説明

ショットブラスト装置

【課題】ワークの全表面に対して形状精度等の品質を損なうことなく均等にショットブラストを施すことが可能なショットブラスト装置を提供する。
【解決手段】ショットブラスト装置の環状処理室10は中央支持部12及び円筒状周壁部13を具備し、これらの間にワークWの公転経路(R)を設定する。処理室10の天井には回転体20が設けられ、これは回転体駆動機構21により鉛直な中心軸線C1を中心として強制回転される。回転体20には複数の自転機構22が前記公転経路に沿って配列され、各自転機構22により、ワーク把持具23が鉛直な軸線C2を中心として自転可能となっている。中央支持部12には、複数の外向き投射装置24が放射方向外向きに投射材を投射可能に配列されている。他方、円筒状周壁部13には、複数の内向き投射装置25が放射方向内向きに投射材を投射可能に配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットブラスト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製品又は半製品の表面に砂や鉄ビーズ等の微小粒子を投射して、その製品の表面処理又は表面加工を施すショットブラスト装置が知られている。近年、ショットブラストは、加熱鋼板のプレス成形と同時に焼き入れを完了するダイクエンチ工法で作られる金属製品(例えば車輌用衝突補強部材)の表面に不可避的に付着する酸化スケールを効率的に除去する方法として注目され、その利用が試みられている。
【0003】
しかしながら、従来のショットブラスト装置では、投射材の投射装置の配列にも、ワークを保持及び移動させる機構にも、さしたる工夫がなかった。それ故、例えばワークの全表面にショットブラストを施したい場合には、先ずワークの一方の面(例えば表面)を投射装置に対面させて当該一方の面に対し投射材を投射し、その後にワークを反転させ、ワークの他方の面(例えば裏面)を投射装置に対面させて当該他方の面に対し投射材を投射するという手順をとらざるを得なかった。このため、ワークの反転タイミングのずれや、片側の面が投射を受ける時間のアンバランス等に起因して、ワークの形状に予期しない歪みが生じ、形状精度等の品質確保が難しくなるという問題があった。本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものである。
【0004】
なお、本件出願前の先行技術調査では特許文献1が発見された(この段落中に示す部材参照番号は特許文献1で用いられているものをそのまま引用したものである)。特許文献1に開示のショットブラスト設備では、研掃室を構成するキャビネット2の中央に水平方向に延びる回転軸3が設けられ、この回転軸3に回転板8を固着することで、当該回転板8を垂直面内においてモータ駆動により強制回転可能としている。回転板8の周縁には、複数のクランプ装置10(ワークの把持装置)がモータ駆動により回転可能に装着されている。また、キャビネット2の外壁部には、中央の回転軸3に向けて研掃材を投射する研掃材投射装置1が設けられている。そして、回転板8の周縁に装着された個々のクランプ装置10をそれぞれの位置にて自転させながら当該回転板8を回転軸3を中心として垂直面内で回転させることにより、各クランプ装置10に把持されて自転するワークが、キャビネット2の壁部に配設された投射装置の直前を公転経路に沿って通過する、という構成を採用している。しかし、特許文献1のショットブラスト設備では、複数のクランプ装置10、回転板8その他の機構の全荷重を水平な回転軸3で支える必要があり、当該回転軸3の内部に、キャビネット壁部に配設された研掃材投射装置1と対向するような別の投射装置を設ける余地などないことは一見して明らかである。
【0005】
【特許文献1】特許第3305920号公報(特開平8−323628号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ワークの全表面に対して形状精度等の品質を損なうことなく均等にショットブラストを施すことが可能なショットブラスト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、装置中央に立設された中央支持部及び当該中央支持部をそのほぼ全周にわたり取り囲むように立設された略円筒状の周壁部を具備すると共に、中央支持部と略円筒状周壁部との間にワークの公転経路を設定する略環状の処理室と、前記処理室の天井又は床に設けられ、前記中央支持部の鉛直な中心軸線を中心として回転可能な回転体と、前記回転体を強制回転させるための回転体駆動機構と、前記ワークの公転経路に沿って配列するように前記回転体に装着された複数の自転機構と、前記複数の自転機構にそれぞれ作動連結されると共に、各自転機構によって鉛直な軸線を中心として自転する複数のワーク把持具と、前記中央支持部の外周部において、前記公転経路を指向して放射方向外向きに投射材を投射可能に配列された複数の外向き投射装置と、前記略円筒状周壁部において、前記公転経路を指向して放射方向内向きに投射材を投射可能に配列された複数の内向き投射装置とを備えたことを特徴とするショットブラスト装置である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載のショットブラスト装置において、前記外向き投射装置と前記内向き投射装置とが、放射方向に沿って1対1で対向するように配列されていることを特徴とする。
【0009】
(作用):この装置の使用に際しては、回転体に装着された複数の自転機構にそれぞれ作動連結された複数のワーク把持具の各々に対し、ワーク(処理対象物)が把持される。そして、回転体に装着された自転機構をそれぞれの位置で作動させ、ワーク把持具及びワークを鉛直な軸線を中心として自転させる。それと同時に、回転体駆動機構により回転体を中央支持部の鉛直な中心軸線を中心として強制回転させる。すると、各ワークは、自転しながら中央支持部と略円筒状周壁部との間に設定された公転経路に沿って略環状の処理室内を公転する。処理室内を自転しながら公転するワークに対しては、中央支持部の外周部に配列された各外向き投射装置と、略円筒状周壁部に配列された各内向き投射装置とから同時に投射材が投射される。このように、ワーク把持具に把持されたワークは、放射方向に沿った内外二方向から投射材の投射を満遍なく受けることができ、且つ、ワークが処理室内を自転しながら公転することでその全側面を内外二方向からの投射に満遍なくさらすことができる。
【0010】
(付記):請求項1又は2において、前記略円筒状の周壁部には、前記処理室に対してワークを出し入れするための開口部が設けられていること。
【発明の効果】
【0011】
本発明のショットブラスト装置によれば、ワーク把持具に把持されたワークは、放射方向に沿った内外二方向から投射材の投射を満遍なく受けることができ、且つ、ワークが処理室内を自転しながら公転することでその全側面を内外二方向からの投射にさらすことができるため、ワークの全表面に対して形状精度等の品質を損なうことなく均等にショットブラストを施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1〜図4に示すように、ショットブラスト装置は概して円筒状又は円柱状の外観を有し、その内部には平面視円環状の処理室10が設けられている。
【0013】
具体的には、ショットブラスト装置の底部には平面視円板状の床部11が設けられ、その床部11の上には装置中央位置において中央支持部12が立設されている。この中央支持部12は、内部が中空な円柱形状をなしており、その内部中空域を区画する中央支持部12の外周壁には、後述するように複数の外向き投射装置24が配設される。中央支持部12の鉛直な中心軸線C1は、当該ショットブラスト装置の中心軸線に一致する。
【0014】
更に、円板状の床部11の外周縁には、円筒状の周壁部13が中央支持部12をその全周にわたり取り囲むように立設されている。この円筒状周壁部13には、後述するように複数の内向き投射装置25が配設される。円板状の床部11、中央支持部12及び円筒状周壁部13によって平面視円環状の処理室10が区画されると共に、中央支持部12の外周壁と円筒状周壁部13との間には、中心軸線C1を中心とする円軌道に沿ったワークの公転経路R(図4に二点鎖線で示す)が設定されている。
【0015】
円筒状周壁部13の正面位置には、処理室10に対してワークWを出し入れするための開口部14が形成されている(図1及び図2参照)。
【0016】
図1〜図3に示すように、処理室10の天井にあたる領域(天井域)には、円板状の床部11に対向する円盤状の回転体20が配設されている。この回転体20は、処理室10の天井域を塞ぐと共に中央支持部12の鉛直な中心軸線C1を中心として回転可能に設けられている。図面には、回転体20の支持構成を明示していないが、その支持方式は、中央支持部12上にベアリング機構を介して載置する方式あるいは後記回転体駆動機構21で事実上吊り下げることにより中央支持部等から浮上させて支持するような方式のいずれでもよい。中央支持部12の上方には、回転体駆動機構21(例えば電気モータ)が設けられている。この回転体駆動機構21は円盤状の回転体20と作動連結され、当該回転体20を前記中心軸線C1を中心として強制回転させる。
【0017】
円盤状の回転体20には、複数の自転機構22(本例では6つ)が装着されている。これら6つの自転機構22は、ワークの公転経路Rに沿って、しかも前記中心軸線C1を中心として等角度間隔(本例では60°間隔)となるように配列されている。それぞれの自転機構22の下側(処理室内に露出した側)には、ワーク把持具23が作動連結されている。各ワーク把持具23は、ワークWを把持、吊り下げ又は保持等するための器具又は機械装置であり、それに作動連結された自転機構22により前記中心軸線C1と平行な鉛直軸線C2を中心として自転する(図3参照)。ワーク把持具23によって把持されたワークWは、ワーク公転経路R上にて処理室10の高さ方向中程の高さ位置に配置される。
【0018】
図3及び図4に示すように、中央支持部12の外周部には、複数の外向き投射装置24(本例では5個×2段=合計10個)が設けられている。即ち、中央支持部12の全高の下から約3分の1の高さ位置(以下「1段目」という)及び約3分の2の高さ位置(以下「2段目」という)の各段において、前記円筒状周壁部13の正面の開口部14と向き合う位置を除いて前記中心軸線C1を中心として60°間隔となるように、5個の外向き投射装置24が配列されている。1段目及び2段目に位置する各外向き投射装置24は、その投射口がワーク公転経路Rを指向して外方向に向けられており、中心軸線C1を中心とした放射方向外向きに投射材を投射可能となっている。
【0019】
図1〜図4に示すように、円筒状周壁部13には、複数の内向き投射装置25(本例では5個×2段=合計10個)が設けられている。即ち、円筒状周壁部13の全高(これは中央支持部12の全高に等しい)の下から約3分の1の高さ位置(以下「1段目」という)及び約3分の2の高さ位置(以下「2段目」という)の各段において、前記開口部14が開口形成された位置を除いて前記中心軸線C1を中心として60°間隔となるように、5個の内向き投射装置25が配列されている。1段目及び2段目に位置する各内向き投射装置25は、その投射口がワーク公転経路R(及び中心軸線C1)を指向して内方向に向けられており、中心軸線C1を中心とした放射方向内向きに投射材を投射可能となっている。
【0020】
図3及び図4からわかるように、中央支持部12に設けられた10個の外向き投射装置24と円筒状周壁部13に設けられた10個の内向き投射装置25とは、一つの外向き投射装置24とそれに対応する一つの内向き投射装置25とが、放射方向に沿って1対1で互いに向き合うように位置決めされている。従って、一つの外向き投射装置24とそれに対応する一つの内向き投射装置25との間に配置されたワークWは、これらの投射装置24,25によって内外から同時に投射材の投射を受けることになる。尚、投射装置24,25によって投射される投射材としては、砂や鉄製ビーズを例示できる。
【0021】
次に本実施形態のショットブラスト装置の作用及び効果について説明する。
【0022】
装置の使用に際しては、円筒状周壁部13の開口部14を介して、その開口部14と向き合う位置に配置されたワーク把持具23に対しワークWを取り付ける(図2参照)。ワークWとしては、例えばダイクエンチ加工直後の車輌用衝突補強部材であってその表面に酸化スケールが付着した状態のものがあげられる。ワーク把持具23へのワークWの把持が完了したら、そのワーク把持具23に対応する自転機構22を作動させ、ワーク把持具23及びワークWを鉛直軸線C2を中心として自転させる。それと同時に、回転体駆動機構21によって回転体20を鉛直な中心軸線C1を中心として、例えば時計回り方向に回転させる。すると、ワークWは自転しながら前記ワーク公転経路Rに沿って環状の処理室10内を公転する。処理室10内を自転しながら公転するワークWは、中央支持部12の外周壁と円筒状周壁部13との間をワーク公転経路Rに沿って通過していくに伴い、中央支持部12に配列された外向き投射装置24と、円筒状周壁部13に配列された内向き投射装置25とから同時に投射材の投射を受ける。これにより、ワークWの表面に付着していた酸化スケールのほとんどが除去される。
【0023】
本実施形態によれば、ワーク把持具23に把持されたワークWは、装置の放射方向に沿った内外二方向から投射材の投射を受けることができ、且つ、ワークW自体が処理室10内を自転しながら公転することでその全側面を内外二方向からの投射に満遍なくさらすことができる。このため、ワークWの製品形状に歪みが生じ難く、形状精度等の品質を向上させることができる。つまり、ワークWの全表面に対して形状精度等の品質を損なうことなく均等にショットブラストを施すことができ、ワークWの表面処理性と品質保持性とを両立させることができる。
【0024】
本実施形態によれば、外向き投射装置24と内向き投射装置25とが同数とされ、且つ外向き投射装置24と内向き投射装置25とが放射方向に沿って1対1で対向するように配列されている。つまり、1対1で対向する外向き投射装置24と内向き投射装置25との間に位置するワークWは、同時点でそれら二つの投射装置24,25から同時に投射材の投射を受けることになる。それ故、外向き投射装置24からの投射材の投射圧力と、内向き投射装置25からの投射材の投射圧力とがほぼ等しい場合には、それらの投射圧力が互いに打ち消し合う関係となり、内外二方向からの投射を受けるにもかかわらず、ワークWの姿勢が安定する。このことは、ワーク把持具23におけるワーク把持負担の軽減につながる。
【0025】
本実施形態によれば、複数個のワークWを同時に処理することが可能であり、生産性に優れている。
【0026】
(変更例)本発明の実施形態を以下のように変更してもよい。
上記実施形態では、処理室10の天井域に回転体20を配設したが、これに代えて、複数の自転機構22を具備した回転体20を処理室10の床領域に設けてもよい。あるいは処理室10の天井域及び床領域の双方に、複数の自転機構22を具備した回転体20をそれぞれ設けてもよい。後者の場合には、天井域の回転体と床領域の回転体とを同期回転させると共に、天井域回転体の自転機構と床領域回転体の自転機構との自転周期を同期させることで、ワークWを上下一対のワーク把持具23(及び自転機構22)間に保持することが可能となり、ワークWの保持を更に確実にして投射材投射時におけるワークWの揺れ等を防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ショットブラスト装置の平面図。
【図2】ショットブラスト装置の正面図。
【図3】図1のA−A線での縦断面図。
【図4】図2及び図3のB−B線での横断面図。
【符号の説明】
【0028】
10…処理室、12…中央支持部、13…周壁部、20…回転体、21…回転体駆動機構、22…自転機構、23…ワーク把持具、24…外向き投射装置、25…内向き投射装置、C1…鉛直な中心軸線、C2…自転機構の鉛直軸線、R…ワークの公転経路、W…ワーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置中央に立設された中央支持部(12)及び当該中央支持部をそのほぼ全周にわたり取り囲むように立設された略円筒状の周壁部(13)を具備すると共に、中央支持部と略円筒状周壁部との間にワークの公転経路(R)を設定する略環状の処理室(10)と、
前記処理室の天井又は床に設けられ、前記中央支持部の鉛直な中心軸線(C1)を中心として回転可能な回転体(20)と、
前記回転体を強制回転させるための回転体駆動機構(21)と、
前記ワークの公転経路に沿って配列するように前記回転体に装着された複数の自転機構(22)と、
前記複数の自転機構にそれぞれ作動連結されると共に、各自転機構によって鉛直な軸線(C2)を中心として自転する複数のワーク把持具(23)と、
前記中央支持部の外周部において、前記公転経路を指向して放射方向外向きに投射材を投射可能に配列された複数の外向き投射装置(24)と、
前記略円筒状周壁部において、前記公転経路を指向して放射方向内向きに投射材を投射可能に配列された複数の内向き投射装置(25)と
を備えたことを特徴とするショットブラスト装置。
【請求項2】
前記外向き投射装置(24)と前記内向き投射装置(25)とが、放射方向に沿って1対1で対向するように配列されていることを特徴とする請求項1に記載のショットブラスト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−55977(P2006−55977A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243179(P2004−243179)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)