説明

ゴム組成物

【課題】 加工性を低下させずにウェットグリップ性能、耐摩耗性、転がり抵抗特性のバランスを向上させたゴム組成物を提供する。
【解決手段】 天然ゴムおよび(または)ジエン系合成ゴム100重量部に対し、式:Al23・2SiO2・2H2Oで表わされる成分を主成分とする水分率が0.5重量%より大きいクレー5〜30重量部と、窒素吸着比表面積が70〜300m2/gのカーボンブラック5〜100重量部とを配合してなるゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、加工性、耐摩耗性を低下させることなく低発熱性を維持したウェットグリップ性能に優れたゴム組成物に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】近年、自動車タイヤに要求される特性は低燃費性の他、操縦安定性、耐摩耗性、乗り心地など多岐にわたり、これら性能を向上させるために種々の工夫がなされている。これらの性能のうち、とくにタイヤのグリップ性能と転がり抵抗特性は、いずれもゴムのヒステリシスロスに関する特性である。一般に、ヒステリシスロスを大きくするとグリップ力は高くなり制動性能が向上するが、転がり抵抗も大きくなり燃費の増大をもたらす。このように、グリップ性能と転がり抵抗特性とは相反する関係にあるため、両特性を同時に満足させるべく種々のタイヤ用ゴム組成物が提案されている。
【0003】たとえば、タイヤ用のゴム組成物において、とくにポリマーとカーボンブラックが両特性に大きく影響することから、ポリマーとして、スチレン−ブタジエン共重合体を用いる場合には、結合スチレンの含有率、ブタジエン部分の1,2−結合含有率を適宜選択して、転がり抵抗特性とグリップ性能の双方の向上を図っている。
【0004】一方、カーボンブラックについては、粒子径を大きくしたり、配合量を少なくすると、耐カットチッピング性能などが低下することから、カーボンブラック粒子表面の活性度を向上させたタイプのカーボンブラックが開発され、効果をあげている。
【0005】しかし、一般的にグリップ性能を向上させると、グリップ性能と相反する性質である耐摩耗性が低下してしまうという問題もある。
【0006】これらの問題点を解決すべく、従来から種々の提案がなされている。たとえば特開平7−133375号公報、特開平8−311245号公報には、ジエン系ゴムに焼成クレーを配合したゴム組成物が、特開平8−3373号公報には、特定のジエン系ゴムにジエン系ゴムとカオリナイトからなる加硫ゴム粉末を配合したゴム組成物がそれぞれ開示されており、グリップ力の向上などに効果があることが記載されている。また、特開平8−59893号公報、特開平8−59894号公報には、特定のスチレン含有量を有するSBRに特定の組成を有する無機化合物粉体とカーボンブラックとを配合したゴム組成物が、特開平7−149954号公報、特開平9−31250号公報には、ブタジエン部分中の1,2−結合の含有率が特定の範囲を有するジエン系ゴムにカオリナイトを主成分とするクレーを配合したゴム組成物が開示されており、同様の効果があることが記載されている。
【0007】しかし、加工性、耐摩耗性を低下させることなく低発熱性を維持したウェットグリップ性能に優れたゴム組成物は未だに存在しないのが現状である。また、前記各公報には、クレー中の水分とタイヤ性能との関係についての記載がなく、いずれも満足のいく性能を達成できるものではない。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、これらの諸問題を改善すべく鋭意検討した結果、特定の組成と水分率を有するクレーをタイヤトレッドに配合することにより、加工性を低下させずにウェットグリップ性能、耐摩耗性、転がり抵抗特性のバランスを向上させる方法を開発し、本発明を完成するに至った。
【0009】すなわち、本発明は、天然ゴムおよび(または)ジエン系合成ゴム100重量部に対し、式:Al23・2SiO2・2H2Oで表わされる成分を主成分とする水分率が0.5重量%より大きいクレー5〜30重量部と、窒素吸着比表面積(以下、N2SAともいう)が70〜300m2/gのカーボンブラック5〜100重量部とを配合してなるゴム組成物に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明に使用されるゴム成分は、天然ゴム(NR)および(または)ジエン系合成ゴムである。ジエン系合成ゴムとしては、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)などがあげられ、本発明に使用されるゴム成分中に1種類または2種類以上含まれていてもよい。これらのうちでは、ウェットグリップ性能、耐摩耗性の点から、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)が好ましい。
【0011】つぎに、本発明のゴム組成物は、クレーを含んでいる。本発明で用いるクレーは式:Al23・2SiO2・2H2Oで表わされる成分を主成分とする。すなわちクレー中の80〜100重量%、好ましくは95〜100重量%が前記式で表わされる成分である。なお、のこりの成分は一般的なクレーの構成成分であればよく、とくに制限はないが、たとえば酸化鉄(III)(Fe23)や酸化チタン(TiO2)などがあげられる。
【0012】前記クレーの水分率は、0.5重量%より大きく、前記水分率が0.5重量%以下になると、耐摩耗性が低下するため好ましくない。また、水分率が大きすぎると、分散不良になるため、1.5重量%以下であることが好ましい。なお、前記水分率は、クレーに付着している水分量を重量%で表わした値であり、クレーを100〜110℃で乾燥させたときの重量減少量から求められる重量%である。
【0013】前記クレーの粒度分布測定により求められる平均粒子径は、0.1〜3.5μm、さらには0.2〜2.5μmであるのが、ウェットグリップ性能、耐摩耗性の点から好ましい。前記平均粒子径が3.5μmをこえると、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0014】本発明のゴム組成物中に含まれるクレーの配合量は、前記ゴム成分100重量部に対して5〜30重量部、好ましくは5〜25重量部である。前記配合量が5重量部未満になると、ウェットグリップ性能の改善効果が小さくなり、30重量部をこえると、耐摩耗性がわるくなるため好ましくない。
【0015】本発明において用いるカーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N2SA)が70〜300m2/g、好ましくは100〜250m2/gである。カーボンブラックのN2SAが70m2/gより小さくなると、分散性や補強効果が小さくなり、300m2/gをこえると、分散性がわるくなり、発熱性が増大し、耐摩耗性が低下するため好ましくない。
【0016】前記カーボンブラックの例としては、前記のような特性を有するHAF、ISAF、SAFなどがあげられるが、とくに限定されるものではない。
【0017】本発明のゴム組成物中に含まれるカーボンブラックの配合量は、前記ゴム成分100重量部に対して、5〜100重量部、好ましくは25〜65重量部である。前記配合量が5重量部未満になると、充分な補強効果が得られず耐摩耗性が低下し、100重量部をこえると、耐摩耗性の向上が望めない割に混練り作業性が低下するため好ましくない。
【0018】なお、本発明のゴム組成物には、前記以外にもゴム工業で通常使用されてるいシリカ、シランカップリング剤、硫黄などの加硫剤、各種加硫促進剤、各種軟化剤、各種老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤などの添加剤を配合することができる。
【0019】
【実施例】つぎに、本発明のゴム組成物を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】なお、実施例および比較例で用いたゴム組成物の原料および試験方法を、以下にまとめて示す。
【0021】SBR1502:ジェイエスアール(株)製のSBR1502(スチレン−ブタジエン共重合体)
NIPOL9520:日本ゼオン(株)製のNIPOL9520(スチレン−ブタジエン共重合体、油展量:37.5phr)
カーボンブラック:昭和キャボット社製のショウブラックN220(N2SA:125m2/g)
シリカ:デグッサ社製のUltrasil VN3(N2SA:210m2/g)
クレー1:バーゲス・ピグメント社製のBURGESS#80(SiO2:44.8〜45.3重量%、Al23:37.5〜39.7重量%、水分率:1.0重量%以下、平均粒子径:0.65μm)
クレー2:バーゲス・ピグメント社製のBURGESS#28(SiO2:44.8〜45.3重量%、Al23:37.5〜39.7重量%、水分率:1.0重量%以下、平均粒子径:0.2μm)
焼成クレー:バーゲス・ピグメント社製のBURGESS#30(SiO2:51.0〜52.4重量%、Al23:42.1〜44.3重量%、水分率:0.5重量%以下、平均粒子径:1.2μm)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
アロマオイル:(株)ジャパンエナジー社製のJOMOプロセスX140老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン)
特殊ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックNステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄加硫促進剤A:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤B:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N′−ジフェニル・グアニジン)
【0022】(ムーニー粘度(加工性))JIS K6300に準拠して、L型ローターを用い、予熱1分、測定時間4分、温度130℃にて所定のグリーンゴム組成物のML(1+4)を測定し、比較例1のムーニー粘度を100とし、式ムーニー粘度指数={比較例1のムーニー粘度/各配合のムーニー粘度}×100で指数表示した。指数が大きい方が、ムーニー粘度が低く、加工性に優れている。
【0023】(摩耗試験)ランボーン摩耗試験機にて、温度20℃、スリップ率20%、試験時間5分間の条件で所定の加硫物のランボーン摩耗量を測定し、各配合の容積損失を計算し、比較例1の損失量を100とし、式:ランボーン摩耗指数={比較例1の損失量/各配合の損失量}×100で指数表示した。指数が大きい方が耐摩耗性が優れる。
【0024】(粘弾性試験)所定の加硫物のtanδを粘弾性スペクトロメーター VES(岩本製作所製)で、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件で測定し、比較例1のtanδを100とし、式:転がり抵抗指数={比較例1のtanδ/各配合のtanδ}×100で指数表示した。指数が大きいほど転がり抵抗特性に優れている。
【0025】(ウェットスキッド試験)スタンレー社製のポータブルスキッドテスターを用いてASTM E303−83の方法にしたがって所定の加硫物のウエットスキッド抵抗を測定し、比較例1の測定値を100とし、式:ウェットスキッド指数={各配合の測定値/比較例1の測定値}×100で指数表示した。指数が大きい方がウェッドスキッド性能が優れる。
【0026】実施例1〜2および比較例1〜3表1に示す原料(硫黄および加硫促進剤A、加硫促進剤Bを除く)を表1に示す組成になるように配合し、バンバリーミキサーで120〜180℃で3〜5分間混練りした。つぎに、50℃で硫黄および加硫促進剤を添加してオープンロールで10分間混練りし、各種グリーンゴム組成物を得た。得られたグリーンゴム組成物を用いてムーニー粘度の測定を行ない、さらにこれらのグリーンゴム組成物を170℃で20分間プレス加硫して加硫物を得、のこりの特性の試験を行なった。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】


【0028】表1の結果から、水分率が0.5重量%をこえるクレーを所定量配合した実施例1および2の組成物は、加工性、耐摩耗性、転がり抵抗特性、ウェットグリップ性能のバランスがよいことがわかる。
【0029】一方、クレーを用いずにカーボンブラックのみを充填剤として配合した比較例1、大部分のカーボンブラックのかわりにシリカを配合した比較例2の組成物は、いずれも前記性能およびそのバランスがわるいことがわかる。
【0030】また、水分率が低いクレーを配合した比較例3の組成物は、クレーを実施例1および2と同じ量配合しているにもかかわらず、実施例1および2の組成物に比べて加工性や摩耗性が大きく低下し、水分率の選択が重要であることがわかる。
【0031】
【発明の効果】本発明によれば、加工性、耐摩耗性を低下させることなく低発熱性を維持したウェットグリップ性能に優れたゴム組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 天然ゴムおよび(または)ジエン系合成ゴム100重量部に対し、式:Al23・2SiO2・2H2Oで表わされる成分を主成分とする水分率が0.5重量%より大きいクレー5〜30重量部と、窒素吸着比表面積が70〜300m2/gのカーボンブラック5〜100重量部とを配合してなるゴム組成物。

【公開番号】特開2000−256506(P2000−256506A)
【公開日】平成12年9月19日(2000.9.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−58775
【出願日】平成11年3月5日(1999.3.5)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】