説明

シャトルコック用人工羽根、バドミントン用シャトルコックおよびそれらの製造方法

【課題】飛翔特性の劣化を抑制するとともに高い耐久性を備えるシャトルコック用人工羽根、バドミントン用シャトルコックおよびこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】シャトルコック用人工羽根3は、羽部と、当該羽部に接続された軸とを備える。軸の延在方向に対して垂直な平面における断面形状は矩形状であり、軸は一軸延伸された材料を含む。このようにすれば、軸が一軸延伸された材料を含んでいるため、一軸延伸された材料の特性(弾性変形可能な歪の範囲が通常の樹脂材料より広いという特性)を利用して、当該シャトルコック用人工羽根3を用いたシャトルコック1がラケットによって打撃された場合でも、当該人工羽根3の軸は打撃による衝撃で一時的に変形した後、折れたりせずにもとの形状に復帰する。そのため、ラケットによる打撃に対する耐久性を従来の人工羽根より向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シャトルコック用人工羽根、バドミントン用シャトルコックおよびそれらの製造方法に関し、より特定的には、優れた飛翔特性および耐久性を有するシャトルコック用人工羽根、バドミントン用シャトルコックおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バドミントン用シャトルコックとして、その羽根に水鳥の羽根を用いたもの(天然シャトルコック)と、ナイロン樹脂などにより人工的に製造された羽根を用いたもの(人工シャトルコック)とが知られている。そして、天然シャトルコックは、そのような天然の羽根について一定の品質のものを入手することに手間が掛かることから、人工の羽根を用いたシャトルコックより高価である。また、近年水鳥の羽根の供給国の食糧事情の変化や、鳥インフルエンザの流行に起因する水鳥の大量処分などにより、水鳥の羽根の供給量が激減しており、天然シャトルコックはますます高価なものとなってきている。そのため、安価で安定した品質の人工の羽根を用いたシャトルコックが提案されている(たとえば、特許文献1〜特許文献3参照)。
【0003】
特許文献1では、人工シャトルコックの飛翔特性を改善するため、射出成形された軟質プラスチック材料からなる人工の羽根の軸(断面がほぼ矩形状の軸)の側面から突出するように薄肉片を配置することが開示されている。また、特許文献2では、ポリアミド樹脂等の合成樹脂で形成される人工シャトルコックの羽根の軸について、シャトルコックの飛翔時における回転力を発生させるため、当該軸の断面形状を変形した菱形状とし、当該菱形の長軸が人工の羽根の配置された円周に対して傾斜した構成が開示されている。また、特許文献3では、ナイロンやポリエチレンなどの合成樹脂によって成形され、断面が長方形状の複数の羽軸が環状に配置され、当該羽軸の根元部において円形の基板と一体に成形されるとともに、羽軸の中央部で環状の補強材によって互いに連結された人工シャトルコックの人工羽根が開示されている。また、特許文献4では、人工シャトルコックの人工の羽根について、羽根となる不織布を樹脂製の軸の内部に部分的に埋設した状態とする構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭54−136060号公報
【特許文献2】実公平2−29974号公報
【特許文献3】実公昭36−20919号公報
【特許文献4】特開2008−206970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1〜特許文献4に示した人工シャトルコックでは、やはり天然の羽根に対して人工羽根の強度が不十分であった。一方、シャトルコックの規格や要求される飛翔特性(天然シャトルコックと同等の飛翔特性)を満足するためには、人工羽根の軸を太くして強度を上げるという対応は取り難い。つまり、強度を向上させるため、単に人工羽根の軸の太さを太くするといった対応をとると、シャトルコック全体の質量が増え、結果的に人工シャトルコックの飛翔特性を天然シャトルコックと同等のものとすることが困難になっていた。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、この発明の目的は、飛翔特性の劣化を抑制するとともに高い耐久性を備えるシャトルコック用人工羽根、バドミントン用シャトルコックおよびこれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、シャトルコック用人工羽根を構成する材料について研究を進めるなかで、本発明を完成するに至った。すなわち、シャトルコック用人工羽根には、ラケットによるスマッシュ時などに大きな衝撃が加えられるため、人工羽根の軸が破損する場合が多かった。しかし、上述のように軸の強度を上げるために軸の太さを太くするという対応は採用できない。そこで、発明者は、当該衝撃を受けても変形しない高剛性の軸を目指すのではなく、ラケットによる打撃時に受ける衝撃によって軸が一時的に変形しても、またもとの形状に戻る(すなわち、当該衝撃を受けて弾性変形し、当該変形後に再びもとの形状に復帰する)ような軸の可能性を検討した。
【0008】
そして、さまざまな材料により軸を試作して検討したところ、一軸延伸された樹脂(たとえば、2倍以上の倍率(より好ましくは4倍以上の倍率)で一軸延伸されたPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂)を軸の材料として用いると、当該一軸延伸された樹脂においては弾性変形可能な歪の範囲が通常の材料より広いことから、スマッシュ時などに受ける衝撃によって軸が一時的に変形するものの、当該軸は変形後にほぼ元の形状に復帰して形状を維持できるという新たな知見を得た。このような知見に基づいて、この発明に従ったシャトルコック用人工羽根は、羽部と、当該羽部に接続された軸とを備える。軸の延在方向(長手方向)に対して垂直な平面における断面形状は矩形状であり、軸は一軸延伸された材料を含む。
【0009】
このようにすれば、軸が一軸延伸された材料を含んでいるため、当該シャトルコック用人工羽根を用いたシャトルコックがラケットによって打撃された場合でも、当該人工羽根の軸は打撃による衝撃で一時的に変形した後、折れたりせずにもとの形状に復帰する。また、このような一軸延伸された材料の特性(弾性変形可能な歪の範囲が通常の樹脂材料より広いという特性)を利用することから、軸の形状自体は断面を矩形状とし、軸の質量も天然シャトルコックの羽根に近い値に設定することができる。そのため、シャトルコック用人工羽根の質量を天然のシャトルコック用羽根とほぼ同等にしながら、ラケットによる打撃に対する耐久性を従来の人工羽根より向上させることができる。
【0010】
この発明に従ったバドミントン用シャトルコックは、半球状のベース本体と、当該ベース本体に接続された、上記シャトルコック用人工羽根とを備える。このようにすれば、飛翔特性の劣化を抑制して天然の羽根を用いた天然シャトルコックと同等の飛翔特性を備えるとともに、十分な耐久性を有する人工シャトルコック1を実現できる。
【0011】
この発明に従ったシャトルコック用人工羽根の製造方法は、軸を準備する工程と、軸に羽部を接続する工程とを備える。軸を準備する工程は、原料成形体を2倍以上の倍率で一軸延伸(好ましくは引抜延伸)することにより延伸シート材を形成する工程と、延伸シート材から軸を切り出す工程とを含む。このようにすれば、本発明に従ったシャトルコック用人工羽根3を製造することができる。なお、当該一軸延伸の倍率(延伸倍率)は4倍以上であることがより好ましい。また、軸を構成する材料としてはたとえばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバリレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート/乳酸、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレナジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレート等の熱可塑性ポリエステル系樹脂、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン単独、または2種以上の重合体などが挙げられる。なお、延伸倍率は、熱可塑性ポリエステル系樹脂の場合2倍以上10倍以下、好ましくは4倍以上8倍以下(さらに好ましくは約6倍)であることが好ましい。また、α−オレフィン単独、または2種以上の重合体の場合は、延伸倍率は15倍以上であればよい。また、熱可塑性ポリエステル系樹脂の場合には、材料の(粘弾性特性から測定された)ガラス転移温度±20℃で引抜延伸後、さらに引抜延伸温度より高い温度、好ましくは120℃〜230℃で、かつ、1.1〜3倍の倍率で一軸延伸(たとえばロール延伸)を行うのが好ましい。なお、ここでいう延伸倍率は、延伸前のシートの断面積を、延伸後のシートの断面積で除したものである。
【0012】
また、上述のように延伸シート材から軸を切り出すので、金型を用いた射出成形法などを用いて軸を形成する場合より、製造プロセスが容易で低コストである。
【0013】
この発明に従ったバドミントン用シャトルコックの製造方法は、半球状のベース本体を準備する工程と、上記シャトルコック用人工羽根の製造方法を用いてシャトルコック用人工羽根を製造する工程と、ベース本体にシャトルコック用人工羽根を接続する工程とを備える。このようにすれば、本発明に従ったバドミントン用シャトルコック1を製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、飛翔特性の劣化を抑制するとともに高い耐久性を備えるシャトルコック用人工羽根およびバドミントン用シャトルコックを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明によるシャトルコックの実施の形態を示す側面模式図である。
【図2】図1の線分II−IIにおける断面模式図である。
【図3】図1に示したシャトルコックの上面模式図である。
【図4】図1〜図3に示したシャトルコックを構成する、本発明に従ったシャトルコック用人工羽根の実施の形態を示す平面模式図である。
【図5】図4の線分V−Vにおける断面模式図である。
【図6】図4の線分VI−VIにおける断面模式図である。
【図7】図4の線分VII−VIIにおける断面模式図である。
【図8】図4に示したシャトルコック用人工羽根を構成する軸の斜視模式図である。
【図9】図8に示した軸の側面模式図である。
【図10】図8に示した軸の変形例を示す側面図である。
【図11】図1および図2に示したシャトルコックの中糸が配置された部分の構成を示す部分断面模式図である。
【図12】図4〜図7に示した人工羽根の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図13】図12に示した構成材準備工程(S10)に含まれる軸の形成工程を説明するためのフローチャートである。
【図14】図13に示した加工工程(S12)を説明するための模式図である。
【図15】図1〜図3に示したシャトルコックの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図16】本発明によるシャトルコックの実施の形態を構成する人工羽根の第1の変形例を示す断面模式図である。
【図17】図16に示した人工羽根を構成する軸を形成するために用いる積層シート材の断面模式図である。
【図18】引張試験に用いる試料を説明するための模式図である。
【図19】曲げ試験の試験方法を説明するための模式図である。
【図20】曲げ試験の試験方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0017】
図1〜図3を参照して、本発明によるシャトルコックの実施の形態を説明する。
図1〜図3を参照して、本発明に従ったシャトルコック1は、半球状のベース本体2と、ベース本体2において表面がほぼ平坦に成形された固定用表面部に接続された複数のシャトルコック用の人工羽根3と、複数の人工羽根3を互いに固定するための固定用の紐状部材14と、複数の人工羽根3の積層状態を維持するための中糸15とからなる。複数(たとえば16枚)の人工羽根3は、ベース本体2の固定用表面部において、当該固定用表面部の外周部に沿って円環状に配置されている。また、複数の人工羽根3は、紐状部材14によって互いに固定されている。複数の人工羽根3は、ベース本体2から離れるに従って、互いの間の距離が大きくなる(複数の人工羽根3によって形成される筒状体の内径がベース本体2から離れるに従って大きくなる)ように配置されている。
【0018】
ベース本体2の固定用表面部には、外周に沿って円環状に複数の挿入孔が予め形成されている。人工羽根3は、その軸7(図4参照)の根元部が挿入孔に差し込まれてベース本体2と一体化されている。このとき、図2に示すように、人工羽根3の軸7の外周における幅方向の面(図2の軸7の断面における長辺)が、ベース本体2の固定用表面の中心点12から矢印13で示される放射方向に対して交差している。また、複数の軸7について、その断面形状における外周の幅方向の面が放射方向に対して交差する方向は、すべて同じになっている。
【0019】
中糸15は、複数の人工羽根3の積層状態を維持するための固定部材として作用している。すなわち、中糸15は、後述するように複数の人工羽根3の位置関係を規定するように配置されている。
【0020】
次に、図4〜図11を参照して、本発明に従ったシャトルコック用人工羽根の実施の形態を説明する。
【0021】
図4〜図11を参照して、図1〜図3に示したシャトルコック1を構成する人工羽根3は、羽部5と、当該羽部5に接続された軸7とからなる。軸7は、羽部5から突出するように配置された羽軸部8と、羽部5のほぼ中央部において羽部5に接続された固着軸部10とからなる。羽軸部8と固着軸部10とは同一線状に延びるように配置され、1つの連続した軸7を構成している。軸7は、図5および図6に示すように、軸7の延在方向にほぼ垂直な方向における断面形状が矩形状(より具体的には長方形状)となっている。また、図5および図6に示すように、軸7の断面形状では、羽部5の相対的に大きな面積を有する主表面(図4において示される羽部5の表面、あるいは図6において示される羽部5の上部表面)に対して、当該軸7の外周における幅方向の面が交差する(たとえば垂直に交差する)ように、羽部5と軸7とは接続されている。すなわち、軸7における幅方向の面とは、軸7の表面において羽部5の主表面と交差する方向に伸びる面(互いに対向する2つの側面)を言う。また、軸7の表面において2つの上記幅方向の面を接続する他の面(あるいは、軸7において羽部5の主表面に沿った方向に伸びる2つの面)を、厚み方向の面とも呼ぶ。
【0022】
軸7は、その断面形状における外周の幅方向の面の長さW(図5参照)が、根元部(ベース本体2に接続される側の端部)から先端側に向けて徐々に小さくなっている。軸7の断面形状における外周の厚み方向の面の長さT(図5参照)は、軸7の全長にわたって一定である。また、図7や図9から分かるように、軸7は側面側(断面形状における外周の幅方向の面側)から見たときに一方に反ったような形状となっている。シャトルコック1においては、ベース本体2から離れるにしたがって円環状に配置された人工羽根3の間の距離が徐々に広くなるように(外側に軸7が広がるように)、軸7の反りの方向(軸7が反ることで形成する凸形状の突出方向)がシャトルコックの内周側に向くように、人工羽根3はベース本体2と接続されている。
【0023】
また、軸7は、たとえば、ガラス転移温度近傍で約5倍の倍率で引抜延伸後、さらに高い温度(たとえば約170℃)でかつ、約1.2倍の倍率で一軸延伸(ロール延伸)され、さらに所定温度で熱処理を行ったポリエチレンテレフタレートからなり、その延伸方向は軸7の延在する方向に沿っている。ここで、軸7の延在する方向を、以下のように規定する。すなわち、図9を参照して、軸7の断面形状における幅方向の面側から見た側面において、先端側の上端角部aと下端角部bとを結ぶ線分abの中点を点eとする。また、図9の軸7における上部表面の曲面を、軸7の根元側に延長した曲線(上部曲線)と、軸7における下部表面の曲面を、軸7の根元側に延長した曲線(下部曲線)とを考える。そして、上記線分abと平行な線分(根元側線分)を、軸7の根元側において考える。そして、当該根元側線分と上部曲線との交点を点c、下部曲線との交点を点dとする。さらに、線分cdの中央(中点)を点fとする。そして、根元側線分の位置は、上記点eと点fとの間の距離が軸7の設計長さとなるように決定される。図9では、軸7の根元側は端部に行くほど側面の高さが小さくなる楔型の形状となっており、当該楔形の先端角部が上記点fに一致している。そして、この点eと点fとを結ぶ直線を軸7の延在方向と規定する。
【0024】
そして、軸7を構成する材料の延伸方向は、上記軸7の延在方向に沿っており、好ましくは当該延伸方向は軸7の延在方向と平行になっている。また、軸7の材料の延伸方向は、当該軸7の延在方向に対して±15°以下の角度(交差角度)で交差してもよい。さらに、当該交差角度は、好ましくは10°以下、さらに好ましくは5°以下である。
【0025】
なお、軸7の設計長さ(図9の線分efの長さ)は、76mm以上79mm以下とすることができる。これは、財団法人日本バドミントン協会の競技規則により、羽根の長さは、先端から台の上まで(ベース本体の固定用表面まで)、62mmから70mmの範囲の同じ長さでなければならない、と規定されていることに起因する。たとえば、羽根の先端から台の上まで63mm以上65mmとし、軸7の根元部においてベース本体2の挿入孔に挿入される部分(埋設部)の長さを13mm以上14mm以下と考えると、上記のように軸7の設計長さは76mm以上79mm以下となる。
【0026】
また、図9に示した軸7における上部表面および下部表面の曲面の曲率半径は600mm以上とすることができ、より好ましくは800mm以上である。これは、当該上部表面や下部表面の曲率半径があまり小さいと、一軸延伸した材料において延伸により分子が配向した配向組織が上部表面や下部表面で切断されるので、軸7の強度が低下して塑性変形しやすくなるためである。なお、上部表面の曲率半径と下部表面の曲率半径とは、異なる値としてもよいが、同じ値としてもよい。
【0027】
また、軸7の側面形状としては、図9に示すように側面から見たときに反った形状以外の形状を採用してもよい。たとえば、図10に示すように、軸7の側面から見たときに、軸7が反らずにまっすぐ伸びるような形状であってもよい。この場合、点a、点b、点eについては図9に示した軸7における点a、点b、点eと同様の定義を用いることができる。また、図10の軸7における上部表面の直面を、軸7の根元側に延長した直線(上部直線)と、軸7における下部表面の直線を、軸7の根元側に延長した直線(下部直線)とを考える。そして、上記線分abと平行な線分(根元側線分)を、軸7の根元側において考える。さらに、当該根元側線分と上部直線との交点を点c、下部直線との交点を点dとする。そして、線分cdの中央(中点)を点fとする。根元側線分の位置は、上記点eと点fとの間の距離が軸7の設計長さとなるように決定される。図10でも、図9に示した軸7と同様に、軸7の根元側は端部に行くほど側面の高さが小さくなる楔型の形状となっており、当該楔形の先端角部が上記点fに一致している。そして、この点eと点fとを結ぶ直線(軸7の中心線)を軸7の延在方向と規定する。そして、このような形状の軸7についても、軸7を構成する材料の延伸方向は、上記軸7の延在方向に沿うようにすることが好ましい。
【0028】
このような一軸延伸された材料からなる軸7は、引張強度や引張弾性率などに異方性がある。すなわち、軸7の延在方向が一軸延伸された材料の延伸方向に沿っている場合には、軸7の延在方向に垂直な方向における引張強度や引張弾性率に対して、軸7の延在方向における引張強度や引張弾性率の値はたとえば3倍以上(より詳しくは、引張弾性率は3〜7倍、引張強度は5〜10倍)と極めて大きくなっている。また、軸7の材料として一軸延伸されたポリエチレンテレフタレートを用いる場合、その粘弾性特性から測定されたガラス転移温度は通常のポリエチレンテレフタレートにおけるガラス転移温度(75℃)より大幅に上がっており、約130℃程度となっている。
【0029】
なお、軸7が一軸延伸された材料から構成されているかどうかは、引張弾性率、引張強度、線膨張係数などの特性値を測定し、同じ材料であって延伸されていないもの(無延伸材料)の当該特性値と比較することで判別できる。たとえば、検査対象の軸7を構成する材料について、引張弾性率の値が、無延伸材料の引張弾性率の1.5倍以上、かつ、引張強度の値が、無延伸材料の引張強度の1.5倍以上、かつ、線膨張係数が、無延伸材料の線膨張係数の0.5倍以下、という条件を満たせば、当該軸7を構成する材料は一軸延伸された材料であって、当該軸7は本発明によるシャトルコックを構成する軸7に該当すると判断することができる。
【0030】
羽部5は、図6および図7に示すように、固着軸部10を挟むように配置された発泡体層92と軸固定層91、およびこれらの発泡体層92および軸固定層91を互いに固定するための接着層93、94とからなる。すなわち、羽部5では、発泡体層92と軸固定層91とが固着軸部10を挟むように積層されている。さらに、羽部5では、発泡体層92と軸固定層91とを互いに接続するとともに固着軸部10とこれらの発泡体層92および軸固定層91とを接続固定するため、接着層93、94が配置されている。また、異なる観点でいえば、羽部5においては、シャトルコック1を構成した場合において外周側に位置する発泡体層92上に接着層93が積層されている。この接着層93上には、当該接着層93および発泡体層92のほぼ中央部に位置するように固着軸部10が配置されている。そして、この固着軸部10上から接着層93上にまで延在するように、もう一方の接着層94が配置されている。そして、この接着層94上に軸固定層91が配置されている。
【0031】
図7からもわかるように、人工羽根3においては、発泡体層92側(すなわちシャトルコック1における外周側)に向けて、軸7が反った状態になっている。異なる観点からいえば、軸7は、軸固定層91側に凸となるように反った状態となっている。また、図7では人工羽根3が軸7の延在方向において発泡体層92側に反った状態を示しているが、軸7の延在方向に対して交差する方向(たとえば軸7の延在方向に対して垂直であって羽部5の表面に沿った方向である幅方向)において、羽部5が発泡体層92側に反った状態(つまり羽部5が軸固定層91側に凸となるように反った状態)となっていてもよい。この場合、軸7の延在方向において人工羽根3が反った状態と、上記のように羽部5が軸7の延在方向に対して交差する方向において反った状態とが同時に発生していてもよいし、いずれか一方の反りのみが発生していてもよい。このような反りは、軸7に関しては後述する製造方法からも分かるように、材料であるシート材から軸7を切り出すときに軸7が反った形状となるように切断加工(たとえばレーザ加工や打ち抜き加工)を行なうことで形成できる。また、切断加工後に熱処理を施すことで反り形状を形成してもよい。また、羽部5についても、羽部5の構成材料に対して熱処理を施す、あるいは羽部5の構成材料を最初から反った状態で形成するなど、従来周知の方法で反り形状を実現することができる。
【0032】
ここで、発泡体層92を構成する材料としては、たとえば樹脂の発泡体、より具体的にはたとえばポリエチレンフォーム(ポリエチレンの発泡体)を用いることができる。また、軸固定層91についても、同様に樹脂発泡体を用いることができる。また、軸固定層91については、たとえばポリエチレンフォーム以外に、樹脂などからなるフィルム、あるいは不織布など任意の材料を用いることができる。
【0033】
また、接着層93、94については、たとえば両面テープを用いることができる。図4〜図7に示した人工羽根3においては、発泡体層92および軸固定層91としてポリエチレンフォームを用いている。このポリエチレンフォームの押出方向は図4および図6の矢印95に示す方向となっていることが好ましい。この場合、矢印95に示すポリエチレンフォームの押出方向に対して交差するように軸7が羽部5と接続固定されているため、羽部5が軸7の延在方向に沿った方向に裂けるといった不具合の発生確率を低減できる。
【0034】
次に、図11を参照して、中糸15の配置を具体的に説明する。
図11に示すように、中糸15は、人工羽根3の軸7の周囲を周回するとともに、隣接する人工羽根3において積層した状態になっている羽部5の部分で、隣接する人工羽根3の羽部5が互いに対向する領域を通るように(すなわち積層した羽部5の間を通るように)配置されている。このように羽部5が積層した部分で、積層した羽部5の間を中糸15が通っているため、羽部5の積層順がシャトルコック1の使用中に入替わる(たとえばラケットによる打撃の衝撃によって羽部5の積層順番が入替わる)といった問題の発生を抑制することができる。
【0035】
上述した中糸15は、図1および図3に示すように、円環状に並んだ複数の人工羽根3のすべてを互いに固定するように、円周上に配置されている。そして、中糸15は、たとえば作業者が針などを用いて縫製することにより、図1および図3に示すような配置とすることができる。このようにすれば、羽部5の積層順がシャトルコック1の使用中に入替わるという問題の発生を抑制することにより、優れた耐久性を示すシャトルコック1を得ることができる。
【0036】
なお、円周上に配置された中糸15は、その縫い始めの一方端部と縫い終わりの他方端部とが結ばれて、余った糸の部分は結び目近傍でカットされて除去される。当該結び目には、接着剤などを塗布することにより表面に保護層を形成することが好ましい。このような保護層を形成することにより、シャトルコック1がラケットにより打撃されたときに、当該結び目が解けることを防止できる。
【0037】
また、中糸15は、綿や樹脂など任意の材料を用いることができるが、ポリエステル製の糸を用いることが好ましい。また、中糸15は、シャトルコック1の重心などに影響を極力与えないようにするため、できるだけ軽量なものを用いることが好ましい。たとえば、用いる糸としては、30番のポリエステル製の糸を用いてもよい。この場合、中糸15として使用した糸の質量は約0.02gとなる。この程度の質量であれば、シャトルコック1の重心位置に若干の影響はあるものの、飛翔特性にはほとんど影響がないと考えられる。また、中糸15の配置については、ベース本体2からの距離を任意に設定することができる。
【0038】
次に、図12〜図15を参照して、図1〜図3に示したシャトルコック1、シャトルコック用の人工羽根3の製造方法を説明する。
【0039】
まず、図12を参照して、本発明に従ったシャトルコック用の人工羽根3の製造方法を説明する。図12に示すように、人工羽根3の製造方法では、まず構成材準備工程(S10)を実施する。この工程(S10)では、人工羽根3を構成する軸7、図6および図7に示した発泡体層92および軸固定層91を構成するシート状材料、接着層93、94となるべき両面テープを準備する。なお、これらのシート状部材および両面テープの平面形状は、図4に示した羽部5のサイズよりも大きければ任意の形状とすることができる。発泡体層92となるべきシート状部材としては、たとえばポリエチレンフォーム(ポリエチレンの発泡体であってシート状に成形されたもの)であって厚みが1.0mm、目付けが24g/m2といった材料を用いることができる。また、軸固定層91となるべきシート状部材としては、ポリエチレンフォームであって厚みが0.5mm、目付けが20g/m2といった材料を用いることができる。また、接着層93、94となる両面テープの目付けは10g/m2とすることができる。
【0040】
また、上述した軸7の製造工程としては、図13に示すように、まず母材準備工程(S11)を実施する。この工程(S11)では、まず軸7の材料(たとえば樹脂材料)をシート状に成形した原料成形体を準備する。原料成形体を構成する材料としては、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることができるが、他の材料(たとえば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン単独または2種以上の重合体といった樹脂)を用いてもよい。また、シート状に成形した原料成形体を得る方法は、従来周知の任意の方法を用いることができる。たとえば、押出成形方法などを用いることができる。また、原料成形体の厚みは、たとえば2mm以上5mm以下とすることができる。
【0041】
次に、準備した原料成形体を、一軸延伸することで母材としての延伸シート材を形成する。一軸延伸する延伸倍率は、たとえば2倍以上、より好ましくは4倍以上とすることができる。また、一軸延伸の方法は、従来周知の任意の方法を用いることができるが、たとえば所定間隔のロール間を通過させたシートを引抜く引抜延伸方法、回転速度の異なる2対のピンチロール間に原料成形体を挟んで当該ピンチロールの回転により原料成形体に張力を加えることにより、原料成形体を一軸(2対のピンチロールを結ぶ線分の方向)に沿って引き伸ばす、といったロール延伸方法を用いることができる。また、このとき原料成形体は加熱されていてもよい。このようにして、一軸延伸された延伸シート材を得る。得られた延伸シートは、さらに所定温度で、熱処理を行った方がよりより好ましい。
【0042】
次に、加工工程(S12)を実施する。この工程(S12)では、延伸シート材から軸7を切り出す。具体的には、たとえばレーザ加工機などにより延伸シート材から軸7を切り出してもよいし、他の任意の方法を用いてもよい。この結果、人工羽根3を構成する軸7を得ることができる。
【0043】
ここで、図14に示すように、延伸シート材20から軸7を切り出す際には、軸7の上部曲線(図9参照)と下部曲線(図9参照)とが同じ曲率半径を有するようにしておくことが好ましい。このようにすれば、図14に示すように、複数の軸7を隙間無く敷き詰めた状態で延伸シート材20から切り出すことができる。この結果、延伸シート材20から無駄なく軸7を切り出すことができる。また、このとき軸7の延在方向は、図14の矢印24に示す延伸シート材の延伸方向に沿った方向とすることが好ましい。
【0044】
次に、図12に示すように、貼り合わせ工程(S20)を実施する。この工程(S20)においては、発泡体層92となるべきシート状部材の主表面上に接着層93となるべき両面テープを貼付する。そして、当該両面テープの上に軸7の固着軸部10を配置する。さらに、その上から、固着軸部10に対向する面に接着層94となるべき両面テープが貼付された軸固定層91となるべきシート状部材を積層配置して貼り合わせる。この結果、軸7の固着軸部10を、発泡体層92となるべきシート状部材と軸固定層91となるべきシート状部材とで挟んで固定した構造を得ることができる。
【0045】
次に、後処理工程(S30)を実施する。具体的には、羽部5となるべき積層配置されたシート状部材の不要部(つまり羽部5となるべき部分以外の領域)を切断除去する。この結果、図4〜図7に示したような人工羽根3を得ることができる。
【0046】
なお、ここでは図14に示すように最初から沿った状態の軸7を形成することで、図7に示すように沿った状態の人工羽根3を得ているが、他の方法を用いて人工羽根3の反りを実現してもよい。たとえば、当該人工羽根3に対して、発泡体層92側から熱を加えるなどの熱処理を行なうことにより、発泡体層92などを収縮させてもよい。この結果、図7に示したように羽部5が反った状態を実現できる。
【0047】
次に、図15を参照して図1〜図3に示したシャトルコック1の製造方法を説明する。図15に示すように、まず準備工程(S100)を実施する。この準備工程(S100)では、シャトルコック1のベース本体2(先端部材)および上述した人工羽根3など、シャトルコック1の構成部材を準備する。
【0048】
ベース本体2の製造方法は、従来公知の任意の方法を用いることができるが、たとえばベース本体2となるべき材料としてコルクなどの天然の素材を用いることができる。また、ベース本体2の材料として人工の樹脂などを用いてもよい。ベース本体2の材料として人工の樹脂を用いる場合、従来周知の任意の加工方法を用いてベース本体2を形成することができる。たとえば、まずベース本体2となる素材のブロックを準備し、切削加工により概略形状とする。このとき、先端部の半球状部分の高さを加味して加工を行なう。そして、さらに切削加工により、人工羽根3を挿入するための挿入穴を形成するといった方法を用いてもよい。また、上述した人工樹脂を用いる場合には、たとえば、アイオノマー樹脂発泡体、あるいはEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)、ポリウレタン、PVC(ポリ塩化ビニル)、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを用いることができる。また、人工羽根3の製造方法としては、上述した図12に示した製造方法を用いることができる。
【0049】
次に、組立工程(S200)を実施する。当該組立工程(S200)では、予めベース本体の固定用表面部に設けられた挿入孔に上述した複数の人工羽根3の軸7の根元を挿入固定する。さらに、当該複数の人工羽根3を互いに紐状部材により固定する。また、羽部の重なり状態を維持するための中糸15が図11に示すような配置となるよう縫製を行なう。このようにして、図1〜図3に示すシャトルコック1を製造することができる。なお、複数の人工羽根3を互いに固定する固定部材としては、上述のような紐状部材に限らず、たとえばリング状部材など任意の部材を用いてもよい。
【0050】
また、上記固定部材の材料としては、たとえば樹脂や繊維など任意の材料を用いることができる。たとえば、紐状部材としてアラミド繊維またはガラス繊維を用い、当該アラミド繊維またはガラス繊維に樹脂(たとえば熱硬化性樹脂)を含浸し、当該樹脂を硬化することでFRP化した固定部材を用いてもよい。このようにFRP化することによって、固定部材の強度や剛性を向上させることができる。また、熱硬化性樹脂としてはたとえばエポキシ樹脂やフェノール樹脂を用いることができる。このようにFRP化のために熱硬化性樹脂を用いれば、固定部材を軸7と固定するための加工において加熱工程を行なう場合などに、同時に熱硬化性樹脂により固定部材のFRP化を容易に行なうことができる。
【0051】
次に、図16および図17を参照して、本発明によるシャトルコックの実施の形態を構成する人工羽根の変形例を説明する。なお、図16は図6に対応する。
【0052】
図16に示した人工羽根は、基本的に図4〜図7に示す人工羽根3と同様の構造を備えるが、軸7の構成が異なっている。具体的には、図16に示した軸の固着軸部10は、延伸シート材からなる軸本体部32と、当該軸本体部32に固着された補助部材31とからなる。なお、固着軸部10を含む軸の全体が、軸本体部32と補助部材31という2つの層からなる積層構造を有している。補助部材31としては、軸本体部32より低密度の材料を用いることができ、たとえば発泡樹脂シートを用いることができる。発泡樹脂シートとしては、たとえばポリエチレンテレフタレートを4倍発泡させたシートを用いることができる。当該発泡樹脂シートの比重はたとえば0.35とすることができる。
【0053】
このようにすれば、延伸シート材のみによって軸7を構成する場合より、軸の質量の増加を抑制しつつ、軸の剛性を高めることができる。この結果、人工羽根3の耐久性を向上させることができる。さらに、軸7の幅(図16における矢印95に示した羽部5の幅方向に沿った幅)が広くなることから、軸7の空気抵抗も大きくなるため、シャトルコックの回転力が向上するとともに、打球感や打球音がマイルドになるといった効果も得られる。
【0054】
ここで、図16に示した構成における軸本体部32の幅としては、たとえば0.2mm以上0.5mm以下とすることができる。また、補助部材31の幅としては、たとえば0.8mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0055】
上述のような積層構造の軸7を備える人工羽根3の製造方法は、基本的に図12および図13に示した製造方法と同様であるが、図13に示した母材準備工程(S11)が一部異なる。すなわち、一軸延伸した延伸シート材20を得た後、当該延伸シート材20の表面に図17に示すように補助部材21を固定する。このように補助部材21が延伸シート材20の表面に積層された積層体である積層シート材22から、加工工程(S12)において軸7を切り出すことにより、図16に示した断面形状の軸を得ることができる。そして、当該軸を用いて、図12および図15に示した製造方法により、本発明による人工羽根3の変形例および当該人工羽根3を用いたシャトルコックを得ることができる。
【0056】
なお、補助部材31と軸本体部32との積層構造としては、図16に示したような構成に限られず、2つの軸本体部32により補助部材31を挟み込んだ多層構造(3層構造)や、逆に2つの補助部材31により軸本体部32を挟み込んだ多層構造を採用してもよい。さらに、2つ以上の複数の補助部材31と2つ以上の複数の軸本体部32とを積層して軸7を構成してもよい。
【0057】
上述した実施の形態と一部重複する部分もあるが、本願発明の特徴的な構成を以下に列挙する。
【0058】
この発明に従ったシャトルコック用人工羽根3は、羽部5と、当該羽部5に接続された軸7とを備える。軸7の延在方向に対して垂直な平面における断面形状は図5に示すように矩形状であり、軸7は一軸延伸された材料を含む。
【0059】
このようにすれば、軸7が一軸延伸された材料を含んでいるため、当該シャトルコック用人工羽根3を用いたシャトルコック1がラケットによって打撃された場合でも、当該人工羽根3の軸7は打撃による衝撃で一時的に変形した後、折れたりせずにもとの形状に復帰する。また、このような一軸延伸された材料の特性(弾性変形可能な歪の範囲が通常の樹脂材料より広いという特性)を利用することから、軸7の形状自体は断面を矩形状とし、軸7の質量も天然シャトルコックの羽根に近い値に設定することができる。そのため、シャトルコック用人工羽根3の質量を天然のシャトルコック用羽根とほぼ同等にしながら、ラケットによる打撃に対する耐久性を従来の人工羽根より向上させることができる。
【0060】
上記シャトルコック用人工羽根3において、軸7の延在方向(図9や図10における線分efに沿った方向)は、一軸延伸された材料の延伸方向(図14の矢印24により示される方向)に沿った方向であってもよい。この場合、軸7の延在方向が当該材料の延伸方向に沿っていると、軸7の曲げに対する耐久性を確実に向上させることができる。特に、軸7の延在方向と材料の延伸方向とが平行になっていると、軸7の耐久性を最も高くすることができる。
【0061】
なお、ここで軸7の延在方向が延伸方向に沿った方向であるとは、軸7の延在方向と延伸方向との交差角度が15°以下であることを意味する。さらに、軸7の延在方向と延伸方向との交差角度は10°以下がより好ましく、当該交差角度は5°以下であることがさらに好ましい。
【0062】
上記シャトルコック用人工羽根3では、軸7における羽部5と接続された部分と反対側の端部(根元部)において、軸7の断面形状は図5に示すような長方形状であってもよく、軸7の表面のうち、羽部5において相対的に大きな面積を有する面(図4において示される羽部5の面)である主表面に対して交差する方向に伸びる面である幅方向の面が、当該長方形状における長辺を構成してもよい。ここで、羽部5における主表面とは、当該シャトルコック用人工羽根3を用いたシャトルコック1において外周側(または内周側)に向く羽部5の表面である、と規定することもできる。
【0063】
この場合、当該シャトルコック1がラケットによる打撃時に外周側から受ける衝撃は、軸7の断面における厚み方向の面側(すなわち軸7の上記断面形状(長方形状)の短辺側)から当該軸に加えられることになる。つまり、軸7には当該軸7の断面形状の幅方向の面(たとえば軸7の根元部近傍における長辺)に沿った方向に当該衝撃が加えられることになるので、軸7の断面形状の厚み方向の面(長方形状の短辺)に沿った方向から衝撃が加えられる場合より軸7の耐えられる衝撃値を大きくできる。この結果、耐久性に優れたシャトルコック用人工羽根3(および当該シャトルコック用人工羽根3を用いたシャトルコック1)を実現できる。
【0064】
この発明に従ったバドミントン用シャトルコック1は、半球状のベース本体2と、当該ベース本体2に接続された、上記シャトルコック用人工羽根3とを備える。このようにすれば、飛翔特性の劣化を抑制して天然の羽根を用いた天然シャトルコックと同等の飛翔特性を備えるとともに、十分な耐久性を有する人工シャトルコック1を実現できる。
【0065】
上記バドミントン用シャトルコック1において、シャトルコック用人工羽根3の軸7における羽部5と接続された部分と反対側の端部(根元部)において、軸7の断面形状は図5に示すような長方形状であってもよく、軸7の表面のうち、羽部5において相対的に大きな面積を有する面である主表面に対して交差する方向に伸びる面である幅方向の面が、長方形状における長辺を構成してもよい。また、ベース本体2においてシャトルコック用人工羽根3が接続された面における、当該面の中心点12から外側へ向かう放射方向(図2の矢印13により示される方向)に、軸7の幅方向の面が沿うように、ベース本体2とシャトルコック用人工羽根3とが接続されていてもよい。なお、放射方向に軸7の幅方向の面が沿うとは、幅方向の面の延びる方向が、当該放射方向と平行な場合、および幅方向の面の伸びる方向と放射方向とがある程度の交差角度で交わる場合の両方を含む。また、ここで幅方向の面の伸びる方向と放射方向との交差角度はたとえば45°以下、より好ましくは30°以下とすることができる。
【0066】
この場合、シャトルコック1の外周側からラケットによる打撃に起因する衝撃を人工羽根3が受けたときに、軸7の断面形状における幅方向の面に添った方向から軸7が当該衝撃を受けることになる。そのため、軸7の断面形状における厚み方向の面に沿った方向から当該衝撃を受ける場合より、相対的に強い衝撃にまで軸7は耐えることができる。このため、シャトルコック1の耐久性を確実に向上させることができる。
【0067】
たとえば、当該放射方向に対して、軸7の断面形状における幅方向の面が平行になるようにベース本体2とシャトルコック用人工羽根3とが接続されていてもよい。この場合、軸7の断面形状における幅方向の面と平行な方向から、軸7がラケットによる打撃に起因する衝撃を受ける確率を高くできるので、シャトルコック用人工羽根3が耐えられる衝撃の大きさを最も大きくできる。
【0068】
上記バドミントン用シャトルコック1において、放射方向に対して、軸7の幅方向の面が交差するように、ベース本体2とシャトルコック用人工羽根3とが接続されていてもよい。この場合、軸7の外周における幅方向の面が放射方向に対して傾斜した状態となることから、シャトルコックの飛翔時における回転を安定させるような風の流れを、軸7の周囲に形成することができる。なお、複数の人工羽根3の軸7について、当該放射方向に対する交差方向が同じ方向になっていることが好ましい。
【0069】
この発明に従ったシャトルコック用人工羽根3の製造方法は、軸7を準備する工程(構成材準備工程(S10))と、軸7に羽部を接続する工程(貼り合わせ工程(S20))とを備える。軸を準備する工程(S10)は、原料成形体を10倍以上の倍率で一軸延伸することにより延伸シート材20を形成する工程(母材準備工程(S11))と、延伸シート材20から軸7を切り出す工程(加工工程(S12))とを含む。このようにすれば、本発明に従ったシャトルコック用人工羽根3を製造することができる。なお、当該一軸延伸の倍率は2倍以上であることがより好ましい。また、軸を構成する材料としては、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)などの熱可塑性ポリエステル系樹脂やエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン単独または2種以上の重合体といった樹脂を用いることができる。
【0070】
また、上述のように延伸シート材から軸を切り出すので、金型を用いた射出成形法などを用いて軸を形成する場合より、製造プロセスが容易で低コストである。
【0071】
この発明に従ったバドミントン用シャトルコックの製造方法は、半球状のベース本体を準備する工程(準備工程(S100))と、上記シャトルコック用人工羽根の製造方法を用いてシャトルコック用人工羽根を製造する工程(準備工程(S100))と、ベース本体にシャトルコック用人工羽根を接続する工程(組立工程(S200))とを備える。このようにすれば、本発明に従ったバドミントン用シャトルコック1を製造することができる。
【0072】
次に、本発明によるシャトルコック用人工羽根およびシャトルコックの効果を確認するため、以下のような実験を行なった。
【0073】
(実験1)
まず、延伸シート材の延伸方向と軸7の延在方向との交差角度と、軸の強度とに関してどのような関係があるのかを以下のように調査した。具体的には、延伸シート材から、延伸方向に対して所定の交差角度を有する方向に延びる試料を切り出し、各試料の機械的特性(具体的には引張弾性率、最大応力、最大歪)を測定した。
【0074】
(準備した試料)
延伸シート材として、積水化学工業株式会社製のPET超延伸シート(商品名:DUORA(登録商標))を準備した。当該超延伸シートの厚みは700μmであった。この延伸シート材から、図18に示すように矢印24で示す延伸シート材の延伸方向に対する交差角度θとなる中心軸42を有する試料41を切り出した。試料の平面サイズは縦を175mm、横を10mmとした。そして、交差角度θとしては0°、15°、30°、45°の4水準とし、各交差角度毎に試料を5つ準備した。
【0075】
(実験内容)
試験機としては島津オートグラフAG−10TBを用いて引張試験を行い、各試料について引張弾性率、最大応力、最大歪を測定した。なお、測定雰囲気は温度23℃、湿度50%とした。また、測定スピードは10mm/min、試料を固定するチャック間の距離は115mmとした。
【0076】
(結果)
引張弾性率については、交差角度θの各水準に関して5つの試料の平均値を比較すると、交差角度θが0°、15°、30°、45°の各水準において引張弾性率は9.0GPa、7.0GPa、4.3GPa、3.2GPaとなった。また、最大応力についても、同様に交差角度θが0°、15°、30°、45°の各水準において最大応力は402MPa、189MPa、112MPa、88MPaとなった。さらに、最大歪についても、同様に交差角度θが0°、15°、30°、45°の各水準において最大歪は16.6%、9.9%、7.1%、5.8%となった。
【0077】
このように、交差角度θが小さいほど、引張弾性率、最大応力および最大歪のいずれについても大きな値をしめすことがわかる。
【0078】
(実験2)
延伸シート材の延伸方向と曲げ弾性率との関係を以下のように調査した。
【0079】
(準備した試料)
延伸シート材として、上記実験1と同様の厚み700μmであるPET超延伸シートを準備した。当該延伸シートから、長方形状の平面形状を有する試料を2種類作成した。具体的には、長方形状の支点間方向が延伸シートの延伸方向に沿った方向である試料(試料A)と、長方形状の支点間方向が延伸シートの延伸方向に対して垂直な方向である試料(試料B)という2種類である。試料Aおよび試料Bとも、それぞれ5つの試料を作成した。なお、各試料の平面形状のサイズについて、支点間方向長さを20mm、短辺長さを25mmとした。
【0080】
(実験内容)
試験機としては実験1と同様に島津オートグラフAG−10TBを用い、曲げ試験を行なった。そして、当該試験により曲げ弾性率を測定した。曲げ試験を説明するための模式図を図19および図20に示す。なお、測定雰囲気は温度23℃、湿度50%とした。また、測定スピードは1mm/min、試料を支持する支持部材52間の距離は16mmとした。
【0081】
図19に示すように、試料Aを試験片51として、当該試験片51を2つの支持部材52により支え、当該試験片51の上面から押圧部材53によって試験片51を曲げる加工を行なった。この場合、試料Aは延伸方向に対して直交する方向において曲げ加工を受けることになる。また、試料Bについても、図20に示すように、図19に示した試料Aに対する試験と同様の条件で曲げ試験を行なった。この場合、試料Bは延伸方向に沿った方向において曲げ加工を受けることになる。
【0082】
(結果)
試料Aについての曲げ弾性率は、5つの試料の平均値として13.8GPaとなった。一方、試料Bについての曲げ弾性率は、5つの試料の平均値として3.3GPaとなった。このように、延伸方向に対して直交する方向に曲げた場合の方が、延伸方向に沿って曲げる場合より曲げ弾性率が大きくなっていることがわかる。
【0083】
(実験3)
延伸シート材の延伸方向に対する軸の延在方向の交差角度が異なる軸を用いたシャトルコックを複数種類作製し、実打試験を行うことで耐久性を調査した。
【0084】
(準備した試料)
実験1で用いた延伸シート材を用いて、軸の延在方向との交差角度が異なる複数種類の軸を作製した。具体的には、当該交差角度として0°、5°、10°、15°、30°という5水準の軸を作製した。なお、軸の傾斜の影響を正確に測定するため、羽根軸は図10に示すストレート形状とし、軸の先端側の幅(幅方向の面の長さW:すなわち図10のab間の距離)を0.64mm、手元側の幅(図10のcd間)を2.25mmとした。また、軸の断面における厚み方向の面の長さTは0.7mmとした。
【0085】
また、人工羽根3の羽部5を構成する軸固定層91の材質はポリエチレンフォームを用い、厚みを0.5mm、目付け量を20g/m2とした。また、発泡体層92の材質はポリエチレンフォームを用い、厚みを1.0mm、目付け量を24g/m2とした。また、接着層93、94としては両面テープを用いた。両面テープの特性としては、厚さ10μm、目付け10g/m2といったものを用いた。そして、このような人工羽根を用いて、図1〜図3に示した構成のシャトルコックを準備した。なお、上述した交差角度の水準毎に、5つのシャトルコックを準備した。
【0086】
(実験内容)
準備したシャトルコックを用いて、ハイクリアおよびスマッシュを行なう実打試験を行なった。なお、クリアとは、バドミントンコートの中央〜後方より、相手方のコートの後方にシャトルコックを大きく打ち出すフライト全般を言う。そして、ハイクリアとは、上記クリアのうちシャトルコックを高く打ち出して相手をコート後方へ移動させるものを言う。ここで、クリアにはドリブンクリアと呼ばれるものもあり、当該ドリブンクリアとはシャトルコックを相対的に低く打ち出し、相手の頭上を抜くことを意図した攻撃的なクリアのことを言う。また、上記スマッシュとは、オーバーヘッドストロークから、相手コートに対してシャトルコックを鋭角に打ち出すフライトを言い、最も攻撃的なフライトである。
【0087】
(結果)
上述のような実打試験の結果、交差角度が0°、5°の軸を用いたシャトルコックでは、人工羽根の折損は発生しなかった。また、交差角度が10°の軸を用いたシャトルコックでは、少数の人工羽根において、人工羽根の先端部(軸が細くなっている部分)が折損した。また、交差角度が15°の軸を用いたシャトルコックでは、少数の人工羽根が折損した。しかし、交差角度が30°の軸を用いたシャトルコックでは、すべてのシャトルコックにおいて人工羽根の軸が折損していた。
【0088】
また、交差角度が0°、5°の軸を用いたシャトルコックでは、その飛翔特性も比較的天然シャトルコックに近くなっていた。
【0089】
この結果、シャトルコックの耐久性という面からは、上記交差角度は15°以下が好ましく、交差角度を10°以下とすることがより好ましいことがわかった。また、良好な飛翔特性と耐久性との両立という観点からは、交差角度を5°以下にすることが好ましい。
【0090】
今回開示された実施の形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、飛翔特性の劣化を抑制しつつ高い耐久性を有する、人工羽根を用いたバドミントン用シャトルコックに有利に適用される。
【符号の説明】
【0092】
1 シャトルコック、2 ベース本体、3 人工羽根、5 羽部、7 軸、8 羽軸部、10 固着軸部、12 中心点、13,24,95 矢印、14 固定用紐部材、15 中糸、17 軸先端部、18 軸ベース側端部、20 延伸シート材、21 補助部材、22 積層シート材、31 補助部材、32 軸本体部、41,51 試験片、42 中心軸、52 支持部材、53 押圧部材、91 軸固定層、92 発泡体層、93,94 接着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽部と、
前記羽部に接続された軸とを備え、
前記軸の延在方向に対して垂直な平面における断面形状は矩形状であり、
前記軸は一軸延伸された材料を含む、シャトルコック用人工羽根。
【請求項2】
前記軸の前記延在方向は、前記一軸延伸された材料の延伸方向に沿った方向である、請求項1に記載のシャトルコック用人工羽根。
【請求項3】
前記軸における前記羽部と接続された部分と反対側の端部において、前記軸の前記断面形状は長方形状であり、
前記軸の表面のうち、前記羽部において相対的に大きな面積を有する面である主表面に対して交差する方向に伸びる面である幅方向の面が、前記長方形状における長辺を構成する、請求項1または2に記載のシャトルコック用人工羽根。
【請求項4】
半球状のベース本体と、
前記ベース本体に接続された、請求項1に記載のシャトルコック用人工羽根とを備える、バドミントン用シャトルコック。
【請求項5】
前記シャトルコック用人工羽根の前記軸における前記羽部と接続された部分と反対側の端部において、前記軸の前記断面形状は長方形状であり、
前記軸の表面のうち、前記羽部において相対的に大きな面積を有する面である主表面に対して交差する方向に伸びる面である幅方向の面が、前記長方形状における長辺を構成し、
前記ベース本体において前記シャトルコック用人工羽根が接続された面における、前記面の中心から外側へ向かう放射方向に、前記軸の前記幅方向の面が沿うように、前記ベース本体と前記シャトルコック用人工羽根とが接続されている、請求項4に記載のバドミントン用シャトルコック。
【請求項6】
前記放射方向に対して、前記軸の前記幅方向の面が交差するように、前記ベース本体と前記シャトルコック用人工羽根とが接続されている、請求項5に記載のバドミントン用シャトルコック。
【請求項7】
軸を準備する工程と、
前記軸に羽部を接続する工程とを備え、
前記軸を準備する工程は、
原料成形体を2倍以上の倍率で一軸延伸することにより延伸シート材を形成する工程と、
前記延伸シート材から前記軸を切り出す工程とを含む、シャトルコック用人工羽根の製造方法。
【請求項8】
半球状のベース本体を準備する工程と、
請求項7に記載のシャトルコック用人工羽根の製造方法を用いてシャトルコック用人工羽根を製造する工程と、
前記ベース本体に前記シャトルコック用人工羽根を接続する工程とを備える、バドミントン用シャトルコックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−205842(P2012−205842A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75398(P2011−75398)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)