説明

シリカセラミックスの製造方法

【課題】 シリカセラミックスが本来持つ性能を損なうことなく、使用目的や要求特性に応じて、表面pHを容易かつ確実に制御することができるシリカセラミックスの製造方法を提供する。
【解決手段】 シリカ粒子を含むグリーン体に、焼結助剤を含ませて、焼成することにより焼結体とするシリカセラミックスの製造方法において、前記焼結助剤の種類および添加量を調整することにより、前記シリカセラミックスの表面pHを制御することを特徴とするシリカセラミックスの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカセラミックスの製造方法に関し、特に、使用目的や要求特性に応じた任意の表面pHを有するシリカセラミックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカは、耐熱性、耐候性、耐薬品性などの点で、優れた特性を有する材料であり、広範な用途において使用されている。例えば、塗料、ゴム、樹脂、インクジェット紙、化粧品などのフィラーとして用いられる。また、多孔質性を有するものであれば、吸着材、触媒担体、セパレータなどの用途に使用される。
【0003】
近年、その用途や求められる特性に応じて、シリカの表面pHを制御することにより、新たな機能性を付与する試みが検討されている。
【0004】
特表平11−509320号公報には、シリカ表面に、可溶性のケイ酸塩−1価金属複合体を含むアルカリ水溶液と接触させることにより、シリカ表面の酸性度を増加させる方法が記載されている。
特開2006−36965号公報には、ナトリウムを含有させて、pHを調整したシリカを配合することにより、ウェットグリップ性能および耐摩耗性を損なうことなく、転がり抵抗を低減させたタイヤ用ゴム組成物について記載されている。
【特許文献1】特表平11−509320号公報
【特許文献2】特開2006−36965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には、次のような問題点があった。
シリカの表面pHを制御する手段としては、一般的に、原料に特定の化合物を添加する方法や、表面にコーティングする方法などが取られる。
原料に特定の化合物を添加する方法では、主成分であるシリカと前記化合物との分散性が問題となることがある。また、前記化合物は、シリカの表面だけでなく、内部にも存在することになるため、添加量に比較して、得られる効果が小さくなる。
他方、表面にコーティングする方法では、シリカセラミックスが多孔質体の場合、コーティング材で細孔の一部が潰されてしまい、性能が低下することがある。また、多孔質体の内部や複雑な形状を有する成形体に対しては、均一に被覆することが困難である。
【0006】
そこで、本発明は、以上の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、シリカセラミックスが本来持つ性能を損なうことなく、使用目的や要求特性に応じて、表面pHを容易かつ確実に制御することができるシリカセラミックスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、グリーン体に含ませる焼結助剤の種類および添加量を調整することにより、任意の表面pHを有するシリカセラミックスを製造する方法を見出した。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、シリカ粒子を含むグリーン体に、焼結助剤を含ませて、焼成することにより焼結体とするシリカセラミックスの製造方法において、
前記焼結助剤の種類および添加量を調整することにより、前記シリカセラミックスの表面pHを制御することを特徴とするシリカセラミックスの製造方法である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、グリーン体に、焼結助剤として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む化合物の少なくとも1つを含ませることにより、焼結助剤を含ませない場合に比較して、シリカセラミックスの表面pHを大きくするシリカセラミックスの製造方法である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、アルカリ金属を含む化合物が、珪酸ナトリウムであるシリカセラミックスの製造方法である。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む化合物が、塩化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、硫酸塩または硝酸塩のいずれかであるシリカセラミックスの製造方法である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、グリーン体に、焼結助剤として、ホウ素またはリンを含む化合物の少なくとも1つを含ませることにより、焼結助剤を含ませない場合に比較して、シリカセラミックスの表面pHを小さくするシリカセラミックスの製造方法である。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、ホウ素を含む化合物が、ホウ酸またはホウ砂であるシリカセラミックスの製造方法である。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、リンを含む化合物が、オルトリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸またはペルオキソリン酸のいずれかであるシリカセラミックスの製造方法である。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、グリーン体が、シリカ粒子と有機バインダーと可塑剤を含むスラリーを成形して、成形体を形成し、該成形体を有機溶媒で処理して該可塑剤を抽出したものであるシリカセラミックスの製造方法である。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、グリーン体が、シリカ粒子を含む乾式粉体であるシリカセラミックスの製造方法である。
【0017】
請求項10に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、焼成を、1000℃以下の温度で行うことにより、多孔質のシリカセラミックスとするシリカセラミックスの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
以上のような構成により本発明の製造方法であれば、焼結助剤の種類および濃度を調整することにより、最終的に得られるシリカセラミックスの表面pHを容易かつ確実に制御することができる。この製造方法であれば、使用目的や要求特性に応じた任意の表面pHを有するシリカセラミックスを製造することができる。また、1種類の組成のグリーン体から、任意の表面pHを有するシリカセラミックスを製造することができるので、非常に簡便であり、製造費用を低減することができる。このような方法により得られるシリカセラミックスであれば、優れた機能性材料として、吸着材、脱臭材、触媒担体、分離膜、トナー、感光材料、顔料、各種フィラーなどの用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明のシリカセラミックスの製造方法は、まず、シリカ粒子、有機バインダーおよび可塑剤を混合して、スラリーを調製する。このスラリーを所定の形に成形して、成形体を得る。
【0020】
シリカ粒子は、シリカセラミックスの主成分となる。ここで、“主成分”とは、質量%で表して最も多く含まれる成分を意味する。シリカ粒子としては、溶融法、ゾルゲル法、気相法など公知の方法で製造されたシリカ粉体を用いることができる。シリカ粉体の粒径は特に限定されないが、粒径が小さければ、表面積が増大してシリカ粒子の融解が容易になるので、好ましい。また、シリカ粒子以外に、必要に応じて、アルミナ、ジルコニアなどの無機酸化物粒子を添加してもよい。
なお、市販されているシリカ粒子は、それぞれ固有の表面pHを有しているので、適宜選択して用いることができる。
【0021】
有機バインダーは、成形体に適度な強度および柔軟性を与える。本発明に用いる有機バインダーとしては、可燃性であり、熱可塑性を有する樹脂であれば、特に制限なく用いることができる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、メタクリル樹脂、塩化ビニル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリカーボネイト、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミドなどが挙げられる。前記樹脂が粉体であれば、取り扱いが容易であるので好ましい。また、前記樹脂の分子量が数十万以上であれば、成形性に優れるので、好ましい。より好ましくは、分子量が百万以上の超高分子ポリエチレンを使用することである。
【0022】
可塑剤は、成形体に可塑性を付与する。本発明に用いる可塑剤としては、有機バインダーの溶解性が高く、成形時の加熱に対して、揮発性および引火性の低いものであれば、特に制限なく使用することができる。具体的には、パラフィン系の鉱物オイル、フタル酸ブチルやフタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステルなどが挙げられる。
【0023】
成形は、公知の方法を用いて行えばよく、押出成形、射出成形、プレス成形、ドクターブレード法やカレンダ法によるシート成形などを利用することができる。これらの方法により、シート状、ハニカム状、棒状、円筒状、繊維状、ビーズ状などの様々な形状に成形することができる。また、シート状の成形体であれば、折り曲げたり、積層したり、さらには、エンボス加工などの凹凸加工を施すこともできる。
【0024】
つぎに、成形体を有機溶媒で処理して、可塑剤を抽出する。この処理により、可塑剤が脱脂されて、多孔質のグリーン体が得られる。つづいて、このグリーン体に、焼結助剤を含浸させる。
【0025】
可塑剤を抽出する有機溶媒としては、公知のものであれば、とくに制限なく使用することができ、トリクロロエチレン、トリブロモエチレンなどを例示できる。
【0026】
本発明に用いる焼結助剤は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ホウ素およびリンのいずれかを含む化合物である。前記化合物は、シリカ粒子よりも融点が低いことが好ましい。焼結助剤は、シリカ粒子の融点を低下させて、融解を容易にする。その結果、焼結助剤を添加しない場合に比較して、焼結温度を低くすることができる。
【0027】
また、本発明の製造方法であれば、焼結助剤の種類および濃度を調整することにより、最終的に得られるシリカセラミックスの表面pHを制御することができる。この方法であれば、1種類の組成のグリーン体から、任意の表面pHを有するシリカセラミックスを製造することができるので、非常に簡便であり、製造費用を低減することができる。
【0028】
焼結助剤として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む化合物を加えた場合、焼結助剤を加えない場合に比較して、シリカセラミックスの表面pHを大きくすることができる。添加する化合物の種類に応じて、シリカセラミックスの表面pHは変化する。また、化合物の添加量が多いほど、シリカセラミックスの表面pHは大きくなる。
【0029】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む化合物を加えることにより、シリカセラミックスの表面pHが大きくなる原理については、必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のように考えている。一般的に、シリカの表面に存在するシラノール基(Si−OH)は、酸点として働く。したがって、表面のシラノール基の数が多いほど、シリカの表面pHは小さくなる。焼結助剤として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む化合物を加えた場合、得られるシリカセラミックスは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含んだものとなる。これらの元素は、シラノール基の水素と置き換わって、Si−OX(Xはアルカリ金属またはアルカリ土類金属)という状態で存在している。このSi−OXから、Xが解離すると、Si−O-となり、塩基点として働く。結果として、表面の酸点が減少して、塩基点が増えるため、シリカセラミックスの表面pHは大きくなる。
【0030】
アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどを挙げることができる。また、アルカリ金属を含む化合物としては、塩化物、水酸化物、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩などの水溶性の化合物が好ましい。具体的には、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化カリウム、水酸化カリウム、酢酸カリウム、硫酸カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウム、塩化リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウムなどを例示できる。アルカリ金属がナトリウムの場合、珪酸ナトリウム(水ガラス)を使用することもできる。
【0031】
アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどを挙げることができる。また、アルカリ土類金属を含む化合物としては、塩化物、水酸化物、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩などの水溶性の化合物が好ましい。具体的には、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム(石灰石)、硝酸カルシウム、塩化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、塩化バリウム、水酸化バリウム、酢酸バリウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、硝酸バリウムなどを例示できる。
【0032】
なお、同一の添加量であれば、アルカリ土類金属は、アルカリ金属よりも表面pHの変化量が小さくなる。この理由は、アルカリ土類金属は酸素との結合力が強いため、Si−OXから解離し難く、アルカリ金属よりも、塩基点となるSi−O-の数が少なくなることによる。
【0033】
他方、焼結助剤として、ホウ素またはリンを含む化合物を加えた場合、焼結助剤を加えない場合に比較して、シリカセラミックスの表面pHを小さくすることができる。添加する化合物の種類に応じて、シリカセラミックスの表面pHは変化する。また、化合物の添加量が多いほど、シリカセラミックスの表面pHは小さくなる。
【0034】
ホウ素またはリンを含む化合物を加えることにより、シリカセラミックスの表面pHが小さくなる原理については、必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のように考えている。焼結助剤として、ホウ素またはリンを含む化合物を加えた場合、得られるシリカセラミックスは、ホウ素またはリンを含んだものとなる。これらの元素は、O−Si−Oで構成されるシリカの3次元ネットワーク構造に組み込まれて、O−X−O(Xはホウ素またはリン)という状態で存在していると考えられる。ケイ素とこれらの元素とでは、原子価が異なるので、これを補うために、末端にSi−OH(もしくはX−OH)が形成される。結果として、表面の酸点が増えるため、シリカセラミックスの表面pHが小さくなる。
【0035】
ホウ素を含む化合物としては、ホウ酸やホウ砂などを例示できる。
また、リンを含む化合物としては、オルトリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ペルオキソリン酸などを例示できる。
【0036】
前記焼結助剤は1種類に限らず、複数種のものを組み合わせて用いてもよい。
なお、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む化合物の少なくとも1つと、ホウ素またはリンを含む化合物の少なくとも1つとを組み合わせて用いれば、シリカ粒子の持つ表面pHを維持しつつ、焼結温度を低くすることも可能である。
【0037】
グリーン体に焼結助剤を含浸させるには、例えば、適当な溶媒を用いて焼結助剤を含む溶液を調製し、この溶液にグリーン体を浸漬すればよい。グリーン体は多孔質なので、この方法であれば、焼結助剤をグリーン体の内部にまで含浸させることができる。この結果、グリーン体に焼結助剤が均一に分散して、得られるシリカセラミックスの焼結状態および表面pHのばらつきを抑制することができる。予めスラリーに焼結助剤を添加した場合には、可塑剤を抽出する際に、焼結助剤の一部が溶出または流出してしまい、均一な焼結および表面pHの制御が困難になるので、望ましくない。
前記溶液に含まれる焼結助剤の濃度を調整することにより、得られるシリカセラミックスの表面pHを制御することができる。前記溶媒としては、安価な点で、水が好ましい。
【0038】
なお、予めグリーン体に、親水性を付与する界面活性剤を含ませておけば、焼結助剤の含浸が容易になるため、好ましい。界面活性剤としては、アルキルスルホコハク酸塩やナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物塩などのアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、トリブロックポリマーなどのノニオン系界面活性剤などを例示できる。これらの界面活性剤は、単独でまたは混合して使用することができる。グリーン体に界面活性剤を含ませる方法としては、界面活性剤をスラリーに添加してもよい。また、グリーン体に界面活性剤を含む溶液を塗布してもよいし、含浸させてもよい。
【0039】
つづいて、焼結助剤を含浸させたグリーン体を焼成する。焼成の初期段階では、グリーン体に含まれる有機バインダーなどの有機成分が分解し、脱脂されて、グリーン体の内部に気孔が形成される。さらに、焼成が進むと、シリカ粒子の焼結が起こり、最終的にシリカセラミックスが得られる。
【0040】
本発明の製造方法であれば、グリーン体に焼結助剤を含ませるので、含ませない場合に比較して、シリカ粒子を低温で焼結させることができる。焼成温度の下限は、シリカ粒子の歪点温度以上であればよい。また、焼成温度の上限は、特に制限がないが、1000℃以下であれば、多孔質のシリカセラミックスを製造することができる。多孔質体の細孔径は、シリカ粒子の粒径、有機バインダーの種類および添加量、焼結助剤の種類および添加量、焼成条件(温度および時間)などの諸条件により制御することができる。
【0041】
本発明のシリカセラミックスの製造方法としては、成形体を得る場合には、前述した方法が最も好ましい。しかしながら、本発明のシリカセラミックスの製造方法は、前述した方法に限定されるわけではない。例えば、粒子状のシリカセラミックスを製造する場合には、シリカ粒子を含む乾式粉体に焼結助剤を含ませた後、焼成して焼結体とする。この焼結体を粉砕、分級すれば、所望の粒度を有する粒子状のシリカセラミックスが得られる。前記乾式粉体に焼結助剤を含ませる方法としては、ミキサーを用いて、前記乾式粉体と焼結助剤を混合してもよいし、前記乾式粉体に焼結助剤を含む溶液を滴下して混合した後、乾燥してもよい。また、単純な形状の成形体であれば、焼結助剤を含ませた乾式粉体を圧粉成形して、焼成してもよい。
なお、本発明においては、前記乾式粉体も、グリーン体に含まれる。
【0042】
本発明の製造方法により得られるシリカセラミックスは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ホウ素およびリンの少なくとも1つを含有したものである。これらの元素を含有することにより、このシリカセラミックスは、任意の表面pHを有することができる。
【0043】
前記シリカセラミックスが、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有していれば、含有していない場合に比較して、表面pHが大きくなる。アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の含有量が多いほど、表面pHは大きくなる。
前記シリカセラミックスが、ホウ素および/またはリンを含有していれば、含有していない場合に比較して、表面pHが小さくなる。ホウ素および/またはリンの含有量が多いほど、表面pHは小さくなる。
なお、前記シリカセラミックスは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の少なくとも1つと、ホウ素またはリンの少なくとも1つとを含有することにより、原料であるシリカ粒子と同じ表面pHを有することもできる。
【0044】
このようなシリカセラミックスであれば、使用目的や要求特性に応じて、最適な表面pHを有するものを選択して用いることができる。また、本発明の製造方法により得られるシリカセラミックスは、シリカを主成分とするので、高耐熱性、高耐候性、高耐薬品性などの優れた特性を兼ね備えている。したがって、優れた機能性材料として、吸着材、脱臭材、触媒担体、分離膜、トナー、感光材料、顔料などの用途に使用することができる。吸着材や触媒担体などの用途で使用する場合には、吸着性能などの点で、シリカセラミックスは非晶質であることが好ましい。
【0045】
また、このようなシリカセラミックスは、インクジェット紙、塗料、ゴム、樹脂、化粧品などのフィラーとしても、好適に使用することができる。例えば、インクジェット紙のフィラーとして用いる場合であれば、使用するインクに最も適した表面pHを有するシリカセラミックスを選択することにより、優れたインク吸収担体となる。
【0046】
引き続き、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明する。なお、シリカセラミックスの性能評価は、以下の方法で行った。
【0047】
[表面観察]
シリカセラミックスの表面観察は、走査型電子顕微鏡(キーエンス製、VE−7800型)を用いて、加速電圧5kV、観察倍率5千倍の条件で行った。
【0048】
[表面pH]
シリカセラミックスの表面pHの測定は、J.TAPPI紙パルプ試験方法No.6に規定される方法を基にして、以下のように行った。
まず、下記の6種類のpH測定用指示薬溶液を用意した。
クレゾールレッド(CR) 測定pH範囲:0.0〜2.4、6.8〜9.2
チモールブルー(TB) 測定pH範囲:1.0〜3.4、7.6〜10.0
ブロモフェノールブルー(BPB) 測定pH範囲:2.2〜4.8
ブロモクレゾールグリーン(BCG) 測定pH範囲:3.6〜6.0
メチルレッド(MR) 測定pH範囲:5.0〜7.4
ブロモチモールブルー(BTB) 測定pH範囲:5.8〜8.2
シリカセラミックスを粉砕して、5〜10mm程度の大きさの小塊を選別し、これを試験片とした。
つづいて、前記試験片の表面に、適当なpH測定用指示薬溶液を滴下した。滴下した溶液は、試験片の表面に自然に広がった。滴下後1〜2分放置して、溶液が半乾きの状態になり、色が均一になった時点で、pH標準変色表の色調と比較して、pHの値を小数点以下1位まで読み取った。2枚の試験片について試験を行い、その平均値を表面pHとした。
【0049】
(実施例1)
シリカ粒子として、比表面積が200m2/gの非晶質シリカ粉体(東ソー・シリカ製、Nipsil KP型)を用いた。このシリカ粉体の表面pHは、2.8であった。また、焼結助剤として、塩化ナトリウム(富田製薬製)を用いた。
【0050】
塩化ナトリウムを5mLの水に溶解して、塩化ナトリウム水溶液を調製した。この塩化ナトリウム水溶液をシリカ粉体に滴下して、混合した後、90℃で1晩乾燥した。ここで、シリカ粉体と塩化ナトリウムの混合比率は、ナトリウム(Na)とシリカ(SiO2)の質量比率で表して、Na/SiO2=0.1〜4.0となる範囲内で変化させた。
つづいて、このシリカ粉体を磁性るつぼに入れて、900℃で30分間焼成し、シリカセラミックスを得た。
図2には、実施例1のシリカセラミックス(Na/SiO2=2.0)を、走査型電子顕微鏡により観察した結果を示した。
【0051】
(実施例2)
実施例1において、焼結助剤として、塩化ナトリウムの代わりに塩化カリウム(関東化学製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリカセラミックスを得た。
【0052】
(実施例3)
実施例1において、焼結助剤として、塩化ナトリウムの代わりに塩化カルシウム(関東化学製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリカセラミックスを得た。
【0053】
(実施例4)
実施例1において、焼結助剤として、塩化ナトリウムの代わりにホウ酸(シグマアルドリッチ製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリカセラミックスを得た。
【0054】
(実施例5)
実施例1において、焼結助剤として、塩化ナトリウムの代わりにオルトリン酸(関東化学製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリカセラミックスを得た。
(比較例1)
実施例1において、焼結助剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてシリカセラミックスを得た。
【0055】
表1に、実施例1〜5および比較例1の、シリカセラミックスの表面pHを示した。ここで、X/SiO2は、焼結助剤とSiO2の混合比率であり、Xは、Na、K、Ca、B、Pのいずれかの元素である。
実施例1〜5および比較例1の結果から分かるように、焼結助剤の種類および添加量を調整することにより、任意の表面pHを有するシリカセラミックスが得られた。焼結助剤を添加しなかった比較例1の場合、表面pHは、3.0であった。これに対して、焼結助剤として塩化ナトリウムを添加した実施例1の場合、比較例1に比較して、表面pHは大きくなり、アルカリ性側に変化していることが確認された。焼結助剤として塩化カリウムおよび塩化カルシウムを添加した実施例2および3の場合も、実施例1と同様に、表面pHは大きくなった。また、これらの焼結助剤の添加量が多くなるほど、表面pHがより大きくなる傾向にあった。
他方、焼結助剤としてホウ酸を添加した実施例4の場合、比較例1に比較して、表面pHは小さくなり、酸性側に変化していることが確認された。焼結助剤としてオルトリン酸を添加した実施例5の場合にも、実施例4と同様に、表面pHは小さくなった。また、これらの焼結助剤の添加量が多くなるほど、表面pHの変化量がより小さくなる傾向にあった。
【0056】
以上のように、焼結助剤を添加したシリカ粒子から、シリカセラミックスを製造する場合に、本発明の製造方法であれば、任意の表面pHを有するシリカセラミックスが得られることが確認された。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例6)
シリカ粒子として、比表面積が200m2/gの非晶質シリカ粉体(東ソー・シリカ製、Nipsil KP型)を用いた。このシリカ粉体の表面pHは、2.8であった。有機バインダーとしては、質量平均分子量が200万のポリエチレン樹脂粉体(三井化学製、ハイゼックスミリオン(登録商標))を用い、可塑剤としては、鉱物オイル(新日本石油製、タービンオイル150)を用いた。また、焼結助剤として、珪酸ナトリウム(キシダ化学製、JIS3号)を用いた。
【0059】
シリカ粉体70質量部、ポリエチレン樹脂粉体30質量部、鉱物オイル100質量部、および界面活性剤(第一工業製薬製、ネオコール(登録商標))5質量部を混合して、スラリーを調製した。このスラリーを加熱混練しながら、シート状に押出成形して、厚さ100μmのシート状の成形体を得た。
つぎに、前記成形体をトリクロロエチレン(東亜合成製)に浸漬して、前記成形体中に含まれる可塑剤を抽出した後、乾燥して、グリーン体とした。このグリーン体には、可塑剤の存在していた箇所に、空隙が形成されていた。
つづいて、珪酸ナトリウムを水で10〜100倍に希釈して、珪酸ナトリウム水溶液を調製した。ここで、前記珪酸ナトリウム水溶液のナトリウム(Na)濃度は、0.6〜5.9mol/Lとなる範囲内で変化させた。
前記珪酸ナトリウム水溶液に、グリーン体を2分間浸漬して、グリーン体に焼結助剤を含浸させた。その後、グリーン体を取り出して、表面に残った余分な液を除去して、50℃で1時間乾燥した。
さらに、この焼結助剤を含浸させたグリーン体を、900℃で30分間焼成して、シート状のシリカセラミックスを得た。
図2には、実施例6のシリカセラミックス(焼結助剤溶液のNa濃度=1.2mol/L)を、走査型電子顕微鏡により観察した結果を示した。実施例6のシリカセラミックスは、多孔質構造を有していた。
【0060】
(実施例7)
実施例6において、焼結助剤として、珪酸ナトリウムの代わりに塩化ナトリウム(富田製薬製)を用いたこと、また、ナトリウム(Na)濃度が0.1〜1.0mol/Lの塩化ナトリウム水溶液を調製して、グリーン体に含浸させたこと以外は、実施例6と同様にしてシリカセラミックスを得た。
【0061】
(実施例8)
実施例7において、焼結助剤として、塩化ナトリウムの代わりに塩化カリウム(関東化学製)を用いたこと以外は、実施例7と同様にしてシリカセラミックスを得た。
【0062】
(実施例9)
実施例7において、焼結助剤として、塩化ナトリウムの代わりに塩化カルシウム(関東化学製)を用いたこと以外は、実施例7と同様にしてシリカセラミックスを得た。
【0063】
(実施例10)
実施例7において、焼結助剤として、塩化ナトリウムの代わりにホウ酸(シグマアルドリッチ製)を用いたこと以外は、実施例7と同様にしてシリカセラミックスを得た。
【0064】
(実施例11)
実施例7において、焼結助剤として、塩化ナトリウムの代わりにオルトリン酸(関東化学製)を用いたこと以外は、実施例7と同様にしてシリカセラミックスを得た。
【0065】
(比較例2)
実施例6において、グリーン体に焼結助剤溶液を含浸させなかったこと以外は、実施例6と同様にしてシリカセラミックスを得た。
【0066】
表2に、実施例6〜11および比較例2の、シリカセラミックスの表面pHを示した。実施例6〜11および比較例2の結果から分かるように、焼結助剤の種類および濃度を調整することにより、任意の表面pHを有する多孔質のシリカセラミックスが得られた。焼結助剤を含浸させなかった比較例2の場合、表面pHは、2.8であった。これに対して、焼結助剤として珪酸ナトリウムを含浸させた実施例6の場合、比較例2に比較して、表面pHは大きくなり、アルカリ性側に変化していることが確認された。焼結助剤として塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化カルシウムを用いた実施例7、8および9の場合も、実施例6と同様に、表面pHは大きくなった。また、これらの焼結助剤溶液の濃度が高くなるほど、表面pHがより大きくなる傾向にあった。
他方、ホウ酸を含む焼結助剤を含浸させた実施例10の場合、比較例2に比較して、表面pHは小さくなり、酸性側に変化していることが確認された。焼結助剤としてオルトリン酸を用いた実施例11の場合にも、実施例10と同様に、表面pHは小さくなった。また、これらの焼結助剤溶液の濃度が高くなるほど、表面pHがより小さくなる傾向にあった。
【0067】
以上のように、焼結助剤を含浸させたグリーン体から、多孔質のシリカセラミックスを製造する場合にも、本発明の製造方法であれば、任意の表面pHを有するシリカセラミックスが得られることが確認された。
【0068】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施例1のシリカセラミックスを、走査型電子顕微鏡により観察した結果である。
【図2】実施例6のシリカセラミックスを、走査型電子顕微鏡により観察した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子を含むグリーン体に、焼結助剤を含ませて、焼成することにより焼結体とするシリカセラミックスの製造方法において、
前記焼結助剤の種類および添加量を調整することにより、前記シリカセラミックスの表面pHを制御することを特徴とするシリカセラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記グリーン体に、前記焼結助剤として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む化合物の少なくとも1つを含ませることにより、前記焼結助剤を含ませない場合に比較して、前記シリカセラミックスの表面pHを大きくする請求項1に記載のシリカセラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属を含む化合物が、珪酸ナトリウムである請求項2に記載のシリカセラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属または前記アルカリ土類金属を含む化合物が、塩化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、硫酸塩または硝酸塩のいずれかである請求項2に記載のシリカセラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記グリーン体に、前記焼結助剤として、ホウ素またはリンを含む化合物の少なくとも1つを含ませることにより、前記焼結助剤を含ませない場合に比較して、前記シリカセラミックスの表面pHを小さくする請求項1に記載のシリカセラミックスの製造方法。
【請求項6】
前記ホウ素を含む化合物が、ホウ酸またはホウ砂である請求項5に記載のシリカセラミックスの製造方法。
【請求項7】
前記リンを含む化合物が、オルトリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸またはペルオキソリン酸のいずれかである請求項5に記載のシリカセラミックスの製造方法。
【請求項8】
前記グリーン体が、前記シリカ粒子と有機バインダーと可塑剤を含むスラリーを成形して、成形体を形成し、該成形体を有機溶媒で処理して該可塑剤を抽出したものである請求項1に記載のシリカセラミックスの製造方法。
【請求項9】
前記グリーン体が、前記シリカ粒子を含む乾式粉体である請求項1に記載のシリカセラミックスの製造方法。
【請求項10】
前記焼成を、1000℃以下の温度で行うことにより、多孔質のシリカセラミックスとする請求項1に記載のシリカセラミックスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−156181(P2008−156181A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349114(P2006−349114)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】