説明

シューズ

【課題】 ミッドソールやアウトソールの構造自体に工夫を施すことで、前足部回内方向のねじれ剛性を前足部回外方向のねじれ剛性よりも大きくして、走行安定性を向上させながら装着者の疲労感を抑制するシューズを提供する。
【解決手段】 甲被部と、前記甲被部との間に装着者の足を受け入れる靴底部1と、靴底部1の中足部Dに波形形状4とを備え、波形形状部の山線41及び谷線42は、靴型中心線Bに対して爪先に向かって内甲側から外甲側に延びているシューズとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シューズに関し、特に、ねじれ剛性に特徴を有するシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
各種スポーツなどにおいて使用されるシューズは、一般に、装着者の足の甲を覆う部分から踵部までを含むアッパー部(甲被部)と、靴底部とを有している。また、靴底部は、ミッドソールと、その下面に貼り合わされ、路面と直接接するアウトソールとを有している。
【0003】
そして、中足部の土踏まず部にはシャンク部が形成され、靴底に前足部の回内運動の軸を作ることで、この回転軸を中心として靴底の変形やねじれを作り出し、前足部が自然な歩行運動(回内運動)を行なうことができる靴(シューズ)を提供しようとしている。
【0004】
ところが、一般に、シューズのねじれ剛性を大きくすると、走行安定性が向上するが、装着者の足の動きが阻害されるため、装着者の疲労感が大きくなる。逆に、ねじれ剛性を小さくすると、装着者の疲労感は抑制されるが、走行安定性が低下する。したがって、走行安定性を向上させながら、装着者の疲労感を抑制するために、ねじれ剛性の大きさを適正化することが必要である。
【0005】
ここで、ねじれの方向(前足部回内方向および前足部回外方向)に着目すると、前足部回内方向(踵部を固定して前足部の靴底が体の正中線から離れる側に向かう方向)のねじれ剛性は走行安定性に、前足部回外方向(踵部を固定して前足部の靴底が体の正中線に向かう方向)のねじれ剛性は疲労感に、それぞれ比較的大きく影響する。したがって、前足部回内方向のねじれ剛性を向上させる一方で、前足部回外方向のねじれやすさを確保することで、シューズの走行安定性を向上させながら、装着者の疲労感を抑制することができる。
【0006】
そこで、前足部回内方向のねじれ剛性を前足部回外方向のねじれ剛性よりも大きくすることにより、走行安定性を向上させながら装着者の疲労感を抑制しようとして、特開2005−95388号の発明がされている。
【特許文献1】特開2005−95388号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記発明は優れた発明ではあるが、実際にシューズに実施する際には、別体の補強ベルトを接着等によりミッドソールやアウトソールに貼着する必要がある。
ところが、この靴を装着して長く使用すると、構造上、細長い補強部には繰返しの応力がかかり、補強部が剥離しやすくなる。補強部がミッドソールやアウトソールから剥離してしまうと、特開2005−95388号が目的とするところの発明の作用効果を発揮しなくなる。
【0008】
そこで、本発明は、特開2005−95388号の前足部回内方向のねじれ剛性を前足部回外方向のねじれ剛性よりも大きくすることにより、走行安定性を向上させながら装着者の疲労感を抑制するという目的を、ミッドソールやアウトソールの構造自体に工夫を施すことで実現し、製靴上も作りやすい靴を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、甲被部と、前記甲被部との間に装着者の足を受け入れる靴底部と、前記靴底部の中足部に波形形状とを備え、前記波形形状部の山線及び谷線は、靴型中心線に対して爪先に向かって内甲側から外甲側に延びているシューズである。
【0010】
請求項1の発明では、前足部回内方向のねじれ剛性を前足部回外方向のねじれ剛性よりも大きくすることにより、走行安定性を向上させながら装着者の疲労感を抑制することを、靴底部の中足部を波形形状とすることにより実現しようとするものである。
波形形状は、シューズのミッドソールやアウトソールを成型する際に、予め金型に設けておくことができる。従って、本発明の構成をしたミッドソールやアウトソールを用いるだけで走行安定性の向上と装着者の疲労感を抑制することができ、製靴が容易である。
【0011】
請求項2の発明は、前記中足部の波形形状部には、さらに補強用のプレートが貼着されている請求項1記載のシューズである。
【0012】
請求項2の発明では、補強用のプレートを中足部の波形形状部の全面に貼着している。従って、細長い補強部を貼着した特開2005−95388号に比して接着面積を大きくとることができるので、補強用のプレートに繰返しの応力がかかっても補強部が剥離し難くなる。
特に、予め金型に設けた波形形状部に、補強用のプレートを載置してミッドソールを一体成形すれば、前記剥離という問題点はほとんど解消され、製靴も容易である。
【0013】
請求項3の発明は、前記波形形状部の山線及び谷線の前記靴型中心線に対する傾き角度は、30°以上60°以下である請求項1又は2のいずれか1項に記載のシューズである。
【0014】
ここで、靴型中心線とは、装着者の足の第2中足骨骨頭直下と踵最後部の直下とを結ぶ直線を意味する。
請求項3の発明では、補強部を上記角度で設置することにより、効率良く前足部回内方向のねじれ剛性を向上させることができる。
【0015】
請求項4の発明は、前記波形形状部の山線及び谷線の周期は、内甲側から外甲側の範囲において、2波長から3波長である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシューズである。
【0016】
請求項4の発明では、波形形状部を内甲側から外甲側まで設けているので、従来の補強部のようにその部分にだけ応力がかかるということがなく、応力が分散されるので、走行がスムーズに行える。
また、周期を内甲側から外甲側の範囲において2波長から3波長としたのは、2波長未満では曲げ剛性が低く、シャンク効果を発揮しないからであり、3波長を越えると波が垂直に近くなり、足裏面で突き上げを感じるからである。突き上げを感じないように波を高低差を小さくすることも考えられるが、これでは中足部のミッドソールの沈み込みが大きくなり、安定性がなくなってしまう。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、シューズの走行安定性を向上させながら、装着者の疲労感を抑制することができる。
また、靴底部の中足部の構造自体が前記効果を発揮するので、補強部材の剥離による効果の低減を予防でき、また靴底の製造も容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
〈第1の実施例〉
図1は、本発明のシューズの底面図であり、図2は、図1のA−A線断面図である。なお、図1は左足の底面図で、図面上部が内甲側、図面下部が外甲側となる。
図1に示すシューズの靴底1は、その長手方向に、前足部Eと、中足部Dと、後足部Cとに分類される。ここで、中足部Dは、踵部後端からの距離が、シューズ1の全長(E+D+C)の0.2倍以上0.65倍以下程度の範囲を意味し、前足部Eは中足部Dよりも爪先側の範囲を、後足部Cは中足部Dよりも踵側の範囲を意味する。本実施例においては、前足部Eと後足部Cとにアウトソール2が設けられ、その間の中足部Dにおいては、ミッドソール3が底面に露出している。
【0019】
中足部Dのミッドソール3は、図2に示すようにその断面が波形形状4をしており、波形形状部の山線41及び谷線42は、靴型中心線Bに対して爪先に向かって内甲側から外甲側に向かって一定角度αを有して延びている。
ここで、靴型中心線Bとは、装着者の足の第2中足骨骨頭直下と踵最後部の直下とを結ぶ直線を意味する。
【0020】
本発明では前記のような構成としたので、波形形状部自体が一定の剛性を持つことになる。しかもその剛性を持つ方向が山線41及び谷線42の方向、すなわち、靴型中心線Bに対して爪先に向かって内甲側から外甲側に向かう一定角度αの方向となる。
これに対して、山線41及び谷線42とは垂直な方向、すなわち、靴型中心線Bに対して爪先に向かって内甲側から外甲側に向かう一定角度αとは垂直な方向に対しては剛性が弱くなり、屈曲がしやすくなる。
【0021】
その結果、前足部回内方向のねじれ剛性は高く、前足部回外方向のねじれ剛性は低くなる。
以上により、走行安定性を向上させながら装着者の疲労感を抑制することができるものである。
【0022】
なお、波形形状部の山線41及び谷線42の靴型中心線Bに対する傾き角度は、30°以上60°以下にしておくとよい。
上記角度にすると、効率良く前足部回内方向のねじれ剛性を向上させることができる。
【0023】
波形形状部の山線41及び谷線42の周期は、内甲側から外甲側の範囲において、2波長から3波長である。
周期を内甲側から外甲側の範囲において2波長から3波長としたのは、2波長未満では曲げ剛性が低く、シャンク効果を発揮しないからであり、3波長を越えると波が垂直に近くなり、足裏面で突き上げを感じるからである。突き上げを感じないように波の高低差を小さくすることも考えられるが、これでは中足部のミッドソールの沈み込みが大きくなり、安定性がなくなってしまう。
【0024】
前記2波長の場合、山線41と谷線42との高低差は10mmが最適であり、3波長の場合は5mmが最適である。
従って、山線41と谷線42との高低差は5〜10mmの範囲にあることが好ましい。
【0025】
さらに、波形形状4は、シューズのミッドソールやアウトソールを成型する際に、予め金型に設けておくことができる。従って、製靴することも容易である。
【0026】
〈第2の実施例〉
図3に示すように、中足部Dの波形形状部には、さらにミッドソールよりも剛性の高い補強用のプレート5を貼着しておくこともできる。
補強用のプレート5の素材としては、ナイロン、TPU、ソリッドEVA、ソリッドラバー、織布等が使用できる。
【0027】
補強プレート5を用いることにより、波形形状部の剛性をさらにアップすることができる。
また、補強プレート5は中足部の波形形状部の全面に貼着しているので、補強プレート5に繰返しの応力がかかっても剥離し難くなる。
特に、予め金型に設けた波形形状部に、補強用のプレートを載置してミッドソールを一体成形すれば、前記剥離という問題点はほとんど解消され、製靴も容易になる。
【0028】
〈第3の実施例〉
第1、第2の実施例では、中足部Dの波形形状4が靴底から見えるように構成していた。このようにすると、機能が外からわかるだけでなく、需要者にも新規な印象を与えることができる。
【0029】
しかし、図4に示す本発明の第3の実施例では、中足部Dは、ミッドソール3と6の2つの部材から構成されており、両者の界面が波形形状4となるように構成している。従って、底面から一見しただけでは波形形状4が存在するかどうかは不明である。
このように構成しても、前足部回内方向のねじれ剛性は高く、前足部回外方向のねじれ剛性は低くすることができるので、走行安定性を向上させながら装着者の疲労感を抑制することができる。
【0030】
さらに、図5に示すように、ミッドソール3と6の界面に、波形形状4となる補強プレート5を介在させることもできる。
また、ミッドソール3と6の剛性を変えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を実施したシューズの底面図である。
【図2】図1のシューズのA−A線断面図である。
【図3】他の実施例を示すA−A線断面図である。
【図4】他の実施例を示すA−A線断面図である。
【図5】他の実施例を示すA−A線断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ソール
2 アウトソール
3 ミッドソール
4 波形形状
41 山線
42 谷線
5 補強プレート
6 ミッドソール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲被部と、
前記甲被部との間に装着者の足を受け入れる靴底部と、
前記靴底部の中足部に波形形状とを備え、
前記波形形状部の山線及び谷線は、靴型中心線に対して爪先に向かって内甲側から外甲側に延びているシューズ。
【請求項2】
前記中足部の波形形状部には、さらに補強用のプレートが貼着されている請求項1記載のシューズ。
【請求項3】
前記波形形状部の山線及び谷線の前記靴型中心線に対する傾き角度は、30°以上60°以下である請求項1又は2のいずれか1項に記載のシューズ。
【請求項4】
前記波形形状部の山線及び谷線の周期は、内甲側から外甲側の範囲において、2波長から3波長である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシューズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−268087(P2007−268087A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99436(P2006−99436)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】