説明

シラミ駆除プロセス及び組成物

シラミのペジクラス・フマヌスの発育を阻止することを可能にするシラミ駆除プロセスであって、シラミを、少なくとも60質量%のアルカリ金属重炭酸塩を含む神経毒化合物を欠いている組成物と接触させる、前記プロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラミ駆除プロセス及びシラミ駆除組成物、即ち、節足動物のペジクラス・フマヌス及び/又はその卵を駆除するのに有効であるプロセス及び組成物に関する。本発明は、また、このような組成物を用いてヒト頭髪で発育するペジクラス・フマヌスの節足動物を死滅させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト身体で発育するシラミ(ペジクラス・フマヌス(Pediculus humanus))は、公衆衛生の問題であることが知られている。これらのシラミは、既知の方法で、ペジクラス・フマヌス・キャピティス(Pediculus humanus capitis)(アタマジラミ)、実際にはペジクラス・フマヌス・コルポリス(Pediculus humanus cororis)(コロモジラミ)さえも、また、フシリス・ピュービス(Phthirus pubis)(ケジラミ)を含む。小児のシラミによる侵入がここ数十年間落ちていたが、フランスにおいてのみ、二百万人を超える小児が毎年なお治療されなければならず、家族及び関係する小学校当局が懸念している。シラミとの苦闘は、シラミの卵が、極めて防水の外皮によって保護されるとともにヒト毛髪にしっかりと付着される点で特に手間のかかるものにしている。この外皮は、エアロパイルとして知られるわずかな非常に小さい開口しか示さず、卵の最上部の蓋に位置し、卵が呼吸することを可能にし、これらのエアロパイルはシラミ撲滅薬が卵に浸透することを可能にする唯一の通路を構成している。卵の孵化の間、エアロパイルを含む蓋が開放して、若虫が通ることを可能にし、防水保護外皮からはい上がる。
【0003】
神経毒物質、例えば、ピレトリン又は合成ピレトロイド(ペルメトリン、アレスリン、バイオアレスリン、D-フェノトリン等)、有機リン化合物、例えば、マラチオン、カルバメート(カルバリル等)又はピペロニルブトキシドを用いてシラミとそれらの卵を駆除することは既知である。しかしながら、これらの物質は、それらに対して耐性であるペジクラス・フマヌス株の出現後それらの有効性を徐々に失っているようである。更に、ヒト身体の近くでそれらを使用することによって、繰り返し用いた場合にそれらの神経毒性のために皮層刺激とリスクが生じ得る。このことは、これらの神経毒物質がシラミの神経系に作用するとともに人にも毒性であるからである。これらの製品の一部は、発癌性、実際には催奇性であることさえも疑われる。この毒性は、シラミによる反復侵入が反復治療をしばしば必要とすることから、小児の場合に特に懸念されることである。
シラミを駆除するのに有効であるサッカリドやシリカに基づく組成物は、国際出願公開第03/045152号に開示されている。しかしながら、この組成物は、比較的費用がかかり、シラミ駆除作用は、かなり緩慢である。
【発明の開示】
【0004】
本発明は、シラミがそれに対して耐性がなく且つ経済的であり人に無害である新規なシラミ駆除プロセスを提供することを目的とする。
従って、本発明は、シラミのペジクラス・フマヌスの発育を阻止することを可能にするシラミ駆除プロセスであって、シラミを、少なくとも60質量%のアルカリ金属重炭酸塩を含む組成物と接触させる、前記プロセスに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明のプロセスにおいて、アルカリ金属重炭酸塩は、例えば、厳密な意味での重炭酸塩、例えば、重炭酸カリウム又は重炭酸ナトリウムであり得る。しかしながら、この説明において、重炭酸塩を含む、化合物塩、例えば、アルカリ金属セスキ炭酸塩(例えば、トロナ)も包含する。重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム又はトロナが特によく適する。厳密な意味における重炭酸塩が推奨される。重炭酸カリウム又は重炭酸ナトリウム、より具体的には、重炭酸ナトリウムが好ましい。組成物は、質量で、少なくとも60%、有利には70%、好ましくは80%、より好ましくは85%のアルカリ金属重炭酸塩を含む。
重炭酸塩は、有利には、粒子径分布を有する粒子を含み、少なくとも50%、有利には75%、好ましくは90%の粒子が100μm未満、好ましくは70μmの平均径を有する。平均径は、有利には50μm未満、好ましくは40μmである。直径は、ASTM C-690-1992の規格に準じて測定される。粒子の形でない重炭酸塩の残りは、そのとき、例えば、溶解された形であり得る。ペジクラス・フマヌスに対する化学作用に加えて、本発明者らは、アルカリ金属重炭酸塩がこのような粒径を有する場合により有効である機械的作用を有すると考える。
【0006】
本発明のプロセスの好ましい実施態様において、組成物は、更に、少なくとも1%、好ましくは5%のシリカを含む。その20%、好ましくは15%を超えて含んではならないことが推奨される。粉末におけるシリカの存在によって、アルカリ金属重炭酸塩のシラミ駆除作用が相乗的に増加することが見られた。更にまた、粉末が高濃度の重炭酸塩を含むので、シリカの存在が懸濁液の流れを改善し、従って、その均一な適用が支持される。特に吸入の場合には、ヒト身体によって許容されるようにシリカはアモルファス(及び非晶質)形でなければならないことが推奨される。
シリカは、ISO 5794-1、annex D.の規格に準じて測定された高比表面積が、200m2/gを超え、好ましくは400m2/gである微細粒子の形であることが好ましい。本発明の有利な実施態様において、シリカは平均径が10μm未満である粒子の形である。平均径は、ASTM C-690-1992の規格に準じて測定される。
重炭酸塩/シリカ混合物ができる限り均一でなければならない。しかしながら、ある状況において、特に、混合が有利であるプロシェアミキサで行われる場合、極端に長い混合時間によって、続いての水性懸濁液の有効性の損失が生じ得ることが見られた。一般的には、それを流動化するようにアルカリ金属重炭酸塩/シリカ混合物を処理することが推奨される。この流動化は、プロシェアミキサの回転後ミキサ内に混合物が戻ったときにプロシェアミキサ内で行われる。
特に、最も有利な粒径を有する粒子の形である場合、重炭酸塩は、それ自体寄生虫駆除作用を有し、組成物におけるその存在は、シリカを希釈したり担持する機能を有しない。
【0007】
アルカリ金属重炭酸塩及びシリカは、人及び動物に無害な物質である。重炭酸ナトリウム及び重炭酸カリウムの場合、人間の食物における種々の団体(例えば、米国及びEECにおける食品医薬品局)によって許可さえもされている。本発明のプロセスにおいて、粉末は、ペジクラス・フマヌスに対して活性な他のいかなる物質、例えば、神経毒シラミ駆除剤も必要としない。いかなる神経毒物質も欠けていなければならないことが推奨される。他のいかなる活性シラミ駆除物質が完全に欠けていることさえも好ましい。
本発明のプロセスにおいて、組成物は、種々の製剤の形、例えば、粉末、クリーム、ゲル、水性懸濁液又は水溶液であり得る。
本発明のプロセスの第一代替形態において、組成物は、水性懸濁液の形である。この製剤の形は、シャンプーを処方するのに有利である。この代替形態において、周囲温度でその溶解限度を超えるアルカリ金属重炭酸塩の量を含む、水溶液と混同することができない水性懸濁液が推奨される。この場合、懸濁液における重炭酸塩粒子の粒径が時間とともにより安定であることが見られた。
【0008】
好ましい本発明のプロセスの第二代替形態において、組成物は、ゲルの形である。ゲルは、少なくとも二つの成分を含む組成物、一般的には、液相にコロイド形で分散された固体である。分散粒子は、ファン・デル・ワールス力によって安定化される空間ネットワークを形成する。ヒドロゲルにおいて、液相は水である。それらは、また、ゲル化ポリマー、例えば、多糖類、ペクチン、キサンタン等を含むことができる。この代替形態において、組成物はシリカを含むことが好ましい。組成物がシリカを含む場合、重炭酸塩/シリカ混合物に水を簡単に添加することによってゲルを得ることが特に容易である。そのとき、組成物はゲル化ポリマーが欠けていることが好ましい。この代替形態は、ペジクラス・フマヌスと組成物間の長時間の接触がゲルの粘稠度によって与えられ、覆い、例えば、キャップに頼ることを避けることを可能にするので、特にヒト頭髪で容易に使うことができる。最後に、このような組成物は、完全に無害であり、低年齢小児がしばしば頭髪に触れ、続いて手を口にもっていくことがあるので、低年齢小児に存在するシラミを治療するのに有利である。
【0009】
従って、本発明は、また、質量で、35〜55%、好ましくは40〜50%のアルカリ金属重炭酸塩粒子、10〜30%、好ましくは15〜25%のシリカ及び30〜50%、好ましくは35〜45%の水を含むゲルの形での組成物に関する。
組成物が10%を超える、好ましくは5%を越える、特に1%を超えるゲル化ポリマーのような有機物質、例えば、キサンタンガムを含まないことが有利である。場合によっては、ゲルの流動学的性質を改善するために少なくとも0.1質量%のこのようなゲル化剤(例えば、キサンタンガム)を含むことが推奨されるが、組成物が完全に無機であることが特に有利である。
【0010】
本発明のゲルの形の組成物は、成分の簡単な混合によって非常に簡単に得ることができる。
このようなゲルは、使用のその簡単さ及びその粘稠度によって、数多くの適用を有する。それは、寄生虫駆除組成物として一般の寄生虫(例えば、ダニ、シラミ、コナダニ)を駆除するのに特に有効であることがわかった。しかしながら、それは、人に対する無害性とこの寄生虫の卵に対する優れた有効性によってシラミ駆除組成物としてペジクラス・フマヌスを駆除するのに特に適切である。そのとき、シラミ駆除組成物は、有利には、他のいかなるシラミ駆除物質も欠いている。理論的説明に縛られることを望まないが、本発明者らは、本発明の組成物がエアロパイルの遮断を生じ、孵化からの若虫を防除すると推測する。
【0011】
本発明の組成物の成分は、好ましくは、可能な限り、本発明のプロセスの個々の代替形態及び実施態様において用いられる組成物の成分に一致する。例えば、微粒子の重炭酸塩は、有利には重炭酸ナトリウムであり、好ましくは、少なくとも50%、有利には75%、好ましくは90%の粒子が、100μm未満、好ましくは70μmの平均径を有するような粒径を有する粒子の形である。そのとき、ゲルは、特に手触りが心地良い非常に滑らかな粘稠度を有し、それにより、一般的には寄生虫駆除有効性、特にシラミ駆除有効性が改善される。
本発明の組成物及びプロセスは、ペジクラス・フマヌス侵入基質、例えば、下着、寝具、特にピロー、クリーニング材料、例えば、タオル、一般的なヒト毛髪、特にヒト頭髪を駆除するのに特に有効である。本発明の組成物及びプロセスがむしろ緩和な作用を有する非毒性物質を使うので、有利には、特にヒト頭髪上で、侵入を発生の開始から駆除することを意図する。ヒト毛髪に適用される場合には、有利には、化粧用組成物及び化粧用プロセスが関与するが、活性製品の用量は、シラミによって高度に進行した侵入によるものである皮膚へのいかなる攻撃も防除するか又は治療するには不十分である。
【0012】
従って、本発明は、また、ヒト頭髪からシラミのペジクラス・フマヌスを駆除するための化粧用プロセスであって、毛髪を本発明に従って組成物と接触させる、前記プロセスに関する。
このプロセスの有利な代替形態において、頭髪を、組成物と少なくとも1時間、好ましくは4時間、より好ましくは8時間接触させ、続いて有利には、少なくとも1時間、好ましくは4時間、より好ましくは8時間接触させる作業が、早くとも2日後に繰り返される。しかしながら、接触させる第二作業が第一作業の10日後より前に、好ましくは1週間後に行われることが推奨される。必要ならば、接触させる追加の作業を与えることができる。組成物は、卵が、たいていは、頭皮に最も近い個々の頭髪の一部に付着している、頭髪の基部に確かに到達させつつ均一に毛髪に適用することが特に注意される。
以下の実施例は、本発明を具体的に説明するためのものである。
【実施例】
【0013】
実施例1
ウサギに適したシラミのペジクラス・フマヌスの株を選んだ。毛髪をシミュレートする材料の部分上におかれた出生からすぐの若い孵化したシラミを、血液でそれら自体いっぱいにするためにウサギの剃った胃の上に1日1回置いた。給餌を終えた直後に、29℃と70-80%の相対湿度に維持した炉に入れた。その後、一方では、孵化(若虫)後3〜7日と、もう一方では、孵化(成虫)後15〜16日の25匹のシラミの四つのバッチを、75%の粒子が65μm未満の平均径を有するような粒径を有する粒子と15質量%のDegussa製シリカSipernat(登録商標)50Sから構成される85質量%の重炭酸ナトリウムBicar(登録商標)0/4を含む粉末と1時間接触させた。処理後、シラミを洗浄した。処理の16時間後、普通に給餌され保存されたシラミ全てが、若虫にしても成虫にしても、死滅した。相対的に、粉末と接触させなかった洗浄のみのシラミは、約9%の死滅率を示した。
【0014】
実施例2
実施例2において、実施例1と同様に処理した50匹のシラミの二つのバッチを、43%の重炭酸塩(75%の粒子が65μm未満の平均径を有するような粒径を有する粒子から構成される)、19%のシリカSipernat(登録商標)50S及び38%の水からなるゲルと接触させた。既に処理した1時間後、98%のシラミが死滅した。接触時間を3時間から6時間に増加した場合、既に処理した1時間後に、100%のシラミが死滅した。
【0015】
実施例3
実施例3において、予め1〜4日間に産みつけられたシラミ卵を採取した。卵を、実施例1と同様の粉末で8時間接触させた。続いて、卵を洗浄し、炉(29℃、70-80%の相対湿度)に入れ、15日間観察した。それらの18%だけが孵化した。相対的に、洗浄された(治療に供していない)92%の卵が孵化した。
【0016】
実施例4
実施例4において、卵を実施例2と同様のゲルと3時間接触させた以外は実施例3のように進行させた。4%の卵だけが孵化し、更に、それらのいずれもが生存しなかった。接触時間を3時間から6時間に増加した場合、いずれも孵化しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラミのペジクラス・フマヌスの発育を阻止することを可能にするシラミ駆除プロセスであって、シラミを少なくとも60質量%のアルカリ金属重炭酸塩を含む組成物と接触させる、前記プロセス。
【請求項2】
重炭酸塩が重炭酸ナトリウムである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
微粒子の重炭酸塩が、前記粒子の少なくとも90%が100μm未満の平均径を有するような粒径を有する粒子の形である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
直径が70μm未満である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
組成物が、更に、5〜20%のシリカを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
シリカが、10μm未満の平均径を有する粒子の形である、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
組成物が水性懸濁液の形である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
組成物がゲルの形である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
ゲルの形の組成物であって、40〜50質量%のアルカリ金属重炭酸塩粒子、15〜25質量%のシリカ及び35〜45%の水を含む、前記組成物。
【請求項10】
アルカリ金属重炭酸塩、水及びシリカのみから構成される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
他のいかなるシラミ駆除物質も欠いている、請求項9又は10に記載のシラミ駆除組成物。
【請求項12】
寄生虫を、請求項9〜11のいずれか1項に記載の組成物と接触させる、寄生虫駆除プロセス。
【請求項13】
ヒト頭髪からシラミのペジクラス・フマヌスを駆除するための方法であって、頭髪を請求項9〜11のいずれか1項に記載の組成物と少なくとも1時間、好ましくは4時間、より好ましくは8時間接触させ、少なくとも1時間、好ましくは4時間、より好ましくは8時間接触させる作業が、続いて早くとも2日後に繰り返される、前記方法。

【公表番号】特表2009−511617(P2009−511617A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536028(P2008−536028)
【出願日】平成18年10月13日(2006.10.13)
【国際出願番号】PCT/EP2006/067367
【国際公開番号】WO2007/045608
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】