説明

ゴム組成物

【課題】 加工性、耐摩耗性を低下させることなく、低発熱性、ウェットグリップ性能を改善し得るゴム組成物を提供する。
【解決手段】 (A)ジエン系ゴム成分100重量部に対して、(B)チッ素吸着比表面積が70〜300m2/gのカーボンブラック5〜150重量部、(C)チッ素吸着比表面積が100〜300m2/gのシリカ5〜100重量部、(D)該シリカの重量に対してシランカップリング剤1〜20重量%、(E)水酸化アルミニウムなどの特定の無機化合物粉体5〜150重量部、および、(F)該無機化合物粉体の重量に対してポリ(ステアリルグリシジルエーテル)などの特定のポリエーテル化合物0.1〜150重量%を含むゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、加工性、耐摩耗性を低下させることなく、低燃費性、ウェットグリップ性能に優れたゴム組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車タイヤに要求される特性は低燃費性のほか、操縦安定性、耐摩耗性、乗り心地など多岐にわたり、これら性能を向上するために種々の工夫がなされている。これらの性能のうち、とくにタイヤのグリップ性能と転がり抵抗特性(低燃費性)は、いずれもゴムのヒステリシスロスに関する特性である。一般に、ヒステリシスロスを大きくするとグリップ力は高くなり制動性能が向上するが、転がり抵抗も大きくなり燃費の増大をもたらす。
【0003】このように、グリップ性能と転がり抵抗特性は相反する関係にあるため、両特性を同時に満足させるべく種々のタイヤ用ゴム組成物が提案されている。たとえば、タイヤ用ゴム組成物において、とくにポリマーとカーボンブラックが両特性に大きく影響することから、ポリマーとして、スチレン−ブタジエン共重合体を用いる場合には、結合スチレンの含有率、ブタジエン部分1,2−結合含有率を適宜選択して、転がり抵抗特性とグリップ性能の双方の向上を図っている。また、カーボンブラックについては、カーボンブラック充填量の減量やカーボンブラックの粒子径を大きくするなどの手法が用いられているが、いずれの方法においても低発熱性と補強性および耐摩耗性との両立は難しく、実際には粒子表面の活性度を最適化させたタイプのカーボンブラックが使用されているのが現状である。
【0004】一方、低発熱化を目的としてシリカとシランカップリング剤を使用する方法が多数報告されている。しかし、シリカを配合したゴム組成物では、走行を重ねるとゴムの剛性が低下し、大幅にグリップ力が低下することが判明している。また、シリカ配合ゴム組成物は、ゴム中へのシリカ粒子の分散が不充分であるとゴム組成物のムーニー粘度が高くなり、押出しなどの加工性に劣るなどの問題が生じる。
【0005】これらの問題点を解決すべく、従来から種々の提案がなされている。たとえば、特開平7−133375号公報、特開平8−311245号公報には、ジエン系ゴムに焼成クレーを配合したゴム組成物が、特開平8−3373号公報には、特定のジエン系ゴムにジエン系ゴムとカオリナイトからなる加硫ゴム粉末を配合したゴム組成物がそれぞれ開示されており、グリップ性能の向上などに効果があることが記載されている。また、特開平8−59893号公報、特開平8−59894号公報には、特定のスチレン含有量を有するSBRに特定の組成を有する無機化合物粉体とカーボンブラックとを配合したゴム組成物が、特開平7−149954号公報、特開平9−31250号公報には、ブタジエン部分中の1,2−結合の含有率が特定の範囲内にあるジエン系ゴムにカオリナイトを主成分とするクレーを配合したゴム組成物が開示されており、同様の効果があることが記載されている。
【0006】しかしながら、シリカなどの無機化合物粉体の表面特性はゴム組成物に大きく影響し、しばしば意図した機能の実現を著しく抑制する場合がある。たとえば、シリカはその表面官能基であるシラノール基が水素結合するために、シリカ粒子同士が凝集する傾向にあり、作業性が大幅に低下するだけでなく、材料強度の低下や脆弱化といった問題の原因となる。
【0007】このような問題を解決するために、各種のカップリング剤や分散剤、表面改質剤などが用いられてきた。たとえば、シランカップリング剤はシリカ表面のシラノール基と結合してシリカ同士の凝集を防ぎ、加工性を改善すると考えられている。しかし、シランカップリング剤は高価であるうえ、シランカップリング剤の官能基の特性上、結合を可能とする無機化合物は、シリカ、ガラスファイバー、アルミナなどに限定され、酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック、グラファイトなどの反応性に欠けるものには機能しないという欠点を有していた。
【0008】その他の安価な無機化合物の分散剤および表面改質剤として、アニオン、カチオンまたはノニオン性の低分子界面活性剤や脂肪酸などが用いられるが、これらの無機化合物の被覆力は弱いという問題があった。
【0009】このように、無機化合物粉体の分散性を向上し、作業性、加工性を低下させることなく、耐摩耗性、低発熱性を維持し、ウェットグリップ性能に優れたゴム組成物は、未だに存在しないのが現状である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、加工性、耐摩耗性を低下させることなく、低発熱性、ウェットグリップ性能を改善し得るゴム組成物を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、(A)ジエン系ゴム成分100重量部に対して、(B)チッ素吸着比表面積が70〜300m2/gのカーボンブラック5〜150重量部、(C)チッ素吸着比表面積が100〜300m2/gのシリカ5〜100重量部、(D)該シリカの重量に対してシランカップリング剤1〜20重量%、(E)下記一般式(I)で表わされる無機化合物粉体5〜150重量部、および、(F)該無機化合物粉体の重量に対して下記一般式(II)で表わされるポリエーテル化合物0.1〜150重量%を含むゴム組成物に関する。
kM1・xSiOy・zH2O (I)
(式中、M1はAl、Mg、TiおよびCaからなる群より選ばれた少なくとも1つの金属、該金属の酸化物または該金属の水酸化物であり、kは1〜5の整数、xは0〜10の整数、yは2〜5の整数、zは0〜10の整数である。)
【0012】
【化2】


【0013】(式中、R1は水素原子、または、炭素数1〜50の炭化水素基、ケイ素原子数1〜50のシロキシシリルプロピル基および−(AO)m−R2で表わされる基よりなる群から選ばれた置換基を示す。R1は単一でも複数の種類であってもよい。ここで、R2は水素原子、または、炭素数1〜42の炭化水素基およびケイ素原子数1〜40のシロキシシリルプロピル基からなる群より選ばれた置換基、Aは炭素数2〜3のアルキレン基、mは1〜100の整数を示す。m個のAは同一でも異なっていてもよい。)
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】本発明のゴム組成物は、ゴム成分に充填剤としてカーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、および、特定の無機化合物粉体を含有し、さらに無機化合物粉体の表面改質剤として特定のポリエーテル化合物を含有する。
【0016】本発明に使用されるゴム成分は、ジエン系合成ゴムまたはジエン系合成ゴムと天然ゴムとの混合物からなる。本発明において用いられるジエン系合成ゴムとしては、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)などがあげられる。これらのゴムは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】本発明に使用されるカーボンブラックは、チッ素吸着比表面積(N2SA)が70〜300m2/gである。カーボンブラックのN2SAが70m2/g未満であると充分な補強性や耐摩耗性が得られず、300m2/gをこえると分散性が低下し、発熱性が増大する。好ましくは、カーボンブラックのN2SAの下限は90m2/g、さらには100m2/g、上限は280m2/g、さらには250m2/gである。前記カーボンブラックの例としては、HAF、ISAF、SAFなどがあげられるが、とくに制限されるものではない。
【0018】本発明で使用されるカーボンブラックの配合量は、前記ゴム成分100重量部に対して5〜150重量部である。カーボンブラックの配合量が5重量部未満では補強性や耐摩耗性が低下し、150重量部をこえると分散性が低下するうえ、所望の特性が得られない。好ましくは、カーボンブラックの配合量の下限は10重量部、さらには15重量部、上限は120重量部、さらには100重量部、とくには85重量部である。
【0019】本発明で使用されるシリカの例としては、とくに制限はなく、従来ゴム補強用として慣用されているもの、たとえば乾式法シリカ、湿式法シリカなどのなかから適宜選択して用いることができる。
【0020】本発明に用いられるシリカは、チッ素吸着比表面積(N2SA)が100〜300m2/gである。シリカのN2SAが100m2/g未満では、補強効果が小さく、300m2/gをこえると分散性が低下し、ゴム組成物の発熱性が増大する。好ましくは、シリカのN2SAの下限は130m2/g、上限は280m2/gである。
【0021】前記シリカの配合量は、ゴム成分100重量部に対して5〜100重量部である。シリカの配合量が5重量部未満では充分なウェットグリップ性能が得られず、100重量部をこえると作業性が低下する。好ましくは、シリカの配合量の下限は10重量部、上限は80重量部、さらには75重量部である。
【0022】本発明で好適に使用できるシランカップリング剤は、従来からシリカ充填剤と併用される任意のシランカップリング剤とすることができる。具体的には、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N―ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどのスルフィド系;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプト系;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系;3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系;γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ系;3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系;3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。これらのなかでも、カップリング剤添加効果とコストの両立からビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが好適に用いられる。これらのシランカップリング剤は、1種で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】かかるシランカップリング剤の配合量は、前記シリカ重量に対して1〜20重量%である。シランカップリング剤の配合量が1重量%未満ではシランカップリング剤を入れた効果が充分でなく、20重量%をこえると、コストが上がる割にカップリング効果が得られず、補強性、耐摩耗性が低下する。分散効果、カップリング効果の面から、シランカップリング剤の配合量の下限は2重量%、上限は15重量%であることが望ましい。
【0024】本発明で使用される無機化合物粉体は、下記一般式(I)で表わされる。
kM1・xSiOy・zH2O (I)
(式中、M1はAl、Mg、TiおよびCaからなる群より選ばれた少なくとも1つの金属、該金属の酸化物または該金属の水酸化物であり、kは1〜5の整数、xは0〜10の整数、yは2〜5の整数、zは0〜10の整数である。)
【0025】前記一般式(I)で表わされる無機化合物の例としては、アルミナ、アルミナ水和物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、チタン白、チタン黒、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化アルミニウムマグネシウム、クレー、カオリン、パイロフィライト、ベントナイト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ケイ酸マグネシウムカルシウムなどがあげられる。これらの無機化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの無機化合物のうち、グリップ力向上という点から、水酸化アルミニウム、アルミナ、クレー、タルクなどが好ましい。
【0026】無機化合物粉体の平均粒子径は、0.01〜100μmであることが好ましい。無機化合物粉体の平均粒子径が0.01μm未満では作業性が低下する傾向があり、100μmをこえると耐摩耗性などの特性が低下する傾向がある。より好ましくは、無機化合物粉体の平均粒子径の下限は0.02μm、上限は50μmである。
【0027】無機化合物粉体の配合量は、前記ゴム成分100重量部に対して5〜150重量部である。前記配合量が5重量部未満ではウェットグリップ性能の改善効果が小さく、150重量部をこえると、耐摩耗性が低下する割に充分なウェットグリップ性能が得られない。好ましくは、無機化合物粉体の配合量の下限は10重量部、上限は120重量部、さらには100重量部である。
【0028】本発明で使用されるポリエーテル化合物は、下記一般式(II)で表わされる。
【0029】
【化3】


【0030】(式中、R1は水素原子、または、炭素数1〜50の炭化水素基、ケイ素原子数1〜50のシロキシシリルプロピル基および−(AO)m−R2で表わされる基よりなる群から選ばれた置換基を示す。R1は単一でも複数の種類であってもよい。ここで、R2は水素原子、または、炭素数1〜42の炭化水素基およびケイ素原子数1〜40のシロキシシリルプロピル基からなる群より選ばれた置換基、Aは炭素数2〜3のアルキレン基、mは1〜100の整数を示す。m個のAは同一でも異なっていてもよい。)
【0031】前記一般式(II)において、R1が炭化水素基である場合、R1の好ましい例として、炭素数1〜42のアルキル基もしくはアルケニル基、炭素数6〜42のアリール基、または、炭素数7〜43のアリールアルキル基もしくはアルキルアリール基があげられる。さらに好ましい例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、セチル基、ステアリル基などの炭素数1〜30のアルキル基;アリル基などの炭素数2〜30のアルケニル基;フェニル基などの炭素数6〜30のアリール基;ノニルフェニル基などの炭素数7〜31のアルキルアリール基などがあげられる。R1の炭素数が多すぎると、無機化合物粉体の分散効果、表面改質効果が低下する傾向がある。
【0032】R1がシロキシシリルプロピル基である場合、R1の好ましい例として、ケイ素原子数1〜30、とくには1〜20の直鎖または分岐鎖のシロキシシリルプロピル基があげられる。これらのシロキシシリルプロピル基のケイ素原子に結合するアルキル置換基は同一または異なっていてもよく、メチル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基などがあげられる。
【0033】前記一般式(II)において、R1は置換基を有していてもよいが、その置換基として、ヒドロキシ基、アルコキシ基(炭素数1〜30)、アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、アミド基(炭素数1〜18)、トリアルキルアンモニウム基(アルキル基の炭素数1〜30)、ジアルキルアンモニウム基(アルキル基の炭素数1〜30)、アルキルアンモニウム基(アルキル基の炭素数1〜30)、アンモニウム基、メチルエステル基、エチルエステル基、カルボキシル基、アシル基(炭素数1〜18)、シリル基、シロキシ基(以下、「本発明の置換基」という)などがあげられる。
【0034】R1が−(AO)m−R2で表わされる基である場合において、R2が炭化水素基であるとき、R2の好ましい例として、メチル基、エチル基、n−ブチル基、t−ブチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、セチル基、ステアリル基、フェニル基、ノニルフェニル基などが例示される。
【0035】R2がシロキシシリルプロピル基であるとき、R2の好ましい例として、ケイ素原子数1〜20のシロキシシリルプロピル基があげられる。これらのシロキシシリルプロピル基のケイ素原子に結合するアルキル置換基は、同一または異なっていてもよく、メチル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基などがあげられる。
【0036】R2は置換基を有していてもよいが、その置換基として「本発明の置換基」があげられる。
【0037】また、Aとして、エチレン基またはプロピレン基が例示され、mは、好ましくは1〜50の整数、さらに好ましくは5〜10の整数である。
【0038】本発明のポリエーテル化合物(II)は、化学式(III)で表わされるエポキシ化合物のみを重合するか、その他のモノマー(X)と共重合して得られる。すなわち、以下のいずれかの反応式によって得られる。
【0039】
【化4】


【0040】(式中、R1は、前述した通りである。Xは、置換エポキシド(III)と共重合し得るその他のモノマーを示す。Yは、モノマーX由来の重合単位を示す。p,qは、それぞれの重合単位の繰り返しを示す。)
【0041】これらの場合において、pは、好ましくは5〜2000000である。pが5未満では無機化合物粉体の被覆力が弱くなる傾向があり、2000000をこえるとポリエーテル化合物そのものの分散性が低下するために、無機化合物粉体の表面改質効果が低下する傾向がある。より好ましくは、pの下限は10、上限は1000000、さらには100000である。Xを用いた場合、q≠0であり、qは1〜100,000であることが好ましい。
【0042】ポリエーテル化合物(IV)および(V)において、R1は複数の種類であってもよいが、その場合、ポリエーテル主鎖におけるそれらの配列様式は、ブロック、交互、ランダムのいずれであってもよい。また重合単位Yを有する化合物(V)において、配列様式はブロック、交互、ランダムのいずれであってもよい。
【0043】モノマーXとして、エチレンオキシド、置換エポキシド(III)以外の置換エポキシド、またはエポキシド以外のアニオン重合性モノマーが例示される。好ましい例として、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、炭素数4〜22のアルキレンオキシド、3−パーフルオロアルキル−1,2−エポキシプロパン、4員環、6員環または7員環のラクトン類、5員環または6員環のカーボネート類、ラクタム類、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、ブタジエン、イソプレン、炭素数5〜22の末端オレフィンなどが例示される。
【0044】本発明で使用されるポリエーテル化合物の配合量は、前記無機化合物粉体の重量に対して0.1〜150重量%である。ポリエーテル化合物の配合量が0.1重量%未満では充分な分散効果が得られず、150重量%をこえるとコストが高くなる割に分散効果が得られない。好ましくは、ポリエーテル化合物の配合量の下限は0.5重量%、上限は100重量%、さらには80重量%である。
【0045】本発明に使用されるポリエーテル化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これ以外に公知の表面改質剤、分散剤、界面活性剤、カップリング剤などを併用できる。
【0046】なお、本発明のゴム組成物には、前記のゴム成分、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、無機化合物粉体、ポリエーテル化合物以外に、必要に応じて、軟化剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤などの通常のゴム工業で使用される配合剤を適宜配合することができる。
【0047】本発明のゴム組成物は、加工性、耐摩耗性を低下させることなく、低発熱性、ウェットグリップ性能を改善し得るものであり、タイヤ用ゴム組成物、なかでもトレッド用ゴム組成物やサイドウォール用ゴム組成物として好適に用いることができる。
【0048】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0049】以下の製造例にしたがってポリエーテル化合物を合成した。合成したポリエーテル化合物の分子量は、GPCにより測定した。測定には、ウォーターズ製150C型を使用し、カラムは昭和電工(株)製Shodex HT−806、Shodex HT−803(×2本)を用いた(カラム温度:130℃、移動相:o−ジクロロベンゼン)。ポリスチレン換算で合成したポリエーテル化合物の数平均分子量(以下、Mnと略記する)を求めた。
【0050】製造例1(ポリエーテル化合物■)
トルエン中、ステアリルグリシジルエーテル50gを、サマリウムアルコキシド−メチルアルモキサン触媒1モル%(グリシジルエーテルに対するモル%、以下同じ)を用いて、130℃で12時間重合した。反応液を再沈精製して、白色固体のポリエーテル化合物■を得た。本品は、側鎖に長鎖アルキル基を有する改質剤である。本品のMnは29万であった。以下に本品の構造式を示す。
【0051】
【化5】


【0052】製造例2(ポリエーテル化合物■)
ステアリルグリシジルエーテル50gの代わりに、ステアリルグリシジルエーテル40gとフェニルグリシジルエーテル10gを用いたほかは製造例1と同様にして、微黄色固体のポリエーテル化合物■を得た。本品は、側鎖に長鎖アルキル基とフェニル基を有する改質剤である。本品のMnは27万であった。以下に本品の構造式を示す。
【0053】
【化6】


【0054】製造例3(ポリエーテル化合物■)
ステアリルグリシジルエーテル50gの代わりに、ステアリルグリシジルエーテル40gとアリルグリシジルエーテル10gを用いたほかは製造例1と同様にして、白色固体のポリエーテル化合物■を得た。本品は、側鎖の一部に長鎖アルキル基とアリル基を有する改質剤である。本品のMnは26万であった。以下に本品の構造式を示す。
【0055】
【化7】


【0056】製造例4(ポリエーテル化合物■)
ステアリルグリシジルエーテル50gの代わりに、n−ブチルグリシジルエーテル40gとアリルグリシジルエーテル10gを用いたほかは製造例1と同様にして、無色透明の柔軟ポリマーであるポリエーテル化合物■を得た。本品は側鎖にブチル基とアリル基を有する改質剤である。本品のMnは13万であった。以下に本品の構造式を示す。
【0057】
【化8】


【0058】以下に実施例および比較例で用いた他の薬品をまとめて説明する。
SBR:ジェイエスアール(株)製のSBR1502カーボンブラック:昭和キャボット(株)製のショウブラックN220(N2SA:125m2/g)
シリカ:デグッサ製のウルトラジルVN3(N2SA:210m2/g)
シランカップリング剤:デグッサ製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
水酸化アルミニウム:昭和電工(株)製のハイジライトH−43(平均粒子径:0.5〜2μm)
クレー:サウスイースタン(South Eeasterm)製のクラウンクレー(平均粒子径:2μm)
アロマオイル:(株)ジャパンエナジー製のJOMOプロセスX140老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン酸酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄加硫促進剤TBBS:大内新興化学工業(株)製ノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)
【0059】実施例1〜4および比較例1〜5下記の配合表1および表2に示す配合処方にしたがって、混練り配合し、各種供試ゴム組成物を得た。これらの配合物を170℃で20分間プレス加硫して加硫物を得、これらについて以下に示す各特性の試験を行なった。
【0060】(摩耗試験)ランボーン摩耗試験機にて、温度20℃、スリップ率20%、試験時間5分間の条件でランボーン摩耗量を測定し、各配合の容積損失を計算し、比較例1の損質量を100として下記計算式により指数表示した(摩耗指数)。指数が大きいほど耐摩耗性が優れる。
【0061】(摩耗指数)=(比較例1の損失量)÷(各配合の損失量)×100
【0062】(転がり抵抗指数)粘弾性スペクトロメーター VES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で各配合の損失正接(tanδ)を測定し、比較例1のtanδを100として、下記計算式により指数表示した(転がり抵抗指数)。指数が大きいほど転がり抵抗特性が優れる。
【0063】(転がり抵抗指数)=(比較例1のtanδ)÷(各配合のtanδ)×100
【0064】(ウェットスキッド試験)スタンレー社製のポータブルスキッドテスターを用いてASTM E303−83の方法にしたがって測定し、比較例1のウェットスキッドレジスタンスを100として下記計算式により指数表示した(ウェットスキッド指数)。指数が大きいほどウェットスキッド性能が優れる。
【0065】(ウェットスキッド指数)=(各配合のウェットスキッドレジスタンス)÷(比較例1のウェットスキッドレジスタンス)×100
【0066】結果を表1および表2に示す。
【0067】表1から、カーボンブラックの一部をシリカで置き換え、シランカップリング剤を併用した比較例2は、低発熱性およびグリップ性能を改善することはできるが、補強性に劣り耐摩耗性が低下することがわかる。
【0068】カーボンブラックの一部を水酸化アルミニウムで置き換えた比較例3、さらにシランカップリング剤、ポリエーテル化合物、シリカとシランカップリング剤を併用した比較例4〜6も、低発熱性およびグリップ性能を改善することはできるが、補強性に劣り耐摩耗性が低下することがわかる。
【0069】カーボンブラックの一部をシリカおよび水酸化アルミニウムで置き換え、シランカップリング剤およびポリエーテル化合物を併用した実施例1〜4では、耐摩耗性を低下させることなく、低発熱性およびグリップ性能を改善することができた。
【0070】表2から、カーボンブラックの一部をクレーで置き換えた比較例7、さらにシランカップリング剤、ポリエーテル化合物、シリカとシランカップリング剤を併用した比較例8〜10は、低発熱性およびグリップ性能を改善することはできるが、補強性に劣り耐摩耗性が低下することがわかる。
【0071】カーボンブラックの一部をシリカおよびクレーで置き換え、シランカップリング剤およびポリエーテル化合物を併用した実施例1〜4では、耐摩耗性を低下させることなく、低発熱性およびグリップ性能を改善することができた。
【0072】
【表1】


【0073】
【表2】


【0074】
【発明の効果】本発明によれば、ゴム組成物の充填剤としてカーボンブラック、シリカおよび特定の無機化合物粉体を用い、シランカップリング剤およびポリエーテル化合物を併用することにより、加工性、耐摩耗性を低下させることなく、低発熱性、ウェットグリップ性能を改善することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)ジエン系ゴム成分100重量部に対して、(B)チッ素吸着比表面積が70〜300m2/gのカーボンブラック5〜150重量部、(C)チッ素吸着比表面積が100〜300m2/gのシリカ5〜100重量部、(D)該シリカの重量に対してシランカップリング剤1〜20重量%、(E)下記一般式(I)で表わされる無機化合物粉体5〜150重量部、および、(F)該無機化合物粉体の重量に対して下記一般式(II)で表わされるポリエーテル化合物0.1〜150重量%を含むゴム組成物。
kM1・xSiOy・zH2O (I)
(式中、M1はAl、Mg、TiおよびCaからなる群より選ばれた少なくとも1つの金属、該金属の酸化物または該金属の水酸化物であり、kは1〜5の整数、xは0〜10の整数、yは2〜5の整数、zは0〜10の整数である。)
【化1】


(式中、R1は水素原子、または、炭素数1〜50の炭化水素基、ケイ素原子数1〜50のシロキシシリルプロピル基および−(AO)m−R2で表わされる基よりなる群から選ばれた置換基を示す。R1は単一でも複数の種類であってもよい。ここで、R2は水素原子、または、炭素数1〜42の炭化水素基およびケイ素原子数1〜40のシロキシシリルプロピル基からなる群より選ばれた置換基、Aは炭素数2〜3のアルキレン基、mは1〜100の整数を示す。m個のAは同一でも異なっていてもよい。)