説明

ゴルフ用ティー

【課題】
草木等の天然由来の成分の割合が多い射出成形用樹脂を用いたゴルフ用のティーの形成および小片化しやすく微生物による分解が短時間で効率よく行われるティーの形状を提供すること。
【解決手段】
高分子の多糖体として存在する天然のセルロースから生成した低分子化されたセルロースと、前記天然のセルロースと共に存在していたリグニンおよび所定の割合で付加した熱可塑性の合成樹脂を加圧熱水処理することにより生成した樹脂による射出成形物であって、ほぼ均等の肉厚を有する細板状の軸片を長手方向に沿って複数設けた軸部と、当該軸部の一端に設けたボール載置用の凹部を形成した載置部とから構成されており、前記載置部は、中央に設けた支持板と当該支持板の表裏両面に間隔を隔てて配置した複数の板状体を一体的に設け、当該支持板と各板状体の端面によって前記ボール載置用の凹部を形成したものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフ用ティーに関する。
【背景技術】
【0002】
石油系の樹脂は、押し出し成形の他、射出成形による成形も容易である。しかし、当該石油系の樹脂によって形成された物品は、使用後の大半が投棄され環境破壊を招くものとなっている。また、廃材となった建築用木材、製材時に生じる廃材、間伐材、都市部の街路樹から生じる落ち葉等の処分方法についても未だ確立したものがない。
当該観点から、微生物によって分解可能なように木材等を混入した樹脂等についての研究が行われている。しかし、これは単に樹脂をバインダーとして木質片を混練したものに過ぎず、比較的開口の大きい押し出し用の金型による押し出し成形は可能であるものの、ノズル口の面積が小さい射出成形には不向きである。これは、樹脂自体に肉眼で見分けることができる程度の繊維がそのまま混在しているのでノズルが詰まりやすく、木質に含まれている酢酸成分によって高温下でノズルを腐食させる場合等があるからである。
また、高分子の多糖体であるセルロースが高圧熱水(亜臨界水)によって低分子化されることが知られており、高圧熱水(亜臨界水)によって、木材からリグニンを抽出して樹脂化する技術が研究されている。亜臨界水とは、臨界点(22MPa、374℃(図5参照))に至る直前の状態の水をいう。臨界点付近では、圧力操作のみで液体(密度が高い)若しくは気体(密度が低い)の状態に変化する性質がある。
【0003】
さらに、従来ゴルフ用具としてボールのリフトアップに使用するティーが知られている。当該ティーは、主として地中に差し込まれる軸部と、当該軸部上端のボール載置部とから構成される。また、当該ティーはゴルフ場のコース上に落としたりすることがあるため、土上や土中において分解され得るように生分解性プラスチックによって形成したものも知られている(特許文献1、2)。
土中に存在している微生物によるティーの分解は、表面に露出している部分から開始される。したがって、効率よく短時間で同一容積の生分解性樹脂を分解するには、単位容積あたりの表面積を増やすことが望まれる。また、表面から深部までの距離が比較的長いと、全ての生分解性樹脂を分解するまでに時間を要してしまう。
【特許文献1】特開2000−189549号公報
【特許文献2】特開平11−221307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は、上記課題に鑑み発明されたものであって、草木等の天然由来の成分の割合が多いにも拘わらず射出成形用の樹脂素材としての流動性が高く、ノズルを腐食させる酢酸成分の含有量が極めて少なく、しかも成形前後の収縮率が小さい射出成形用樹脂を用いて、複雑な形状のゴルフ用のティーを形成することを目的とするものである。
また、本願発明は、上記射出成形用樹脂等の生分解性樹脂を素材として形成したティーであって、小片化しやすく、微生物による分解が短時間で効率よく行われるティーの形状を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本願発明に係るティーは下記の構成を有する。すなわち、
高分子の多糖体として植物に含まれる天然のセルロースと当該セルロースと共に含まれているリグニンおよび所定の割合で付加した熱可塑性の合成樹脂を加圧熱水処理することにより生成した樹脂による射出成形物であって、
一定の肉厚以下に形成された細板状の軸片を長手方向に沿って複数設けた軸部と、当該軸部の一端に設けたボール載置用の凹部を形成した載置部とから構成されており、
前記載置部は、中央に設けた支持板の表裏両面に複数の板状体を間隔を隔てて一体的に設け、当該支持板と各板状体の端面によって前記ボール載置用の凹部を形成したものであることを特徴とするゴルフ用ティー。
【0006】
また、本願発明に係るティーは下記の構成を有する。すなわち、
生分解性の合成樹脂により形成した射出成形物であって、
一定の肉厚以下に形成された細板状の軸片を長手方向に沿って複数設けた軸部と、当該軸部の一端に設けたボール載置用の凹部を形成した載置部とから構成されており、
前記載置部は、中央に設けた支持板の表裏両面に複数の板状体を間隔を隔てて一体的に設け、当該支持板と各板状体の端面によって前記ボール載置用の凹部を形成したものであることを特徴とするゴルフ用ティー。
【発明の効果】
【0007】
本願発明に係るゴルフ用のティーは、植物に含まれるセルロースを主要素として合成した樹脂により形成されており、土中において微生物により分解が可能となっている。
また、本願発明に係るゴルフ用のティーは、表面積が多く、かつ全体に亘って肉厚がほぼ一定に形成されているので、全体にわたって効率よく生分解が行われるという効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本願発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は、本願発明に係るゴルフ用のティーを生成する熱可塑性樹脂の製造に使用する装置の一例である処理装置1を構造を簡略化して示したものである。
当該処理装置1は、主な構成として略円筒状の強固な金属壁によって囲まれた空間9を有するチャンバー2と、当該チャンバー2内で回転する羽根3(3a、3b)、4(4a、4b),5,6と当該各羽根の回転軸となる軸7と、当該軸7を回転させるためのモータ8を有している。軸7とモータ8の駆動軸は、プーリーを用いたベルトで駆動力が伝達されるようになっており、軸7に急激な負荷がかかった場合にベルトを滑らせ急激な負荷がモータ8に及ばないようになっている。
【0009】
チャンバー2が有する空間9は前述の通り強固な金属壁によって覆われており、後に述べる樹脂合成時の衝撃、内圧、発熱に耐えることができるようになっている。また、当該金属壁は冷却水によって冷却されるようになっており(図示せず)、樹脂合成時に発生する発熱によって金属壁が損傷するのを防いでいる。なお、過度の冷却はチャンバー2内で生じる反応を阻害することになるので、チャンバー2の破壊および内容物の炭化を防止し、かつ空間9内を樹脂の合成に適した温度に保つように温度管理が行われている。
また、当該処理装置1には射出成形樹脂の材料となる木片やポリプロピレン(以下「PP」)等の樹脂片を計量し搬送する自動搬送装置が接続されているが、図1および以下の説明では説明を省略する。
【0010】
また、空間9内には、軸7の外周に取り付けられ軸7の回転に伴って回転する羽根3(3a、3b)、4(4a、4b),5,6が設けられている。本実施の形態における前記各羽根は、先端が空間9の内周壁に沿って円弧状に形成された細長の板状体として形成されており、各羽根の先端と空間9の内周壁との隙間はごく僅かとなるようになっている。
【0011】
各々2枚で一対となる羽根3a、3bおよび羽根4a、bは、軸7を中心として180度位相が異なる位置に設けられている。羽根3aと羽根3bは、回転に伴って次第に対向する間隔が狭くなるような取り付け角で軸7に固定されている。同様に、羽根4aと羽根
4bも回転に伴って次第に対向する間隔が狭くなるような取り付け角で軸7に固定されている。すなわち、羽根3aおよび羽根3bと羽根4aおよび羽根4bは、共に羽根の先端側から軸7方向を見ると「ハ」の文字を成すように取り付けられている。本実施の形態では、各羽根の取り付け角度は回転方向に対して約15度に設定されている。
前記各羽根は、回転に伴ってチャンバ内に投入された混合物を羽根3aおよび羽根3bの間隔の広い側で受け入れて羽根3aおよび羽根3bの間隔の狭い部分から放出し、さらに羽根4aおよび羽根4bの間隔の広い側で受け入れて、間隔の狭い部分から放出するようになっている。そして、当該羽根の作用によって混合物の圧縮、衝突を高速で繰り返しつつ、チャンバ内壁に沿って混合物を旋回させている。
具体的には、羽根3aに接触した混合物は羽根3b側に向かって付勢され、羽根3bに接触した混合物は羽根3a側に向かって付勢される。そして、互いに対向するように付勢された混合物は外周方向へ付勢されつつ羽根の中間付近で衝突する。同様に、羽根4aに接触した混合物は羽根4b側に向かって付勢され、羽根4bに接触した混合物は羽根4a側に向かって付勢される。そして、互いに対向するように付勢された混合物は外周方向へ付勢されつつ羽根の中間付近で衝突することになる。
【0012】
羽根3aおよび羽根3bと羽根4aおよび羽根4bは、前述した通り軸7を中心として180度位相が異なる配置で設けられており、さらに、軸7の長手方向に対する取り付け位置もやや異なっている。
前記各羽根3a、3b、4a、4bは、軸7の回転に伴って羽根3aと羽根3b間の狭い部分を通過した混合物を、次の羽根4aと羽根4bの一方を中心に接触させて羽根4aと羽根4bの間に導いた後に狭い部分から放出し、再び羽根3aと羽根3bの一方を中心に接触させて羽根3aと羽根3bの間に導いた後に狭い部分から放出するという作用を連続的に繰り返す配置となっている。
図1に示した例で説明すると、羽根3bの狭側端部と羽根4bの広側端部の回転時の軌跡が概ね一致し、羽根4aの狭側端部と羽根3aの広側端部の回転時の軌跡が概ね一致するような配置となっている。そして、軸7の略中間部分に位置する羽根3aの狭側端部と羽根4bの狭側端部の間には回転時に羽根が通過しない領域が形成されている。
【0013】
また、羽根3aの外側には、当該羽根3aと同一角度で取り付けられた羽根5が設けられており、羽根3a、3bに導かれなかった混合物を羽根4aの広側端部に導くようになっている。また、羽根4bの外側には、当該羽根4bと同一角度で取り付けられた羽根6が設けられており、羽根4a、4bに導かれなかった混合物を羽根3bの広側端部に導くようになっている。このようにして、チャンバ内に投入された混合物は、ほぼ羽根3aおよび羽根3bと羽根4aおよび羽根4bに挟まれた中央部付近において、圧縮、衝突、旋回等が繰り返し行われるようになっている。
【0014】
前記チャンバ2内で回転可能に設けられた軸7の内部には冷却水を通過させる通路(図示せず)が設けられており、発熱した羽根を当該軸7を介して冷却するようになっている。また、軸7の端部はチャンバ2の外側まで延びており、当該チャンバ2の外側部分においてV型プーリーが取り付けられ、Vベルトを介してモータ8によって回転駆動されるようになっている。
当該モータ8は、制御装置10に接続されており、モータ8に作用する負荷および各種センサが検出した情報に基づいて回転の開始、停止、回転速度の調整等が行われるようになっている。
処理装置1には、図1に示したものの他、チャンバー2の内部に合成すべき素材(混合物)を自動軽量、自動供給する供給装置、生成された樹脂を自動的に排出、搬送する装置、当該樹脂をペレットとして小片化する粒状化装置が設けられているが、本願明細書においてはそれらの装置の説明は省略する。
【0015】
前記各種センサとしては、チャンバ2内の圧力を監視する圧力センサ14、チャンバ2内の温度を検知する温度センサ15、軸7の回転数を検知する回転計17等が設けられており、計測された情報は制御装置10にフィードバックされ、チャンバ2内部の状態を反応に適した状態に維持する制御が行われている。また、チャンバ2内の圧力を調節する調圧弁16が設けられている。
制御装置10には、混合物の内部で水の亜臨界状態を発生させ、所定時間維持させる制御が必要となる。反応が進みすぎると混入物を炭化させてしまったり、機器を破損させるおそれがあるし、反応が不十分であれば混入した物質の十分な反応が進まず、意図した樹脂が生成されないことになる。
【0016】
反応に適した最適な条件は、チャンバ2内に混入する素材や素材の割合、量、含水率、装置1固有の特性、チャンバ2内の温度および圧力と、軸7による羽根の回転速度(周速)によって異なる。特に、羽根の回転速度、角度および間隔の変化が、混成時の発熱量や混合物に付加される圧力に大きく影響する。羽根の角度および間隔が一定の場合、回転速度による影響が大きく作用する。混合物に作用するエネルギーは、混合物に付勢される速度の2乗に比例すると考えられるので、回転速度の変化が温度と圧力の変化に著しく影響し、含まれている水分の亜臨界水への遷移および亜臨界水になっている水の状態が変化するからであると考えられる。亜臨界の状態は、僅かな圧力の変化によって液体から気体、気体から液体へと状態が変化するといわれている。したがって、回転速度に影響される亜臨界水の状態がセルロースの分解・再合成に大きく関係しているものと考えられる。
【0017】
次に、前記処理装置1による樹脂の生成(製造)プロセスについて説明する。以下に説明する反応、若しくは反応を行わせる条件、手順等が本願発明に係る射出成形用樹脂の製造方法に関する説明となる。
重量割合で95〜85パーセントの小片化した植物片と、重量割合で5〜15パーセントの熱可塑性樹脂をチャンバ内に投入する。当該植物片と熱可塑性樹脂の混合物(以下単に「混合物」という)の総量は、チャンバ2の処理能力によって変動する。
投入される植物片には、間伐材、製材所等で排出される木片、建材、廃棄処分となったパチンコ台、家具等に使用されている木質系の廃材(木、合板等)、綿(コットン)製の衣類、布団等、主としてセルロースを含むものが含まれる。前記植物片の重量割合は、一般的な生活環境において湿度50〜70パーセント程度、気温10度〜35度程度で水没することなく放置された状態での重量割合である。
なお、予め原料から水分を除去する必要はなく、後述するように水分は必要な要素である。木材等は通常の生活環境であれば一定の含水量を有しているので、水を含浸させる或いは乾燥させる等の前処理をする必要はなくそのまま使用することができる。もし、塗装された合板等、何らかの事情で水分の含有量が少ない素材を用いる場合には、混合物とともにチャンバー内に水を追加投入する。
【0018】
前記熱可塑性樹脂には、PS(ポリスチレン)、PE(ポリエチレン)、ABS樹脂、ゴム、および本願発明に係る射出成型用樹脂自体、別工程で生成され樹脂化されたリグニン等が含まれる。なお、実験例では、アルミニウムが混合されたプラスチックゴミを用いた場合であっても、本願発明に係る射出成型用樹脂と同様の熱可塑性樹脂が生成されることが確認されている。
なお、本願発明は、できるだけPP等の石油由来の樹脂の使用量を低減し、天然由来の成分を多く使用することを発明の目的としてPP等の重量割合を5〜15パーセントとして説明をしているが、むろん、石油由来の樹脂の重量割合を15パーセント以上としても熱可塑性の射出成型用樹脂を生成することができる。石油由来の樹脂の重量割合が増加すると、物性が石油由来の樹脂本来の性質に近くなるが、このような性質を利用して用途に応じて混合量を可変することも可能である。
【0019】
前記割合の混合物をチャンバー2内に投入した後、モータ8を回転させ、プーリーとVベルトを介して軸7を回転させる。モータ8の回転は制御装置10によって制御されており、当該制御装置10によってモータ8の回転軸に作用するトルク等の検知を行いつつ回転数を上昇させるようになっている。チャンバ2内では、軸7の回転とともに羽根3、4,5,6が回転し、投入された混合物の微細化を進行させる。
【0020】
混合物と羽根との衝突および羽根によって付勢された混合物同士の衝突による衝撃等によって混合物が微細化されると、チャンバ内における混合物の流動性が良くなる。そして、羽根3aと3b間の通過、羽根4aと4b間の通過を交互に繰り返しつつさらに微細化が進行して微細レベルでの混合物同士の衝突頻度が増加する。また、当該衝突頻度が上昇しつつ、羽根3aと3b間および羽根4aと4b間の通過の際に受ける周方向への付勢によて混合物自体もチャンバ内壁に沿って回転する。
混合物は、前記チャンバ内での回転によって生じる遠心力で内壁に押し付けられつつ、次第に狭路となるように配置された羽根3aと3b間の通過および羽根4aと4b間の通過の際に圧力を受ける。混合物は、この周方向(内壁に対して直角方向に働く遠心力)と軸7の長手方向の4方向から、羽根の回転周期に応じて繰り返し圧力を受ける。そして、当該圧力下で衝突によるエネルギーによって混合物内に含まれる種々の物質を発熱させ、内部に含まれる物質の物性に応じて溶融化等の状態変化が起る。
【0021】
混合物に作用する軸7方向の圧力は、羽根3aと3bの狭路部分および羽根4aと4bの狭路部分の通過によって瞬間的にピークに達する。そして、この圧力の高くなる部位は羽根3aと3bのほぼ中間位置、羽根4aと4bのほぼ中間位置に分布し、当該圧力の分布に応じて温度の上昇率が高くなるものと考えられる。
図4は、混合物が溶融した状態での羽根3aと3b(羽根4aと4b)の狭路部分での温度分布の想定図である。実際には測定することができないものであるが、概ね図示した状態になるものと推測される。図示した領域T1は、羽根3aと3b(羽根4aと4b)の中央付近であって、チャンバ内壁11から若干離れた部位である。当該領域T1は、圧縮による発熱とチャンバ内壁11および羽根3aと3bを介した放熱とのバランスによって温度が高く、かつ周囲の溶融物によって放熱量よりも蓄熱される熱量が上回る状態(瞬間的に断熱に近い状態)となり熱量が蓄積される領域である。当該領域T1を中心として、チャンバ内壁11および羽根3aと3b(羽根4aと4b)に近づくにしたがって(T2、T3、T4、T5)温度が低くなっていると推測される。
【0022】
混合物13は、当初は固体状の粒状物であるが、羽根3aと3b(羽根4aと4b)の作用によって衝突を繰り返しつつ発熱し、当該発熱によって熱可塑性樹脂の溶融および木材等に含まれている水分の加熱分離に伴い、固形物を溶融物が包み込んで全体がゲル化する。
図3は、チャンバ2内における前記ゲル化した状態の混合物13の速度分布を表したものであり、羽根の中央領域での速度分布の想定したものである。混合物13は、チャンバ2の内周壁に沿って輪状に分布する。羽根の速度は内周壁に近いところで最速となるが、混合物13は粘性を有しているので周壁に接した部分は速度が低く、そして軸7の中心にやや近づいた位置で速度が最速となり、回転半径の縮小に伴って再び速度が低下するという速度分布を有していると推測される。
前記速度分布を伴う混合物13の回転は、F=(質量)×(速度)2/(半径)で表さ
れる遠心力を生じさせる。すなわち、混合物には、接線方向の速度の2乗に比例し回転中心からの距離に反比例した遠心力が作用し、当該遠心力が後に混合物から生じた液状成分を粘度、比重の違いによって混合物13の溶融固形成分から分離する作用を有する。
【0023】
混合物13のゲル化への移行は、モータの駆動軸に作用する負荷(トルク)をモニターすることで判断することができる。モータに作用するトルクは、混合物13の微細化に伴
って緩やかに上昇し、ピークを迎えた後下降する。当該トルクの下降時期が混合物13のゲル化が進行する時期であり、当該時期が最も混合物13内での反応が促進される時期である。
全体がゲル化すると、固体状の粒子であった場合と比較して、羽根3aと3b(羽根4aと4b)の回転によって圧縮される混合物の密度が高くなり、羽根3aと3b(羽根4aと4b)の間で局部的に急激な温度上昇を伴う発熱を生じるようになる。
そして、チャンバ2内の混合物を取り囲む環境(温度と圧力)が一定の条件下の場合、前記ゲル化した混合物が羽根3aと3b(羽根4aと4b)によって圧縮される際のエネルギーによって内部に含まれる水分が瞬間的に亜臨界水に変化する。
前述した通り、亜臨界水とは、臨界点(温度374℃・圧力22MPa)を超える少し前の状態の水であり、セルロース(多糖類の高分子)を低分子に分解する性質を有し、セルロースとともに植物中に含まれているリグニンをセルロースから分離する作用を有することが知られている。
【0024】
前記ゲル化した初期の混合物は、物理的な粉砕によって単に微細な固形物が混ざり合っている状態であり、セルロースの組成自体に変化はない。しかし、亜臨界水と接する状況では、大きな塊となっている高分子状態のセルロースは、分子間の結合が分断されて低分子化する。そして、主として細胞の結合成分として含まれているリグニンをセルロースから分離する。この亜臨界水によるセルロースの分解は、当初羽根3aと3b(羽根4aと4b)の中間位置で始まり、それが繰り返されることで熱が蓄積されつつ、亜臨界水によるセルロースの分解が周囲の混合物にも急激に広がる。
【0025】
前記亜臨界水による反応が連続的に始まると、チャンバ内の温度が数秒間で60℃程度から200℃程度まで急激に上昇する。なお、温度上昇率の一番高い部分では、当該200℃を超え、温度374℃・圧力22MPa以下の亜臨界状態になっている。亜臨界に達した後、セルロースの分解や冷却等でエネルギーを放出した水は、水蒸気化してチャンバ外に放出されることになる。
セルロースの分解や他の成分の分離および水の消費が進行すると、ゲル状態の混合物の粘度が急上昇する。そして、当該粘度の上昇に伴って羽根の回転に対する負荷が増加する。
すなわち、セルロースの分解、再合成、成分(気体、液体、固体)の分離の終了時期を、モータに作用する負荷(トルク)の変化で判断することができる。制御装置10は、当該トルクの上昇開始からチャンバ内での反応の終了時期を判断し、所定時間の経過後にモータの回転速度を次第に低下させる。当該モータの回転数の緩和にしたがって、羽根と遠心力の作用でチャンバ中央付近に保持されていた液状成分がチャンバ内の底部分に移動するので、これを再びゲル状物と交わらないように取出し、羽根の回転を停止した後に内部に残った固形物をチャンバ内から取り出す。最終的に当該チャンバ内から取り出した固形物が、熱可塑性の性質を有する本願発明に係る射出成形用の樹脂素材となる。
【0026】
特に、木を主体とした原料を処理した場合、前記セルロースの分解課程において、内部に含まれている酢酸成分が液状化した状態で分離する。この分離プロセスが物理的なものであるか、亜臨界水による科学的な反応によるものであるのかは、まだ出願人は解明していない。しかし、分離された液体を分析すると、現在一般的に木酢と称して販売されている酢酸を含有した液体と同様の成分を有していることが解っている。また、当該酢酸を含む液体は、水の含有率の少ない極めて濃度の濃いものとなっている。
前記亜臨界水が発生している状態のチャンバ内では、主としてゲル状化した成分(溶融した固体成分)と、液状化(ゾル化)した成分と、水蒸気が混在しながら回転による遠心力によって内壁に押し付けられている。当該遠心力は、ゲル(固体)S、液体L、気体Gを比重の違いで分離する作用を有しており(図2参照)、セルロースを分解するとともに、セルロース、ニグニン、追加混入した熱可塑性樹脂を主成分とするゲル状体(固体成分
)から液状成分と気体成分を排除し密度を高める作用を有している。また、当該チャンバ内に最終的に残った固形物は、水分が排除され極めて含水率の低い状態となっている。
【0027】
前述の装置およびプロセスで生成された樹脂素材は、現在ごく一般的に使用されているPP、PSといった石油由来の樹脂と同様に熱可塑性を有し、成形型内に高圧で注入して製品を得る射出成形の素材として使用可能な性質を有している。
そして、当該生成物は、単に射出成形が可能であるというだけではなく、混合物の成分によっては成形型に対する収縮率が2/1000程度と極めて低いことが解っている。これは、寸法精度が要求される精密成型に適しているということである。また、前述したように酸である酢酸成分を排除しているので、射出成型器のノズルを腐食させることがないという性質を有している。
また、電磁波の吸収特性があることが解っている。したがって、電磁波ノイズを出す製品のカバーとして利用したり、電子機器のカバーに利用して電磁波ノイズの進入を防止する用途として使用することができる。
さらに、当該生成物は、PP等の石油由来の樹脂に換えて、本願発明に係る射出成型用の樹脂を使用することができる。すなわち、本願発明に係る射出成型用の樹脂を添加用の熱可塑性樹脂として繰り返し使用すると、成分が100パーセント植物由来の天然素材に近い、射出成型用の樹脂を生成することができる。
また、混成用の熱可塑性樹脂として、生分解性の樹脂を使用することができる。したがって、使用後に廃棄した場合であっても、添加した熱可塑性樹脂自体も微生物によって分解が可能であるから、環境破壊を伴う可能性が極めて低いものとなっている。
【0028】
[薬剤成分含有成型物]
前記本願発明に係る射出成形物の用途の一例および当該用途に適した射出成形物等について説明する。
当該用途の一つは、薬剤を含浸させた図6に示す小石状の成型物20、21である。当該成型物は、前述の製法によって生成した射出成形用樹脂を、成形型によって小石状の形状に射出成形したものである。大きさは、全長約3cm(±2cm)程度である。
当該成型物20、21は、水分の排除によって乾燥した状態を維持した生成された直後の射出成形樹脂を使用して小石状に成形し、当該成形直後に薬液中に沈め、薬液成分を含浸させたものである。
当該薬液としては、除草薬を含んだ液を用いることができ、小石状の成型物20、21に当該除草薬を含浸させることができる。当該薬液を含浸させた成型物を土壌表面に敷き詰めると、少しづつ分解して除草薬成分等を放出し続け、長期間に亘って雑草が生えるのを防ぐことができる。なお、特定の害虫に作用する殺虫成分を使用してもよい。
さらに、薬液として、草花の肥料成分を含んだ液を用いることができる。当該肥料成分を含んだ小石状の成型物を花壇やプランター表面に敷き詰めると、含浸させた成分が少しづつ放出され、長期に亘ってって肥料を供給し続けることができるという効果を有している。
なお、前記小石状の成型物は、粉砕して微細化した植物片を熱可塑性の樹脂で溶融接合させた従来方法による植物片混合樹脂によって形成してもよい。リグニンを主成分とする熱可塑性の樹脂を使用すると総天然素材に近い成型物を得ることができる。当該植物片混合樹脂は、流動性が悪く、微細な形状を再現する射出成形には不向きであるが、押し出し成形やプレス式の押圧成形などには使用することができる。したがって、単純な塊や比較的肉厚のある成型物を作る場合には、植物片混合樹脂によって形成してもよい。
【0029】
次に、前記薬液を含浸させるのに適した射出成形物の製造方法について説明する。本願発明によって生成した射出成型用樹脂は、処理前に存在するセルロースを全て低分子化させると、密度の高い比重1.1以上の射出成形用樹脂を得ることができる。そして、当該射出成形用樹脂によって成形した成型物は、地肌に光沢があり、素材に木材等が使用され
ているという痕跡を見つけることができない程の仕上がりとなる。
しかし、前記完成度の高い射出成形用樹脂を用いて成形した成型物は、その完成度に比例して成型後に吸収できる含水量が少なくなる。したがって、前記薬液を含浸させることを主な目的とする場合には、木材の繊維が多少残存しており、当該繊維に薬液を含浸させることができる程度の成型物が望ましい。すなわち、当該成型物を作るには、植物に含まれているセルロースを全て分解するのではなく、未分解若しくは分解が不十分なセルロースを残している成型用樹脂を使用することが好ましい。このような制御は、制御装置10等により行うことが出来る。
【0030】
前記分解が十分ではないセルロースを残した状態の射出成形用樹脂は、前記制御装置によるモータの制御によって、亜臨界による処理が進行して軸7の回転トルクが最小値になってから後の回転停止までの時間の調節によって行うことができる。最も完成度の高い射出成形用樹脂生成に要する時間を最長として、当該時間より短い時間を設定することで、不十分な反応を行わせ、繊維状のセルロースが目視で確認できる程度残存し、かつ熱可塑性を有する射出整形用素材を生成することができる。
当該反応が不十分な射出成形用樹脂を用いて前記小石状の成型物を成形し、成形直後に当該成型物を薬液に浸すと、残された繊維の隙間に多量の薬液を浸透させることができる。
【0031】
[カプセル]
図7、図8は、本願発明に係る射出成形用樹脂による成型物の一例を示すものであり、半球状の2分割体(半体)による直径5cm程度の玩具販売用カプセルを試験的に作成したものである。
図7に示した成形例によるカプセルは、一番左側が樹皮とPPを混成物として生成した射出成形用樹脂で射出成形したものである。以下順に、未乾燥の枝、葉とPPを混成物としたもの、乾燥させた枝、葉とPPを混成物としたもの、右端が葉のみとPPを混成物とした射出成形用樹脂で射出成形したものである。図8は、一例として樹皮とPPを混成物とによる射出成形用樹脂で射出成形した玩具用カプセルの内部(写真左)を表した写真である。カプセル内部には、幅1mm程度のリブが設けられているが、当該リブの末端にまで樹脂が行き渡り、細かい部分形状まで金型通りに形成されていることが解る。
【0032】
前記図7、図8に示したカプセル50は、外殻体となる蓋(2分割体)51、52の頂部に平坦な凹部53,54(平坦部)を形成し、平坦部53に複数の孔55を設けている。なお、平坦部53と平坦部54の双方に孔を設けても差し支えない。
当該玩具用カプセル50は、小型の植木鉢としての用途を想定しており、種と土を玩具用カプセル50内に収容して販売し、玩具用カプセル50をそのまま植木鉢として利用できるようにしたものである。前記孔55は、植木鉢としての水の排出用に使用される。植木鉢としての使用後は、大きなプランターや花壇に埋めておくことで、微生物により分解させることができるものである。
なお、前記当該容器は、粉砕して微細化した植物片を熱可塑性の樹脂で溶融接合させた従来方法による植物片混合樹脂によって形成してもよい。リグニンを主成分とする熱可塑性の樹脂を使用すると総天然素材に近い成型物を得ることができる。当該植物片混合樹脂は、流動性が悪く、微細な形状を再現する射出成形には不向きであるが、押し出し成形やプレス式の押圧成形などには使用することができる。したがって、前記寸法より大きな比較的肉厚のある成型物を作る場合には、植物片混合樹脂によって形成してもよい。
【0033】
[組立模型]
図9は、本願発明に係る射出成形用樹脂(混成樹脂)による成形例を示すものであり、所謂組立模型60としてランナー61(射出成型時に溶融した樹脂の通路となる枠状部分)内に、昆虫のカブトムシを象った模型を作るための複数のパーツ62(造形物)を形成
したものである。従来存在した木質素材を混練しただけの成形素材では、図示したような細いランナーを有するような成形物を形成することができなかった。これに対して、本願発明に係る射出成形用樹脂は、ランナーを有する成型物であっても形成することができ、型表面の模様まで詳細に再現できるものとなっている。
【0034】
[連結ブロック玩具]
図10は、本願発明に係る射出成形用樹脂による成形例を示すものであり、所謂玩具としての連結ブロック70を形成したものである。図10(a)は連結ブロック70の上方斜視図、図10(b)は連結ブロック70の下方斜視図、図10(c)は試作した連結ブロック70を複数個連結させた例を示した写真である。
従来一般の、石油系の樹脂は、成形型に対する収縮率が比較的大きいために、成型後の引けを考慮して、肉厚が厚くならないようにしている。すなわち、肉厚の厚い部分は収縮量も多く凹んだ状態になるため、連結ブロックのような立方体状の形状を作るる場合にはできるだけ内部を空洞化させる等の工夫をしていた。
これに対して本願発明に係る射出成形用樹脂(混成樹脂)は、成形型に対する収縮率が2/1000程度と極めて低いために、前述したような成形後の引けをほとんど考慮する必要がない。したがって、立方体若しくは直方体状の本体部71を、肉抜きをしない中実体として形成している。そして、本体の表面には各ブロック同士を適度な結合力で着脱可能とする嵌合用凸部72と、当該嵌合用凸部と嵌合可能な形状の当該嵌合用凹部73が設けられている。図示した例では、嵌合用凸部の形状が円柱であり嵌合用凹部の形状は円形孔である。従来の樹脂では、このような円柱と穴の嵌合を成型品によって精度良く行わせるのは熱収縮による寸法変化により極めて困難であった。しかし、本願発明に係る射出成形用樹脂は、嵌め合いの精度をほぼ設計通りに再現することができるというすぐれた効果を有しているので、上記のような形状の連結ブロック玩具の形成が可能となっている。
【0035】
[漆塗布製品]
本願発明に係る射出成形用樹脂(混成樹脂)により形成した成型物は、その一つの特徴として、下塗りを必要としないという特徴を有している。従来一般の石油由来の樹脂による成型物は、そのままでは天然の漆が乗らないために、所定の下塗りが必要であった。これに対して本願発明に係る射出成形用樹脂(混成樹脂)により形成した成型物は、下塗りをすることなく天然の漆を塗布できることができる。したがって、従来、木工製品に対して行っていたのと同様の手順により、下塗りをすることなく、本願発明に係る射出成形用樹脂で成形した汁碗等の食器、重箱、家具、その他の工芸品に下塗りを要せず漆を塗布した製品を作ることが出来る。これは、石油由来の樹脂による成型物と比較して、安価に漆塗り製品を提供することができるということである。
【0036】
[焼き付け塗装製品]
本願発明に係る射出成形用樹脂(混成樹脂)により形成した成型物は、その一つの特徴として、焼き付け塗装ができるという特徴を有している。すなわち、従来一般の石油由来の樹脂による成型物は、熱に弱いものが多いために塗膜を高温付加によって乾燥および付着させる所謂焼き付け塗装を行うことが出来なかった。これに対して本願発明に係る射出成形用樹脂(混成樹脂)を用いて形成した成形物は焼き付け塗装が可能であり、従来塗料の塗布が行えなかった樹脂成形品についても焼き付け塗装が可能となっている。
【0037】
[他の実施例]
次に、本願発明に使用する処理装置の他の実施例を説明する。図11は、他の実施例に係る処理装置100の構造を簡略化して示したものである。当該処理装置100の主な構造は前記処理装置1とほぼ同じであり、同一の手段については同一の符号を付しその説明を省略する。
前記処理装置1と異なる点は、羽根3a、4aおよび5を取り付けた回転軸30が、モ
ータ8にベルトを介して取り付けられた羽根3b、4bおよび6を有する回転軸33に対して、軸方向に移動可能となっている点である。回転軸30と回転軸33は、チャンバ2内の略中央部分において分離している。しかし、両回転軸は同期して回転するように中央で噛み合うように構成されている。回転軸33は、移動せず、常に一定の場所で回転する。
【0038】
回転軸33は、チャンバ2内の略中央部分以降が小径に形成されており、当該小径部の外周で、筒状に形成されている回転軸30の内周部を支持するようになっている。回転軸33の内周部と回転軸30の外周部の間には空間31が設けられており、回転軸30内を通過する冷却水が穴32を介して空間31に導かれるようになっている。当該空間31は、Oリング33によって気密性が保たれており、冷却水が漏れないようになっている。
回転軸33は、スラストベアリング35によって一端が支持された圧縮スプリング34によって、チャンバ2の内側方向に押圧されている。すなわち、回転軸33に取り付けられている羽根3a、4aおよび5が負荷を受けた場合に、圧縮スプリング34の弾性に抗して回転軸33を移動させ、羽根3a、4aおよび5に対する負荷を逃がすようになっている。
なお、回転軸33の移動は、反応の程度を調節するために手動式としても差し支えない。
【0039】
特に羽根3a、4aに対して負荷がかかる場合とは、チャンバ2内で処理されている混合物13の粘性が増して同時に羽根3b、4bにも負荷がかかる状況である。すなわち、モータ8の回転トルクが増加する射出成形樹脂生成の最終段階で起こる状況である。
前述した処理装置1の場合には、モータ8の回転トルクを検知して、モータ8の回転を制御してモータ8に対する過負荷が生じないようにしていた。また、急激な負荷についてはベルトの滑りによって負荷を逃がしていた。これに対して本実施例の場合には、モータ8の回転トルクが増加しはじめると、羽根3a、4aに対して生じる負荷によって回転軸33が移動し、羽根3a、4a(羽根3b、4b)およびモータ8に過負荷がかからないようになっている。
【0040】
以上説明した、本願発明に係る射出成形樹脂の製造方法、射出成形樹脂、成型物、酢酸成分の抽出方法は、いずれも植物に含まれる高分子状態のセルロースを、圧縮等による自己発熱によって発生した亜臨界水によって低分子状態のセルロースに分解し、植物に含まれているリグニンを含む成分によって再結合することにより熱可塑性の樹脂を生成したこと、および当該熱可塑性の樹脂の特徴を効果的に利用したところに発明の特徴がある。したがって、前述した反応装置1および100等は、当該亜臨界水によるセルロースの分解と再合成を行わせるための一つの手段に過ぎず、使用する装置は前述した例に限られるものではない。
本願発明を使用しているか否かの一つの目安は、別途設けた熱源によって樹脂が溶解するほどの外部加熱を行わずに内部で発熱を行わせているということと、反応の進行に伴って水蒸気の放出が行われることである。発生する水蒸気の一部は、亜臨界水に変化した水が、圧力の低下若しくはエネルギーの放出によって液体に戻るのではなく気体である水蒸気に変化することにより生じる。外部から装置を見ると、急激に水蒸気が発生したように観察される。このような反応装置は、本願発明を実施している蓋然性が極めて高く、これらの特徴が本願発明を実施しているか否かの一つの目安となる。
【0041】
前述した処理装置1、処理装置100を使用した射出成形用樹脂の製造方法では、セルロースを持つ植物の一例として、飲料としての成分を抽出した後の茶の木の葉を使用することができる。
現在、清涼飲料水として、緑茶、紅茶、ウーロン茶等の茶の木の葉を原料としたお茶飲料が多く製造されている。茶の木の葉は、成分抽出後には他に用途が無く廃棄されること
になる。飲料としての成分が抽出された後の茶の木の葉は、極めて不純物が少ない状体で廃棄される。また、樹脂の生成には、セルロースと水分が有ればよく、飲料に必要な成分を取り除いた茶の木の葉は、セルロース以外の不要成分を取り除いたものであるから樹脂の生成には極めて都合がよい。さらに、飲料メーカーからは、日々大量に茶の木の葉が排出されるので、樹脂の生成の原料として安定した供給源とすることができる。このような理由から上記射出成形用樹脂の原料として、茶の木の葉は最適な原料とすることができる。
【0042】
また、前述した処理装置1、処理装置100を使用した射出成形用樹脂の製造方法では、セルロースを含有する原料として、家庭やオフィス等から廃棄されるコピーや印刷等で使用した紙を用いることができる。主に、製紙工場にて製造された漂白された白い上質紙は、もともと木等から取り出したセルロース繊維をシート状に加工したものであるから、セルロース成分の含有率は高い。そして、当該上質紙は、印刷用紙やコピー用紙として、日々家庭やオフィスから大量に排出されている。これらは、通常燃えるゴミとして廃棄されるが、本願発明では当該家庭やオフィスから大量に排出される紙を原料として焼却することなく再利用することが出来る。
特に最近では、廃棄時にシュレッダーによって細かく裁断した状体で廃棄されることが多く、このような裁断紙を利用することで、不純物の混合割合の少ないセルロース原料を得ることができる。
なお、製紙工場において製造された紙の多くは、製造時にリグニンを除去したものが多い。したがって、上記上質紙等を原料とする場合には、不足したリグニンを補うために、混合する合成樹脂や精製されたリグニンを前述した割合よりも多く混合することにより、上質紙を利用した射出成型用の合成樹脂を得ることができる。
【0043】
[ゴルフ用ティー]
以下、射出成形物の一例であるゴルフ用ティー(以下「ティー」という)について説明する。図12はティー80の外観図を示したものであり、図12(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図、(e)は背面図、(f)は底面図、(g)は斜視図、(h)は斜視図を表している。また、図13は、ティー80の要部拡大図を表している。
ティー80は、前述した処理装置1または処理装置100によって生成された合成樹脂を使用して射出成型用されたものである。当該処理装置1または処理装置100によって生成された合成樹脂は、植物を主原料としたものではあるものの、射出成形機によって成形可能な樹脂として優れた性質を有している。すなわち、型内における流動性および追従性がよく、引けが生じにくい性質を有し、細かい形状の再現性にも優れているものである。図12、13に示したティー80および後述する図14、15に示した各ティーは、当該樹脂を用いた射出成形により形成したものである。
【0044】
ティー80は、土中に差し込む軸部81と、当該軸部81の上端に設けた載置部82を射出成形によって一体的に形成した構造を有している。
軸部81は、底面視(図12(f))において十字形状を成すように、軸部81を構成する細板同士を長手方向に沿って直交させた棒状体として形成されたものである。すなわち、4枚の細長の板状体(81a、81b、81c、81d)を、軸部81の中心から放射状(一例として十字形状)に配置したものである。また、軸部81の下端は先細状に形成されている。
板状体81a、81bの肉厚W2は1〜2mmであり、長手方向に亘って等間隔に矩形の孔83が複数設けられた形状を有している。また、板状体81aと板状体81bは、軸心部を中心として対称的な形状となっており、軸心部において前記孔83を共有するようになっている。
板状体81c、81dの肉厚W2は、1〜2mmであり、長手方向に亘って等間隔に複
数の薄肉部84を設けた形状を有している。板状体81aと板状体81bは、軸心部を中心として対称的な配置となっている。
【0045】
上記のように、軸部81を肉厚1〜2mmの板状体として構成したのは、土中に差し込む時およびゴルフクラブによるボールの打撃時に容易に破壊しない強度を有し、かつ表面積を多くすることを考慮したためである。表面積が多いということは、土と混ざり合った場合に微生物との接触面積を多くすることができるということであり、樹脂の分解が効率よく行われるということである。
また、矩形の孔83および薄肉部84を設けることで、前記表面積をさらに増加させることができる他、廃棄する際に細かく砕き安いという効果を有している。本願発明に用いる射出成型用樹脂は、ある程度の弾力性はあるものの、石油由来の合成樹脂と比べた場合に比較的靭性が低く、許容範囲を超えると破断する性質を有している。したがって、前記のように軸部81に孔83および薄肉部84のような脆弱部を複数設けることにより、当該部位を中心に軸部81を細かく粉砕できるようになっている。
【0046】
前記軸81の上端には鍔のような円形板85が設けられており、当該円形板85を基部としてボールを載せる載置部82が設けられている。円形板85の肉厚は、前記軸部81を構成する各板状体の肉厚と同程度の肉厚になっている。前記軸部と同程度の所要時間で生分解させるためである。
載置部82は、前記円形板85の中央に直交するように立設された支持板86と、当該支持板86の表裏両面に設けられた複数の板状体87によって構成されている。載置部82は、見かけの外観の形状としては下部から上方にかけて直径が大きくなるように形成された漏斗形状を成しており、当該見かけ漏斗形状を肉厚程度の間隔を隔てながら整列配置した複数の板状体87によって形成したものである。すなわち、ボールを載置する載置面88が、支持板86の表裏に櫛の歯のように配置した複数の板状体87の上端面によって構成されている。当該載置面88は載置するボールの表面形状に合わせて中央を窪ませた湾曲面を有している。
また、前記支持板86および板状体87の肉厚は、前記軸部を構成する各板状体の肉厚と同程度の肉厚になっている。前記軸部81および円形板85と同程度の時間で生分解させるためである。
【0047】
前記において説明したように、ティー80は一体成型によって形成されているものの、全体として肉厚がほぼ一定の板状体を組み合わせて形成したような構造となっている。したがって、土中における生分解を考えると、ティー80は軸部および載置部を構成する主要な板状体の板厚を最大として各部位が一定の寸法以下に形成されているので、その分解もほぼ各部均等に行われ、ティー80全体が迅速に分解されるようになっている。
また、前述した通り、本願発明に用いる射出成形用樹脂は、ポリ乳酸や他の石油由来の合成樹脂と比較した場合に、比較的靭性が低く許容値以上の応力が作用すると破断しやすいという性質を有している。この破断のしやすさは、樹脂を生成する際に混合するPP等の合成樹脂の混入割合によって変化する。すなわち、合成樹脂の混入割合を多くすると靭性が高くなって破断しにくくなり、合成樹脂の混入割合を少なくまたは0にすることにより、靭性を低く破断しやすくすることができる。この混合割合の程度は、製品の構造や各部の肉厚によって適宜最適な割合に設定することが出来る。
本実施の形態におけるティーの場合には、合成樹脂の混入割合を5〜15パーセントにすることで、手で折り曲げたり、足で踏みつけたりすることによって、破断による小片化が容易であるという特徴を有しており、小片化した上で土に埋設するとさらに効率よく、分解することができるという効果を有している。
【0048】
次にティーの他の例を図14を用いて説明する。
図14はティー90の各図を示しており、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は
左側面図、(d)は右側面図、(e)は背面図、(f)は底面図、(g)は斜視図、(h)は斜視図を表している。ティー90の前記ティー80との相違点は軸部の形状であり、載置部の形状はティー80と同一となっている。
ティー90の軸部91は、細板を長手方向に沿って直交させたような断面が十字形状を成しており、側面に螺旋状の窪み92を設けた形状となっている。軸部91を構成する板状部の肉厚は、前記ティー80と同様に1〜2mmである。
【0049】
さらに、ティーの他の例を図15を用いて説明する。
図15はティー95の各図を示しており、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図、(e)は背面図、(f)は底面図、(g)は斜視図、(h)は斜視図を表している。ティー95の前記ティー80との相違点は軸部の形状であり、載置部の形状はティー80と同一となっている。
ティー95の軸部96は、細板を長手方向に沿って三叉状に交差させた放射形状を成している。軸部96を構成する板状部の肉厚は、前記ティー80と同様に1〜2mmであり、当該板状部の側面には、肉厚を部分的に薄く形成した薄肉部97が設けられたものとなっている。
【0050】
また、前述した図12〜図15に示した各ティーは、何れも2分割された金型のみによって、軸部から載置までを一度に成型することができる形状に形成されている。すなわち、前記各ティーは金型内に出没させる所謂スライド金型等を必要とせず、金型の構造が非常に簡単であり、製造コストを低くすることができる形状を有したものとなっている。載置部は、櫛形を成す形状に配置された複数の板状体によって構成されているが、金型の移動方向と平行に配置されているので、表面積を多くした複雑な形状でありながら2分割された金型のみで形成することが出来るようになっている。
また、前述したように載置部は、支持板86の両面に歯を設けたような平面視が櫛形を成す形状となっており、支持板86の表裏において、歯と歯、隙間と隙間の位置が重ならないよう歯の裏には隙間、隙間の裏には歯が配置されるようになっている。すなわち、平面視で互い違いの配置となるように歯が設けられている。当該構造によって、載置部を構成する各要素(歯)の肉厚が薄くても所定の剛性を有し、強度を保つことができるようになっている。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本願発明は、廃材を含めた天然素材を原料とした射出成形樹脂の製造、当該射出成形樹脂の性質を利用した各種成型物の生成および廃棄物処理に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本願発明に用いる処理装置の概略図であり、(a)は要部概略図、(b)はチャンバ内の概略平面図、(c)はチャンバ内の概略側面図である。
【図2】本願発明に用いる処理装置の処理中のチャンバー内の状態を表す説明図である。
【図3】本願発明に用いる処理装置の処理中のチャンバー内混合物の速度分布を説明するための説明図である。
【図4】本願発明に用いる処理装置の処理中のチャンバー内混合物の温度分布を説明するための説明図である。
【図5】水の臨界点、亜臨界領域を説明するための説明図である。
【図6】本願発明に用いる射出成形用樹脂を用いて形成した小石状成型物の写真である。
【図7】本願発明に用いる射出成形用樹脂を用いて形成したカプセル状成型物の写真である。
【図8】本願発明に用いる射出成形用樹脂を用いて形成したカプセル状成型物の写真である。
【図9】本願発明に用いる射出成形用樹脂を用いて形成したランナー付き組立模型の写真である。
【図10】本願発明に用いる射出成形用樹脂を用いて形成したブロックの図および写真である。
【図11】本願発明に用いる他の処理装置の説明図である。
【図12】本願発明に係るゴルフ用ティーの説明図である。
【図13】本願発明に係るゴルフ用ティーの要部拡大図である。
【図14】本願発明に係るゴルフ用ティーの他の例を示す説明図である。
【図15】本願発明に係るゴルフ用ティーの他の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1 処理装置
2 チャンバー
3(3a、3b)、4(4a、4b),5,6 羽根
7 軸
8 モータ
9 空間
10 制御装置
11 チャンバ内壁
13 混合物
14 圧力センサ
15 温度センサ
16 調圧弁
17 回転計
80 ティー
81 軸部
82 載置部
83 孔
84 薄肉部
85 円形板
86 支持板
87 板状体
88 載置面
90 ティー
91 軸部
92 窪み
95 ティー
96 軸部
97 薄肉部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子の多糖体として植物に含まれる天然のセルロースと当該セルロースと共に含まれているリグニンおよび所定の割合で付加した熱可塑性の合成樹脂を加圧熱水処理することにより生成した樹脂による射出成形物であって、
一定の肉厚以下に形成された細板状の軸片を長手方向に沿って複数設けた軸部と、当該軸部の一端に設けたボール載置用の凹部を形成した載置部とから構成されており、
前記載置部は、中央に設けた支持板の表裏両面に複数の板状体を間隔を隔てて一体的に設け、当該支持板と各板状体の端面によって前記ボール載置用の凹部を形成したものであることを特徴とするゴルフ用ティー。
【請求項2】
生分解性の合成樹脂により形成した射出成形物であって、
一定の肉厚以下に形成された細板状の軸片を長手方向に沿って複数設けた軸部と、当該軸部の一端に設けたボール載置用の凹部を形成した載置部とから構成されており、
前記載置部は、中央に設けた支持板の表裏両面に複数の板状体を間隔を隔てて一体的に設け、当該支持板と各板状体の端面によって前記ボール載置用の凹部を形成したものであることを特徴とするゴルフ用ティー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−110193(P2008−110193A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149766(P2007−149766)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(304006540)株式会社エムアンドエフ・テクノロジー (8)
【出願人】(500005457)株式会社シー・ピー・トムズ (19)