説明

シャフト用治具

【課題】簡素な構成で、固定方向を複数有し精度の高い固定を可能とする汎用性に富むシャフト用治具を提供すること。
【解決手段】ミリオーダ径のシャフトを挟持する左右対称の二つ割りの治具5であって、間隔が狭まることにより対向面上部に形成される溝であってシャフトを水平に載置して軸に沿って挟持する水平挟持用溝Mparaと、対向面Cの中央に鉛直方向に形成された鉛直挟持用溝孔Mvertと、を有し、水平挟持用溝Mparaは、上方にいくにつれ幅広となるV字凹条であって、軸方向に水平に延伸する斜面と鉛直面とが交互に連結した多段構造であり、鉛直挟持用溝孔Mvertは、対向面それぞれに鉛直方向に形成されたV字溝が向かい合うことにより形成される平面視において略菱形である孔であって、V字溝が、V字の両辺が僅かに凸曲線でありそのまま鉛直方向に延伸した曲面により構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフト用治具に関し、特に、ミリオーダ径のシャフトを複数方向に正確に固定可能な治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、丸棒を基調とするシャフトを固定する道具として、一般的な固定用具である万力(バイス)が使用されている。ここで、一般的な万力は、平面で両側から挟み込む形式であるため、表面に曲率がついているシャフトの場合には固定精度があがらず、そのシャフト形状に合わせたアタッチメントや専用の治具により精度よくまたはずれなく、強固かつ安定的な固定をおこなっていた。
【0003】
【特許文献1】特開平8−168906号公報
【非特許文献1】意匠登録第1201311号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
例えば、ハードディスクの流体軸(シャフト)の検品時の寸法測定などでは、高い精度での固定が必要となる。加えて、数種類のシャフトを代わる代わる測定せねばならない状況も生じ、かつ、図5(c)に示したように個々のシャフト自身も単なる丸棒でなく、大径小径の段が入り乱れているのが通常である。従って、従来では位置出しに10分以上の時間を要し、簡便に短時間で精度よく固定するのが困難であった。更に、ハードディスク自体の製品開発サイクルが短く、近年、小型化高精度化しているため、アタッチメントを毎回作成するのは非現実的であり、また、汎用性に欠けるという欠点もある。
【0005】
また、いわゆる三爪チャックや四爪チャックは、流体軸のような径の小さなシャフトも安定的に精度よく固定できるものの、固定方向が決まっているため、寸法測定ができない箇所も生じたり、また、測定器のプローブがチャックと干渉したりする場合があるという原理的な問題もあった。
【0006】
また、従来の治具は、基本的に固定方向が一方向のみで、この点からも汎用性に欠けるという問題点を有していた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡素な構成で、固定方向を複数有し、短時間で精度の高い固定を可能とする汎用性に富むシャフト用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のシャフト用治具は、ミリオーダ径のシャフトを挟持する左右対称の二つ割りの治具であって、間隔が狭まることにより対向面上部に形成される溝であってシャフトを水平に載置して軸に沿って挟持する水平挟持用溝と、対向面の中央に鉛直方向に形成された鉛直挟持用溝孔と、を有し、水平挟持用溝は、上方にいくにつれ幅広となるV字凹条であって、軸方向に水平に延伸する斜面と鉛直面とが交互に連結した多段構造であり、鉛直挟持用溝孔は、対向面それぞれに鉛直方向に形成されたV字溝が向かい合うことにより形成される平面視において略菱形である孔であって、V字溝が、V字の両辺が僅かに凸曲線でありそのまま鉛直方向に延伸した曲面により構成されていることを特徴とする。
【0009】
すなわち、請求項1に係る発明は、多段構造により、多様なシャフト径に対応可能であり、かつ、V字構造により、小径シャフトであっても視認性が確保される。また、垂直保持の場合も、治具の加工精度を吸収しR面で安定的な四点支持が可能となる。なお、多段構造は最上部が鉛直面であれば挟持の面から好ましいが視認性を重視する場合は斜面が形成されていても良いものとする。なお、V字凹条については、対向面がくっついていない場合は正確には凹条とならないが、凹条が概念できるので凹条と表現するものとする。
【0010】
また、請求項2に記載のシャフト用治具は、請求項1に記載のシャフト用治具において、前記V字溝が、V字凹条の両側の第一の斜面(最深の斜面)と第一の鉛直面(最深の鉛直面(対向面を除く))との境界までの位置に形成されたことを特徴とする。
【0011】
すなわち、請求項2に係る発明は、加圧等による治具の狂いを生じにくくすることが可能となる。なお、本願では斜面や鉛直面は下から数えるものとする。ただし対向面は鉛直面に数えないものとする。
【0012】
また、請求項3に記載のシャフト用治具は、請求項1または2に記載のシャフト用治具において、更に、シャフトを治具上面に水平に載置するためのV字凹条であって、水平挟持用溝に垂直かつ当該V字凹条の軸線が前記菱形中心を通過するように形成された垂直載置用溝を形成したことを特徴とする。
【0013】
すなわち、請求項3に係る発明は、簡便な構成ながら3方向載置が可能となる。
【0014】
また、請求項4に記載のシャフト用治具は、請求項3に記載のシャフト用治具において、垂直載置用溝のV字凹条が、水平挟持用溝の最終の鉛直面(最も上部にある鉛直面)と最終の斜面(最も上部にある斜面)との境界より深く形成されていることを特徴とする。
【0015】
すなわち、請求項4に係る発明は、水平挟持用溝でシャフトを把持する際の視認性を更に高める。なお、V字凹条の底辺は、例えば、最終の斜面と、2番目に上部にある鉛直面との境界までの深さとすることができる。
【0016】
また、請求項5に記載のシャフト固定具は、請求項1〜4のいずれか記載のシャフト用治具を、X軸テーブルもしくはXYテーブル、または、これと、回転テーブルとを組み合わせたテーブルに設置したことを特徴とする。また、請求項6に記載のシャフト固定具は、請求項5に記載のシャフト固定具において、更に、テーブルにマイクロメータを具備し、微小移動を制御可能にしたことを特徴とする。
【0017】
すなわち、請求項5に係る発明は、寸法測定等の際のシャフトの位置決めを容易とし、請求項6に係る発明は、寸法測定等の際のシャフトの微細な位置決めを可能とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡便な構成で、固定方向を複数有し精度の高い固定(転じて、高精度測定のための位置合わせ)を可能とする汎用性に富むシャフト用治具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。ここでは、本発明のシャフト用治具を、ミリオーダ径のハードディスクの軸(シャフト)の寸法測定の際に使用するシャフト固定具に応用した例について説明する。図1は、本発明のシャフト用治具をテーブルに搭載したシャフト固定具の外観説明図である。図2は、本発明のシャフト用治具の片側の(a)平面図、(b)正面図、(c)側面図をそれぞれ示した図である。図3は、図2(a)に示したシャフト用治具の平面図の中央部分Aの拡大図である。図4は、丸棒をそれぞれの方向(水平、鉛直、垂直)で固定した様子を示した斜視図である。
【0020】
シャフト固定具1は、X軸テーブル2と、回転テーブル3と、ステージ4と、左右対称の二つ割りの治具5(治具左片5a、治具右片5b)と、を有する。X軸テーブル2上には、回転テーブル3が固着され、回転テーブル3上には、ステージ4が固定されている。治具5は、下部にメスネジ6が切ってあり、台形ネジ機構7を有するステージ4に固定されている。ステージ4には、台形ネジ8に直結したつまみ9が形成され、つまみ9を右回転させると、治具左片5aと治具右片5bとは、その下部の互いに逆向きに形成されたメスネジ6によって近づき、反対に、つまみ9を左回転させると、治具左片5aと治具右片5bが互いに離れていくようになっている。
【0021】
また、回転テーブル3は、X軸テーブル2に対し、治具5を任意の回転角度で固定する。一方で、回転テーブル3は、平面視において正方形のX軸テーブル2に重なり合わさる90°毎に嵌合溝が形成され、治具5の90°回転を簡便におこなえるようにしている。
【0022】
X軸テーブル2には、マイクロメータ10が取り付けてあり、マイクロメータ10の軸方向(X軸方向)に微小移動が可能となっている。マイクロメータ10を回転することにより、図示しない寸法測定用のプローブに対するシャフトS用の最適な位置出しが可能となる。
【0023】
治具左片5aと治具右片5bとは左右対称な直方体を基調とした形状である。以降では、説明の便宜上、両者を区別しない場合に、適宜治具片と称することとする。治具片には、シャフトSを軸に沿って把持するための多段溝Mparaと、これと直交しシャフトSを載置するV字溝Mperpと、シャフトSを鉛直に把持する溝Mvertが形成されている。多段溝MparaとV字溝Mperpと溝Mvertは、治具左片5aと治具右片5bが接合した際に、上面中央で直交座標のように交差するように形成されている。
【0024】
より詳しくは、多段溝Mparaは、対向面であるフラットな接合面Cの上部において、上方に向けて第一斜面C1が形成され、第一斜面C1の上端部から第一鉛直面C2が形成され、第一鉛直面C2の上端部から第二斜面C3が形成され、第二斜面C3の上端部から第二鉛直面C4が形成されることにより多段構造を形成している。そして、治具左片5aと治具右片5bが向かい合うことにより請求項にいう水平挟持用溝が形成される。
【0025】
シャフトSは径が小さい場合には、左右の第一鉛直面C2によりシャフトが水平に軸に沿って挟持され、径が大きな場合には、左右の第二鉛直面C4により水平に軸に沿って挟持される。このとき、斜面(C1、C3)が形成されていることにより、シャフトSは水平姿勢のまま下方に落ち込み、安定的かつ正確に挟持される。また、水平挟持溝は、上方にいくに従って開口したV字形状(多段のV字凹条)が形成されるため、視認性にとみ、操作者がシャフトの固定度合いを確認するのに役立つ。なお、この例では、斜面と鉛直面が2つずつである態様について説明したが、これに限ることなく、多くてもよい。ただし、斜面の巾も鉛直面の巾も、上部に位置するほど広くなるようにする。上部に位置する鉛直面で挟持するシャフトほど径が大きなものであるためである。
【0026】
溝Mvertは、治具左片5aと治具右片5bが対向することにより、略菱形の孔、すなわち、請求項にいう鉛直挟持用溝孔を形成する。治具左片5aと治具右片5bとの間隙を狭めることにより、シャフトSを垂直に挟持可能となる。ここで、溝Mvertは、僅かに曲率を有する左右対称の凸曲面Rにより形成されている。フラットな面である場合には加工精度および台形ネジの誤差に基づく狂いにより、菱形の4点でのシャフト挟持が実際には実現されず、2点接触(2点挟持)となりやすく浮きが生じてしまう。治具5では、溝Mvertを若干の凸曲面とすることにより、4点接触の安定的な固定を実現している。
【0027】
また、鉛直挟持用溝孔が治具5中央に形成されているため、中央部分が膨らんだシャフト(図5(c)参照)であっても、膨らみ部分を菱形孔に逃がし、水平挟持においても、より安定的な固定が実現できるようになっている。
【0028】
なお、本実施の形態のように、回転テーブル3を設ける場合には、水平挟持用溝で挟持しておけば、軸に沿った方向でも軸に垂直な方向でも正確な測定が可能となるが、シャフト固定具がX軸テーブルのみで構成されている場合や、シャフトの形状(例えば、シャフトの一部に出っ張りがあるような場合)によっては、必ずしも水平挟持用溝のみでは対応できない場合がある。
【0029】
治具5は、このため、シャフトSの載置用にV字溝Mperpを設け利便性を高めている。また、経験上φ8mm程度以上のシャフトであれば自重により安定するため、挟持の必要が生じない。従って、ある程度の大径のシャフトの場合は、V字溝Mperpのみで十分高精度に測定ができる。
【0030】
治具5では、V字溝Mperpは、その底辺が、少なくとも、第二鉛直面C4と第二斜面C3との境界線と同じか、これより深くなるように形成する(本実施の形態では、第一鉛直面C2と第二斜面C3との境界線)。これにより、水平挟持用溝によるシャフトの挟持を斜め横から確認できるようになり、操作者がシャフトの固定度合いを確認するのに役立つ。
【0031】
一方、溝Mvertの谷は、第一斜面C1と第一鉛直面C2との境界線と同じ位置か、これより浅くなるように形成する(本実施の形態では同じ位置)。このようにすれば、治具左片5aと治具右片5bとが対向しつつシャフトSを軸に沿って水平に挟持する際の歪みが生じにくくなり、治具の小型化が可能となる。
【0032】
以上のように、治具5を用いてシャフトの三方向の測定が可能となる。なお、ハードディスクのシャフトSの測定に際しては、測定頻度は、水平挟持用溝で挟持したシャフトSの軸に沿った方向が最も多く、次いで垂直挟持用溝孔で挟持したシャフトSの径方向である。すなわち、治具5は、実際の使用にそって挟持精度を確保した構成といえる。
【0033】
治具5の素材は特に限定されないが、SKD(Steel Kogu Dice)やアルミニウムを用いることができる。治具片の大きさは、特に限定されないが、φ2mm〜φ10mmの範囲のいわゆるミリオーダ径のシャフトに対応する場合には、例えば、44mm×22.5mm×15.8mmとすることができる(図2参照)。なお、図2に示した治具では、水平挟持用溝による挟持においては、0.1deg以下/50mmの安定的な挟持性を確保できることを確認している。また、一般的な治具を用い、作業になれない測定者であれば、シャフト固定および位置決め(精度だし)が10分程度かかるところ、この治具を用いた場合には2分程度でシャフト固定および位置決めが可能となった。また、シャフト固定具全体の重量も2kg以内に収めることができ、簡素な構造で、低コスト化の実現も可能となった。
【0034】
以上の例では、X軸テーブル2のみにマイクロメータ10を搭載し、微小移動の制御をおこなうようにしたが、回転テーブル3にもマイクロメータを搭載し、微小回転角の制御をおこなうようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の活用例としては、上述したような、ミリオーダ系のシャフトの寸法測定の際のシャフト固定具について説明したが、この他、ミリオーダ系のシャフトを加工する際の固定具としても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のシャフト用治具をテーブルに搭載したシャフト固定具の外観説明図である。
【図2】本発明のシャフト用治具の片側の(a)平面図、(b)正面図、(c)側面図をそれぞれ示した図である。なお、図では、寸法表示もしており、単位はmmである。
【図3】図2(a)に示したシャフト用治具の平面図の中央部分の拡大図である。なお、図では、寸法表示もしており、単位はmmである。
【図4】丸棒をそれぞれの方向(水平、鉛直、垂直)で固定した様子を示した斜視図である。
【図5】ハードディスクのシャフトの例を示した図である。
【符号の説明】
【0037】
1 シャフト固定具
2 X軸テーブル
3 回転テーブル
4 ステージ
5 治具
5a 治具左片
5b 治具右片
6 メスネジ
7 台形ネジ機構
8 台形ネジ
10 マイクロメータ
C 接合面
C1 第一斜面
C2 第一鉛直面
C3 第二斜面
C4 第二鉛直面
Mpara 多段溝
Mperp V字溝
Mvert 溝
S シャフト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリオーダ径のシャフトを挟持する左右対称の二つ割りの治具であって、
間隔が狭まることにより対向面上部に形成される溝であってシャフトを水平に載置して軸に沿って挟持する水平挟持用溝と、対向面の中央に鉛直方向に形成された鉛直挟持用溝孔と、を有し、
水平挟持用溝は、上方にいくにつれ幅広となるV字凹条であって、軸方向に水平に延伸する斜面と鉛直面とが交互に連結した多段構造であり、
鉛直挟持用溝孔は、対向面それぞれに鉛直方向に形成されたV字溝が向かい合うことにより形成される平面視において略菱形である孔であって、V字溝が、V字の両辺が僅かに凸曲線でありそのまま鉛直方向に延伸した曲面により構成されていることを特徴とするシャフト用治具。
【請求項2】
前記V字溝が、V字凹条の両側の第一の斜面と第一の鉛直面との境界までの位置に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のシャフト用治具。
【請求項3】
更に、シャフトを治具上面に水平に載置するためのV字凹条であって、水平挟持用溝に垂直かつ当該V字凹条の軸線が前記菱形中心を通過するように形成された垂直載置用溝を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のシャフト用治具。
【請求項4】
垂直載置用溝のV字凹条が、水平挟持用溝の最終の鉛直面と最終の斜面との境界より深く形成されていることを特徴とする請求項3に記載のシャフト用治具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載のシャフト用治具を、X軸テーブルもしくはXYテーブル、または、これと、回転テーブルとを組み合わせたテーブルに設置したことを特徴とするシャフト固定具。
【請求項6】
更に、テーブルにマイクロメータを具備し、微小移動を制御可能にしたことを特徴とする請求項5に記載のシャフト固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−155308(P2008−155308A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345209(P2006−345209)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(307016180)地方独立行政法人鳥取県産業技術センター (32)
【Fターム(参考)】