説明

サイクロイダル・プロペラ

【課題】 サイクロダイル・プロペラ装置において、原理的に推力発生に直接、寄与せず、無視できない空気抵抗となる回転部分の空力抵抗を極限まで減少させ、パワー効率の改善を図る。
【解決手段】
駆動源により回転駆動される駆動板と、該駆動板に駆動腕を介して連結される回転翼とを有し、駆動板に連結された制御棒により、駆動板が所定の回転角位相にあるときに同期して回転翼の迎角を制御することにより、回転翼による総合的な推力の方向を任意の方向に偏向できるようにしたサイクロダイル・プロペラ装置において、駆動腕及び制御棒を、駆動板に取り付けられた翼型のフェアリングの内部に収容することにより、駆動腕及び制御棒の回転時の空気抵抗を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクロイダル・プロペラ(CP)に関し、特に、その全推力を360°の任意の方向に偏向できるというサイクロイダル・プロペラ本来の性能を損なわず、最小限の付加重量でパワー効率を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全方位推進機としてのサイクロイダル・プロペラの瞬時にして全推力を360°の任意の方向に偏向できるという特性は、空中を航行する無人機としての空中ロボットや、有人航空機に適用するために有用な技術であるが、一方、こうした分野においても、省エネの観点や、長時間の航行を可能とするため、軽量・高効率・大出力が厳しく要求されている。
【0003】
サイクロイダル・プロペラ自体の原理は古く、1828年にその原案の推進法が案出され、その後、水上船舶に実用化された。日本においても1936年、CP装備のタグボートが建造され、高い運動性能を示した。
CPはその機構は複雑であるが、高い運動性能を得られるので、欧米では特に軍事用の艦船(高速戦艦や上陸用舟艇等)に利用され、船舶用のCPの回転翼の構造は、片持ち式が主流であり、翼根部から駆動され、迎角が制御されるようになっている。
【0004】
以下CPの原理について図1を用いて説明する。
CPは同一中心、同一半径上に配置された複数の回転翼1を有し、それらが円筒面を形作る様に点4を中心として、エンジンあるいは電動モータ等に結合された駆動腕2により回転させられる。この点4を回転駆動中心と呼ぶ。一方、CPは回転駆動している駆動腕2とは別の、各々の回転翼と制御中心5とを結ぶ制御棒3によって、各々の回転翼1の迎角を制御する機構を有している。
【0005】
CPの推力の発生のメカニズムを回転翼が4枚の場合について説明する。
図1にあるように、回転翼1の回転駆動中心を4、回転翼1の迎角制御中心を5とする。
同図(a)に示されるように、回転駆動中心4と制御中心5が一致するとき各回転翼1に迎角は生じないため、推力は発生しない。なお、ここでいう迎角とは、回転翼1が回転する円弧上において、回転翼1の接線と回転翼の翼弦となる翼の中心線との間の開き角度である。
【0006】
一方、図1(b)に示すように、回転駆動中心4と制御中心5が一致しない場合、各翼の迎角は回転円上の位置によって変化し、この場合は、上と下の回転翼が最大の迎角を取るため、図1(b)において、上向きの推力が発生する。
【0007】
CPは、回転翼の面積が大きく、回転速度が低いことから、同規模のヘリコプタのロータと比べてはるかに静粛で、同じ入力パワーでは推力が大きいという利点がある。
なお、ヘリコプタにおいては、ロータの回転面は円形であり、回転翼各部の回転速度は、回転中心からの距離で異なるのに対し、CPの回転翼の回転面は円筒面となり、回転翼のすべての部分の回転速度は同じである。
【0008】
以下に、後述する特許文献1とともに、サイクロイダル・プロペラに関する先行技術を示す特許文献2ないし5を例示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−314095号公報
【特許文献2】特開2009−51381号公報
【特許文献3】特開2004−224147号公報
【特許文献4】特公平6−79918号公報
【特許文献5】特開昭55−8965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、CPの回転翼1のサイクリック・ピッチ・コントロールは、ヘリコプタのロータと同様に複雑な機構であり、さらに回転翼1のサイクリック・ピッチ・コントロール用の制御棒3の一端は回転翼1に接続して共に回転し、駆動腕2も回転翼1とともに回転するため、制御棒3と同様に空気抵抗を生じ、この部分の空気抵抗によるパワー損失は無視できない大きさになっている。
すなわち、CPは、その機構と動作原理から理解されるように、直接、推力発生に寄与しない回転部分(揚力発生に寄与しない回転翼1、駆動腕2及び制御棒3)等の空気抵抗によってパワー損失が発生し、その主要なものは、駆動腕2と制御棒3であり、さらには回転翼1の翼端である。
【0011】
また、CPは同規模推力を発生するダクトファン(DF)推進機と比較すると、全推力方向をほぼ瞬時に任意の方向に偏向できるという利点はあるものの、前述のように機構が複雑なため、重量増を招き、その分コストが高く、パワー効率でもDFに劣るという問題があった。
【0012】
CPのパワー効率を改善するため、上記特許文献1に示されるように、駆動腕に対し、スリップリングを介して、制御棒を取り付け、軽量化を図る技術が検討されているが、大きな推力が必要な場合、駆動腕、制御棒とも必要な強度を得るため直径の大きなものを使用せざるを得ず、これらの空気抵抗が、パワー効率を悪化させてしまう。
【0013】
このため、前述のように、CPはヘリコプタ・ロータと比べるとパワー効率はよいものの、同規模のダクトファン(DF)推進機と比べるとパワー効率は低くなってしまう。また、CPはDFと異なり、全推力方向をほぼ瞬時に任意の方向に偏向できるが、そのための機構が複雑であり、その分コストも高い。
したがって、CPの軽量構造を損なわず、パワー効率を向上するためには、回転翼の空力抵抗を可能な限り減少するとともに、駆動腕と制御棒の空気抵抗を最小限にすることが必要である。
【0014】
そこで、本発明の目的は、全推力方向をほぼ瞬時に任意の方向に偏向できるというCPの利点を損なうことなく、駆動腕及び制御棒の空気抵抗、さらには回転翼の空気抵抗を最小限にして、パワー効率を抜本的に改善することにある。
すなわち、本発明の目的は、原理的に推力発生に直接、寄与せず、無視できない量の抗力を持つ回転部分の空力抵抗を極限まで減少させることにあり、さらに加えて、推力発生に直接的に寄与する主要部品である回転翼に最小重量のウィングレットを取り付け、翼端での誘導抗力の最小化である。
【0015】
より具体的には、回転翼迎角の制御のため、制御中心が制御棒の回転面内を四方に移動した場合でも駆動腕と干渉しないという条件下で、駆動腕と制御棒を可能な限り近接配置させ、翼型化した小型で最小のフェアリング(整流カバー)にコンパクトに収容することであり、さらに、これに加え、回転翼の先端に発生する誘導抵抗を最小化することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明のサイクロダイル・プロペラ装置が講じた技術的手段は次のとおりである。
(1)駆動源により回転駆動される駆動板と、該駆動板に駆動腕を介して連結される回転翼とを有し、前記駆動板に連結された制御棒により、前記駆動板が所定の回転角位相にあるときに同期して前記回転翼の迎角を制御することにより、前記回転翼による総合的な推力の方向を任意の方向に偏向できるようにしたサイクロダイル・プロペラ装置において、前記駆動腕及び前記制御棒を、前記駆動腕に取り付けられた翼型のフェアリングの内部に収容し、該駆動腕及び前記制御棒の回転時の空気抵抗を低減させた。
【0017】
(2)上記(1)のサイクロダイル・プロペラ装置において、前記駆動腕を前記駆動板の外周側であって、前記制御棒の連結位置より、回転板の回転方向から見て上流側に連結し、制御棒に近接させた。
【0018】
(3)上記(1)または(2)のサイクロダイル・プロペラ装置において、前記制御棒の両端部を2股とし、前記駆動腕と干渉しないよう、前記駆動板及び前記回転翼の両面に連結した。
【0019】
(4)上記(1)なし(3)のサイクロダイル・プロペラ装置において、前記回転翼の翼端に後退翼からなるウィングレットを設けた。
【発明の効果】
【0020】
上記(1)のサイクロダイル・プロペラ装置によれば、駆動腕と制御棒が翼型のフェアリングの内部に収容されることにより、回転時のこれらの空気抵抗を最小限にとどめることができ、サイクロダイル・プロペラ装置のパワー効率を大きく高めることができる。
【0021】
上記(2)、(3)のサイクロダイル・プロペラ装置によれば、駆動腕と制御棒との干渉を防止しつつ、両者を近接配置することが可能になり、フェアリングを最小のものとすることができ、さらにパワー効率を高めることができる。
【0022】
上記(4)のサイクロダイル・プロペラ装置によれば、回転翼の翼端にウィングレットを装着することにより、特に推力に寄与しない回転角位相において、回転翼の空気抵抗を低減し、さらにパワー効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】サイクロダイル・プロペラの原理を示す図
【図2】本発明の実施例の主要構造を示す図。
【図3】本発明の実施例で使用する二股構造の制御棒を示す図。
【図4】本発明の実施例で採用する回転翼の翼端に装着したウィングレットの形状例を示す。
【図5】本発明の実施例で採用する回転翼の翼端に装着したウィングレットの他の形状例を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
図2に本発明による実施例の主要部を示す。なお、本実施例では説明を4枚の回転翼1が、それぞれ等間隔に配置され、2対の回転翼1が、直交する同一直径上に対向配置されるCPの例を示す。
【0025】
エンジンあるいは電気モータ等で駆動される駆動板8には、各回転翼1に対応して4本の駆動腕2の一端が取り付けられ、駆動腕2の他端が、ピボット10を介して各回転翼1に連結されており、回転翼1の回転駆動中心Oは、駆動板8の中心に一致している。駆動腕2は、エンジンあるいは電気モータ等の駆動力を各回転翼1に伝達するものであることから、高い曲げ負荷にも十分に耐えるよう径の大きいパイプ状の部材で構成されている。
【0026】
また、各回転翼1に対応して4本の制御棒3が設けられ、各制御棒3の一端は、ピボット10の回転方向(図2では反時計方向)上流側のピボット11を介し、回転翼1の各対に連結されており、図2に示されるように制御中心5で交差している。
【0027】
そして、各制御棒3の他端は、駆動板8の主軸の周囲に配置された偏心リング等の機構(上記特許文献1参照)により、図2において、各回転翼1の直径上に対向対置される対が回転翼1に上向きの推力が発生するよう、上下方向に位置する位相で回転翼1の迎角が制御される。
【0028】
したがって、各回転翼1の対に対し、最も大きな推力を発生させる位相に同期させて制御棒3を制御し、回転翼1の回転駆動中心4と迎角の制御中心5を適宜偏倚することにより、360°いずれの方向にも推力を発生させることが可能になり、一方、回転翼1の回転駆動中心4と迎角の制御中心5を一致させると、図1(a)に示されるようにいずれの方向に推力が発生しないニュートラルな状態にすることができる。
【0029】
ここで、CPを軽量化するためには、駆動板8、駆動腕2、制御棒3等の機構をコンパクト化するとともに、推力発生に直接関与しない部分の寸法の最小化が必要である。
そこで、まず、回転翼1の迎角制御を行う機構を最小化するため、図3の回転翼1の中にある、駆動腕2のピボット10と制御棒3のピボット11の間の距離を最小にする。この最小化によって、駆動板8の中心に位置する制御中心5の移動範囲が最小化され、制御機構を小型軽量化することができる。なお、駆動板8の寸法は駆動腕2の根元を保持して、回転力を駆動腕2に伝えるために、十分な強度が必要であるが、小型軽量化の観点から、駆動腕2を保持するための最小の寸法とすることが必要である。
【0030】
また、図3に示されるように、各制御棒3の遠心方向端部(ピボット11側)及び求心方向端部(駆動板8側)を、各回転翼1及び駆動板8の両面に向けて二股とし、駆動板8の両側に制御中心5が配置されるようにするとともに、各制御棒3の駆動腕2の反対側側面のみ一部結合された構造とすれば、制御棒3が最も駆動腕2側に移動しても、二股状の制御棒3の内部に駆動腕2が進入することになり、駆動腕2のピボット10と制御棒3のピボット11の間の距離を最小化しても、両者の干渉を確実に防止することができる。
【0031】
なお、駆動腕2と制御棒3の干渉が特に問題となるのは、求心方向端部側、すなわち、最小寸法とした駆動板8との連結部側であることから、遠心方向端部側、すなわち回転翼1側で干渉が発生しない場合には、求心方向端部のみ二股状としてもよい。また、駆動腕2と制御棒3の干渉を防止する際、駆動腕2を二股状にすることも考えられるが、駆動腕2は、高荷重に耐え得るため大きな径を有しており、二股状にした際の重量増が無視できず、軽量化の観点で不利である。
【0032】
その上で、駆動腕2、制御棒3等の空気抵抗を減少させるため、この実施例では、駆動腕2及び制御棒3を、駆動板8の外周から直径方向に延びるフェアリング12(整流カバー)の内部に収容しこれらを覆うようにした。
すなわち、駆動腕2と制御棒3を収納するフェアリング12は、図2に示されるように、駆動板8の外周において回転翼1の前縁側にある駆動腕2に固定されて直径方向に延びており、その内部で、制御棒3が、駆動腕2とフェアリング12に対して相対運動できるようになっている。
【0033】
前述のように、駆動腕2は回転翼1を回転駆動させるので、高い曲げ負荷に耐えるために太いパイプ状にする必要があるが、制御棒3は回転翼1の遠心力の大部分を受けるので、引張荷重のみに耐えればよく、この点では細い丸棒か、平板形状でもよいことになる。
したがって、これらの2つの駆動腕2と制御棒3の1組を内包するフェアリング12は、回転の前進方向となる駆動腕を内包する部分が太い形状の前縁となり、フェアリング12の後尾部分となる細い部分に制御棒3が内包され、フェアリング断面は翼型をなし、厚翼のNACA0021(NACAはNASAの前身組織National Advisory Committee for Aeronauticsを示し、4桁・5桁・6桁の系列があり、各桁の数字が最大キャンバ位置・厚さといった翼型のパラメータを表す。)の翼型等が空気抵抗を最小化するのに効果的となる。
【0034】
駆動腕2と制御棒3の空気抵抗を低減するため、それぞれ個別に翼形化することも有効であるが、それぞれが抗力を発生する為に、両者をひとつのフェアリング12内に収容する場合と比較して、空気低減効果が減少してしまう。
そこで、本実施例のように、制御棒2と駆動腕3をまとめて一つの翼形のフェアリング12に収納した方が、抗力減少効果が高いが、これを実現するためには、すべての駆動腕2と制御棒3を同一面内において、各回転翼をそれぞれ駆動し、制御する2本の腕と棒が求心側で互いに干渉し合わないようにしなければならない。
【0035】
ここで、すべての駆動腕2は、図2に示すように、回転する駆動板8に固定されており、回転翼1を回転駆動させるものであり、遠心側の回転翼1に近い部分は回転の円周速度が高く、求心側では回転の円周速度は低い。空気抵抗による抗力の大きさは回転速度の2乗に比例する。
したがって、駆動腕2の遠心側を翼形のフェアリング12内に収納した方が、空気抵抗抗力をより効果的に減少させることができる。
【0036】
一方、駆動腕2の駆動板8側の中心部分については、制御棒3の中心部分が制御によって移動する範囲を避けて、駆動板8に固定することが必要である。このため、駆動腕2の中心部分を、駆動板8の外周側に固定することにより短くし、さらに、図2に示すように、駆動腕2の駆動板8との連結部を、回転駆動中心から回転方向に前進させた位置に偏倚させる。これにより、駆動板8の回転中心の付近には駆動腕2が存在しないから、駆動腕2と制御棒3を同一平面内に配置しても、制御棒3の制御中心はその中で移動することができ、これにより、駆動腕2と制御棒3の遠心側の部分は小さく軽量なフェアリング12内に収納可能となり、また、駆動腕2と制御棒3を近接させても干渉を効果的に避けることができる。
【0037】
ただし、この場合でも、制御棒3を含む、制御機構部の軽量化と空気抵抗を最小限にするため、駆動板8自体も可能な限り小さくし、それに合わせて、駆動腕2の取り付けを最適な位置に選定する必要がある。
【0038】
また、フェアリング12の寸法も同様に軽量化と空気抵抗の最小化を図るため、最小限の寸法とすることが必要である。ちなみにフェアリング12の翼型としては駆動腕の外径や、制御棒の相対位置を考慮する必要があり、最小寸法での抗力最小を得るにはNACA0021等の厚翼が有効である。
このように、駆動腕2と制御棒3を翼型のフェアリング12に収容することにより、本発明者の実験によれば、パワー効率を15%以上高めることができた。
【0039】
本実施例では、さらにパワー効率を向上させるため、翼型のフェアリング12に加え、各回転翼1の回転方向下流側に、図4に示されるようなウィングレット9を取り付けている。このウィングレット9はCFRPの薄板を切断、成型し、回転翼端に取付けるが、取付けに際しては、回転翼1の内部構造で、駆動腕2のピボット10及び制御棒3のピボット11に回転駆動荷重や遠心力荷重を伝えるよう、翼内ビーム(図示していない)に取り付けるのが好ましい。
【0040】
回転翼1の空気抵抗を減少させるため、回転翼1の先端に発生する誘導抵抗を低減する手段としては、回転翼1を円板翼にすることも考えられるが、軽量で中空の円板翼の製作は難度が高く経済的ではなく、また円板翼により誘導抵抗をすべて取り除くこともできない。
そこで、本実施例では、平行翼もしくはテーパ翼の翼端にウィングレット(小翼板)を装着して誘導抵抗の最小化を図ることにした。
【0041】
ウィングレット9を翼端に装備して誘導抗力を低減するのは広く知られた技術ではあるが、本実施例のCPにおいて、種々のウィングレットを使用して、その効果について実験したところ、図4に示すウィングレット形状が装着に伴う増加重量に比して、効果面で最も有利であることが判明した。
すなわち、数字はウィングレット各部の相対的な寸法比を示し、翼弦長の中心よりやや前縁よりの位置から立ち上がるヒレ状の後退式三角形で、回転翼弦長300に対し、ウィングレット長は170、ウィングレット末端の径は70である。このウィングレットを使用することにより、パワー効率を約5%向上することが確認された。
【0042】
なお、この実験で使用した回転翼1の断面形状は対称翼形のNACA0018である。この翼型よりも翼厚や翼薄になるとレイノルズ数(代表長÷動粘性係数)の値が5000前後の低速航空機に適用した場合、その速度範囲で、回転翼の推力性能が低下する傾向がある。
なお、回転翼1は対称翼を基本とするが、回転円周の曲率を持つキャンバ付きの翼型でも同様に適用可能である。
【0043】
また、良好な効果を発揮したウィングレットの他の形状例を図5に示す。この例では、回転翼弦長300に対し、ウィングレット長は185、ウィングレット末端の径は140であるが、図4の例と比較すると重量が大きくなり、また、回転翼1の端部での重量増が、回転翼への遠心力による曲げ負荷の増大につながり、翼桁(梁)強度を高める必要が生じ、さらなる重量増を招くという欠点がある。
【0044】
以上の実験結果から、最適なウィングレットの形状は図4に示すように、次の条件を満たすものが、回転翼1の空気抵抗を低減する上で最も良好な結果を示した。
(1)翼弦長の前縁から40%〜45%の位置から立ち上がるヒレ状の後退式三角形であること。
(2)翼断面の中心線からの高さは翼弦の10〜15%であり、三角形の先端は翼弦の4〜6%の長さの半径を持つ円形状になっていること。
(3)後退部分の距離は、三角形先端が鋭角の仮想点の位置が翼弦の延長上で、翼弦長の5〜8%であること。
【0045】
なお、ウィングレットの厚みは、空力と遠心力等の外力によって変形や破損しない限りは薄いほど軽量で良いが、断面形状も翼型をしていることが望ましい。この為の典型的な材質はCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)の板である。
【0046】
図5のウィングレットによっても、4〜6%の消費パワーの減少に寄与するが、前述のとおり、図4のウィングレットより重量が大きくなり、これが高速回転で、回転翼1に大きな曲げ負荷力を与え、翼桁の重量増となる。
すなわち、各回転翼1は、駆動腕2及び制御棒3で、翼スパン略中央で支持される、いわゆる片持ち梁構造であり、回転翼1自身は支持中央から翼端にかけてもっとも軽量な回転翼の構造様式であるが、翼端に設けられたウィングレットのわずかな重量増が高速回転に伴う遠心力による回転曲げ荷重の増大を招くことになる。そのため、回転翼1の構造を強化せねばならず、回転翼部自体の重量増加ととにその駆動・制御機構部の構造も重量増をきたし、パワー効率向上の面から不利である。
すなわち、ウィングレットの形状と寸法は、流体力学上の誘導抵抗減少効果と、ウィングレット付加に伴う駆動・制御機構部の重量増とのバランスで、最適なものに設計することが必要である。
【0047】
以上に詳述した本発明の実施例に基づくパワー効率向上策によれば、回転翼1の駆動腕2に装着した翼形のフェアリング12とそのフェアリング12内部に制御棒3を収納することにより、駆動腕2と制御棒3に負荷される抗力を減少させて、パワー効率を平均で15%以上高めることができる。
さらに回転翼1の翼端に装着したウィングレットによって、翼端の誘導抵抗を減少させて、パワー効率を平均で約5%は向上させることができるこが実験的に確かめられた。
また、駆動腕2及び制御棒3の構造、配置を工夫することにより、追加的な重量増加を最小限にとどめることができる。
【0048】
以上を燃料の節約に換算すると、巡航出力100馬力の原動機で駆動される航空用のサイクロイダル・プロペラの場合は、原動機を除いた推進機部分の重量はおよそ40〜50kgであり、このクラスの航空用ピストン型内燃機関の原動機の燃料消費効率は少なく見積もっても0.2kg/(馬力/時間)以上あるから、3時間の巡航での消費燃料の重量は60kg以上となり、推進機重量を上回るってしまう。
【0049】
これに対し、本発明により、消費燃料を20%程度節約できるとすると、その重量換算で燃料を12kg低減することが可能となり、パワー効率向上のために装着したフェアリングとウィングレットの重量と比較しても、燃料消費低減効果は非常に高く、3時間以上の巡航を可能にするため、多量に燃料を搭載するほど、この効果はさらに高くなる。
【0050】
以上の実施例では、4枚の回転翼を等間隔に配置するものを例示したが、回転翼は4枚に限られるものではなく、より多数の回転翼を備えたものにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上説明したように、本発明によれば、その全推力を360°の任意の方向に偏向できるというサイクロイダル・プロペラ本来の性能をなんら損なうことなく、かつ、重量増を最小限にとどめた上で、原理的に推力発生に直接寄与しない、駆動棒や制御棒、さらには、推力発生に寄与しない回転角位相にあるときの回転翼の空気抵抗を極限まで減少させることができ、サイクロイダル・プロペラのパワー効率、省エネルギー性を向上することができ、サイクロイダル・プロペラの利用拡大に大きく寄与するものである。
【符号の説明】
【0052】
1 回転翼
2 駆動腕
3 制御棒
4 回転翼の回転駆動中心
5 回転翼の迎角制御中心
8 駆動板
9 ウィングレット
10、11 ピボット
12 フェアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源により回転駆動される駆動板と、該駆動板に駆動腕を介して連結される回転翼とを有し、前記駆動板に連結された制御棒により、前記駆動板が所定の回転角位相にあるときに同期して前記回転翼の迎角を制御することにより、前記回転翼による総合的な推力の方向を任意の方向に偏向できるようにしたサイクロダイル・プロペラ装置において、
前記駆動腕及び前記制御棒を、前記駆動腕に取り付けられた翼型のフェアリングの内部に収容し、該駆動腕及び前記制御棒の回転時の空気抵抗を低減させたことを特徴とするサイクロダイル・プロペラ装置。
【請求項2】
前記駆動腕を前記駆動板の外周側であって、前記制御棒の連結位置より、回転板の回転方向から見て上流側に連結し、制御棒に近接させたことを特徴とする請求項1に記載のサイクロダイル・プロペラ装置。
【請求項3】
前記制御棒の両端部を2股とし、前記駆動腕と干渉しないよう、前記駆動板及び前記回転翼の両面に連結したことを特徴とする請求項1または2に記載のサイクロダイル・プロペラ装置。
【請求項4】
前記回転翼の翼端に後退翼からなるウィングレットを設けたことを特徴とする請求項1ないし3記載のサイクロダイル・プロペラ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−207299(P2011−207299A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75767(P2010−75767)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人科学技術振興機構「安心・安全・環境モニタ用空間ロボットの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)