説明

ゴム組成物及びこれを使用したタイヤ

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ゴム組成物及びこれをトレッドゴムのうちベースゴムに使用したタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、タイヤ等各種ゴム製品用の加硫可能なゴム組成物の加硫性等を向上させるために、ゴム組成物中に、次式
【化3】


で表されるTMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)等のチウラム系化合物を配合することが知られている。また、高速で走行することのできる乗用車等のタイヤのトレッドゴムには、高いグリップ性(トレッドと路面との間の摩擦係数を大きくすること)が要求されるため、トレッドゴムのキャップゴムに、ヒステリシスロスの大きいものを使用するのが一般的である。このキャップゴムの内側のベースゴムには、キャップゴム同様の耐熱性の他に、蓄熱を抑えるため、比較的大きな動的歪下で、しかも、高温下での自己発熱性を小さくする(低発熱である)必要がある。この目的のためには、機械的、熱的に強い加硫鎖を生成することが有効である。そこで、上記要求を満たすために、上記TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)等のチウラム化合物をベースゴムの加硫促進剤として使用することが考えられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような従来のゴム配合物にあっては、加硫速度、加工安定性、耐熱性、及び発熱性、を共に充分な程度満足させることができず、加えて、加工工程中に焦け(スコーチ)の現象を生じることがあった。また、従来のベースゴムにあっては、耐熱性及び高温下での発熱性の点において、近年の更なる高速化(例えば、200 Km/h以上)には充分には対応できなくなった。本発明は、上記不都合に鑑み、加硫速度、加工安定性、耐熱性、及び発熱性を共に充分に満足することのできるゴム組成物及びこれをベースゴムに用いた高速耐久性に優れたタイヤを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意検討の結果、加硫促進の作用を有する特定のチウラム化合物及び特定のジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物と、ベンゾチアゾール系加硫促進剤とを組合わせて使用することにより、上記目的を達成できることを見い出だした。
【0005】本発明の構成は以下の通りである。即ち、本発明のゴム組成物は、スチレンブチジエンゴム(以下、SBR という)を50重量部以上含有するゴム成分100 重量部に対して、軟化剤20重量部以下、次式
【化4】


(式中、R1, R2, R3, およびR4は、それぞれ独立に、炭素数7〜12、好ましくは8の直鎖または分岐鎖アルキル基を示す)で表されるチウラム化合物、及び、次式
【化5】


(式中、R5及びR6は、それぞれ独立に、炭素数7〜12、好ましくは8の直鎖または分岐鎖アルキル基を示し、Mは2価以上の金属であり、nはMの金属の原子価に等しい数である)で表されるジチオカルバメート化合物よりなる群から選択された化合物のうち少なくとも1つを0.5 〜2.0 重量部、及びベンゾチアゾール系加硫促進剤0.5 〜2.0 重量部を配合する。また、前記ベンゾチアゾール系加硫促進剤と、前記チウラム化合物及び前記ジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物の比が0.5 〜1.5 であると好ましい。
【0006】また、前記R1, R2, R3, R4, R5及びR6がそれぞれ2−エチルヘキシル基であり、且つMがアンチモンであり、nが3であると好ましい。更に、上記各ゴム組成物は各種ゴム製品に使用可能であるが、特にタイヤのトレッドのベースゴムに使用すると好ましく、例えば、乗用車用、二輪車用及びレーシングカー等のタイヤが挙げられる。
【0007】上記ゴム組成物を製造する際には、通常行われているミキサーやニーダーで混練りする方法にて行うことができる。またこのとき、必要に応じてカーボンブラック等の充填剤、老化防止剤、樹脂、ステアリン酸、酸化亜鉛等の加硫促進助剤、硫黄等の加硫剤、タッキファイヤー等の加工助剤等を配合することができる。
【0008】また、タイヤのトレッドゴムのベースゴムとして使用する際には、通常のタイヤの製造方法にて行うことができる。ここにおいて、ゴム成分中、SBR を50重量部以上としたのは、これらよりなるゴム組成物を例えばタイヤのトレッドゴムのベースゴムとして使用した場合に、操縦安定性及び耐熱性をもたせるためであり、50重量部未満であると、ヒステリシスロスが小さくなり過ぎ操縦安定性が劣り、且つ耐熱性が大幅に悪化しゴム成分が分解して発泡(ブローアウト)しやすくなるので不都合である。
【0009】また、軟化剤としては、アロマチックオイル、スピンドルオイル、ナフテニックオイル、パラフィニックオイル、植物油、サブ等が挙げられるが、軟化剤が20重量部超過では、例えばタイヤのトレッドゴムのベースゴムとして使用したときに発熱性と耐熱性が悪くなり不都合である。
【0010】また、チウラム化合物及びジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物が0.5 重量部未満であると、例えばタイヤのトレッドゴムのベースゴムとして使用する場合に、十分な加硫密度が得られず不都合であり、また2.0 重量部超過であると、ベースゴムとして加硫密度が上がり過ぎ不都合である。また、R1, R2, R3及びR4の炭素数が6以下では、ゴム中での分散が悪くなり、耐熱性等が劣り不都合であり、また、13以上では、加硫速度が非常に遅れるため不都合である。
【0011】また、同様に、R5およびR6の炭素数が6以下では、ゴム中での分散が悪くなり、耐熱性等が劣り不都合であり、また、13以上では、加硫速度が非常に遅れるため不都合であり、Mの金属としては、アンチモン、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、鉛、テルル等が上げられるが、Mが1価の場合は、加硫促進効果が不充分であるため不都合である。
【0012】また、ベンゾチアゾール系加硫促進剤としては、メルカプトベンゾチアゾール(MBT) 、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS) 、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(MBS) 、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)、メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩、2−(4−モルフォリノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(2,4−ジニトロ−フェニル)−メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾチアゾールとシクロヘキシルアミンの塩、N,N−ジエチルチオカルバモイル−2−ベンゾチアゾリルスルフィド等が挙げられるが、0.5 重量部未満では、例えば、ベースゴムとして充分な加硫密度が得られず不都合であり、2.0 重量部超過では、例えばベースゴムとして加硫密度が上がり過ぎ不都合である。
【0013】更に、前記ベンゾチアゾール系加硫促進剤と、前記チウラム化合物及び前記ジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物の比が0.5 未満では、加硫密度における相剰効果が小さくなり、望ましい加硫密度を得るため、より多くの配合量が必要となる。その結果、加工安定性の優位が小さくなり不都合である。また、1.5 超過で、同様に、加硫密度における相剰効果が小さくなり、望ましい加硫密度を得るため、より多くの配合量が必要となり、また、耐熱性の優位が小さくなり不都合である。
【0014】
【実施例】以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。
実施例A(実施例1〜5、比較例1〜4)
表1に、ゴム組成物の配合割合、そのゴム組成物の物性等、及びそのゴム組成物をベースゴムに使用したタイヤの特性を示す。実施例Aは、チウラム化合物として、TEHT、TOTD及びTMTD(本発明の範囲外)を用い、ジチオカルバメート化合物として、EH−Sb及びEH−Znを用い、ベンゾチアゾール系加硫促進剤として、TBBSを用いた。
【0015】また、ベンゾチアゾール系加硫促進剤(TBBS)とチウラム化合物及び/又はジチオカルバメート化合物の比(TBBS /(チウラム化合物及び/又はジチオカルバメート化合物))を一定(1) にし、チウラム化合物、ジチオカルバメート化合物、及びベンゾチアゾール系加硫促進剤の配合割合を変え、これに伴って軟化剤の配合割合を変えた。
【0016】また、本発明はチウラム化合物及びジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物、及びベンゾチアゾール系加硫促進剤を組み合せて使用することにより所期の目的を達成するものであるため、比較例1〜3において、いずれかの成分を欠く配合とし、また、比較例4において、チウラム化合物として本発明の範囲外のTMTDを使用した場合を示し、各実施例との比較を行った。尚、比較例4のTMTDは実施例1のTEHTと同モル数の配合量とした。
【0017】また、各試験法は、以下の通りである。
加硫速度日本合成ゴム社製オシレーテイングデスクレオメーターを用い、155 ℃で測定した。表中T90は最大トルク値の90%を得るのに要する時間(単位:分)を示し、この数値が小さい方が加硫速度が速く、好ましいことを示す。
【0018】加工安定性島津製作所製ムーニー粘度計を用い、130 ℃で測定した。試験法は、JIS K6300に準拠して行い、T5(単位:分)を求めた。この数値が大きい方が、加工安定性に優れ、好ましいことを示す。特に、この数値が10以下であると、通常の加工方法では、スコーチを起こすことが多い。
【0019】耐熱性セイコー電子製TMA を用い、昇温速度10℃/分で試料の熱膨張をモニターし、試料が急激な膨張をする温度(単位:℃)をブローアウトポイントとして示した。試料は直径8mm、高さ6mmの円柱状で、荷重は10gである。この数値が大きい方が、耐熱性に優れ、好ましいことを示す。
【0020】発熱性グッドリッチ式フレクソメーターを用い、ASTM-D-623-58 の方法に準拠し行った。測定条件は、槽内温度120 ℃、振動数1800rpm 、荷重28kg、歪22.5%であり、サンプル形状は、直径30mm、高さ25.4mmである。20分後の温度上昇を測定した。この数値が小さい方が発熱性が小さく、好ましいことを示す。
【0021】加硫密度JIS K6301(加硫ゴム物理試験方法)における「引張試験」に準拠して測定した。ダンベル状3号形試料を用い、300 %伸張時の弾性率をもって加硫密度とした。
【0022】タイヤ温度各実施例及び各比較例の配合のゴム組成物をベースゴムに用いたタイヤ(サイズ:205 /60R15)を製造し、ドラム上を200km/h で1時間走行させ走行直後のベースゴム温度(単位:℃)を測定した。この数値の小さい方が、発熱性に優れ(低発熱性であり)、好ましいことを示す。
【0023】上記タイヤの構成は以下の通りである。即ち、図1に示すように、トレッドゴム1はキャップゴム1aとベースゴム1bとの2層よりなる。尚、図中、2はベルト、3はカーカス、4はサイドウォール、5はゴムフィラー、6はビードリングである。
【0024】
【表1】


【0025】略語の説明TEHT テトラキス-2- エチルヘキシルチウラムジスルフィド(tetrakis2-ethyl hexyl thiuram disulfide)TOTD テトラオクチルチウラムジスルフィド(tetra octhyl thiuram disulfide)TMTD テトラメチルチウラムジスルフィド(tetra methyl thiuram disulfide)EH−Sb ジ 2-エチルヘキシル ジチオカルバメート アンチモン(Antimony di 2-ethyl hexyl dithiocarbamate)EH−Zn ジ 2-エチルヘキシル ジチオカルバメート 亜鉛(Zinc di 2-ethyl hexyl dithiocarbamate)TBBS N-t-ブチルベンゾチアゾリルスルフェンアミド(N-t-buthyl benzothiazolyl sulfenamide)
【0026】上記の通り、チウラム化合物及び/又はジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物、及びベンゾチアゾール系加硫促進剤を組み合わせて使用した実施例1〜5の配合のゴム組成物は、加硫速度が早く、加工安定性に優れ、更に、耐熱性、発熱性に優れていることがわかる。
【0027】一方、比較例1〜3から、1種の促進剤の配合では、加硫速度、耐熱性、発熱性に大きく劣ることがわかる。特に、比較例3では、試験中に試料のゴム成分が分解して、発泡し、測定ができなかった。また、比較例4から、チウラム化合物として本発明の範囲外のTMTDを用い、更に、ベンゾチアゾール系加硫促進剤を配合した場合には、加硫速度、加硫密度では、実施例同等の数値が得られたが、加工安定性、耐熱性、発熱性に劣っていることがわかる。特に、加工安定性は、スコーチを起こす恐れの高いきわめて悪いレベルである。また、各実施例の配合のゴム組成物をタイヤのベースゴムを用いたときのタイヤ温度は、各比較例に比べ小さく、ベースゴムとして優れていることがわかる。
【0028】実施例B(実施例6〜12、比較例5)
表2に、同様に、ゴム組成物の配合割合、そのゴム組成物の物性、及びそのゴム組成物をベースゴムに使用したタイヤの特性を示す。実施例Bは、チウラム化合物としてTEHTを用い、ジチオカルバメート化合物として、EH−Sbを用いた。ベンゾチアゾール系加硫促進剤としては、実施例Aと同様にTBBSを用いた。また、比較例5として、本発明の範囲外のチウラム化合物であるTMTDを用いた例を示した。また、TBBS/TEHT及びTBBS/EH−Sbの比を変えた。また、ゴム成分としてSBR90 重量部、NR10重量部を用い、加えて軟化剤を20重量部配合した。
【0029】
【表2】


【0030】上記の通り、TBBS/TEHTおよびTBBS/EH−Sbの比が、1.5 を超過すると、加工安定性には優れるものの、加硫速度がやや遅くなり、また、耐熱性、発熱性の向上もやや少な目であった。この比が、0.5 〜1.5 の範囲にあるときには、加硫速度が早く、加工安定性に優れ、耐熱性、発熱性等の良いゴムが得られることがわかる。
【0031】一方、比較例5から、チウラム化合物として本発明の範囲外のTMTDを用い、更に、ベンゾチアゾール系加硫促進剤を配合した場合には、加硫速度、加硫密度では、実施例同等の値が得られるが、加工安定性、耐熱性、発熱性に劣っていることがわかる。特に、加工安定性は、スコーチを起こす恐れが極めて高いレベルである。更に、このゴム組成物を、タイヤのベースゴムに用いたときのタイヤ温度は、比較例5に比べ小さく、ベースゴムとして優れていることがわかる。
【0032】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によると、特定のチウラム化合物及び/又は特定のジチオカルバメート化合物を、ベンゾチアゾール系加硫促進剤と特定の配合割合に組み合わせて使用することにより、加硫速度、加工安定性、耐熱性、発熱性及び加硫密度を共に充分満足することのできるゴム組成物、及びこれをベースゴムに用いた場合、比較的低温でのヒステリシスロスが大きいため、高速操縦性等に優れたタイヤを具現化することが可能となる。また、本発明にかかるタイヤは、例えば200 km/h以上の高速走行においても、耐熱性、低発熱性等に基づく高速耐久性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる実施例のタイヤの部分断面図である。
【符号の説明】
1 トレッドゴム
1a キャップゴム
1b ベースゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】 スチレンブタジエンゴムを50重量部以上含有するゴム成分100 重量部に対して、軟化剤20重量部以下、次式
【化1】


(式中、R1, R2, R3及びR4は、それぞれ独立に、炭素数7〜12の直鎖または分岐鎖アルキル基を示す)で表されるチウラム化合物、及び、次式
【化2】


(式中、R5及びR6は、それぞれ独立に、炭素数7〜12の直鎖または分岐鎖アルキル基を示し、Mは2価以上の金属であり、nはMの金属の原子価に等しい数である)で表されるジチオカルバメート化合物よりなる群から選択された化合物のうち少なくとも1つを0.5 〜2.0 重量部、及びベンゾチアゾール系加硫促進剤0.5 〜2.0 重量部を配合したことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】 前記ベンゾチアゾール系加硫促進剤と、前記チウラム化合物及び前記ジチオカルバメート化合物よりなる群から選択される化合物の比が0.5〜1.5 であることを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】 前記R1, R2, R3, R4, R5及びR6がそれぞれ2−エチルヘキシル基であり、且つMがアンチモンであり、nが3であることを特徴とする請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】 キャップゴムとベースゴムとからなるトレッドゴムを有するタイヤにおいて、前記ベースゴムに、前記請求項1〜3のうちの1つの項に記載のゴム組成物を使用したことを特徴とするタイヤ。

【図1】
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【特許番号】特許第3133816号(P3133816)
【登録日】平成12年11月24日(2000.11.24)
【発行日】平成13年2月13日(2001.2.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−67218
【出願日】平成4年3月25日(1992.3.25)
【公開番号】特開平5−271476
【公開日】平成5年10月19日(1993.10.19)
【審査請求日】平成10年10月5日(1998.10.5)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【参考文献】
【文献】特開 昭60−81234(JP,A)
【文献】特開 昭47−14247(JP,A)
【文献】特開 昭47−8290(JP,A)
【文献】特開 平3−210346(JP,A)
【文献】特開 昭59−12948(JP,A)
【文献】特開 平4−145144(JP,A)
【文献】特開 昭59−213745(JP,A)
【文献】特公 昭43−6286(JP,B1)
【文献】特表 平7−500616(JP,A)