシミュレーションを行うことができる。例えば、ゴムモデルに加えられる外力の情報や、ゴムモデルを構成する粒子鎖が切れる条件(引張力やせん断力の限界値など)を入力情報として、粒子位置計算部17と同様の計算を行い、ゴムの形状変化をシミュレーションすることができる。
【0054】
このように本実施形態のゴムのシミュレーション装置10により成形されたゴムモデルは、図13に示すように、このゴムモデルと同様の形状の実物のゴムと同様のひずみ−応力特性を示す。図13(a)は、実物のゴムのひずみー応力特性であり、図13(b)は、本実施形態で成形されたゴムモデルを引張試験のシミュレーションに用いたときのひずみ−応力特性である。ゴムモデルのひずみー応力特性は、実物の場合と同様の軟化(ひずみ約150%まで)から硬化(ひずみ約150%以降)へ推移している。
【0055】
次に、図14に示すフローチャートを参照して、本実施形態のゴムのシミュレーション装置10により実施されるゴムモデルの成形処理について説明する。
【0056】
まず、ゴムモデル成形情報取得部11によりゴムモデル成形情報が取得され(S101:取得ステップ)、粒子鎖生成部12に送信される。ゴムモデル成形情報に含まれる粒子鎖の長さ、本数、粒子数などの情報を利用して、粒子鎖生成部12により、ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報が生成される(S102:生成ステップ)。この粒子鎖を示す情報はゴムモデル成形情報と共に初期状態配置部13に送信される。
【0057】
次に、初期状態配置部13によって、ステップS102において粒子鎖生成部12が生成した複数の粒子鎖を示す情報や、ゴムモデル成形情報に含まれる接着粒子数を示す情報や作業領域の初期状態を示す情報などを利用して、例えば図9に示すように、ゴムモデルを成形するための作業領域内に複数の粒子鎖及び接着粒子が配置される(S103:配置ステップ)。
【0058】
初期状態配置部13が作業空間内の配置を完了するのに応じて、温度制御部14によって、作業領域内の温度が、粒子鎖の粒子及び接着粒子の平均粒子速度vが0となる絶対零度0(K)から、例えば摂氏100度などの所定温度Tへとステップ状に上昇される(S104:温度制御ステップ)。この結果、初期状態(図9参照)で直線状だった粒子鎖のそれぞれが、図10に示すように粒子の動きによって様々な形態に折畳まれて収縮する。また、このときにタイマが始動される。
【0059】
次に、温度制御部14が作業領域内の温度を所定温度Tに上昇させたのをトリガとして、形状成形部16により、ゴムモデル成形情報に含まれるゴムモデル形状を示す情報を利用して所望のゴムモデルの形状を成形すべく、作業領域が内側に圧縮される(S105:成形ステップ)。
【0060】
次に、ステップS104で始動されたタイマが所定値(ここでは1秒)を超えたか否かが確認される(S106)。タイマが所定値以下の場合にはステップS108に移行する。タイマが所定値を超えている場合には、接着粒子制御部15により、接着粒子が粒子鎖の粒子と接着できるように接着粒子の機能をオンにして(S107:接着粒子制御ステップ)、ステップS108に移行する。
【0061】
なお、上記ステップS104〜S107の処理は、この順番で行われることが好ましい。例えば、作業領域13bを圧縮しはじめる前に接着粒子の機能をオンにしてしまうと、早い時期に粒子鎖の各粒子が接着粒子により拘束され、粒子鎖の動ける自由度が下がるため、粒子鎖を充分に収縮させることができない。この状態で作業領域を圧縮しても、粒子鎖に元に戻ろうという弾性が出てしまい、所定の形状を維持することができなくない。また、作業領域の温度上昇を成形ステップや接着粒子制御ステップの後に行っても同様である。
【0062】
次に、粒子位置計算部17によって、温度制御部14、接着粒子制御部15、及び形状成形部16による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の粒子鎖の粒子及び接着粒子の動きが計算されてそれぞれの位置が計算される(S108:位置計算ステップ)。このステップにおける粒子位置の算出には、特開2007−172169号公報に開示されている粒子データ演算手法を適用する。
【0063】
次に、ゴムモデルの成形が完了したか否かが確認される(S109)。成形完了の判定基準としては、形状成形部16が所望のゴムモデルの形状に作業領域を充分圧縮し、かつ、タイマが所定の作業完了時間に達していることとする。
【0064】
ゴムモデルの成形が完了していないと判定された場合には、ステップS105に戻り、完了判定が行われるまでステップS105〜S109を繰り返す。ゴムモデルの成形が完了したと判定された場合には、ゴムモデル構成情報出力部18によって、粒子位置計算部17による計算結果がゴムモデル構成情報として出力され(S110:出力ステップ)、処理が終了する。
【0065】
次に、図15〜図44を参照して本発明の第二実施形態について説明する。図15は、本発明の第二実施形態に係るゴムのシミュレーション装置のブロック構成図、図16は、図15の鎖状構造体情報の生成装置のブロック構成図、図17は、鎖状構造体情報に用いる粒子の定義を示す図、図18は、鎖状構造体情報に用いる粒子の粒子間結合の定義を示す図、図19は、図16中の種粒子配置部により作業領域内に配置された種粒子を示す図、図20〜28は、図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図、図29〜32は、図16中の接触判別部により接触ありと判別される状態と、接触ありと判定された場合の粒子鎖の成長過程を示す図、図33〜35は、鎖状構造体の成長過程の一例を示す図、図36は、鎖状構造体の鎖の長さの分布を示す図、図37〜40は、成長パラメータに応じた生成装置により生成された鎖状構造体の例を示す図、図41〜42は、本実施形態の鎖状構造体情報の生成装置により実施される鎖状構造体情報の生成処理を示すフローチャート、図43〜44は、図15のゴムのシミュレーション装置における加熱プロセスを示す図である。
【0066】
図15に示すように、本実施形態に係るゴムのシミュレーション装置20と第一実施形態に係るシミュレーション装置10との相違点は、第一実施形態の粒子鎖生成部12の代わりに鎖状構造体生成装置100を用いていることである。図15に示す本実施形態のシミュレーション装置20に含まれる他の構成要素は、第一実施形態と同様の機能を有するものなので説明を省略する。以下、図16〜42を参照して、鎖状構造体生成装置100について説明する。
【0067】
図16に示す本実施形態に係る鎖状構造体情報の生成装置100は、「成長パラメータ」及び「成長ルール」を示す情報を取得すると、これらの情報に基づいて鎖状構造体の構成を示す「鎖状構造体情報」を出力する。ここで、「鎖状構造体」とは、本実施形態では、相互に接触せず任意の形状をとる複数の粒子鎖により構成される、折り畳みと絡み合いのある複雑な粒子鎖の集合体のことをいう。この鎖状構造体を初期状態として利用すれば、ゴム等の高分子材料のシミュレーションに適用なモデルを作成することができる。
【0068】
また、鎖状構造体を構成する粒子鎖のそれぞれは、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、隣接する2つの粒子を一定範囲の距離に保つばね部とから構成されている。さらに、個々の粒子は、図17に示すように半径rの球体で定義される。したがって、粒子は体積を有し、異なる粒子同士で同じ空間点を共有することはできない、つまり重なり合うことはできない。また、図18に示すように、結合した2つの粒子間の距離は半径rの2倍とすると、粒子が球形で体積があるため、3粒子が連結している場合、折れ曲がり角Aの最小値は60度である。
【0069】
ここで、上記の「成長パラメータ」とは、粒子鎖に新たな粒子を追加する際に、粒子鎖の端部に位置し新たな粒子と連結する粒子に対する、新たな粒子の相対的な配置位置を定義するパラメータである。具体的には、例えば図26に示すように、隣接する粒子間での回転角φ及び結合角θである。回転角φ及び結合角θは、個別の所定値またはランダム値でそれぞれ設定される。
【0070】
また、上記の「成長ルール」とは、成長パラメータによって決定された配置位置に新たな粒子を配置すると、他の粒子や作業領域の境界面と重複してしまい、当該位置に粒子を配置できない場合に新たな成長方向を決定するためのルールである。具体的には、シミュレーション環境やモデル化したい材料の種類などの各種条件に応じて、(1)結合角θだけ異なる値を与える、(2)回転角φ及び結合角θの両方に異なる値を与える、(3)成長を止めるなどの手法を適宜選択して設定することができる。なお、(1)や(2)の「異なる値」の与え方としては、例えば乱数やある角度の整数倍などが挙げられる。
【0071】
本発明の特徴は、鎖は成長しながら3次元的に2種類の回転角を持ち、成長方向に障害物が存在するときにはフレキシブルに方向を変えてその障害物を避けながら成長するというアルゴリズムである。鎖を構成する基本ユニットを体積を有する粒子で表現し、粒子を所定の幾何学的ルールに従って、順次連結させることで鎖を成長させる。必要な鎖の本数と成長回数と幾何学連結ルールを入力として、最終的に得られた鎖状ネットワークを構成する全ての粒子の座標を出力とする。
【0072】
図16に示すように、本実施形態に係る鎖状構造体情報の生成装置100は、情報取得部(取得手段)101、種粒子配置部(種粒子配置手段)102、成長制御部(粒子鎖生成手段)103、接触判別部(粒子鎖生成手段)104、粒子情報格納部105、成長終了判別部106、鎖状構造体情報出力部(出力手段)107を含んで構成されている。
【0073】
情報取得部101は、上述の成長パラメータ及び成長ルールを取得する部分である。情報取得部101は、例えば、入力装置を介して操作者により入力された情報、または主記憶装置や補助記憶装置から読み出された情報などを受信して、成長パラメータ及び成長ルールを取得する。
【0074】
種粒子配置部102は、鎖状構造体を生成するための作業領域内に、粒子鎖を生成するための種粒子として配置される複数の粒子を示す種粒子位置情報を生成する。具体的には、図19に示すように、直方体状(円筒状など他の形状でもよい)の境界が定義された閉空間である所定の作業領域内において、3つの乱数を発生させて個々の種粒子の座標(X,Y,Z)を決めて、所定個数の種粒子を配置してゆく。このとき、既に配置された他の粒子と重なりができるときは、乱数を発生し直す。種粒子配置部102は、このように定められた種粒子の座標をまとめて種粒子位置情報として粒子鎖成長制御部103に送信し、粒子情報格納部105に格納する。
【0075】
粒子鎖成長制御部103は、種粒子配置部102によって生成された種粒子位置情報により定義される種粒子のそれぞれについて、情報取得部101により取得された成長パラメータに従って決定された方向にバネ部によって新たな粒子を連結させることを繰り返して、複数の粒子鎖を示す情報を生成する。
【0076】
ここで、粒子鎖の成長過程について図20〜28を参照して説明する。図20に示すように、まず種粒子にローカル座標系を与える。空間に固定されたグローバル座標系に基づいて決められた領域内に所定数だけ発生されたそれぞれの種粒子に対して、一様乱数を用いてグローバル座標系を3次元回転させることでローカル座標系を与える。このとき、一様乱数を用いるので、種粒子が統計的に十分に多ければ、全ての種粒子のローカル座標系は空間に対して等方性を保つことができる。このローカル座標系は、鎖の成長とともに、それぞれの粒子が所定のルールに従って受け継がれる。
【0077】
次に、図21に示すように、粒子鎖の成長過程の第1段階が行われる。1つの鎖のn番目の粒子(成長粒子、着目粒子N=n)に新たにn+1番目の粒子(追加粒子N=n+1)を追加する場合、まず、粒子n−1と粒子nを結ぶベクトルを作り、それをaとする。種粒子(N=1、Nは1つの鎖を構成する粒子数)の成長の場合は、N=n−1が0となり粒子が存在しないので、種粒子から距離dだけ離れた任意の位置を乱数で決め仮想粒子N=0を作り、種粒子と結ぶベクトルaを決める。
【0078】
次に、図22に示すように、粒子鎖の成長過程の第2段階が行われる。成長粒子nの中心を始点とするベクトルaを作り、それをベクトルa’とする。
【0079】
次に、図23に示すように、粒子鎖の成長過程の第3段階が行われる。ベクトルa’を粒子nのローカル座標系のz軸の周りに+θだけ回転させて得られるベクトルをa’’とする。このとき、a’’はローカル座標系のx−y平面上にある。このときとれるθは0からπ/2までとする。
【0080】
次に、図24に示すように、粒子鎖の成長過程の第4段階が行われる。ローカル座標系のx−y平面上にあるベクトルa’’をローカル座標系のx軸の周りに+φだけ回転して得られるベクトルをbとする。このとき、φは0から2πまでとする。
【0081】
次に、図25に示すように、粒子鎖の成長過程の第5段階が行われる。ベクトルaとa’’の間の角θは分子の結合角に相当しa’’がx軸の周りを自由回転できる場合、bは、図25に示すようにベクトルa’’を斜辺とする円錐上のどこかに存在することになる。
【0082】
次に、図26に示すように、粒子鎖の成長過程の第6段階が行われる。自由回転を何らかの理由(φを一定値で決める、又はφを所定値の整数倍とするなど)で拘束し、あるφのときのベクトルbの終点を追加粒子n+1の中心として配置する。
【0083】
次に、図27に示すように、粒子鎖の成長過程の第7段階が行われる。粒子nが有していたローカル座標系は粒子n+1に次のように引き継がれる。まず、x軸はベクトルbの方向とし、z軸はベクトルa’(これは粒子nのx軸である)とベクトルbが作る平面に垂直な方向(これはベクトルa’とベクトルbの外積ベクトルの方向である)とし、その両者に直行する方向をy軸とする。
【0084】
結合角θと回転角φを固定して、上述した粒子鎖の成長過程の第1段階〜第7段階鎖を繰り返しながら鎖の末端に粒子を次々と配置し、それぞれのローカル座標も更新してゆくと、θとφに応じて、1本の鎖は3次元的な波模様となったり螺旋コイル状となったりする。図28は、鎖の基本成長パターンである。
【0085】
また、粒子鎖成長制御部103は、後述する接触判別部104より接触との判定結果を受信すると、成長パラメータによって決定された配置位置に新たな粒子を配置できないと判断し、この場合には成長ルールにしたがって新たな配置位置を決定する。
【0086】
接触判定が行われるケースの一例は、成長粒子が既存粒子と空間上で重なり合いを生じてしまう場合である。つまり、図29に示すように、鎖の成長過程で粒子nを始点とするベクトルbが決まり、粒子nに粒子n+1を追加しようとしたときに、同じ鎖や他の鎖の既存粒子と空間上で重なりが生じてしまう場合である。
【0087】
この場合、図30に示すように、1)自由回転角φを乱数で与え直してφ’とし、ベクトルb’を作って、粒子n+1を配置し、2)ベクトルb’では、さらに別の重なりが生じてしまう場合、もう一度1)を行う。
【0088】
上記2)を所定の限界回数(k回:kは10000以上の大きい数)行っても重なりがある場合は、図31に示すように、3)自由回転角φを変化させても重なりが解消されない場合は、重なりが無い場所が見つかるまで結合角θと自由回転角φを乱数で与え、4)上記3)のプロセスを制限回数行っても見つからない場合、その鎖の成長を終える。
【0089】
接触判定が行われるケースの他の例は、図32に示すように、成長粒子が作業領域の壁面境界に接触してしまう場合である。この場合も、既存粒子と重なりが生じる場合と同じで、自由回転角φ、結合角θを乱数で与えて接触がない場所を探査し、なければ鎖の成長を終了させる。
【0090】
図16に戻り、接触判別部104は、粒子鎖成長制御部103により新たに追加された粒子について接触判定を行う。ここで「接触」とは(1)他の粒子との接触(図29参照)、及び(2)作業領域境界面との接触(図32参照)をいう。接触判別部104は、具体的には、後述する粒子情報格納部105に格納されている作業領域内の粒子の位置情報に基づいて接触判定を行う。接触ありと判定した場合、その判定結果を粒子鎖成長制御部103に送信する。接触なしと判定したときには新たに追加した粒子の位置情報を粒子情報格納部105に格納する。
【0091】
粒子情報格納部105は、粒子鎖成長制御部103によって作業領域に配置された粒子の位置情報を格納する。粒子情報格納部105に格納される情報は、例えば、接触判別部104から接触なしとの判定が出たときに更新する。
【0092】
成長終了判別部106は、作業空間内の全ての粒子鎖の成長が終了したか否かを判別する。具体的には、例えば、全ての粒子鎖が、(1)所定の長さに達した状態、または(2)成長ルールに従って成長が終了した状態のいずれかである場合に、全ての粒子鎖の成長が終了したものと判定する。成長未終了の場合は、粒子鎖成長制御部103に通知してさらに粒子鎖の成長処理を実行させる。成長完了と判別すると、鎖状構造体情報出力部107に通知する。
【0093】
鎖状構造体情報出力部107は、成長終了判別部106から成長完了の通知を受け取ると、粒子情報格納部105から鎖状構造体を構成する粒子の位置情報を取得して、これらの情報をまとめて鎖状構造体情報として出力する。
【0094】
このような生成装置100により、例えば図33〜35に示すように鎖状構造体が生成される。図33は、作業空間に種粒子を配置した状態である。図34は、粒子鎖の成長途上の状態である。図35は、全ての粒子鎖の成長が終了して鎖状構造体が生成された状態である。本手法を用いて発生した折り畳みと絡み合いのある複雑な鎖の集合体について、鎖の長さとその頻度をグラフにすると、図36に示すようにほぼ正規分布になることが分かった。この結果は、鎖の成長がランダム過程によるものであること証明していて、できた鎖の集合体はランダムネットワークであることを意味している。
【0095】
図37〜40は、成長パラメータに応じた生成装置100により生成された鎖状構造体の例を示す。図37〜40は、回転角φが60度であり、結合角θがそれぞれ5度、10度、20度、40度の場合に、生成装置100により生成された鎖状構造体である。結合角θ及び回転角φを両方固定すると、伸縮率が大きくなり、ゴムなどの材料のモデルに適用可能であるし、また、変形後に形状を戻すパラメータがθとφの2つだけと少ないため、形状記憶材料のモデル化に利用するのも好適である。
【0096】
図37〜40に示すように、成長パラメータの結合角θ及び回転角φを両方固定すると、鎖状構造体に含まれる粒子鎖のそれぞれは螺旋状となる。このような螺旋状の粒子鎖は、折畳んだ状態と伸ばした状態の1次元的な長さの比が非常に大きい構造である。つまり、天然ゴムに特有な非常に大きな伸び(例えば数千パーセントの歪み)を表現するのに、図37〜40に示すようなローカルに螺旋状になっている鎖状構造体は効果的である。その他、非常に重要なことは、一度伸ばされた鎖が再び折畳まれるときに、モデルの場合には、どうやって折り畳まれていたのだったかを示すという情報が必要となるが、螺旋形状の場合には、上述のように隣接粒子間の結合角θ及び回転角φの2つのパラメータだけを記憶させておけば、たとえランダムな螺旋であっても、完璧に元の形状に戻すことができる。螺旋以外の他の形状だと、記憶させるべき情報がもっと多くなり計算上不都合なだけでなく、現実にも高分子を構成する原子や分子がそのような膨大な記憶をするメカニズムが見当たらない。したがって、鎖状構造体を構成する粒子鎖を螺旋形状にすることは、(1)よく伸び縮みできる、(2)疑似ランダム構造が作れる、(3)元の形状に折り畳むための情報が少ない、という大きなメリットがある。
【0097】
擬似ランダム構造が作れるメリットは以下のとおりある。螺旋は完全に特徴のある構造でランダム構造ではない。逆に完全なランダム構造は螺旋にはなれない。ランダムなのによく伸び縮みできて、元の形状に折畳むための情報も少なくてすむのがランダム螺旋で、これを「擬似ランダム構造」と呼びます。なぜランダム性を追求しなければならないかという理由は、天然ゴムのような物質は、決して完全に特徴のある構造にはならず、鎖の成長過程である程度のランダムさがどうしても存在し、このランダムさがゴムをゴムらしくしているという知見があるためである。よく伸びるのにランダムであるという相反する条件はランダム螺旋によって実現される。
【0098】
なお、例えば高分子の炭素−炭素間結合の場合、幾何学的には回転角φは自由だが、エネルギー的に落ち着く角度は120度であるという知見がある。また、このφに一定値を与えると、結果として鎖は螺旋状になる。勿論、乱数で決めて完全にランダムであるケースも考えられる。従って、何をこの鎖状構造体でモデル化するのかというケースによって、このφの決め方は異なる。
【0099】
図41、42は、本実施形態の鎖状構造体情報の生成装置100により実施される鎖状構造体情報の生成処理を示すフローチャートである。
【0100】
図41に示すように、まず種粒子配置部102により作業領域が設定され(S1001)、種粒子が作業領域に発生される(S1002)。次に粒子鎖成長制御部103によって、各種粒子ごとに初期成長方向及びローカル座標系が設定され(S1003)、成長ルール及び成長パラメータが設定され(S1004)、鎖状ネットワーク成長が実行される(S1005)。
【0101】
鎖状ネットワーク成長の実行処理S1005では、図42に示すサブルーチンが実施される。まず、成長可能な粒子鎖をピックアップした選定候補リストから成長させる鎖(i)が一様乱数により選定される(S2001)。次に、鎖(i)の現在の粒子数がnのときのn番目とn−1番目の粒子座標からベクトルaが算出される(S2002)。さらに、結合角θと回転各φからn+1番目の粒子の座標が算出され(S2003)、既存粒子及び作業領域境界面との接触判定が行われる(S2004)。接触なしと判定された場合にはステップS2005に移行する。接触ありと判定された場合には、試行回数が上限値未満かどうかが確認され(S2007)、上限値未満である場合にはステップS2003に戻る。上限値以上の場合には、鎖(i)の成長を終了して(S2008)選定候補リストから当該鎖(i)の情報(例えば鎖番号など識別情報)を削除し、ステップS2006に移行する。
【0102】
ステップS2004において接触なしと判定された場合には、鎖(i)のn+1番目の座標が粒子情報格納部105に格納され(S2005)、全ての鎖の成長が終了したか否かが確認される(S2006)。具体的には、選定候補リストに鎖の情報が残っているか否かを確認し、選定候補リスト内の鎖の情報がなくなった場合に全ての鎖の成長が終了したと判定する。全ての鎖の成長が終了していない場合には、ステップS2001に戻る。全ての鎖の成長が終了した場合には、図41のメインフローに戻り処理を終了する。
【0103】
本実施形態に係る鎖状構造体情報の生成装置100では、作業領域内に配置された種粒子から成長パラメータに従った成長方向に新たな粒子が連結され、また、成長パラメータによって決定された配置位置に他の粒子や作業領域境界が存在するために粒子を配置不可能な場合には、成長ルールに従った新たな成長方向に粒子が連結されて、粒子鎖が成長していき鎖状構造体が生成される。このため、成長パラメータと成長ルールという情報を与えるだけで、高分子材料等の性質を再現可能な高分子モデルを成形するための鎖状構造体情報を自動的に生成することができる。
【0104】
本実施形態のシミュレーション装置20では、上述のように鎖状構造体生成装置100によって鎖状構造体が生成されると、初期状態配置部13が、図43に示すように、鎖状構造体生成装置100により生成された鎖状構造体を作業領域内に配置する。本実施形態では、鎖状構造体の粒子鎖の両端を接着粒子にする。なお、接着粒子は、作業領域内にランダムに配置してもよい。
【0105】
図44は、温度制御部14が作業領域内の温度を所定温度まで上昇させたときの鎖状構造体の状態を示している。本実施形態では、図43に示すように、粒子鎖が加熱前の初期状態から複雑に曲がりくねっているので、図44に示すように、第一実施状態に比べて温度上昇による収縮度合いが小さく、大体2割程度の収縮である。したがって、第一実施形態に比べて作業領域の初期状態を小さくすることができる。
【0106】
次に、上述した一連のゴムモデルの成形処理をコンピュータに実行させるためのゴムのシミュレーションプログラムを説明する。図45に示すように、ゴムのシミュレーションプログラム202は、コンピュータが備える記憶媒体200に形成されたプログラム格納領域201内に格納されている。
【0107】
ゴムのシミュレーションプログラム202は、ゴムモデル成形情報取得モジュール(取得機能)202a、粒子鎖生成モジュール(または鎖状構造体生成モジュール)(生成機能)202b、初期状態配置モジュール(配置機能)202c、温度制御モジュール(温度制御機能)202d、接着粒子制御モジュール(接着粒子制御機能)202e、形状成形モジュール(成形機能)202f、粒子位置計算モジュール(位置計算機能)202g、及びゴムモデル構成情報出力モジュール(出力機能)202hを備えて構成される。
【0108】
ゴムモデル成形情報取得モジュール202a、粒子鎖生成モジュール(または鎖状構造体生成モジュール)202b、初期状態配置モジュール202c、温度制御モジュール202d、接着粒子制御モジュール202e、形状成形モジュール202f、粒子位置計算モジュール202g、及びゴムモデル構成情報出力モジュール202hを実行させることにより実現される機能は、上述したゴムのシミュレーション装置10,20のゴムモデル成形情報取得部11、粒子鎖生成部12(または鎖状構造体生成装置100)、初期状態配置部13、温度制御部14、接着粒子制御部15、形状成形部16、粒子位置計算部17、及びゴムモデル構成情報出力部18の機能とそれぞれ同様である。
【0109】
なお、ゴムのシミュレーションプログラム202は、その一部又は全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、他の機器により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。また、ゴムのシミュレーションプログラム202は、その一部又は全部が、CD−ROM、DVD−ROM、フラッシュメモリなどの持ち運び可能な記憶媒体に格納された状態から、他の機器に記録(インストールを含む)される構成としてもよい。
【0110】
上記実施形態に係るゴムのシミュレーション装置10,20では、作業領域に粒子鎖及び接着粒子が配置された状態で、作業領域内の温度が上昇されると、粒子鎖の粒子が温度に応じたランダム速度で動き回るようになる。粒子鎖の粒子は、バネ部によって、隣接する粒子との相対的な位置関係が一定範囲に制限されているので、粒子のランダムな動きによって粒子鎖は全長を折畳むように収縮させる挙動となる。そして、作業領域の温度が第2の温度まで上昇し、粒子鎖が充分に収縮した状態で、作業領域内をランダム速度で自由運動している接着粒子が、粒子鎖の粒子と接着するよう制御されると共に、作業領域がゴムモデルの形状へ縮小されるため、作業領域内の粒子鎖は折り畳まれ絡み合った状態で相互に接続される。この結果、実物のゴムなどの高分子材料と同様の多数の非常に長い高分子鎖が効率的に折り畳まれながら絡み合っている構造を実現できるので、大変形及び超弾性というゴムの特性を好適に表現できる。また、上記粒子鎖や接着粒子の大きさは分子レベルに限定されず、実製品スケールでよいので、実製品スケールでのゴム弾性挙動を再現できる。
【符号の説明】
【0111】
10,20…ゴムのシミュレーション装置、11…ゴムモデル成形情報取得部(取得手段)、12…粒子鎖生成部(生成手段)、12a…粒子鎖、12b…粒子、12c…ばね部、13…初期状態配置部(配置手段)、13a…接着粒子、13b…作業領域、14…温度制御部(温度制御手段)、15…接着粒子制御部(接着粒子制御手段)、16…形状成形部(成形手段)、17…粒子位置計算部(位置計算手段)18…ゴムモデル構成情報出力部(出力手段)100…鎖状構造体生成装置(生成手段)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムのシミュレーション装置、シミュレーション方法、及びシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムはゴムの木の樹液を原料とする材料で、最終製品として、輪ゴム、タイヤ、靴、手袋、スポーツ用品、コンドーム、防振免震体、絶縁被覆体など日常生活のありとあらゆるところで使われている。ゴムは、常温・常圧環境下では一定の形状を自ら保つことができて、水あめのように勝手に流れることはない点で明らかに固体である。しかし、ゴム以外の固体は、および1〜1000GPaの弾性率を有するのに対して、ゴムは0.01〜0.1GPaと非常に低い弾性率を持つ点で特殊な固体である。また、ゴムの弾性は、大きくひずませると硬くなる強い非線形性を示す。
【0003】
ところで、豆腐のような物質も非常に低い弾性率を持ちゴムのようにプヨプヨするが、大きく変形させるとすぐに壊れてしまう。しかし、ゴムは500%程度のひずみが生じるまで引っ張って変形させても破壊せず、力を取り除けば元の形状に戻る。このように非線形弾性で大変形できるという特殊な物性を有する物質を総じてエラストマー(Elastomer)と呼ぶ。エラストマーの性質を示す物質としては、天然ゴム、ネオプレン、シリコンなどが代表的であるが、いずれも、材料を構成する分子が長い鎖状構造となっているポリマーである。天然ゴムは、エラストマーの中でも伸縮性、耐久性、絶縁性に優れた材料である。
【0004】
近年では、コンピュータの高性能化に伴い、このようなゴムの特性を再現するための数値シミュレーションが試みられている。例えば、特許文献1のように粘弾性材料(ゴム)を高分子レベルでモデル化して変形シミュレーションを行う分子動力学シミュレーションによるアプローチや、特許文献2のように有限要素を用いてタイヤ構成部材をモデル化して部材モデルを作成するような有限要素法によるアプローチが取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−121536号公報
【特許文献2】特開2005−242788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような分子動力学シミュレーションによるアプローチは、実際に分子スケールのモデルを解析領域全体に施すものではなく、あくまで連続体モデルの構成方程式の決定に分子スケールのモデルから得られた情報を使うだけであり、基本は連続体モデルである。このように、分子スケールのモデルでは、現状の計算機環境では高分子の緩和時間をそのまま考慮することが不可能であるため、製品スケールほどの多数の分子鎖に対して言及することはできず、実ゴム製品を表現することができない。
【0007】
また、特許文献2のような有限要素法によるアプローチは、空間をある規則的なメッシュに分割した要素に分け、各要素の応力と歪みの関係を式で与え、境界から与えた条件に従って要素を変形させる。ところが、ゴムの場合、一方向に10倍程度伸縮するなど変形量が非常に大きいため、例えば当初立方体になるようにメッシュ分割しても、変形させた結果極端に細長い要素になってしまう。このままでは計算精度が落ちるので、変形した状態で再度、綺麗な形状のメッシュに再分割する必要がある。この再分割の過程で、要素の変形計算に必要な力学的な情報も再分割しなければならないため、計算精度が落ちてしまう。このような幾何学的な制約から、大変形及び超弾性というゴムの特性を上手く表現することができない。
【0008】
そこで本発明は、大変形及び超弾性というゴムの特性を好適に表現できると共に、実製品スケールでのゴム弾性挙動を再現できるゴムのシミュレーション装置、シミュレーション方法、及びシミュレーションプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係るゴムのシミュレーション装置は、ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための情報を含むゴムモデル成形情報を取得する取得手段と、取得手段により取得されたゴムモデル成形情報に基づいて、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、2つの前記粒子を一定範囲の距離に保つばね部からそれぞれ構成される、ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報を生成する生成手段と、生成手段により生成された複数の粒子鎖を示す情報と、温度に応じたランダム速度で動き、複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる粒子同士を接着する接着粒子を示す情報とを、所定の座標軸におけるゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する配置手段と、第1の温度からから第2の温度まで作業領域の温度を、シミュレーション上の時刻に応じて上昇させるように作業領域の温度を制御する温度制御手段と、作業領域の温度が第2の温度より低い場合には接着粒子が前記粒子と接着しないよう制御し、温度制御手段により作業領域の温度が第2の温度まで上昇したのに応じて、接着粒子が粒子と接着するよう制御する接着粒子制御手段と、温度制御手段により作業領域の温度が第2の温度まで上昇したときに、作業領域を小さくしてゴムモデルの形状を成形する成形手段と、温度制御手段、接着粒子制御手段、及び成形手段による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の粒子及び接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する位置計算手段と、位置計算手段による計算の結果を出力する出力手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
同様に、上記課題を解決するために、本発明に係るゴムのシミュレーション方法は、ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための情報を含むゴムモデル成形情報を取得する取得ステップと、取得ステップにおいて取得されたゴムモデル成形情報に基づいて、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、2つの粒子を一定範囲の距離に保つばね部からそれぞれ構成される、ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報を生成する生成ステップと、生成手段により生成された複数の粒子鎖を示す情報と、温度に応じたランダム速度で動き、複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる粒子同士を接着する接着粒子を示す情報とを、所定の座標軸における前記ゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する配置ステップと、第1の温度からから第2の温度まで作業領域の温度を、シミュレーション上の時刻に応じて上昇させるように作業領域の温度を制御する温度制御ステップと、作業領域の温度が第2の温度より低い場合には接着粒子が粒子と接着しないよう制御し、温度制御ステップにおいて作業領域の温度が第2の温度まで上昇したのに応じて、接着粒子が粒子と接着するよう制御する接着粒子制御ステップと、温度制御ステップにおいて作業領域の温度が第2の温度まで上昇したときに、作業領域を小さくしてゴムモデルの形状を成形する成形ステップと、温度制御ステップ、接着粒子制御ステップ、及び成形ステップにおける制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の前記粒子及び接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する位置計算ステップと、位置計算ステップにおける計算の結果を出力する出力ステップと、を備えることを特徴とする。
【0011】
同様に、上記課題を解決するために、本発明に係るゴムのシミュレーションプログラムは、ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための情報を含むゴムモデル成形情報を取得する取得機能と、取得機能により取得されたゴムモデル成形情報に基づいて、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、2つの粒子を一定範囲の距離に保つばね部からそれぞれ構成される、ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報を生成する生成機能と、生成機能により生成された複数の粒子鎖を示す情報と、温度に応じたランダム速度で動き、複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる粒子同士を接着する接着粒子を示す情報とを、所定の座標軸における前記ゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する配置機能と、第1の温度からから第2の温度まで作業領域の温度を、シミュレーション上の時刻に応じて上昇させるように作業領域の温度を制御する温度制御機能と、作業領域の温度が第2の温度より低い場合には接着粒子が粒子と接着しないよう制御し、温度制御機能により作業領域の温度が第2の温度まで上昇したのに応じて、接着粒子が粒子と接着するよう制御する接着粒子制御機能と、温度制御機能により作業領域の温度が第2の温度まで上昇したときに、作業領域を小さくしてゴムモデルの形状を成形する成形機能と、温度制御機能、接着粒子制御機能、及び成形機能による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の粒子及び接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する位置計算機能と、位置計算機能による計算の結果を出力する出力機能と、をコンピュータに実現させることと特徴とする。
【0012】
これらの構成により、作業領域に粒子鎖及び接着粒子が配置された状態で、作業領域内の温度が上昇されると、粒子鎖の粒子が温度に応じたランダム速度で動き回るようになる。粒子鎖の粒子は、バネ部によって、隣接する粒子との相対的な位置関係が一定範囲に制限されているので、粒子のランダムな動きによって粒子鎖は全長を折畳むように収縮させる挙動となる。そして、作業領域の温度が第2の温度まで上昇し、粒子鎖が充分に収縮した状態で、作業領域内をランダム速度で自由運動している接着粒子が、粒子鎖の粒子と接着するよう制御されると共に、作業領域がゴムモデルの形状へ縮小されるため、作業領域内の粒子鎖は折り畳まれ絡み合った状態で相互に接続される。この結果、実物のゴムなどの高分子材料と同様の多数の非常に長い高分子鎖が効率的に折り畳まれながら絡み合っている構造を実現できるので、大変形及び超弾性というゴムの特性を好適に表現できる。また、上記粒子鎖や接着粒子の大きさは分子レベルに限定されず、実製品スケールでよいので、実製品スケールでのゴム弾性挙動を再現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るゴムのシミュレーション装置、シミュレーション方法、及びシミュレーションプログラムによれば、大変形及び超弾性というゴムの特性を好適に表現することができると共に、実製品スケールでのゴム弾性挙動を再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一実施形態に係るゴムのシミュレーション装置のブロック構成図である。
【図2】図1の粒子鎖生成部によって生成される粒子鎖の構成図である。
【図3】温度上昇(平均粒子速度増大)に応じた粒子鎖の挙動を示す図である。
【図4】粒子鎖の温度(平均粒子速度)と短縮ひずみとの関係を示す図である。
【図5】粒子鎖の粒子数と短縮ひずみとの関係を示す図である。
【図6】引張力に応じた粒子鎖の弾性的挙動を示す図である。
【図7】粒子鎖の引張力と伸びとの関係を示す図である。
【図8】バネ剛性に応じた粒子鎖の弾性的挙動を示す図である。
【図9】図1の初期状態配置部によって作業領域に配置された粒子鎖及び接着粒子を示す図である。
【図10】図1の温度制御部によって作業領域の温度が所定温度に上昇したときの作業領域内の状態を示す図である。
【図11】図1の形状成形部によってゴムモデルの形状に成形された粒子鎖及び接着粒子を示す図である。
【図12】図11のゴムモデルが軸方向に圧縮された状態を示す図である。
【図13】本実施形態のゴムのシミュレーション装置により成形されたゴムモデルと、このゴムモデルと同様の形状のゴムとの、ひずみ−応力曲線を示す図である。
【図14】本実施形態のゴムのシミュレーション装置により実施されるゴムモデルの成形処理を示すフローチャートである。
【図15】本発明の第二実施形態に係るゴムのシミュレーション装置のブロック構成図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る鎖状構造体情報の生成装置のブロック構成図である。
【図17】鎖状構造体情報に用いる粒子の定義を示す図である。
【図18】鎖状構造体情報に用いる粒子の粒子間結合の定義を示す図である。
【図19】図16中の種粒子配置部により作業領域内に配置された種粒子を示す図である。
【図20】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図21】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図22】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図23】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図24】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図25】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図26】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図27】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図28】図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図29】図16中の接触判別部により接触ありと判別される状態と、接触ありと判定された場合の粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図30】図16中の接触判別部により接触ありと判別される状態と、接触ありと判定された場合の粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図31】図16中の接触判別部により接触ありと判別される状態と、接触ありと判定された場合の粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図32】図16中の接触判別部により接触ありと判別される状態と、接触ありと判定された場合の粒子鎖の成長過程を示す図である。
【図33】鎖状構造体の成長過程の一例を示す図である。
【図34】鎖状構造体の成長過程の一例を示す図である。
【図35】鎖状構造体の成長過程の一例を示す図である。
【図36】鎖状構造体の鎖の長さの分布を示す図である。
【図37】成長パラメータに応じた生成装置により生成された鎖状構造体の例を示す図である。
【図38】成長パラメータに応じた生成装置により生成された鎖状構造体の例を示す図である。
【図39】成長パラメータに応じた生成装置により生成された鎖状構造体の例を示す図である。
【図40】成長パラメータに応じた生成装置により生成された鎖状構造体の例を示す図である。
【図41】本実施形態の鎖状構造体情報の生成装置により実施される鎖状構造体情報の生成処理を示すフローチャートである。
【図42】本実施形態の鎖状構造体情報の生成装置により実施される鎖状構造体情報の生成処理を示すフローチャートである。
【図43】図15のゴムのシミュレーション装置における加熱プロセスを示す図である。
【図44】図15のゴムのシミュレーション装置における加熱プロセスを示す図である。
【図45】本実施形態に係るゴムのシミュレーションプログラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るゴムのシミュレーション装置の好適な実施形態について図1〜図45を参照しながら説明する。なお、各図において、同一の要素には同一の記号を付し、重複する説明は省略する。図1〜図14は、本発明の第一実施形態を、図15〜図44は、本発明の第二実施形態を各々示すものである。
【0016】
ここで、本発明に関連するエントロピー弾性の原理について説明する。
【0017】
一般に固体の弾性的な振る舞いは、原子間距離の変化で説明される。固体は外部から与えられる力や熱によって隣接原子間の距離が変化することで変形するが、その力や熱を取り除くと、隣接原子は元の位置関係をとろうとするので固体は元の形状に戻る。これが弾性変形である。しかし、隣接原子の位置関係が変わってしまったり、隣接原子間で相互作用が及ばなくなるほど大きく引き離されてしまうと、固体はもはや元の形に戻れなくなり、永久歪みが残ったり(塑性変形)、破壊したりしてしまうため、もはや弾性体ではなくなる。通常、固体が弾性変形できる原子間距離の範囲はごく僅かである。
【0018】
実際の固体の変形は不均質に局所化するもので、もっと小さな歪みで破壊してしまう。また、圧縮した場合、2原子間の距離の縮みとともに反発力は無限大に近づくので大きな圧縮変形もできない。原子間距離を変えないせん断変形にしても、幾何学的に50%以上変形すると、隣接原子間の関係が変わってしまう塑性変形になる。つまり、原子間距離変化が起因する弾性にはひずみ50%以上の大変形は存在できないのである。
【0019】
ところがゴムは、50%のひずみどころか、数百パーセント、局所的には数千パーセント歪ませても、力を取り除けば元の形状に戻る。この事実と上述したことを考慮すると、ゴムの弾性は他の固体のように原子間距離の変化で生じるものではないことは容易に想像がつく。
【0020】
上述したように、ゴムは、ポリイソプレンの長い分子鎖が複雑に絡み合っていて、局部的に分子鎖どうしを結びつけた架橋構造を有している。1本のポリイソプレンは、長いもので10の6乗個程度の炭素原子を含み、非常に折れ曲がりやすい。実は、ゴムの弾性はポリイソプレンを構成している分子、原子間距離の変化ではなく、ポリイソプレンの鎖の折れ曲がり状態の変化が起因していると考えられている。
【0021】
例えば、ゴムに力を加えて引っ張ると、折れ曲がっていた鎖が伸び、力を取り除くとまた折れ曲がって縮むと考えられる。なぜ、より折れ曲がった状態が自然状態となるのかについては、エントロピーの概念で説明することができる。つまり、多数のポリイソプレンの鎖は、折れ曲がっているときに状態数が多くなり、まっすぐに伸びると状態数が少なくなるので、ゴムは引っ張るとエントロピーが下がることになる。だから、引っ張った状態を維持するには力が必要で、力を取り除くと平衡状態に達するまでエントロピーが上がるために縮むのである。このようなエントロピーに起因する弾性的特性を「エントロピー弾性」と呼ぶ。
【0022】
1本の鎖のエントロピー弾性については、これまでに統計力学的な理論に基づいて詳細な解析がなされている。また、鎖の集合体の振る舞いについても統計力学的な理論の延長で幾つかの説明がなされてきた(例えば久保亮五、“ゴム弾性”、裳華房)。そこでのエッセンスは、1本の鎖を構成する分子の熱運動で、温度を上げればより折れ曲がるため鎖の長さは縮まることであり、これが弾性的な回復力の原動力である。
【0023】
本発明は、結果的にはこのエントロピー弾性の原理に基づいている。基本的には、特開2007−172169号公報に開示されている離散要素法(Discrete Element Method:DEM)の延長上と位置づけられる一種の粒子モデルである。しかし、通常のDEMのように物質の弾性的特性を粒子間のバネで表現するのではなく、粒子を鎖状に多数連結させ、さらに各粒子を熱運動させることで弾性的な性質を表現するところが新しい試みである。
【0024】
図1〜図14を参照して本発明の第一実施形態について説明する。図1は、本発明の第一実施形態に係るゴムのシミュレーション装置のブロック構成図、図2は、図1の粒子鎖生成部によって生成される粒子鎖の構成図、図3は、温度上昇(平均粒子速度増大)に応じた粒子鎖の挙動を示す図、図4は、粒子鎖の温度(平均粒子速度)と短縮ひずみとの関係を示す図、図5は、粒子鎖の粒子数と短縮ひずみとの関係を示す図、図6は、引張力に応じた粒子鎖の弾性的挙動を示す図、図7は、粒子鎖の引張力と伸びとの関係を示す図、図8は、バネ剛性に応じた粒子鎖の弾性的挙動を示す図、図9は、図1の初期状態配置部によって作業領域に配置された粒子鎖及び接着粒子を示す図、図10は、図1の温度制御部によって作業領域の温度が所定温度に上昇したときの作業領域内の状態を示す図、図11は、図1の形状成形部によってゴムモデルの形状に成形された粒子鎖及び接着粒子を示す図、図12は、図11のゴムモデルが軸方向に圧縮された状態を示す図、図13は、本実施形態のゴムのシミュレーション装置により成形されたゴムモデルと、このゴムモデルと同様の形状のゴムとの、ひずみ−応力曲線を示す図、図14は、本実施形態のゴムのシミュレーション装置により実施されるゴムモデルの成形処理を示すフローチャートである。
【0025】
本実施形態に係るゴムのシミュレーション装置10は、複数の粒子鎖(図2参照)やこれらの粒子鎖を結合させる複数の接着粒子で表されるゴムモデル(図11参照)を用いてゴムのシミュレーションを行う。このシミュレーション装置10では、粒子鎖の長さや本数、接着粒子数、ゴムモデル形状、ゴムモデルを成形する作業領域(粒子が移動可能な空間)の初期状態など、ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための「ゴムモデル成形情報」が入力されると、このゴムモデル成形情報に従ってゴムモデルを算出し、このゴムモデルに含まれる粒子鎖や接着粒子の位置情報や、接着粒子が接着する粒子の識別情報など、算出されたゴムモデルの構成を表現するための「ゴムモデル構成情報」が出力される。そして、このゴムモデル構成情報により画定されるゴムモデルは、大変形及び超弾性というゴムの特性を表現することができる。
【0026】
図1に示すように、本実施形態のシミュレーション装置10は、ゴムモデル成形情報取得部(取得手段)11、粒子鎖生成部(生成手段)12、初期状態配置部(配置手段)13、温度制御部(温度制御手段)14、接着粒子制御部(接着粒子制御手段)15、形状成形部(成形手段)16、粒子位置計算部(位置計算手段)17、及びゴムモデル構成情報出力部(出力手段)18を含んで構成されている。
【0027】
このシミュレーション装置10は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)、入力デバイスであるキーボード及びマウス等の入力装置、ディスプレイ等の出力装置、ハードディスク等の補助記憶装置などを含むコンピュータシステムとして構成されている。図1において説明した本実施形態のゴムのシミュレーション装置10を構成する各機能は、CPU、RAM等のハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェアを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで入力装置及び出力装置を動作させるとともに、RAMや補助記憶装置におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。以下、図1に示す機能ブロックに基づいて、各機能ブロックを説明する。
【0028】
ゴムモデル成形情報取得部11は、上述のゴムモデル成形情報を取得する部分である。ゴムモデル成形情報取得部11は、例えば、入力装置を介して操作者により入力された情報、または主記憶装置や補助記憶装置から読み出された情報などを受信して、ゴムモデル成形情報を取得する。
【0029】
ここで、ゴムモデル成形情報の一例としては、例えば直径5mm、長さ20mmの円柱形のゴム試験片を模擬したゴムモデルを成形する場合、粒子鎖の本数は8000本、1本の粒子鎖を構成する粒子数は200個、接着粒子数は粒子鎖の粒子の1〜20%程度となる。また、作業領域の初期状態は、例えば、形成するゴムモデルの形状の最大寸法の約10倍程度を一辺とする立方体形状であり、粒子がこの立方体形状より外に出ないように境界が画定され、この場合、200mm四方の立方体となる。なお、本実施形態では、ゴムモデルの形状は圧縮・引張試験シミュレーションに対応させるため円柱を想定しているが、角柱など他の形状でもよい。
【0030】
粒子鎖生成部12は、ゴムモデル成形情報取得部11により取得されたゴムモデル成形情報に基づいて、ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖12aを示す情報を生成する。粒子鎖12aは、図2に示すように、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子12bと、2つの粒子を一定範囲の距離に保つばね部12cから構成される。粒子鎖生成部12は、具体的には、ゴムモデル成形情報に含まれる粒子鎖の長さ、本数、粒子数などの情報を利用して個々の粒子鎖を示す情報を生成する。
【0031】
ここで粒子鎖12aの詳細について説明する。1本の粒子鎖12aは、図2に示すように、それぞれが質量m、半径rの球体として表される複数の粒子12bと、隣接する粒子間の距離の変化のみに反発する剛性K、自然長Lの1次元ばねとして表される複数のバネ部12cとを含む。
【0032】
粒子鎖の各粒子12bは、初期値として平均値vのランダム速度が与えられる。「ランダム速度」とは、例えば、その大きさが平均値vの正規分布から選択され、方向がランダムに選択される。このランダム速度の平均値(以下「平均粒子速度」という)vは、温度Tに対応しており、温度Tが増加すると平均粒子速度vも増加する。温度Tと平均粒子速度vとの関係は、例えば比例関係であり、この場合v=a・Tと表せる(aは定数)。ここではエネルギの散逸は考えず、E=εk(運動エネルギ)+εs(ひずみエネルギ)=constantである。このような条件では、粒子は常に動き回るか振動している。各粒子は、隣接粒子間のばねによる強い拘束を受けるため自由に飛びまわることはできない。粒子鎖は自発的に折れ曲がる。
【0033】
粒子鎖のバネ部の剛性(すなわちバネ定数)Kは、バネ部の両端それぞれ連結する2つの粒子の粒子間距離の変動が一定の範囲に収まることができる程度に十分な硬さに設定されている。このバネの「十分な硬さ」とは、与えられた平均値Vのランダム速度に対して、連結された隣接粒子が自由に動くことができず、隣接粒子間距離が大きく変化しない程度に十分に硬いという意味である。このようなバネの硬さの条件が満たされると、それぞれの粒子は、ランダム速度を有しているにも拘らず、隣接粒子間を結ぶ硬いバネの存在のために完全にランダムな運動ができない。一方、この条件が満たされずばねが柔らかすぎると、各粒子が自由に独立して運動することができ、気体分子運動に近くなってしまうため、温度(=速度)を上げたときに鎖が縮まらないどころか、どんどん開いてしまうことになり、鎖としての特性を失ってしまう。そこで、このような条件を満たすバネ定数Kを設定するための基準は次のように与えられる。
【0034】
バネ定数Kのバネ部の両端に質量m、平均粒子速度Vで移動方向が逆の2つの粒子がつながれて運動している状態を考える。すると、この系の運動エネルギεkは次式のように表される。
εk=2×(1/2)m・V^2 (1)
【0035】
また、バネ部の伸び量をΔxとすると、この系の弾性エネルギεsは次式のように表される。
εs=(1/2)K・Δx^2 (2)
【0036】
ここで、運動エネルギεkが、全て弾性エネルギεsに変換されるとき、εk=εsと表せるので、(1)、(2)式より、
(1/2)K・Δx^2=m・V^2 (3)
とおける。(3)式をKについて解くと、バネ定数Kは次式のように表される。
K=(2×m×V×V)/(Δx×Δx) (4)
ここで、質量mは、粒子の直径(ここではバネの自然長Lと等しいとする)と密度ρから決まり、m=4/3×π×(L/2)×(L/2)×(L/2)×ρである。また、Vには、想定する平均粒子速度の最大値を与える。
【0037】
このとき、Δxは、元のバネの長さ(L≦粒子直径)よりも十分小さくないと粒子鎖の折れ曲がりによる収縮が起こらないので、「Δx≪L」という制約条件が与えられる。そして、バネ定数Kを(4)式で定められる値よりも大きくすれば(つまりばねを硬くすれば)、同じ外力による伸びΔxを小さくすることができ、上記制約条件を満たしやすくなる。結局、バネ定数Kを与える基準は、制約条件Δx≪Lと(4)式より、次のように決まる。
K >=(2×m×V×V)/(Δx×Δx) (5)
【0038】
次に、図3〜8を参照して、1本の粒子鎖の特性について、粒子数n=500個の粒子鎖を例として説明する。この粒子鎖は、図3に示す環境に配置され、図中の左方の端部が固定され、図中の右方の端部が軸線方向に沿って任意の引張力fで引っ張られる。また、平均粒子速度はvで表され、粒子鎖の粒子間をつなぐバネ部のバネ定数はKで表される。図3(a),(b),(c)の横軸は、粒子鎖の長さ(cm)を示す。
【0039】
図3(a)は、温度T=0(すなわち平均粒子速度v=0)かつf=0のときの粒子鎖を示しており、このときの粒子鎖は長さL=5.05cmの基準長である。図3(b)は、温度Tが小さい(すなわち平均粒子速度vも小さい)、または引張力fが大きいときの粒子鎖を示している。この場合、粒子鎖の個々の粒子は鎖を収縮させる方向に十分な運動を行うことができず、粒子鎖の長さも基準長と大差無い。図3(c)は、温度Tが大きい(すなわち平均粒子速度vも大きい)、または引張力fが小さいときの粒子鎖を示している。この場合、全体で、より低次のモード(粒子単位には屈曲)を選びながら縮んで安定する。
【0040】
図4は、図3に示す粒子鎖において、温度T(平均粒子速度v)と短縮ひずみ(%)との関係を示す図である。図4の横軸は平均粒子温度vを示し、縦軸は粒子鎖の短縮ひずみを示す。図4に示すように、平均粒子速度v=100(m/sec)までの短縮ひずみの伸び率と比較して、これ以降の伸び率は鈍化している。
【0041】
図5は、1本の粒子鎖を構成する粒子数nを変化させた場合の、粒子鎖の粒子数と短縮ひずみとの関係を示す図である。図5の横軸は1本の粒子鎖の粒子数nを示し、縦軸は粒子鎖の短縮ひずみを示す。平均粒子速度vは全て100(m/sec)である。図5に示すように、粒子数nが200個以上で短縮ひずみはほぼ一定になる。
【0042】
図6は、図3に示す粒子鎖において、引張力fを変化させた場合の引張力に応じた粒子鎖の弾性的挙動を示す図である。図6の横軸は時間t(秒)を示し、縦軸は粒子鎖の長さ(cm)を示す。そして、図6にプロットされる各グラフは、それぞれ引張力f(N)が50(符号A)、100(符号B)、200(符号C)、500(符号D)、750(符号E)、1000(符号F)、1250(符号G)、及び1500(符号H)のときの粒子鎖の挙動を示している。また、図7は、図3に示す粒子鎖において、図6のように引張力fを変化させた場合の引張力と粒子鎖の長さとの関係を示す図である。図7の横軸は粒子鎖の伸び(cm)を示し、縦軸は引張力(N)を示す。平均粒子速度vは全て100(m/sec)である。図6及び図7に示すように、引張力fが小さいほど粒子鎖の収縮量が多く粒子鎖の長さは短くなり、引張力fが大きいほど収縮量が少なく粒子鎖の長さは基準長に近くなる。
【0043】
図8は、図3に示す粒子鎖において、バネ定数Kに応じた粒子鎖の弾性的挙動を示す図である。図8の横軸は時間(秒)を示し、縦軸は粒子鎖の長さ(cm)を示す。図8では、バネ定数Kが1.0×10−7(N/m)、1.0×10−8(N/m)、1.0×10−9(N/m)のときの粒子鎖の挙動を示している。粒子鎖の基準長Lは5.05(cm)であり、粒子数nは500であり、平均粒子速度vは100(m/sec)であり、引張力fは200(N)である。図8に示すとおり、3種類のバネ定数で、ほぼ同様に収束している。
【0044】
このように図3〜8を参照して説明したとおり、粒子鎖は、温度T(平均粒子速度v)や引張力fに応じて、短縮ひずみ/伸び率が変化するが、平均粒子速度vや粒子数nが所定値(例えばv=100(m/s)やn=200(個))に達すると、その変化量が減退するという特性がある。
【0045】
図1に戻り、初期状態配置部13は、粒子鎖生成部12により生成された複数の粒子鎖12aと、接着粒子13aとを、ゴムモデルを成形するための作業領域13b内に配置する。接着粒子13aは、粒子鎖の粒子12bと同様の構成をとり、質量m、半径rの球体として表され、温度Tに応じた平均粒子速度vが与えられて作業領域13b内を自由に動くことができる。また、接着粒子13aは、後述する接着粒子制御部15によって複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる粒子同士を接着させることができる。
【0046】
初期状態配置部13は、具体的には、粒子鎖生成部12により生成された複数の粒子鎖を示す情報と、ゴムモデル成形情報に含まれる接着粒子数を示す情報や作業領域の初期状態を示す情報(粒子がその内部で移動可能な境界を示す位置情報)を利用して、例えば図9に示すように、作業領域13b内に複数の粒子鎖12a及び接着粒子13aを配置する。粒子鎖12aの間隔は粒子鎖12aの太さ(すなわち粒子の直径)の10倍以上の距離をとられる。接着粒子13aは、粒子鎖12aと接触しない位置にランダムに配置される。
【0047】
温度制御部14は、作業領域13b内の温度を制御する。具体的には、温度制御部14は、ゴムモデル成形処理の初期状態では、粒子鎖の粒子12b及び接着粒子13aの平均粒子速度vが0となる絶対零度T=0(第1の温度)に作業領域13bの温度Tを保持している。また、ゴムモデル成形処理が開始されると、シミュレーション上の時刻に応じてステップ状やランプ状などの所与の挙動で、例えば摂氏100度などの所定温度(第2の温度)まで作業領域13bの温度Tを上昇させる。
【0048】
温度制御部14が作業領域13bの温度Tを所定温度まで上昇させると、例えば図10に示すように、初期状態(図9参照)で直線状だった粒子鎖12aのそれぞれが、粒子12bの動きによって様々な形態に折畳まれて収縮される。
【0049】
接着粒子制御部15は、シミュレーション上の時刻に応じて接着粒子13aが粒子鎖の粒子12bと接着するか否かを制御する。ここで、本実施形態では「接着」とは、2つの粒子の中心間の距離が両者の半径の和と等しい状態(接触状態)を維持した状態のことをいう。接着粒子制御部15は、作業領域13bの温度が所定温度より低い場合には接着粒子13aが粒子12bと接着しないよう制御し、温度制御部14により作業領域の温度が所定温度まで上昇したのに応じて、接着粒子13aが粒子12bと接着するよう制御する。具体的には、1本の粒子鎖12aを加熱して収縮させ、その収縮が平衡状態に達するまでの時間を測定するシミュレーションを行った結果を考慮して、本実施形態では加熱後1秒間放置した後に接着粒子13aの接着機能をオンにする。
【0050】
形状成形部16は、温度制御部14により作業領域13bの温度が所定温度まで上昇したときに、作業領域13bを小さくしていきゴムモデルの形状を成形する。具体的には、ゴムモデル成形情報に含まれるゴムモデル形状を示す情報を利用して、作業領域13bを初期状態からその容積が小さくなるように変化させていき、成形するゴムモデルの形状を決定する。例えば、形状成形部16は、図10に示すように、作業領域13bが初期状態の立方体形状をとり、作業領域13bの温度が所定温度に達して粒子鎖のそれぞれが様々に収縮した状態から、作業領域13bの境界面を徐々に内側へ狭めながら粒子鎖12aや接触粒子13aを作業領域13bの中央に集めて行き、図11に示すような円柱状まで凝縮させて円柱形状のゴムモデルを成形する。さらに、図12に示すように作業領域13bの上下面を内側に狭めた円柱形状を成形することも可能である。
【0051】
粒子位置計算部17は、温度制御部14、接着粒子制御部15、及び形状成形部16による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の粒子鎖の粒子及び接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する。具体的には、粒子位置計算部17は、温度制御部14から作業領域13bの現在の温度Tの情報を受け取り、接着粒子制御部15から接着粒子13aの位置・速度情報と、この接着粒子が接着している粒子の識別情報を受け取り、形状成形部16から現在の作業領域13bの境界面に関する位置情報を受け取る。そして、粒子位置計算部17は、これらの受け取った情報を用いて、作業領域13b内の各粒子の位置・速度情報を算出する。粒子位置計算部17における粒子位置の算出には、特開2007−172169号公報に開示されている粒子データ演算手法を適用することができる。
【0052】
ゴムモデル構成情報出力部18は、粒子位置計算部17による計算結果を上述のゴムモデル構成情報(ゴムモデルに含まれる粒子鎖や接着粒子の位置・速度情報、接着粒子が接着する粒子の識別情報など)として出力する。
【0053】
本実施形態のゴムのシミュレーション装置10は、このようにゴムモデル構成情報出力部18より出力されたゴムモデル構成情報に基づくゴムモデルを用いてゴムの形状変化などのシミュレーションを行うことができる。例えば、ゴムモデルに加えられる外力の情報や、ゴムモデルを構成する粒子鎖が切れる条件(引張力やせん断力の限界値など)を入力情報として、粒子位置計算部17と同様の計算を行い、ゴムの形状変化をシミュレーションすることができる。
【0054】
このように本実施形態のゴムのシミュレーション装置10により成形されたゴムモデルは、図13に示すように、このゴムモデルと同様の形状の実物のゴムと同様のひずみ−応力特性を示す。図13(a)は、実物のゴムのひずみー応力特性であり、図13(b)は、本実施形態で成形されたゴムモデルを引張試験のシミュレーションに用いたときのひずみ−応力特性である。ゴムモデルのひずみー応力特性は、実物の場合と同様の軟化(ひずみ約150%まで)から硬化(ひずみ約150%以降)へ推移している。
【0055】
次に、図14に示すフローチャートを参照して、本実施形態のゴムのシミュレーション装置10により実施されるゴムモデルの成形処理について説明する。
【0056】
まず、ゴムモデル成形情報取得部11によりゴムモデル成形情報が取得され(S101:取得ステップ)、粒子鎖生成部12に送信される。ゴムモデル成形情報に含まれる粒子鎖の長さ、本数、粒子数などの情報を利用して、粒子鎖生成部12により、ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報が生成される(S102:生成ステップ)。この粒子鎖を示す情報はゴムモデル成形情報と共に初期状態配置部13に送信される。
【0057】
次に、初期状態配置部13によって、ステップS102において粒子鎖生成部12が生成した複数の粒子鎖を示す情報や、ゴムモデル成形情報に含まれる接着粒子数を示す情報や作業領域の初期状態を示す情報などを利用して、例えば図9に示すように、ゴムモデルを成形するための作業領域内に複数の粒子鎖及び接着粒子が配置される(S103:配置ステップ)。
【0058】
初期状態配置部13が作業空間内の配置を完了するのに応じて、温度制御部14によって、作業領域内の温度が、粒子鎖の粒子及び接着粒子の平均粒子速度vが0となる絶対零度0(K)から、例えば摂氏100度などの所定温度Tへとステップ状に上昇される(S104:温度制御ステップ)。この結果、初期状態(図9参照)で直線状だった粒子鎖のそれぞれが、図10に示すように粒子の動きによって様々な形態に折畳まれて収縮する。また、このときにタイマが始動される。
【0059】
次に、温度制御部14が作業領域内の温度を所定温度Tに上昇させたのをトリガとして、形状成形部16により、ゴムモデル成形情報に含まれるゴムモデル形状を示す情報を利用して所望のゴムモデルの形状を成形すべく、作業領域が内側に圧縮される(S105:成形ステップ)。
【0060】
次に、ステップS104で始動されたタイマが所定値(ここでは1秒)を超えたか否かが確認される(S106)。タイマが所定値以下の場合にはステップS108に移行する。タイマが所定値を超えている場合には、接着粒子制御部15により、接着粒子が粒子鎖の粒子と接着できるように接着粒子の機能をオンにして(S107:接着粒子制御ステップ)、ステップS108に移行する。
【0061】
なお、上記ステップS104〜S107の処理は、この順番で行われることが好ましい。例えば、作業領域13bを圧縮しはじめる前に接着粒子の機能をオンにしてしまうと、早い時期に粒子鎖の各粒子が接着粒子により拘束され、粒子鎖の動ける自由度が下がるため、粒子鎖を充分に収縮させることができない。この状態で作業領域を圧縮しても、粒子鎖に元に戻ろうという弾性が出てしまい、所定の形状を維持することができなくない。また、作業領域の温度上昇を成形ステップや接着粒子制御ステップの後に行っても同様である。
【0062】
次に、粒子位置計算部17によって、温度制御部14、接着粒子制御部15、及び形状成形部16による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の粒子鎖の粒子及び接着粒子の動きが計算されてそれぞれの位置が計算される(S108:位置計算ステップ)。このステップにおける粒子位置の算出には、特開2007−172169号公報に開示されている粒子データ演算手法を適用する。
【0063】
次に、ゴムモデルの成形が完了したか否かが確認される(S109)。成形完了の判定基準としては、形状成形部16が所望のゴムモデルの形状に作業領域を充分圧縮し、かつ、タイマが所定の作業完了時間に達していることとする。
【0064】
ゴムモデルの成形が完了していないと判定された場合には、ステップS105に戻り、完了判定が行われるまでステップS105〜S109を繰り返す。ゴムモデルの成形が完了したと判定された場合には、ゴムモデル構成情報出力部18によって、粒子位置計算部17による計算結果がゴムモデル構成情報として出力され(S110:出力ステップ)、処理が終了する。
【0065】
次に、図15〜図44を参照して本発明の第二実施形態について説明する。図15は、本発明の第二実施形態に係るゴムのシミュレーション装置のブロック構成図、図16は、図15の鎖状構造体情報の生成装置のブロック構成図、図17は、鎖状構造体情報に用いる粒子の定義を示す図、図18は、鎖状構造体情報に用いる粒子の粒子間結合の定義を示す図、図19は、図16中の種粒子配置部により作業領域内に配置された種粒子を示す図、図20〜28は、図16中の粒子鎖成長制御部による粒子鎖の成長過程を示す図、図29〜32は、図16中の接触判別部により接触ありと判別される状態と、接触ありと判定された場合の粒子鎖の成長過程を示す図、図33〜35は、鎖状構造体の成長過程の一例を示す図、図36は、鎖状構造体の鎖の長さの分布を示す図、図37〜40は、成長パラメータに応じた生成装置により生成された鎖状構造体の例を示す図、図41〜42は、本実施形態の鎖状構造体情報の生成装置により実施される鎖状構造体情報の生成処理を示すフローチャート、図43〜44は、図15のゴムのシミュレーション装置における加熱プロセスを示す図である。
【0066】
図15に示すように、本実施形態に係るゴムのシミュレーション装置20と第一実施形態に係るシミュレーション装置10との相違点は、第一実施形態の粒子鎖生成部12の代わりに鎖状構造体生成装置100を用いていることである。図15に示す本実施形態のシミュレーション装置20に含まれる他の構成要素は、第一実施形態と同様の機能を有するものなので説明を省略する。以下、図16〜42を参照して、鎖状構造体生成装置100について説明する。
【0067】
図16に示す本実施形態に係る鎖状構造体情報の生成装置100は、「成長パラメータ」及び「成長ルール」を示す情報を取得すると、これらの情報に基づいて鎖状構造体の構成を示す「鎖状構造体情報」を出力する。ここで、「鎖状構造体」とは、本実施形態では、相互に接触せず任意の形状をとる複数の粒子鎖により構成される、折り畳みと絡み合いのある複雑な粒子鎖の集合体のことをいう。この鎖状構造体を初期状態として利用すれば、ゴム等の高分子材料のシミュレーションに適用なモデルを作成することができる。
【0068】
また、鎖状構造体を構成する粒子鎖のそれぞれは、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、隣接する2つの粒子を一定範囲の距離に保つばね部とから構成されている。さらに、個々の粒子は、図17に示すように半径rの球体で定義される。したがって、粒子は体積を有し、異なる粒子同士で同じ空間点を共有することはできない、つまり重なり合うことはできない。また、図18に示すように、結合した2つの粒子間の距離は半径rの2倍とすると、粒子が球形で体積があるため、3粒子が連結している場合、折れ曲がり角Aの最小値は60度である。
【0069】
ここで、上記の「成長パラメータ」とは、粒子鎖に新たな粒子を追加する際に、粒子鎖の端部に位置し新たな粒子と連結する粒子に対する、新たな粒子の相対的な配置位置を定義するパラメータである。具体的には、例えば図26に示すように、隣接する粒子間での回転角φ及び結合角θである。回転角φ及び結合角θは、個別の所定値またはランダム値でそれぞれ設定される。
【0070】
また、上記の「成長ルール」とは、成長パラメータによって決定された配置位置に新たな粒子を配置すると、他の粒子や作業領域の境界面と重複してしまい、当該位置に粒子を配置できない場合に新たな成長方向を決定するためのルールである。具体的には、シミュレーション環境やモデル化したい材料の種類などの各種条件に応じて、(1)結合角θだけ異なる値を与える、(2)回転角φ及び結合角θの両方に異なる値を与える、(3)成長を止めるなどの手法を適宜選択して設定することができる。なお、(1)や(2)の「異なる値」の与え方としては、例えば乱数やある角度の整数倍などが挙げられる。
【0071】
本発明の特徴は、鎖は成長しながら3次元的に2種類の回転角を持ち、成長方向に障害物が存在するときにはフレキシブルに方向を変えてその障害物を避けながら成長するというアルゴリズムである。鎖を構成する基本ユニットを体積を有する粒子で表現し、粒子を所定の幾何学的ルールに従って、順次連結させることで鎖を成長させる。必要な鎖の本数と成長回数と幾何学連結ルールを入力として、最終的に得られた鎖状ネットワークを構成する全ての粒子の座標を出力とする。
【0072】
図16に示すように、本実施形態に係る鎖状構造体情報の生成装置100は、情報取得部(取得手段)101、種粒子配置部(種粒子配置手段)102、成長制御部(粒子鎖生成手段)103、接触判別部(粒子鎖生成手段)104、粒子情報格納部105、成長終了判別部106、鎖状構造体情報出力部(出力手段)107を含んで構成されている。
【0073】
情報取得部101は、上述の成長パラメータ及び成長ルールを取得する部分である。情報取得部101は、例えば、入力装置を介して操作者により入力された情報、または主記憶装置や補助記憶装置から読み出された情報などを受信して、成長パラメータ及び成長ルールを取得する。
【0074】
種粒子配置部102は、鎖状構造体を生成するための作業領域内に、粒子鎖を生成するための種粒子として配置される複数の粒子を示す種粒子位置情報を生成する。具体的には、図19に示すように、直方体状(円筒状など他の形状でもよい)の境界が定義された閉空間である所定の作業領域内において、3つの乱数を発生させて個々の種粒子の座標(X,Y,Z)を決めて、所定個数の種粒子を配置してゆく。このとき、既に配置された他の粒子と重なりができるときは、乱数を発生し直す。種粒子配置部102は、このように定められた種粒子の座標をまとめて種粒子位置情報として粒子鎖成長制御部103に送信し、粒子情報格納部105に格納する。
【0075】
粒子鎖成長制御部103は、種粒子配置部102によって生成された種粒子位置情報により定義される種粒子のそれぞれについて、情報取得部101により取得された成長パラメータに従って決定された方向にバネ部によって新たな粒子を連結させることを繰り返して、複数の粒子鎖を示す情報を生成する。
【0076】
ここで、粒子鎖の成長過程について図20〜28を参照して説明する。図20に示すように、まず種粒子にローカル座標系を与える。空間に固定されたグローバル座標系に基づいて決められた領域内に所定数だけ発生されたそれぞれの種粒子に対して、一様乱数を用いてグローバル座標系を3次元回転させることでローカル座標系を与える。このとき、一様乱数を用いるので、種粒子が統計的に十分に多ければ、全ての種粒子のローカル座標系は空間に対して等方性を保つことができる。このローカル座標系は、鎖の成長とともに、それぞれの粒子が所定のルールに従って受け継がれる。
【0077】
次に、図21に示すように、粒子鎖の成長過程の第1段階が行われる。1つの鎖のn番目の粒子(成長粒子、着目粒子N=n)に新たにn+1番目の粒子(追加粒子N=n+1)を追加する場合、まず、粒子n−1と粒子nを結ぶベクトルを作り、それをaとする。種粒子(N=1、Nは1つの鎖を構成する粒子数)の成長の場合は、N=n−1が0となり粒子が存在しないので、種粒子から距離dだけ離れた任意の位置を乱数で決め仮想粒子N=0を作り、種粒子と結ぶベクトルaを決める。
【0078】
次に、図22に示すように、粒子鎖の成長過程の第2段階が行われる。成長粒子nの中心を始点とするベクトルaを作り、それをベクトルa’とする。
【0079】
次に、図23に示すように、粒子鎖の成長過程の第3段階が行われる。ベクトルa’を粒子nのローカル座標系のz軸の周りに+θだけ回転させて得られるベクトルをa’’とする。このとき、a’’はローカル座標系のx−y平面上にある。このときとれるθは0からπ/2までとする。
【0080】
次に、図24に示すように、粒子鎖の成長過程の第4段階が行われる。ローカル座標系のx−y平面上にあるベクトルa’’をローカル座標系のx軸の周りに+φだけ回転して得られるベクトルをbとする。このとき、φは0から2πまでとする。
【0081】
次に、図25に示すように、粒子鎖の成長過程の第5段階が行われる。ベクトルaとa’’の間の角θは分子の結合角に相当しa’’がx軸の周りを自由回転できる場合、bは、図25に示すようにベクトルa’’を斜辺とする円錐上のどこかに存在することになる。
【0082】
次に、図26に示すように、粒子鎖の成長過程の第6段階が行われる。自由回転を何らかの理由(φを一定値で決める、又はφを所定値の整数倍とするなど)で拘束し、あるφのときのベクトルbの終点を追加粒子n+1の中心として配置する。
【0083】
次に、図27に示すように、粒子鎖の成長過程の第7段階が行われる。粒子nが有していたローカル座標系は粒子n+1に次のように引き継がれる。まず、x軸はベクトルbの方向とし、z軸はベクトルa’(これは粒子nのx軸である)とベクトルbが作る平面に垂直な方向(これはベクトルa’とベクトルbの外積ベクトルの方向である)とし、その両者に直行する方向をy軸とする。
【0084】
結合角θと回転角φを固定して、上述した粒子鎖の成長過程の第1段階〜第7段階鎖を繰り返しながら鎖の末端に粒子を次々と配置し、それぞれのローカル座標も更新してゆくと、θとφに応じて、1本の鎖は3次元的な波模様となったり螺旋コイル状となったりする。図28は、鎖の基本成長パターンである。
【0085】
また、粒子鎖成長制御部103は、後述する接触判別部104より接触との判定結果を受信すると、成長パラメータによって決定された配置位置に新たな粒子を配置できないと判断し、この場合には成長ルールにしたがって新たな配置位置を決定する。
【0086】
接触判定が行われるケースの一例は、成長粒子が既存粒子と空間上で重なり合いを生じてしまう場合である。つまり、図29に示すように、鎖の成長過程で粒子nを始点とするベクトルbが決まり、粒子nに粒子n+1を追加しようとしたときに、同じ鎖や他の鎖の既存粒子と空間上で重なりが生じてしまう場合である。
【0087】
この場合、図30に示すように、1)自由回転角φを乱数で与え直してφ’とし、ベクトルb’を作って、粒子n+1を配置し、2)ベクトルb’では、さらに別の重なりが生じてしまう場合、もう一度1)を行う。
【0088】
上記2)を所定の限界回数(k回:kは10000以上の大きい数)行っても重なりがある場合は、図31に示すように、3)自由回転角φを変化させても重なりが解消されない場合は、重なりが無い場所が見つかるまで結合角θと自由回転角φを乱数で与え、4)上記3)のプロセスを制限回数行っても見つからない場合、その鎖の成長を終える。
【0089】
接触判定が行われるケースの他の例は、図32に示すように、成長粒子が作業領域の壁面境界に接触してしまう場合である。この場合も、既存粒子と重なりが生じる場合と同じで、自由回転角φ、結合角θを乱数で与えて接触がない場所を探査し、なければ鎖の成長を終了させる。
【0090】
図16に戻り、接触判別部104は、粒子鎖成長制御部103により新たに追加された粒子について接触判定を行う。ここで「接触」とは(1)他の粒子との接触(図29参照)、及び(2)作業領域境界面との接触(図32参照)をいう。接触判別部104は、具体的には、後述する粒子情報格納部105に格納されている作業領域内の粒子の位置情報に基づいて接触判定を行う。接触ありと判定した場合、その判定結果を粒子鎖成長制御部103に送信する。接触なしと判定したときには新たに追加した粒子の位置情報を粒子情報格納部105に格納する。
【0091】
粒子情報格納部105は、粒子鎖成長制御部103によって作業領域に配置された粒子の位置情報を格納する。粒子情報格納部105に格納される情報は、例えば、接触判別部104から接触なしとの判定が出たときに更新する。
【0092】
成長終了判別部106は、作業空間内の全ての粒子鎖の成長が終了したか否かを判別する。具体的には、例えば、全ての粒子鎖が、(1)所定の長さに達した状態、または(2)成長ルールに従って成長が終了した状態のいずれかである場合に、全ての粒子鎖の成長が終了したものと判定する。成長未終了の場合は、粒子鎖成長制御部103に通知してさらに粒子鎖の成長処理を実行させる。成長完了と判別すると、鎖状構造体情報出力部107に通知する。
【0093】
鎖状構造体情報出力部107は、成長終了判別部106から成長完了の通知を受け取ると、粒子情報格納部105から鎖状構造体を構成する粒子の位置情報を取得して、これらの情報をまとめて鎖状構造体情報として出力する。
【0094】
このような生成装置100により、例えば図33〜35に示すように鎖状構造体が生成される。図33は、作業空間に種粒子を配置した状態である。図34は、粒子鎖の成長途上の状態である。図35は、全ての粒子鎖の成長が終了して鎖状構造体が生成された状態である。本手法を用いて発生した折り畳みと絡み合いのある複雑な鎖の集合体について、鎖の長さとその頻度をグラフにすると、図36に示すようにほぼ正規分布になることが分かった。この結果は、鎖の成長がランダム過程によるものであること証明していて、できた鎖の集合体はランダムネットワークであることを意味している。
【0095】
図37〜40は、成長パラメータに応じた生成装置100により生成された鎖状構造体の例を示す。図37〜40は、回転角φが60度であり、結合角θがそれぞれ5度、10度、20度、40度の場合に、生成装置100により生成された鎖状構造体である。結合角θ及び回転角φを両方固定すると、伸縮率が大きくなり、ゴムなどの材料のモデルに適用可能であるし、また、変形後に形状を戻すパラメータがθとφの2つだけと少ないため、形状記憶材料のモデル化に利用するのも好適である。
【0096】
図37〜40に示すように、成長パラメータの結合角θ及び回転角φを両方固定すると、鎖状構造体に含まれる粒子鎖のそれぞれは螺旋状となる。このような螺旋状の粒子鎖は、折畳んだ状態と伸ばした状態の1次元的な長さの比が非常に大きい構造である。つまり、天然ゴムに特有な非常に大きな伸び(例えば数千パーセントの歪み)を表現するのに、図37〜40に示すようなローカルに螺旋状になっている鎖状構造体は効果的である。その他、非常に重要なことは、一度伸ばされた鎖が再び折畳まれるときに、モデルの場合には、どうやって折り畳まれていたのだったかを示すという情報が必要となるが、螺旋形状の場合には、上述のように隣接粒子間の結合角θ及び回転角φの2つのパラメータだけを記憶させておけば、たとえランダムな螺旋であっても、完璧に元の形状に戻すことができる。螺旋以外の他の形状だと、記憶させるべき情報がもっと多くなり計算上不都合なだけでなく、現実にも高分子を構成する原子や分子がそのような膨大な記憶をするメカニズムが見当たらない。したがって、鎖状構造体を構成する粒子鎖を螺旋形状にすることは、(1)よく伸び縮みできる、(2)疑似ランダム構造が作れる、(3)元の形状に折り畳むための情報が少ない、という大きなメリットがある。
【0097】
擬似ランダム構造が作れるメリットは以下のとおりある。螺旋は完全に特徴のある構造でランダム構造ではない。逆に完全なランダム構造は螺旋にはなれない。ランダムなのによく伸び縮みできて、元の形状に折畳むための情報も少なくてすむのがランダム螺旋で、これを「擬似ランダム構造」と呼びます。なぜランダム性を追求しなければならないかという理由は、天然ゴムのような物質は、決して完全に特徴のある構造にはならず、鎖の成長過程である程度のランダムさがどうしても存在し、このランダムさがゴムをゴムらしくしているという知見があるためである。よく伸びるのにランダムであるという相反する条件はランダム螺旋によって実現される。
【0098】
なお、例えば高分子の炭素−炭素間結合の場合、幾何学的には回転角φは自由だが、エネルギー的に落ち着く角度は120度であるという知見がある。また、このφに一定値を与えると、結果として鎖は螺旋状になる。勿論、乱数で決めて完全にランダムであるケースも考えられる。従って、何をこの鎖状構造体でモデル化するのかというケースによって、このφの決め方は異なる。
【0099】
図41、42は、本実施形態の鎖状構造体情報の生成装置100により実施される鎖状構造体情報の生成処理を示すフローチャートである。
【0100】
図41に示すように、まず種粒子配置部102により作業領域が設定され(S1001)、種粒子が作業領域に発生される(S1002)。次に粒子鎖成長制御部103によって、各種粒子ごとに初期成長方向及びローカル座標系が設定され(S1003)、成長ルール及び成長パラメータが設定され(S1004)、鎖状ネットワーク成長が実行される(S1005)。
【0101】
鎖状ネットワーク成長の実行処理S1005では、図42に示すサブルーチンが実施される。まず、成長可能な粒子鎖をピックアップした選定候補リストから成長させる鎖(i)が一様乱数により選定される(S2001)。次に、鎖(i)の現在の粒子数がnのときのn番目とn−1番目の粒子座標からベクトルaが算出される(S2002)。さらに、結合角θと回転各φからn+1番目の粒子の座標が算出され(S2003)、既存粒子及び作業領域境界面との接触判定が行われる(S2004)。接触なしと判定された場合にはステップS2005に移行する。接触ありと判定された場合には、試行回数が上限値未満かどうかが確認され(S2007)、上限値未満である場合にはステップS2003に戻る。上限値以上の場合には、鎖(i)の成長を終了して(S2008)選定候補リストから当該鎖(i)の情報(例えば鎖番号など識別情報)を削除し、ステップS2006に移行する。
【0102】
ステップS2004において接触なしと判定された場合には、鎖(i)のn+1番目の座標が粒子情報格納部105に格納され(S2005)、全ての鎖の成長が終了したか否かが確認される(S2006)。具体的には、選定候補リストに鎖の情報が残っているか否かを確認し、選定候補リスト内の鎖の情報がなくなった場合に全ての鎖の成長が終了したと判定する。全ての鎖の成長が終了していない場合には、ステップS2001に戻る。全ての鎖の成長が終了した場合には、図41のメインフローに戻り処理を終了する。
【0103】
本実施形態に係る鎖状構造体情報の生成装置100では、作業領域内に配置された種粒子から成長パラメータに従った成長方向に新たな粒子が連結され、また、成長パラメータによって決定された配置位置に他の粒子や作業領域境界が存在するために粒子を配置不可能な場合には、成長ルールに従った新たな成長方向に粒子が連結されて、粒子鎖が成長していき鎖状構造体が生成される。このため、成長パラメータと成長ルールという情報を与えるだけで、高分子材料等の性質を再現可能な高分子モデルを成形するための鎖状構造体情報を自動的に生成することができる。
【0104】
本実施形態のシミュレーション装置20では、上述のように鎖状構造体生成装置100によって鎖状構造体が生成されると、初期状態配置部13が、図43に示すように、鎖状構造体生成装置100により生成された鎖状構造体を作業領域内に配置する。本実施形態では、鎖状構造体の粒子鎖の両端を接着粒子にする。なお、接着粒子は、作業領域内にランダムに配置してもよい。
【0105】
図44は、温度制御部14が作業領域内の温度を所定温度まで上昇させたときの鎖状構造体の状態を示している。本実施形態では、図43に示すように、粒子鎖が加熱前の初期状態から複雑に曲がりくねっているので、図44に示すように、第一実施状態に比べて温度上昇による収縮度合いが小さく、大体2割程度の収縮である。したがって、第一実施形態に比べて作業領域の初期状態を小さくすることができる。
【0106】
次に、上述した一連のゴムモデルの成形処理をコンピュータに実行させるためのゴムのシミュレーションプログラムを説明する。図45に示すように、ゴムのシミュレーションプログラム202は、コンピュータが備える記憶媒体200に形成されたプログラム格納領域201内に格納されている。
【0107】
ゴムのシミュレーションプログラム202は、ゴムモデル成形情報取得モジュール(取得機能)202a、粒子鎖生成モジュール(または鎖状構造体生成モジュール)(生成機能)202b、初期状態配置モジュール(配置機能)202c、温度制御モジュール(温度制御機能)202d、接着粒子制御モジュール(接着粒子制御機能)202e、形状成形モジュール(成形機能)202f、粒子位置計算モジュール(位置計算機能)202g、及びゴムモデル構成情報出力モジュール(出力機能)202hを備えて構成される。
【0108】
ゴムモデル成形情報取得モジュール202a、粒子鎖生成モジュール(または鎖状構造体生成モジュール)202b、初期状態配置モジュール202c、温度制御モジュール202d、接着粒子制御モジュール202e、形状成形モジュール202f、粒子位置計算モジュール202g、及びゴムモデル構成情報出力モジュール202hを実行させることにより実現される機能は、上述したゴムのシミュレーション装置10,20のゴムモデル成形情報取得部11、粒子鎖生成部12(または鎖状構造体生成装置100)、初期状態配置部13、温度制御部14、接着粒子制御部15、形状成形部16、粒子位置計算部17、及びゴムモデル構成情報出力部18の機能とそれぞれ同様である。
【0109】
なお、ゴムのシミュレーションプログラム202は、その一部又は全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、他の機器により受信されて記録(インストールを含む)される構成としてもよい。また、ゴムのシミュレーションプログラム202は、その一部又は全部が、CD−ROM、DVD−ROM、フラッシュメモリなどの持ち運び可能な記憶媒体に格納された状態から、他の機器に記録(インストールを含む)される構成としてもよい。
【0110】
上記実施形態に係るゴムのシミュレーション装置10,20では、作業領域に粒子鎖及び接着粒子が配置された状態で、作業領域内の温度が上昇されると、粒子鎖の粒子が温度に応じたランダム速度で動き回るようになる。粒子鎖の粒子は、バネ部によって、隣接する粒子との相対的な位置関係が一定範囲に制限されているので、粒子のランダムな動きによって粒子鎖は全長を折畳むように収縮させる挙動となる。そして、作業領域の温度が第2の温度まで上昇し、粒子鎖が充分に収縮した状態で、作業領域内をランダム速度で自由運動している接着粒子が、粒子鎖の粒子と接着するよう制御されると共に、作業領域がゴムモデルの形状へ縮小されるため、作業領域内の粒子鎖は折り畳まれ絡み合った状態で相互に接続される。この結果、実物のゴムなどの高分子材料と同様の多数の非常に長い高分子鎖が効率的に折り畳まれながら絡み合っている構造を実現できるので、大変形及び超弾性というゴムの特性を好適に表現できる。また、上記粒子鎖や接着粒子の大きさは分子レベルに限定されず、実製品スケールでよいので、実製品スケールでのゴム弾性挙動を再現できる。
【符号の説明】
【0111】
10,20…ゴムのシミュレーション装置、11…ゴムモデル成形情報取得部(取得手段)、12…粒子鎖生成部(生成手段)、12a…粒子鎖、12b…粒子、12c…ばね部、13…初期状態配置部(配置手段)、13a…接着粒子、13b…作業領域、14…温度制御部(温度制御手段)、15…接着粒子制御部(接着粒子制御手段)、16…形状成形部(成形手段)、17…粒子位置計算部(位置計算手段)18…ゴムモデル構成情報出力部(出力手段)100…鎖状構造体生成装置(生成手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムのシミュレーション装置であって、
前記ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための情報を含むゴムモデル成形情報を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記ゴムモデル成形情報に基づいて、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、2つの前記粒子を一定範囲の距離に保つばね部からそれぞれ構成される、前記ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報を生成する生成手段と、
前記生成手段により生成された前記複数の粒子鎖を示す情報と、温度に応じたランダム速度で動き、前記複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる前記粒子同士を接着する接着粒子を示す情報とを、所定の座標軸における前記ゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する配置手段と、
第1の温度からから第2の温度まで前記作業領域の温度を、シミュレーション上の時刻に応じて上昇させるように前記作業領域の温度を制御する温度制御手段と、
前記作業領域の温度が前記第2の温度より低い場合には前記接着粒子が前記粒子と接着しないよう制御し、前記温度制御手段により前記作業領域の温度が前記第2の温度まで上昇したのに応じて、前記接着粒子が前記粒子と接着するよう制御する接着粒子制御手段と、
前記温度制御手段により前記作業領域の温度が前記第2の温度まで上昇したときに、前記作業領域を小さくして前記ゴムモデルの形状を成形する成形手段と、
前記温度制御手段、前記接着粒子制御手段、及び前記成形手段による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の前記粒子及び前記接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する位置計算手段と、
前記位置計算手段による計算の結果を出力する出力手段と、
を備えることを特徴とするゴムのシミュレーション装置。
【請求項2】
ゴムのシミュレーション方法であって、
前記ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための情報を含むゴムモデル成形情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得された前記ゴムモデル成形情報に基づいて、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、2つの前記粒子を一定範囲の距離に保つばね部からそれぞれ構成される、前記ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報を生成する生成ステップと、
前記生成手段により生成された前記複数の粒子鎖を示す情報と、温度に応じたランダム速度で動き、前記複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる前記粒子同士を接着する接着粒子を示す情報とを、所定の座標軸における前記ゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する配置ステップと、
第1の温度からから第2の温度まで前記作業領域の温度を、シミュレーション上の時刻に応じて上昇させるように前記作業領域の温度を制御する温度制御ステップと、
前記作業領域の温度が前記第2の温度より低い場合には前記接着粒子が前記粒子と接着しないよう制御し、前記温度制御ステップにおいて前記作業領域の温度が前記第2の温度まで上昇したのに応じて、前記接着粒子が前記粒子と接着するよう制御する接着粒子制御ステップと、
前記温度制御ステップにおいて前記作業領域の温度が前記第2の温度まで上昇したときに、前記作業領域を小さくして前記ゴムモデルの形状を成形する成形ステップと、
前記温度制御ステップ、前記接着粒子制御ステップ、及び前記成形ステップにおける制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の前記粒子及び前記接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する位置計算ステップと、
前記位置計算ステップにおける計算の結果を出力する出力ステップと、
を備えることを特徴とするゴムのシミュレーション方法。
【請求項3】
ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための情報を含むゴムモデル成形情報を取得する取得機能と、
前記取得機能により取得された前記ゴムモデル成形情報に基づいて、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、2つの前記粒子を一定範囲の距離に保つばね部からそれぞれ構成される、前記ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報を生成する生成機能と、
前記生成機能により生成された前記複数の粒子鎖を示す情報と、温度に応じたランダム速度で動き、前記複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる前記粒子同士を接着する接着粒子を示す情報とを、所定の座標軸における前記ゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する配置機能と、
第1の温度からから第2の温度まで前記作業領域の温度を、シミュレーション上の時刻に応じて上昇させるように前記作業領域の温度を制御する温度制御機能と、
前記作業領域の温度が前記第2の温度より低い場合には前記接着粒子が前記粒子と接着しないよう制御し、前記温度制御機能により前記作業領域の温度が前記第2の温度まで上昇したのに応じて、前記接着粒子が前記粒子と接着するよう制御する接着粒子制御機能と、
前記温度制御機能により前記作業領域の温度が前記第2の温度まで上昇したときに、前記作業領域を小さくして前記ゴムモデルの形状を成形する成形機能と、
前記温度制御機能、前記接着粒子制御機能、及び前記成形機能による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の前記粒子及び前記接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する位置計算機能と、
前記位置計算機能による計算の結果を出力する出力機能と、
をコンピュータに実現させるためのゴムのシミュレーションプログラム。
【請求項1】
ゴムのシミュレーション装置であって、
前記ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための情報を含むゴムモデル成形情報を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記ゴムモデル成形情報に基づいて、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、2つの前記粒子を一定範囲の距離に保つばね部からそれぞれ構成される、前記ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報を生成する生成手段と、
前記生成手段により生成された前記複数の粒子鎖を示す情報と、温度に応じたランダム速度で動き、前記複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる前記粒子同士を接着する接着粒子を示す情報とを、所定の座標軸における前記ゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する配置手段と、
第1の温度からから第2の温度まで前記作業領域の温度を、シミュレーション上の時刻に応じて上昇させるように前記作業領域の温度を制御する温度制御手段と、
前記作業領域の温度が前記第2の温度より低い場合には前記接着粒子が前記粒子と接着しないよう制御し、前記温度制御手段により前記作業領域の温度が前記第2の温度まで上昇したのに応じて、前記接着粒子が前記粒子と接着するよう制御する接着粒子制御手段と、
前記温度制御手段により前記作業領域の温度が前記第2の温度まで上昇したときに、前記作業領域を小さくして前記ゴムモデルの形状を成形する成形手段と、
前記温度制御手段、前記接着粒子制御手段、及び前記成形手段による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の前記粒子及び前記接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する位置計算手段と、
前記位置計算手段による計算の結果を出力する出力手段と、
を備えることを特徴とするゴムのシミュレーション装置。
【請求項2】
ゴムのシミュレーション方法であって、
前記ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための情報を含むゴムモデル成形情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得された前記ゴムモデル成形情報に基づいて、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、2つの前記粒子を一定範囲の距離に保つばね部からそれぞれ構成される、前記ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報を生成する生成ステップと、
前記生成手段により生成された前記複数の粒子鎖を示す情報と、温度に応じたランダム速度で動き、前記複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる前記粒子同士を接着する接着粒子を示す情報とを、所定の座標軸における前記ゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する配置ステップと、
第1の温度からから第2の温度まで前記作業領域の温度を、シミュレーション上の時刻に応じて上昇させるように前記作業領域の温度を制御する温度制御ステップと、
前記作業領域の温度が前記第2の温度より低い場合には前記接着粒子が前記粒子と接着しないよう制御し、前記温度制御ステップにおいて前記作業領域の温度が前記第2の温度まで上昇したのに応じて、前記接着粒子が前記粒子と接着するよう制御する接着粒子制御ステップと、
前記温度制御ステップにおいて前記作業領域の温度が前記第2の温度まで上昇したときに、前記作業領域を小さくして前記ゴムモデルの形状を成形する成形ステップと、
前記温度制御ステップ、前記接着粒子制御ステップ、及び前記成形ステップにおける制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の前記粒子及び前記接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する位置計算ステップと、
前記位置計算ステップにおける計算の結果を出力する出力ステップと、
を備えることを特徴とするゴムのシミュレーション方法。
【請求項3】
ゴムのシミュレーションに用いるゴムモデルを成形するための情報を含むゴムモデル成形情報を取得する取得機能と、
前記取得機能により取得された前記ゴムモデル成形情報に基づいて、温度に応じたランダム速度で動く複数の粒子と、2つの前記粒子を一定範囲の距離に保つばね部からそれぞれ構成される、前記ゴムモデルを表すための複数の粒子鎖を示す情報を生成する生成機能と、
前記生成機能により生成された前記複数の粒子鎖を示す情報と、温度に応じたランダム速度で動き、前記複数の粒子鎖のうち異なる2つの粒子鎖に含まれる前記粒子同士を接着する接着粒子を示す情報とを、所定の座標軸における前記ゴムモデルを成形するための作業領域内に配置する配置機能と、
第1の温度からから第2の温度まで前記作業領域の温度を、シミュレーション上の時刻に応じて上昇させるように前記作業領域の温度を制御する温度制御機能と、
前記作業領域の温度が前記第2の温度より低い場合には前記接着粒子が前記粒子と接着しないよう制御し、前記温度制御機能により前記作業領域の温度が前記第2の温度まで上昇したのに応じて、前記接着粒子が前記粒子と接着するよう制御する接着粒子制御機能と、
前記温度制御機能により前記作業領域の温度が前記第2の温度まで上昇したときに、前記作業領域を小さくして前記ゴムモデルの形状を成形する成形機能と、
前記温度制御機能、前記接着粒子制御機能、及び前記成形機能による制御に応じてシミュレーション上の時刻毎の前記粒子及び前記接着粒子の動きを計算してそれぞれの位置を計算する位置計算機能と、
前記位置計算機能による計算の結果を出力する出力機能と、
をコンピュータに実現させるためのゴムのシミュレーションプログラム。
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図36】
【図41】
【図42】
【図45】
【図2】
【図3】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図33】
【図34】
【図35】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図43】
【図44】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図28】
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【図30】
【図31】
【図32】
【図36】
【図41】
【図42】
【図45】
【図2】
【図3】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図33】
【図34】
【図35】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図43】
【図44】
【公開番号】特開2010−211755(P2010−211755A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60030(P2009−60030)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
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