説明

サンゴ移植方法、サンゴ移植基盤、サンゴ移植ブロック、並びにサンゴ礁造成方法

【課題】サンゴ礁の修復・再生に向け、より有効なサンゴ移植手段を提供する。
【解決手段】サンゴ石灰岩1の表面11に形成された小孔12にサンゴ断片2を固定するサンゴ移植方法、及び、サンゴ石灰岩1の表面11に形成された小孔12にサンゴ断片2が固定されたサンゴ移植基盤Aを提供する。サンゴ石灰岩(琉球石灰岩など)は炭酸カルシウムを多く含有し、かつ多孔質に富む性質を有し、サンゴの固着・増殖に適している。従って、サンゴの移植を簡易、大規模かつ高効率に行うことができ、サンゴ礁の保全・再生・移設・新規造成などに有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンゴ石灰岩(琉球石灰岩など)を用いたサンゴ移植方法及びサンゴ移植基盤、土台構造体(コンクリートブロックなど)の面上に前記サンゴ移植基盤を固定したサンゴ移植ブロック、該ブロックを用いたサンゴ礁造成方法などに関連する。
【背景技術】
【0002】
クラゲ、サンゴ、イソギンチャクなどの動物は、分類学上、刺胞動物門に属する。刺胞動物門の動物は、二胚葉動物で、「刺胞」と呼ばれる刺糸を備えた細胞内小器官を有するという共通の特徴を有する。
【0003】
現在、刺胞動物門は、6つの綱に分類されている。そのうち、サンゴは、主に、刺胞動物門花虫綱に属する。サンゴは、他の刺胞動物門の動物と比較して、炭酸カルシウムを主成分とする固い骨格を発達させるという特徴を有する。
【0004】
サンゴの個体は、他の多くの刺胞動物と同様、ポリプ(polyp)と呼ばれるイソギンチャクに似た構造をとる。サンゴのポリプは、1cm以下の大きさで、岩盤などに定着・固着するとともに、海水中の二酸化炭素やカルシウム分を取り込み、炭酸カルシウムを主成分とした外骨格をつくる。
【0005】
ポリプは、無性生殖により増殖する。各個体はそれぞれ他のポリプと接近した場所に定着・固着し、集まって群体を形成する。群体内で隣り合ったポリプ同士は、共通骨格を形成するとともに、共肉部という生きた組織で繋がっており、栄養のやり取りなども行う。
【0006】
なお、サンゴは、有性生殖も行う。多くのサンゴでは、年に一度、ポリプの口からバンドル(卵と精子のパッケージ)を産卵する。バンドルは海面近くではじけ、受精が起きる。受精卵はプラヌラ幼生となって海中を漂い、海底に着底・変態し、一個のポリプとなる。ポリプは、また無性生殖を行って群体を形成する。
【0007】
サンゴの中には、大規模な骨格を自ら形成し、サンゴ礁を形成するものがあり、造礁サンゴと呼ばれる。造礁サンゴの大部分は、花虫綱六放サンゴ亜綱イシサンゴ目に属し、約800種が現存するといわれる。また、ヒドロ虫綱ヒドロサンゴ目のアナサンゴモドキ、花虫綱六放サンゴ亜綱根生目のクダサンゴなども造礁サンゴである。
【0008】
造礁サンゴの体内には、褐虫藻という藻類が共生する。褐虫藻は、ポリプの呼吸・代謝産物などを用いて光合成などを行う。一方、褐虫藻の光合成や代謝により得られた産物の多くはサンゴに供給される。褐虫藻の光合成や代謝により得られた産物がサンゴ骨格の迅速かつ大量な形成に不可欠とされ、これによりサンゴ礁が形成される。
【0009】
近年、多くのサンゴ礁が急速に破壊され、又は、危機に瀕しており、大きな問題となっている。主な原因として、沿岸開発などによる海水汚濁、サンゴの白化、食害などが考えられている。
【0010】
例えば、沿岸開発、土砂・生活排水の流入などによる海水汚濁が、多くのサンゴに直接的な影響を与えている。また、地球温暖化などの異常気象で海水温が上昇することにより、褐虫藻のクロロフィル量が減少し、又は褐虫藻がサンゴ体内から単離し、多くのサンゴが白化している。サンゴは褐虫藻に栄養分の多くを依存しているため、白化現象が長期間続くとサンゴは死滅する。その他、オニヒトデなどの食害によるサンゴの被害も甚大である。
【0011】
それに対し、サンゴ礁の保全・再生に関心が集まっており、いくつかの試みが提案されている。
【0012】
例えば、特許文献1には、サンゴ群体から莢肉部で覆われた骨格を含む破片を採取し、水中に定置した基体の表面に固着し、ついで環境中で培養するサンゴ礁の造園方法が記載されている。特許文献2には、人工採苗によって生産された、サイコロ状の定着基盤に着生したサンゴ種苗を用いる大量移植方法及びサンゴ礁造園法が記載されている。特許文献3には、サンゴ群体が着床している岩石を海底から切断・移送するサンゴ群体の移築方法が、特許文献4には、サンゴの子株の切断面に支持体を固着し、支持体を利用して子株を馴化装置に固定するサンゴの移植方法及び馴化装置が、それぞれ記載されている。
【0013】
特許文献5には水中不分離性コンクリートを使用したサンゴの移植方法が、特許文献6には海洋構造物施設の建設区域のサンゴ礁をその基盤ごと海底から切り離してブロックとして採取するサンゴ礁の移築方法が、それぞれ記載されている。特許文献7には、サンゴ増殖用ブロックの固着面に生きたサンゴ(サンゴ固体)を接着剤により固着するとともに、サンゴを固着した複数のサンゴ増殖用ブロックを海底に積層設置することによりサンゴを増殖させるサンゴ増殖方法が記載されている。特許文献8には、シラス溶結凝灰岩のブロックに、埋め込み穴を設け、該埋め込み穴にサンゴ礁の小片を固定し、ブロックを海底に配置し固定するサンゴ礁の人工増殖方法が記載されている。特許文献9には、天然石又は人工石などからなる人工基質にサンゴ片を固定し、該サンゴ片を固定した人工基質を海底に設置した海中定着装置で海底から所定高さの海中で着脱自在に保持することによって、人工基質にサンゴを付着させて養殖するサンゴ養殖方法が記載されている。
【0014】
その他、本発明に関連のある事項として、特許文献10には沖縄県で産出された石灰岩の化学成分、鉱物組成、真比重、比表面積、細孔容積・平均細孔径などが、特許文献11には琉球石灰岩の特徴・性質などが、非特許文献1には琉球石灰岩の圧縮強度が、非特許文献2には琉球石灰岩の有効空隙率と圧縮強度が、それぞれ記載されている。
【特許文献1】特開平2−135033号公報
【特許文献2】特開平11−308939号公報
【特許文献3】特開2005−124496号公報
【特許文献4】特開2003−9713号公報
【特許文献5】特開2005−151815号公報
【特許文献6】特開2003−274794号公報
【特許文献7】特開2008−17789号公報
【特許文献8】特開2006−25722号公報
【特許文献9】特開2002−84920号公報
【特許文献10】特開昭54−60192号公報
【特許文献11】特開平11−200336号公報
【非特許文献1】琉球大学農学部学術報告第22号(1975)p269−277
【非特許文献2】琉球大学農学部学術報告第50号(2003)p131−135
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述の通り、サンゴ礁の保全・再生などに向け、種々の手段が検討されているが、現在のところ、必ずしも充分な成果が上がっているとはいえない。そこで、本発明は、より有効なサンゴ移植手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、サンゴ石灰岩の表面に形成された小孔にサンゴ断片を固定するサンゴ移植方法、及び、サンゴ石灰岩の表面に形成された小孔にサンゴ断片が固定されたサンゴ移植基盤を提供する。
【0017】
サンゴ石灰岩は太古に形成されたサンゴ礁に由来する岩石(サンゴ礁堆積物)であり、天然のサンゴが固着する岩盤と性質・属性が近似している。従って、サンゴ石灰岩にサンゴ断片を固定することにより、サンゴの固着・増殖に適した環境を提供できる。
【0018】
また、サンゴ石灰岩は炭酸カルシウム(CaCO)を多く含有する。従って、例えば、このサンゴ移植基盤を海中に置いた場合、カルシウム分が溶出し、サンゴの骨格形成を促進する。
【0019】
さらに、サンゴ石灰岩は多孔質であるため、コンクリートなどと比較して、容易に加工できる。従って、サンゴ断片を固定する際に、サンゴ石灰岩の形状を、サンゴ断片が固着・定着しやすいものに容易に加工できる。その他、サンゴ石灰岩は多孔質であり、みかけ比重(単位体積当たりの重量、以下同じ)が適度であるため、海中などでの運搬・設置などの作業が比較的容易で、かつ設置後も水流によって漂流しない。
【0020】
従って、本発明により、サンゴの移植を簡易、大規模かつ高効率に行うことができる。即ち、本発明は、サンゴ礁の保全・再生・移設・新規造成などに有効である。
【0021】
以下、本発明に関わる語句について、定義付けを行う。
【0022】
本発明において、「サンゴ石灰岩」は、造礁サンゴの化石を含む石灰岩をいう。ここで、「石灰岩」は、炭酸カルシウムを50%以上含有する堆積岩をいう。
【0023】
本発明において、「サンゴ断片」は、活性を保持するサンゴ群体から分離したものをいい、活性を有するポリプ及びその周囲の骨格を少なくとも含むものをすべて包含する。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、より高効率にサンゴを移植できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態の例を示す。なお、本発明は、これらの実施形態のみに狭く限定されない。
【0026】
<サンゴ移植基盤について>
本発明に係るサンゴ移植基盤は、サンゴ石灰岩の表面に形成された小孔にサンゴ断片が固定されたものをすべて包含する。
【0027】
図1は、本発明に係るサンゴ移植基盤の例を示す断面模式図である。
【0028】
図1のサンゴ移植基盤Aは、所定形状に加工されたサンゴ石灰岩1の表面11に小孔12が形成され、その小孔12にサンゴ断片2が差し込まれ、接着剤3で固定された構成を有する。
【0029】
サンゴ石灰岩1は、サンゴ断片2を固定する基盤材料となる部位である。上述の通り、造礁サンゴの化石を含む石灰岩であればよく、特に限定されない。
【0030】
サンゴ石灰岩1を基盤材料に用いることには、コンクリートなどの人工基盤や海底の岩盤などにサンゴを移植する場合などと比較して、以下の有利性がある。
【0031】
サンゴ石灰岩1は太古に形成されたサンゴ礁に由来する岩石(サンゴ礁堆積物)であり、天然のサンゴが固着する岩盤と性質・属性が近似している。従って、サンゴ石灰岩1は、人工基盤などと比較して、サンゴが固着・増殖しやすい基盤である。
【0032】
サンゴの骨格は主に炭酸カルシウムでできており、サンゴが骨格を形成する際、二酸化炭素(炭酸イオンC02−)とカルシウム(Ca2+)を必要とする。一方、サンゴ石灰岩1は、炭酸カルシウムの含有量が高く、かつ多孔質である。そのため、例えば、このサンゴ移植基盤Aを海中に投入した場合、サンゴ石灰岩に海水が多く浸潤し、カルシウム分が高濃度で、緩効性に、かつ永続的に溶出する。従って、基盤材料にサンゴ石灰岩1を用いることは、人工基盤などを用いる場合と比較して、サンゴの固着・増殖・造礁に有利である。
【0033】
サンゴ石灰岩1は多孔質であるため、加工しやすい。例えば、石材用ハンドドリル、サンダー、タガネなどで小孔を形成したり、杭・釘・楔・アンカーなどを打ち込んだりすることが容易である。そのため、例えば、移植するサンゴ断片2の種類・形状などに適合した小孔12を、サンゴ断片2の固定時などに容易に形成・調整したり、釘・楔・アンカーなどを打ち込んで、サンゴ移植基盤Aの移送・運搬・設置の作業効率を高めたりすることを容易に行うことができる。
【0034】
サンゴ石灰岩1は多孔質であるため、岩盤・コンクリートなどと比較してみかけ比重が低い。そのため、特に海中などでは、サンゴ移植基盤Aの移送・運搬・設置などの労力を低減できる。
【0035】
サンゴ石灰岩1は太古に形成されたサンゴ礁に由来する岩石(サンゴ礁堆積物)が地殻変動により海面上に隆起したものである。従って、例えば、このサンゴ移植基盤Aを海中に設置しても、環境負荷がほとんどない。
【0036】
サンゴ石灰岩1は多孔質であるため、固定したサンゴ断片2のほかに、有性生殖で発生し遊泳する自然のプラヌラ幼生も、このサンゴ移植基盤に着生できる。
【0037】
サンゴ石灰岩1は主に炭酸カルシウムでできており、酸性物質に溶解する性質を有する。軟体動物(貝類など)は、酸性物質を分泌し岩盤などを溶解させ、そこを棲家とする。従って、このサンゴ移植基盤は、軟体動物なども棲家として定着しやすく、生物多様性適応材料として好適である。
【0038】
サンゴ石灰岩1に含有するカルシウム分が、サンゴ以外にも、貝類、甲殻類(カニ、エビなど)などのカルシウム供給源となる。この点でも、生物多様性適応材料としての有利性がある。
【0039】
本発明に係るサンゴ石灰岩としては、炭酸カルシウムの濃度が高く、かつ多孔質で空隙を多く含むものが好適である。例えば、炭酸カルシウム含有率が70%以上のものが好適であり、90%以上のものがより好適であり、95%以上のものが最も好適である。また、水中に設置した際に水流によって漂流せず、かつ設置時などの作業性を保持する観点から、みかけ比重が2.0〜2.5のものが適度で好適である。
【0040】
サンゴ石灰岩の中で、琉球石灰岩は、本発明の基盤材料として最も好適なものの一つである。琉球石灰岩は、日本の琉球列島に分布する石灰岩である。第四紀洪積世(130〜40万年前頃)に形成されたと推定され、他の地域の石灰岩と比較して形成年代が新しいという特徴がある。従って、炭酸カルシウムの濃度が特に高く、かつ多孔質で空隙を多く含む。
【0041】
小孔12は、サンゴ石灰岩1の表面11に形成された陥凹部分で、この部位にサンゴ断片2を固定する。
【0042】
小孔12の形成手段は特に限定されない。基盤材料のサンゴ石灰岩1は多孔質で加工しやすいため、例えば、石材用ハンドドリル、サンダー、タガネなどで小孔を形成してもよい。
【0043】
小孔12の形状も特に限定されないが、例えば、移植するサンゴ断片2の種類・形状・大きさなどに適合したものを形成することが好ましい。
【0044】
小孔12の大きさは、サンゴ断片2の直径よりも若干大きく、大きな隙間が生じない程度のものが好適である。例えば、枝サンゴの断片の場合、直径5〜50mm、深さ20mm〜1,000mm程度に形成してもよい。
【0045】
サンゴ断片2は、活性を有するポリプ及びその周囲の骨格を少なくとも含んでいればよい。移植可能なサンゴであれば、樹枝状サンゴ、塊状サンゴ、葉状サンゴ、被覆盤状サンゴのいずれの断片でもよい。
【0046】
サンゴ断片2には、各種法令・条例を遵守する限り、例えば、自然に折れて海中を漂流しているサンゴの小片、漂流して岸辺などに流れ着いたサンゴの小片、自然に存在するサンゴ群体から人為的に一部分を採取したもの、養殖サンゴから一部分を採取したものなどを用いることができる。
【0047】
サンゴ石灰岩1に形成された小孔12にサンゴ断片2を固定する際、サンゴ断片2の少なくとも一部(符号21)が小孔12の側壁面13に接する状態で固定する。
【0048】
サンゴ断片2は、固定された後、サンゴ石灰岩1に触れている部分(符号21)から固着組織を出し、小孔12の開口部分を覆うように固着させる。従って、サンゴ断片2をサンゴ石灰岩1に直接触れる状態で固定することが必要である。なお、サンゴ断片2と小孔12との接触部位は、太陽光のあたる場所、即ち、小孔12の開口部近傍を含んでいることが重要である。
【0049】
接着剤3は、サンゴ断片2がサンゴ移植基盤Aに固着するまでの間、サンゴ断片2を固定するための部材である。接着剤3の種類などは特に限定されないが、サンゴ移植基盤Aを海中へ設置するため、水分を含むと接着する接着剤、例えば、水中ボンドなどを用いることができる。
【0050】
接着剤3を用いる際、サンゴ断片2とサンゴ石灰岩1との接触面(符号21及び符号13)に接着剤3が入らない状態でサンゴ断片2を固定することが重要である。例えば、接着剤3(水中ボンド)を丸めた状態で小孔12に入れ、次に、サンゴ断片2を小孔12に押し込み、サンゴ断片2の先端部分のみを接着剤3で固定することにより、サンゴ断片2とサンゴ石灰岩1との接触面に接着剤3が入らない状態でサンゴ断片2を固定することができ、サンゴ断片2の固着組織形成を促進できる。
【0051】
なお、サンゴ断片2の固定手段は、接着剤3を用いる場合に限定されない。例えば、サンゴ石灰岩1の小孔12にサンゴ断片2を差し込んだ後、その空隙部分に木片など天然部材やその他の既知の生分解性部材などを差し込むことにより、サンゴ断片2を固定してもよい。これにより、人工的な材料を用いずにサンゴ移植基盤Aを形成することができ、環境負荷を低減できる。
【0052】
例えば、オニヒトデなどによる食害を防止するために、サンゴ断片2を覆うようにサンゴ断片被覆手段(図示せず)をサンゴ移植基盤Aに設けてもよい。サンゴ断片被覆手段として、例えば、プラスチック製のネットなどを用いることができる。この基盤Aでは、基盤材料にサンゴ石灰岩1を用いており、釘などを打ち込むことができるため、容易にネットを取り付けることができる。このネットを取り付けることにより、オニヒトデなどによる食害を防止できる。
【0053】
また、目的・用途などに応じて、サンゴ石灰岩1に所定の装飾具(図示せず)を取り付けておいてもよい。例えば、杭・釘・楔などの装飾具をサンゴ石灰岩1に予め打ち込んでおく。そして、プラヌラ幼生などが着生・移植された紐状体(養殖ロープなど)やそれを保護する網状体などをその装飾具に結び付けたり引っ掛けたりして固定する。これにより、サンゴ石灰岩1に固定したサンゴ断片2とプラヌラ幼生などとの両方の移植を同時に行うことができ、移植効果・生物多様性効果を向上できる。
【0054】
装飾具の形状・材質・取付方法などは、目的などに応じて適宜定めることができ、特に限定されない。例えば、留め具、掛け具などとして機能するように、先端を鉤型・丸型などの形状にしてもよい。サンゴ石灰岩1は多孔質で加工しやすいため、例えば、金属製の杭・釘・楔などを打ち込んだりすることで簡易に装飾具を取り付けることができる。
【0055】
このサンゴ移植基盤Aはサンゴ石灰岩1を基盤材料に用いているため、海中に設置した際に、海底よりも高い位置にサンゴ断片2が固定された状態になる。これには、海底の砂に埋もれてサンゴが衰弱・死滅することを防止できるという利点がある。
【0056】
なお、図1では、サンゴ断片2は、サンゴ石灰岩1の上面に一片のみ固定されているが、本発明はこの場合のみに狭く限定されない。例えば、サンゴ石灰岩1に複数のサンゴ断片2を固定してもよいし、サンゴ石灰岩1の側面にサンゴ断片2を固定してもよい。
【0057】
図2は、塊状サンゴを固定したサンゴ移植基盤の例を示す断面模式図である。
【0058】
図2のサンゴ移植基盤A’も、図1のものと同様、所定形状に加工されたサンゴ石灰岩1の表面11に小孔12が形成され、その小孔12にサンゴ断片2(符号22、23)が差し込まれ、接着剤3で固定された構成を有する。なお、図2では、サンゴ断片2が塊状サンゴであり、骨格22の上にサンゴ群体23が形成されている。
【0059】
例えば、海底の小石などに固着した塊状サンゴが、海底の砂に覆われることなどにより衰弱し、死亡する例が多く見られる。本発明は、これらのサンゴの移設にも適用できる。
【0060】
例えば、石材用ハンドドリル、サンダー、タガネなどを用いて、移植するサンゴ断片2の形状・大きさなどに適合した小孔12を形成し、接着剤3でサンゴ断片2を固定する。
【0061】
サンゴ石灰岩1に形成された小孔12にサンゴ断片2を固定する際、サンゴ断片2の少なくとも一部(符号21)が小孔12の側壁面13に接する状態で固定する。これにより、サンゴ断片2は、サンゴ石灰岩1に触れている部分(符号21)から固着組織を出し、小孔12の開口部分を覆うように固着させる。
【0062】
図2のようにサンゴ断片2が大きい場合、例えば、固定補強手段31を用いて、固定の補強を行ってもよい。補強手段は特に限定されないが、例えば、天然ゴムの両端をそれぞれサンゴ石灰岩1の前面と後面に釘などで打ちつけて固定することにより、サンゴ断片2を固定・補強してもよい。また、サンゴ石灰岩1の前面と後面に釘を打ち付け、それらを糸などで結ぶことにより、サンゴ断片2を固定・補強してもよい。
【0063】
図3は、サンゴ移植基盤の別の例を示す外観斜視模式図である。
【0064】
図3のサンゴ移植基盤A”は、サンゴ石灰岩1の表面11にサンゴ断片2が固定されるとともに、サンゴ石灰岩1の表面11に棒状物4が楔着され、標識5(符号51、52、53)が付された構成を有する。
【0065】
棒状物4は、サンゴ石灰岩1の表面11に楔着されている。棒状物4の材質などは特に限定されないが、例えば、楔などを打ち込んで形成してもよいし、サンゴ移植基盤A”を海中などに設置する際のアンカーなどで形成してもよい。サンゴ石灰岩1は多孔質であるため、これらの棒状物を簡単に打ちつけることができる。
【0066】
この棒状物4には、所定長のスケールが付されている。これにより、例えば、海中に設置されたサンゴ移植基盤A”について、水中で、側面から写真などの画像を撮影し、その写真画像を解析することで、サンゴの成長の度合いを把握できる。従って、サンゴの成長の度合いを簡易かつ短時間で調べることができ、また、多数のサンゴ移植基盤A”について、広範囲に調べることが可能になる。
【0067】
標識5は、サンゴ石灰岩1の表面11に付される。標識5の形状・模様・色彩・材質などは特に限定されないが、一定の距離を隔てた場所、例えば、空中又は海面近くからでも充分認識できる色・柄・大きさのものが好ましい。例えば、単色のプレートや数字の入ったプレートなどを利用できる。サンゴ石灰岩1は多孔質であるため、例えば、プラスチックやビニール系のプレートの場合、そのプレートごと、釘などで簡単に打ちつけることができる。
【0068】
例えば、サンゴ石灰岩1の表面11に一又は複数の標識5を付し、その標識5を前記サンゴ断片2の固定位置から所定距離を隔てた位置に配置することにより、サンゴの被度(植物群落などで、ある種が地表面などを覆っている度合い)を簡易に判定できる。
【0069】
例えば、それぞれ、標識51を黄色、標識52を赤色、標識53を青色のプレートで構成する。サンゴ移植基盤A”の設置箇所について、空中又は海面近くから写真などの画像を撮影し、その写真画像で何色の標識まで確認できるかを解析することで、サンゴの被度を判定できる。これにより、サンゴの成長の度合いを簡易かつ短時間で調べることができ、また、多数のサンゴ移植基盤A”について、広範囲に調べることが可能になる。
【0070】
<サンゴ移植方法について>
本発明に係るサンゴ移植方法は、サンゴ石灰岩の表面に形成された小孔にサンゴ断片を固定するものをすべて包含する。
【0071】
図4は、本発明に係るサンゴ移植方法の工程の例を示す模式図である。
【0072】
図4のサンゴ移植方法では、以下の(a)〜(d)の工程より構成される。なお、本発明は、それらの各工程のいずれかを少なくとも含むものをすべて包含する。従って、目的・用途などに応じて、適宜、各工程のいずれか又はそれらの組み合わせにより実施してもよく、また、それ以外の工程が含まれていてもよい。また、本発明は(a)〜(d)の全工程を含む場合のみに狭く限定されない。なお、図4において、符号B1は海面を表す。
【0073】
(a)採取したサンゴ断片2に紫外線Xを照射し、サンゴの活性を判定する工程、
(b)サンゴ石灰岩1にサンゴ断片2を固定する工程、
(c)固定されたサンゴ断片2の水中養生を行う工程、
(d)海中にサンゴ移植基盤Aを設置する工程。
【0074】
この方法では、まず、採取したサンゴ断片2に紫外線Xを照射し、サンゴの活性の度合いを判定する(図4中、工程(a))。
【0075】
サンゴと共生する褐虫藻はクロロフィルaなどの光合成色素を有しており、それらの光合成色素は紫外線に反応する。そのため、サンゴに360Å付近(260〜360Å)の紫外線Xを照射すると、褐虫藻が多く共生したサンゴでは、その表面が黄緑色に蛍光発色する。一方、サンゴ骨格の迅速かつ大量な形成には褐虫藻が重要な役割を果たしており、褐虫藻の多く共生したサンゴは固着・増殖・骨格形成などに対する活性が高い。従って、採取などしたサンゴ断片2のうち、活性の高いものは黄緑色に蛍光発色し、活性の低いものは発色しない。
【0076】
そこで、暗黒条件下でサンゴ断片2に紫外線Xを照射することによりサンゴ断片2の活性を評価し、活性の高いサンゴ断片2をサンゴ石灰岩1に固定することにより、移植効果を向上させることができる。
【0077】
なお、サンゴ断片2に活性の高い部分と低い部分とが混在する場合は、活性の低い部分をニッパーなどの工具で取り除き、活性の高い部分のみをサンゴ石灰岩1に固定してもよい。
【0078】
紫外線照射手段6は、公知のものを利用できる。例えば、携帯可能なブラックライトなどを用いることができる。
【0079】
工程(a)を行う場所は特に限定されないが、例えば、サンゴ断片2を湿潤な状態で保持できれば、水中以外の場所でも行うことができる。これにより、サンゴ断片2の大量かつ短時間での評価・判定が可能になるため、移植効率の向上と労力の軽減を図ることができる。
【0080】
次に、サンゴ石灰岩1にサンゴ断片2を固定し、サンゴ移植基盤Aを作製する(図4中、工程(b))。
【0081】
工程(b)を行う場所は水中以外の場所も含め、特に限定されないが、例えば、大型水槽内、沿岸域の浅い海中(例えば、水深0.5〜10m)などで行うことにより、サンゴ断片2の乾燥を防ぎ、サンゴの移植効率を向上でき、かつ固定時及び固定後の基盤Aの移送時などにおける労力も軽減できる。
【0082】
サンゴ石灰岩1にサンゴ断片2を固定する際には、サンゴ断片2の少なくとも一部がサンゴ石灰岩1に形成された小孔の側壁面に接する状態で固定する。これにより、サンゴ断片2は、固定された後、サンゴ石灰岩1に触れている部分から固着組織を出し、小孔の開口部分を覆うように固着させるため、サンゴの移植効率が向上する。
【0083】
次に、一定期間、固定されたサンゴ断片2の水中養生を行う(図4中、工程(c))。
【0084】
工程(c)を行う場所は特に限定されないが、褐虫藻の光合成に必要な日射が確保され、かつ水流の穏やかな場所が好ましい。例えば、大型水槽内、沿岸域の浅い海中(例えば、水深0.5〜10m)などでこの工程を行うことができる。また、水中養生を行う期間も特に限定されないが、例えば、用いた接着剤3の固化時間、サンゴ断片2の固着の度合いなどを考慮し、適宜設定する。
【0085】
例えば、サンゴ石灰岩1にサンゴ断片2を固定する工程(工程(b))を、水中養生に適した場所で行ってもよい。これにより、工程(b)と(c)の間における移動作業を省略できるため、労力を軽減でき、かつ移動時のサンゴ断片2の脱落・損傷などを防ぐことができる。
【0086】
工程(c)で、サンゴ断片2の活着を確認する。その際、紫外線Xを照射し、サンゴの活性の度合いを判定・評価してもよい。その際には、水中ブラックライトなどを用いることができる。
【0087】
次に、活着が確認されたサンゴ移植基盤Aを海中の目的の場所へ設置する(図4中、工程(d))。
【0088】
設置箇所への移動は、船舶での吊り上げ輸送など、公知の手段を用いることができる。設置箇所では、アンカー4などを用いて、海底に固定してもよい。
【0089】
また、海中にサンゴ移植基盤Aを設置してから所定期間経過した後、実際にその場所に定着したかどうか、紫外線Xを照射し、サンゴの活性の度合いを判定・評価してもよい。その際には、水中ブラックライトなどを用いることができる。
【0090】
<サンゴ移植ブロック及びサンゴ礁造成方法>
本発明に係るサンゴ移植ブロックは、一又は複数のサンゴ移植基盤が土台構造体の面上に固定されたものを全て包含する。
【0091】
図5は、本発明に係るサンゴ移植ブロックの例を示す断面模式図である。
【0092】
図5のサンゴ移植ブロックCは、サンゴ石灰岩1の表面11に小孔12が形成され、その小孔12にサンゴ断片2が差し込まれてサンゴ移植基盤Aが形成され、そのサンゴ移植基盤Aが土台構造体7の面上に固定された構成を有する。
【0093】
サンゴ移植基盤Aを土台構造体7の面上に固定することにより、サンゴ移植基盤Aを海中に設置する際に、アンカーなどで海底に固定する必要がなくなる。従って、ダイバーの手作業などによる労力を大幅に軽減できる。
【0094】
また、このサンゴ移植ブロックCを船などで設置箇所に運び、海中に投入していくことにより、大規模なサンゴ礁造成を行うことができる。
【0095】
土台構造体7は、特に限定されないが、例えば、コンクリート、石膏、軽焼マグネシヤを主成分とする水硬性硬化物、鋼などで形成することができる。なお、本発明は、目的・用途などに応じて、他の材料・成分を含有させたものについても全て包含する。
【0096】
サンゴ移植基盤Aを土台構造体7の面上に固定する手段は、特に限定されない。例えば、土台構造体7の面上に予め杭などの固定具を形成しておき、そこにサンゴ石灰岩1を打ちつけて固定することなどにより、行うことができる。また、例えば、土台構造体7をコンクリートで形成する場合、型枠内にサンゴ石灰岩1を置いた上でセメントを流し込むことにより行うこともできる。
【実施例1】
【0097】
実施例1では、本発明に係るサンゴ移植基盤を用いて、実海域でサンゴ移植を試みた。
【0098】
鹿児島県奄美地方(徳之島)の採石場で採取された琉球石灰岩を、縦50cm×横50cm×高さ50cm程度の大きさに加工し、その上面中央部にドリルで直径3cm×深さ3cm程度の大きさの小孔を形成した。
【0099】
その小孔に、エポキシ樹脂系の水中ボンド(コニシ株式会社製)を入れ、同地方の海岸で採取した枝サンゴの断片を差し、固定した。その際、一方は、サンゴ断片の一部が小孔の開口部近傍の側壁面に接する状態で固定し、もう一方は、サンゴ断片と石灰岩とが接しない状態で固定した。
【0100】
それらのサンゴ移植基盤を水深2mの海中に設置し、サンゴの固着・増殖を観察した。基盤設置60日後におけるサンゴの増殖の度合いを、成長した長さと分岐数で評価した。
【0101】
結果を表1に示す。
【表1】

【0102】
表1に示す通り、サンゴ断片の一部が石灰岩に形成した小孔の開口部近傍の側壁面に接する状態で固定したものは、他方と比較して、サンゴの固着・増殖の度合いが顕著に高かった。
【実施例2】
【0103】
実施例2では、紫外線照射でサンゴ断片の活性の度合いを判定した後、海中でサンゴ移植を試みた。
【0104】
児島県奄美地方(徳之島)の海岸で採取した枝サンゴの断片について、携帯用ブラックライト(4W)で紫外線を照射し、黄緑色に発色したサンゴ断片と発色しなかったサンゴ断片を、それぞれ実施例1と同様の方法で琉球石灰岩に固定した。サンゴ断片は、その一部が石灰岩の小孔の開口部近傍の側壁面に接する状態で固定した。
【0105】
それらのサンゴ移植基盤を水深2mの海中に設置し、サンゴの固着・増殖を観察した。基盤設置60日後におけるサンゴの増殖の度合いを、成長した長さと分岐数で評価した。
【0106】
結果を表2に示す。
【表2】

【0107】
表2に示す通り、黄緑色に発色したサンゴ断片を固定したものはサンゴが固着・増殖したのに対し、発色しなかったサンゴ断片を固定したものはサンゴの固着・増殖を確認できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明に係るサンゴ移植基盤Aの例を示す断面模式図。
【図2】塊状サンゴを固定したサンゴ移植基盤A’の例を示す断面模式図。
【図3】サンゴ移植基盤A”の別の例を示す外観斜視模式図。
【図4】本発明に係るサンゴ移植方法の工程の例を示す模式図。
【図5】本発明に係るサンゴ移植ブロックの例を示す断面模式図。
【符号の説明】
【0109】
1 サンゴ石灰岩
12 小孔
13 小孔の即壁面
2 サンゴ断片
21 サンゴ石灰岩との接触面
3 接着剤
4 棒状物
5 標識(符号51、52、53)
6 紫外線照射手段
7 土台構造体
A サンゴ移植基盤
B 海水
C サンゴ移植ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンゴ石灰岩の表面に形成された小孔にサンゴ断片を固定するサンゴ移植方法。
【請求項2】
サンゴ断片の少なくとも一部が前記小孔の側壁面に接する状態で固定する請求項1記載のサンゴ移植方法。
【請求項3】
前記固定されたサンゴ断片の水中養生を行う工程を少なくとも含む請求項1記載のサンゴ移植方法。
【請求項4】
前記サンゴ断片に紫外線を照射し、該サンゴの活性を判定する工程を少なくとも含む請求項1記載のサンゴ移植方法。
【請求項5】
サンゴ石灰岩の表面に形成された小孔にサンゴ断片が固定されたサンゴ移植基盤。
【請求項6】
前記サンゴ断片の少なくとも一部が前記小孔の側壁面に接する状態で固定された請求項5記載のサンゴ移植基盤。
【請求項7】
前記サンゴ石灰岩の表面に棒状物が楔着され、該棒状物に所定長のスケールが付された請求項5記載のサンゴ移植基盤。
【請求項8】
前記サンゴ石灰岩の表面に一又は複数の標識が付され、該標識が前記サンゴ断片の固定位置から所定距離を隔てた位置に配置された請求項5記載のサンゴ移植基盤。
【請求項9】
請求項5記載のサンゴ移植基盤が土台構造体の面上に固定されたサンゴ移植ブロック。
【請求項10】
請求項9記載のサンゴ移植ブロックを海中に設置する工程を含むサンゴ礁造成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−125293(P2011−125293A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288497(P2009−288497)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】