説明

サンゴ礁岩盤強化型サンゴの移植法

【課題】サンゴ礁の防波堤としての機能の維持と強化を人為的に可能とするサンゴ移植法の提供。
【解決手段】サンゴ移植を用いてサンゴ礁に鉄筋コンクリート造り構造物の鉄筋の働きをする材料を埋め込みます。波浪等への抵抗性が格段に向上します。サンゴ移植によりサンゴ礁の構成物を供給します。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、図3のようにサンゴ礁岩盤に打ち付けた釘や杭等の固定具1を利用して金属線やテグス等の橋渡し線2をサンゴ礁岩盤の形状に合わせて設置します。この橋渡し線2に複数個のサンゴ3を括り付けて固定する移植法が本発明の特徴です。橋渡し線に括り付けた移植サンゴはしばらくすると橋渡し線に固着するとともにサンゴ礁岩盤への固着も始めます。
そして複数個の移植サンゴの成長による橋渡し線への固着とサンゴ礁岩盤への固着を利用して移植を行ったサンゴ礁岩盤の物理的強度を飛躍的に向上させるのが本発明の特徴です。橋渡し線は引っ張り力に対して強い材料を使用します。
【0002】
本発明の特徴として3つの事が挙げられます。第一に本発明は、橋渡し線に括り付けたサンゴが成長して橋渡し線及び岩盤に固着した場合の波浪に対する物理的な抵抗力の向上です。橋渡し線を介して隣り合ったサンゴ同士が結び付いているので波浪による物理的な力を受けた場合に移植サンゴ同士が協同して物理的な力に抵抗する事になり移植サンゴの脱落が減少します。
【0003】
第二に、移植サンゴが成長しサンゴ礁岩盤と一体化するような状態、つまりサンゴ礁化した場合にサンゴの死滅骨格である石灰岩の中に橋渡し線が残っているので、物理的な態様として鉄筋コンクリートのような状態を呈します。サンゴの死滅骨格がコンクリートの役割を受け持ちます。橋渡し線は鉄筋の役割を受け持つ状態です。サンゴの死滅骨格である石灰岩が圧縮強度に抵抗し橋渡し線が引っ張り強度に対して抵抗するいわゆる鉄筋コンクリート造り構造物のような態様となるのです。波浪等に対しての物理的な強度が格段に向上します。
【0004】
第三にサンゴの移植を効率良く行える事です。固定具を打ち込んで橋渡し線を設置してしまえば、橋渡し線にサンゴを括り付けるだけで数多くのサンゴの移植が行えます。また、大きなサイズのサンゴの移植も同様にして橋渡し線に括り付けるだけで簡単に行う事ができます。
釘や杭を打ち込んで橋渡し線を設置する作業は海中においても容易にできる作業です。慣れたダイバーなら1日で数百メートルの橋渡し線の設置ができます。その橋渡し線へサンゴを括り付けるだけで移植が行えるので広い範囲へ数多くのサンゴを移植するのに適した方法と言えます。
【背景技術】
【0005】
本発明は、まず広い範囲へ数多くのサンゴの移植を可能にする方法を提供します。そして移植に利用する橋渡し線を将来的には波浪の持つ物理エネルギーに対抗する引っ張り強度を担う部材として利用する事を特徴とします。これまでのサンゴの移植に波浪等に対するサンゴ礁の物理的な強化を目的とするものは見当たりません。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サンゴが生育するサンゴ礁は台風等の波浪から熱帯の島々を守る天然の防波堤の働きをしています。しかし近年急速にサンゴの死滅が進んでいます。サンゴが死滅するとサンゴ礁は穿孔性のゴカイやシャコガイ等により物理的に孔を穿かれたり削られたりして強度が落ちてきます。強度の落ちたサンゴ礁に台風にともなう巨大な波が押し寄せるとサンゴ礁は時として大きく破壊されてしまいます。サンゴが健全に生育しているサンゴ礁ならば生育しているサンゴの死滅部分が絶えずサンゴ礁の原料として供給されるのでサンゴ礁の強度が落ちてくるような事態にはなりません。逆にサンゴの生育が旺盛でサンゴ礁の原料供給が多い場合はサンゴ礁が大きくなるほどです。沖縄ような島々を創りグレートバリアリーフのような大きな構造物となる場合もあります。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、サンゴ礁の防波堤としての機能を強化する方法を提供するとともに広い範囲へサンゴを移植する手段をも提供します。本発明の移植法は橋渡し線へサンゴを括り付けるだけの単純なものです。括り付けたサンゴは当初アルミ線等をねじって括り付けただけの姿でたよりなく見えます。しかし移植サンゴの成長に伴ってすぐに橋渡し線への固着とサンゴ礁岩盤へ固着が始まります。橋渡し線への固着により移植サンゴ同士が連結されるので移植サンゴの波浪等による脱落が防止できます。
移植サンゴがその後、順調に大きく生長すると橋渡し線やサンゴ礁岩盤に固着している部分が光量不足等で死滅してサンゴ礁となります。サンゴ礁内部に橋渡し線が取り込まれたこのような態様は鉄筋コンクリートの物理的な態様と同様なものです。橋渡し線が引っ張り強度を受け持つ鉄筋の役割を担い、サンゴの死滅骨格がコンクリートの受け持つ圧縮強度を担います。サンゴの死滅骨格だけで出来る圧縮強度しか持たないサンゴ礁と比べて本発明により出来上がるサンゴ礁は波浪等の物理エネルギーへの抵抗力が格段に増加します。
【発明の効果】
【0008】
本発明により橋渡し線をサンゴ礁岩盤の構成物としたサンゴ礁岩盤は物理的な強度が大幅に向上します。サンゴ礁の防波堤としての機能の維持と強化が人為的に可能となるのです。サンゴが死滅して少なくなりつつある現在、本方法によるサンゴの移植によってサンゴ礁の物理的な強化を行い台風等の波浪に抵抗するサンゴ礁を創る事は重要な事だと考えられます。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
サンゴ礁は防波堤として熱帯の島々を台風などの波浪から守っている重要な役割を果たしています。しかしサンゴが死滅するにともないサンゴ礁が波浪などにより壊されるだけになってしまっています。本来なら豊富に生育するサンゴがサンゴ礁の原料の炭酸カルシウムをサンゴ礁に絶えず供給するためにサンゴ礁が維持、強化されてきたのです。
本発明は、サンゴ移植によってサンゴ礁の防波堤としての機能を維持し強化するための方法を提供するものです。鉄筋コンクリート造り構造物の物理的な強度の考え方をサンゴ礁に応用して波浪の持つ物理エネルギーにより強固に抵抗できるサンゴ礁を構築する移植法なのです。
【0010】
本発明は、サンゴ礁に複数個の杭を打ち込みその杭と杭とを連結するように任意の長さの橋渡し線を配置します。1本の橋渡し線には複数個のサンゴを括り付けて移植を行います。移植サンゴは成長するにつれて橋渡し線とサンゴ礁岩盤に固着します。移植サンゴがこの後も順調に生育すれば橋渡し線は成長に伴ってサンゴ礁の構成材としてサンゴ礁に取り込まれます。
【0011】
本発明による移植サンゴ由来の新たなサンゴ礁となる部分にはサンゴ礁岩盤内部に橋渡し線が残置される事になります。サンゴの死滅してできた炭酸カルシウムの圧縮強度は大きいのですが引っ張り強度はほとんどありません。この引っ張りに対する強度を橋渡し線で担ってやりサンゴ礁の物理的強度の維持と強化を図ろうとするのが本発明の特徴です。
【0012】
移植サンゴの移植後の波浪による脱落は場合によってはかなり多く、移植サンゴの70%以上に達する時もあるほどです。この脱落の原因は移植に水中ボンドが用いられているからです。水中ボンドは施行する箇所の基盤の状態により接着力に大きな差が生じます。移植する場所のサンゴ礁岩盤の清掃が不十分で海藻等が残っていたりすると接着力は極端に低下します。不十分な接着がなされた移植サンゴに絶え間なく波浪が襲いかかると時間の経過とともに脱落してしまうのです。しかしこれまでのイベント的なサンゴ移植では取り扱いの容易さと接着するというイメージが優先され水中ボンドが使われているのが実情なのです。
本発明では複数個のサンゴを1本の橋渡し線に括り付けて移植します。釘や杭がしっかりと打ち込まれてさえいれば橋渡し線に結んだ移植サンゴが波浪による物理エネルギーによって脱落する事はまずありません。移植直後の見栄えは決して良くはありませんが、脱落する事はないのです。
【0013】
本発明は橋渡し線を用いてサンゴの移植を行い、移植サンゴがサンゴ礁の材料となる将来において同様にサンゴ礁の材料として取り込まれる橋渡し線によりサンゴ礁岩盤の物理的な強化を図るサンゴの移植方法です。
【実施例1】
【0014】
サンゴ礁岩盤に長さ6cmのコンクリート釘を1mほどの間隔で打ち込みます。コンクリート釘には電食防止用のビニールチューブを被せておきます。この打ち込んだコンクリート釘に直径3mmのアルミ線をきつく巻きつけてサンゴ礁表面に沿って張り渡します。この張り渡した橋渡し線に直径1mmのアルミ線で10cmほどのサンゴの破片を括り付けて固定しサンゴ移植を行います。移植するサンゴ破片は一部がサンゴ礁に触れるように括り付けます。
1ヶ月ほどでサンゴの破片は成長して橋渡し線に固着し始めます。さらに成長し3ヶ月ほどすると移植サンゴ片はサンゴ礁に触れている部分からサンゴ礁に固着し始めます。
1年もすると移植サンゴはしっかりと橋渡し線とサンゴ礁に固着します。移植サンゴ同士が橋渡し線でお互い同士連結された状態となります。
さらに数年が経過するとサンゴは水面へ向かってかなり成長しています。橋渡し線を取り込んだ部分は光量不足等により死滅します。この死滅した部分はサンゴ礁となります。このサンゴ礁となる部分にはサンゴ移植に用いたアルミの橋渡し線が取り込まれたままです。この引っ張り強度を持ったサンゴ礁内部に取り込まれた橋渡し線がサンゴ礁の波浪等への物理的な力への抵抗力を高めます。
【実施例2】
サンゴ礁岩盤に長さ6cmのコンクリート釘を1mほどの間隔で打ち込みます。コンクリート釘には電食防止用のビニールチューブを被せておきます。この打ち込んだコンクリート釘に直径3mmのアルミ線をきつく巻きつけてサンゴ礁表面に沿って張り渡します。この橋渡し線の両側に約20cm離して同様に橋渡し線を設置します。平行に3本の橋渡し線が並んだ状態になります。
この真ん中の橋渡し線に1年ほど垂下増殖して15cmほどに成長した複数個の枝を持つサンゴを移植します。移植は1mmの固定用アルミ線を用いて行います。移植する枝サンゴを橋渡し線の上に置きます。橋渡し線に移植するサンゴから約5cm離して固定用アルミ線の端を巻きつけて固定します。この固定用アルミ線のもう一方の端を移植するサンゴの枝に巻きつけます。巻きつける枝の位置は橋渡し線の上の枝にします。固定した枝の対極側のサンゴ枝も同様に固定用アルミ線で橋渡し線に固定します。次に平行に設置した橋渡し線へサンゴ枝に近い位置で固定用アルミ線によりサンゴ枝を結んで固定します。反対側の平行な橋渡し線を利用して同様に移植サンゴ枝を固定します。固定用アルミ線4本によって十字型に移植サンゴが固定されたかっこうになります。
移植した場所を観光などに短期間で利用できるようにしたい時に用いる移植方法です。移植サンゴが成長すると最終的に橋渡し線のアルミ線がサンゴ礁に取り込まれるのは同様なのでサンゴ礁の物理的な強度が向上します。
【産業上の利用可能性】
【00015】
本発明は、サンゴ移植によりサンゴ礁の物理的な強化を行うものです。近年サンゴの死滅によりサンゴ礁の材料の供給が絶たれてしまいサンゴ礁の持っている防波堤としての機能の維持が難しくなっています。
本発明によるサンゴ移植によりサンゴ礁の防波堤としての機能の維持と強化を図ることができます。今後ますます地球温暖化による海面上昇が進行しサンゴ礁の防波堤としての機能が失われるでありましよう。本発明により移植サンゴの脱落が防止できサンゴ礁材料としてのサンゴ骨格の供給を増やす事が可能になると同時にサンゴ礁としての物理的な強度も強化できます。温暖化による海面上昇に追いつけるだけのサンゴ移植を本方法により行えばサンゴ礁の増大が期待できます。沈みつつある島嶼国を救う事が可能かもしれないのです。
【00016】
本発明は橋渡し線を利用してサンゴ移植を行います。釘や杭をサンゴ礁に打ち込み橋渡し線を設置するような作業は海中でも効率よく行う事ができる作業です。広範囲に橋渡し線を設置するのも容易です。本発明は広い範囲にサンゴを移植するのに適した方法といえます。
何キロ何百キロというリーフにも適用できるサンゴの移植方法です。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】移植を行うサンゴ礁岩盤の現況を示す斜視図です。
【図2】サンゴ礁岩盤にコンクリート釘を打ち込んだ斜視図です。
【図3】釘に橋渡し線を設置した斜視図です。
【図4】橋渡し線にサンゴ破片を結んだ斜視図です。
【図5】橋渡し線に移植したサンゴが橋渡し線とサンゴ礁岩盤に固着して成長した様子を示した斜視図です。
【図6】大きなサイズのサンゴを移植した斜視図です。
【符号の説明】
【0020】
1、固定具
2、橋渡し線
3、移植サンゴ破片
4、成長した移植サンゴ
4、固定用アルミ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンゴ礁岩盤に釘や杭等の複数個の固定具1を打ち込み、これら複数個の固定具をサンゴ礁岩盤上を這うように設置した橋渡し線2で連結し、橋渡し線に複数個のサンゴ3を結び着けて移植を行う事を特徴とするサンゴの移植法

【公開番号】特開2010−35543(P2010−35543A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227607(P2008−227607)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(593105689)
【Fターム(参考)】